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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1324010
審判番号 不服2016-11085  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-22 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2015-119250「仮想空間位置指定方法、プログラム、プログラムを記録した記録媒体、および、装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 1月 5日出願公開、特開2017- 4356、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年6月12日の出願であって,平成28年4月22日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成28年7月22日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年7月22日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
(1)請求項1について
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を,
「 3次元の仮想空間中のポインタオブジェクトを視線の動きに連動させるように表示するコンピュータ実装方法であって,前記仮想空間には,対象オブジェクトが,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の傾きに従って決定される前記視線の方向に配置されており,
前記視線と交差するように仮の視線を決定するステップと,
前記仮の視線が前記対象オブジェクトと交わる位置に前記ポインタオブジェクトを配置するステップと,
前記視線に基づいて,前記ポインタオブジェクトを含む仮想空間の視野画像を描画して前記HMDに表示するステップと
を含む,コンピュータ実装方法。」
とする補正(以下,「補正事項1」という。)を含んでいる。

(2)請求項7について
本件補正は,特許請求の範囲の請求項7を,
「 3次元の仮想空間中のポインタオブジェクトを視線の動きに連動させて表示するヘッドマウントディスプレイ(HMD)システムであって,前記仮想空間には,対象オブジェクトが前記視線の方向に配置され,制御部によって実行されると,当該HMDシステムに,
前記視線をHMDの傾きに従って決定させ,
前記視線と交差するように仮の視線を決定させ,
前記仮の視線が前記対象オブジェクトと交わる位置に前記ポインタオブジェクトを配置させ,
前記視線に基づいて,前記ポインタオブジェクトを含む仮想空間の視野画像を描画して前記HMDに表示させる
命令を格納する記憶部を備える,HMDシステム。」
とする補正(以下,「補正事項2」という。)を含んでいる。

2 補正の適否
(1)補正事項1について
本件補正の補正事項1は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「仮想空間」について,「3次元の」との限定を付加するものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,特許法第17条の2第3項,第4項に違反するところはない。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-337756号公報(以下,「引用例1」という。)には,「3次元位置指定方法および仮想空間立体視装置」(発明の名称)に関し,以下の記載がある。

a 「【請求項3】 右眼用,左眼用の画像表示手段(31)(32)と,観察者の位置および向きを検出する位置向き検出手段(35)と,仮想空間の対象物の情報を保持する対象物情報保持手段(83)と,観察者の位置および向きに対応して前記対象物の画像を立体的に変化させる立体視手段(81)(85)(86)とを備えた仮想空間立体視装置において,観察者の方向ベクトルを算出する方向ベクトル算出手段(82)と,算出した方向ベクトルと仮想空間内の対象物表面との交点を算出する交点算出手段(84)と,算出した交点位置にカーソルを描画するカーソル描画手段(81)(85)(86)(87)(88)とを有していることを特徴とする仮想空間立体視装置。」

b 「【0002】
【従来の技術】近年,コンピュータグラフィックス技術の進歩により,観察者にコンピュータグラフィックスによる画像を与え,あたかも観察者自身が仮想的な映像内に存在するような錯覚を与える仮想現実という技術が提案され,普及に向けて盛んに研究開発が行なわれている。仮想現実では観察者がヘッド・マウンテッド・ディスプレイ(以下,HMDと称する)と呼ばれる装置を頭に装着し,観察者の動作,例えば,頭を動かす,手,足など体を移動させる動作に対応してHMD内にあるディスプレイに写し出される映像を変化させることにより,観察者に仮想的な空間を実感させるようにしたものが多い。」

c 「【0013】請求項3の仮想空間立体視装置であれば,方向ベクトル算出手段が観察者の方向ベクトルを算出し,交点算出手段が観察者の方向ベクトルと仮想空間内の対象物表面との交点を算出し,カーソル描画手段が算出した交点位置にカーソルを描画する。したがって,観察者の向いた方向の視野内にある対象物の表面にカーソルが表示されることになるのであるから,観察者はカーソルを基準として対象物の表面に視点を合わせることができ,立体視が行ないやすくなる。また,観察者の方向ベクトルは位置向き検出手段に基づくデータにより容易に算出することができるとともに,対象物の表面にカーソルを表示することも簡単な計算で行なえるのであるから,描画速度の低下をもたらすこともなく,極めて安価かつ効率的に実現できるという利点もある。」

