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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65D
管理番号 1323900
審判番号 不服2016-10556  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-12 
確定日 2017-01-31 
事件の表示 特願2014-179170「紙容器用包装材料及び紙容器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 2月12日出願公開、特開2015- 27893、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年12月3日に出願された特願2009-275172号の一部を平成26年9月3日に新たな特許出願としたものであって、平成27年10月8日付けで拒絶理由が通知され、平成27年11月25日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年4月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年7月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、上記平成27年11月25日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4にそれぞれ記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
積層材からなる紙容器用包装材料において、
積層材は最外層と、
最外層上に設けられ、両面に粗面を有する紙製基材層と、
基材層の最外層と反対側の面に設けられ、当該面の粗面を平滑化する平滑化層と、
平滑化層上に設けられ、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物を主成分とするガスバリア性を有する接着層と、
接着層上に設けられた最内層とを備え、平滑化層は低密度ポリエチレンからなり、平滑化層の表面は、JIS P8151に基づいて測定した場合、表面粗さPPSが3μm以下となっていることを特徴とする紙容器用包装材料。
【請求項2】
接着層のエポキシ樹脂は、芳香族部位を分子中に含むエポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の紙容器用包装材料。
【請求項3】
接着層のエポキシ樹脂は、メタキシレンジアミンから誘導されたエポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項1又は2記載の紙容器用包装材料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項記載の紙容器用包装材料を用いてなる紙容器。」

第3 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2007-244373号公報
刊行物2:特開2004-17452号公報

刊行物1には、少なくとも熱可塑性樹脂もしくは紙からなる外層(基材)、エポキシ樹脂硬化物からなる接着剤層、およびヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層(シーラント層)からなるガスバリア性積層材料が記載されている。(特に段落【0012】を参照。)また、刊行物1の段落【0013】には、基材として「カートンなどの紙類、アルミや銅などの金属箔、およびこれらの基材として用いられる各種材料に・・・各種ポリマーによるコーティングを施したフィルム」を用いることも記載されている。
そして、この「各種ポリマーによるコーティングを施したフィルム(紙類)」として、刊行物2の段落【0064】に記載された「その両面に20μmの低密度ポリエチレンフィルム層(LDPE)を有する紙基材」を用いることは、当業者にとって容易である。この場合、紙基材の外側の低密度ポリエチレンフィルム層が、本願発明の「最外層」に相当し、内側のものが、本願発明の「平滑化層」に相当する。
ここで、出願人は、平成27年11月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項に係る発明について、同日付け意見書において、(a)基材層の最外層と反対側の面に平滑化層が設けられ、この平滑化層は低密度ポリエチレンからなること。(b)平滑化層表面は、JIS P8151に基づいて測定した場合、表面粗さPPSが3μm以下となっていること。(c)平滑化層上に、ガスバリア性を有する接着層が設けられていること。から、当該補正後の請求項に係る発明は進歩性を有する旨主張している。
しかしながら、(a)及び(c)は、刊行物1,2に記載された各発明を組み合わせることで当業者が容易に想到し得ることであり、(b)については、技術的な困難性も格別の作用効果も認められないことから、当業者が適宜なし得ることであるといわざるを得ない。なお、明細書等には(b)が格別な作用効果を持つと認められるに足る事項は記載されていない。
してみれば、補正後の請求項1ないし4に係る各発明は、刊行物1,2に記載された各発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。

第4 当審の判断
1.刊行物1の記載事項
上記原査定の理由に引用された刊行物1(特開2007-244373号公報)には、「香辛料含有食品の保存方法」の発明に関して以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同じ。)

ア.
「【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のエポキシ樹脂組成物を主成分とする高ガスバリア性接着剤を用いて積層した積層材料を使用して、香辛料含有食品を充填して密封保存することで、香辛料含有食品を安定に保存できるばかりでなく、香辛料の優れた保香性も得られ、かつ積層材料のラミネート強度の低下もないことを見出し、本発明を完成するに至った。」

イ.
「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、香辛料含有食品を安定的に、かつ、香辛料の香気を逃すことなく、包装用積層材料のラミネート強度の低下もなく保存することができる。」

ウ.
「【0012】
本発明の保存方法において、袋状の容器によって香辛料含有食品を密封する際に使用するガスバリア性積層フィルムは、少なくとも熱可塑性樹脂もしくは紙からなる外層(基材)、エポキシ樹脂硬化物からなる接着剤層、およびヒートシール性を有する熱可塑性樹脂層(シーラント層)からなる積層フィルムが好ましい。製袋する際には、基材は袋外面、シーラント層は袋内面に用いられる。
【0013】
前記基材としては、例えば・・・等のプラスチックフィルム、カートンなどの紙類、アルミや銅などの金属箔、およびこれらの基材として用いられる各種材料にポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂やポリビニルアルコール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物系樹脂、アクリル系樹脂などの各種ポリマーによるコーティングを施したフィルム、・・・などが使用できる。・・・」

