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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1324221 |
審判番号 | 不服2014-19331 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-29 |
確定日 | 2017-01-24 |
事件の表示 | 特願2011-283480「皮膚上で視覚的に見えにくい医薬活性剤物質パッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月17日出願公開、特開2012- 92133〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2004年4月8日(優先権主張:2003年4月17日(ドイツ))を国際出願日とする特許出願である特願2006-505058号の一部を平成23年12月26日に新たな特許出願としたものであって、平成26年5月15日付けで拒絶査定がなされたのに対して、同年9月29日に拒絶査定不服の審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、平成27年11月26日付けで当審から拒絶の理由が通知され、平成28年5月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1-16に係る発明(以下、「本願発明1」-「本願発明16」という。)は、平成28年5月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-16に記載された事項により特定されるものである。 3 本願明細書の記載 本願の明細書には、以下の事項が記載されている。 (1)「したがって、本発明の目的は、既に存在するか、または時間の経過と共に発生する着色にも拘わらず、特にパッチが適用部位に貼付されたときに、パッチの外観が視覚的に目立たないように確保された、活性物質パッチを提供することにあった。ここでの意図は、好ましくは全世界の住民の最も異なる皮膚色調に適する一定の解決策を見いだすことである。 さらに本発明の目的は、そのような活性物質パッチを得ることができる方法を示すことであった。」(【0009】) (2)「例 1.異なる顔料濃度の支持体層の製造 被覆化合物を、エチルセルロースおよび異なる量の顔料混合物(表1参照)から製造し、これらの化合物を、ドクターナイフにより厚さ15μmのPETフィルム(面積当たりの重量、7?10g/m^(2))に被覆する。 【表1】 顔料混合物: Naturell BB Plv Pigmentを50wt% Naturell Pulver Pigmentを50wt% (Cosnaderm Chemische Rohstoffe GmbH, D-68526 Ladenburgより) 対照例で使用されたもの: (6)PETフィルム、アルミニウムメッキおよびニコチン耐性 (半透明でない) (7)PETフィルム、15μm、透明 (8)Scotchpak 1006 2.皮膚パッチの製造 1.で製造した支持体層を用いて皮膚パッチを製造した。このために、Durotak(登録商標)2052(National Starch & Chemical B.V.)を単位面積当たりの重量で80g/m^(2)に塗り広げ、それぞれ1.で製造した支持体層の1つで覆った。その後、個別のパッチを1cm^(2)のサイズの個々のパッチとして打ち出した。 3.ヒト皮膚色に対応する色チャートの製造 ソフトウエア「PowerPoint」(Microsoft)およびカラープリンター(HP-C LaserJet 4500; Hewlett-Packard)を用いて、全世界住民の種々の皮膚色調を表す、8色チャートを作成した。 色チャートの色調は、下表に挙げられる6つのパラメータ、色調、赤、緑、青、彩度、強度により「PowerPoint」で特徴づけられ、これらのパラメータで再現しうる。 【表2】 色チャートNo. A-Hは、Techkon GmbJ(DE-61462 Koenigstein)社の「tristimulus colorimeter CP-320」を用いて測定した。明度L、赤-緑軸a、および黄-青軸bの値(度)を測定した。各々の色チャートについて各10回測定し、平均値を決定した。平均値を以下の表3に表す。 【表3】 *は、8色チャートの値を用いて決定したそれぞれの平均値である。 見てわかるように、a値がわずかに異ならるだけであるのに対し、明度Lの色値は、大きく変化する。 本発明の原理が有利に用いられ得る肌色範囲は、上述の「L、a、B」システムによれば、特に「5、8、60」から「100、4、0」の範囲を含む。 4.明度値の差異の決定 2.で製造した打ち出した皮膚パッチを3.で製造した色チャートに貼り付けた。その後、添付したパッチの明度色値L_(1)を、3.で説明した測定方法を用いて決定する。得られた測定値L_(1)から、それぞれの背景(すなわち色チャート)の明度値L_(2)との差異を各々の場合において決定した。一方で色チャートA?Hに添付されたパッチタイプ(No.1?5および対照No.6?8)の明度色値L_(1)と他方でそれぞれの色チャートA?Hの明度色値L_(2)間のパーセントの差を、表4に表す。 