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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1323873
審判番号 不服2015-5013  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-16 
確定日 2017-01-31 
事件の表示 特願2012-552321「蛍光顕微鏡の適切な評価パラメータを設定する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月18日国際公開、WO2011/098304、平成25年 5月30日国内公表、特表2013-519868、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月3日(パリ条約による優先権主張 平成22年2月12日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成26年4月1日付けで拒絶理由が通知され、同年8月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月13日付で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされたのに対し、平成27年3月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成28年2月23日付けで拒絶理由(以下「当審最初拒絶理由」という。)が通知され、同年6月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、当審において同年6月22日付けで最後の拒絶理由(以下「当審最後拒絶理由」という。)が通知され、同年11月29日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明は、平成28年11月29日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、独立項である請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
蛍光染料粒子を逐次的に、確率的に局在解析するための蛍光顕微鏡(20)の適切な評価パラメータを設定する方法であって、
試料(32)中の蛍光染料粒子が、前記試料のすべての蛍光染料粒子の中の部分集合を不活性状態から活性状態に移させ、活性状態の前記染料粒子を励起して蛍光を発生することで、励起されて蛍光を発生し、前記部分集合に含まれる染料粒子の数が、それらの間の平均距離が前記蛍光顕微鏡の回折分解能限界より大きくなるような数であり、又は、
試料(32)中の蛍光染料粒子が、前記試料(32)のすべての蛍光染料粒子の中の部分集合を活性状態から不活性状態へと移させ、残りの前記活性状態の染料粒子の部分集合を励起して蛍光を発生することで、励起されて蛍光を発生し、前記部分集合に含まれる染料粒子の数が、それらの間の平均距離が前記蛍光顕微鏡の回折分解能限界より大きくなるような数であり、
前記染料粒子から発せられた蛍光が検出され、
前記蛍光顕微鏡の検出器上の光量分布を表す、前記蛍光の光分布のグラフィカル表現が求められ、
前記光分布のグラフィカル表現のもとになる信号が生成され、これに基づいて表示ユニット(44)が制御されて、前記光分布のグラフィカル表現が表示され、
前記光分布のグラフィカル表現の小区域の各々が、対応する小区域の光量を表すそれぞれの比較値に関連付けられ、
前記評価パラメータが所定の閾値であって、
前記比較値が前記閾値と比較され、
全ての小区域は、前記表示ユニット(44)に表示され、前記閾値より大きい比較値を有するこれらの小区域だけが前記表示ユニット(44)上で、所定のマーク(52)によってマーキングされ、
前記閾値が最適でない場合、
使用者の入力に応じて、前記閾値が使用者定義の閾値に変更され、
使用者の入力後に、前記比較値が変更された使用者定義の閾値と比較され、
全ての小区域は、前記表示ユニット(44)に表示され、前記使用者定義の閾値より大きい比較値を有するこれらの小区域だけが前記表示ユニット(44)上で、所定のマーク(52)によってマーキングされ、
前記所定のマーク(52)でマーキングされた小区域だけがイベント(53)と定義され、
前記染料粒子を励起する処理からマーキングされた小区域が前記イベント(53)と定義されるまでの処理が繰り返されて、複数の部分画像が得られ、
前記イベント(53)を示している複数の部分画像に基づいて前記試料(32)の完全な画像が得られる、方法。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
(1)本願発明は、その出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1:特表2009-517665号公報
引用例2:国際公開2009/132811号
要すれば、上記引用例1及び2に記載された発明に基づいて、本願発明とすることは、当業者ならば容易に想到し得ることであると指摘している。

(2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項11に係る発明の「蛍光顕微鏡(20)の適切な評価パラメータを設定する装置であって、請求項1?10のいずれか一項に記載の方法を実行する装置」について、評価パラメータと、評価パラメータを設定するための蛍光顕微鏡の部位との関係が明確でない。

