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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1324145
審判番号 不服2014-5152  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-18 
確定日 2017-01-18 
事件の表示 特願2011-176261「空間温度分布の制御方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月 1日出願公開,特開2011-244011〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,2005年12月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年12月2日アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願である特願2007-544574号の一部を平成23年8月11日に新たな特許出願としたものであって,平成25年3月12日付けの拒絶理由の通知に対して,同年7月18日に意見書と手続補正書が提出されたが,同年11月14日付けで拒絶査定され,平成26年3月18日に拒絶査定不服審判が請求され,平成27年5月14日付けで当審から拒絶理由が通知され,同年11月18日に意見書と手続補正書が提出され,同年12月16日付けで当審から最後の拒絶理由が通知され,平成28年6月21日に意見書と手続補正書が提出され,同年7月14日に上申書が提出されたものである。

2 本願発明
ア 平成28年6月21日に提出された手続補正書は,明細書のみを補正するものである。そして,平成27年11月18日に提出された手続補正書により補正された,本願の特許請求の範囲の請求項9の記載は,次のとおりである。

「【請求項9】
プラズマ処理装置用のチャックであって,
加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベースを含み,上記加工物は,プラズマ加工を受け,上記プラズマ加工が上記加工物に温度の非均一性を引き起し,
上記ベースの上に配置された断熱材料の層と,
上記断熱材料の層の上に配置され,上記加工物を保持するためのフラット支持体と,
上記フラット支持体に結合され,上記フラット支持体の複数の加熱領域に対応する複数の加熱素子を含む加熱器と,を含み,
上記加熱素子は,上記プラズマ加工中,上記加工物全体にわたってほぼ均一なエッチング結果を達成するように独立に加熱され,
上記複数の加熱領域に対応する複数のセンサを含み,各センサは,上記領域の温度を測定し且つ対応する加熱領域の温度を表す信号を送信し,
上記信号を上記センサから受信するように構成されたコントローラを含み,該コントローラは,各加熱領域の温度を毎秒少なくとも1℃の割合で10℃以下だけ変化させるように,加熱領域毎にプラズマエッチレシピの初期温度に基づいて各平面加熱素子の電力を調整し,異なるエッチング条件の異なる感温性を補償し,加工物全体にわたって部分寸法形状を維持し及び/又は上記加工物の異なる層内でテーパを生成するように構成される,上記チャック。」

イ 本願の特許請求の範囲の請求項9に記載の「異なるエッチング条件の異なる感温性を補償し,加工物全体にわたって部分寸法形状を維持し」との文言について,その意味内容を一義的に理解することは困難であるので,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その意味内容を理解すると,上記の文言について,本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。(当審注.下線は当審において付与した。以下同じ。)

・「【0003】
<途中省略>ほとんどの場合,エッチングがほぼ完璧な程度に均一であることが極力望ましい。そうでなければ,製造される集積回路装置(IC)は,望ましい基準から外れる電子特性を有する。」

・「【0028】
半導体装置の複雑さが増すと,マルチステップ加工の使用を生じさせ,このマルチステップ加工では,単一のエッチレシピ(エッチ手段)が,エッチング加工が進行するに従ってエッチング条件を変えるために用いられる複数ステップを含む。マルチステップエッチング加工は,例えば,フォトレジストマスクが窒化物層をエッチするために用いられ,次いで後続する層のためのエッチングマスクとして用いられる。更に,特定層のエッチングは,エッチの実行中に変わる加工条件で高められる。特に,エッチング加工の一部分を初期温度で実行し,引き続いて,てエッチされる特定の層にとって最適なエッチング条件をもたらすようにこのレシピ内で後のステップの温度を変化させることがしばしば望ましい。
【0029】
あるエッチング加工条件は,他の加工条件よりも遥かに感温性であることが知られており,そのような場合には,エッチング加工のこの感温性であることを補償するか或いはそれを利用するために,エッチレシピ内でステップ毎にウェーハ温度を変えることができることが望ましい。」

・「【0031】
複数層がエッチされるような場合には,ウェーハ全体にわたって部分寸法形状を維持すること及び又は層内でテーパを生成することの必要性により,ステップ毎に基づいて並びに所与のステップ内で半径方向温度プロフィールを変えることが必要であるかもしれない。かくして,マルチゾーン温度制御式ウェーハ支持体が,ゾーンが異なる温度で作動される条件下で用いられ,且つエッチ中に加工条件を変えるマルチステップレシピが採用されるときには,異なるエッチング条件の異なる感温性を補償するか或いは異なるエッチング条件の異なる感温性を利用するために温度制御式ウェーハ支持体ゾーンの温度を変えることもしばしば必要である。」

ウ すなわち,本願明細書の発明の詳細な説明における,【0003】,【0028】-【0029】及び【0031】の上記の記載より,本願に係る発明は,製造される集積回路装置(IC)が,望ましい基準から外れる電子特性を有することがないように,ウェーハ全体にわたって,エッチングがほぼ完璧な程度に均一であることが極力望ましいという必要性から,初期温度で実行されるエッチング加工の一部分に引き続く特定の層のエッチングを,エッチ中に加工条件を変えるマルチステップレシピを用いたマルチステップ加工によって行うにあたって,マルチゾーン温度制御式ウェーハ支持体を,ゾーンが異なる温度で作動される条件下で用いて,前記特定の層のエッチングが,ウェーハ全体にわたってほぼ完璧な程度に均一となるように,エッチレシピ内でステップ毎にウェーハ温度を変えたものと認められる。

