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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1324224
審判番号 不服2015-913  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-16 
確定日 2017-01-24 
事件の表示 特願2012-274198「確率的影響を低減するための照明源マスクの最適化」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月25日出願公開、特開2013-145880〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年12月17日(パリ条約による優先権主張 2012年(平成24年)1月10日、米国)の出願であって、平成25年12月18日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月17日付けで意見書が提出され、同年9月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年1月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに、同時に手続補正がされ、同年12月17日付けで当審において拒絶理由が通知され、平成28年6月7日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?15に記載された発明は、平成27年1月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。
「リソグラフィ投影装置を用いて基板上に設計レイアウトの一部を結像するリソグラフィプロセスを改善するためにコンピュータで実施される方法であって、
前記リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数を定義するステップであって、前記確率的影響が前記リソグラフィプロセスの特性である複数の設計変数の関数である、ステップと、
一定の終了条件が満たされるまで前記設計変数の1つ以上を調整することで前記リソグラフィプロセスの特性の1つ以上を再構成するステップと、を含み、
前記確率的影響は、前記リソグラフィ投影装置における低減した放射強度によって引き起こされ、前記低減した放射強度は、照明源からの低い総放射出力、照明源からの放射を整形する光学系からの放射損失、投影光学系を通る透過損失、一定線量下での光子減少を引き起こす高い光子エネルギー、又は、それらの組み合わせに帰する、方法。」

3.当審の拒絶理由の概要
当審の拒絶理由の概要は、概ね、次のとおりである。
本願発明は、「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数を定義するステップ」を発明特定事項とし、「前記確率的影響は」、「前記リソグラフィ投影装置における低減した放射強度によって引き起こされ、前記低減した放射強度は、照明源からの低い総放射出力、照明源からの放射を整形する光学系からの放射損失、投影光学系を通る透過損失、一定線量下での光子減少を引き起こす高い光子エネルギー、又は、それらの組み合わせに帰する」ものであるところ、発明の詳細な説明には、「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」について、抽象的な式の記載(【0057】、【0060】等)はあるものの、「照明源からの低い総放射出力」、「照明源からの放射を整形する光学系からの放射損失」、「投影光学系を通る透過損失」及び「一定線量下での光子減少を引き起こす高い光子エネルギー」に帰する「確率的影響」を、「多変数費用関数」として、具体的にどのように表現するのかについては記載されていない。
また、本願優先日当時の技術常識に照らしても、これらの「確率的影響」を「多変数費用関数」として、どのように具現化するかについては、明らかではない。

したがって、「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」は、具体的にどのようなものなのか、出願時の技術常識を考慮しても理解することができず、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

また、「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」が具体的にどのようなものなのか、出願時の技術常識を考慮しても理解することができないのであるから、発明の詳細な説明は、本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

さらに、「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」について、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないことから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.平成28年6月7日付けの意見書における請求人の主張
請求人は、平成28年6月7日付けの意見書において、次のように主張している。
「リソグラフィ投影装置では、例えば、EUV(例えば、5nm?20nmの範囲内の波長を有する極紫外線)照明源、又は非EUV照明源の「低減した放射強度」の使用によって、ホール等の微小な2次元フィーチャの線幅粗さ(LWR)及び局所的なクリティカルディメンション(CD)の変動等の確率的影響が強まることがあります(本願明細書の段落0055参照)。ここで、クリティカルディメンションは、線又はホールの最小幅、又は、2つの線間又は2つのホール間の最小空間を意味します(本願明細書の段落0024参照)。このような「低減した放射強度」は、「照明源からの低い総放射出力」、「照明源からの放射を整形する光学系からの放射損失」、「投影光学系を通る透過損失」、又は「一定線量下での光子減少を引き起こす高い光子エネルギー」等の要因に帰すると考えられています。
「低減した放射強度」によって引き起こされる確率的影響の関数である多変数費用関数の一例として、2次元フィーチャのLWR又は局所的CD変動の確率的影響の多変数費用関数f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))を挙げることができます(本願明細書の段落0057に記載の数式19参照)。



