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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H03H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H03H
管理番号 1324245
審判番号 不服2015-20415  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-16 
確定日 2017-02-15 
事件の表示 特願2014-508782「音響体積波で動作するBAWフィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 8日国際公開、WO2012/150261、平成26年 8月 7日国内公表、特表2014-519234、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2012年5月2日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2011年5月4日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特許出願であって,平成26年12月4日付けで拒絶理由通知がされ,平成27年4月7日付けで手続補正され,同年7月22日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年11月16日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日付けで手続補正がされ,その後,平成28年6月22日付けで当審より拒絶理由通知がされ,同年12月27日付けで誤訳訂正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は,平成28年12月27日付けの誤訳訂正で訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 基板上に配設された多層構造の,音響体積波で動作するBAWフィルタであって,
前記基板上に,音響ミラー(SP),第1の電極(BE),圧電層(PZ),第2の電極(TE)および,トリミング層(TR)をこの順に備えるBAW共振器が,前記多層構造の機能層によって実現され,
前記音響ミラー(SP)は金属層を備え,
さらに前記機能層によって,少なくとも1つのインダクタンスと少なくとも1つのコンデンサとを備えるバランが,前記BAW共振器に隣接して形成され,
前記インダクタンスは,前記第1の電極(BE),前記第2の電極(TE),又は前記音響ミラー(SP)の金属層を構成する前記機能層の一層又は多層により形成され,
前記コンデンサは,前記第1の電極(BE),前記第2の電極(TE),又は前記音響ミラー(SP)の金属層を構成する前記機能層のうちの2つの異なる層の互いに重なる部分により形成されている,
ことを特徴とするBAWフィルタ。」

なお,本願発明2ないし4及び8は,本願発明1を減縮したものであり,本願発明5ないし7は,本願発明1を引用し,かつ,製法に係る処理を付加した製造方法に係る発明であるから,実質的に本願発明1を減縮したものである。

第3 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2006-94457号公報)には,「不平衡-平衡入出力構造のFBARフィルター」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0004】
しかし,最近は無線通信の使用が極大化するにつれながら,MMIC化が容易で,超高周波(15GHz)において動作可能で,超軽量,超小型化可能なフィルム体積弾性共振(Film bulk acoustic resonator,以下FBARという)フィルターが次世代素子として研究されている。
【0005】
FBARはシリコン(Si,GaAs Wafer)基板上に圧電体であるZnO(Zinc Oxide)や,AlN(Aluminum Nitride)をRF Magnetron Sputtering(高周波スパッタリング)法で蒸着し圧電現象を発生させ,一定の周波数帯域で共振を発生させるものとして,上部または下部電極に入力が与えられると圧電効果によりBAW(Bulk Acoustic Wave)が発生し,上記BAW周波数と入力された電気信号の周波数とが同じになると共振現象が起こる。そして,この共振現象を利用した共振器らを電気的にカップリング化してFBARフィルター,ひいてはFBARデュープレキサまで具現することができる。」(第3ページ)

イ 「【0014】
本発明は上述した従来の問題を解決するためのもので,その目的は入力信号をフィルタリングするフィルター回路と不平衡信号を平衡信号に変換するバラン回路を単一チップ上に具現しながら量産性が高い不平衡-平衡入出力構造のFBARフィルターを提供することにある。」(第4ページ)

