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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01K
管理番号 1324091
審判番号 不服2016-4867  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-04 
確定日 2017-02-07 
事件の表示 特願2011-243639号「余熱低沸点発電システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年5月23日出願公開、特開2013-100726号、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年11月7日の出願であって、平成27年4月16日付けで拒絶理由が通知され、平成27年6月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月28日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年4月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年4月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
[1]本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正により補正される前の下記の(1)に示す請求項1を下記の(2)に示す請求項1に補正する補正(以下、「補正事項」という。)を含むものである。

(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
水蒸気発電タービンと、復水器と、前記水蒸気発電タービンが排出した余熱水蒸気を前記復水器に導入する管路と、前記管路に設けられて前記余熱水蒸気の流量を調整する第1調整弁と、前記第1調整弁に対する前記水蒸気発電タービン側で前記管路から分岐した配管と、前記配管に設けられて前記余熱水蒸気の流量を調整する第2調整弁とを有して外部に設けられた水蒸気発電システムに接続され、
前記水蒸気発電システムにおける前記水蒸気発電タービンが排出した余熱水蒸気の一部が前記配管を通じて分離導入されて熱交換を行う熱交換装置と、
水よりも低沸点の媒体を用い、前記熱交換装置を介して加熱された低沸点の媒体によって発電機を駆動する低沸点発電タービンと、
を備えた低沸点熱サイクルを形成している
ことを特徴とする余熱低沸点発電システム。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
蒸気が供給されて前記蒸気により発電する水蒸気発電タービンと、復水器と、前記水蒸気発電タービンが排出した余熱水蒸気を前記復水器に導入する管路と、前記管路に設けられて前記余熱水蒸気の流量を調整する第1調整弁と、前記第1調整弁に対する前記水蒸気発電タービン側で前記管路から分岐した配管と、前記配管に設けられて前記余熱水蒸気の流量を調整する第2調整弁とを有して外部に設けられた水蒸気発電システムに接続され、
前記水蒸気発電システムにおける前記水蒸気発電タービンが排出した余熱水蒸気の一部が前記配管を通じて分離導入されて熱交換を行う熱交換装置と、
水よりも低沸点の媒体を用い、前記熱交換装置を介して加熱された低沸点の媒体によって発電機を駆動する低沸点発電タービンと、
前記熱交換装置よりも前記低沸点の媒体が流れる上流側に設けられ、前記水蒸気発電システムの熱源からの排ガスを冷却処理する排煙処理装置が排出する高温排水を導入して前記低沸点の媒体と熱交換を行い、熱交換後の前記低沸点の媒体を前記熱交換装置に供給する高温排水熱交換装置と、
前記熱交換装置よりも前記低沸点の媒体が流れる下流側であって前記低沸点発電タービンの上流側に設けられ、前記水蒸気発電タービンへ供給する経路と異なる経路で前記蒸気が供給される前記水蒸気発電システムの低圧蒸気だめから前記蒸気の一部を抽気し、該抽気した蒸気と前記熱交換装置からの前記低沸点の媒体との熱交換を行い、前記低沸点の媒体を過熱蒸気として前記低沸点発電タービンに送出する低圧蒸気熱交換装置と、
を備えた低沸点熱サイクルを形成している
ことを特徴とする余熱低沸点発電システム。」(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)

[2]本件補正の目的
補正事項は、請求項1に関しては、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「水蒸気発電タービン」に対して「蒸気が供給されて前記蒸気により発電する」ことを限定し、
さらに、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「余熱低沸点発電システム」が形成する「低沸点熱サイクル」が、「前記水蒸気発電システムにおける前記水蒸気発電タービンが排出した余熱水蒸気の一部が前記配管を通じて分離導入されて熱交換を行う熱交換装置と、水よりも低沸点の媒体を用い、前記熱交換装置を介して加熱された低沸点の媒体によって発電機を駆動する低沸点発電タービン」に加えて、さらに、「前記熱交換装置よりも前記低沸点の媒体が流れる上流側に設けられ、前記水蒸気発電システムの熱源からの排ガスを冷却処理する排煙処理装置が排出する高温排水を導入して前記低沸点の媒体と熱交換を行い、熱交換後の前記低沸点の媒体を前記熱交換装置に供給する高温排水熱交換装置と、
前記熱交換装置よりも前記低沸点の媒体が流れる下流側であって前記低沸点発電タービンの上流側に設けられ、前記水蒸気発電タービンへ供給する経路と異なる経路で前記蒸気が供給される前記水蒸気発電システムの低圧蒸気だめから前記蒸気の一部を抽気し、該抽気した蒸気と前記熱交換装置からの前記低沸点の媒体との熱交換を行い、前記低沸点の媒体を過熱蒸気として前記低沸点発電タービンに送出する低圧蒸気熱交換装置と、」を備えることを限定するものである。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明とは産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、補正事項は、新規事項を追加するものではない。
そこで、補正事項によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかどうか)について、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断
1.引用例1
(1)引用例1の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-36818号公報(以下、「引用例1」という。)には「排熱利用複合発電プラントの制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