エ.
「【0028】
高いガスバリア性および良好な接着性を考慮した場合には、エポキシ樹脂硬化剤として、下記の(A)および(B)の反応生成物、または(A)、(B)、および(C)の反応生成物を用いることが特に好ましい。
(A)メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミン
(B)ポリアミンとの反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物
(C)炭素数1?8の一価カルボン酸および/またはその誘導体」

上記摘記事項ア.ないしエ.から刊行物1には、には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「積層材からなる香辛料含有食品を充填して密封保存するための袋状の容器用の積層材料において、
積層材は紙からなる外層(基材)と、
外層(基材)の面に設けられたエポキシ樹脂硬化物からなるガスバリア性を有する接着剤層であって、当該エポキシ樹脂硬化物は、メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミンと、ポリアミンとの反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物との反応生成物である接着剤層と、
熱可塑性樹脂層(シーラント層)からなる
香辛料含有食品を充填して密封保存するための袋状の容器用の積層材料」

2.刊行物2の記載事項
上記原査定の理由に引用された刊行物2(特開2004-17452号公報)には、「液体紙容器用積層体」の発明に関して以下の事項が記載されている。

ア.
「【請求項1】
少なくとも、最外層、紙基材、中間層、および、最内層を順次に積層した液体紙容器用積層体において、上記の中間層が、二軸延伸ポリプロピレンフィルムからなり、かつ、該二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも一方の面に、プラズマ気相成長法によるケイ素、酸素、炭素、水素を膜組成成分として含有する酸化ケイ素の蒸着薄膜層を形成した蒸着樹脂フィルムからなり、更に、該蒸着樹脂フィルムを構成する酸化ケイ素の蒸着薄膜層の上に、エポキシ系樹脂を主成分とする組成物による熱硬化性樹脂被膜を設け、更に、上記の最内層に、メタロセン触媒を用いて製造したポリエチレン層を設けた構成からなることを特徴とする液体紙容器用積層体。」

イ.
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体紙容器用積層体に関し、更に詳しくは、中間層として、ガスバリア性を有する酸化ケイ素の蒸着薄膜層を形成した蒸着樹脂フィルムを積層し、特に、清涼飲料水や果汁飲料等の内容物を充填包装し、その保存性に優れた液体紙容器用積層体に関するものである。」

ウ.
「【0064】
実施例1
上記の(蒸着樹脂フィルムの製造例1)で製造した蒸着樹脂フィルムの酸化ケイ素の蒸着薄膜層の面に、上記の(エポキシ系樹脂を主成分とする組成物の調製例1)で製造した組成物を厚さ0.2g/m^(2)のコート量(乾燥重量)でグラビアコート法でコーティングし、次いで、80℃で48時間熱硬化を行って、熱硬化性樹脂被膜を形成した。
次に、上記で熱硬化性樹脂被膜を形成した蒸着樹脂フィルムの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)の面に、ポリエステルウレタン系接着剤(大日精化工業株式会社製、商品名、E-304/C-75N、溶媒:酢酸エチル、DL)を4g/m^(2)〈乾燥重量)の割合でコーティングし、次いで、そのコート面に、厚さ60μmのメタロセン系触媒を用いて製造したポリエチレンフィルム(タマポリ株式会社製、商品名、SE620M、片面コロナ処理、LDPE)のコロナ処理面と積層した。
次いで、上記で製造した積層フィルムの蒸着樹脂フィルムの熱硬化性樹脂被膜の面に、その両面に20μmの低密度ポリエチレンフィルム層(LDPE)を有する紙基材の一方の低密度ポリエチレンフィルム層(LDPE)の面を対向させ、その層間に、押出ラミネーション法で溶融押出した厚さ25μmの低密度ポリエチレン(住友化学工業株式会社製、商品名、スミカセンL430、LDPE)で積層した。
熱硬化性樹脂被膜面と低密度ポリエチレン層との間には、アンカーコート剤(武田薬品工業株式会社製、商品名、A3200/A3012、AC)をコーティングした。
層構成として、外側から内側に向かって、LDPE20/紙320g/m^(2)/LDPE20/LDPE25/AC/熱硬化性樹脂被膜/SiOx/OPP20/DL/LDPE60からなる液体紙容器用積層体を作製した。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
上記1.摘記事項イ.の「本発明によれば、香辛料含有食品を安定的に、かつ、香辛料の香気を逃すことなく、包装用積層材料のラミネート強度の低下もなく保存することができる」との刊行物1の記載から、引用発明の「香辛料含有食品を充填して密封保存するための積層材料」は包装に用いられるものであるといえるので、本願発明の「紙容器用包装材料」に相当する。
引用発明の「紙からなる外層(基材)」は、本願発明の「紙製基材層」に相当する。
引用発明の「エポキシ樹脂硬化物からなるガスバリア性を有する接着剤層であって、当該エポキシ樹脂硬化物は、メタキシリレンジアミンまたはパラキシリレンジアミンと、ポリアミンとの反応によりアミド基部位を形成しオリゴマーを形成し得る、少なくとも1つのアシル基を有する多官能性化合物との反応生成物である接着剤層化物」は、本願発明の「エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物を主成分とするガスバリア性を有する接着層」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、かつ相違する。