ウ 「【0023】
図3は本発明による不平衡-平衡入出力構造FBARフィルターの構造を示す断面図である。
【0024】
上記図3によると,本発明による不平衡-平衡入出力構造のFBARフィルターは,Siなどで具現される基板(30)上にフィルター回路部(31)とバラン回路部(32)を同時に形成するのに特徴がある。
【0025】
上記フィルター回路部(31)は多数(複数)のFBAR共振器(31a)の組合から成り,上記FBAR共振器(31a)は基板(30)の上部に下部電極層/圧電層/上部電極層が順次に積層されるサンドイッチ構造から成る。上記フィルター回路部(31)はこうした共振器(31a)を信号ラインに直列で連結される1つ以上のシリーズ(series)共振器と信号ラインと接地ライン間に具備される1つ以上のシャント(shunt)共振器に形成した後回路連結することにより具現されるが,この際回路結合はラダー(ladder)タイプ,ラティス(lattice)タイプなどから成る。こうした具体的な回路具現は通常知られている。
【0026】
さらに,図3には示されないが,各FBAR共振器(31a)らの下部にはエアギャップ(air-gap)或いはブラッグ(bragg)反射層などのように,FBAR共振器(31a)から発生した音波が基板(30)の他領域に伝わるのを防止する構造が含まれる。
【0027】
そして,上記フィルター回路部(31)はドライフィルム或いは他ポリマーなどのような誘電物質などを通してキャップ構造でハーメチックシーリング(hermetic sealing)される。より具体的に,上記キャップ構造はFBAR共振器(31a)の周辺に所定の高さで設けられた側壁(31b)と,上記FBAR共振器(31a)の上部所定高さに位置して側壁(31b)と結合され内部を密封させる上部カバー(31c)から成る。ここで,上記側壁(31b)及び上部カバー(31c)を成す物質はバラン(32)の誘電層にも使用できる物質でさえあれば,ドライフィルムに限らず,様々なポリマー(polymer)などのような上記条件を満足する如何なる物質を用いてもよい。
【0028】
次に,上記バラン回路部(32)は多数(複数)の金属層上に形成される受動集積素子(IPD)(32a?32d)と上記多数金属層間に具備される多数(複数)の誘電層(33a,33b)とで成る。
【0029】
とりわけ,上記バラン回路部(32)は上記フィルター回路部(31)のキャップ構造物と単一工程により形成されるよう,MMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)化できるIPD(Intergrate Passive Device)バランで具現されるものとして,受動素子,例えばλ/4ストリップライン,R,L,Cなどが分かれて形成される複数例えば3個の金属層と,上記金属層間に具備される第1,2誘電層(33a,33b)とで成る。
【0030】
上記バラン回路部(32)を具現するIPDバランとしては,λ/4伝送線路で形成される伝送線路タイプのマーチャントバラン(marchand balun)と,多数(複数)のインダクタ及びキャパシタで具現されたlumped element(集中定数素子)typeバラン好ましい。これらIPDバランは多層セラミック基板上に具現されたLTCC(低温度焼成多層セラミック基板)バランに比して優れた挿入損失とスリム化が可能な利点がある。一般にIPDバランは高抵抗のSi基板上に多層構造でR,L,C回路を構成して集積化した構造から成る。この際,抵抗(R)の材料にはNiCr,キャパシタ(C)の誘電材料にはSiN,インダクタ(L)の電極材料は蒸着法或いはメッキ法により成る1?20μm厚さのAu,Cuなどが使用される。即ち,本発明の不平衡-平衡入出力構造のFBARフィルターにおいては,バラン回路部(32)は上記フィルター回路部(31)の側壁(31b)及び上部 カバー(31c)と同時に形成される第1,2誘電層(33a,33b)の上下面にこうしたR,L,C回路を3層構造で形成したものである。
【0031】
例えば,図3に示したバラン回路部(32)は伝送線路タイプのバラン回路で具現されたものとして,基板(30)の上部面上に形成される第1金属層にはλ/4ストリップライン(32a)が形成され,第1誘電層(33a)と第2誘電層(33b)の間に位置した第2金属層にはインダクタ(32b)とキャパシター(32d)の一部が形成され,上記第2誘電層(33b)の上部面に形成される第3金属層にはλ/4ストリップライン(32c)とキャパシター(32d)の残りの部分が形成される。上記においてλ/4ストリップライン(32a,32c)は素子サイズの減少のために,螺旋型或いはメアンダーライン(meander line)形状で具現されることが好ましい。上記構造はバラン回路部(32)の設計に応じて様々な形態に変形されることができる。」(第5-7ページ)

エ 「【0041】
先ず,基板(30)上に上記フィルター回路部(31)の共振器(31a)及びバラン回路部(32)の第1金属層を同時にまたは順次に形成する。次いで,上記フィルター回路部(31)の側壁(31b)とバラン回路部(32)の第1誘電層(33a)を同一物質を利用して同一厚さで形成する。そして,第1誘電層(33a)の上部にバラン回路部(32)の第2金属層を形成する。次いで,上記フィルター回路部(31)の上部カバー(31c)と第2誘電層(33b)を同一物質を利用して同一厚さで形成する。最後に,上記第2誘電層(33b)の上部にバラン回路部(32)の第3金属層を形成する。以上のように,本発明のFBARフィルターは,フィルター回路部(31)とバラン回路部(32)を形成する各々の工程中一部工程,即ちキャップ構造物を形成する工程と,誘電層を形成する工程とを単一工程で具現できるので,工程を簡素化させることができる。さらに,不平衡-平衡入出力構造のFBARフィルターを具現するにおいて,優れた量産性が立証されたIPDバランを利用することにより,FBARフィルター自体の歩留まりを向上させることができる。」(第8ページ)