2 原査定の理由の判断
(1)特許法第29条第2項について
原査定においては、引用例1、引用例2のどちらも主引用例となり得る記載となっているところ、本願発明は、上記第2で記載したとおり、「蛍光染料粒子を逐次的に、確率的に局在解析するための蛍光顕微鏡」についての方法の発明であり、これは本願明細書に「従来の光学顕微鏡の回折分解能限界より小さい試料内の構造を画像化できる蛍光顕微鏡が知られている。さらに、このような蛍光顕微鏡は、従来の光学顕微鏡の回折分解能限界より小さい領域で起こっているプロセスを画像化できる。こうした蛍光顕微鏡は、染料粒子の逐次的、確率的局在解析(stochastic localization)を基本としている。」(【0003】)と記載されており、いわゆる、局在化顕微鏡(Localization Microscopy)についての発明といえる。一方、下記アの引用例1、引用例2の記載事項を参酌するに、引用例2が「蛍光染料粒子を逐次的に、確率的に局在解析するための蛍光顕微鏡」について記載されているといえることから、当審においては、引用例2を主引用例として、本願発明の進歩性について判断する。

ア 引用例の記載事項
(ア)引用例2について
引用例2には、以下の事項が記載されている。ウムラウト文字については、点をつけないアルファベット文字とし、エスツェット文字については「ss」で表記している。また、当審訳については、特表2011-519038号公報を参照した。
(2-a)「 Patentanspruche
1 Verfahren zur raumlich hochauflosenden Lumineszenzmikroskopie einer Probe, die mit Markierungsmolekulen markiert ist, welche mit einem Umschaltsignal aktivierbar sind, so dass sie erst dann zur Abgabe bestimmter Lumineszenzstrahlung anregbar sind, wobei das Verfahren folgende Schritte aufweist:
a) Einbringen des Umschaltsignals auf die Probe derart, dass nur eine Teilmenge der in der Probe vorhandenen Markierungsmolekule aktiviert werden, wobei in der Probe Teilbereiche bestehen, in denen aktivierte Markierungsmolekule zu den ihnen nachst benachbarten aktivierten Markierungsmolekule einen Abstand haben, der grosser oder gleich einer optischen Auflosung einer Detektion von Lumineszenzstrahlung ist,
b) Anregen der aktivierten Molekule zur Abgabe von Lumineszenzstrahlung,
c) Detektion der Lumineszenzstrahlung mit der optischen Auflosung und
d) Erzeugen von Bilddaten aus der in Schritt c) aufgenommenen Lumineszenzstrahlung, die die geometrischen Orte der Lumineszenzstrahlung abgebenden Markierungsmolekule mit einer uber die optische Auflosung gesteigerten Ortsauflosung angeben,
dadurch gekennzeichnet, dass
e) die Detektion der Lumineszenzstrahlung in Schritt c) oder die Erzeugung der Bilddaten in Schritt d) eine nichtlineare, hohere Intensitaten bevorzugende Verstarkung aufgenommener Lumineszenzstrahlung umfasst, um die Ortsauflosung uber die optische Auflosung zu scharfen.
・・・
4 Verfahren nach einem der obigen Anspruche, dadurch gekennzeichnet, dass die nichtlineare Verstarkung eine Unterdruckung von unter einem Schwellwert liegenden Intensitaten umfasst.
5 Verfahren nach einem der obigen Anspruche, dadurch gekennzeichnet, dass die Schritte a)-e) mehrfach durchlaufen werden, um ein Gesamtbild der Probe zu erzeugen, wobei nach Schritt e) erhaltene Bilddaten jeweils mit Bilddaten aus vorherigen Durchlaufen zum Gesamtbild uberlagert werden, so dass nach dem letzten Durchlauf das Gesamtbild fertiggestellt ist.」(18?19頁の特許請求の範囲)
(当審訳:特許請求の範囲
請求項1
切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能でルミネセンス顕微鏡検査する方法であって、前記マーキング分子が、活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となり、
a)試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する工程であって、試料中に、活性化されたマーキング分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる工程と、
b)活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する工程と、
c)ルミネセンス放射を光学的分解能で検出する工程と、
d)工程c)で記録されたルミネセンス放射から像データを生成する工程であって、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子が、光学的分解能より高い位置分解能で示される工程とを含む方法において、
e)工程c)におけるルミネセンス放射の検出工程、または工程d)における像データの生成工程が、位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、記録されたルミネセンス放射を、より高い強度を優先して非線形に増幅する工程を含むことを特徴とする方法。
・・・
請求項4
非線形に増幅する工程が、閾値より低い強度を抑圧する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
請求項5
試料の全体像を生成するために、前記工程a)からe)を繰り返し実行し、その際に工程e)の後に得られた像データが、そのつど先行する実行からの像データと重ね合わされて1つの全体像にされ、最後の実行の後に全体像が完成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。」