1a)「【0015】図2において、高温熱水あるいは地下から得られる排熱は、排熱ポンプ1を利用して排熱蒸気流路を通って蒸気分離器2に送られる。この蒸気分離器2では排熱流体の蒸気と熱水との分離が行われる。分離された蒸気は排熱蒸気タービン蒸気流量調節弁3を介して排熱蒸気タービン4に供給され、発電機5を駆動し発電する。排熱蒸気タービン4を通過した後の排熱蒸気は、排熱蒸気タービン排熱流路を通って復水器6に送られ復水される。復水器6で復水された復水は復水ポンプ7により復水流路を通って復水器レベル調節弁8を介して冷却塔9へ送られ冷却ファン10により冷却される。冷却ファン10で冷却された冷却水は冷却水流路を通って復水器温度調節弁11を介し復水器6へ送られる。
【0016】一方、蒸気分離器2で分離された余剰熱水は、蒸気分離器熱水流路を通って蒸気分離器圧力調節弁12を介して蒸発器14に送られ低沸点媒体と熱交換される。また、排熱蒸気タービン4を通過した後の排熱蒸気は排熱蒸気タービン排熱流路を通って蒸発ガス圧力調節弁13を介して蒸発器14に送られ低沸点媒体と熱交換される。このように、蒸気分離器2の余剰熱水および排熱蒸気タービン4の排熱蒸気は、蒸発器14に送られ低沸点媒体と熱交換される。そして、蒸発器14を通過した後の熱水は蒸発器熱水流路を通って復水器6に送られる。
【0017】次に、蒸発器14で熱交換された低沸点媒体の蒸発ガスは、蒸発ガス流路を通って蒸発ガス流量調節弁15を介して低沸点媒体タービン16に供給され発電機17を駆動し発電する。低沸点媒体タービン16を通過した後の蒸発ガスは低沸点媒体タービン排熱流路を通って凝縮器18に送られ冷却水で冷却されホットウェルタンク19に回収される。回収された低沸点媒体は媒体ポンプ20により媒体流路を通ってホットウェルタンクレベル調節弁21を介して蒸発器14に送られる。
【0018】また、凝縮器18に送られる冷却水は、冷却塔9より冷却水ポンプ22により冷却水流路を通ってホットウェルタンク温度調節弁23を介して凝縮器18に送られる。そして、凝縮器18を通過した後の復水は、復水流路を通って冷却塔9へ送られる。」(段落【0015】ないし【0018】)

1b)「【0019】次に、本発明の制御装置37には、蒸気流量検出器24、復水器レベル検出器、復水器温度検出器26、排熱蒸気温度検出器27、蒸発器熱水温度検出器28、水槽温度検出器29、復水流路温度検出器30、蒸発ガス流量検出器31、蒸気分離器圧力検出器32、蒸発器出口圧力検出器33、蒸発器レベル検出器34、ホットウェルタンク温度検出器35、低沸点媒体タービン排熱温度検出器36でそれぞれ検出された流量、レベル、温度、圧力が入力され、これらの信号に基づいて、排熱蒸気タービン蒸気流量調節弁3、復水器レベル調節弁8、冷却ファン10、復水器温度調節弁11、蒸気分離器圧力調節弁12、蒸発ガス圧力調節弁13、蒸発ガス流量調節弁15、ホットウェルタンクレベル調節弁21、ホットウェルタンク温度調節弁23を調節し、発電機5の電力負荷設定に対しての排熱蒸気流量変動や媒体系統の媒体温度変動による蒸発器14および凝縮器18の2次遅れ要因を低減し、常に安定した発電機出力を得るように制御する。」(段落【0019】)

(2)上記(1)及び図2の記載から分かること

1c)上記(1)1a)及び図2の記載から、低沸点媒体タービン16のシステムが、排熱蒸気タービン4を通過した排熱蒸気の一部と低沸点媒体とを熱交換する蒸発器14を介して排熱蒸気タービン4のシステムに接続されることが分かる。

1d)上記(1)1a)及び図2の記載から、排熱蒸気タービン4のシステムは、排熱蒸気タービン4を通過した排熱蒸気を復水器6に送る管路、該管路から分岐した配管、配管に設けられて排熱蒸気の流量を調整する蒸発ガス圧力調整弁13を備えることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図面の記載を総合すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「排熱蒸気タービン4と、復水器6と、排熱蒸気タービン4を通過した排熱蒸気を復水器6に送る管路と、該管路から分岐した配管と、該配管に設けられて排熱蒸気の流量を調整する蒸発ガス圧力調整弁13とを有して外部に設けられた排熱蒸気タービン4のシステムに接続され、
排熱蒸気タービン4のシステムにおける排熱蒸気タービン4を通過した排熱蒸気の一部が該配管を通じて導入されて熱交換を行う蒸発器14と、
低沸点媒体を用い、蒸発器14を介して加熱された低沸点媒体によって、発電機17を駆動する低沸点媒体タービン16と、
を備えた低沸点熱サイクルを形成している
低沸点媒体タービン16のシステム。」