<一致点>
「積層材からなる紙容器用包装材料において、
積層材は紙製基材層と、
エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物を主成分とするガスバリア性を有する接着層と、
接着層上に設けられた最内層とを備える紙容器用包装材料。」

<相違点>
本願発明の「積層材」は、「最外層」と、「最外層」上に設けられ、両面に「粗面」を有する「紙製基材層」と、「基材層」の「最外層」と反対側の面に設けられ、当該面の「粗面」を平滑化する「平滑化層」を備えるものであり、さらに、当該「平滑化層」は低密度ポリエチレンからなり、かつ、その表面は、JIS P8151に基づいて測定した場合、表面粗さPPSが3μm以下のものであり、そして、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物を主成分とするガスバリア性を有する「接着層」が、「平滑化層」の上に設けられているものである。
一方、引用発明の「積層材」は、「最外層」を備えるか否かが不明であり、かつ、「紙からなる外層(基材)」は、両面に「粗面」を有するか否かが不明であり、さらに、当該「積層材」が「平滑化層」自体を設けたものかどうかも不明である点。

4.相違点についての判断

引用発明の「紙からなる外層(基材)」について、刊行物1には、「平滑化層」を「外層(基材)」の面に設けることについての記載もないし、示唆もない。そして、当該「紙からなる外層(基材)」の表面の粗さを小さくすることの動機付けを示す記載もないし、示唆もない。
また、刊行物2には、上記2.の摘記事項ウ.に「その両面に20μmの低密度ポリエチレンフィルム層(LDPE)を有する紙基材」との記載はあるものの、当該紙基材に粗面があることや、低密度ポリエチレンフィルムが平滑化の機能を奏するか、あるいは奏するとしても、表面がJIS P8151に基づいて測定した場合、表面粗さPPSが3μm以下となるものであるかは、刊行物2に記載されていないし、示唆もない。

そして、本願明細書には、「平滑化層」について以下の記載がある。
「【0033】
(平滑化層)
平滑化層13は紙製基材層12の最外層11と反対側の面に設けられ、紙製基材層12の粗面となる当該面を平滑化するものである。」
「【0037】
このような平滑化層13を紙製基材層12に設けることにより、JIS P8151に基づいて測定した場合、平滑化層13の表面粗さPPSが3μm以下となる。」
「【0049】
このような接着層14を平滑化層13とポリエチレン層15との間に設けることにより、ガスバリア性を向上させることができる。更に、平滑化層13としてLLDPEを積層させる事により、耐輸送適性も向上することが出来る。」
「【0068】
比較例3-4に示された包装材料10を用いた場合、平滑化層13が欠如しているため、紙製基材層12に接着層14を均一に形成することはむずかしくなり、接着層14はガスバリア性が低下した部分をもつため、接着層14全体としてのガスバリア性が低下する。」

そうすると、本願発明は、平滑化層を設け、その表面の粗さを上記相違点に係る構成のものとすることで、接着層でガスバリア性が低下した部分をもつこともなく、ガスバリア性を向上させることができる、との格別な作用効果を奏する。

したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.請求項2ないし4に係る発明について
本願の請求項2ないし4に係る発明は、それぞれ、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし4に係る発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-18 
出願番号 特願2014-179170(P2014-179170)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 裕介  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 久保 克彦
山田 由希子
発明の名称 紙容器用包装材料及び紙容器  
代理人 朝倉 悟  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 永井 浩之  
代理人 中村 行孝  

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