上式において、N_(Ph)は、照明源からの光子の線束密度を意味し、N_(Ac)は、ベースのクエンチング後に光子によって生成された酸の数密度を意味し、αは、関数fpを特定のレジスト内の特定のフィーチャの実際のLWRと照合するための線量感度又は経験的係数等の係数を意味します。本願の図6は、27nm幅の線について、NA=0.25及びNA=0.33の照明条件下で、上述の多変数費用関数f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))を用いたLWRのシミュレーション結果を示しています。このシミュレーション結果から、部分コヒーレンス係数σが小さく、且つNAが大きいと、LWRが小さくなることが分かります。ここで、注意すべき点は、「低減した放射強度」をもたらす要因が、「照明源からの低い総放射出力」、「照明源からの放射を整形する光学系からの放射損失」、「投影光学系を通る透過損失」又は「一定線量下での光子減少を引き起こす高い光子エネルギー」の何れであろうとも、これらの要因は、「照明源からの光子の線束密度」と「ベースのクエンチング後に光子によって生成された酸の数密度」とに影響を与えるという点で共通しているため、「低減した放射強度」をもたらす要因がどの要因であろうとも、それによって引き起こされる確率的影響の多変数費用関数f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))は、本願明細書の段落0057に記載の数式19の如く記述できるという点です(言い換えれば、「低減した放射強度」をもたらす要因を区別して、「低減した放射強度」によって引き起こされる確率的影響の多変数費用関数を考察する必要がありません)。従って、本願明細書の段落0057に記載の数式19は、「照明源からの低い総放射出力」、「照明源からの放射を整形する光学系からの放射損失」、「投影光学系を通る透過損失」及び「一定線量下での光子減少を引き起こす高い光子エネルギー」に帰する「確率的影響」を、「多変数費用関数」として、具体的に記載するものであり、それ故、請求項1に記載の「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」が具体的にどのようなものなのかは、当業者が容易に理解し得るものと思料致します。」

5.当審の判断
(1)請求項1に記載された「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」について、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
ア 「【0014】
[0014] 低k_(1)のフォトリソグラフィでは、照明源及びパターニングデバイスの両方の最適化は、クリティカル回路パターンの投影のために実現可能なプロセスウィンドウを確実に行うのに有用である。幾つかのアルゴリズム(例えば、Socha他のProc. SPIE vol. 5853, 2005, p.180)は、照明を独立した照明源ポイントに分離し、空間周波数領域において回折次数へとマスクし、照明源ポイントの光強度及びパターニングデバイスの回折次数から得た光学結像モデルによって予測可能な露光寛容度などのプロセスウィンドウメトリックに基づいて費用関数(選択された設計変数の関数として定義される)を別個に作成する。本明細書で用いられる「設計変数」という用語は、リソグラフィ投影装置の一組のパラメータ、例えばリソグラフィ投影装置のユーザが調整できる複数のパラメータを含む。照明源、パターニングデバイス、投影光学系の特性、及び/又はレジスト特性を含むリソグラフィ投影プロセスのあらゆる特性は、最適化における設計変数の中にあってもよいことを理解されたい。費用関数は、多くの場合、設計変数の非線形の関数である。次に、費用関数を最小限にするために、標準的な最適化技術が使用される。」
イ 「【0027】
[0039] システムの最適化プロセスで、システムの性能指数は費用関数として表すことができる。最適化プロセスは、要するに、費用関数を最小限にするシステムの一組のパラメータ(設計変数)を発見するプロセスである。費用関数は、最適化の目標に応じたあらゆる好適な形態を有することができる。例えば、費用関数は、システムの特性の所期の値(例えば理想値)に対するシステムの特定の特性(評価ポイント)の偏差の重み付き2乗平均平方根(RMS)であってもよく、費用関数はこれらの偏差の最大値(すなわち、最悪の偏差)であってもよい。本明細書の「評価ポイント」という用語は、システムのあらゆる特性を含むように広義に解釈すべきである。システムの設計変数は、有限範囲に限定でき、及び/又はシステムの実施態様の実用性により相互依存であってもよい。リソグラフィ投影装置の場合には、多くの場合、制約条件は調整可能な範囲などのハードウェアの物理的な性質及び特性、及び/又はパターニングデバイスの製造可能性の設計ルールに関連づけられ、また、評価ポイントは、基板上のレジスト像の物理的ポイントと、線量及び焦点などの非物理的特性を含んでいてもよい。」
ウ 「【0033】
[0045] リソグラフィ投影装置では、一例として、費用関数が下式で示される。
【数1】