d 「【0037】
【実施例6】図9はこの発明の仮想空間立体視装置の他の実施例としてのMHDの構成を示すブロック図である。このMHDは大別すると眼鏡のように装着する装着部70と,装着部70内の液晶表示部31,32に表示する画像を生成する画像生成部80とから構成されている。
【0038】装着部70には右眼用と左眼用のそれぞれの液晶表示部31,32と,液晶表示部31,32の光を効率良く見るための光学レンズ33,34と,装着部30の位置および向きを検出する位置向き検出部35とを有している。なおこれらの要素は従来のMHDにも採用されている。画像生成部80は位置向き検出部35の情報に基づいて右眼用,左眼用の透視変換用の座標情報を与える座標管理部81と,位置向き検出部35の情報に基づいて装着部70の基準座標における方向ベクトルを算出する方向ベクトル算出部82と,仮想空間において表示する対象物の大きさ,色,形状などを保持する対象物情報保持部83と,方向ベクトル算出部82によって算出された方向ベクトルと対象物の表面との交点を算出する交点算出部84と,対象物情報と座標管理部からの座標情報に基づいてそれぞれ右眼用,左眼用の透視変換を行なう右透視変換部85,左透視変換部86と,透視変換部85,86のデータに基づいて液晶表示部31,32に画像の描画を行なうとともに,交点算出部84の交点座標にカーソルを描画する右画像描画部87,左画像描画部88とを有している。
【0039】上記構成のHMDの作用について図9から図11を参照しつつ説明する。前記したようにMHDにおいては壁面,天井,床面などはベタ塗りの平面として処理されるので,例えば,壁面上の1点を見つめて立体視することが難しく,正確な遠近感がつかみにくい。そこで装着部70に設けられた位置向き検出部35の基準座標を用いて,図10に示すような観察者の視野の方向ベクトルSを方向ベクトル算出部82において算出する。そして,方向ベクトルSと仮想空間内の対象物との交点を交点算出部84において算出し,その座標位置に右画像描画部87,左画像描画部88によって補助カーソルを表示する。
【0040】補助カーソルは左右液晶表示部31,32に仮想空間内の対象物とともに描画されるので,観察者には対象物表面上にカーソルが現われたように見える。観察者が横方向に頭を動かせば,その動きに応じて図11に示すように補助カーソル90は対象物表面上を破線のように移動する。この感覚はちょうど装着部70にレーザ光源を取り付け,その光が当たっているような感じである。観察者はこの補助カーソル90の出現によって例えば壁面上の1点に容易に視点を合わせることができるので,遠近感がつかみやすくなる。」

・段落【0002】の「仮想現実では観察者がヘッド・マウンテッド・ディスプレイ(以下,HMDと称する)と呼ばれる装置を頭に装着し,観察者の動作,例えば,頭を動かす,手,足など体を移動させる動作に対応してHMD内にあるディスプレイに写し出される映像を変化させる」の記載,及び,段落【0040】の「補助カーソルは左右液晶表示部31,32に仮想空間内の対象物とともに描画されるので,観察者には対象物表面上にカーソルが現われたように見える。観察者が横方向に頭を動かせば,その動きに応じて図11に示すように補助カーソル90は対象物表面上を破線のように移動する。」の記載によれば,「仮想空間中の補助カーソルを,HMDを装着した観察者の頭の動きに応じて仮想空間内の対象物表面上を移動させるよう表示する方法」が記載されているといえる。
・段落【0037】の「このMHDは大別すると眼鏡のように装着する装着部70と,装着部70内の液晶表示部31,32に表示する画像を生成する画像生成部80とから構成されている。」の記載,及び,段落【0038】の「装着部70には・・・(中略)・・・装着部30の位置および向きを検出する位置向き検出部35とを有している。・・・(中略)・・・位置向き検出部35の情報に基づいて装着部70の基準座標における方向ベクトルを算出する方向ベクトル算出部82と,・・・(中略)・・・方向ベクトル算出部82によって算出された方向ベクトルと対象物の表面との交点を算出する交点算出部84と,対象物情報と座標管理部からの座標情報に基づいてそれぞれ右眼用,左眼用の透視変換を行なう右透視変換部85,左透視変換部86と,透視変換部85,86のデータに基づいて液晶表示部31,32に画像の描画を行なうとともに,交点算出部84の交点座標にカーソルを描画する右画像描画部87,左画像描画部88とを有している。」の記載,及び,【請求項3】の「観察者の位置および向きに対応して前記対象物の画像を立体的に変化させる立体視手段(81)(85)(86)とを備えた仮想空間立体視装置」の記載,及び,【0013】の「観察者の向いた方向の視野内にある対象物の表面にカーソルが表示されることになる」の記載によれば,「HMDは装着部の位置および向きを検出する位置向き検出部と,位置向き検出部の情報に基づいて装着部の基準座標における方向ベクトルを算出する方向ベクトル算出部と,観察者の位置および向きに対応して前記対象物の画像を立体的に変化させる立体視手段とを備えており,観察者の視野の方向ベクトルSを算出し,方向ベクトルSと仮想空間内の対象物との交点を算出し,その座標位置に補助カーソルを仮想空間内の対象物とともに表示し,観察者の向いた方向の視野内にある対象物の表面にカーソルを表示する」ものである。

