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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1323985
審判番号 不服2015-12952  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-07 
確定日 2017-01-19 
事件の表示 特願2013-507261「金属と熱可塑性樹脂の複合体」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日国際公開、WO2012/132639〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月21日(優先権主張 平成23年3月25日)を国際出願日とする特許出願であって、平成26年8月14日付けの拒絶理由通知に対して、同年10月15日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年3月27日付け(発送日:同年4月7日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年7月7日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、同年9月14日付けで前置報告がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成27年7月7日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであって、そのうち、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「【請求項1】 熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とが接触接合した複合体であって、
前記熱可塑性樹脂組成物(A)は、熱可塑性樹脂と、タルク、グラファイト及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機充填材とを含む組成物であり、
前記金属(B)は、表面処理した金属である複合体。」

第3 当審の判断
1 引用文献1に記載された事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2006-315398号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。(注:下線は当合議体による。)

ア 特許請求の範囲
【請求項1】
アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬させる工程を経たアルミニウム合金形状物と、
前記アルミニウム合金形状物を射出成形金型にインサートした後、このアルミニウム合金形状物の表面に、射出成形により一体的に付着するポリアミド系樹脂を主成分として含む熱可塑性樹脂組成物と
からなるアルミニウム合金と樹脂の複合体。
【請求項5】
請求項1ないし3に記載のアルミニウム合金と樹脂の複合体で選択される1項において、
前記熱可塑性樹脂組成物には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、及び粘土から選択される1種以上の無機系充てん材が加えられているものである
ことを特徴とするアルミニウム合金と樹脂の複合体。

イ 【発明が解決しようとする課題】
【0007】 本発明の目的は、アルミニウム合金に対しポリアミド系樹脂を射出し強固な接合を可能とするアルミニウム合金と樹脂の複合体とその製造方法の提供にある。

ウ 【課題を解決するための手段】
【0026】〔本処理工程〕
この工程は、前処理工程を終えたアルミニウム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬させる工程である。使用する処理液はPH9?10の弱塩基性であり、浸漬したアルミニウム合金は表面が超微細にエッチングされ、電子顕微鏡で観察すると20?40nm径の凹凸部で覆われた状況になっている。更に、この工程によって、アルミニウム合金形状物にこれらアミン系化合物分子を吸着させることができる。
【0027】 微細エッチングとアミン系化合物の吸着という本発明の基本的な2つの工程がなされるので、この工程を本処理工程と称している。
【0032】〔熱可塑性樹脂組成物〕
次に本発明に適用される熱可塑性樹脂組成物について説明する。ポリアミド系樹脂としては、ナイロン66、及びナイロン6が好ましい。熱可塑性樹脂組成物は、ナイロン66、ナイロン6以外にその他のポリマー、例えば、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン11、芳香族ナイロン、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などがあり、又それをコンパウンドしたものでもよい。
【0033】 また、熱可塑性樹脂組成物のフィラーの含有は、アルミニウム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との線膨張率を近づけるという観点から非常に重要である。線膨張率を一致させるのが理想であるが、フィラー含有の目的は相互に少しでも近づけることにある。フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、又、その他これらに類する高強度繊維が良い。又、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物、又、その他類する樹脂充填用無機フィラーを含有した熱可塑性樹脂組成物であることが非常に好ましい。
【0040】〔作用〕
本発明によれば、前述のようにアルミニウム合金形状物とポリアミド系樹脂組成物を、インサート後の射出成形によって強固に接着することができる。実用的には、適用する樹脂組成物としては、高濃度のフィラーを含むナイロン66やナイロン6を主成分とするコンパウンドが好ましい。
この強固な接着を可能にした理由は、アルミニウム合金形状物をアミン系化合物の水溶液で処理したことにある。即ち、この処理によりアルミニウム合金形状物の表面が超微細エッチングされ、しかもアミン系化合物分子がアルミ合金表面に吸着したためである。本発明を使用することは、電子機器や家電機器の軽量化、車載機器や部品の軽量化、その他多くの分野で幅広く、部品、筐体の供給に役立つ。

(2) 上記(1)アによれば、引用文献1の請求項1を引用する請求項5には、「アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬させる工程を経たアルミニウム合金形状物と、前記アルミニウム合金形状物を射出成形金型にインサートした後、このアルミニウム合金形状物の表面に、射出成形により一体的に付着するポリアミド系樹脂を主成分として含む熱可塑性樹脂組成物とからなるアルミニウム合金と樹脂の複合体であって、前記熱可塑性樹脂組成物には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、及び粘土から選択される1種以上の無機系充てん材が加えられているものである、アルミニウム合金と樹脂の複合体。」と記載されている。
また、上記(1)ウによれば、引用文献1の段落【0033】には、「又、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物、又、その他類する樹脂充填用無機フィラーを含有した熱可塑性樹脂組成物であることが非常に好ましい。」と記載されている。
そして、本願優先日当時、タルクは、樹脂組成物における充填材として周知であり(「図解 プラスチック用語辞典 第2版、1998年6月15日第2版第2刷、日刊工業新聞社発行、472頁「タルク」の項 参照。)、また、金属と樹脂との複合体に用いられる樹脂組成物においてタルクを加えることは一般的であったという技術水準(例えば、特開2003-251654号公報:段落【0081】の実施例5 等参照)に照らすと、当業者は、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、請求項1を引用する請求項5に記載されたアルミニウム合金と樹脂との複合体において、「含有」することが「非常に好ましい」(段落【0033】)と記載されている無機フィラーである「タルク」を加えた熱可塑性樹脂組成物を用いる発明を実施し得る程度にその技術事項が開示されていると、引用文献1から理解できる。
そうすると、引用文献1には、請求項1を引用する請求項5に記載されたアルミニウム合金と樹脂との複合体において、タルクを用いた次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬させる工程を経たアルミニウム合金形状物と、前記アルミニウム合金形状物を射出成形金型にインサートした後、このアルミニウム合金形状物の表面に、射出成形により一体的に付着するポリアミド系樹脂を主成分として含む熱可塑性樹脂組成物とからなるアルミニウム合金と樹脂の複合体であって、前記熱可塑性樹脂組成物には、タルクである無機系充てん材が加えられているものである、アルミニウム合金と樹脂の複合体。」

