• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B29D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29D
管理番号 1324141
審判番号 不服2015-21703  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-07 
確定日 2017-02-07 
事件の表示 特願2013-208223号「台タイヤ及びタイヤの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月27日出願公開、特開2014- 37144号、請求項の数(18)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)10月31日(優先権主張 平成22年10月29日 日本国,平成22年10月29日 日本国,平成22年10月29日 日本国)を国際出願日とする特願2012-540991号の一部を平成25年10月3日に新たな出願としたものであって、平成26年6月20日に手続補正書が提出され、平成27年6月2日付けで拒絶理由が通知され、同年7月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後当審において平成28年11月1日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年11月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?18に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明18」という。また、まとめて「本願発明」ということもある。)は、平成28年11月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりものと認められるところ、独立請求項に係る本願発明1、8は次のとおりである。
「【請求項1】
複数のベルト層からなるベルト部、サイド部及びビード部を備えた未加硫であるケース部を形成し、該ケース部を加硫成形することにより得られる台タイヤの製造方法において、下記(a)、(b)及び(c)から選ばれる1つの配合方法を用い、かつトレッドゴム部の内層と同じゴム組成物の薄層を該ベルト部のタイヤ半径方向外側に配設することを特徴とする台タイヤの製造方法。
(a)該ベルト部の最外ベルト層の被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?99m^(2)/gのカーボンブラックを30?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。
(b)該ベルト部が少なくとも3ベルト層からなり該ベルト層を構成する少なくとも1層のベルト被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?99m^(2)/gのカーボンブラックを40?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。
(c)該ケース部がカーカスプライを備え該カーカスプライの被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?90m^(2)/gのカーボンブラックを40?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。

【請求項8】
複数のベルト層からなるベルト部、サイド部及びビード部を備えた未加硫であるケース部を加硫成形することにより台タイヤを形成し、少なくともトレッド部を備えたトレッド部材を加硫してプレキュアトレッド部材を形成した後、該台タイヤと該プレキュアトレッド部材とを接着して一体に加硫成形するタイヤの製造方法において、下記(a)、(b)及び(c)から選ばれる1つの配合方法を用い、かつトレッドゴム部の内層と同じゴム組成物の薄層を該ベルト部のタイヤ半径方向外側に配設することを特徴とするタイヤの製造方法。
(a)該ベルト部の最外ベルト層の被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?99m^(2)/gのカーボンブラックを30?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。
(b)該ベルト部が少なくとも3ベルト層からなり該ベルト層を構成する少なくとも1層のベルト被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?99m^(2)/gのカーボンブラックを40?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。
(c)該ケース部がカーカスプライを備え該カーカスプライの被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?90m^(2)/gのカーボンブラックを40?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1.特開平10-193472号公報
引用文献2.特開2006-117099号公報
引用文献3.特開2010-006133号公報
引用文献4.特開2009-051481号公報
特に独立請求項である請求項1、9に係る発明は、引用文献1に記載されたベルト層10及びカーカス層5のゴム組成物として、それぞれ引用文献2、3に記載されたものを個々にまたは同時に採用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。また、請求項5、17に係る発明(それらをさらにシリカを配合する数値範囲を限定したものが本願発明1、8に相当する。)は、さらに引用文献4に記載されたものを採用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
ア 引用文献1の記載事項
上記引用文献1には、図面と共に以下の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同様。)
(ア)「【請求項1】 左右一対のビード部間にカーカス層を装架し、該カーカス層の外周にベルト層を配置した加硫済み又は半加硫の台タイヤを予め成形する一方、外周面にトレッドパターンを型付けした加硫済み又は半加硫の無端円環状のトレッドを予め成形し、前記台タイヤの外周面にストリップ状の未加硫ゴムを複数周巻き付けて接着層を形成すると共に、その上に前記無端円環状のトレッドを嵌め込んで嵌合体を形成し、次いで該嵌合体の未加硫部を加硫する空気入りタイヤの製造方法。」