そうすると,引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「 仮想空間中の補助カーソルを,HMDを装着した観察者の頭の動きに応じて仮想空間内の対象物表面上を移動させるよう表示する方法であって,
HMDは装着部の位置および向きを検出する位置向き検出部と,位置向き検出部の情報に基づいて装着部の基準座標における方向ベクトルを算出する方向ベクトル算出部と,観察者の位置および向きに対応して前記対象物の画像を立体的に変化させる立体視手段とを備えており,観察者の視野の方向ベクトルSを算出し,方向ベクトルSと仮想空間内の対象物との交点を算出し,その座標位置に補助カーソルを仮想空間内の対象物とともに表示し,観察者の向いた方向の視野内にある対象物の表面にカーソルを表示することを含む方法。」

イ 対比
補正発明1と引用発明とを対比する。

a 引用発明の「仮想空間」,「補助カーソル」,「HMD」,「観察者の視野の方向ベクトルS」,「対象物」は,それぞれ補正発明1の「3次元の仮想空間」,「ポインタオブジェクト」,「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」,「視線」及び「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の傾きに従って決定される視線の方向」,「対象オブジェクト」に相当する。
b 引用例1の【図11】に記載されているように,引用発明の「HMD」に「仮想空間の視野画像」が描画されることは明らかである。
c 引用発明の「方法」が「コンピュータ」により実行されることは技術常識であって,これを「コンピュータ実装方法」ということができる。

そうすると,補正発明1と引用発明とは,以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「 3次元の仮想空間中のポインタオブジェクトを視線の動きに連動させるように表示するコンピュータ実装方法であって,前記仮想空間には,対象オブジェクトが,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の傾きに従って決定される前記視線の方向に配置されており,
前記視線に基づいて,前記ポインタオブジェクトを含む仮想空間の視野画像を描画して前記HMDに表示するステップと
を含む,コンピュータ実装方法。」

(相違点)
補正発明1が「前記視線と交差するように仮の視線を決定するステップと,前記仮の視線が前記対象オブジェクトと交わる位置に前記ポインタオブジェクトを配置するステップと」を含むのに対し,
引用発明ではそのようなステップを含まない点。

ウ 判断
上記(相違点)について検討する。

引用発明は「補助カーソル」を「観察者の視野の方向ベクトルS」即ち「視線」と対象物との交点に表示させ,それにより,「遠近感をつかみやすく」(摘記事項bの【0040】)するものであるから,補正発明1のように「前記視線と交差するように仮の視線を決定するステップと,前記仮の視線が前記対象オブジェクトと交わる位置に前記ポインタオブジェクトを配置するステップと」をさらに含ませる動機も必然性もない。
また,原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-7543号公報(以下,「引用例2」という。)には,仮想的な3次元空間であるオブジェクト空間内に複数の表示物を配置し仮想カメラから見える画像を生成する画像生成装置をサッカーゲームに適用した場合において,仮想カメラを自キャラクタに追従させて画像を生成すること(【図1】参照)に代えて,自キャラクタ30の移動に仮想カメラ20を追従させると共に,自キャラクタ30,ボール40間の距離Dが変化した場合にも自キャラクタ30,ボール40が重ならずにスクリーン22上に投影されるように,仮想カメラ20の視点50,視線方向52を変化させること(【図2】参照)が記載されているが,該「仮想カメラ20」の「視線」は,仮想的な3次元空間を描画するための視線であって,補正発明1の「視線と交差」しかつ「対象オブジェクトと交わる位置に前記ポインタオブジェクトを配置する」ための「仮の視線」とは何ら関係がないものである。

そうすると,上記(相違点)に係る補正発明1の構成は引用例1,2に基づいて当業者が容易に想到し得たものではなく,したがって,補正発明1は引用例1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって,本件補正の補正事項1は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
補正後の請求の範囲7に係る発明(以下,「補正発明7」という。)についても補正発明1と同様に,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,かつ,特許出願の際独立して特許を受けることができたものであって,補正事項2についても特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3 むすび
本件補正は,特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから,本願の請求項1-9に係る発明は本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして,補正発明1,補正発明7は,上記第2の2のとおり,当業者が引用例1,2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
また,補正発明1を直接又は間接的に引用する補正後の請求項2-6に係る発明は,補正発明1をさらに限定したものであるから,当業者が引用例1,2に基づいて容易に発明をすることができたものではく,補正発明7を直接又は間接的に引用する補正後の請求項8,9に係る発明は,補正発明7をさらに限定したものであるから,当業者が引用例1,2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,本願については,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2015-119250(P2015-119250)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 池田 聡史  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 新川 圭二
千葉 輝久
発明の名称 仮想空間位置指定方法、プログラム、プログラムを記録した記録媒体、および、装置  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 末松 亮太  

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