2.引用例2
(1)引用例2の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、国際公開第2011/105064号(以下、「引用例2」という。)には「排熱発電方法及び排熱発電システム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

2a)「[0001] 本発明は、排熱発電方法及び排熱発電システムに係り、特に、下水汚泥焼却炉やごみ焼却炉などの焼却炉から排出される高温の排ガスの保有熱を利用した排熱発電方法及び排熱発電システムに関する。」(段落[0001])

2b)「[0048] タービンを回転させた後の作動流体を冷却するために、作動流体経路上でのタービンより下流側の位置に冷却水を適用するステップと、作動流体冷却後の冷却水を、洗煙水として排ガスと接触させるステップと、を更に有してもよい。
[0049] 作動流体の冷却水を洗煙水として排ガスと接触させるので、焼却処理システム及び排熱発電システム全体として使用する水量の節約に寄与することができる。また、冷却水は、作動流体の冷却(すなわち、作動流体との熱交換)後に昇温しているので、焼却処理システムの排煙洗浄塔への給水に利用すれば塔内温度の上昇に寄与し、洗煙排水の温度を高める効果がある。
[0050] 作動流体が、アンモニア、フロン又はアンモニア/水混合流体のうちいずれかであってもよい。
[0051] これらの流体は沸点が比較的低温で気化し易い。したがって、これらの流体を作動流体として用いることにより、温度は低いが大量に存在した廃熱(低温熱源)からの熱を有効に利用して、温度差を利用した排熱発電を実現することができる。」
(段落[0048]ないし[0051])

2c)「[0065] 以下、本発明の実施の形態に係る排熱発電方法を実現する排熱発電システムについて、図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る下水処理プラント(以下、プラントと略す。)Pの概略構成を示すブロック図である。このプラントPは、複数の焼却処理システムとしての下水処理システム(以下、処理システムと略す。)Sと発電システム(排熱発電システム)Gとを有して構成されている。このプラントPにおいては、処理システムSからの高温空気(白煙防止空気)2と洗煙排水Wとが発電システムGに適用されるようになっている。複数の処理システムSからの各々の高温空気2と各々の洗煙排水Wとは、それぞれ集約されて発電システムGへと適用されるようになっている。
[0066] また、発電システムG内での熱交換を行った後の高温空気2が、発電システムGから白煙防止空気2として各処理システムSの排煙洗浄塔105(図2参照)へと送られるようになっている。更に、発電システムG内で作動流体の冷却に用いた冷却水Cが、洗煙水の一部として各処理システムSの排煙洗浄塔105へと送られるようになっている。」(段落[0065]及び[0066])