(イ)「【0014】台タイヤ1において、カーカス層5は中央のトレッド部6を通って左右一対のビード部7間に装架されており、このカーカス層5の両端部がそれぞれ左右一対のビードコア8の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。このカーカス層5は、有機繊維コードからなる補強コードをラジアル方向に配向した構造になっている。また、ビードコア8の外周面上には、硬質ゴムからなるビードフィラー9が配置されており、このビードフィラー9がビードコア8と共にカーカス層5の両端部に巻き込まれている。
【0015】トレッド部6のカーカス層5の外周部には、スチールコードからなる補強コードをタイヤ周方向に対して傾斜するように配列した2層のベルト層10が埋設されている。この2層のベルト層10の補強コードは、タイヤ周方向に対して15?60°の角度で傾斜するように配向されると共に、層間で互いに交差するように配列されている。このベルト層10の外周側には、該ベルト層10を保護するベルトカバー層11が積層されている。一方、トレッド2の踏面には、タイヤ周方向に延びる複数の主溝12を含むトレッドパターンが形成されている。」

(ウ)「【0016】次に、上述の空気入りタイヤの製造方法について説明する。先ず、台タイヤ1とトレッド2とは予め別個に加硫成形を行う。すなわち、カーカス層5等のタイヤ材料を巻き付けた後、幅方向中央部を円筒状に膨径して断面を馬蹄形に変形させ、その外周にベルト層10を貼り合わせて未加硫の台タイヤ1を成形し、この未加硫の台タイヤ1を金型内に挿入して加硫成形する。この台タイヤ1は外周面に溝のない曲面でよいので、比較的に簡単な構造の金型を用いることができる。また、台タイヤ1の加硫は完全に行ってもよいし、或いは形状を保持する程度の半加硫状態で止めてもよい。」

(エ)「【0022】上述のように個別に用意した台タイヤ1とトレッド2とは、次いで図4(A),(B)に例示するような接合工程に付される。先ず、図4(A)のように、台タイヤ1をタイヤ回転軸を中心に回転させながら、その外周面に押出機28から未加硫ゴム13をストリップ状に押し出し、この未加硫ゴム13をタイヤ周方向に複数周巻き付けて接着層3を形成する。次に、図4(B)のように、無端円環状のトレッド2を接着層3を挟んで台タイヤ1の外周面に嵌め込んで嵌合体15にする。」

(オ)「【0023】次いで、上述のように組み立てられた嵌合体15は加熱工程に付される。・・・」

イ 引用文献1に記載された発明
以上のことから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「左右一対のビード部間にカーカス層5を装架し、該カーカス層5の外周に2層のベルト層10を配置した未加硫の台タイヤ1を成形し、この未加硫の台タイヤ1を加硫成形して加硫済み又は半加硫の台タイヤ1を予め成形する一方、外周面にトレッドパターンを型付けした無端円環状の加硫済み又は半加硫済みのトレッド2を予め成形し、前記台タイヤ1の外周面に未加硫ゴム13をタイヤ周方向に複数周巻き付けて接着層3を形成すると共に、前記無端円環状のトレッド2を接着層3を挟んで台タイヤ1の外周面に嵌め込んで嵌合体15を形成し、次いで該嵌合体15の未加硫部を加硫する空気入りタイヤの製造方法。」

ウ 引用文献2の記載事項
上記引用文献2には、図面と共に以下の記載がある。
(ア)「【0037】
本発明の重荷重用タイヤのベルト5のコード被覆ゴム6b,7b,8bに用いるゴム組成物は、上記ゴム成分100質量部に対して、0.3?2.5質量部の接着促進剤と4.0?6.5質量部の硫黄とを含有することが好ましい。接着促進剤の配合量が0.3質量部未満では、スチールコードとの接着性が低下し、2.5質量部を超えると、ゴム組成物の老化特性が悪化し過ぎる。また、硫黄の配合量が4.0質量部未満では、スチールコードとの接着性が不充分であり、6.5質量部を超えると、ゴム組成物が過加硫となりスチールコードとの接着性が低下する。ここで、上記接着促進剤としては、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等が挙げられる。該接着促進剤は、有機酸の一部をホウ酸等で置き換えた複合塩でもよい。
【0038】
上記コード被覆ゴム用ゴム組成物は、上記ゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積(N_(2)SA)が70?90m^(2)/gで且つジブチルフタレート(DBP)吸油量が70?110mL/100gであるカーボンブラックを40?80質量部含有することが好ましい。カーボンブラックのN_(2)SAが70m^(2)/g未満では、ゴム組成物の補強性が低下し、90m^(2)/gを超えると、ゴム組成物の発熱性が低下してくる。また、カーボンブラックのDBP吸油量が70mL/100g未満では、ゴム組成物の補強性が低下し、110mL/100gを超えると、カーボンブラックの分散が悪く、ゴム組成物の抗破壊性が低下してくる。更に、かかる物性を有するカーボンブラックの配合量が40質量部未満では、ゴム組成物の補強性が不足し、80質量部を超えると、ゴム組成物の発熱性が低下してくる。」