オ 「

」(第9ページ)

カ 「

」(第9ページ)

a.前記イ及び前記ウの【0024】より,引用文献1には,「フィルター回路部」と「バラン回路部」とからなる「FBARフィルター」が記載されている。
そして,前記アより,「FBARフィルター」は,BAW(Bulk Acoustic Wave)すなわち,音響体積波で動作することが明らかである。

b.前記ウ,エ及びオ(図3)より,「FBARフィルター」は,基板(30)上に配設された多層構造により構成されている。
この多層構造について詳細に検討する。
前記ウの【0029】及び前記オ(図3)には,「バラン回路部」が,3つの金属層と,金属層間に形成される「第1誘電層」(33a)及び「第2誘電層」(33b)とで構成されることが記載されている。また,前記エより,基板上にある金属層を「第1金属層」,「第1誘電層」(33a)と「第2誘電層」(33b)との間の金属層を「第2金属層」,また,「第2誘電層」(33b)上の金属層を「第3金属層」と称することが記載されている。
つまり,「バラン回路部」における多層構造は,下から順に,「第1金属層」,「第1誘電層」,「第2金属層」,「第2誘電層」及び「第3金属層」という構造となっているといえる。
一方,前記ウの【0027】,前記エ及び前記オ(図3)より,「フィルター回路部」の多層構造は,下から順に,「第1金属層」,「側壁」(31b)及び「上部カバー」(31c)という構造となっており,前記「第1金属層」を自身の「下部電極層」として兼用する「FBAR共振器」(31a)が,「基板」と「上部カバー」の間に形成されている。
さらに,前記ウの【0027】及び【0030】並びに前記エより,「第1金属層」(下部電極層),「側壁」及び「上部カバー」のそれぞれと,「第1金属層」,「第1誘電層」及び「第2誘電層」のそれぞれとは,同一物質を利用し同一工程で形成されるものであり,同一工程で形成される各層は,同一の層といい得るものである。
そうすると,前記「FBARフィルター」は,全体としてみれば,基板上に配設された,第1金属層(下部電極層),第1誘電層(側壁)及び第2誘電層(上部カバー)の3層からなる多層構造を備えているといえる。

c.前記a.及びb.を総合すると,引用文献1には,「基板上に配設された,第1金属層,第1誘電層及び第2誘電層の3層からなる多層構造の,音響体積波で動作するFBARフィルター」が記載されているといえる。

d.前記ウ(特に,【0025】ないし【0027】)及びオ(図3)より,「フィルター回路部」を構成する「FBAR共振器」は,基板上に,反射層,下部電極層,圧電層,上部電極層が,この順に積層されて形成されたものである。
このうち,「下部電極層」は,前記エ及び前記オ(図3)より,「第1の多層構造」の「第1金属層」によって実現されている。
そうすると,引用文献1には,「前記基板上に,反射層,下部電極層,圧電層,および,上部電極層をこの順に備えるFBAR共振器が形成され,前記下部電極層が,前記多層構造の前記第1金属層によって実現され」ることが記載されているといえる。

e.前記b.で検討したように,「バラン回路部」は,前記「多層構造」(「第1金属層」,「第1誘電層」及び「第2誘電層」)と,「第2金属層」及び「第3金属層」とで形成されている。
また,前記ウの【0030】の「上記バラン回路部(32)を具現するIPDバランとしては,(…中略…)多数(複数)のインダクタ及びキャパシタで具現されたlumped element(集中定数素子)Typeバランが好ましい。」との記載から,「バラン回路部」は,複数のインダクタと複数のキャパシタを備えるものと解される一方,前記カ(図4-1)より,バラン回路(422,423)が,1つのインダクタと1つのキャパシタを備えることが見て取れる。
さらに,前記オ(図3)より,「バラン回路部」は,「フィルター回路部」の「FBAR共振器」に隣接して形成されることが見てとれる。
そうすると,引用文献1には,「さらに前記多層構造と,第2金属層及び第3金属層とによって,少なくとも1つのインダクタと少なくとも1つのキャパシタとを備えるバラン回路部が,前記FBAR共振器に隣接して形成され」ることが記載されているといえる。