2d)「[0067] 図2は、処理システムSの内部構成の概略を示すブロック図である。複数の処理システムSは、いずれも大略同様の構成を有しているので、1つの処理システムSの構成について説明し、その他の処理システムSの構成についての説明は省略する。この処理システムSは、焼却炉101、流動空気予熱器102、白煙防止空気予熱器103、集塵機104、排煙洗浄塔105を有して大略構成されている。
[0068] 図2において101は焼却炉であり、この実施形態では下水汚泥脱水ケーキを焼却するための流動焼却炉である。しかし本発明において焼却炉101はこれに限定されるものではなく、ごみ焼却炉であってもよい。その排ガスは通常は800?850℃程度の高温排ガスである。102はこの高温排ガスが導入される流動空気予熱器であり、流動空気を例えば650℃に予熱して炉底部の分散管に供給している。焼却炉101が流動焼却炉でない場合には流動空気予熱器102は省略される。
[0069] 流動空気予熱器102の後段には白煙防止空気予熱器103が設置されている。この白煙防止空気予熱器103は煙突から放出される排ガス中の水蒸気が白煙として見えることを防止するための高温空気(白煙防止空気)2を得るための熱交換器であり、約300℃の加熱ガス(白煙防止空気)が得られる。一方、排ガスは白煙防止空気予熱器103を通過すると250?400℃にまで温度が低下し、次の集塵機104に導かれてダストが除去される。
[0070] ここで、高温空気(白煙防止空気)2の典型例としては、一般的に空気が考えられるが、もちろんその他の種々の気体を適用しても良い。また、白煙防止空気予熱器103によって加熱され、後述する煙突108に送られる前のものを高温空気と呼び、煙突108に送られて白煙防止機能を発揮するものを白煙防止空気と呼ぶが、両者は実態上同じものであるので、同じ引用符号2を付して説明する。
[0071] 集塵機104はこの実施形態では耐熱性に優れたセラミック集塵機であり、白煙防止空気予熱器103を通過した250?400℃の排ガスをそのまま集塵することができる。しかし集塵機104としてはバグフィルタを使用することもでき、その場合にはその前段に冷却塔を配置してバグフィルタの耐熱温度まで降温することが必要である。集塵機104における排ガスの温度降下は小さく、排ガスは200?400℃で次の排煙洗浄塔105に入る。
[0072] 排煙洗浄塔105は塔の下部から排ガスを導入し、上部のノズル106から散水される水(洗煙水)Wと接触させることによって排ガス中のNOX,SOX等の成分を除去する装置である。従来と同様に、塔内水はポンプ107によりノズル106に送水されて循環使用される。この実施形態の排煙洗浄塔105は塔の上部に煙突108が接続されており、塔内で洗浄された排ガスは煙突108から放出される。なお排煙洗浄塔105と煙突108との中間部分には複数段の棚板部109が形成されており、その上部から給水された清浄水と排ガスとを充分に接触させることにより、水洗が十分に行われるように工夫されている。
[0073] この排煙洗浄塔105においては排ガスが水と接触するため、200?400℃の排ガスの保有熱の大半は水側に移動し、前記したように排煙洗浄塔105から排出される洗煙排水Wは60?70℃の温水となる。本発明では約300℃の高温空気2の保有熱を利用して排熱発電を行うが、これと共に洗煙排水Wの保有熱をも利用する。
[0074] このため本実施形態においては、後述するように排煙洗浄塔105から出る洗煙排水Wを高温空気2との熱交換(排水用熱交換ステップ、排水用熱交換機能)によって昇温させた上で、排熱発電システムGに供給している。その昇温幅は設備や運転方法によって様々であるが、通常は5?15℃の範囲である。洗煙排水Wとの熱交換後の高温空気2は90℃?100℃程度の温度を保持しているので、煙突108に送られて白煙防止空気2としての本来の機能を発揮することができる。
[0075] なお洗煙排水Wの昇温量を増加させようとすると洗煙排水Wとの熱交換(排水用熱交換ステップ、排水用熱交換機能)後の高温空気2の温度が低下するが、100℃程度まで低下しても、大気温度が20℃、湿度100%の気候条件においては白煙は生じないが、冬場の条件である大気温度が0℃、湿度100%では、白煙が生じる。ただし、白煙の発生について法的規制は無く、冬場でもこの条件となるのは、数日程度である。また、このようにして高温空気2との熱交換によって昇温された洗煙排水Wは70℃?73℃程度の温水となり、排熱発電システムGに供給される。」(段落[0067]ないし[0075])

2e)「[0076] 図3は、発電システムGの内部構成の概略を示すブロック図である。発電システムGとしては、アンモニア、フロン又はアンモニア/水混合流体のような低沸点流体を作動流体Lとする温度差発電システムを用いることが好ましい。このような温度差発電システム自体は、例えば佐賀大学の出願に係る特開平7-91361号公報に記載のように既に知られたものであり、例えば比較的温度の高い表層海水と深層の冷海水との温度差を利用した温度差発電を行うことができるシステムである。
[0077] この発電システムGは、図3に示すように、タービン10、発電機11、吸収器12、凝縮器13、循環ポンプ14、再生器15、蒸発器16、加熱器17、分離器18、過熱器(蒸気加熱器)19、減圧弁20を有して大略構成されている。また、この発電システムGは、温度センサ21?24、第1制御手段25、第2制御手段26、第1調整バルブ27、第2調整バルブ28をも有している。なお、作動流体Lは、図3に示すように、加熱冷却を繰り返しながら作動流体経路R内を循環しているので、以下、循環ポンプ14から順に、下流(作動流体の流れる方向)に向けて上記各構成の説明をする。
[0078] 循環ポンプ14で送り出された液相の作動流体Lは、再生器15によって予熱され、その後に蒸発器16へと送られる。この蒸発器16が設置されている位置は、作動流体経路R内における第3位置である。この蒸発器16において、作動流体Lと洗煙排水Wとの熱交換が行われ(第3熱交換ステップ、第3熱交換機能)、洗煙排水Wから作動流体Lへの熱移動が行われる。その結果、作動流体Lは内部熱エネルギー状態を高めた気液2相状態となり、次の加熱器17へと送られる。
[0079] この加熱器17が設置されている位置は、作動流体経路R内における第2位置である。この加熱器17において、作動流体Lと高温空気2との熱交換が行われ(第2熱交換ステップ、第2熱交換機能)、高温空気2から作動流体Lへの熱移動が行われる。その結果、作動流体Lは更に内部熱エネルギー状態を高めた気液2相状態となり、分離器18へと送られる。
[0080] 分離器18は、気液2相状態の作動流体Lを気相と液相とに分離するものである。液相部分の作動流体Lは、再び再生器15へと送られて熱を取られた後、更に減圧弁20を介して吸収器12へと送られるようになっている。一方、気相状態の作動流体Lは、分離器18から過熱器19へと送られる。その過熱器19が設置されている位置は、作動流体経路R内における第1位置である。この過熱器19において、作動流体Lと高温空気2との熱交換が行われ(第1熱交換ステップ、第1熱交換機能)、高温空気2から作動流体Lへの熱移動が行われる。その結果、作動流体Lは更に内部熱エネルギー状態を高めた過熱蒸気となり、タービン10へと送られる。
[0081] 過熱蒸気状態の作動流体Lは、タービン10を回転させ、タービン10に連結された発電機によって発電を行う。そして、発電の仕事を終えた作動流体Lは、吸収器12へと送られて減圧弁20を介して送られてきた作動流体Lと合流する。この吸収器12は、例えばノズル噴霧式のものが採用されており、減圧弁20からの作動流体L(液相)が発電を終えた作動流体L(気相)に向かって噴霧され、気相の作動流体Lから熱を奪って冷却するようになっている。
[0082] その後、凝縮器13へと送られた作動流体Lは、冷却水Cによって冷却されて液相へと戻り、再び循環ポンプ14へと至る。このように、循環ポンプ14によって送られつつ洗煙排水W及び高温空気2によって加熱され、タービン10を回転させた後に冷却水Cによって冷却されて経路R内を循環することにより、作動流体Lは発電を行う。なお、過熱器19は、タービン10よりも上流側であって分離器18よりも下流側の第1位置に設けられ、加熱器17は分離器18よりも上流側の第2位置に設けられ、蒸発器16は加熱器17よりも上流側の第3位置に設けられている。」(段落[0076]ないし[0082])

