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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62D
管理番号 1324377
審判番号 不服2015-11308  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-16 
確定日 2017-02-14 
事件の表示 特願2013-545072号「自動車の組立て方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日国際公開、WO2012/084087、平成26年 1月23日国内公表、特表2014-501660号、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)10月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月23日、独国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりある。
平成25年9月5日 :手続補正書の提出
平成26年7月9日付け :拒絶理由の通知
平成26年10月8日 :意見書、手続補正書の提出
平成27年2月13日付け :拒絶査定
平成27年6月16日 :審判請求書の提出
平成28年6月30日付け :拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という
。)の通知
平成28年9月28日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1-3に係る発明(以下、「本願発明1-3」という。)は、平成28年9月28日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願発明1は以下のとおりである。
「【請求項1】
シャーシ(16)が少なくとも主組立てライン(46)に到達する前にホイール(72)が取付けられる、自立するシェル(42)を有する自動車の組立て方法であって、
前記主組立てライン(46)は、前記自動車の内装品および前記自動車の外殻を形成する要素(52)を装備する工程であり、
前記シャーシ(16)に4つの前記ホイール(72)を取付けた後に、前記主組立てライン(46)の全体に沿って前記自動車は自身の駆動機構によって、自身の前記ホイール(72)で移動可能であることを特徴とする方法。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
本願発明1は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物である引用文献1に記載された発明及び引用文献2で例示される周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平7-257452号公報
引用文献2:特開平9-24870号公報

2.原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項及び引用発明
引用文献1には、「自動車の組立て方法とその組立てライン」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている(下線部は当審で付与した。以下同様。)。

ア.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、塗装工程を経た車体を搬送しながらこれに順次部品を組付けてゆく自動車の組立て方法と、この方法が適用される自動車の組立てラインに関する。」

イ.「【0013】またさらに図中符号IVで示した第3の部品組立てステーションは、車体wへの大物部品の組付けと必要とする液体の注入を行う部署で、ここには、車体wの前部に取付けたフロントタイヤFTのうちの一側のタイヤFTを載置して固定する狭巾のスラットコンベア25が上記した車体搬送用レール20の直下からこのステーションIVの終端部まで敷設されていて、この実施例では、車体wの右側フロントタイヤFTをスラットコンベア25上に固定して車体wを搬送しつつ、これに大物部品の組付けや液体の注入を行うように構成されている。」

ウ.「【0016】そしてつぎに、ホイスト6を操作して左右一対のローラ10、10が安定台13、13の高さに達するまで車体wを引上げ、その状態で昇降台7を若干前進させて安定台13、13上にローラ10、10を着座させた上、車体wを人手により搬送しながら、トレーリングアーム、ブレーキユニット、ロアアームといったリヤサスペンション組立体、あるいはブレーキホース、フューエルポンプ、リヤダンパーユニットを車体wに組付ける一方、リヤタイヤRTを車体の完成時の高さ位置に回転自在に取付ける。
【0017】このようにして一連の後部足回り部品の組付けを終え、車体搬送用ハンガ3が後部足まわり部品組付けステーションの終端位置に達したら、つぎにさきと逆にホイスト6を操作して昇降台7を安定台13、13上から降下させ、狭い巾のスラットコンベア15を跨ぐようにして吊下げ支持した車体wを第1の部品組立てステーションIIの始端位置に着地させる。」

エ.「【0019】このようにして所要の部品の組付けを終えて車体wが第1の部品組立てステーションIIの終端に達したら、つぎに上述した後部足回り部品組付けステーションIでの操作と同様に、車体wを車体搬送用ハンガ21に移載してこれを第2の部品組立てステーションIIIの始端部から終端部へと搬送しつつ、吊下げ支持した車体wに、インナーフェンダ、ウォッシャタンク、フューエルタンク、マットガード、エキゾーストパイプ、エンジン、ブレーキユニット、ナックルアーム、タイロッド、フロントロアアーム、ドライブシャフト、フロントスタビライザスプリング、エンジンマウントフロントビーム、エンジンマウントリヤビーム、フロントラジアスロッド等の主に下部装着部品をフロントタイヤFTとともに組付ける。

オ.「【0020】以上の組付けを終えて車体wが第2の組立てステーションIIIの後端部に達したら、第3の部品組立てステーションIVに敷設した狭巾のスラットコンベア25の上に、右の前輪FTが乗るようにして吊下げ支持した車体wを車体搬送用ハンガ21から降ろす。
【0021】そして、右側の前輪FTを固定した状態で車体wを第3の部品組立てステーションIVの始端部から終端部へと搬送しつつ、バッテリ、シート、ドアライニング、ヒューズボックス、ステアリングユニット、スペアタイヤ、トランクマット、ルーフモール、コンソール、各ウインドガラス、サンバイザー、ワイパー、カウルトップ、ハンドル、各シートといった大物部品を車体wに組付けるとともに、ガソリン、パワステオイル、ブレーキオイル、ウォッシャ液、ラジエータ液等の所要の液体を車体wに注入して完成車として出荷する。」

