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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1324362
審判番号 不服2015-13059  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-07-09 
確定日 2017-01-25 
事件の表示 特願2013-154163「結晶抗真菌化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月23日出願公開、特開2014-12673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2007年8月6日(優先権主張外国庁受理2006年8月7日(EP)欧州特許庁、同日(US)米国、2007年6月26日(EP)欧州特許庁、同日(US)米国)を国際出願日とする特願2009-523811号の一部を平成25年7月25日に新たな特許出願としたものであって、平成25年7月31日に手続補正書が提出され、同年8月20日に上申書が提出され、平成26年8月12日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月2日付けで拒絶査定がされ、同年7月9日に拒絶査定に対する審判請求がされ、同年8月26日に審判請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成27年2月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「結晶形態IIIの(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの結晶形態であって、
前記形態IIIは、
(i)
4.08、5.73、6.22、7.77、8.15、8.80、11.25、11.47、12.44、13.09、14.33、14.68、14.89、15.57、16.35、16.68、17.27、17.63、18.66、19.32、20.85、22.12、22.49、23.58、24.63、25.02、26.65、27.12、28.74、29.11、29.81、31.35、および33.48+/-0.2の2θ位置を含む、特有のX線粉末回折(XRPD)パターン、または
4.08、5.73、6.22、7.77、8.15、8.80、11.25、11.47、12.44、13.09、15.57、17.63、18.66、20.85、26.65、および27.12+/-0.2の2θ位置を含む、特有のX線粉末回折(XRPD)パターン
から選択される特有のX線粉末回折(XRPD)パターンと;
(ii)
1677.0、1600.0、1557.5、1498.3、1462.6、1403.0、 1318.4、1272.5、1254.1、1170.0、1138.7、1101.6、1060.2、1016.4、966.7、932.7、902.4、855.5、801.5、785.8、694.0、677.9、665.4、631.7、532.7、および411.6cm^(-1) にスペクトル線を含む赤外線スペクトルパターンと;
(iii)
99+/-5℃で観察される特有の吸熱ピーク開始を有する示差走査熱量測定サーモグラム
とからなる群より選択される少なくとも一つの特徴を有する、
結晶形態。」
上記化合物は、この出願の明細書(以下「本願明細書」という。補正されていない。)の段落【0002】によれば、別名「アルバコナゾール」と呼ばれるものであり、その化学構造式は、段落【0004】に以下のとおり記載されている。
以下、この化合物を「アルバコナゾール」という。


第3 原査定の理由
原査定の理由は、平成26年8月12日付けの拒絶理由通知における理由2であり、概略、この出願の請求項1、2、4?6、8、9に係る発明は、その出願前に頒布された引用文献1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。その引用文献1は特表平10-508317号公報(以下「刊行物1」という。)である。拒絶査定において、この出願の優先日当時の技術常識を示す文献として、仲井由宣,花野学編著,「新製剤学」,2刷,南山堂,1984年4月25日,p.102-103(以下「刊行物2」という。)、塩路雄作,「固形製剤の製造技術」,普及版第1刷,シーエムシー出版,2003年1月27日,p.12-13(以下「刊行物3」という。)、Pharmaceutical Research,1995,12(7),p.945-954(以下「刊行物4」という。)が示されている。本願発明は、拒絶理由で言及された請求項1に係る発明に対応するものであって、拒絶理由で言及された請求項1において「結晶形態IIIおよび形態VIからなる群から選択される・・・」と特定されていたものから、「結晶形態VI」に関する記載を削除するとともに、拒絶理由で言及された請求項1において「図7に示されるものに実質的に類似したX線粉末回折パターンと、・・・図8に示されるものに実質的に類似した赤外線スペクトルパターンと、・・・形態IIIについて図9に示されるものに実質的に類似した示差走査熱量測定サーモグラム・・・」と図7-9を用いて特定していた記載を削除し、示差走査熱量測定サーモグラムを用いた特定については「99+/-5℃で観察される特有の吸熱ピーク開始を有する示差走査熱量測定サーモグラム」と補正したものである。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、上記刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 刊行物
刊行物1:特表平10-508317号公報
刊行物2:仲井由宣、花野学編著,「新製剤学」,2刷,南山堂,1984年4月25日,p.102-103
刊行物3:塩路雄作,「固形製剤の製造技術」,普及版第1刷,シーエムシー出版,2003年1月27日,p.12-13
刊行物4:Pharmaceutical Research,1995,12(7),p.945-954
刊行物5:日本化学会編,「第4版 実験化学講座1 基本操作I」,第2刷,丸善,平成8年4月5日,p.184-186
刊行物6:平山令明編著,「有機結晶作製ハンドブック」,丸善,平成12年4月20日,p.109-113
刊行物7:緒方章,菰田太郎,新延信吉著,「化学実験操作法」,訂正第36版,昭和52年6月20日,南江堂,p.55-59,526-533
刊行物8:日本化学会編,「化学便覧 応用化学編 第6版」,丸善,平成15年1月30日,p.178
刊行物5?8は、刊行物2?4に加えて、この出願の優先日当時の技術常識を示すために引用するものである。

2 刊行物に記載された事項

ア 刊行物1
(1a)「1.一般式I、すなわち

[式中、
Arは、フェニルまたは一つ以上のハロゲンおよび/またはトリフルオロメチル基で置換されたフェニルを表し、
R_(1) は、C_(1-4) アルキルであり、
R_(2) は、水素またはC_(1-4) アルキルであるか、
またはR_(1) とR_(2) は合一してC_(2-4) ポリメチレン鎖を形成し、
R_(3) は、水素、C_(1-4) アルキル、C_(1-4) ハロアルキル、またはシクロプロピルであり、
Aは、ベンゼン環、または一つ以上の環骨格原子をN、OおよびSからなるグループから選択した複素5または6員環を表し、その環はベンゼン環またはN、OおよびSから選択された一つ以上の異種原子を含む5または6員環と任意に縮合することができ、Aは置換されないかまたはいずれかの環において1、2、3または4個の置換基Wを有することができ、
W基は、C_(1-4) アルキル、C_(3-6) シクロアルキル、C_(1-4) ハロアルキル、C_(1-4) アルコキシ、C_(1-4) ハロアルコキシ、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、ベンジルオキシ、ヒドロキシメチル、-NR_(4)R_(5) 基、-CONR_(4)R_(5) 基、-CH_(2)-OCO-R_(4) 基、-CO-R_(4) 基、-COO-R_(4) 基、-SO_(z)R_(6) 基、-C(=NR_(4))NHR_(7) 基、-C(=NR_(7))OR_(4) 基を表し、さらにW基の一つはまた、1-ピロリル、1-イミダゾリル、1H-1 2、4-トリアゾール-1-イル、5-テトラゾリル(任意にC_(1-4) アルキルで置換される)、1-ピロリジニル、4-モルホリニル、4-モルホリニル-N-オキシド、-X-R_(8) 基、または
一般式(i)-(iv)の原子団を表し、