ここで、(z_(1),z_(2),...,z_(N))は、そのN個の設計変数又は値であり、f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))は、実際の値と設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))の値の組に対する評価ポイントにおける特性の所期の値との間の差である。w_(p)は、f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))に関連付けられた重み定数である。他のものよりクリティカルの評価ポイント又はパターンには、より大きなwp値を割り当てることができる。発生回数の多いパターン及び/又は評価ポイントには、より大きなwp値を割り当てられてもよい。評価ポイントの例は、基板上の任意の物理的ポイント又はパターン、仮想設計レイアウト、又はレジスト像、又は空間像、又はそれらの組合せの任意のポイントであってもよい。f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))は設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))の関数であるLWRなどの1つ以上の確率的影響の関数であってもよい。費用関数は、リソグラフィ投影装置又は基板の任意の好適な特性、例えば、焦点、CD、像移動、像歪み、像回転、確率的影響、スループット、CDU、又はそれらの組合せなども表してよい。CDUは、局所的CD変動(例えば、局所的CD分布の標準偏差の3倍)である。一実施形態では、費用関数は、CDU、スループット、及び確率的影響を表す(すなわち、その関数である)。一実施形態では、費用関数はEPE、スループット、及び確率的影響を表す(すなわち、その関数である)。一実施形態では、設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))は、線量、パターニングデバイスのグローバルバイアス、照明源からの照明の形状、又はそれらの組合せを含む。レジスト像が基板上の回路パターンを規定することが多いため、費用関数は、多くの場合、レジスト像の幾つかの特性を表す関数を含む。例えば、このような評価ポイントのf_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))は、単に、レジスト像のポイントとそのポイントの所期の位置との間の距離(すなわちエッジ配置誤差EPE_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))であってもよい。設計変数は、照明源、パターニングデバイス、投影光学系、線量、焦点などの調整可能なパラメータなどの任意の調整可能なパラメータであってもよい。投影光学系は、照射ビームの波面形状及び強度分布及び/又は位相シフトを調整するのに使用できる「波面マニピュレータ」と総称されるコンポーネントを含んでもよい。投影光学系は、好ましくは、パターニングデバイスの前、瞳面の近く、結像面の近く、焦点面の近くなど、リソグラフィ投影装置の光路に沿った任意の位置で波面及び強度分布を調整することができる。投影光学系は、例えば照明源、パターニングデバイス、リソグラフィ投影装置内の温度変化、リソグラフィ投影装置のコンポーネントの熱膨張によって引き起こされる波面及び強度分布の一定の歪みを補正するか又は補償するために使用できる。波面及び強度分布を調整すると、評価ポイント及び費用関数の値を変化させることができる。このような変化は、モデルからシミュレートするか、又は実際に測定することができる。言うまでもなく、CF(z_(1),z_(2),...,z_(N))は式1の形式に限定されない。CF(z_(1),z_(2),...,z_(N))は、他の任意の好適な形式であってもよい。
【0034】
[0046] f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))の通常の重み付き2乗平均平方根(RMS)は、
【数2】