これによると、すべての色チャートにおいて、透明PETフィルム(7)が明度値(正の対照)に関して最も小さい偏差を示す。 反対に、最も大きな偏差は、対照例(6)および(8)で見られた。 5.視覚評価 ヒトの色認識は、比色分析決定データから逸脱しうることが知られているので、色チャートA?Hに添付した対照例6?8を含む試験パッチの視覚評価は、試験対象により行った。 このために、試験パッチ(1?8)毎に特定の数(たとえば、10)の色チャートA?Hに貼り付けた。 これらの色チャートは、標準条件下(照明、距離、観察時間)での試験対象の群を示す。プロバンド(proband)により検知されなかったパッチの数を、-データの統計評価後-、視覚的な目立ち難さおよびそれによるパッチの視覚遮蔽効果の測定に使用した。 図1において、個々の試験パッチNo.1?8を、それらの視覚的な目立ち難さの順で棒グラフの形で表した(縦軸)。パッチNo.1および対照パッチNo.7は、色チャートのほとんどで知覚されないか、または知覚されにくかった。 【表4】 」(【0027】-【0039】) 4 判断 (1)本願発明1、2の認定 本願発明1、2は以下のとおりのものである。 「単層または多層構造マトリックス、ならびに前記マトリックスに連結する支持体層を含む医薬活性物質パッチであって、マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み、前記活性物質パッチは、 -透明または少なくとも半透明であり、 -前記パッチが、第一の人物に適用された状態で、その適用期間中、パッチで覆われた皮膚部分において、適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L_(2)に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L_(1)を有し、そして -同じことが任意の第二の人物の皮膚においてもあてはまる、但し第一の人物および任意の第二の人物のL_(2)が5°?100°の範囲であり、 ここで、前記パッチが、 - 減少した反射特性を有すること、 および/または - 染料、顔料、光学曇り剤の群から選択される1種または2種以上の物質を含むこと、 を特徴とする、前記医薬活性物質パッチ。」(本願発明1) 「単層または多層構造マトリックス、ならびに前記マトリックスに連結する支持体層を含む医薬活性物質パッチであって、マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み、前記活性物質パッチは、 -透明または少なくとも半透明であり、 -前記パッチが、第一の人物に適用された状態で、その適用期間中、パッチで覆われた皮膚部分において、適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L_(2)に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L_(1)を有し、そして -同じことが任意の第二の人物の皮膚においてもあてはまる、但し第一の人物および任意の第二の人物のL_(2)が20°?90°の範囲であり、 ここで、前記パッチが、 - 減少した反射特性を有すること、 および/または - 染料、顔料、光学曇り剤の群から選択される1種または2種以上の物質を含むこと、 ことを特徴とする、前記医薬活性物質パッチ。」(本願発明2) (2)「パーセントの差」について 本願発明1は、「-前記パッチが、第一の人物に適用された状態で、その適用期間中、パッチで覆われた皮膚部分において、適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L_(2)に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L_(1)を有し、そして -同じことが任意の第二の人物の皮膚においてもあてはまる、但し第一の人物および任意の第二の人物のL_(2)が5°?100°の範囲であり」との物性値で規定されるものであるところ、係る明度色値に関し、本願実施例(上記3(2))では、「4.明度値の差異の決定」との項において、 「一方で色チャートA?Hに添付されたパッチタイプ(No.1?5および対照No.6?8)の明度色値L_(1)と他方でそれぞれの色チャートA?Hの明度色値L_(2)間のパーセントの差を、表4に表す。」としているが、係る「パーセントの差」に関し、これがどのような値を示すものか、明細書の何れにも定義がなく、如何なる記載を参酌しても判然としない。 請求人は請求の理由「B.表4における「パーセントの差」について」において、「L_(1)とL_(2)との「パーセントの差」は…以下に述べるとおり、|L_(1)-L_(2)|/L_(2)で表されるものであります。 …表4中の数値は一定の値を示すL_(2)の値に基づくものでありますから、この本願明細書[0033]([0034]の誤記と解される。)の表3において示されている各色チャートのL_(2)値および表4中の数値Lに基づき、L_(1)の値、およびL_(2)に対するL_(1)のパーセンテージ(%)を容易に算出できます。一例として審判官殿ご指摘のパッチNo.4(2.00%顔料)のEについて具体的に説明します。 