式中、
R_(4) は、水素、C_(1-4) アルキル、C_(3-6) シクロアルキルまたはアリールC_(1-4) アルキルを表し、ここでアリールはフェニルまたは一つ以上のC_(1-4) アルキル、ハロゲン、C_(1-4) ハロアルキル、C_(1-4) アルコキシまたはC_(1-4) ハロアルコキシ基で置換したフェニルを表し、
R_(5) は水素、C_(1-4) アルキル、C_(3-6) シクロアルキル、-COR_(4) 基または-COCF_(3) 基を表し、
R_(6) は、C_(1-4) アルキルを表し、
zは、0、1または2を表し、
R_(7) は、水素、-CONH_(2)、-COMe、-CN、-SO_(2)NHR_(4)、-SO_(2)R_(4)、-OR_(4)、-OCOR_(4) または-(C_(1-4) アルキル)-NH_(2) を表し、
Xは、単結合、-O-、SO_(z)-、NR_(4)-、または-C(=O)-を表し、
R_(8) は、一つ以上のR_(9) 基で任意に置換されたフェニル基を表し、
R_(9) は、C_(1-4) アルキル、C_(3-6) シクロアルキル、C_(1-4) ハロアルキル、C_(1-4) アルコキシ、C_(1-4) ハロアルコキシ、ハロゲン、ニトロ、シアノ、-NR_(4)R_(5) 基、-CONR_(4)R_(5) 基、-CH_(2)-OCO-R_(4) 基、-CO-R_(4) 基、-COO-R_(4) 基、-SO_(z)R_(6) 基、-C(=NR_(4))NHR_(7) 基、-C(=NR_(7))OR_(4) 基、一般式(iv)の基、またはR_(9) は、フェニル基(任意にC_(1-4) アルキル、C_(1-4) ハロアルキル、C_(1-4) アルコキシ、C_(1-4) ハロアルコキシ、ハロゲン、ニトロまたはシアノ基で置換される)を表し、
R_(10) は、水素またはメチルを表し、
R_(11) は、水素、イソプロピル、シクロペンチル、シクロプロピル、2-ブチル、3-ペンチル、3-ヒドロキシ-2-ブチルまたは2-ヒドロキシ-3-ペンチルを表し、
mは、0または1を表し、
R_(12) は、ハロゲン、C_(1-4) ハロアルキル、C_(1-4) ハロアルコキシ、ニトロ、アミノ、シアノ、または一般式(i)の基を表し、
Yは、-CH_(2)-または-C(=O)-を表し、
Zは、NHまたはOを表す]
のラセミ体、ジアステレオマー混合物または純粋な対掌体としての化合物ならびにそれらの塩および溶媒和物。
・・・・・・・・・・・・・・・
13.以下から選択される請求項1に記載の化合物またはそれらの塩もしくは溶媒和物。
(a)(1R、2R)-7-クロロ-3-[2-(2、4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1、2、4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オン、
・・・・・・・・・・・・・・・
(m)(1R、2R)-7-クロロ-3-[2-(2-フルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1、2、4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オン。
14.請求項1に定義の一般式Iの化合物の調製法であって、
(a)一般式II、すなわち

[式中、R_(1)、R_(2) およびArは請求項1に定義の通りである]
の化合物をまず、一般式III、すなわち

[式中、Aは請求項1に定義の通りである]
の酸と、縮合剤の存在下で反応させて、次いで酸R_(3)COOH(式中、R_(3) は請求項1に定義の通りである)またはアルキルイミダート、アミジン、酸塩化物、無水物またはオルトエステルなどのその反応性誘導体と反応させるか、または
(b)一般式IIの化合物を一般式IV、すなわち

[式中、R_(3) およびAは請求項1に定義の通りである]
の化合物と反応させるか、または
(c)一つまたは複数のステップにおいて一般式Iの化合物を一般式Iの他の化合物に変換させて、
(d)必要であれば、ステップ(a)、(b)または(c)の後に、一般式Iの化合物を酸と反応させて対応する酸付加塩を形成することからなる調製法。
・・・・・・・・・・・・・・・
16.請求項1に記載の一般式Iの化合物または薬剤学的に容認し得るその塩または溶媒和物の、ヒトを含む動物の真菌性感染症の治療または予防のための医薬物の製造のための使用。
・・・・・・・・・・・・・・・
18.請求項1に記載の一般式Iの化合物またはその塩または溶媒和物の、植物の真菌性感染症の治療または予防のための使用。」(請求の範囲の請求項1、13、14、16及び18)
(1b)「発明の分野
本発明は、有効な抗真菌活性を有する一般式Iの新規な一連のピリミドン誘導体に関する。本発明はまた、それらの調製法、それらを含む薬剤組成物および真菌性疾患の治療のためのそれらの使用に関する。」(9頁3?6行)
(1c)「従来技術の記述
本発明の化合物は、アゾール類に属する抗真菌剤であって、その作用機序は真菌膜に存在する主要ステロールであるエルゴステロールの生合成の阻害に基づく。この作用機序を有する他の抗真菌剤は文献中に報告されており、それらのあるものは既に治療に使用されている。それらのあるものは、皮膚、膣および爪における真菌性感染の治療において局所的に使用される。より近年に発見された化合物は、全身性カンジダ症、アスペルギルス症、クリプトコッカス髄膜炎、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症、ヒストプラズマ症、クロモブラストミセス症、スポロトリクム症およびブラストミセス症などの全身性および器官性真菌症の治療において経口的に使用されている。
しかし、真菌性感染の懸念される増加、とくに免疫機能の損なわれた患者(例えばエイズ患者または化学療法を受けている癌患者など)における感染、およびいくつかの常用抗真菌剤に対して耐性の病原性菌の出現を考えると、現在の医療情勢は決して満足できるものではなく、より有効で、より広い抗真菌活性スペクトルを有し、現在効果的治療法がない真菌症(例えばアスペルギルス症)に対して有効な新経口活性生成物が緊急に必要とされている。」(9頁7?22行)
(1d)「発明の記述
本発明は一般式I、すなわち

[式中、
Arは、・・・(審決注:一般式Iの置換基及び部分構造の説明は、摘示(1a)の請求項1と同じなので、省略する。)]
のラセミ体、ジアステレオマー混合物または純粋な対掌体としての新ピリミドン誘導体、およびそれらの塩および溶媒和物に関する。
・・・・・・・・・・・・・・・
本発明はさらに、一般式Iの化合物または薬剤学的に容認し得るそれらの塩または溶媒和物の、ヒトを含む動物の真菌性感染の治療または予防のための医薬物の製造のための使用を提供する。
本発明はさらに、一般式Iの化合物または薬剤学的に容認し得るそれらの塩または溶媒和物の、ヒトを含む動物の真菌性感染の治療または予防のための使用を提供する。
本発明はまた、ヒトを含む動物の真菌性感染の治療または予防の方法を提供し、その方法は、要処置患者に有効量の一般式Iの化合物または薬剤学的に容認し得るそれらの塩または溶媒和物を投与することからなる。
動物の真菌性感染の治療に有用であるのに加えて、本発明の化合物は植物の真菌性感染の撃退または予防のために有用であり得る抗真菌的性質を有する。したがって本発明は、一般式Iの化合物または薬剤学的に容認し得るそれらの塩または溶媒和物の、植物における真菌性感染の治療または予防のための使用を提供する。
・・・・・・・・・・・・・・・
本発明はまた、一般式Iの化合物の調製法を提供し、その方法は、
(a)一般式II、すなわち

[式中、R_(1)、R_(2) およびArは上記に定義の通りである]
の化合物をまず、・・・(審決注:製造方法に関する記載は、指摘摘示(1a)の請求項14と同じなので、省略する。)・・・ことからなる調製法である。」(9頁23?14頁3行)
(1e)「一般式Iの、とくに好ましいクラスの化合物は一般式Iaの化合物であって、