と定義され、したがって、f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))の重み付きRMSを最小化することは、式1で定義された費用関数
【数3】

を最小化するのに等しいことに留意されたい。したがって、f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))及び式1の重み付きRMSは、本明細書の表記上の簡易さのために交換可能に使用することができる。
【0035】
[0047] さらに、PW(プロセスウィンドウ)を最大化することを考慮するのであれば、別々のPW条件からの同じ物理的位置を、(式1)の費用関数における別々の評価ポイントと見なすことができる。例えば、N個のPW条件を考慮するのであれば、それらのPW条件に従って評価ポイントを分類して、費用関数を
【数4】

と記述でき、ここで、
【数5】

は、u番目のPW条件u=1,...,Uの下のf_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))の値である。f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))がEPEのとき、上記費用関数を最小化することは、様々なPW条件下でエッジシフトを最小化することに等しく、したがってこれはPWの最大化をもたらす。具体的には、PWが、別々のマスクバイアスからなる場合、上記の費用関数を最小化することは、MEEF(マスク誤差増大係数)を最小化することも含み、MEEFは、基板EPEと誘起されるマスクエッジバイアスとの間の比として定義される。
【0036】
[0048] 設計変数は制約条件を有してもよく、これは(z_(1),z_(2),...,z_(N))∈Zと表すことができ、Zは設計変数の一組の可能な値である。設計変数に対する1つの可能な制約条件は、リソグラフィ投影装置の所望のスループットによって課すことができる。所望のスループットは線量を制限でき、したがって、確率的影響に対する含意(例えば、確率的影響に下限を課すこと)を有する。スループットが上がると一般に線量が下がり、露光時間が短くなり、確率的影響が増大する。基板のスループットと確率的影響の最小化を考慮することは、設計変数の可能な値を制約する場合がある。何故なら、これは、確率的影響が設計変数の関数であるからである。所望のスループットによってこのような制約条件が課されない場合、最適化によって一組の非現実的な設計変数の値が生まれることがある。例えば、線量が設計変数の中にある場合、このような制約条件がなければ、最適化はスループットを経済的に不可能にする線量値を生むことがある。しかし、制約条件の有用性は必須と解釈すべきではない。
【0037】
[0049] したがって、最適化プロセスは、(z_(1),z_(2),...,z_(N))∈Zの制約条件下で、費用関数を最小化する設計変数の値の組を見つけることであり、すなわち、
【数6】