エ 引用文献3の記載事項
上記引用文献3には、図面と共に以下の記載がある。
(ア)「【0030】
カーカス用ゴム組成物に配合するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積が20?100m^(2)/gであり、好ましくは35?90m^(2)/gである。窒素吸着比表面積が20m^(2)/g未満であると、被覆ゴムとして要求される補強性能が十分に得られない。また、窒素吸着比表面積が100m^(2)/gを超えると低発熱性及び低転がり性が悪化すると共に、タイヤ気室内の温度が高くなり空気保持性も悪化する。
【0031】
また、カーボンブラックのDBP吸収量は、60?120cm^(3)/100gであり、好ましくは60?110cm^(3)/100gである。DBP吸収量が60cm^(3)/100g未満であると、ゴムの補強性や伸びが低下し耐久性が十分に得られない虞がある。DBP吸収量が120cm^(3)/100gを超えると、低発熱性及び低転がり性が悪化すると共に、空気保持性も悪化する。カーカス用ゴム組成物に使用するカーボンブラックは、石炭系重質油、トール油を原料として製造されたものを使用するとよい。
【0032】
カーカス用ゴム組成物中のカーボンブラックの配合量は、ゴム成分100重量部に対し、5?80重量部であり、好ましくは30?70重量部にするとよい。カーボンブラックが5重量部未満であると、被覆ゴムとして要求される補強性能が十分に得られない。また、カーボンブラックが80重量部を超えると、ゴム組成物の粘度が高くなりすぎてカーカスコード被覆が困難になる。」

(イ)「【0033】
カーカス用ゴム組成物は、カーボンブラックのほか、板状無機充填剤を除く無機充填剤を配合してもよい。板状無機充填剤を除く無機充填剤を配合することにより、カーカス層の剛性が高くなり、操縦安定性を向上することができる。また、他のゴム部材の厚さを小さくすることにより、タイヤ重量を低減し、低転がり性を向上することができる。このような無機充填剤としては、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン等を例示することができる。カーカス用ゴム組成物に板状無機充填剤を配合した場合には、被覆ゴムの破断強度が低下し、カーカスコード周辺の被覆ゴムの厚さが薄いところでクラックが起こりやすくなり耐久性が低下するのに対し、粒状又は無定形の無機充填剤は、クラックの起点になりにくいため耐久性を悪化させることはない。
【0034】
板状無機充填剤以外の無機充填剤としてはシリカが好ましい。シリカの種類は、特に限定されるものではなく、通常ゴム組成物に配合されるものを使用することができ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカ、表面処理シリカを例示することができる。
【0035】
カーカス用ゴム組成物中の板状無機充填剤以外の無機充填剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対し、好ましくは10?80重量部、より好ましくは30?70重量部にするとよい。無機充填剤の配合量が10重量部未満の場合には、ゴムの補強性が低く、操縦安定性の向上が困難になる。また、無機充填剤の配合量が80重量部を超えると、ゴム組成物の粘度が高くなりすぎてカーカスコード被覆が困難になる。」

オ 引用文献4の記載事項
上記引用文献4には、図面と共に以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、更生タイヤ用トレッド及び該更生タイヤ用トレッドを備えた更生タイヤに関し、特に更生タイヤに適用した際に発熱性が改良されて、台タイヤとの剥離強力の低下を抑制し、耐テアー性を犠牲にせず良好な剥離強力が得られる更生タイヤ用トレッド及び更生タイヤに関する。」

(イ)「【0024】
ベースゴム3用ゴム組成物に配合する充填剤としては、カーボンブラックが挙げられる。ここで、カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積(N2SA)が100m^(2)/g以下であり且つジブチルフタレート(DBP)吸油量が105ml/100g以下であるものが好ましい。上記範囲の窒素吸着比表面積(N2SA)とDBP吸油量を満たすカーボンブラックを使用することで、発熱の抑制と耐テアー性を両立することができる。このようなカーボンブラックの具体例として、HAF級(例えばN330、N326)などを挙げることができる。カーボンブラックの配合量は、発熱性確保の観点から、30?50質量部が好ましく、35?40質量部がより好ましい。
【0025】
また、ベースゴム3に用いるゴム組成物に充填剤としてカーボンブラックに加えてシリカを配合してもよく、シリカの配合量は上記ゴム成分100質量部に対して3?8質量部の範囲が好ましい。」