式中、
Arが、2-フルオロフェニル、2、4-ジクロロフェニル、2、4-ジフルオロフェニル、4-(トリフルオロメチル)フェニルまたは4-クロロフェニルを表し、
W_(1) が、水素、C_(1-4) ハロアルキル、C_(1-4) ハロアルコキシ、ハロゲン、シアノ、-C(=NR_(4))NHR_(7) 基、-C(=NR_(7))OR_(4) 基から独立して選択される1、2、3または4個の基を表し、さらにW_(1) 基の一つはまた、-X-R_(8) 基または一般式(i)?(iv)の基を表し、ここでW_(1) はベンゼン環のいずれの位置上にあってもよいものであり、
化合物の立体化学は(1R、2R)である。」(21頁25行?22頁10行)
(1f)「一般式Iの化合物は、下記の方法手順によって調製することができる。それぞれの化合物の調製に使用される正確な方法は、その化学構造によって異なる。
一般に、一般式Iの化合物は、一般式IIのアミンを、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどの適当な縮合剤を単独でまたは1-ヒドロキシベンゾトリアゾールと組み合わせて存在させて、置換されたアミド(例えばN-メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミド)、エーテル(例えばテトラヒドロフランまたはジオキサン)またはジグリムなどの極性溶媒中で、好ましくは0?100℃の温度で、最初に一般式IIIの酸と反応させ、次いで、酸R_(3)CO_(2)Hの反応性誘導体、例えばそのアルキルイミダート(例えばメチルまたはエチルイミダート)、そのアミジン、その酸塩化物、その無水物またはそのオルトエステルと、水、アルコールまたはアンモニア(場合に応じて)の除去に都合のよい温度、通常は50℃以上の温度で、反応させることによって調製することができる。必要であれば、酸R_(3)CO_(2)Hを用いることも可能であるが、その場合は2等量の脱水剤の使用が必要である。
代わりに、一般式Iの化合物のあるものはまた、一般式IIのアミンを一般式IVの化合物と、置換されたアミド(例えばN-メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミド)またはエーテル(例えばテトラヒドロフラン)などの極性溶媒中で、好ましくは室温と還流溶媒温度の間の温度で反応させて得ることができる。一般式IVの化合物は、一般式IIIの化合物を無水物(R_(3)CO)_(2)Oと反応させるかまたは、一般式IV中でR_(3) が水素である場合、一般式IIIのN-ホルミル誘導体をジシクロヘキシルカルボジイミドまたは無水酢酸などの脱水剤と反応させることによって得ることができる。 さらに、一般式Iの化合物のあるものはまた、一般式Iの他の化合物から一または複数のステップで相互変換させることによって調製できる。
・・・・・・・・・・・・・・・
一般式IIのアミンは、Chem.Pharm.Bull.38(9),2476-2486,1990またはJ.Org.Chem.,60,3000-3012,1995に記載の方法によって調製できる。
一般式IIIおよび一般式R_(3)COOHまたはそれらの誘導体の酸は、市販され、文献に広く記載されており、当業者に公知の方法と同様にして調製することができる。例えば、1-アリール-5-アミノピラゾール-4-カルボン酸は、Bull.Soc.Chim.Fr.,7,2717,1970に記載の方法に従って、エトキシメチレンシアノ酢酸エチルを対応するアリールヒドラジンと反応させて、次いで塩基条件下で加水分解することによって調製することができる。5-アリール-3-アミノチオフェン-2-カルボン酸は、Synthesis,275,1984に記載の方法によって、適当なβ-クロロシンナモニトリルをエチルトリグリコラートと塩基の存在下で反応させて、次いでアルカリ加水分解することによって調製することができる。」(24頁末行?28頁3行)
(1g)実施例1?実施例82(32?77頁)として、一般式Iで表される化合物の、具体的な化合物の合成実施例が記載され、以下のとおり、一部を除いて、具体的な化合物が固体として得られることが記載され、実施例には合成した化合物についての概ね、^(1)H-NMRデータ、融点又は元素分析値が概ね記載されている。
また、実施例83?実施例85(77?79頁)として、実施例で合成された一般式Iで表される化合物のいくつかについて、その生理活性の試験の手順と結果が記載されている。試験の表題と試験された化合物の実施例番号は以下のとおりである。
実施例83:インビトロ活性
実施例1、2、4、5、7、12、16、17、20、24、31、38、39、50、60、61、67、68、70、71、73-76、81
実施例84:インビボ活性(全身性カンジダ症)
実施例1、7、9、10、16、17、19、20、31-34、39、48、50-55、62、65、67、69、73-76、81
実施例85:インビボ活性(全身性アスペルギルス症)
実施例1、2、16、31、32、73
(1h)「[実施例1]
(1R、2R)-7-クロロ-3-[2-(2、4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1、2、4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オン
(2R、3R)-3-アミノ-2-(2、4-ジフルオロフェニル)-1-(1H-1、2、4-トリアゾール-1-イル)-2-ブタノール(250mg、0.93mmol)(Bartroli et al.,J.Org.Chem.,60,3000-3012,1995に記載のようにして得た)のNMP(5ml)溶液に、HOBT(132mg、0.98mmol 1.05当量)を加えた。次いで、4-クロロアントラニル酸(160mg,0.93mmol、1当量)およびDCC(202mg、0.98mmol、1.05当量)を加えて、混合物を室温で18時間撹拌した。次いで、酢酸ホルムアミジン(437mg、4.19mmol、4.5当量)を加えて、混合物を130℃で24時間加熱した。水(75ml)を加えて、形成された固体を濾過によって集めてから1N NaOH水溶液とEtOAc間で分配した。水相をすてて、有機相をブラインで洗浄して、Na_(2)SO_(4) 上で乾燥して、濾過して、濃縮してから、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc 1:5)によって精製して、EtOAc:ヘキサン:エーテル混合物から再結晶させて、表題化合物を白色固体として得た(268mg、67%)。融点116?122℃。

」(32頁12行?33頁9行)
(1i)「[実施例83]
インビトロ活性
インビトロ活性を寒天稀釈法を用いてC.albicans、C.kruseiおよびAspergillus fumigatusに対して評価した。試験菌株は、臨床分離株またはATCCから得たものを用いた。800μg/mlを含むストック溶液は、試験生成物を50%エタノールに溶解して調製した。培養培地は、0.5%グリセロールを加えたキミグの寒天(K.A.,E.Merck)を用いた。試験生成物の連続稀釈液(80?0.025μg/ml)を含むプレートに10^(5) コロニー形成ユニット(cfu)/mlを含む真菌接種原10μlを接種した。プレートをCandida菌種で48時間、Aspergillus fumigatusで5日間、25℃でインキューベートした。インキュベーションの後、MIC(最小阻止濃度)を決定した。結果を次表に示す。