エ そうすると,本願明細書の記載を参酌すれば,本願の特許請求の範囲の請求項9に記載された「異なるエッチング条件の異なる感温性を補償し,加工物全体にわたって部分寸法形状を維持し」との文言は,初期温度で実行されるエッチング加工の一部分に引き続く特定の層のエッチングを,エッチ中に加工条件を変えるマルチステップレシピを用いたマルチステップ加工によって行うにあたって,マルチゾーン温度制御式ウェーハ支持体を,ゾーンが異なる温度で作動される条件下で用いて,前記特定の層のエッチングが,ウェーハ全体にわたってほぼ完璧な程度に均一となるように,エッチレシピ内でステップ毎にウェーハ温度を変えることを含み得ると理解できる。

オ そこで,上記の文言を,上記のようなものを含み得ると解した上で,本願の請求項9に係る発明(以下「本願発明9」という。)は,上記アの本願の特許請求の範囲の請求項9に記載されたとおりのものと認める。

3 進歩性について
(1)引用例の記載と引用発明
ア 平成27年12月16日付けで当審から通知した最後の拒絶理由(以下「先の拒絶理由」という。)で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特表2004-533718号(以下「引用例1」という。)には,「ワーク支持体の表面を横切る空間温度分布を制御する方法および装置」(発明の名称)に関して,図1ないし図7とともに以下の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。)

(1a)「【請求項1】
ワークの所望温度以下の温度を有する温度制御型ベースと,
該ベース上に配置される断熱材と,
ワークを保持する平支持体とを有し,該平支持体は断熱材の上に配置され,
平支持体内に埋設されたヒータを更に有することを特徴とするプラズマ加工機のチャック。
<途中省略>
【請求項5】
前記ヒータは複数の平加熱要素を更に有することを特徴とする請求項1記載のチャック。
【請求項6】
前記複数の平加熱要素は,対応する複数の加熱ゾーンをワーク上に形成することを特徴とする請求項5記載のチャック。
【請求項7】
前記平加熱要素の各々の出力は独立的に制御されることを特徴とする請求項6記載のチャック。
【請求項8】
前記複数の加熱ゾーンに対応する複数のセンサを更に有し,各センサは,各加熱ゾーンの温度を表す信号を測定しかつ出力することを特徴とする請求項7記載のチャック。
【請求項9】
前記センサから前記信号を受け,各加熱ゾーンについての設定位置に基いて各平加熱要素の出力を調節するコントローラを更に有することを特徴とする請求項8記載のチャック。」

(1b)「【0003】
一般的なプラズマエッチング作業では,プラズマガスの反応性イオンが,半導体ウェーハの面上の材料の部分と化学的に反応する。ウェーハの或る程度の加熱は幾つかの方法によって行なわれるが,殆どの加熱はプラズマにより行われる。一方,ガス(イオンおよびラジカル)とウェーハ材料との化学反応は,ウェーハの温度上昇により或る程度まで加速される。局部的ウェーハ温度およびウェーハ上の各顕微鏡的箇所での化学反応は,ウェーハ表面を横切る温度が大きく変化する場合に,ウェーハ表面上の材料のエッチングの有害な不均一性が容易に生じる度合いに関係している。殆どの場合,エッチングはほぼ完全な度合いまで均一であることが望まれている。そうでなければ,製造される集積回路デバイスは,望まれる規格から外れた電子的特性をもつものとなってしまうからである。また,ウェーハ直径が増大するにつれて,ICの各バッチの均一性を確保する問題は益々困難になる。他の場合には,カスタムプロファイルを得るには,ウェーハの表面温度を制御できることが望まれている。
【0004】
リアクティブ・イオンエッチング(reactive ion etching:RIE)中のウェーハの温度上昇の問題は良く知られており,これまで,エッチング中のウェーハの温度を制御する種々の試みがなされている。図1は,RIE中のウェーハ温度を制御する一方法を示すものである。クーラントガス(例えばヘリウム)が,ウェーハ104の下面と該ウェーハを保持するチャック106の頂部との間の単一狭空間内に,単一圧力で導入される。
【0005】
クーラントの漏洩を低減させるためチャック106の外縁部で1?5mmの長さで延びている円滑なシーリングランドを除き,一般に,チャックの周囲にはOリングその他のエッジシールは全く設けられていない。必然的に,エラストマーシールがなければ,シーリングランドを横切る漸増する圧力損失があるため,ウェーハ104の縁部の冷却が不充分になる。従って,ウェーハ104の縁部近くに衝突する熱は,該熱がチャックに有効に伝導される前に,半径方向内方に多量に流れなくてはならない。ウェーハ104の上方の矢印108は,ウェーハ104を加熱する進入熱流束を示す。ウェーハ104内の熱の流れが矢印110で示されている。これが,チャックの縁部領域が残りの表面よりも高温になり勝ちな理由である。図2には,ウェーハ104上の典型的な温度分布が示されている。ウェーハ104の周辺部での圧力損失により,ウェーハ104は,周辺部が非常に熱くなる。」