2f)「[請求項1] 焼却処理システムが備える焼却炉から排出される排ガスによって加熱された高温空気を、作動流体によってタービンを回転させて発電を行う排熱発電システムにおける作動流体経路上での該タービンより上流側であって分離器より下流側の第1位置に適用することにより、前記第1位置における高温空気と前記作動流体との熱交換を行う第1熱交換ステップと、
前記第1位置での熱交換後の前記高温空気を、前記作動流体経路上での前記分離器より上流側の第2位置に適用することにより、前記第2位置における前記高温空気と前記作動流体との熱交換を行う第2熱交換ステップと、
前記排ガスを洗浄した後に前記焼却処理システムから排出される洗煙排水と前記第2位置における熱交換後の前記高温空気との熱交換を行う排水用熱交換ステップと、 前記高温空気との熱交換後の前記洗煙排水を、前記作動流体経路上での前記第2位置より上流側の第3位置に適用することにより、前記第3位置における前記洗煙排水と前記作動流体との熱交換を行う第3熱交換ステップと、
前記洗煙排水との熱交換後の前記高温空気を、白煙防止空気として前記排ガスと接触させる接触ステップと、を有する排熱発電方法。」(請求の範囲の[請求項1])

2g)「[請求項8] 前記作動流体が、アンモニア、フロン又はアンモニア/水混合流体のうちいずれかである請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載の排熱発電方法。」(請求の範囲の[請求項8])

(2)引用例2記載の技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、引用例2には次の技術(以下、「引用例2記載の技術」という。)が記載されている。
「焼却炉から排出される排ガスに接触させた洗煙排水と、タービンを回転させて発電を行う排熱発電システムにおけるアンモニア、フロン又はアンモニア/水混合流体などの作動流体との熱交換を、タービンの上流において行う技術。」

3.引用例3
(1)引用例3の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-113805号公報(以下、「引用例3」という。)には「背圧タービン制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

3a)「高圧蒸気溜めと発電機が直結したタービンとの間に設けられたガバナ制御弁を、タービンの背圧検出器による検出信号に基いてガバナ制御弁用圧力コントローラによりタービン背圧が一定となるよう制御して低圧蒸気溜めに導出するガバナ制御系と、上記高圧蒸気溜めと低圧蒸気溜めとの間に設けられたバイパス制御弁を、タービンの背圧検出器による検出信号に基いてバイパス制御弁用圧力コントローラにより低圧蒸気溜め以降における蒸気デマンドに応じて高圧蒸気溜めから低圧蒸気溜めへの蒸気供給を制御するバイパス制御系を備えた背圧タービン制御装置において、上記高圧蒸気溜めとガバナ制御弁との間にタービンへの流入蒸気量を検出する流量検出器を設けると共に、該流入蒸気量が設定された最大流入蒸気量を越えた時に上記バイパス制御弁用圧力コントローラにバイパス制御弁による背圧制御の許可信号を送出する流量コントローラを設けて、上記流入蒸気量が最大流入蒸気量となるまではバイパス制御弁による背圧制御を制限してガバナ制御弁により背圧制御を行い、タービンの最大流入蒸気量を越えた場合にバイパス制御弁による背圧制御を許可するようにしたことを特徴とする背圧タービン制御装置。」(公報第1ページ左欄第4行ないし右欄第7行)