以上の記載事項から次の事項が認定できる。
カ.上記ウ.の「トレーリングアーム、ブレーキユニット、ロアアームといったリヤサスペンション組立体、あるいはブレーキホース、フューエルポンプ、リヤダンパーユニットを車体wに組付ける一方、リヤタイヤRTを車体の完成時の高さ位置に回転自在に取付ける。」(段落【0016】)、「このようにして一連の後部足回り部品の組付けを終え」(段落【0017】)の記載から、リヤタイヤRTは後部足回り部品に取付けられるものと認められる。

キ.上記エ.の「吊下げ支持した車体wに、インナーフェンダ、ウォッシャタンク、フューエルタンク、マットガード、エキゾーストパイプ、エンジン、ブレーキユニット、ナックルアーム、タイロッド、フロントロアアーム、ドライブシャフト、フロントスタビライザスプリング、エンジンマウントフロントビーム、エンジンマウントリヤビーム、フロントラジアスロッド等の主に下部装着部品をフロントタイヤFTとともに組付ける。」(段落【0019】)との記載から、フロントタイヤFTは下部装着部品に取付けられるものと認められる。

これらの記載事項ア.?オ.、認定事項カ.、キ.及び図面内容を総合し、本願発明1の発明特定事項に倣って整理すると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。
「後部足回り部品及び下部装着部品が第3の部品組立てステーションIVに達する前にリヤタイヤRT及びフロントタイヤFTが取付けられる、車体wを有する自動車の組立て方法であって、
前記第3の部品組立てステーションIVは、ドアライニング、各シートといった大物部品を車体wに組付ける工程であり、
前記後部足回り部品及び下部装着部品に、前記リヤタイヤRT及びフロントタイヤFTを取付けた後に、車体wの右側フロントタイヤFTをスラットコンベア25上に固定して車体wを第3の部品組立てステーションIVの始端部から終端部へと搬送する、自動車の組立て方法。」

(2)対比
ア.本願発明1と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、引用発明の「後部足回り部品及び下部装着部品」は本願発明1の「シャーシ」に相当し、以下同様に、「リヤタイヤRT及びフロントタイヤFT」は「ホイール」に、「ドアライニング、各シートといった大物部品」は「前記自動車の内装品」に、「自動車の組立て方法」は「自動車の組立て方法」に、それぞれ相当する。
また、通常、自動車は自立構造であるシェルを有しているのが技術常識であり、併せて図1も参照すれば、引用発明の「車両w」は本願発明1の「自立するシェル」に相当すると認められる。

イ.引用発明の「第3の部品組立てステーションIV」と本願発明1の「主組立てライン」は、「組立てライン」という限度で一致する。

ウ.引用発明の「前記後部足回り部品及び下部装着部品に、前記リヤタイヤRT及びフロントタイヤFTを取付けた後に、車体wの右側フロントタイヤFTをスラットコンベア25上に固定して車体wを第3の部品組立てステーションIVの始端部から終端部へと搬送する」という構成と、本願発明1の「前記シャーシ(16)に4つの前記ホイール(72)を取付けた後に、前記主組立てライン(46)の全体に沿って前記自動車は自身の駆動機構によって、自身の前記ホイール(72)で移動可能である」という構成は、「前記シャーシに4つの前記ホイールを取付けた後に、前記組立てラインの全体に沿って前記自動車は自身の前記ホイールで移動可能である」という構成の限度で一致する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致する。

<一致点>
「シャーシが少なくとも組立てラインに到達する前にホイールが取付けられる、自立するシェルを有する自動車の組立て方法であって、
前記シャーシに4つの前記ホイールを取付けた後に、前記組立てラインの全体に沿って前記自動車は自身の前記ホイールで移動可能である方法。」

そして、本願発明1と引用発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
「組立てライン」に関し、本願発明1では、「主組立てライン」であり、「前記自動車の内装品および前記自動車の外殻を形成する要素を装備する工程であ」るのに対し、
引用発明では、「第3の部品組立てステーションIV」であり、「ドアライニング、各シートといった大物部品を車体wに組付ける工程であ」る点。