」(77頁9行?78頁3行)
(1j)「[実施例84]
インビボ活性(全身性カンジダ症)
雄マウス10匹からなる各群のマウスに、(2?8)×10^(7)cfu/mlのCandida albicansを含む懸濁液0.2mlを静脈接種した。化合物を1mg/kg(または^(*) 印を付した化合物では10mg/kg)の分量で、感染させてから1、4および24時間後に経口投与した。このプロトコールによって、実施例1*、7、9、10、16、17、19、20、31、32、33、34、39、48、50、51、52、53、54、55、62、65、67、69、73*、74、75、76および81の生成物で処理した動物は当日で100%の防御率を示した。これに対して対照群の動物は全て死亡した(2?4日目)。」(78頁下から4行?79頁6行)
(1k)「[実施例85]
インビボ活性(全身性アスペルギルス症)
マウス全身性アスペルギルス症の同様のインビボモデルにおいて、実施例1、2、16、31、32および73の生成物で処理された動物(経口投与、20mg/kg/日、5日間)は、感染後25日目において60?100%の防御率を示した。対照群の25日目の死亡率は90%であった。
上記の試験結果は、本発明の化合物が優れた抗真菌的性質を有すること、したがって種々の真菌性感染症の治療および予防に有用であることを示す。」(79頁7?14行)

イ 刊行物2
(2a)「1.医薬品の結晶
固体医薬品の大部分は結晶であり,X線による回折を示す.結晶は構成要素である原子あるいは分子の空間における結合の形式によって,イオン結晶,金属結晶,共有結合結晶,分子性結晶に分類される.医薬品は有機化合物が多く分子性結晶としての性質をもつ.
結晶薬品を考えるとき2つの立場がある.その第1は結晶自身について考える立場であって結晶構造,結晶多形および結晶性などの問題があり,第2は結晶粒子の集合体を取り扱う領域で,散在や錠剤などの製造上の問題が含まれる.第1の領域はX線結晶学X-ray crystallographyとして,第2の領域は粉体工学micromeriticsとして他領域においても広く取り扱われている.
結晶自身については、つぎに述べるように、多形polymorphismと結晶性の問題がある.」(102頁2?13行)
(2b)「2.多形
多形とは同じ化学組成をもちながら結晶構造が異なり,別の結晶形を示す現象またはその現象を示すものをいう.すなわち結晶中の原子あるいは分子の空間的な配列の違いによって多形がおこるので,融解したり溶解した場合には区別はできない.
多形を示す物質としては無機物では炭素(graphiteとdiamond),炭酸カルシウム(calciteとaragonite)など多くのものが知られている.医薬品では酢酸コルチゾン,プロゲステロン,プレドニゾロン,バルビタール,フェノバルビタールなどがあり,とくに最近では多くの薬品に多形の存在が見出されている.
多形は結晶中での分子や原子の配列が異なるので,その存在はX線回折法,密度測定法,偏光顕微鏡法,赤外吸収スペクトル法により知ることができる.また熱力学的に多形は別の相として考えられ,各多形はそれぞれの融点や溶解度をもつ.ある薬品に多形があるとき,一般に融点の高い方が安定形であり溶解度は低い.融点の低い方の準安定形は安定形よりも高い溶解度をもっているが実際には測定中に安定形結晶が生じ易く,このときは溶解度は安定形結晶によって決められて準安定形の溶解度は得られない.
・・・・・・・・・・・・・・・
製剤上で多形が問題となるのは,それによって異なる溶解速度が与えられるからである.パルミチン酸クロラムフェニコールの例のように安定形と準安定形との間に著しい溶解速度に差がみられる.パルミチン酸クロラムフェニコールの安定形の結晶は非常にとけにくく製剤の原料として使用することはできない.」(102頁14行?103頁22行)

ウ 刊行物3
(3a)「1.2.4 結晶多形
薬物には,2つ以上の結晶形を有するものが多く,無晶形をも含めて結晶形が異なると,溶解速度,融点,密度,硬さ,結晶形状,光学的および電気的性質,蒸気圧,安定性などの物性が異なってくることが知られている。結晶多形に関しては,幾多の文献に報告されており,とくに溶解速度が異なることによるバイオアベイラビリティに差のある例として,クロラムフェニコールパルミテートが有名である^(2))。
薬物に結晶多形が存在するかどうかを検知することは,Preformulationのこの段階における重要な課題である。存在の有無を検出するための簡便な方法のいくつかを以下に紹介する。」(12頁18?25行)
(3b)「(1)溶解法
少量の薬物をスライドグラス上で完全に溶融し,自然冷却中に結晶転移が起これば,少なくとも2つ以上の結晶形が存在する可能性がある。ホットステージで検体を加熱し,毛熱加熱中に固体から固体への転移が起こるかどうかを観察する(ホットステージ法)。」(12頁26行?13頁1行)
(3c)「(2)昇華法
少量の薬物を昇華させ,ついで昇華物のもとの検体と,いずれか一方の飽和溶液1滴中で混和することにより,転移を起こさせる。もとの薬物結晶形と昇華物結晶形とが多形である場合には,より安定な方がより溶解しにくく,より溶解しやすい安定性の悪い結晶形を犠牲にして成長する。このプロセスは,安定性の比較的悪い結晶形が,完全に安定な結晶形に転移し終わるまで継続する。多形がない場合には,片方は溶解するが,もう一方は成長しない。両者が同じ結晶形なら何も起こらない。
結晶多形が存在することがわかれば,異なった多形結晶を同定し,分離するための方法が必要になってくる。以下にいくつかの方法をあげたが,単独で用いるよりも,2つ以上の方法を併用することがすすめられる。
○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同様。)顕微鏡法(ホットステージ法を含む)
○2 赤外吸収スペクトル
○3 粉末X線回折
○4 熱分析(差動走査熱量計による)
○5 体積膨張測定(Dilatometry)
方法の詳細はしかるべき成書にゆずって,ここには割愛することとする。」(13頁2?17行)

エ 刊行物4
訳文により示す。
(4a)「結晶多形
結晶多形に関するフローチャート又は決定樹が図1に示されている。当該フローチャート又は決定樹は、結晶多形の形成についての調査や、結晶多形を同定するための分析方法、結晶多形の物理的性質に関する研究及び単一の形態結晶又は混合物を含む医薬物質の完全性を保証確認するために必要なコントロールについての概要を説明している。」(946頁右欄12?18行)
(4b)「


1行目及び2行目は「多形」及び「医薬物質」である。
左欄は「多形は発見されているか?」であり、その下に「異なる再結晶溶媒(異なる極性)-温度、濃度、攪拌、pHを変える」、「多形の試験 ・粉末X線回折 ・DSC(熱分析法) ・顕微鏡分析 ・赤外分光 ・固体NMR」と記載されている。
その次の欄は、左欄の答えが「はい」のときにつき、「異なる物性を有するか?」であり、その下に「異なる ・安定性(物理的及び化学的) ・溶解プロファイル ・・・・ ・熱量測定挙動 ・%RHプロファイル」と記載されている。
その次の欄は、前の欄の答えが「はい」のときにつき、「医薬物質組成物?」である。
その次の欄は,前の欄の答えが「はい」のときにつき、「単一の多形 品質のコントロール(例.X線回折又はDSC)」及び「多形の混合物 定量的なコントロール(例.X線回折) 安定性試験で多形をモニターする」と記載されている。(946頁、「図1.多形のためのフローチャート/決定樹」と題する図面)
(4c)「多形の形成-多形は発見されているか?
多形に関する決定樹の最初のステップは、“多形は可能か?”という質問に回答するために多数の異なる溶媒から物質を結晶化することである。溶媒には、最終の結晶化工程で用いられたものや、製剤化過程や製造過程で用いられたものが含まれるべきであり、また、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン及び適切であればその混合物も含むことができる。新しい結晶形態は、多くの場合、加熱した飽和溶液を冷却することや透明な飽和溶液を部分的に濃縮することで得られる。得られた固体はX線回折や少なくとも1つの他の方法を用いて分析される。これらの分析においては、試料の調整方法(すなわち、乾燥や粉砕)が、固体形態に影響がないことを明らかにすることに注意が必要である。この分析が得られた固体が同一であること(例えば、同じX線回折パターンやIRスペクトルを有すること)を示し、“多形は可能か?”という質問への回答が“否”である場合、さらなる研究は不必要となる。」(946頁右欄19行?947頁左欄1行)

