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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1324400
審判番号 不服2016-6976  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-12 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2012- 78309「レーダ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 7日出願公開、特開2013-205399、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月29日の出願であって、平成27年7月14日付けで拒絶理由が通知され、平成27年9月28日付けで手続補正がなされたが、平成28年2月5日付けで拒絶査定がなされ(送達日:平成28年2月16日)、これに対し、平成28年5月12日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年5月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否について
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の請求項1
本件補正前の平成27年9月28日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
所定回数の送信周期毎に、レーダ送信ビームの主ビーム幅毎に基づいて分割された複数の送信エリアに、主ビーム方向を切り換えるための制御信号を出力する送信ビーム制御部と、
前記制御信号に基づき前記主ビーム方向が切り替えられた前記送信エリアに対してレーダ送信信号を送信するレーダ送信部と、
前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された反射波信号を受信する複数のアンテナ系統処理部を用いて、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を推定するレーダ受信部と、を含み、
前記レーダ受信部は、
前記複数のアンテナ系統処理部からの各出力を基に、受信アンテナの配置に起因する位相差情報を生成するアンテナ間相関演算部と、
前記レーダ送信ビームが送信された前記送信エリアに対応する前記反射波信号の到来方向の推定範囲を選択する推定範囲選択部と、
前記アンテナ間相関演算部及び前記推定範囲選択部の各出力を基に、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を推定する到来方向推定部と、を有するレーダ装置。」

(2)本件補正後の請求項1
本件補正後の請求項1の記載は、次のとおりである(下線は、補正箇所を示す)。
「【請求項1】
所定回数の送信周期毎に、レーダ送信ビームの主ビーム幅よりも狭い間隔で、分割された複数の送信エリアに、主ビーム方向を切り換えるための制御信号を出力する送信ビーム制御部と、
前記制御信号に基づき前記主ビーム方向が切り替えられた前記送信エリアに対してレーダ送信信号を送信するレーダ送信部と、
前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された反射波信号を受信する複数のアンテナ系統処理部を用いて、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を、前記主ビーム方向が送信された前記送信エリアに対して、推定するレーダ受信部と、を含み、
前記レーダ受信部は、
前記複数のアンテナ系統処理部からの各出力を基に、受信アンテナの配置に起因する位相差情報を生成するアンテナ間相関演算部と、
前記レーダ送信ビームの主ビーム幅が送信された前記送信エリアに対応する前記反射波信号の到来方向の推定範囲を選択する推定範囲選択部と、
前記アンテナ間相関演算部及び前記推定範囲選択部の各出力を基に、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を推定する到来方向推定部と、を有するレーダ装置。」

(3)本件補正に係る補正事項について
本件補正は、請求項1についての次のアないしウの補正事項、及び、明細書についての次のエの補正事項(以下、「補正事項ア」ないし「補正事項エ」という。)を含んでいる。
また、請求項2ないし7は補正されていない。
ア 「送信ビーム制御部」が行う主ビーム方向の切り換えについて、「レーダ送信ビームの主ビーム幅よりも狭い間隔で」と限定する補正。

イ レーダ受信部における、ターゲットからの反射波信号の到来方向の推定について、「前記主ビーム方向が送信された前記送信エリアに対して」と限定する補正。

ウ 推定範囲選択部における、反射波信号の到来方向の推定範囲について、本件補正前に、「前記レーダ送信ビームが送信された前記送信エリア」とあったところを、「前記レーダ送信ビームの主ビーム幅が送信された前記送信エリア」と限定する補正。

エ 明細書段落【0023】について、上記補正事項アないし補正事項ウと同じ内容の補正。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無、補正の目的について
ア 本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲および図面(以下、「出願当初明細書等」という。)には、明細書の段落【0068】、【0069】に、次のとおり記載されている(下線は、強調のため、当審で付与した。)。
「【0068】
図6(c)では、一つの小さい四角の横軸方向の値はレーダ送信ビームの主ビーム方向θの送信ビーム幅を表すが、図6(b)と異なり、レーダ送信ビームの送信ビーム幅が次走査のレーダ送信ビームの送信ビーム幅に一部重複している。従って、図6(c)では、レーダ送信ビームはレーダ装置1の送信ビームの走査範囲(例えば、-20度から+20度)の範囲において合計15回形成され、走査回数は15回である。同様に、一つの小さい四角の縦軸方向の値は形成されたレーダ送信ビームに応じてレーダ受信部Rxがターゲットの推定範囲に対して実行する到来方位角の推定範囲を表す。
【0069】
なお、送信ビーム形成部9は、図6(b)或いは図6(c)において示した送信ビームの走査を行う。レーダ送信ビームの送信ビーム幅を次走査のレーダ送信ビームの送信ビーム幅と一部重複するように、レーダ送信ビームを形成することで、走査回数は増加するが、レーダ装置1は、ターゲットの推定範囲内における方位角方向の送信電力を平滑化でき、方位角方向の推定精度を向上できる。」