まず、色チャートEのL_(2)値は、50.596(表3)であります。表4中のパッチNo.4のLは33.528%であり、これは、L_(1)およびL_(2)の差が33.528%であることを示しています。L_(2)は前記のとおり50.596でありますから、L_(1)は次の二通りがあります。すなわち、 『・ L_(1)が33.63(L_(1)=L_(2)-L_(2)のL%、すなわち「50.596-(50.596×0.33528)」)であり、したがって、L_(1)がL_(2)の66.5%、 または、 ・ L_(1)が67.57(L_(1)=L_(2)+L_(2)のL%、すなわち「50.596+(50.596×0.33528)」)であり、したがって、L_(1)はL_(2)の133.53%、 であり、このいずれも、請求項における規定(L_(1)がL_(2)の50%?200%)の範囲内であります。』(註:『』は、下記検討の補助として付与したものである。) これらの説明からも分かるとおり、表4における数値Lは文字通りL_(1)とL_(2)間の「パーセントの差」であり、これを数式で示すと、L=|L_(1)-L_(2)|/L_(2)であります。」と主張する。 しかし、この主張の根拠となるものは何ら存在しない。また、上記『』部分の数式は、例えば、第一式から導出されるL_(1)はL_(2)の66.5%ではなく66.472%、すなわち、100%-「33.528」%、第二式から導出されるL_(1)はL_(2)の133.53%ではなく133.528%、すなわち、100%+「33.528」%であり、表4中のパッチNo.4のLの「33.528」なる数値を%表記、「パーセントの差」をL=|L_(1)-L_(2)|/L_(2)と仮定したことを単に繰り返しているに過ぎない。このため、『』部分の数式は、上記「パーセントの差」が|L_(1)-L_(2)|/L_(2)を意味していたことの根拠にはならない。 また、請求人は、平成28年5月25日提出の意見書において、「前掲意見書での説明の有無に拘わらず、そもそも1/2L_(2)≦L_(1)≦2L_(2)で表される、本願明細書におけるL_(1)、L_(2)の定義からして、L_(1)とはL_(2)に対して百分率でいえば、50%?200%の明度ということになるところ、L_(1)とL_(2)とのパーセントの差、すなわち、L_(2)を100%とした場合のL_(1)との百分率での絶対値差は単純にL(%)=|L_(1)(%)-L_(2)(%)|となります。L_(1)、L_(2)のそれぞれの実数でこれを表すとL(%)=|L_(1)/L_(2)-1|(×100%)(=|L_(1)-L_(2)|/L_(2)(×100%))ということになるのは明らかであります。」と主張する。 しかし、「本願明細書におけるL_(1)、L_(2)の定義からして、L_(1)とはL_(2)に対して百分率でいえば、50%?200%の明度ということになる」としても、それをどのように考慮すれば上記「パーセントの差」を|L_(1)-L_(2)|/L_(2)と解することができるのか、本願明細書の如何なる記載を参酌しても何ら明らかでない。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1-16を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 そして、この出願の発明の詳細な説明により示された事項が、本願発明を実施したものか否かを確定することができないことに鑑みると、本願発明1-16は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 (3)「適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L_(2)に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L_(1)」について もし請求人が請求の理由において主張するとおり、上記「パーセントの差」が|L_(1)-L_(2)|/L_(2)を意味するものとすれば、例えば表4中のパッチNo.5のBにおいては、21.791-(21.791×0.545)≒9.915、21.791+(21.791×0.545)≒33.607となり、33.607は「50%以上かつ200%以下」の範囲内(すなわち21.791×50%=10.8955?21.791×200%=43.582の範囲内)であるが、9.915はこの範囲外である。そうすると、示されたデータをみるに、パッチNo.5は本願発明の範囲内にあると認識できるものであるのか否か確定することができない。このため、本願発明を追試した際どのような値を示したときが本願発明を実施したもの、あるいはそうでないものかを確定することができない。 そもそも「明度色値L_(2)に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L_(1)」との定義に関し、L_(1)の上限値はL_(2)の2倍、下限値はL_(2)の1/2倍というのは、採りうる数値幅が下方が上方の1/2であることを意味し、単純な差の絶対値(あるいはそれを定数で除したもの)でその数値の実施及びそれを採用したことによる効果の確認がどのようにして可能であるのか、見当が付かない。 