オ 刊行物5
(5a)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・不純物・・・は再結晶により除去できることになる.
(i)試料の純度 再結晶を行う試料の純度は特に有機物では最初に薄層クロマトグラフィーで確認しておく.その際,用いた展開剤の極性と薄層上のRf 値との関係は再結晶の溶媒選択に役立つし,また不純物の大よその極性も分かる.精製する物質の純度は高い方が望ましく,純度があまりにも低すぎる場合には、蒸留,カラムクロマトグラフィーや活性炭による脱色を行うなどして,夾雑物をある程度除去しておいた方がよい.勿論,精製が可能かどうかは再結晶の原理からみて,溶解度曲線の形に関係するので,不純物が多い場合にも,純粋な結晶が得られることも少なくない.
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい1).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.しかし,古くから,同族体は同族体をよく溶かすという経験則があり,これを基本にして選ぶとよい選択ができる.つまり精製しようとする化合物が,水素結合性であるのか非水素結合性か,極性基または疎水基をもっているかどうか,イオン性であるかどうかなどである.一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水(極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参考にされたい.その際,極性値(誘電率ε,溶解度パラメーターδ,極性値ET;ε,δ,ET は数字が大きいと極性が大きい)や沸点,融点を選択の基準とすればよい.反応性溶媒や沸点が高い溶媒はできれば避けた方がよい.このような溶媒では有機物の再結晶中に脱離や置換が起きた多数の例がある.
(iii)加熱溶解 溶解は三角フラスコを用いて水浴中でふりまぜながら行うが,溶解しにくい結晶の場合には,結晶を粉砕して,環流下,マグネチックスターラーでかくはんしながら1時間ほど加熱溶解させる.超音波による溶解法も試みてみてもよい.
(iv)結晶化 結晶が析出する速さ,大きさや形は放冷速度,溶媒,濃度などによって異なる.時には結晶組成が異なってしまうこともある.一般に低融点のものや分子量の大きな物質は結晶化しにくい傾向がある.結晶化が起きにくい場合には,○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同様。)放冷を徐々に行う(湯浴に浸したままにしておく).○2結晶の種を入れる.○3管壁をガラス棒などで擦り,種をつくる.○4冷蔵庫内に数日から数か月放置する.○5混合溶媒にして溶解度を下げる.○6自然蒸発を待つ.急冷すると結晶にならず,オイル状となり精製ができないことも多い.論文中には記載がないが,X線構造解析用の結晶が放置したNMR試料管中から偶然得られたということも少なくない.
(v)純度の確認 物質の純度はクロマトグラフィー,各種スペクトル,元素分析などの機器分析が最近の微量分析の方法であるが,融点測定も手軽にできる方法でありおろそかにしてはいけない.融点は,物質が不純であれば文献値よりも低下し,不明瞭になる.また融点測定時に液晶状態が観測される場合もあるから注意されたい.」(184頁20行?186頁末行)
(5b)「

」(186頁)

カ 刊行物6
(6a)「医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.たとえば,結晶構造の異なる多形や晶癖の異なる結晶の溶解速度は一般的に異なるため,医薬品の生物学的有効性に相違が生じる.こうした相違は,散剤,錠剤,顆粒剤,カプセル剤などといった固体状態の医薬品を経口投与する場合においてとくに顕著に表れる.医薬品の作用部位への到達濃度を決定する要因の一つに投与部位からの吸収の効果があり,経口投与される医薬品では製剤から放出される主薬の溶解性が消化管での吸収に大きく影響するからである.
結晶多形の密度や融点,格子エネルギーなどは異なり,結果として熱や湿度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.しかし,一方で準安定形の溶解性が安定形と比較して優位に優れる場合があることから,あえて準安定形を開発の基本形として選択し,生物学的有効性に優れた製剤を設計することもある.
結晶中に溶媒が取り込まれた溶媒和物の結晶は,厳密な意味での結晶多形と区別するため疑似結晶多形と称される.・・・
医薬品は人体に直接作用するものである.疾病の治療や予防に有効であることはもとより,期待通りの薬効が発揮されるように一定の品質をもち,安全性が確保されることが強く要求されている.医薬品の結晶化は通常、溶液の冷却,溶媒の蒸散,低溶解性の溶媒の添加,塩の形成などの方法と,種結晶をかくはん下添加する方法などをさまざまに組み合わせることによって達成される.これらの結晶化条件にかかわる溶媒の特性,過飽和度,温度などのさまざまな因子が,結晶の特性を決定する.したがって,晶析条件と析出する結晶のさまざまな特性の相関を明確にし1,2),医薬品の品質を保証することが重要である3).本章では,そのような医薬品の品質設計の観点から結晶化を概説する.」(109頁3行?110頁23行)
(6b)「6.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相間はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある4,5).
表6.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide[図6.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである4).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表6.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(110頁25行?111頁16行)
(6c)「

」(111?112頁表6.1)