(1c)「【0022】
図6は,本発明の一実施形態によるチャックの温度を制御する方法を示すフローチャートである。より詳しくは,図6は,2つの別個のサーマルゾーンを備えたチャックの温度制御方法を示すものである。当業者ならば,本発明の方法が1以上のサーマルゾーンを有するチャックに適用できることが理解されよう。第一ブロック602では,第一組のセンサを用いて第一ゾーンの温度が測定される。これらの測定値に基いて,ブロック604では,第一ゾーンの温度に影響を与える加熱要素の出力を制御して,第一ゾーンの温度を,ユーザおよび/またはコンピュータにより設定された温度に調節する。第二ブロック606では,第二組のセンサを用いて第二ゾーンの温度が測定される。これらの測定値に基いて,ブロック608では,第二ゾーンの温度に影響を与える加熱要素の出力を制御して,第二ゾーンの温度を,ユーザおよび/またはコンピュータにより設定された温度に調節する。
【0023】
図7は,本発明の一実施形態によるチャックの温度制御システムを示す概略図である。ユーザ702はコンピュータ704に1組のパラメータを入力する。このようなパラメータの組として,例えば,チャックの第一ゾーンの所望温度およびチャックの第二ゾーンの所望温度がある。当業者ならば,チャックに1以上のゾーンを設けることができることは理解されよう。コンピュータ704は,図6のアルゴリズム,コンピュータ704の入力および出力を記憶している記憶要素706と通信する。第一組のセンサ708がチャックの第一ゾーンを測定し,第2組のセンサ710がチャックの第二ゾーンを測定する。第一組のセンサ708の温度測定値に基いて,コンピュータ704は,第一組の加熱要素712を制御してチャックの第一ゾーンの温度を調節する。第二組のセンサ710の温度測定値に基いて,コンピュータ704は,第二組の加熱要素714を制御してチャックの第二ゾーンの温度を調節する。
【0024】
静電チャック上のウェーハの温度分布を制御する上記方法は,誘導結合プラズマ(Inductive Coupled Plasma:ICP)加工機での適用に適しているだけでなく,特に,ウェーハへの低プラズマ出力熱流束を必要とする他の任意のシステムへの用途にも適している。この技術は,本発明の技術は,熱勾配を形成する必要性が存在する他の任意の用途に適用できる。」

イ 引用発明
上記記載に照らして,引用例1には,請求項1及び請求項5ないし請求項8を引用する請求項9に係る発明として,以下の発明(以下「引例発明」という。)が開示されているといえる。

「ワークの所望温度以下の温度を有する温度制御型ベースと,
該ベース上に配置される断熱材と,
ワークを保持する平支持体とを有し,該平支持体は断熱材の上に配置され,
平支持体内に埋設されたヒータを更に有することを特徴とするプラズマ加工機のチャックであって,
前記ヒータは複数の平加熱要素を更に有するものであり,
前記複数の平加熱要素は,対応する複数の加熱ゾーンをワーク上に形成するものであり,
前記平加熱要素の各々の出力は独立的に制御されるものであり,
前記複数の加熱ゾーンに対応する複数のセンサを更に有し,各センサは,各加熱ゾーンの温度を表す信号を測定しかつ出力するものであり,
前記センサから前記信号を受け,各加熱ゾーンについての設定位置に基いて各平加熱要素の出力を調節するコントローラを更に有するものである,チャック」

ウ 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-295888号(以下「引用例2」という。)には,「半導体装置の製造方法」(発明の名称)に関して,図1ないし図3とともに以下の記載がある。

(2a)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,半導体装置の製造方法に関し,更に詳しくは,配線材料のエッチング残りによるショートを防止する配線の後処理方法に係る。
【0002】
【従来の技術】デバイスの高集積化に伴い,素子の微細化と複雑化が進んでいる。ところが素子の微細化は横方向の縮小は行われているが縦方向のスケールダウンは行われていない。その結果,デバイス表面の凹凸は益々厳しくなってきている。このような凹凸の激しい表面上に配線パターンを形成すると,高段差部や急峻な部分で配線材料のエッチング残りが発生する。このようなエッチング残りを防止するために,過度のオーバーエッチングを行ったり,急峻な部分のないデバイス構造としたり,エッチング条件を変化させる所謂マルチステップエッチング等を行っている。」

エ 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-110647号(以下「引用例3」という。)には,「半導体集積回路装置の製造方法」(発明の名称)に関して,図1ないし図44とともに以下の記載がある。

(3a)「【0046】次に,本発明者らは,上記検討技術の課題およびエッチング原理の再検討結果に基づいて,深孔をエッチングにより形成する際に,例えば次のようにした。すなわち,最初のエッチングステップでは,ポリマー層(CF_(x)(x=0?2))のデポジション性が弱い(開口性の良い)条件でエッチング処理を行い,続くエッチングステップでは,ポリマー層のデポジション性が強い(開口性の悪い)条件に切り換えてエッチング処理を行う(マルチステップエッチング)。」

オ 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002-231804号(以下「引用例4」という。)には,「半導体装置およびその製造方法」(発明の名称)に関して,図1ないし図19とともに以下の記載がある。

(4a)「【0056】(第1の実施の形態の変形例)上記実施の形態では,単一エッチング条件にてSTI-TEOS膜6の落とし込みを行っているが,マルチステップエッチングを適用することにより,先にO_(2)を主ガスとした条件により,塗布型反射防止膜7の落とし込みを行う。次に,STI-TEOS膜6の落とし込みを行う。このような2段階の工程とすることにより,第1工程でのエッチング量の設定を変えて,STI-TEOS膜6の周辺突起部10の高さを任意に形成することもできる。
【0057】ここで,STI-TEOS膜6を周辺突起部を持った凹型形状とするには,塗布型反射防止膜とSTI-TEOS膜とが交わった側面に対してSTI-TEOS膜を形成する。
【0058】すなわち,マルチステップ エッチングとは,始めにSTI-TEOS膜をエッチングしないO_(2)ガスにより,塗布型反射防止膜の高さを落とし,それにより,STI-TEOS膜と塗布型反射防止膜との交わる位置(高さに相当)を変えることが可能となる。
【0059】この状態で,次にSTI-TEOS膜を凹型に形成できるエッチング条件を設定して,所望のパターンを形成することができる。」