(2)本願発明1と引用発明との対比
ア 本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「ビード部」、「台タイヤ1」は、それぞれ本願発明1の「ビード部」、「台タイヤ」に相当する。

イ 引用発明の「2層のベルト層10」が設けられた箇所は、本願発明1の「複数のベルト層からなるベルト部」に相当するといえ、以下同様に、「ビード部」と「2層のベルト層10」が設けられた箇所との間の「台タイヤ1」の横の部分は、「サイド部」に相当し、未加硫の状態の「台タイヤ1」は、「ケース部」に相当するといえるものである。また、引用発明の「台タイヤ1」を加硫成形するまでの工程は、「台タイヤの製造方法」といえるものである。
したがって、引用発明の「左右一対のビード部間にカーカス層5を装架し、該カーカス層5の外周に2層のベルト層10を配置した未加硫の台タイヤ1を成形し、この未加硫の台タイヤ1を加硫成形して加硫済み又は半加硫の台タイヤ1を予め成形する」と、本願発明1の「複数のベルト層からなるベルト部、サイド部及びビード部を備えた未加硫であるケース部を形成し、該ケース部を加硫成形することにより得られる台タイヤの製造方法」とは、「複数のベルト層からなるベルト部、サイド部及びビード部を備えた未加硫であるケース部を形成し、該ケース部を加硫成形することにより得られる台タイヤの製造方法」を含むという限度で一致するといえる。

ウ してみると、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点1]
「複数のベルト層からなるベルト部、サイド部及びビード部を備えた未加硫であるケース部を形成し、該ケース部を加硫成形することにより得られる台タイヤの製造方法。」

[相違点1]
本願発明1が「下記(a)、(b)及び(c)から選ばれる1つの配合方法を用い」るものであり、「(a)該ベルト部の最外ベルト層の被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?99m^(2)/gのカーボンブラックを30?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。
(b)該ベルト部が少なくとも3ベルト層からなり該ベルト層を構成する少なくとも1層のベルト被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?99m^(2)/gのカーボンブラックを40?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。
(c)該ケース部がカーカスプライを備え該カーカスプライの被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?90m^(2)/gのカーボンブラックを40?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。」というものであるのに対し、
引用発明は、(a)ベルト部の最外ベルト層の被覆ゴム組成物が明らかでなく、(b)「ベルト層10」が2層である上、ベルト被覆ゴム組成物も明らかでなく、(c)カーカスプライを備えるものの、その被覆ゴム組成物は明らかでない点。

[相違点2]
本願発明1が、「台タイヤの製造方法」であって、それにおいて「トレッドゴム部の内層と同じゴム組成物の薄層を該ベルト部のタイヤ半径方向外側に配設する」のに対し、
引用発明は、「空気入りタイヤの製造方法」であって、台タイヤ1を製造する工程とは別に「外周面にトレッドパターンを型付けした無端円環状の加硫済み又は半加硫済みのトレッド2を予め成形し、前記台タイヤ1の外周面に未加硫ゴム13をタイヤ周方向に複数周巻き付けて接着層3を形成すると共に、前記無端円環状のトレッド2を接着層3を挟んで台タイヤ1の外周面に嵌め込んで嵌合体15を形成し、次いで該嵌合体15の未加硫部を加硫する」という工程を有する点。

(3)本願発明1の進歩性の判断
ア 相違点1について
上記(1)ウより、引用文献2には、ベルト5のコード被覆ゴム6b、7b、8bに用いるゴム組成物において、ゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積が70?90m^(2)/gのカーボンブラックを40?80質量部配合する技術事項が記載されているが、シリカを含有させることについては開示がない。
また、上記(1)エより、引用文献3には、カーカス用ゴム組成物において、窒素吸着比表面積が20?100m^(2)/g(好ましくは35?90m^(2)/g)のカーボンブラックをゴム成分100重量部に対し、5?80重量部(好ましくは30?70重量部)、及びシリカが好ましい無機充填剤を好ましくは10?80重量部(より好ましくは30?70重量部)にする技術事項が記載されているが、本願発明1が「シリカ」を「5質量部以下配合する」ものであるのに対し、それよりも大きい値であり、さらに、「無機充填剤の配合量が10重量部未満の場合には、ゴムの補強性が低く、操縦安定性の向上が困難になる」と記載されていることから、シリカの配合量を5重量部以下とすることには阻害要因があるといえる。
さらに、上記(1)オより、引用文献4には、更正タイヤ用トレッドのベースゴム3において、窒素吸着比表面積が100m^(2)/g以下のカーボンブラックをゴム成分100質量部に対し、好ましくは30?50質量部(より好ましくは35?40質量部)、及びシリカを好ましくは3?8質量部配合する技術事項が記載されているが、更正タイヤ用トレッドのベースゴムのゴム組成物に係るものであり、台タイヤの最外ベルト層の被覆ゴム組成物またはベルト被覆ゴム組成物またはカーカスプライの被覆ゴム組成物に関するものではない。
したがって、引用発明に引用文献2?4に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点1に係る本願発明1の事項を得ることはできず、また、当業者が容易に想到し得たということもできない。