キ 刊行物7
(7a)「有機溶剤
・・・・・・・・・・・・・・・
エタノール(bp78.4°,水と混和する)
一般に無機物はエタノールに溶けにくく,有機物は溶けやすいから,エタノールは有機化合体と無機化合体とを分離するときに,よく使われる.・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
エタノールは、水と随意の比例で混和する点で,その溶剤としての価値は著しく高い.このエタノールの性質は,特に再結晶の際の溶剤として使うのに便利である.
・・・・・・・・・・・・・・・
プロパノール(bp97°,水と混和する),
イソプロパノール(bp82°,水と混和する)
・・・・・・・・・・・・・・・
ブタノール(bp117°,1:12の割合で水に溶ける)
・・・・・・・・・・・・・・・」(55頁16行?59頁末行)
(7b)「分別結晶(分別晶出)
2種あるいは,それ以上の物質の混合物を,分離精製するには,再結晶^(*)(Recrystallization・・・)なる仕方による.各物質の溶剤への,溶解度(Solubility・・・)は違っているので,その溶剤を適当に使った場合に,一方の物質は析出し,他方の物質は母液中に残る性質を利用するのである.
また2物質の,同一溶剤中から晶出する速度が,著しく異っているときにも,分別結晶の仕方によって,両物質を分離できる.」(526頁16?22行)
(7c)「飽和溶液を冷やして結晶させる仕方
この仕方は再結晶の一般的な仕方であって,普通に“再結晶を行なう”というときには,この仕方か,あるいはつぎに述べる仕方による.
再結晶を行なうには,溶質を加えた溶剤を沸点まで熱して,その中に溶質を溶けるだけ溶かし,熱時にこし分け,ろ液を冷やして結晶を析出させる.
溶剤の選び方 ・・・予試験を各種の溶剤について行ない,冷熱両時の溶解度の差の最大なものを採用する.しかし・・・結晶を母液からこし分けることが困難なものや,結晶の析出速度があまりに速いものは,操作が面倒であるから・・・他のものを選ぶ方がよい.・・・
物質の溶かし方 ・・・一般に溶剤は過量に使わないようにする.物質が固くて大きな塊になっているときには,溶剤を加えて熱しても,すぐにはその温度における飽和溶液にならない.それゆえに,まずできるだけ細かく砕き・・・,最小必要量の溶剤を加える.熱して液が沸き始めても,なおしばらくその状態をつづけて,物質がどうしても全溶しないときに,はじめて溶剤を追加する.二硫化炭素,石油エーテル,エーテル,アセトン,エタノール,ベンゼン,クロロホルムその他の揮発性溶剤を使う場合には,物質を三角フラスコに入れ,還流冷却器をつけて水浴上で加温する.
物質によっては,試験管で行なった上記の“溶剤の選び方”のときとは違って,大量に溶かそうとすると,溶剤を充分に加えてあっても,なかなか,急に溶けないものがある.そして初めに,よく粉末にしておいたものが,液中で団塊になって,いつまでも小さくならないことがある.このような場合には,引火しないように注意しながら,冷却器を一時取はずして,ガラス棒・・・で塊を砕いてから,前同様加温をつづけると速く溶ける.こうして物質が全部溶けて,異物やろ紙の遷移だけが,液中に浮遊しているようになれば,温時にろ過する.・・・
さて透明なろ液を得てから,冷やして結晶を析出させるのであるが,その冷やし方は,大きな結晶を作ろうとするのと,小さな結晶を作ろうとするのとで違ってくる・・・・大きな結晶を作る場合には・・・極ゆるゆると冷やす.また小さな結晶を作る場合には・・・急に冷やす.いずれの場合でも,液がある温度まで下がっても,すぐにその条件で析出し得る結晶が全部析出するものではないから,しばらくそのまま放置して,待たなければならない.このようにして常温で出た結晶をこし分ける.さらにその「ろ液」を冷やすと,なお多量の結晶を得る場合がある.」(527頁26行?529頁17行)
(7d)「溶液を濃縮して結晶させる仕方
物質の溶液を蒸発濃縮して,結晶を析出させることは,物質を精製する点からいえば,“飽和溶液を冷やして結晶させる仕方”(p.527)よりも好ましくはないが,溶液を冷やしただけでは,結晶の出る量が少いから,通常は適当に濃縮して結晶を出す場合が多い.濃縮結晶を行なう場合は,
○1(審決注:原文は○の中に1であるが、このように表記する。以下も同様。)溶剤を使いすぎたとき 誤って溶剤を多量に使いすぎたときは,無論のことであるが,物質が飽和溶液になる量の溶剤で溶かすことは,操作に時間がかかるから,物質を溶かしやすい程度に溶剤を幾分過量に加え,つぎに適当に濃縮して,結晶を出すことはよく行なっている.
○2 物質を熱して溶かすことができないとき 物質が熱のために,分解しやすくて,熱することができない場合には,まず物質を常温で溶剤に飽和させ,ろ過してから減圧,低温で溶剤の一部を留去する.
○3 冷熱両時の物質の溶解度に大差がないとき ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
溶剤の一部分を蒸散させて結晶させるときの結晶容器は,物質の性質や,溶剤の蒸発を常温で行なうか,熱時で行なうかなどによって違ってくる.常温で蒸発させる場合には,口が広くて浅い「さら」を使う.
・・・・・・・・・・・・・・・
溶剤がエーテル,アセトンなどのように引火性,もしくは高価なもののときには,水浴上で蒸発することは避け,溶剤を蒸留回収する.この際には容器として三角フラスコを使い,蒸留中にフラスコ内の液の周囲に,乾燥固着してくる結晶は,ときどきフラスコを振り動かして,液中に落して溶かすか,または固着しているフラスコの外壁に,口で息を吹きかけて溶かす・・・.
第1回の結晶をこし分けた母液をそのまま放置するか,または適度の濃さまで蒸発または蒸留濃縮すると,第2回の結晶を得るが,実際には冷やして析出させる仕方と,濃縮して析出させる仕方とを,あわせて行なう場合が多い.」(531頁17行?532頁下から5行)
(7e)「溶液に他の液体を加えて結晶させる仕方
溶液を冷やすか,溶剤を蒸散または留去して,過飽和の状態に導く仕方以外に,溶液に他の液体を混ぜて,溶質の溶解度を減じ,結晶を析出させる仕方もある.
これに使う溶剤のおもな組合わせは,つぎの通りである.
・・・・・・・・・・・・・・・
この仕方のうち,最も多く使われるものは,水とエタノールとである.この二つは互に随意の比に混じるから,一方に溶けて他方に溶けない性質の物質は,この二つの溶剤を適当に使い分ければ,よく結晶する.」(533頁15?26行)

ク 刊行物8
(8a)「4.3.3 晶析
a.晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe_(2)O_(3))などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b.結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布 ・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.
c.晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・」(178頁左欄5行?右欄下から7行)

3 刊行物に記載された発明
刊行物1は、有効な抗真菌活性を有するピリミドン誘導体に関する特許文献である(摘示(1a)?(1e))。
刊行物1には、上記化合物について、請求項1に以下の一般式I

が示され、請求項13にその具体的な化合物が13個記載され、そのうち化合物(a)として、(1R、2R)-7-クロロ-3-[2-(2、4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1、2、4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンが記載されている(摘示(1a))。
そして、刊行物1には、上記一般式Iの化合物の製造方法及び合成中間体である一般式II又はIIIの化合物について記載されるとともに(摘示(1d)?(1f))、上記化合物(a)を実施例1において実際に合成して、再結晶により白色固体として268mg取得し、実施例83-85では、この化合物がインビトロ及びインビボ(マウス:経口投与)において抗真菌活性を有することを確認したことが記載されている(摘示(1g)?(1k))。
したがって、刊行物1には
「(1R、2R)-7-クロロ-3-[2-(2、4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1、2、4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの結晶形態」
の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)が記載されているということができる。

4 対比・判断

(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用化合物である「(1R、2R)-7-クロロ-3-[2-(2、4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1、2、4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オン」は、本願発明の「(1R、2R)-7-クロロ-3-[2-(2、4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1、2、4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オン」すなわちアルバコナゾールと、同じ化合物である。また、本願発明と引用発明は、共に上記化合物の結晶形態である点でも同じである。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「アルバコナゾールの結晶形態」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明においては、「結晶形態IIIのアルバコナゾールの結晶形態であって、前記結晶形態IIIは、
(i)
4.08、5.73、6.22、7.77、8.15、8.80、11.25、11.47、12.44、13.09、14.33、14.68、14.89、15.57、16.35、16.68、17.27、17.63、18.66、19.32、20.85、22.12、22.49、23.58、24.63、25.02、26.65、27.12、28.74、29.11、29.81、31.35、および33.48+/-0.2の2θ位置を含む、特有のX線粉末回折(XRPD)パターン、または
4.08、5.73、6.22、7.77、8.15、8.80、11.25、11.47、12.44、13.09、15.57、17.63、18.66、20.85、26.65、および27.12+/-0.2の2θ位置を含む、特有のX線粉末回折(XRPD)パターン
から選択される特有のX線粉末回折(XRPD)パターンと;
(ii)
1677.0、1600.0、1557.5、1498.3、1462.6、1403.0、 1318.4、1272.5、1254.1、1170.0、1138.7、1101.6、1060.2、1016.4、966.7、932.7、902.4、855.5、801.5、785.8、694.0、677.9、665.4、631.7、532.7、および411.6cm^(-1) にスペクトル線を含む赤外線スペクトルパターン
と;
(iii)
99+/-5℃で観察される特有の吸熱ピーク開始を有する示差走査熱量測定サーモグラム
とからなる群より選択される少なくとも一つの特徴を有する、結晶形態」と、アルバコナゾールが特有のX線粉末回折(XRPD)パターン、特有の赤外線スペクトルパターン又は特有の吸熱ピーク開始を有する示差走査熱量測定サーモグラムを示す結晶形態IIIであると特定されているのに対し、引用発明においてはそのように特定されていない点