また、請求人は、平成28年5月25日提出の意見書において、「Bの明度値、すなわちL_(2)は21.791とA?Hの中で最も明度の低い色チャートであって、Bに適用されたパッチ上のL_(1)値は、これと比べて高い明度となります。したがって、L_(2)に対するパーセント差である(100±54.5)%という2つの可能性のうち、L_(1)がL_(2)よりも暗い(低い)ことを意味するL_(2)の(100-54.5)%ではなく、L_(1)がL_(2)よりも明るい(高い)ことを意味するL_(2)の(100+54.5)%であることは明らかでありますから、パッチNo.5が適用されたパッチを囲む同一人物の皮膚の明度色値L_(2)に対し、50%以上かつ200%以下の明度色値L_(1)を満たしていることもまた明らかであります。なお、以上のとおりでありますから、L_(1)の実数値は21.791×1.545=33.667ということになります。」と主張する。 しかし、本願実施例(【0027】-【0029】)において用いられた本願発明1に係るパッチはどのような色調のものであるのか明らかでなく、また、平成28年5月25日提出の意見書において「仮に例えば緑色系のパッチであったとしても」とあるように、どのような色調のものまでも本願発明1に包含されるのか明らかでないことに鑑みると、Bに適用されたパッチは、どのような色調となっているのか予想することは困難であり、必ずしも「L_(1)がL_(2)よりも明るい(高い)ことを意味するL_(2)の(100+54.5)%であることは明らか」ということはできない。このため、この主張を参酌することはできない。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1-16を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 そして、この出願の発明の詳細な説明により示された事項が、本願発明を実施したものか否かを確定することができないことに鑑みると、本願発明1-16は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 (4)パッチの光学的特徴について 請求項1には「ここで、前記パッチが、 - 減少した反射特性を有すること、 および/または - 染料、顔料、光学曇り剤の群から選択される1種または2種以上の物質を含むこと」と規定されている。これに対し、上記2(2)からみて「減少した反射特性を有すること」や「染料」「光学曇り剤」を使用した実施例は存在しない。請求項1において、「および/または」、「…から選択される1種…の物質を含むこと」と規定されていることに鑑みると、本願発明1はどのようにすれば実施しうるのか、本願発明1の所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。 さらに、「顔料」を含むことについては、実施例では特定の二種類の顔料の当量混合物を使用したもののみである。このような混合物を使用した場合には、請求項1で規定した条件を満たすとしても、他にどのような顔料(混合物)を使用すれば、同条件を満たすものを製造しうるのか、発明の詳細な説明の記載をみても理解することができない。また、顔料の含有量についても、図1の記載からみて、特定の量以下に限られるものと解される。この点からみても、本願発明1はどのようにすれば実施しうるのか、本願発明1の所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。 また、請求人は、平成28年5月25日提出の意見書において、「パッチの透明度とパッチの明るさだけが重要で、パッチの透明度とパッチの明るさを変化させることのできるものなら本来何でもよいことは本発明の本質からみて明らかなところ、本発明においては、「減少した反射特性を有すること」、または光学曇り剤、染料または顔料によってその目的を達成するとしているにすぎません。 したがってなるほど実施例においては、特定の二種類の顔料の当量混合物を使用したもののみを用いているものの、物質の明度や透明性についての知識を有する当業者であれば、出願時の技術常識にてらし、用いる染料・顔料・光学曇り剤のL値を考慮して、その濃度を調整することにより、実施例相当の適度な透明性と明るさを有するパッチを製造して、当該発明の課題、すなわち、特定のL_(1)を示すパッチを提供することが可能であります。 なお、染料と顔料は、溶媒への溶解性の違いがあるに過ぎず、パッチに濃淡を与える、および/または透明度に変化を与える点において共通する物質でありますから、審判官殿の認定に反し、実施例とは異なる様々な染料や顔料を用いても、所望の効果を奏するパッチを適宜調整、選択できることは明らかであります。」と主張する。 しかし、染料、顔料、光学曇り剤は、それぞれ異なる物性を有する物質であり、それが本願発明1に係るパッチに含まれた際に、それぞれ同等の光学物性を奏すると解される根拠を見いだすことができない。請求人は「染料と顔料は、溶媒への溶解性の違いがある」ことを認識しており、そうであれば、「透明度に変化を与える点において共通する」としても、それがどの程度変化を与えるかは明らかでなく、その程度の相違によってそれぞれをどのように調整すればよいのか、当業者が過度の試行錯誤を要するものと認められる。