3b)「また、(7)は低圧蒸気溜めで、工場内蒸気動力源としてここから蒸気が供給される。」(公報第2ページ左上欄第5行及び第6行)

(2)引用例3記載の技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、引用例3には次の技術(以下、「引用例3記載の技術」という。)が記載されている。
「背圧タービンの低圧蒸気溜め内の蒸気を工場内蒸気動力源に供給する技術。」

4.引用例4
(1)引用例4の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-372206号公報(以下、「引用例4」という。)には「熱利用システム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

4a)「【0015】(熱利用システムの全体的構成)各蒸気発生設備40a,40bの主体を構成するのは2基のゴミ焼却炉1a,1bであり、これらのゴミ焼却炉1a,1bはいずれも、被焼却物としてのゴミを投入するためのホッパー2と、投入されたゴミを乾燥、燃焼、後燃焼の各工程を経て焼却する燃焼室3とを備えている。燃焼室3の上部からは、燃焼室3で発生する高温の排ガス(所定の熱源の一例)を最終段の煙突10に向けて導く煙道4が延びている。煙道4は、燃焼室3側から上方に延びた第1煙道4a、第1煙道4aの上端から下に延びた第2煙道4b、および、第2煙道4bの下端から再び上方に延びた第3煙道4cからなり、第3煙道4cから更に下流に排出された排ガスは、節炭器7を備えた下流側煙道4dを介して、集塵用のバグフィルタ8へ送られ、白煙化防止装置9を経て各煙突10,10から大気放出される。
【0016】そして、各煙道4,4において、第1煙道4aと第2煙道4bの上方には、主に第1煙道4aと第2煙道4bを流れる排ガスの熱によって蒸気を生成する廃熱回収ボイラの汽水ドラム5,5が配置されている。また、第3煙道4cには、前記廃熱回収ボイラの汽水ドラム5から取出された蒸気を、燃焼室3から流れてくる排ガスの熱によって過熱するための過熱器6が設けられている。尚、節炭器7では、前記廃熱回収ボイラに供給される水の予熱が行われる。過熱器6で得られた過熱蒸気は、各過熱器6の下流側から延びた出口側経路R1a,R1bを介して一基の共通の高圧蒸気溜め11に送られる。過熱器6からの過熱蒸気は、圧力調整弁26a,26bによって約40kgで、且つ、約400℃の温度条件に調整された上で高圧蒸気溜め11に送られる。高圧蒸気溜め11内に蓄積された過熱蒸気の一部は、過熱蒸気経路R2を介して蒸気タービン13(熱負荷の一例)に送られ、過熱蒸気の有する熱エネルギーの一部は、蒸気タービン13に連結された発電機14によって電気エネルギーに変換される。蒸気タービン13から排出される排気、すなわち膨張後の蒸気は、復水器15によって復水され、大気開放型の復水タンク16に蓄積される。復水タンク16に貯留された水は、復水経路R3を介して脱気器18に導かれ、この脱気器18から節炭器7を経て廃熱回収ボイラの汽水ドラム5に戻される。復水経路R3は、復水タンク16から脱気器18まで延びており途中にポンプ17を備えている。」(段落【0015】及び【0016】)

4b)「【0017】また、高圧蒸気溜め11内に蓄積された過熱蒸気の残りの一部は、蒸気路21を介して、燃焼空気予熱器20に送られる。燃焼空気予熱器20にて過熱蒸気の熱によって予熱された空気は、一次燃焼空気として各焼却炉1a,1bの燃焼室3に供給される。また、燃焼空気予熱器20で冷却・復水された水は脱気器18に導かれる。さらに、高圧蒸気溜め11には、減圧弁22を介して低圧蒸気溜め12が接続されており、低圧蒸気溜め12内に蓄積された蒸気の保有する熱は、熱交換器19によって取出されて白煙防止装置9、或いは、例えば焼却施設外の温室用等と言った熱利用施設に送られて利用される。尚、低圧蒸気溜め12から送られた蒸気自身は熱交換器19にて復水化され、復水タンク16に戻される。」(段落【0017】)

(2)引用例4記載の技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、引用例4には次の技術(以下、「引用例4記載の技術」という。)が記載されている。
「蒸気タービンの低圧蒸気溜めに蓄積された蒸気を熱利用施設に送って利用する技術。」

5.引用例5
(1)引用例5の記載事項
原査定の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-37717号公報(以下、「引用例5」という。)には「複合発電設備」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