(2)相違点についての検討

ア 結晶多形を得ることの動機付けについて
この出願の優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物の結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、文献を示すまでもなく、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。そして、実際に結晶化の条件により得られる結晶が異なることがあることも、よく知られている(摘示(4a)?(4c)、(6a)?(6c)、(8a))。
そして、刊行物1には、再結晶によりアルバコナゾールを白色固体として取得したことが記載されているから、アルバコナゾールの結晶について、結晶化条件を検討して結晶多形を調査したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。

イ 特定の工程を採用する点及びX線粉末回折(XRPD)、赤外線スペクトル又は示差走査熱量測定サーモグラムにより結晶を特定する点について
本願明細書には、本願発明の特定のX線粉末回折(XRPD)パターン、特定の赤外線スペクトルパターン又は特定の吸熱ピーク開始を有する示差走査熱量測定サーモグラムを有するアルバコナゾールの結晶形態IIIを製造するための方法については、
段落【0042】に、
「形態III:一般的には、エタノール、酢酸エチル、ジクロロメタン、およびエタノールと酢酸エチルの組合せ等の様々な溶媒を使用して、標準的な結晶化条件下で得られる。この形態は、特有のXRPDパターン、特有のIRパターン、および、約99℃に強い吸熱ピークの開始を有するDSCプロファイルを示す。」
と記載されている。
また、段落【0171】?【0172】には
「【0171】同様に、本発明の主題は、(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの結晶形態IIIを調製するための工程であって、(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンを、有機溶媒、特にエタノール、酢酸エチル、ジクロロメタン、ならびにエタノールおよび酢酸エチルの混合物からなる群から選択される有機溶媒中の(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの溶液または懸濁液から再結晶化するステップを含む工程に関する。最も好適な実施形態においては、有機溶媒はエタノールである。さらなる好適な実施形態においては、(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンは有機溶媒中の溶液を形成する。
【0172】さらに、溶液または懸濁液は、好ましくは少なくとも40℃の温度で形成される。溶液または懸濁液は、次いで任意選択で約10℃から約20℃の温度に冷却することができる。従って、本発明の主題は、(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンと有機溶媒、特にエタノール、酢酸エチル、ジクロロメタン、およびエタノールと酢酸エチルの組合せからなる群から選択される有機溶媒、最も好ましくはエタノール、との反応生成物を含む、(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの結晶形態に関する。・・・」
と記載されている。
さらに、段落【0210】の実施例6には、アルバコナゾールの結晶形態IIIを取得する具体的な製造方法について、
「[実施例6]
(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの結晶形態IIIの調製
6.785kgの(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンを、17.3Lのエタノールに溶解した。前記溶液は、10?20℃で約2時間冷却された。得られた生成物は、遠心分離され、70℃で真空乾燥させ、5.796kgの(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの結晶を得た。前記生成物は、その後、結晶形態IIIを有することが示された。」
と記載されている。
上記実施例6に記載されたアルバコナゾールの結晶形態IIIの製造方法は、要するに、アルバコナゾールをエタノールに溶解し、冷却して結晶を析出させるものであって、これは段落【0171】?【0172】に記載された結晶多形IIIを製造する方法の態様である。
このような操作は、ごく一般的な、溶液の冷却による結晶化であって(摘示(4c)、(5a)、(5b)、(6b)、(6c)、(7a)?(7c)、(8a))、溶媒の選択についても、エタノールのような、ありふれた、医薬化合物の結晶化に際して当業者が通常選択する溶媒が用いられるものであると認められる(摘示(4c)、(5a)、(5b)、(6c)、(7a))。
してみると、本願発明のアルバコナゾールの結晶形態IIIは、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められる。
また、結晶形態の特定のために、X線粉末回折(XRPD)、赤外線スペクトル又は示差走査熱量測定サーモグラムの測定値を用いることは、医薬化合物の結晶の技術分野では、常套手段である(摘示(2b)、(3c)、(4c)、(8a))。

ウ 以上によれば、引用発明において、アルバコナゾールの結晶化条件を検討して結晶多形を調査して、得られた結晶について分析することにより、相違点1に係る「結晶形態IIIのアルバコナゾールの結晶形態であって、前記結晶形態IIIは、
(i)
4.08、5.73、6.22、7.77、8.15、8.80、11.25、11.47、12.44、13.09、14.33、14.68、14.89、15.57、16.35、16.68、17.27、17.63、18.66、19.32、20.85、22.12、22.49、23.58、24.63、25.02、26.65、27.12、28.74、29.11、29.81、31.35、および33.48+/-0.2の2θ位置を含む、特有のX線粉末回折(XRPD)パターン、または
4.08、5.73、6.22、7.77、8.15、8.80、11.25、11.47、12.44、13.09、15.57、17.63、18.66、20.85、26.65、および27.12+/-0.2の2θ位置を含む、特有のX線粉末回折(XRPD)パターン
から選択される特有のX線粉末回折(XRPD)パターンと;
(ii)
1677.0、1600.0、1557.5、1498.3、1462.6、1403.0、 1318.4、1272.5、1254.1、1170.0、1138.7、1101.6、1060.2、1016.4、966.7、932.7、902.4、855.5、801.5、785.8、694.0、677.9、665.4、631.7、532.7、および411.6cm^(-1) にスペクトル線を含む赤外線スペクトルパターン
と;
(iii)
99+/-5℃で観察される特有の吸熱ピーク開始を有する示差走査熱量測定サーモグラム
とからなる群より選択される少なくとも一つの特徴を有する、結晶形態」との構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到しえることである。