イ 出願当初明細書等の図面、図6(c)には、一つの小さい四角の横軸方向の値(レーダ送信ビームの主ビーム方向θの送信ビーム幅を表す)と、一つの小さい四角の縦軸方向の値(形成されたレーダ送信ビームに応じてレーダ受信部Rxがターゲットの推定範囲に対して実行する到来方位角の推定範囲を表す)とが相等しいことが示されている。


ウ 上記「ア」及び「イ」より、出願当初明細書等には、「レーダ送信ビームの送信ビーム幅」を重複させながら主ビーム方向の切り換えを行うこと、及び、「レーダ送信ビームの送信ビーム幅」が「受信部Rxがターゲットの推定範囲に対して実行する到来方位角の推定範囲」と等しいことが開示されているといえる。
そして、「レーダ送信ビームの送信ビーム幅」を重複させて主ビーム方向の切り換えを行えば、主ビーム方向の切り換えが「レーダ送信ビームの主ビーム幅よりも狭い間隔」(補正事項ア)となることは幾何学的に明らかなことであり、また、「レーダ送信ビームの送信ビーム幅」が「受信部Rxがターゲットの推定範囲に対して実行する到来方向角の推定範囲」と等しいのであれば、ターゲットからの反射信号の到来方向の推定を、「主ビーム方向が送信された送信エリア」(補正事項イ)、すなわち「レーダ送信ビームの主ビーム幅が送信された送信エリア」(補正事項ウ)に対して行うことも、当業者にとって自明な事項である。
よって、上記「補正事項ア」ないし「補正事項ウ」、及び補正事項アないし補正事項ウと同じ内容の補正を行う「補正事項エ」は、出願当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係に於いて、新たな技術的事項を導入するものではない。
従って、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

エ また、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定にも適合する。

オ さらに、上記「補正事項ア」ないし「補正事項ウ」は、特許法第17条の2第5項第2号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的とするものであり、補正事項エは、特許請求の範囲の補正に合わせて明細書の記載を補正するものであるから、特許法第17条の2第5項第4号(明りようでない記載の釈明)に掲げる事項を目的とするものである。

(2)独立特許要件について
上記「(1)」「オ」で述べたとおり、「補正事項ア」ないし「補正事項ウ」は、特許法第17条の2第5項第2号(特許請求の範囲の減縮)に掲げる事項を目的としているから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるか(特許法第17条の2第6項で準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)、以下に検討する。
ア 引用例等
(引用例1)
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された、特開2010-197138号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、送信信号を送出すると共に受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出するレーダ装置に関する。より特定的には、例えば、車両に搭載されたレーダ装置に関する。」