カ 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特表2003-526921号(以下「引用例5」という。)には,「基板熱管理システム」(発明の名称)に関して,FIG.1ないしFIG.7Fとともに以下の記載がある。

(5a)「【請求項56】 ウェーハ温度は,約1℃/秒の割合で変化することを特徴とする請求項8に記載のウェーハ熱管理装置。」

(5b)「【0001】
(技術分野)
本発明は,一般にウェーハ処理の分野に関し,特に集積回路製造の間の半導体ウェーハの迅速かつ一様な加熱と冷却に関する。」

(5c)「【0005】
<途中省略>
すなわち,関連技術の限界のために,広範な温度範囲に亘る効率的,迅速,制御可能,及び,一様な熱管理の方法に対する必要性が存在する。更に,定常状態条件及び過渡的条件の両方の間に高性能をもたらし,製造環境内での容易な使用に非常に適した装置に対する必要性が存在する。」

キ 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-260474号(以下「引用例6」という。)には,「静電チャックおよびウエハステージ」(発明の名称)に関して,図1ないし図3とともに以下の記載がある。

(6a)「【0009】このような不都合を解消するためには,例えば反応生成物の蒸気圧の異なる材料をそれぞれエッチングする間や,ジャストエッチングとオーバーエッチングとの間等でウエハ等からなる試料の設定温度を変えることが考えられる。しかし,このような設定温度の変更をエッチング処理の最中に行うのでは,当然スループットが小さくなってしまい,コスト的に不利を招いてしまう。したがって,スループットに影響がないように短時間でウエハの温度を変更できるような,すなわち急速降温や急速昇温を可能にした機構の提供が切望されているのである。本発明は前記事情に鑑みてなされもので,その目的とするところは,スループットに影響を与えることなく,短時間でウエハの温度を変更することができるようにした静電チャック,およびウエハステージを提供することにある。」

ク 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-256359号(以下「引用例7」という。)には,「静電チャック」(発明の名称)に関して,図1ないし図10とともに以下の記載がある。

(7a)「【0002】
【従来の技術】半導体のプラズマ加工は集積度が高くなるほど,より極細化し,より厳しい精度が要求される。プラズマ加工の極細化,高精度化を達成する上でプラズマ処理温度は極めて重要なファクターになるが,現状設備では,処理するシリコンウエハーの過昇温防止のために冷却するだけ(エッチング処理),成膜処理(CVD)では,設定温度よりも低めに設定して処理中の自然昇温は放任されているのが実情である。現実は以上のような状況であるが,これは温度管理の重要さが認識されていないためではなくて,現実,経済的なスピードで温度管理できる機構が存在しないためである。実験室的に生産性を無視すれば,精密な温度管理は可能であるが,現状の生産ラインの中で,例えば処理する薄膜の材質に応じて,膜ごとに,生産性を落とすことなく素早くその膜質に最適な温度に変えて処理する様な,クイック制御,精密制御できる機構が存在しないためである。この問題を解決するには現実の処理スピードに対応して迅速に温度を調節できる機構が必要となる。つまり処理スピードを落とすことなく迅速かつ連続的に温度調節できる機構が必要となる。一方プラズマ処理以外でも,装置の稼働率を上げるために,設定した温度に素早く加熱したり,あるいは加熱後,素早く冷やしたりする要求も多い。ここでも迅速かつ連続的に温度調節できる機構が求められている。一方真空処理の場合,非処理物の表面には湿分が付着しており,所定の真空度に早く到達させるためには,非処理物は加熱したほうがよいが,現実,非処理物だけを速やかに加熱する方法はない。」

(7b)「【0032】実施例2
<途中省略>
[テスト]
静電吸着:電極とシリコンウエハーの間に700Vの直流電圧を印加して誘電体セラミックの表面に2インチシリコンウエハーを吸着させた。
加熱
0℃から加熱開始。ヒーターに通電,ウエハー表面は,25秒で100℃に加熱できた。
冷却
ヒーターを切った後,水冷開始。ウエハー表面は40秒で15℃まで冷却できた。
保持
ヒーター加熱と同時に水冷併用してシリコンウエハー表面温度を50℃±1℃の範囲に保持できた。
本発明はシリコンウエハーを急速昇降温でき,かつ均一温度に保持できることが確認できた。」

ケ 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特表平11-502062号(以下「引用例8」という。)には,「多層型の静電チャック及びその製造方法」(発明の名称)に関して,FIG.1ないしFIG.11とともに以下の記載がある。

(8a)「発明の分野
本発明は,半導体デバイス及びフラットパネルディスプレイの製造に有用な静電チャック装置に関する。
発明の背景
<途中省略>
静電チャック装置は,成膜,エッチング,アッシングその他の処理の際のウェハの搬送及び支持に使用されている。」(第8ページ第4-26行)

(8b)「本発明に係るチャックは,隣り合うセラミック層の間に1又は2以上のヒータ電極を組み込むんだり,他の組のセラミック層の間に配置することができる。チャックが,成膜が実行される反応チャンバ内で使用される場合,各ヒータには互いに異なる加熱作用を提供するために独立に電力を供給することができる。例えば,1つのヒータをチャックの中央部に配置し,他のヒータをチャックの周辺部に配置した場合,プラズマの不均一性及び/又はエッジ効果を補償するようにヒータに電力を供給することができる。ヒータは,金属のエッチング等の際に,ウェハの搬送中の温度を制御することにも使用することができる。」(第14ページ第7-15行)