(3)発明の効果について
本願明細書の段落【0005】には、
「本化合物は、非晶形態で存在することがこれまで既知であった。今回、本化合物は、現在同定されている6つの結晶形態の1つとして存在することが可能であることが確認された。従って、本明細書では、本化合物の非晶形態およびいかなる残留溶媒も実質的に欠いた、純粋な結晶形態等の、本化合物の結晶形態を企図する。この点に関して、(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの形態I、II、III、IV、V、およびVIのそれぞれの実質的に純粋な結晶形態を、本明細書で企図する。」
と記載されている。また、段落【0210】の実施例6において、エタノールから再結晶することでアルバコナゾールの結晶形態IIIが取得されたことが記載され、段落【0096】?【0101】において、結晶形態IIIが、特有のX線粉末回折(XRPD)パターン(表7,8、図7)、特有の赤外線スペクトルパターン(表9、図8)又は特有の吸熱ピーク開始を有する示差走査熱量測定サーモグラム(図9)を示すことが記載されている。
加えて、本願明細書の段落【0042】には、「形態III:・・・30℃/65%RHおよび25℃/60%RHにおける6ヶ月間の保存後でも、形態IIIの分解生成物は検出されなかった。」と記載されている。
そうすると、本願発明の効果は、請求項1に記載されたアルバコナゾールの結晶形態IIIを提供できること及びアルバコナゾールの結晶形態IIIが30℃/65%RH(相対湿度)および25℃/60%RHにおける6ヶ月間の保存後でも、当該結晶形態IIIの分解生成物が検出されないような保存安定性を有することであると認められる。
しかしながら、上記(2)に述べたとおり、アルバコナゾールの結晶形態IIIは、当業者が容易に得ることができたものであるから、アルバコナゾールの結晶形態IIIを提供できるという効果は、格別のものであるとすることはできない。
そして、本願明細書の段落【0042】には「形態IV:・・・この形態は、(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの非晶形態または形態IIIまたはVIから、長期間保存した後、例えば40℃、75%RHで3ヶ月保存した後に直接得ることができるが、これはその形態の全てではないが一部が形態IVに変換するためである。」と記載されているように、結晶形態IIIは必ずしも優れた保存安定性を有するとは認められず、また、30℃/65%RH(相対湿度)および25℃/60%RHにおいて6ヶ月間保存するなる条件において示された保存安定性が、医薬化合物に通常求められる保存安定性と比較して、当業者の予測を超える格別顕著なものとも認められない。
なお、本願明細書の段落【0208】の実施例4には
「[実施例4]
(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンの結晶形態IIIの調製
非晶質の(1R,2R)-7-クロロ-3-[2-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-ヒドロキシ-1-メチル-3-(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)プロピル]キナゾリン-4(3H)-オンを、エタノールに溶解し、再結晶させた。初めの^(1)H NMRスペクトルは、約1/2モルのエタノールを示した。サンプルは、室温で7年間、ふた付きの瓶に保管された。7年後、サンプルNMRスペクトルは、エタノールの全喪失を示した。その後、サンプルは、結晶形態IIIを有することが示された。」
と記載されている。
当該実施例4においては、再結晶により得られたアルバコナゾールの結晶形態について何ら開示するものではないから、当該実施例4は、7年間の保管を経て、結晶形態IIIが調整されたことを示すものといえるものの、結晶形態IIIが7年間、安定して存在することを示すものとは認められない。

(4)請求人の主張について
審判請求人は、平成27年8月26日に提出した手続補正書において、以下の参考資料1?5を示して、本願発明は、特許法第29条2項に規定による拒絶理由には該当しない旨主張している。

ア 参考資料
参考資料1:Singhal et al.,“Drug polymorphism and dosage form design: a practical perspective”,Adv.Drug Delivery Rev.56:335-347 (2004)
参考資料2:Declaration of Expert Witness for US Patent Application No.11/882,892
参考資料3:Polymorph Screen and Drying Studies of Albaconazoleの一部(2006年1月12日付け)
参考資料4:Technical Report No.FR598の一部(2008年7月15日付け)
参考資料5:Technical Report No.FR581の一部(2008年7月28日付け)
なお、参考資料1は、平成27年2月16日付け提出の意見書に添付されたものであり、参考資料2?5は、平成27年8月26日付け提出の手続補正書に添付されたものである。

イ 参考資料1及び2に基づく主張について
審判請求人は、参考資料1に基づき、
「参考資料1には、多形には数多くの予測不可能な特性が存在することが記載されており、これは、多形の探索が当業者にとって容易なものとは到底言えないことを証明するものである。より具体的には、・・・、すなわち、本出願の出願時において、「多形の同定および特性は理論的に予測不可能である」ので、当業者にとって、任意の特定の化合物(例えば、本願発明におけるアルバコナゾール)の多形を探索することは、実際のところ、容易なものであるとは到底言えない。」
との主張をしている。
また、審判請求人は、参考資料2に基づき、
「引用文献1には、引用文献1において再結晶により得られたアルバコナゾールの結晶形態については開示されていない。そして、参考資料2(2009年3月31日付け提出)に記載されているように、引用文献1による生成物が結晶形態Vであることは、本願の出願後に、本願発明との比較実験により初めて判明したことである。すなわち、少なくとも結晶形態V以外の結晶形態は、本出願の出願前には知られていなかったと言える。
また、上述したように、引用文献1の実施例1に「アルバコナゾール」については、そもそも、それが結晶形態Vであったことは認識されていなかったのであるから、実際には、当業者は、引用文献1を参照することによっては、本願発明の結晶多形(結晶形態III)を得るための動機付けや示唆を得ることはできない。」
との主張をしている。
しかしながら、上記(2)アに述べたとおり、医薬化合物の結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められ、刊行物1には、再結晶によりアルバコナゾールを白色固体として取得したことが記載されているから、アルバコナゾールの結晶について、結晶化条件を検討して結晶多形を調査したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。そして、刊行物1において得られたものが結晶形態Vであるとの請求人の主張の当否にかかわらず、本願発明のアルバコナゾールの結晶形態IIIは、引用発明において、当業者が、通常行う再結晶の操作により得られるものであると認められることから、審判請求人の上記主張は採用することができない。

ウ 参考資料3?5に基づく主張について
審判請求人は、本願の出願日前に作成された参考資料3と本願の出願日後に作成された参考資料4及び5に基づき、
「2006年1月の時点のデータでは、アルバコナゾールの結晶形態VIが好ましいものであることを示唆していた(参考資料3を参照)。しかしながら、2008年7月の時点までには、結晶形態VIがそれまで好ましい結晶形態であることが特定されていたにもかかわらず、実は非常に不安定であることが判明したのである。データのいくつかは、特定の保存条件において、結晶形態VIが実際に結晶形態IIIに変換されることを実証している。
よって、出願人は、これらのデータに基づき、補正後の本願発明に係る結晶形態IIIが、保存条件下において非常に安定であるという観点から、実は好ましい結晶形態であったという、当初予測できなかった結論に至ったものである。
・・・・・・・・・・・・・・・
(viii)以上に述べたとおり、補正後の本願発明に係る結晶形態IIIが好ましいことは、本願発明者らの試行錯誤によって判明したことであり、これは、本願発明者らによる開発当初の予想とも異なるものであった。
すなわち、当業者は、引用文献1を参照したとしても、補正後の本願発明に想到するための動機付けを得ることはできない。引用文献1には、当業者が補正後の本願発明に想到するための示唆が提供されているとまでは到底言えない。
したがって、補正後の本願発明は、当業者が引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものには該当しない。」
との主張をしている。
しかしながら、出願後に明らかになった効果に基づき、本願発明の効果の顕著性を主張することは認められない。また、仮に、参考資料4及び5を参酌して、結晶形態IIIが結晶形態VIに比して保存安定性が優れることを考慮したとしても、多形のうち他のものより相対的に安定なものが存在することは当然であり、結晶形態IIIが当業者の予測を超える格別顕著な効果を奏するとまでいえない。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物1に記載された発明及びこの出願の優先日当時の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-08-23 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-12 
出願番号 特願2013-154163(P2013-154163)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 中田 とし子
齊藤 真由美
発明の名称 結晶抗真菌化合物  
代理人 伊藤 正和  
代理人 三好 秀和  
代理人 原 裕子  
代理人 原 裕子  
代理人 伊藤 正和  
代理人 三好 秀和  

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