5a)「【請求項11】 軽水を冷却材とする原子炉と、この原子炉に主蒸気管を介して接続した主蒸気加熱器と、この主蒸気加熱器に主蒸気管を介して接続した高圧タービンと、この高圧タービンに接続した発電機と、前記高圧タービンからの流出蒸気を流入する伝熱管を備えた蒸発器と、この蒸発器内の伝熱管出口側に純水ポンプを介して接続した給水加熱器と、この給水加熱器と前記原子炉とを接続する給水管と、前記蒸発器内の伝熱管により加熱された低沸点媒体蒸気を流入する気液分離器と、この気液分離器で分離された低沸点媒体蒸気により回転する低圧タービンと、この低圧タービンに接続した発電機と、前記低圧タービンから流出する低沸点媒体蒸気を流入する吸収器と、この吸収器に接続した凝縮器と、この凝縮器に流体ポンプを介して接続した再生器と、この再生器と前記蒸発器とを接続する戻り配管と、前記給水加熱器の伝熱管を加熱した蒸気を流出する中間ループ配管と、この中間ループ配管に昇圧ポンプを介して接続した排熱回収ボイラ内の節炭器と、この節炭器に接続した前記排熱回収ボイラ内の過熱器と、この過熱器と前記主蒸気加熱器とを接続する中間ループ配管と、前記主蒸気加熱器と前記給水加熱器とを接続する中間ループ配管とを具備したことを特徴とする複合発電設備。
【請求項12】 前記低沸点媒体は水とアンモニアの混合物またはフロリノール85からなることを特徴とする請求項11記載の複合発電設備。」(【特許請求の範囲】の【請求項11】及び【請求項12】)

5b)「【0081】なお、低沸点媒体サイクル82はその作動流体を水とアンモニアの混合流体を使用するカリーナサイクルとするが、またはその作動流体をフロリノール85を使用したサイクルを採用する。これにより低沸点媒体として有効かつ安全に作動し、プラントの発電効率に寄与する。」(段落【0081】)

(2)引用例5記載の技術
上記(1)及び図面の記載を総合すると、引用例5には次の技術(以下、「引用例5記載の技術」という。)が記載されている。
「高圧タービンと低圧タービンとからなる複合発電設備において、低圧タービンの作動流体として水とアンモニアの混合流体を用いることによりカリーナサイクルを構成する技術。」

6.本件補正発明と引用発明との対比・判断
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「排熱蒸気タービン4」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本件補正発明における「蒸気が供給されて蒸気により発電する水蒸気発電タービン」あるいは「水蒸気発電タービン」に相当し、以下同様に、「復水器6」は「復水器」に、「排熱蒸気」は「余熱水蒸気」に、「排熱蒸気タービン4を通過した排熱蒸気」は「水蒸気タービンが排出した余熱水蒸気」に、「復水器6に送る」は「復水器に導入する」に、「蒸発ガス圧力調整弁13」は「第2調整弁」に、「排熱蒸気タービン4のシステム」は「水蒸気発電システム」に、「導入」は「分離導入」に、「蒸発器14」は「熱交換装置」に、「低沸点媒体」は「低沸点の媒体」に、「発電機17」は「発電機」に、「低沸点媒体タービン16」は「低沸点発電タービン」に、「低沸点媒体タービン16のシステム」は「余熱低沸点発電システム」に、それぞれ相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「蒸気が供給されて前記蒸気により発電する水蒸気発電タービンと、復水器と、前記水蒸気発電タービンが排出した余熱水蒸気を前記復水器に導入する管路と、前記管路から分岐した配管と、前記配管に設けられて前記余熱水蒸気の流量を調整する第2調整弁とを有して外部に設けられた水蒸気発電システムに接続され、
前記水蒸気発電システムにおける前記水蒸気発電タービンが排出した余熱水蒸気の一部が前記配管を通じて分離導入されて熱交換を行う熱交換装置と、
低沸点の媒体を用い、前記熱交換装置を介して加熱された低沸点の媒体によって発電機を駆動する低沸点発電タービンと、
を備えた低沸点熱サイクルを形成している
ことを特徴とする余熱低沸点発電システム。」

[相違点1]
本願補正発明においては、「水蒸気発電システム」が「管路に設けられて余熱水蒸気の流量を調整する第1調整弁」を有するとともに、「配管」が「第1調整弁に対する水蒸気発電タービン側で管路から分岐」するのに対して、引用発明においては、管路において、そのような「第1調整弁」を有するものではなく、したがって、配管が「第1調整弁」に対する排熱蒸気タービン4の側で管路から分岐するものでもない点。

[相違点2]
「低沸点発電タービン」において用いる媒体が、本願補正発明においては「水よりも低沸点の媒体」であるのに対して、引用発明においては、水よりも低沸点の媒体であるか不明な点。

[相違点3]
「低沸点熱サイクル」が、本願補正発明においては「前記熱交換装置よりも前記低沸点の媒体が流れる上流側に設けられ、前記水蒸気発電システムの熱源からの排ガスを冷却処理する排煙処理装置が排出する高温排水を導入して前記低沸点の媒体と熱交換を行い、熱交換後の前記低沸点の媒体を前記熱交換装置に供給する高温排水熱交換装置と、
前記熱交換装置よりも前記低沸点の媒体が流れる下流側であって前記低沸点発電タービンの上流側に設けられ、前記水蒸気発電タービンへ供給する経路と異なる経路で前記蒸気が供給される前記水蒸気発電システムの低圧蒸気だめから前記蒸気の一部を抽気し、該抽気した蒸気と前記熱交換装置からの前記低沸点の媒体との熱交換を行い、前記低沸点の媒体を過熱蒸気として前記低沸点発電タービンに送出する低圧蒸気熱交換装置と、」を備えるのに対して、引用発明においては、そのような高温排水熱交換装置と低圧蒸気熱交換装置とを備えるか不明である点。