コ 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平11-243077号(以下「引用例11」という。)には,「プラズマ処理方法およびプラズマ処理装置」(発明の名称)に関して,図1ないし図16とともに以下の記載がある。

(9a)「【請求項4】処理室内において,レジストをマスクとしてガスプラズマを用いて被処理基板をプラズマ処理するプラズマ処理方法において,
前記被処理基板の温度を制御することにより前記被処理基板に形成される側壁保護膜の面内均一性を維持しながらプラズマ処理することを特徴とするプラズマ処理方法。
<途中省略>
【請求項8】
請求項4に記載のプラズマ処理方法において,前記被処理基板の中央部の温度を周辺部の温度よりも高く維持しながら前記被処理基板をプラズマ処理することを特徴とするプラズマ処理方法。」

(9b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,被処理基板にエッチング処理等の処理を行うプラズマ処理に関し,被処理基板の中央部と周辺部の処理特性が均一になるようにしたプラズマ処理方法および装置に関する。」

(9c)「【0021】エッチングの場合は,通常,マスクを介して加工寸法を忠実にかつ垂直にエッチングすることが要求される。この際,エッチング方向に垂直な方向へのエッチング,すなわち,側壁部のエッチングが加工寸法に影響を及ぼす。
<途中省略>
従って,反応生成物の影響が大きくなってきている微細パターンのエッチングにおいては,特に,気相中での反応生成物が基板の面内で不均一であり基板の外周部で少なくなるという分布特性を考慮し,その影響を相殺して側壁保護膜の基板の面内分布が均一となる様なプラズマ分布や基板温度分布にする必要がある。
【0023】本発明によれば,処理室内においてマスクを介してガスプラズマを用いて被処理基板を処理するプラズマ処理方法において,被処理基板がこの被処理基板に形成される側壁保護膜の面内均一性を維持しながらプラズマ処理される。このように,被処理基板の側壁保護膜の面内均一性を維持することにより,イオンアシスト反応による側壁のエッチング速度が均一になるため,微細パターンであっても,被エッチング部の垂直形状を得ることが容易になる。」

(9d)「【0026】なお,基板温度が変化すると,反応生成物の付着確率が変わるばかりでなく,エッチングガスプラズマ(特にラジカル)の付着確率も変化する。また,エッチング反応そのものの速度も変化する。したがって,反応生成物の生成量も変化するので,エッチング等のプラズマ処理条件に応じて基板温度分布を制御することが必要である。」

サ 先の拒絶理由で引用した,本願のもとの特許出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-144655号(以下「引用例13」という。)には,「ドライエッチング処理方法及びドライエッチング装置」(発明の名称)に関して,図1ないし図6とともに以下の記載がある。

(10a)「【請求項1】 試料に対して複数のステップからなるエッチング処理を同一の処理装置内で行うドライエッチング処理方法であって,
前記ステップのうち一のステップのエッチング処理とこれに続くステップのエッチング処理とを異なる温度で行うとともに,これらステップ間において,前記一のステップでの温度からこれに続くステップでの温度に漸次温度を変化させつつ,エッチング処理を行うことを特徴とするドライエッチング処理方法。
【請求項2】 真空チャンバーと,該真空チャンバー内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と,該真空チャンバー内に配設されて試料を保持するとともに該試料の温度調整をなすウエハステージと,該ウエハステージを冷却する冷却手段とを具備するドライエッチング装置であって,
前記ウエハステージは,絶縁材料からなる誘電体と導体からなる電極とを備えた静電チャックと,該静電チャックに接合された金属製ジャケットとからなり,前記電極が,前記誘電体を金属製ジャケットに固定するためのろう付け層によって形成され,前記金属製ジャケットが,その内部にヒータと前記冷却手段に接続される冷媒配管とを埋め込んで形成されたものであり,
前記ウエハステージに,これに保持される試料の温度を検知する温度検知手段が設けられ,
該温度検知手段で検知された温度に基づく出力信号を受け,前記試料の温度を所定の温度勾配で変化させるよう前記冷却手段による冷却の度合いと前記ヒータによる加熱の度合いとを調整する制御手段が設けられてなることを特徴とするドライエッチング装置。」

(10b)「【0032】また,制御装置29は,冷却手段による冷却の度合いやヒータ4による加熱の度合いだけでなく,ウエハWを温度変化させる際の温度変化速度(温度勾配),具体的には降温速度や昇温速度をも調整するものとなっている。すなわち,この制御装置29は,単に設定温度(所望温度)だけでなく温度変化速度(温度勾配),具体的には1秒あたりに何℃降温させる,あるいは昇温させる,といったように設定されると,予め設定されたウエハWの温度(所望温度)との差,およびウエハステージ1全体の熱容量やウエハWの熱容量,さらに拡散チャンバー11の熱容量等から,前記冷却手段およびヒータ4の両方あるいは一方のみを予め実験や計算によって決定された度合いで機能させ,初期温度から別に設定された所望温度までの間,設定された温度変化速度でウエハWを降温しあるいは昇温させるのである。」

(10c)「【0040】ただし,この第2ステップでは,前記したように厳密には温度条件の異なる二つのエッチング処理を行う。第1に,第1ステップでのウエハ温度である50℃から出発し,25秒間で-20℃に至るように,すなわち約-70/25〔℃/sec〕の速度(温度勾配)で降温しつつ,エッチング処理を行う。引き続き,第2に,到達した温度である-20℃にて20秒間エッチング処理を行う。」