を見つけることである。
【0038】
[0050] ある実施形態によるリソグラフィ投影装置を最適化する一般的な方法が図3に示されている。この方法は、複数の設計変数の多変数費用関数を定義するステップ302を含む。設計変数は照明源の特性(300A)(例えば、瞳充填率、すなわち、瞳又はアパーチャを通過する照明源の放射のパーセンテージ)、投影光学系の特性(300B)及び設計レイアウトの特性(300C)から選択された任意の好適な組合せを含んでもよい。例えば、設計変数は照明源の特性(300A)と設計レイアウトの特性(300C)(例えば、グローバルバイアス)とを含み、投影光学系の特性(300B)を含まなくてもよく、この場合、SMOが実行される。あるいは、設計変数は照明源の特性(300A)、投影光学系の特性(300B)及び設計レイアウトの特性(300C)を含んでいてもよく、この場合、照明源-マスク-レンズ最適化(SMLO)が実行される。ステップ304で、費用関数が収束する方向へ動くように、複数の設計変数が同時に調整される。ステップ306で、事前定義された終了条件が満たされているか否かが判断される。所定の終了条件は様々な可能性を含んでいてもよい。すなわち、使用される数値的手法の要求に応じて費用関数を最小化又は最大化することができる、費用関数の値がしきい値に等しくなった、又はしきい値を横切った、費用関数の値が事前設定された誤差限界内に到達した、又は反復が事前設定された回数に到達した、ことを含むことができる。ステップ306で条件のいずれかが満たされた場合、この方法は終了する。ステップ306で条件のどれも満たされない場合、所望の結果が得られるまで、ステップ304及び306が反復して繰り返される。」
エ 「【0055】
[0067] リソグラフィ投影装置では、例えば、EUV(例えば、5nm?20nmの範囲内の波長を有する極紫外線)照明源又は非EUV照明源の低減した放射強度の使用によって、ホールなどの微小な2次元フィーチャにおける顕著な線幅粗さ(LWR)及び局所的CD変動などの確率的影響が強まることがある。EUV照明源を用いたリソグラフィ投影装置では、低減した放射強度は、照明源からの低い総放射出力、照明源からの放射を整形する光学系からの放射損失、投影光学系を通る透過損失、一定線量下での光子減少を引き起こす高い光子エネルギー、などに帰することができる。確率的影響は、光子発射雑音、光子生成二次電子、レジスト内の光子生成酸、などの因子に帰することができる。EUVが必要とされるフィーチャの微小サイズはこれらの確率的影響をさらに悪化させる。微小フィーチャにおける確率的影響は製造歩留まりの重要な因子であり、リソグラフィ投影装置の様々な最適化プロセス内への組み込みを正当化する。
【0056】
[0068] 放射強度が同じであれば、各基板の露光時間が短いほど、リソグラフィ投影装置のスループットが向上するが、確率的影響も強くなる。所与の放射強度下での所与のフィーチャ内の光子発射雑音は露光時間の平方根に比例する。リソグラフィには、EUV及びその他の放射源を用いてスループットを上げるために露光時間を短縮するという要望が存在する。したがって、最適化プロセスで確率的影響を考慮する本明細書に記載の方法及び装置はEUVリソグラフィに限定されない。
【0057】
[0069] 一実施形態では、費用関数は2次元フィーチャのLWR又は局所的CD変動などの1つ以上の確率的影響の関数である少なくとも1つのf_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))を含む。例えば、
【数19】

が成立する。ここで、N_(Ph)は照明源からの光子の線束密度であり、N_(Ac)はベースのクエンチング後に光子によって生成された酸の数密度、αは式7を特定のレジスト内の特定のフィーチャの実際のLWRと照合する線量感度又は経験的係数などの係数である。N_(Ph)及びN_(Ac)は様々なモデルから測定し、経験的に決定し、又はシミュレートすることができる。式7内の例示のf_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))は、2次元フィーチャの線フィーチャのLWR又はCD変動を測定する。言うまでもないが、f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))は1つ以上の確率的影響の関数であるその他の任意の好適な形態をとってもよい。別の例では、f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))は、1つ以上の確率的影響とEPEなどのその他のメトリックとの組合せの関数である。
【0058】
[0070] 図5は、厳密なモデル化から計算した確率的影響との式7におけるf_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))の詳細な照合を示す。厳密なモデル化は、NA=0.33でレジストぼけが7nmの照明源に対してそれぞれ上側曲線から下側曲線まで半ピッチが20nm、22nm、24nm、26nm、28nm、30nm、及び32nmの線について実行された。厳密なモデル化は最適化手順内であまりに演算コストがかかる。図5で、シンボルは厳密なモデル化によって予測されるLWRである。様々なシンボルが様々な稠密な線の半ピッチ値に対応する。曲線は厳密なモデル化の結果に式7をすり合わせる。
【0059】
[0071] 図6は、27nm幅の線についてリソグラフィ投影装置(NA=0.25及びNA=0.33)の幾つかの照明条件下での式7のモデルを用いたLWRの予測を示す。部分コヒーレンス係数σが小さくNAが大きいと、LWRが小さくなる。」