<相違点2>
「前記組立てラインの全体に沿って前記自動車は自身の前記ホイールで移動可能である」という構成に関し、本願発明1では、「『前記主組立てライン』の全体に沿って前記自動車は『自身の駆動機構によって』、自身の前記ホイールで移動可能である」のに対し、
引用発明では、「『車体wの右側フロントタイヤFTをスラットコンベア25上に固定して』車体wを『第3の部品組立てステーションIV』の始端部から終端部へと搬送する」点。

(3)判断
事案にかんがみ、相違点2について検討する。
引用発明は、「『車体wの右側フロントタイヤFTをスラットコンベア25上に固定して』車体wを『第3の部品組立てステーションIV』の始端部から終端部へと搬送する」ものであるところ、引用文献1には、ストラットコンベア25によって車体wを搬送することに替えて、自動車の自身の駆動機構によって車体wを搬送することに関して何ら記載も示唆もされていない。
そして、自動車の組立ラインにおいて、自動車の自身の駆動機構によって車体を搬送するという技術が従来周知の技術であったともいえない。
また、引用発明の「第3の部品組立てステーションIV」は、ドアライニング、各シートといった大物部品を車体wに組付ける工程であるところ、引用文献1には、当該工程を、本願発明1の「主組立ライン」のような、自動車の内装品および自動車の外殻を形成する要素を装備する工程に変更することに関して、何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、引用発明において、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。

なお、引用文献2は、自立するシェルを有する自動車が従来周知の自動車であることを例示するものであり、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とは関連しない文献である。

(4)小括
したがって、引用発明において、少なくとも相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは当業者にとって容易とはいえないから、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2で例示される周知技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本願発明2、3は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が引用発明及び引用文献2で例示される周知技術に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本願発明1は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2009-298515号公報

2.当審拒絶理由の判断
(1)刊行物の記載事項及び刊行物発明
刊行物1には、「車両搬送用ラインコンベヤおよび車両搬送方法」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(下線部は当審で付与した。以下同様。)。
ア.「【0001】
本発明は、車両搬送用ラインコンベヤおよび車両搬送方法に関するもので、車両組立ラインにおいて車輪が装着された車両を搬送するための車両搬送用ラインコンベヤおよび車両搬送方法に関する。」

イ.「【0013】
本発明の一実施形態を図1ないし図4に基いて説明する。なお、本実施形態では、車両は、車両組立ラインにおける最終組立ライン(例えば、艤装ライン)に沿って順方向に搬送される(前向きに前進する)ものとする。また、ここでは、説明の便宜上、最終組立ライン上の車両を基準に前後、左右および上下を規定する。
【0014】
本実施形態の車両搬送用ラインコンベヤ1(以下、ラインコンベヤ1という)では、ドライブユニット2(駆動手段)によってタイヤプッシャ3が車両搬送方向(図1におけるA方向、本実施形態では前方)へ駆動されると、タイヤプッシャ3によって車両4の右前輪5a(選択された車輪)の転動面6の後側が押圧されて、この右前輪5aが順方向(車両4が前進する時の車輪5の回転方向)へ転動される。これにより、車両4は、全ての車輪5を転動(回転)させて最終組立ラインに沿って搬送される。なお、右前輪5aを除く各車輪5が転動するのは、タイヤプッシャ3によって転動面6が押圧されることによるものではなく、車両4の前進に伴う床面7との摩擦によるものである。」

ウ.「【0020】
次に、本実施形態の車両搬送方法を説明する。
車両4は、前工程からハンガーに吊り下げられた状態で最終組立ライン(例えば、艤装ライン)に導入されて当該最終組立ラインに定置される(規定位置に降ろされる)。この定置された車両4は、搬送方向に向けられて右前輪5aおよび右後輪5bがガイドバー34、35間に位置した状態にある。次に、作業者によって車両4の右前輪5a(選択された車輪)の後側にタイヤプッシャ3がセットされる。ここで、タイヤプッシャ3は、前側のカムフォロア24がガイドレール15の右側面15aに当接されて後側のカムフォロア25がガイドレール15の左側面15bに当接される。さらに、タイヤプッシャ3のローラ32を、右前輪5aの転動面6における接地面直後の被押圧部31に当接させておく。
【0021】
次に、タイヤプッシャ3のチェーン30のフック29(繋止手段)を、ドライブユニット2(駆動手段)における無端チェーン8の送り側のチェーン8aに引っ掛けてタイヤプッシャ3を無端チェーン8に繋止させる。この状態で、減速機付きモータ39(駆動部)によって無端チェーン8を順方向(図5における時計回り方向)へ駆動することで、車両搬送方向へ送られる送り側チェーン8aに連動して(連れられて)タイヤプッシャ3が車両搬送方向へ駆動される。これにより、タイヤプッシャ3のローラ32によって車両4の右前輪5aの転動面6における被押圧部31が押圧されて右前輪5aが順方向(車両4が前進する時の回転方向)へ転動する。この結果、車両4は、全ての車輪5を転動させながら最終組立ラインに沿って車両搬送方向(図1におけるA方向)へ搬送される。」