(10d)「【0047】ただし,この第2ステップでも,先の第1の具体例の場合と同様に,前記したごとく厳密には温度条件の異なる二つのエッチング処理を行う。第1に,第1ステップでのウエハ温度である100℃から出発し,40秒間で0℃に至るように,すなわち約-100/40〔℃/sec〕の速度(温度勾配)で降温しつつ,エッチング処理を行う。引き続き,第2に,到達した温度である0℃にて20秒間エッチング処理を行う。
<途中省略>
【0049】このようにしてオーバーエッチング処理を行うと,オーバーエッチング当初では,すなわち第1の降温状態でのエッチングでは,第1ステップでのエッチング温度から徐々に低温化していくので,シリコン基板40上に露出した状態で残ったSiO_(2) 層41の一部を確実に除去することができる。
<途中省略>
よって,例えば第1ステップのメインエッチングから低温化してしまうと,形成するコンタクトホールの側壁に有機ポリマーが堆積してコンタクトホールの形状がテーパ化してしまい,微細なホール開口ができなくなってしまうものの,この例のようにオーバーエッチングの後半でのみ低温化することにより,この問題を解消してシリコン基板40に対する選択比100以上を確保しつつ,図5(c)に示したように良好な異方性形状のコンタクトホール43を再現性良く形成することができる。」

3 対比・判断
(1)対比
ア 本願発明9と引用発明とを対比する。

イ その構成又は機能等からみて,引用発明の「ワーク」,「ワークの所望温度以下の温度を有する温度制御型ベース」,「ベース上に配置される断熱材」,「『断熱材の上に配置され』た『ワークを保持する平支持体』」,「『平支持体内に埋設された』『対応する複数の加熱ゾーンをワーク上に形成する』『複数の平加熱要素を更に有する』『ヒータ』」,「『各加熱ゾーンの温度を表す信号を測定しかつ出力する』『複数の加熱ゾーンに対応する複数のセンサ』」,「『前記センサから前記信号を受け』る『コントローラ』」は,それぞれ,本願発明9の「加工物」,「加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベース」,「ベースの上に配置された断熱材料の層」,「断熱材料の層の上に配置され,加工物を保持するためのフラット支持体」,「フラット支持体に結合され,上記フラット支持体の複数の加熱領域に対応する複数の加熱素子を含む加熱器」,「『上記領域の温度を測定し且つ対応する加熱領域の温度を表す信号を送信』する『複数の加熱領域に対応する複数のセンサ』」,「上記信号を上記センサから受信するように構成されたコントローラ」に相当する。
また,引用発明の「前記平加熱要素の各々の出力は独立的に制御されるものであり」と,本願発明9の「上記加熱素子は,上記プラズマ加工中,上記加工物全体にわたってほぼ均一なエッチング結果を達成するように独立に加熱され」とは,「加熱素子は,独立に加熱され」という点で一致する。

ウ 引用発明の「プラズマ加工機のチャック」は,以下の相違点を除いて,本願発明9の「プラズマ処理装置用のチャック」に相当する。
また,引用発明の「ワーク」が,プラズマ加工を受けることは自明である。

エ 以上をまとめると,本願発明9と引用発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「プラズマ処理装置用のチャックであって,
加工物の所望温度以下の温度を有する温度制御式ベースを含み,上記加工物は,プラズマ加工を受け,
上記ベースの上に配置された断熱材料の層と,
上記断熱材料の層の上に配置され,上記加工物を保持するためのフラット支持体と,
上記フラット支持体に結合され,上記フラット支持体の複数の加熱領域に対応する複数の加熱素子を含む加熱器と,を含み,
上記加熱素子は,独立に加熱され,
上記複数の加熱領域に対応する複数のセンサを含み,各センサは,上記領域の温度を測定し且つ対応する加熱領域の温度を表す信号を送信し,
上記信号を上記センサから受信するように構成されたコントローラを含む,上記チャック。」

<相違点>
・相違点1:本願発明9のプラズマ加工が,「加工物に温度の非均一性を引き起」こすものであるのに対して,引用発明では,このような特定がされていない点。

・相違点2:本願発明9の加熱素子が,「プラズマ加工中,上記加工物全体にわたってほぼ均一なエッチング結果を達成する」ものであるのに対して,引用発明では,このような特定がされていない点。

・相違点3:本願発明9のコントローラは,「各加熱領域の温度を毎秒少なくとも1℃の割合で10℃以下だけ変化させるように,加熱領域毎にプラズマエッチレシピの初期温度に基づいて各平面加熱素子の電力を調整し,異なるエッチング条件の異なる感温性を補償し,加工物全体にわたって部分寸法形状を維持し及び/又は上記加工物の異なる層内でテーパを生成するように構成される」のに対して,引用発明のコントローラは,「各加熱ゾーンについての設定位置に基いて各平加熱要素の出力を調節する」ものである点。

(2)判断
・相違点1および相違点2について
引用例1の上記摘記(1b)には,「局部的ウェーハ温度およびウェーハ上の各顕微鏡的箇所での化学反応は,ウェーハ表面を横切る温度が大きく変化する場合に,ウェーハ表面上の材料のエッチングの有害な不均一性が容易に生じる度合いに関係している。殆どの場合,エッチングはほぼ完全な度合いまで均一であることが望まれている。そうでなければ,製造される集積回路デバイスは,望まれる規格から外れた電子的特性をもつものとなってしまうからである。」及び「リアクティブ・イオンエッチング(reactive ion etching:RIE)中のウェーハの温度上昇の問題は良く知られており,・・・ウェーハ104の周辺部での圧力損失により,ウェーハ104は,周辺部が非常に熱くなる。」と記載されている。
そうすると,引用発明は,プラズマエッチングの処理中に,ウェーハの周辺部が非常に熱くなり,このようなウェーハ表面を横切る温度の大きな変化が,ウェーハ表面上の材料のエッチングの有害な不均一性を容易に生じさせるという課題を解決して,エッチングはほぼ完全な度合いまで均一であるという効果を得たものであると理解することができる。
してみれば,引用発明は,プラズマ加工が,「加工物に温度の非均一性を引き起」こすことを前提としており,また,引用発明は,平加熱要素の各々の出力を独立的に制御することで,「プラズマ加工中,上記加工物全体にわたってほぼ均一なエッチング結果を達成する」という効果を得たものであると認められるから,上記相違点1及び相違点2は実質的なものではない。