(2)これらの記載によると、「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」は、「照明源の特性(300A)(例えば、瞳充填率、すなわち、瞳又はアパーチャを通過する照明源の放射のパーセンテージ)、投影光学系の特性(300B)及び設計レイアウトの特性(300C)から選択された任意の好適な組合せを含んでもよい」(上記(1)ウの【0038】)、「線量、パターニングデバイスのグローバルバイアス、照明源からの照明の形状、又はそれらの組合せを含む」(同【0033】)「一組の可能な値である」(同【0036】)「設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))を用いて表すことができて、「2次元フィーチャのLWR又は局所的CD変動などの1つ以上の確率的影響の関数である少なくとも1つのf_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))を含」む(上記(1)エの【0057】)ことがわかる。

そして、上記式7の「f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))」において、「N_(Ph)は照明源からの光子の線束密度であり、N_(Ac)はベースのクエンチング後に光子によって生成された酸の数密度、αは式7を特定のレジスト内の特定のフィーチャの実際のLWRと照合する線量感度又は経験的係数などの係数であ」って、「N_(Ph)及びN_(Ac)は様々なモデルから測定し、経験的に決定し、又はシミュレートすることができ」(上記(1)エの【0057】)ることは記載されていると認められる。

しかしながら、「照明源の特性(300A)(例えば、瞳充填率、すなわち、瞳又はアパーチャを通過する照明源の放射のパーセンテージ)、投影光学系の特性(300B)及び設計レイアウトの特性(300C)から選択された任意の好適な組合せを含んでもよい」、「線量、パターニングデバイスのグローバルバイアス、照明源からの照明の形状、又はそれらの組合せを含む」「一組の可能な値である」「設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))」を、関数に用いる値として、具体的にどのような値を用いればいいのかまでは、発明の詳細な説明には記載されているとは認められない。また、記載がなくとも、当業者にとって自明な事項であるということもできない。

また、上記式7の「f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))」において、「N_(Ph)は照明源からの光子の線束密度であり、N_(Ac)はベースのクエンチング後に光子によって生成された酸の数密度、αは式7を特定のレジスト内の特定のフィーチャの実際のLWRと照合する線量感度又は経験的係数などの係数であ」って、「N_(Ph)及びN_(Ac)は様々なモデルから測定し、経験的に決定し、又はシミュレートすることができ」るとしても、上述したように、「設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))」が具体的にどのような値を用いればいいのか不明であり、仮に、「設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))」の値が存在したとしても、「N_(Ph)及びN_(Ac)」の値と、「設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))」とをどのように関連付けるのかについて、発明の詳細な説明には記載されておらず、式7における「設計変数(z_(1),z_(2),...,z_(N))」並びに「N_(Ph)(z_(1),z_(2),...,z_(N))」及び「N_(Ac)(z_(1),z_(2),...,z_(N))」が具体的にどのようなものであるか、理解することができない。

そして、「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」がどのようなものであるかは、当業者の技術常識であるとも認められない。

したがって、発明の詳細な説明の記載からは、「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」が、具体的にどのような関数となるかは、当業者の技術常識に照らしても、理解することができない。

そうすると、本願発明の発明特定事項である「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」について、当業者はどのようなものであるかは理解することができないものであって、本願明細書の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないことから、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

また、本願発明の発明特定事項である「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」について、発明の詳細な説明を参酌しても、当業者はどのようなものであるかは理解することができないのであるから、本願発明は明確であるとはいえず、本願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

そして、本願発明の発明特定事項である「リソグラフィプロセスの確率的影響の関数である多変数費用関数」について、発明の詳細な説明に、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないことから、本願発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)平成28年6月7日付けの意見書における請求人の主張について
請求人の主張は、「多変量関数f_(p)(z_(1),z_(2),...,z_(N))」ついての具体例を示すものではなく、結論を左右しない。

6.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第2号及び同項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-26 
結審通知日 2016-08-29 
審決日 2016-09-13 
出願番号 特願2012-274198(P2012-274198)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 536- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 智也  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 川端 修
伊藤 昌哉
発明の名称 確率的影響を低減するための照明源マスクの最適化  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  

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