エ.「【0023】
次に、タイヤプッシャ3を車両4の右前輪5および駆動ユニット2から取り除く。取り除かれたタイヤプッシャ3は、作業者によって台車で元の位置(最終組立ラインの始端)に戻される。なお、車両4は、規定部品(例えば、艤装部品)が装着された後、エンジンが作動されて作業者のドライブによって踏板38を乗り越えてラインオフされる。」

以上の記載事項から次の事項が認定できる。
オ.上記イ.には、「本実施形態では、車両は、車両組立ラインにおける最終組立ライン(例えば、艤装ライン)に沿って順方向に搬送される(前向きに前進する)ものとする。」(段落【0013】)、「車両4は、全ての車輪5を転動(回転)させて最終組立ラインに沿って搬送される。」(段落【0014】)と記載され、上記エ.には、「車両4は、規定部品(例えば、艤装部品)が装着された後、エンジンが作動されて作業者のドライブによって踏板38を乗り越えてラインオフされる。」と記載されており、併せて図1を参照すると、刊行物1には、車両4の組立て方法が記載されているものと認められる。

カ.上記イ.には、「本実施形態の車両搬送用ラインコンベヤ1(以下、ラインコンベヤ1という)では、ドライブユニット2(駆動手段)によってタイヤプッシャ3が車両搬送方向(図1におけるA方向、本実施形態では前方)へ駆動されると、タイヤプッシャ3によって車両4の右前輪5a(選択された車輪)の転動面6の後側が押圧されて、この右前輪5aが順方向(車両4が前進する時の車輪5の回転方向)へ転動される。これにより、車両4は、全ての車輪5を転動(回転)させて最終組立ラインに沿って搬送される。」(段落【0014】)と記載され、上記ウ.には、「車両4は、前工程からハンガーに吊り下げられた状態で最終組立ライン(例えば、艤装ライン)に導入されて当該最終組立ラインに定置される(規定位置に降ろされる)。この定置された車両4は、搬送方向に向けられて右前輪5aおよび右後輪5bがガイドバー34、35間に位置した状態にある。」(段落【0020】)、「これにより、タイヤプッシャ3のローラ32によって車両4の右前輪5aの転動面6における被押圧部31が押圧されて右前輪5aが順方向(車両4が前進する時の回転方向)へ転動する。この結果、車両4は、全ての車輪5を転動させながら最終組立ラインに沿って車両搬送方向(図1におけるA方向)へ搬送される。」(段落【0021】)と記載されており、併せて図1を参照すると、最終組立ラインに到達する前に全ての車輪5が車両4に取付けされており、車両4に前記全ての車輪5を取付けた後に、前記最終組立ラインの全体に沿って前記車両4はタイヤプッシャ3によって、自身の前記車輪5で移動可能であるものと認められる。

これらの記載事項ア.?エ.、認定事項オ.、カ.及び図面内容を総合し、本願発明1の発明特定事項に倣って整理すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「刊行物1発明」という。)。
「車両4が最終組立ラインに到達する前に全ての車輪5が取付けられる、車両4の組立て方法であって、
前記最終組立ラインは、艤装ラインであり、
前記車両4に前記全ての車輪5を取付けた後に、前記最終組立ラインの全体に沿って前記車両4はタイヤプッシャ3によって、自身の前記車輪5で移動可能である方法。」

(2)対比
ア.本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、刊行物1発明の「車輪5」は本願発明1の「ホイール」に相当する。

イ.「車両」とは、字義的に「電車・自動車など、旅客・貨物を輸送するための車」を意味することが明らかであるところ(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)、併せて図1を参照すると、刊行物1発明の「車両4」は本願発明1の「自動車」に相当するものと認められる。そして、通常、自動車は自立構造であるシェルを有しているのが技術常識であり、さらに併せて図1も参照すれば、刊行物1発明の自動車である「車両4」も自立するシェルを有しているものと認められる。また、自動車が、足回り装置であるシャーシを備えるのは技術常識であるから(必要あれば、「自動車情報辞典 大車林 株式会社三栄書房」第346-347頁参照)、刊行物1発明の自動車である「車両4」も足回り装置であるシャーシを備えているといえる。加えて、刊行物1発明の「最終組立ライン」と本願発明1の「主組立てライン」は、「組立てライン」という限度において一致する。
以上から、刊行物1発明の「車両4が最終組立ラインに到達する前に全ての車輪5が取付けられる、車両4の組立て方法」と、刊行物1発明の「シャーシが少なくとも主組立てラインに到達する前にホイールが取付けられる、自立するシェルを有する自動車の組立て方法」は、「シャーシが少なくとも組立てラインに到達する前にホイールが取付けられる、自立するシェルを有する自動車の組立て方法」という限度において一致する。