・相違点3について
ア 上記2アないしオで検討したように,「異なるエッチング条件の異なる感温性を補償し,加工物全体にわたって部分寸法形状を維持し」との文言は,初期温度で実行されるエッチング加工の一部分に引き続く特定の層のエッチングを,エッチ中に加工条件を変えるマルチステップレシピを用いたマルチステップ加工によって行うにあたって,マルチゾーン温度制御式ウェーハ支持体を,ゾーンが異なる温度で作動される条件下で用いて,前記特定の層のエッチングが,ウェーハ全体にわたってほぼ完璧な程度に均一となるように,エッチレシピ内でステップ毎にウェーハ温度を変えることを含み得ると解されるから,相違点3の上記の文言を,上記のようなものを含み得ると解した上で解した上で,相違点3について検討する。

イ 引用例2の上記摘記(2a)の「半導体装置の製造方法に関し・・・エッチング条件を変化させる所謂マルチステップエッチング等を行っている。」,引用例3の上記摘記(3a)の「最初のエッチングステップでは,・・・条件でエッチング処理を行い,続くエッチングステップでは,・・・条件に切り換えてエッチング処理を行う(マルチステップエッチング)。」,及び,引用例4の上記摘記(4a)の「マルチステップエッチングを適用」との記載からも明らかなように,エッチ中に加工条件を変えるマルチステップレシピを用いたマルチステップ加工は,本願のもとの出願の優先権の主張の日前において,周知の加工方法の一つであったといえる。

ウ さらに,引用例6の上記摘記(6a)の「このような不都合を解消するためには,例えば反応生成物の蒸気圧の異なる材料をそれぞれエッチングする間や,ジャストエッチングとオーバーエッチングとの間等でウエハ等からなる試料の設定温度を変える」,引用例7の上記摘記(7a)の「処理する薄膜の材質に応じて,膜ごとに,生産性を落とすことなく素早くその膜質に最適な温度に変えて処理する」,及び,引用例13の上記摘記(10a)の「試料に対して複数のステップからなるエッチング処理を同一の処理装置内で行うドライエッチング処理方法であって,前記ステップのうち一のステップのエッチング処理とこれに続くステップのエッチング処理とを異なる温度で行う」,上記摘記(10b)の「初期温度から別に設定された所望温度までの間,設定された温度変化速度でウエハWを降温しあるいは昇温させる」との記載からも明らかなように,エッチ中に加工条件を変える加工において,エッチレシピ内でステップ毎にウェーハ温度を変えることは,通常行われているレシピの一種であるといえる。

エ そして,引用発明に係る「プラズマ加工機のチャック」は,汎用性を有するチャックと認められ,当該チャックを,エッチレシピ内でステップ毎にウェーハ温度を変えるような,マルチステップレシピを用いたマルチステップ加工のチャックとして用いることは,当業者が適宜なし得た事項といえるところ,当該チャックを用いて,エッチレシピ内でステップ毎にウェーハ温度を変えて加工する場合においても,引用例1の上記摘記(1b)に記載されるような,製造される集積回路デバイスが,望まれる規格から外れた電子的特性をもつものとなってしまうことが望ましくないという課題が引き続き存在することは,当業者にとって明らかであるから,エッチ中に加工条件を変えるマルチステップレシピを用いたマルチステップ加工によって,初期温度で実行されるエッチング加工の一部分に引き続く特定の層のエッチングを行うにあたって,当該特定の層のエッチングが,ウェーハ全体にわたってほぼ完璧な程度に均一となるようにすることは,当業者が当然に考慮すべきことであると直ちに理解することができる。

オ 他方,引用例1の上記摘記(1c)の「2つの別個のサーマルゾーンを備えたチャックの温度制御方法・・・ユーザ702はコンピュータ704に1組のパラメータを入力する。このようなパラメータの組として,例えば,チャックの第一ゾーンの所望温度およびチャックの第二ゾーンの所望温度がある。・・・コンピュータ704は,図6のアルゴリズム,コンピュータ704の入力および出力を記憶している記憶要素706と通信する。第一組のセンサ708がチャックの第一ゾーンを測定し,第2組のセンサ710がチャックの第二ゾーンを測定する。第一組のセンサ708の温度測定値に基いて,コンピュータ704は,第一組の加熱要素712を制御してチャックの第一ゾーンの温度を調節する。第二組のセンサ710の温度測定値に基いて,コンピュータ704は,第二組の加熱要素714を制御してチャックの第二ゾーンの温度を調節する。・・・静電チャック上のウェーハの温度分布を制御する」,引用例8の上記摘記(8b)の「各ヒータには互いに異なる加熱作用を提供するために独立に電力を供給することができる。例えば,1つのヒータをチャックの中央部に配置し,他のヒータをチャックの周辺部に配置した場合,プラズマの不均一性及び/又はエッジ効果を補償するようにヒータに電力を供給することができる。」,及び,引用例11の上記摘記(9a)の「被処理基板の温度を制御することにより前記被処理基板に形成される側壁保護膜の面内均一性を維持しながらプラズマ処理する」,上記摘記(9b)の「被処理基板の中央部と周辺部の処理特性が均一になるようにしたプラズマ処理方法および装置」,上記摘記(9c)の「側壁保護膜の基板の面内分布が均一となる様なプラズマ分布や基板温度分布にする必要がある。・・・被処理基板の側壁保護膜の面内均一性を維持することにより,イオンアシスト反応による側壁のエッチング速度が均一になるため,微細パターンであっても,被エッチング部の垂直形状を得ることが容易になる。」,上記摘記(9d)の「エッチング等のプラズマ処理条件に応じて基板温度分布を制御することが必要である。」との記載に照らして,エッチングが,ウェーハ全体にわたってほぼ完璧な程度に均一となるように,加熱領域毎に加熱素子の電力を調整してウェーハ温度を変えることは通常行われていることであるといえる。