(2-b)「In einem vierten Schritt S4 wird die aufgenommene Fluoreszenzstrahlung nichtlinear verstarkt, wodurch die Auflosung, mit der die Lage der aktivierten Markierungsmolekule angebbar ist, uber die Auflosung der optischen Anordnung hinaus gescharft wird, wie das Teilbild c der Fig 4 zeigt.
Die nichthneare Verstarkung kann beispielsweise gemass der Funktion S = A・F^( N) (Gleichung 1 ) oder S = A・exp F/w(mit w=10^(-N)(Gleichung 2)) beschrieben werden, wobei F die Amplitude des Fluoreszenzsignals, A ein Normierungsfaktor und N eine ganze Zahl grosser 1 ist Naturlich konnen auch andere Funktionen verwendet werden.
Durch die nichthneare Verstarkung reduziert sich die Halbwertsbreite der Beugungsscheibchen in eilen drei Dimensionen, so dass sich die in Teilbild c der Fig 4 schematisch dargestellten verkleineiien Beugungsscheibchen ergeben Besonders vorteilhaft ist jedoch eine starke nichthneare Abhangigkeit des Parameters S von F, also z B hohe Werte fur N in den Gleichungen 1 oder 2.
Die Nichthnearitat ist vorzugsweise so gewahlt, dass die Halbwertsbreite der Beugungsscheibe einer angestrebten raumlichen Auflosung fur die Ortsangabe der Markierungsmolekule entspricht.
Neben einer nichtlinearen Verstarkung kann, wie bereits erwahnt, auch eine nichthneare Dampfung verwendet werden Hierbei werden Fluoreszenzsignale geringer Amplitude oder Intensitat gedampft, wohingegen starke Signale zumindest weitgehend ungedampft bleiben Naturlich kann auch eine Kombination von nichthnearer Verstarkung und Dampfung verwendet werden In einem optionalen funften Schritt S5 erfolgt eine Normierung oder ein Abschneiden der verstarkten Fluoreszenzsignale, soweit deren Intensitat bzw der Pegel unter einem Schwellwert hegt.」(13頁1?28行)
(当審訳:第4の工程S4では、記録された蛍光放射が非線形に増幅される。これにより、活性化されたマーキング分子の位置を示す際の分解能が、光学機構の分解能よりも鮮鋭になる。これは図4の部分像cが示している。
非線形の増幅は、例えば関数S=A・F^(N)(式1)またはS=A・exp^(F/w)(ただしw=10^(-N)(式2)により記述することができ、ここでFは蛍光信号の振幅、Aは正規化係数、Nは1より大きい整数である。もちろん他の関数を使用することもできる。
非線形増幅によって、エアリー・ディスクの半値幅が3次元すべてで低減される。これにより、図4の部分像cに概略的に示されたようにエアリー・ディスクの小型化が得られる。ただし、パラメータSがFに非線形に強く依存すると、すなわち式1または2においてNが大きな値であると特に有利である。
エアリー・ディスクの半値幅が、マーキング分子の位置データのために得ようとする空間的分解能に相当するように非線形度を選択することが好ましい。
非線形増幅の他に、すでに述べたように非線形減衰を使用することもできる。この場合、振幅または強度の小さい蛍光信号は減衰されるが、強い信号は少なくとも十分には減衰されずに留まる。もちろん非線形増幅と非線形減衰を組み合わせて使用することもできる。オプションとしての第5の工程S5では、増幅された蛍光信号の強度またはレベルが閾値以下であれば、それらの信号の正規化または丸めが行われる。)

してみれば、引用例2には、摘記(2-a)から以下の発明が記載されている。
「切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を、空間的に高分解能でルミネセンス顕微鏡検査する方法であって、前記マーキング分子が、活性化によって初めて、特定のルミネセンス放射を放出させるために励起可能となり、
a)試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化されるように、試料に切替信号を導入する工程であって、試料中に、活性化されたマーキング分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる工程と、
b)活性化された分子を、ルミネセンス放射を放出させるために励起する工程と、
c)ルミネセンス放射を光学的分解能で検出する工程と、
d)工程c)で記録されたルミネセンス放射から像データを生成する工程であって、ルミネセンス放射の幾何的位置を提供するマーキング分子が、光学的分解能より高い位置分解能で示される工程とを含む方法において、
e)工程c)におけるルミネセンス放射の検出工程、または工程d)における像データの生成工程が、位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、記録されたルミネセンス放射を、より高い強度を優先して非線形に増幅する工程を含む方法であって、
前記非線形に増幅する工程が、閾値より低い強度を抑圧する工程を含み、
試料の全体像を生成するために、前記工程a)からe)を繰り返し実行し、その際に工程e)の後に得られた像データが、そのつど先行する実行からの像データと重ね合わされて1つの全体像にされ、最後の実行の後に全体像が完成される方法。」(以下「引用発明」という。)