ウ.上記(1)ウ.には、「この定置された車両4は、搬送方向に向けられて右前輪5aおよび右後輪5bがガイドバー34、35間に位置した状態にある。」(段落【0020】)と記載されており、併せて図1を参照すると、刊行物1発明の「車輪5」の数は合計4つであると認められるので、刊行物1発明の「前記全ての車輪5」は本願発明1の「4つの前記ホイール」に相当する。そして、上記イ.で述べたとおり、刊行物1発明の自動車である「車両4」は足回り装置であるシャーシを備えているといえるので、刊行物1発明の「前記車両4に前記全ての車輪5を取付けた後に」は、本願発明1の「前記シャーシに4つの前記ホイールを取付けた後に」に相当する。また、上記イ.で述べたとおり、刊行物1発明の「最終組立ライン」と本願発明1の「主組立てライン」は、「組立てライン」という限度において一致する。
以上から、刊行物1発明の「前記車両4に前記全ての車輪5を取付けた後に、前記最終組立ラインの全体に沿って前記車両4はタイヤプッシャ3によって、自身の前記車輪5で移動可能である」という構成と、本願発明1の「前記シャーシに4つの前記ホイールを取付けた後に、前記主組立てラインの全体に沿って前記自動車は自身の駆動機構によって、自身の前記ホイールで移動可能である」という構成は、「前記シャーシに4つの前記ホイールを取付けた後に、前記組立てラインの全体に沿って前記自動車は自身の前記ホイールで移動可能である」という構成の限度において一致する。

したがって、両者は、
「シャーシが少なくとも組立てラインに到達する前にホイールが取付けられる、自立するシェルを有する自動車の組立て方法であって、
前記シャーシに4つの前記ホイールを取付けた後に、前記組立てラインの全体に沿って前記自動車は自身の前記ホイールで移動可能である方法。」
である点で一致する。

そして、本願発明1と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
<相違点a>
「組立てライン」に関して、本願発明1では、「主組立てライン」であり、「自動車の内装品および自動車の外殻を形成する要素を装備する工程であ」るのに対し、
刊行物1発明では、「最終組立ライン」であり、「艤装ラインであ」る点。

<相違点b>
「前記組立てラインの全体に沿って前記自動車は自身の前記ホイールで移動可能である」という構成に関し、本願発明1では、「『前記主組立てライン』の全体に沿って前記自動車は『自身の駆動機構によって』、自身の前記ホイールで移動可能である」のに対し、
刊行物1発明では、「『前記最終組立ライン』の全体に沿って前記車両4は『タイヤプッシャ3によって』、自身の前記車輪5で移動可能である」点。

(3)判断
事案にかんがみ、相違点bについて検討する。
刊行物1発明は、「『前記最終組立ライン』の全体に沿って前記車両4は『タイヤプッシャ3によって』、自身の前記車輪5で移動可能である」ものであるところ、刊行物1には、タイヤプッシャ3によって車両4を移動することに替えて、自動車の自身の駆動機構によって車両4を移動することに関して何ら記載も示唆もされていない。
そして、自動車の組立ラインにおいて、自動車の自身の駆動機構によって車両を移動するという技術が従来周知の技術であったともいえない。
また、刊行物1発明の「最終組立ライン」は、艤装ラインであるところ、刊行物1には、当該ラインを、本願発明1の「主組立ライン」のような、自動車の内装品および自動車の外殻を形成する要素を装備する工程に変更することに関して、何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、刊行物1発明において、相違点bに係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。

(4)小括
したがって、刊行物1発明において、少なくとも相違点bに係る本願発明1の発明特定事項を想到することは当業者にとって容易とはいえないから、本願発明1は、当業者が刊行物1発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、本願発明2、3は、本願発明1をさらに限定したものであるので、本願発明1と同様に、当業者が刊行物1発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-01 
出願番号 特願2013-545072(P2013-545072)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B62D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三宅 達川上 佳  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 氏原 康宏
森林 宏和
発明の名称 自動車の組立て方法  
代理人 赤澤 日出夫  

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