イ 相違点2について
引用発明は、台タイヤ1を加硫成形した後の工程として、「加硫済み又は半加硫済みのトレッド2」に「接着層3」としての「未加硫ゴム13」を巻き付けるものであり、本願発明1のように「台タイヤ製造方法」の工程においてされるものではなく、さらに、その素材が「トレッドゴム部の内装と同じゴム組成物」であることの特定はなく、そして、本願発明1は当該事項を有することにより「台タイヤAには、トレッドゴムの一部が薄層としてベルト部5のタイヤ半径方向外側に配設されている。プレキュアトレッド部材Bとの接着を良好にするためである。」(段落【0017】)という作用効果を得ているものである。
また、引用文献2?4にも上記相違点2に係る本願発明1の事項に関する開示はなく、上記相違点2に係る本願発明1の事項を容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小活
したがって、引用発明において上記相違点1及び2に係る本願発明1の事項を有するものとすることは当業者にとって容易とはいえないことから、本願発明1は、引用発明、引用文献2?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願発明8と引用発明との対比
ア 本願発明8と引用発明とを対比すると、引用発明の「ビード部」、「台タイヤ1」、「トレッド2」、「空気入りタイヤの製造方法」は、それぞれ本願発明8の「ビード部」、「台タイヤ」、「トレッド部材」、「タイヤの製造方法」に相当する。

イ 引用発明の「2層のベルト層10」が設けられた箇所は、本願発明8の「複数のベルト層からなるベルト部」に相当するといえ、以下同様に、「ビード部」と「2層のベルト層10」が設けられた箇所との間の「台タイヤ1」の横の部分は、「サイド部」に相当し、「トレッドパターンを型付けした」箇所は、「トレッド部」に相当するといえる。
したがって、引用発明の「左右一対のビード部間にカーカス層5を装架し、該カーカス層5の外周に2層のベルト層10を配置した未加硫の台タイヤ1を成形し、この未加硫の台タイヤ1を加硫成形して加硫済み又は半加硫の台タイヤ1を予め成形する」は、本願発明8の「複数のベルト層からなるベルト部、サイド部及びビード部を備えた未加硫であるケース部を加硫成形することにより台タイヤを形成し」に相当するといえる。
また、引用発明の「外周面にトレッドパターンを型付けした無端円環状の加硫済み又は半加硫済みのトレッド2を予め成形し、」「前記無端円環状のトレッド2を接着層3を挟んで台タイヤ1の外周面に嵌め込んで嵌合体15を形成し、次いで該嵌合体15の未加硫部を加硫する」は、本願発明8の「少なくともトレッド部を備えたトレッド部材を加硫してプレキュアトレッド部材を形成した後、該台タイヤと該プレキュアトレッド部材とを接着して一体に加硫成形する」に相当するといえる。

ウ してみると、本願発明8と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点2]
「複数のベルト層からなるベルト部、サイド部及びビード部を備えた未加硫であるケース部を加硫成形することにより台タイヤを形成し、少なくともトレッド部を備えたトレッド部材を加硫してプレキュアトレッド部材を形成した後、該台タイヤと該プレキュアトレッド部材とを接着して一体に加硫成形するタイヤの製造方法。」

[相違点3]
本願発明8が「下記(a)、(b)及び(c)から選ばれる1つの配合方法を用い」るものであり、「(a)該ベルト部の最外ベルト層の被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?99m^(2)/gのカーボンブラックを30?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。
(b)該ベルト部が少なくとも3ベルト層からなり該ベルト層を構成する少なくとも1層のベルト被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?99m^(2)/gのカーボンブラックを40?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。
(c)該ケース部がカーカスプライを備え該カーカスプライの被覆ゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して、JIS K 6217-2:2001で規定された窒素吸着比表面積が25?90m^(2)/gのカーボンブラックを40?60質量部、及びシリカを5質量部以下配合すること。」というものであるのに対し、
引用発明は、(a)ベルト部の最外ベルト層の被覆ゴム組成物が明らかでなく、(b)「ベルト層10」が2層である上、ベルト被覆ゴム組成物も明らかでなく、(c)カーカスプライを備えるものの、その被覆ゴム組成物は明らかでない点。