この点からみても、本願発明1はどのようにすれば実施しうるのか、本願発明1の所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。 そして、請求項2においても、「ここで、前記パッチが、 - 減少した反射特性を有すること、 および/または - 染料、顔料、光学曇り剤の群から選択される1種または2種以上の物質を含むこと」と規定されており、本願発明2についても、本願発明1と同様の理由で、どのようにすれば実施しうるのか、本願発明2の所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1、2、及びこれに従属する本願発明3-16を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 そして、本願発明1、2、及びこれに従属する本願発明3-16は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 (5)「マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み」について 請求項1には「単層または多層構造マトリックス、ならびに前記マトリックスに連結する支持体層を含む医薬活性物質パッチであって、マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み」と規定されている。ところで、上記3(1)からみて、本願発明の解決しようとする課題は「既に存在するか、または時間の経過と共に発生する着色にも拘わらず、特にパッチが適用部位に貼付されたときに、パッチの外観が視覚的に目立たないように確保された、活性物質パッチを提供すること」にあるものと認められるところ、本願実施例(上記3(2))には「活性物質」が含まれたマトリックスを有するものが記載されておらず、「既に存在するか、または時間の経過と共に発生する着色にも拘わらず、特にパッチが適用部位に貼付されたときに、パッチの外観が視覚的に目立たない」ことについては、解決されたことが明確にされていない。このため、本願発明1は所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。 また、請求人は、平成28年5月25日提出の意見書において、「そもそも活性物質パッチの目立ちやすさは、パッチの透明度、明るさ、すなわち、パッチの反射特性、またはそこに用いられる光学曇り剤、染料および/または顔料(着色または変色成分、特に活性物質、を含む)の濃度により本質的に決定されるところ、活性物質は、着色または変色に寄与する物質であればパッチの目立ちやすさに影響するだけであって、本発明においてはそれ以上でも以下でもありませんから、活性物質の有無に拘わらず、実施例の記載のとおりの工程により請求項1に記載のパッチが得られることは、すでに明らかなことと思料します。」と主張する。 しかし、本願発明が「時間の経過と共に発生する着色にも拘わらず、特にパッチが適用部位に貼付されたときに、パッチの外観が視覚的に目立たないように確保された」ことを解決しようとする課題としている以上、これが解決されていることを確認できないからには、本願発明は何を目的としているものか皆目見当が付かず、本願発明のパッチを製造してみても、それが本願発明の目的を達成するように製造できているのか否か、確認することができない。このため、本願発明は一体どのようにすれば実施しうるのか、依然として皆目見当が付かず、上記主張を勘案することはできない。 そして、請求項2においても、「単層または多層構造マトリックス、ならびに前記マトリックスに連結する支持体層を含む医薬活性物質パッチであって、マトリックスの少なくとも1層が活性物質を含み」と規定されており、本願発明2についても、本願発明1と同様の理由で、所望の作用効果を奏するように実施しうるのか判然としない。 よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1、2、及びこれに従属する本願発明3-16を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 そして、本願発明1、2、及びこれに従属する本願発明3-16は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 5 むすび 以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明1-16について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえず、本願の特許請求の範囲の記載は、本願発明1-16について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-08-09 |
結審通知日 | 2016-08-16 |
審決日 | 2016-08-29 |
出願番号 | 特願2011-283480(P2011-283480) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 樹理 |
特許庁審判長 |
内藤 伸一 |
特許庁審判官 |
齊藤 光子 大熊 幸治 |
発明の名称 | 皮膚上で視覚的に見えにくい医薬活性剤物質パッチ |
代理人 | 葛和 清司 |
復代理人 | 矢後 知美 |