f.前記ウの【0031】及び前記オ(図3)より,「インダクタ」は,「第2金属層」により形成され,「キャパシタ」は,「第2金属層」と「第3金属層」とにより形成されている。なお,「キャパシタ」を,誘電体と2つの金属(層)とで構成する場合,2つの金属が互いに重なるように形成すべきことは,本願の優先日における技術常識である。

そうすると,前記a.ないしf.の検討,前記アないしカの記載及び本願の優先日における技術常識を参酌すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 基板上に配設された,第1金属層,第1誘電層及び第2誘電層の3層からなる多層構造の,音響体積波で動作するFBARフィルターであって,
前記基板上に,反射層,下部電極層,圧電層,および,上部電極層をこの順に備えるFBAR共振器が形成され,前記下部電極層が,前記多層構造の前記第1金属層によって実現され,
さらに前記多層構造と,第2金属層及び第3金属層とによって,少なくとも1つのインダクタと少なくとも1つのキャパシタとを備えるバラン回路部が,前記FBAR共振器に隣接して形成され,
前記インダクタは,前記第2金属層により形成され,
前記キャパシタは,前記第2金属層及び前記第3金属層の互いに重なる部分により形成されている,
ことを特徴とするBAWフィルター。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2002-268644号公報)には,「モノリシックFBARデュプレクサおよびそれを作製する方法」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

キ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は薄膜バルク音響波共振器に関する。さらに具体的には,薄膜バルク音響波共振器から作製されるバルク音響波フィルタおよびバルク音響波デュプレクサに関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】図9に示されるように,薄膜バルク音響波(BAW)共振器10は,圧電体材料,たとえばZnOまたはAlNの層をベースにした共振器部分11を含み,いくつかの共振器は音響ミラー12を含む。図示しないが,ブリッジ型BAW共振器と呼ばれる他の共振器は,独立した膜を含む)。これらのすべては,たとえばガラスから作られた基板14の上に取り付けられている。BAW共振器は,音響波を電気信号へ,またはその逆へ変換し,その電気インピーダンス周波数依存性のために電子回路におけるフィルタとして使用することができる。
【0003】一般的には,音響ミラー型BAW共振器の音響ミラーは,異なった音響インピーダンスの材料層の組み合わせから形成される。音響ミラーは,異なった材料層のスタックを基板上に形成するように,異なった材料の様々な層を堆積することによって,たとえばガラスの基板の上に形成される。つぎに,下部電極が音響ミラーの上に堆積され,続いて圧電体材料が下部電極の上に堆積されて,いわゆる圧電体層が形成される。最後に,上部電極が圧電体層の上に堆積される。上部電極,下部電極,および圧電体層の組み合わせは,素子の共振器セクションと呼ばれる。音響ミラーは,電極間に印加された電圧に応答して圧電体層によって作り出された音波を反射するように働き,それによって基板を圧電体層から音響的に絶縁する。図12は,実質的に異なった周波数で帯域フィルタの一部分として動作するように作製された2つの音響ミラー型BAW共振器の断面を示す。」(第2-3ページ)

ク 「

」(第10ページ)

前記キより,引用文献2には,「基板上に,音響ミラー,下部電極,圧電層,および,上部電極をこの順に備えるBAW共振器が形成され」る「BAWフィルタ」が記載されている。
さらに,前記ク(図9)より,「音響ミラー」は,金属層(W:タングステン)を備えることが見てとれる。

以上の検討より,引用文献2には,周知技術として,次の事項が記載されていると認める。(以下,「周知事項」という。)