(イ)引用例1について
引用例1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。
(1-a)「【請求項1】
サンプル(1)を光で刺激し、サンプル(1)の得られた蛍光放射の画像をサンプル(1)のデータセット(4)として記録し記憶することにより、生体サンプル(1)、具体的には組織サンプルを自動分析する方法であって、
サンプル(1)を非破壊式で走査し、サンプル(1)の記憶されたデータセット(4)から少なくとも1つのパラメータ(P)を選択し、このパラメータもしくはこのパラメータから導出された値またはパラメータもしくはこのパラメータから導出された値の組み合わせを少なくとも1つのしきい値(S)と比較し、比較値(V)を、サンプル(1)の対象領域(ROI)を決定する基準として使用し、サンプルの固有識別(ID)と共に記憶する、方法。」
「【請求項7】
パラメータ(P)として、蛍光パラメータ、具体的には蛍光強度が使用される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。」

(1-b)「【0013】
本発明による第1の目的は、サンプルが非破壊式に走査され、サンプルの記憶されたデータセットから少なくとも1つのパラメータが選択され、このパラメータもしくはこのパラメータから導出された値またはパラメータもしくはこのパラメータから導出された値の組み合わせが、少なくとも1つのしきい値と比較され、比較値が、サンプルの対象領域を決定する基準として使用され、サンプルの固有識別と共に記憶されることにより達成される。
【0014】
従って、本発明による方法は、サンプルのデータセットから選択される特定のパラメータを必要とし、このデータセットは、サンプルの非破壊走査による蛍光放射を使用して作成され記憶され、そこからサンプルの対象領域が自動的に決定され、サンプルの固有識別と共に記憶される。・・・この方法は、サンプル、具体的には組織サンプルの非破壊式顕微鏡描写のために自己蛍光を使用する。それにより得られるサンプルの蛍光放射のパターンは、サンプルのどの部分が特定の研究に関係し、またサンプルのどの部分が特定の研究に無関係かを自動的に分析または決定することを可能にする。従って、更に、自己蛍光を使用して、サンプル(例えば、組織または組織部分)を周囲の物質(例えば、パラフィン)と自動的に区別したり、他の組織部分と機能的な違いを有する特定の組織部分を指摘したりすることができる。」

イ 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「試料」を「マーキング」する「活性化可能なマーキング分子」は、本願発明の「試料(32)中の蛍光染料粒子」に相当する。

(イ)引用発明の「試料中に、活性化されたマーキング分子がこれにすぐ隣接する活性化されたマーキング分子に対して、ルミネセンス放射の検出の光学的分解能以上の間隔を有する部分領域が生じる」ように「試料中に存在するマーキング分子のうちある部分量だけが活性化される」ことは、本願発明の「活性状態の前記染料粒子を励起して蛍光を発生することで、励起されて蛍光を発生し、前記部分集合に含まれる染料粒子の数が、それらの間の平均距離が前記蛍光顕微鏡の回折分解能限界より大きくなるような数」又は「残りの前記活性状態の染料粒子の部分集合を励起して蛍光を発生することで、励起されて蛍光を発生し、前記部分集合に含まれる染料粒子の数が、それらの間の平均距離が前記蛍光顕微鏡の回折分解能限界より大きくなるような数」で、「試料(32)中の蛍光染料粒子が、前記試料のすべての蛍光染料粒子の中の部分集合を不活性状態から活性状態に移させ」ること又は「試料(32)中の蛍光染料粒子が、前記試料(32)のすべての蛍光染料粒子の中の部分集合を活性状態から不活性状態へと移させ」ることに相当する。