2 対比
本願発明に含まれるもののうち、無機充填材として「タルク」を用いる発明について、引用発明と対比する。
引用発明の「アルミニウム合金形状物」、「ポリアミド系樹脂」は、本願発明の「金属」、「熱可塑性樹脂」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「前記アルミニウム合金形状物を射出成形金型にインサートした後、このアルミニウム合金形状物の表面に、射出成形により一体的に付着するポリアミド系樹脂を主成分として含む熱可塑性樹脂組成物とからなるアルミニウム合金と樹脂の複合体」は、本願発明の「熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とが接触接合した複合体」に相当する。
さらに、本願明細書の段落【0023】及び【0024】には、「表面処理とは、例えば金属表面を侵食性液体に浸漬処理する方法や陽極酸化で金属表面に微細な凹凸がなされた状態や金属表面に化学物質が固着された状態を指す。侵食性液体としては、水溶性アミン化合物が挙げられ、その水溶性アミン化合物は、アンモニア、・・・その他のアミン類が挙げられる。これらの中でも、特にヒドラジンが、臭気が小さく、低濃度で有効なことから好ましい。」と記載されていることからみて、本願発明の「表面処理」は、水溶性アミン、アンモニア、ヒドラジン等などの侵食性液体に浸漬処理することを包含していることは明らかである。したがって、引用発明の「アンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬させる工程を経たアルミニウム合金形状物」は、本願発明の「表面処理した金属」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とが接触接合した複合体であって、前記熱可塑性樹脂組成物(A)は、熱可塑性樹脂と、タルクである無機充填材とを含む組成物であり、前記金属(B)は、表面処理した金属である複合体。」である点で一致し、相違点は見出せない。
したがって、本願発明は、引用発明と同一であり、引用文献1に記載された発明である。

3 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、平成26年10月15日付け意見書において、「引用文献1には、本願発明の構成要件である、無機充填材(フィラー)として、タルク、グラファイト及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を選択して使用する点について記載されておりません。」と主張する。
特許法第29条第1項第3号は、「特許出願前に・・・頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定するところ、上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには、同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが、発明が技術思想の創作であることに鑑みれば、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時(優先日)の技術水準に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術事項が開示されていることを要するものというべきであり、かつ、それで足りると解するのが相当である。
そして、上記1のとおり、本願優先日当時の技術水準に照らすと、引用文献1には、タルクを用いた引用発明について、その技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術事項が開示されていると認められることから、本願発明は、引用発明と同一であり、引用文献1に記載された発明であるといわざるを得ない。
したがって、審判請求人の上記主張は、採用することはできない。

(2)審判請求人は、平成27年7月7日付け審判請求書において、「引用文献1の請求項5に『炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、及び粘土』の記載があるが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、及び粘土(モンモリロナイト)は、平成26年10月15日付提出の意見書と共に手続補足書にて提出した実験報告書に示すように、接合性が悪く、引用文献1にはタルクを用いた実施例もなく、タルクだけが接着性に優れる記載も示唆もないため、その中からタルクだけを選択するのは当業者をもってしても容易ではない。一方、引用文献1の段落0033、0034に線膨張係数を近づけることが重要であることが記載されている。その記載からすると、本願明細書の実施例・比較例の線膨張係数からわかるように、当業者は、タルクを選択せず、ガラス繊維を選択すると考えられる。従って、引用文献1の記載からは、特にタルクを選択することによって、優れた接合強度が得られることは当業者であっても、予測できなかったことである。」と主張する。
しかし、引用文献1の段落【0033】及び【0034】には、アルミニウムと熱可塑性樹脂の線膨張率を近づけるため、例えばガラス繊維40?50%をナイロン66に含ませることができると記載されているものの、ガラス繊維を用いると他の無機フィラーは使用しないというわけではないから、当該記載は、無機充填材としてタルクを用いること、あるいは、ガラス繊維と共にタルクを用いることを妨げる記載ではない。したがって、引用文献1の段落【0033】及び【0034】の記載があるからといって、引用発明が認定できないというものではない。
そして、引用文献1に引用発明が記載されていると認定できる以上、「特にタルクを選択することによって、優れた接合強度が得られることは当業者であっても、予測できなかった」としても、本願発明と引用発明とが同一であることに、何ら影響しない。
したがって、審判請求人の上記主張を検討しても、本願発明は、引用文献1に記載された発明であることを覆す根拠は見出せない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-18 
結審通知日 2016-11-22 
審決日 2016-12-06 
出願番号 特願2013-507261(P2013-507261)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 靖史  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 藤原 浩子
大島 祥吾
発明の名称 金属と熱可塑性樹脂の複合体  
代理人 松井 茂  

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