「 基板上に,音響ミラー,下部電極,圧電層,および,上部電極をこの順に備えるBAW共振器が形成され,
前記音響ミラーは,金属層を備える,
BAWフィルタ。」

第4 当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

引用発明における「FBARフィルター」は,「音響体積波で動作」する「フィルター」であって,「BAWフィルタ」の一種であることが明らかであるから,本願発明1における「BAWフィルタ」に相当する。
また,機能的にみれば,引用発明における「バラン回路部」,「FBAR共振器」,「インダクタ」及び「キャパシタ」のそれぞれと,本願発明1における「バラン」,「BAW共振器」,「インダクタンス」及び「コンデンサ」のそれぞれとは,「バラン手段」,「BAW共振手段」及び「インダクタンス手段」及び「コンデンサ手段」である点において共通する。
引用発明における「反射層」は,音響を反射する機能を有していることは自明であるから,後述する相違点を除いて,本願発明1の「音響ミラー」に相当する。同様に,引用発明における「下部電極層」,「圧電層」及び「上部電極層」はそれぞれ,本願発明1の「第1の電極(BE)」,「圧電層(PZ)」及び「第2の電極(TE)」に相当する。
引用発明における「多層構造」を構成する「第1金属層」,「第1誘電層」及び「第2誘電層」はいずれも,導電機能ないし誘電(絶縁)機能を備えるから,「機能層」といい得るものである。
そうすると,「BAW共振手段」に関し,引用発明と本願発明1とは,「前記基板上に,少なくとも音響ミラー(SP),第1の電極(BE),圧電層(PZ),第2の電極(TE)をこの順に備えるBAW共振手段が,前記多層構造の機能層の少なくとも一部を用いて実現され」る点において共通するといえる。

同様に,「バラン手段」に関し,引用発明と本願発明1とは,「さらに前記機能層の少なくとも一部を用いて,少なくとも1つのインダクタンス手段と少なくとも1つのコンデンサ手段とを備えるバラン手段が,前記BAW共振手段に隣接して形成され」る点において共通するといえる。

さらに,「インダクタンス手段」に関し,引用発明と本願発明1とは,「前記インダクタンス手段は,金属層により形成され」る点において共通し,また,「コンデンサ手段」に関し,引用発明と本願発明1とは,「前記コンデンサ手段は,2つの異なる金属層の互いに重なる部分により形成されている」点において共通する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

[一致点]
「 基板上に配設された多層構造の,音響体積波で動作するBAWフィルタであって,
前記基板上に,少なくとも音響ミラー(SP),第1の電極(BE),圧電層(PZ),第2の電極(TE)をこの順に備えるBAW共振手段が,前記多層構造の機能層の少なくとも一部を用いて実現され,
さらに前記機能層の少なくとも一部を用いて,少なくとも1つのインダクタンス手段と少なくとも1つのコンデンサ手段とを備えるバラン手段が,前記BAW共振手段に隣接して形成され,
前記インダクタンス手段は,金属層により形成され,
前記コンデンサ手段は,2つの異なる金属層の互いに重なる部分により形成されている,
ことを特徴とするBAWフィルタ。」

[相違点1]
「BAW共振手段」について,本願発明1は,「トリミング層(TR)」を備えるのに対し,引用発明は,「トリミング層(TR)」に相当する層を備えない点。

[相違点2]
本願発明1は,「BAW共振器」及び「バラン」(「インダクタ」及び「キャパシタ」を含む。)のいずれもが,「多層構造の機能層」によって実現ないし形成されるのに対し,引用発明は,「FBAR共振器」の「下部電極層」のみが「多層構造の機能層」といい得る「第1金属層」によって実現され,「バラン回路部」は,「多層構造」のみならず,「第2金属層」及び「第3金属層」とによって形成される点。