(ウ)引用発明の「ルミネセンス放射を光学的分解能で検出する」ことは,本願発明の「染料粒子から発せられた蛍光が検出され」ることに相当する。

(エ)引用発明の「試料の全体像を生成するために、前記工程a)からe)を繰り返し実行し、その際に工程e)の後に得られた像データが、そのつど先行する実行からの像データと重ね合わされて1つの全体像にされ、最後の実行の後に全体像が完成される」ことと、本願発明の「染料粒子を励起する処理からマーキングされた小区域が前記イベント(53)と定義されるまでの処理が繰り返されて、複数の部分画像が得られ、前記イベント(53)を示している複数の部分画像に基づいて前記試料(32)の完全な画像が得られる」こととは、引用発明の「像データ」が本願発明の「イベント」に対応するものとする限りにおいて、両者は「染料粒子を励起する処理からイベントまでの処理が繰り返されて、複数の部分画像が得られ、前記イベントを示している複数の部分画像に基づいて前記試料の完全な画像が得られる」点で共通している。

(オ)上記(ア)?(エ)を踏まえれば、引用発明の「切替信号によって活性化可能なマーキング分子でマーキングされた試料を」「検査する」「空間的に高分解能でルミネセンス顕微鏡」は、本願発明の「蛍光染料粒子を逐次的に、確率的に局在解析するための蛍光顕微鏡」に相当する。

してみれば、本願発明と引用発明とは、
(一致点)
「蛍光染料粒子を逐次的に、確率的に局在解析するための蛍光顕微鏡についての方法であって、
試料中の蛍光染料粒子が、前記試料のすべての蛍光染料粒子の中の部分集合を不活性状態から活性状態に移させ、活性状態の前記染料粒子を励起して蛍光を発生することで、励起されて蛍光を発生し、前記部分集合に含まれる染料粒子の数が、それらの間の平均距離が前記蛍光顕微鏡の回折分解能限界より大きくなるような数であり、又は、
試料中の蛍光染料粒子が、前記試料のすべての蛍光染料粒子の中の部分集合を活性状態から不活性状態へと移させ、残りの前記活性状態の染料粒子の部分集合を励起して蛍光を発生することで、励起されて蛍光を発生し、前記部分集合に含まれる染料粒子の数が、それらの間の平均距離が前記蛍光顕微鏡の回折分解能限界より大きくなるような数であり、
前記染料粒子から発せられた蛍光が検出され、
前記染料粒子を励起する処理からイベントまでの処理が繰り返されて、複数の部分画像が得られ、前記イベントを示している複数の部分画像に基づいて前記試料の完全な画像が得られる、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
イベントが、本願発明では、「蛍光顕微鏡の検出器上の光量分布を表す、前記蛍光の光分布のグラフィカル表現が求められ、前記光分布のグラフィカル表現のもとになる信号が生成され、これに基づいて表示ユニットが制御されて、前記光分布のグラフィカル表現が表示され、前記光分布のグラフィカル表現の小区域の各々が、対応する小区域の光量を表すそれぞれの比較値に関連付けられ、前記評価パラメータが所定の閾値であって、前記比較値が前記閾値と比較され、全ての小区域は、前記表示ユニットに表示され、前記閾値より大きい比較値を有するこれらの小区域だけが前記表示ユニット上で、所定のマークによってマーキングされ、前記閾値が最適でない場合、使用者の入力に応じて、前記閾値が使用者定義の閾値に変更され、使用者の入力後に、前記比較値が変更された使用者定義の閾値と比較され、全ての小区域は、前記表示ユニットに表示され、前記使用者定義の閾値より大きい比較値を有するこれらの小区域だけが前記表示ユニット上で、所定のマークによってマーキングされ、前記所定のマークでマーキングされた小区域」として「定義され」るものであるのに対し、
引用発明では、イベントに対応する像データが、「位置分解能を光学的分解能よりも鮮鋭にするために、記録されたルミネセンス放射を、より高い強度を優先して」「閾値より低い強度を抑圧する」ように「非線形に増幅」して「ルミネセンス放射から」「生成」されるものである点。

(相違点2)
そして、本願発明は、上記「所定の閾値」である「評価パラメータ」について、「適切な評価パラメータを設定する方法」であるのに対し、引用発明は、そのような方法ではない点。