以下、上記相違点について検討する。

[相違点1について]
引用発明において、管路から分岐した配管に設けられた、排熱蒸気の流量を調整する蒸発ガス圧力調整弁13に加えて、管路自体に排熱蒸気の流量を調整するための弁を設けること、さらに、配管を弁に対して排熱蒸気タービン4の側で管路から分岐させることについては、引用例2ないし4の技術において何ら開示や示唆をするものではない。
よって、引用発明に引用例2ないし4の技術を適用して、上記相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になし得たとすることはできない。

[相違点2について]
低沸点熱サイクルに用いる低沸点媒体として水よりも低沸点のもの、例えばアンモニア、フロンなどを採用することは、引用例2記載の技術において開示されている。
よって、引用発明における低沸点熱サイクルに用いる低沸点媒体を、引用例2記載の技術におけるアンモニア、フロン等の水より低沸点のものとして、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点3について]
上記引用例2記載の技術は、「焼却炉から排出される排ガスに接触させた洗煙排水と、タービンを回転させて発電を行う排熱発電システムにおけるアンモニア、フロン又はアンモニア/水混合流体などの作動流体との熱交換を、タービンの上流において行う技術。」
である。
また、上記引用例3記載の技術は、「背圧タービンの低圧蒸気溜め内の蒸気を工場内蒸気動力源に供給する技術。」であって、
上記引用例4記載の技術は、「蒸気タービンの低圧蒸気溜めに蓄積された蒸気を熱利用施設に送って利用する技術。」である。
しかしながら、上記引用例2ないし4記載の技術は、いずれも引用発明における「排熱蒸気タービン4のシステムに接続され」、「低沸点媒体タービン16とを備えた低沸点熱サイクルを形成している低沸点媒体タービン16のシステム」ではなく、引用発明の「排熱蒸気タービン4のシステムにおける排熱蒸気タービン4を通過した排熱蒸気の一部が該配管を通じて導入されて熱交換を行う蒸発器14」に相当するものを開示するものでもないから、引用発明と上記引用例2ないし4記載の技術とは、それらの前提となる構成において異なるものである。
一方、引用発明においては、上記引用例2記載の技術のように排煙洗浄を行って焼却炉から排出される排ガスに接触させた洗浄排水を得ること、さらに、上記引用例3及び4記載の技術のように、蒸気タービンに低圧蒸気溜めを設けることの動機づけはない。
よって、引用発明に、上記引用例2ないし4記載の技術を適用することは当業者であっても困難である。
また、引用発明に上記引用例2記載の技術を適用するに際して、引用発明において、引用例2記載の技術における洗煙排水と低沸点媒体との熱交換を行う位置を、蒸発器14(熱交換装置)よりも低沸点媒体が流れる上流側とすることについて、上記引用例2記載の技術において開示や示唆がされていない。
さらに、引用発明において、引用例3及び4記載の技術における低圧蒸気溜め内の蒸気と、低沸点媒体との熱交換を行う位置を、蒸発器14(熱交換装置)よりも低沸点の媒体が流れる下流側とすることについて、上記引用例3及び4記載の技術において開示や示唆がされていない。
したがって、引用発明に上記引用例2ないし4記載の技術を適用して、上記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たとすることはできない。

そして、本件補正発明全体について検討すると、上記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易になし得たことであるといえるものの、上記相違点1及び3にかかる本件補正発明の発明特定事項により、「簡易な構成で水蒸気発電システムを含むシステム全体のエネルギー効率を格段に高めつつ、水蒸気発電システムの復水処理と余熱の利用処理とをバランスよく行うことができる」(本願明細書の段落【0015】参照)という格別な効果を奏するものである。

以上の検討により、引用発明に上記引用例2ないし4記載の技術を適用して、上記相違点1及び3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易になし得たとすることはできないから、本件補正発明は、引用発明及び引用例2ないし4記載の技術に基いて当業者が容易になし得たということはできず、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。
そうすると、本件補正の補正事項は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に違反するものではない。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合し、適法になされたものである。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし3に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本件補正発明は、上記第2の2.のとおり、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。
また、本件補正発明を引用する請求項2及び3に係る発明は、本件補正発明をさらに限定した発明であるから、当業者が引用発明及び引用例2ないし4記載の技術に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-23 
出願番号 特願2011-243639(P2011-243639)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
松下 聡
発明の名称 余熱低沸点発電システム  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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