[相違点3]
本願発明1は,「音響ミラー(SP)」が,「金属層」を備えるのに対し,引用発明は,「反射層」が「金属層」を備えることについて具体的な言及がない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,まず[相違点2]について検討する。
[相違点2]に係る本願発明1の構成は,周知事項には含まれておらず,本願の優先日における技術常識でもない。また,当該構成により,BAW共振器とバランとを同じ1つの機能層から製造することができる(本願の明細書の段落【0011】参照。)という顕著な効果を得ることができる。
したがって,上記[相違点1]及び[相違点3]について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明に基づいて,周知事項を参酌して容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし8について
本願発明2ないし8は,上記[相違点2]に係る本願発明1の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明に基づいて,周知事項ないし本願の優先日における技術常識を参酌しても容易に発明できたものとは認められない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,
a.補正前の請求項1について上記引用文献1,2に基づいて,また,請求項2ないし14について上記引用文献1,2に加えて引用文献3(特開2010-4395号公報)に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,
b.補正前の請求項1ないし14に係る発明は,バランとBAW共振器との構造上の関係が明確でなく,また,複数のBAW共振器の構造が明確でないから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない,
というものである。
前記a.に関し,平成28年12月27日付け手続補正書により補正された請求項1ないし8は,上記[相違点2]に係る本願発明1の構成を有するものとなっており,上記のとおり,本願発明1ないし8は,上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2に記載された周知事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
また,前記b.に関し,平成28年12月27日付け手続補正書により補正された請求項1ないし8は,「バランが,前記BAW共振器に隣接して形成され」との記載により,「バラン」と「BAW共振器」との構造上の関係が明確となり,また,「複数のBAW共振器」が記載された補正前の請求項6が削除された結果,明確となった。
したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
当審では,補正前の請求項1及び9において,「バラン」が「BAW共振器」の内部に形成される態様を含み,そのような態様は,発明の詳細な説明には記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが,前記手続補正書により,「バランが,前記BAW共振器に隣接して形成され」との事項により限定された結果,この拒絶の理由は解消した。
また,当審では,補正前の請求項4及び5において,括弧書きを参酌すれば,発明の詳細な説明に記載された,「少なくとも部分的に互いに重なって配設されている」メタライジングの組み合わせではないものを含む,との拒絶の理由を通知しているが,前記手続補正書により,補正前の請求項5が削除され,補正前の請求項4に対応する請求項3において,括弧書きを削除することにより,この拒絶の理由は解消した。
また,当審では,補正前の請求項6を引用する請求項8に係る発明は,「コンデンサ」として作用する「BAW共振器」と「バラン」とを「隣接して配設する」ものであるが,そのような態様は,発明の詳細な説明には記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが,前記手続補正により,補正前の請求項6が削除されることにより,この拒絶の理由は解消した。

2.特許法第36条第6項第2号(明確性)について
当審では,補正前の請求項1に記載の「層層」なる語が不明確である旨の,補正前の請求項1及び9の記載において,括弧書きを参酌すれば「インダクタンス」及び「コンデンサ」の数が明確でない旨の,補正前の請求項1とこれを引用する請求項2の「インダクタンス」に係る記載が整合しない旨の,また,補正前の請求項4に記載の「メタライジング」に付された括弧書きが一貫して記載されていない旨の,拒絶の理由を通知しているが,前記手続補正書により,いずれも明確となり,これらの拒絶の理由は解消した。
なお,本願明細書の段落【0007】に記載の【特許文献2】として提示された独国特許第102005003834B4号(上記引用文献1が,日本語のファミリー文献)のFIG.4-1(a)(図4-1(a))には,1つのインダクタンスと1つのコンデンサのみでバランを構成する例が記載されていることを考慮すれば,補正後の請求項1ないし8に記載の「少なくとも1つのインダクタンスと少なくとも1つのコンデンサとを備えるバラン」は,発明の詳細な説明に記載した事項の範囲内のものである。

3.特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
当審では,電気的に接続され,かつ,間に圧電層を介して対向する2つのメタライジングが,「コンデンサ」として機能し得る理由が不明である旨の拒絶の理由を通知しているが,平成28年12月27日付けの意見書において,「コンデンサ」を構成する2つのメタライジングは,電気的に接続されていない旨の釈明をしており,当該釈明は,明細書及び図面に記載された範囲のものである。
よって,この拒絶の理由は解消した。
また,当審では,「バラン」が「BAW共振器」の内部に形成される場合の具体的な構造が不明である旨の拒絶の理由を通知しているが,上記手続補正書により,請求項1ないし8において,「バランが,前記BAW共振器に隣接して形成され」との事項により限定された結果,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明1ないし8は,当業者が引用発明に基づいて引用文献2に記載された周知事項を参酌することにより容易に発明をすることができたものではなく,また,明確である。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-01 
出願番号 特願2014-508782(P2014-508782)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (H03H)
P 1 8・ 121- WY (H03H)
P 1 8・ 537- WY (H03H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 徳浩  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 山中 実
林 毅
発明の名称 音響体積波で動作するBAWフィルタ  
代理人 長門 侃二  

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