ウ 相違点に対する判断
(ア)相違点1について
上記相違点1について判断するにあたり、まず、相違点1における「閾値」について検討する。
上記引用例2の摘記(2-b)には、引用発明の「閾値」について「オプションとしての第5の工程S5では、増幅された蛍光信号の強度またはレベルが閾値以下であれば、それらの信号の正規化または丸めが行われる。」と記載されており、一方、本願発明の「閾値」については、本願明細書に「図4は、最適に選択された閾値を用いた第1の部分画像50を示す。ここでは、ノイズによらず、試料32中の染料粒子の蛍光発光による、および、それゆえ実際のイベントによる光量を有する第2の小区域のみにもれなくマーキングされている。」と記載されていることから、両者の閾値は、部分像(部分画像)を鮮鋭にするためのものという限りにおいては、一応、共通するともいえる。
しかしながら、本願発明では、閾値はイベントを定義づけるために「光分布のグラフィカル表現の小区域の各々が、対応する小区域の光量を表すそれぞれの比較値に関連付けられ」「前記比較値が前記閾値と比較され、全ての小区域は、前記表示ユニットに表示され、前記閾値より大きい比較値を有するこれらの小区域だけが前記表示ユニット上で、所定のマークによってマーキングされ、前記閾値が最適でない場合、使用者の入力に応じて、前記閾値が使用者定義の閾値に変更され、使用者の入力後に、前記比較値が変更された使用者定義の閾値と比較され、全ての小区域は、前記表示ユニットに表示され、前記使用者定義の閾値より大きい比較値を有するこれらの小区域だけが前記表示ユニット上で、所定のマークによってマーキングされ」るように使用されるものであるのに対し、引用発明では「増幅された蛍光信号の強度またはレベル」に対して設けるだけのものであり、本願発明のようなものではない。
この点、引用例1の摘記(1-a)及び(1-b)には「しきい値」との記載はあるものの、これは、サンプルの対象領域を決定する際に使用するものであり、引用発明における「閾値」とは技術的意義が異なるものであるから、引用例1の記載に鑑みても、引用発明における閾値を本願発明のように使用することにはならない。
よって、相違点1について、閾値に関する事項以外の事項について検討するまでもなく、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ)相違点2について
引用例1の記載に鑑みても、引用発明における閾値を本願発明のようにすることにはならない以上、相違点2についても当業者が容易になし得たこととはいえない。

ウ 小括
以上、本願発明は、当業者が引用発明及び引用例1の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2?8に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、当業者が引用発明及び引用例1の記載事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)特許法第36条第6項第2号について
原査定で指摘した請求項11については、平成28年11月29日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲には存在しないので、当該拒絶理由については解消された。

(3)まとめ
よって、原査定の理由(1)及び(2)によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審最初拒絶理由の概要
(1)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1の「・・・の適切な評価パラメータを設定する方法であって」、「所定の閾値が評価パラメータとして使用され」、「前記閾値・・・」との記載は、「評価パラメータ」の特定が明確とはいえない。

(2)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1に係る発明は「蛍光染料粒子を逐次的に、確率的に局在解析するための蛍光顕微鏡」(いわゆる、局在化顕微鏡、ローカリゼーション法超解像顕微鏡等)を用いた方法であり、当該顕微鏡は多数の部分画像を合成して試料の完全な画像を得るものであるとの技術常識を考慮しても、多数の部分画像を合成せずに完全な画像を得ることは想定されない。してみれば、多数の部分画像を合成して完全な画像を得ることを特定していない請求項1に係る発明及びそれに従属する請求項2ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない

2 当審最後拒絶理由の概要
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

「複数の」部分画像を得るためには、請求項1で記載されている工程が繰り返されて「複数の」部分画像が得られるものといえるところ、本願請求項1の記載では、それが明確に特定されていない。

3 当審拒絶理由の判断
上記1(1)については、平成28年11月29日付け手続補正書によって補正された請求項1に係る発明すなわち本願発明(上記第2参照)において、「前記評価パラメータが所定の閾値であって」と補正されており、さらに、上記1(2)及び2については、「前記染料粒子を励起する処理からマーキングされた小区域が前記イベント(53)と定義されるまでの処理が繰り返されて、複数の部分画像が得られ、前記イベント(53)を示している複数の部分画像に基づいて前記試料(32)の完全な画像が得られる」と補正されたことから、当審最初拒絶理由及び当審最後拒絶理由は、いずれも解消された。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-18 
出願番号 特願2012-552321(P2012-552321)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G01N)
P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 横尾 雅一  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
三崎 仁
発明の名称 蛍光顕微鏡の適切な評価パラメータを設定する方法  
代理人 藤田 アキラ  
復代理人 今井 秀樹  

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