[相違点4]
本願発明8が、「トレッドゴム部の内層と同じゴム組成物の薄層を該ベルト部のタイヤ半径方向外側に配設する」のに対し、
引用発明は、「その台タイヤ1の外周面に未加硫ゴム13をタイヤ周方向に複数周巻き付けて接着層3を形成する」点。

(5)本願発明8の進歩性の判断
ア 相違点3について
上記(1)ウより、引用文献2には、ベルト5のコード被覆ゴム6b、7b、8bに用いるゴム組成物において、ゴム成分100質量部に対して、窒素吸着比表面積が70?90m^(2)/gのカーボンブラックを40?80質量部配合する技術事項が記載されているが、シリカを含有させることについては開示がない。
また、上記(1)エより、引用文献3には、カーカス用ゴム組成物において、窒素吸着比表面積が20?100m^(2)/g(好ましくは35?90m^(2)/g)のカーボンブラックをゴム成分100重量部に対し、5?80重量部(好ましくは30?70重量部)、及びシリカが好ましい無機充填剤を好ましくは10?80重量部(より好ましくは30?70重量部)にする技術事項が記載されているが、本願発明8が「シリカ」を「5質量部以下配合する」ものであるのに対し、それよりも大きい値であり、さらに、「無機充填剤の配合量が10重量部未満の場合には、ゴムの補強性が低く、操縦安定性の向上が困難になる」と記載されていることから、シリカの配合量を5重量部以下とすることには阻害要因があるといえる。
さらに、上記(1)オより、引用文献4には、更正タイヤ用トレッドのベースゴム3において、窒素吸着比表面積が100m^(2)/g以下のカーボンブラックをゴム成分100質量部に対し、好ましくは30?50質量部(より好ましくは35?40質量部)、及びシリカを好ましくは3?8質量部配合する技術事項が記載されているが、更正タイヤ用トレッドのベースゴムのゴム組成物に係るものであり、台タイヤの最外ベルト層の被覆ゴム組成物またはベルト被覆ゴム組成物またはカーカスプライの被覆ゴム組成物に関するものではない。
したがって、引用発明に引用文献2?4に記載された技術事項を適用したとしても、上記相違点3に係る本願発明8の事項を得ることはできず、また、当業者が容易に想到し得たということもできない。

イ 相違点4について
引用発明は、「加硫済み又は半加硫済みのトレッド2」に「接着層3」としての「未加硫ゴム13」を複数周巻き付けるものであり、本願発明8のように、その素材が「トレッドゴム部の内装と同じゴム組成物」であることの特定はなく、そして、本願発明8は当該事項を有することにより「台タイヤAには、トレッドゴムの一部が薄層としてベルト部5のタイヤ半径方向外側に配設されている。プレキュアトレッド部材Bとの接着を良好にするためである。」(段落【0017】)という作用効果を得ているものである。
また、引用文献2?4にも上記相違点4に係る本願発明8の事項に関する開示はなく、上記相違点4に係る本願発明8の事項を容易に想到することができたとはいえない。

ウ 小活
したがって、引用発明において上記相違点3、4に係る本願発明8の事項を有するものとすることは当業者にとって容易とはいえないことから、本願発明8は、引用発明、引用文献2?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(6)まとめ
以上検討したとおり、本願発明1及び8は、引用発明、引用文献2?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2?7及び9?18は、本願発明1及び8をさらに限定したものであるので、同様に、本願発明2?7及び9?18は、引用発明、引用文献2?4に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
この出願は、特許請求の範囲の記載が不備で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2 当審拒絶理由の判断
平成28年11月28日付け手続補正により、本願の請求項1?18の記載は、上記第2に示すとおりに補正され、指摘の不備は解消されたため、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-01-24 
出願番号 特願2013-208223(P2013-208223)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B29D)
P 1 8・ 537- WY (B29D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梶本 直樹森本 康正  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 平田 信勝
一ノ瀬 覚
発明の名称 台タイヤ及びタイヤの製造方法  
代理人 大谷 保  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