カ してみれば,ウェーハ全体にわたってほぼ完璧な程度に均一となるように,引用発明のチャックが有する「『各々の出力』が『独立的に制御される』『対応する複数の加熱ゾーンをワーク上に形成する』『複数の平加熱要素』」を,引用発明の「コントローラ」が,「各加熱ゾーンについての設定位置に基いて各平加熱要素の出力を調節する」ことは,当業者が容易になし得たことといえる。

キ そして,引用発明の「平支持体」は,前記「『各々の出力』が『独立的に制御される』『対応する複数の加熱ゾーンをワーク上に形成する』『複数の平加熱要素』」を有する「ヒータ」が埋設されたものであり,「マルチゾーン温度制御式ウェーハ支持体」ということができるから,結局,引用発明のチャックを,周知のマルチステップ加工において用いるチャックとして用いる場合において,引用発明の「各加熱ゾーンについての設定位置に基いて各平加熱要素の出力を調節する」コントローラを,各加熱領域の温度を変化させるように,加熱領域毎にプラズマエッチレシピの初期温度に基づいて各平面加熱素子の電力を調整し,マルチゾーン温度制御式ウェーハ支持体を,ゾーンが異なる温度で作動される条件下で用いて,前記特定の層のエッチングが,ウェーハ全体にわたってほぼ完璧な程度に均一となるように,エッチレシピ内でステップ毎にウェーハ温度を変えるようにすること,すなわち,「異なるエッチング条件の異なる感温性を補償し,加工物全体にわたって部分寸法形状を維持し及び/又は上記加工物の異なる層内でテーパを生成するように構成される」ようにすることは,当業者が容易になし得たことと認められる。

ク なお,前記エッチレシピ内でステップ毎に変えるウェーハの温度は,当該マルチステップレシピを用いたマルチステップ加工によってエッチングしようとする加工物の構造・組成,エッチングガスの種類等によって定まるものであって,変化させる温度の大きさを「10℃以下だけ」とすることは,単なる設計事項であり,本願明細書の記載からは,当該値に臨界的な意義を見いだすことはできない。
さらに,工程間の温度変化を迅速に行うことが望ましく,「毎秒少なくとも1℃の割合」で変化させることも,引用例5の上記摘記(5a)の「ウェーハ温度は,約1℃/秒の割合で変化することを特徴とする請求項8に記載のウェーハ熱管理装置」,上記摘記(5b)の「本発明は,一般にウェーハ処理の分野に関し,特に集積回路製造の間の半導体ウェーハの迅速かつ一様な加熱と冷却に関する」,上記摘記(5c)の「広範な温度範囲に亘る効率的,迅速,制御可能,及び,一様な熱管理の方法に対する必要性が存在する」,引用例6の上記摘記(6a)の「スループットに影響がないように短時間でウエハの温度を変更できるような,すなわち急速降温や急速昇温を可能にした機構の提供が切望されている」,引用例7の上記摘記(7a)の「迅速かつ連続的に温度調節できる機構が必要となる」,上記摘記(7b)の「0℃から加熱開始。ヒーターに通電,ウエハー表面は,25秒で100℃に加熱できた。・・・ウエハー表面は40秒で15℃まで冷却できた」,引用例13の上記摘記(10c)の「約-70/25〔℃/sec〕の速度(温度勾配)で降温」,及び,上記摘記(10d)の「約-100/40〔℃/sec〕の速度(温度勾配)で降温」との記載からも明らかなように周知な事項といえる。
したがって,引用発明において,コントローラが,各加熱領域の温度を毎秒少なくとも1℃の割合で10℃以下だけ変化させるように,加熱領域毎にプラズマエッチレシピの初期温度に基づいて各平面加熱素子の電力を調整することは,当業者が適宜なし得たことといえる。

ケ したがって,相違点3に係る構成は,引用発明において,引用例2ないし8,11,13に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たことである。

・効果について
引用発明において,上記相違点1ないし3について本願発明9の構成を採用したことによる効果は当業者が予測する範囲内のものであり,格別のものとは認められない。

(3)判断についてのまとめ
以上のとおりであるから,引用発明において,上記相違点1ないし3に係る本願発明9の構成を採用することは,引用例2ないし8,11,13に接した当業者であれば容易になし得たことである。
したがって,本願発明9は,引用発明及び引用例2ないし8,11,13に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって,本願発明9は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-07-29 
結審通知日 2016-08-01 
審決日 2016-08-31 
出願番号 特願2011-176261(P2011-176261)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 淳一  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
発明の名称 空間温度分布の制御方法及び装置  
代理人 大塚 文昭  
代理人 岡本 和道  
代理人 弟子丸 健  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 井野 砂里  

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