「【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照して本発明に係るレーダ装置の実施形態について説明する。本発明に係るレーダ装置は、送信アンテナを介して送信信号を送出すると共に、受信アンテナを介して受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出する。本実施形態では、レーダ装置が、車両VC(図3、図5参照)に搭載され、車両VCの前方の物体を検出する場合について説明する。
【0042】
図1は、本発明に係るレーダ装置1の構成の一例を示すブロック図である。レーダ装置1は、制御部11、送信部12、及び、受信部13を備えている。制御部11は、レーダ装置1全体の動作を制御するものであって、機能的に、送信指示部111、物体判定部112、衝突判定部113、受信信号処理部114、及び、指向性変更部115を備えている。送信部12(送信アンテナに相当する)は、制御部11(送信指示部111)からの指示に従って、送信信号を送出するものである。受信部13(受信アンテナに相当する)は、制御部11(指向性変更部115等)からの指示に従って、受信信号を受信するものである。
【0043】
なお、制御部11は、制御部11の適所に配設されたマイクロコンピュータに、制御部11の適所に配設されたROM(Read Only Memory)等に予め格納された制御プログラムを実行させることにより、当該マイクロコンピュータを、機能的に、送信指示部111、物体判定部112、衝突判定部113、受信信号処理部114、指向性変更部115等の機能部として機能させる。
【0044】
送信指示部111(送信手段の一部に相当する)は、送信部12を介して送信信号を送出する機能部である。具体的には、送信指示部111は、送信部12を介して、複数個(ここでは、3個)の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12:図2参照)を介して互いに相違する領域(ここでは、領域AR1?AR3(図3参照))に向けて送出する。また、送信指示部111は、物体判定部112によって物体(例えば、物体TG3、TG4:図5参照)が検出され、且つ、該物体(ここでは、物体TG3、TG4:図5参照)が衝突判定部113によって、車両VCと衝突する可能性があると判定された場合に、該物体が検出された領域(ここでは、領域AR3)に限って、送信信号を送出する(図5参照)。
【0045】
物体判定部112(物体判定手段に相当する)は、前記複数個(ここでは、3個)の送信信号毎に、受信部13を介して対応する受信信号を受信し、前記複数個(ここでは、3個)の送信信号に対応する領域(ここでは、領域AR1?AR3(図3参照))に、それぞれ、物体が存在するか否かを判定する機能部である。具体的には、物体判定部112は、例えば、物体からの反射波が受信部13を介して受信信号として受信されたか否かに応じて、物体が存在するか否かを判定する。また、物体判定部112は、送信部12を介して送出された送信信号、及び、受信部13を介して受信された受信信号に基づいて、物体の自車両VCに対する相対位置及び相対速度を検出する。
【0046】
衝突判定部113(衝突判定手段に相当する)は、物体判定部112によって物体が存在すると判定された場合に、検出された物体が自車両VCと衝突する可能性があるか否かを判定する機能部である。具体的には、衝突判定部113は、例えば、物体判定部112によって検出された物体の自車両VCに対する相対位置及び相対速度に基づいて、検出された物体が自車両VCと衝突する可能性があるか否かを判定する。
【0047】
受信信号処理部114(受信信号処理手段に相当する)は、受信アンテナ(=受信部13:図4参照)を介して、前記複数個(ここでは、3個)の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に物体の存在する方位を検出する機能部である。ただし、ここでは、受信信号処理部114は、物体判定部112によって物体が存在すると判定された領域(例えば、領域AR3:図3参照)であって、且つ、衝突判定部113によって該領域(ここでは、領域AR3:図3参照)に存在する物体(ここでは、物体TG3、TG4:図3参照)が自車両VCに衝突する可能性があると判定された場合に限って、物体(ここでは、物体TG3、TG4:図3参照)の存在する方位を検出する。
【0048】
また、受信信号処理部114は、高分解能で受信信号の到来する方位を検出するMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等の高分解能方位検出法を用いて、物体の存在する方位を検出する。ここで、「高分解能方位検出法」とは、フーリエ変換の原理に基づいて、受信信号の到来する方位を高分解能で検出する方法全般を指す概念であって、Beamformer法、最小ノルム法、MUSIC法、Capon法、Pisarenko法、ESPRIT(Estimation of SignalParameters via Rotational Invariance Techniques)法等を含む。
【0049】
ただし、ここでは、受信信号処理部114は、MUSIC法等の受信アンテナに含まれるアンテナ素子131(図4参照)の個数である第1所定個数N(ここでは、3個)によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法を用いて、物体の存在する方位を検出する。具体的には、高分解能方位検出法として、最小ノルム法、MUSIC法、Capon法、又は、Pisarenko法を用いる。ここでは、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法としてMUSIC法を用いる場合について説明する。
【0050】
ここで、MUSIC法において、信号到来方向(=物体の存在する方位)を検出する原理について簡単に説明する。まず、アレーアンテナを構成するの各アンテナ素子131(図4参照)の時系列出力データから相関行列を作成する。そして、作成された相関行列の固有値と固有ベクトルとを算出する。次に、それらの固有値の大小を判別して、信号空間に属する固有ベクトルと雑音空間に属する固有ベクトルとに分類し、それぞれが互いに直交することを利用して到来方向推定を行う。すなわち、雑音空間に属する固有ベクトル行列に信号到来方向ベクトルを乗算する項を分母において、信号到来方向の角度をスキャンすると、その角度が実際の信号信号到来方向に一致した時に、分母の値が零に近づくことから急峻なピークが得られる。MUSIC法は、この作用を利用して信号の到来方向推定を行うものである。
【0051】
このようにして、受信信号処理部114によって、高分解能で受信信号の到来する方位を検出する高分解能方位検出法(ここでは、MUSIC法)を用いて、物体の存在する方位が検出されるため、受信アンテナの個数(ここでは、第1所定個数N)を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することができる。
【0052】
本実施形態では、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法としてMUSIC法を用いる場合について説明するが、受信信号処理部114が、その他の高分解能方位検出法を用いる形態でも良い。例えば、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法として、最小ノルム法、Capon法、又は、Pisarenko法を用いる形態でも良い。更に、例えば、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法として、Beamformer法、又は、ESPRIT法を用いる形態でも良い。
【0053】
ここで、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法として、MUSIC法等の受信アンテナの個数(ここでは、第1所定個数N)によって検出可能な方位の個数が制限される方法を用いる場合には、多くの物体を検出可能とするために、受信アンテナの個数(ここでは、第1所定個数N)を多くする必要がある。しかしながら、受信信号処理部114によって、受信された受信信号毎に(ここでは、図3に示す3つの領域AR1?AR3毎に)物体の存在する方位が検出されるため、受信アンテナの個数を多くすることなく、多くの物体の方位を高精度に検出することができる。つまり、MUSIC法等の受信アンテナの個数によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法を用いるため、本発明の効果が更に顕在化するのである。
【0054】
本実施形態では、受信信号処理部114が、高分解能方位検出法としてMUSIC法を用いる場合について説明するが、受信信号処理部114が、受信アンテナの個数(ここでは、第1所定個数N)によって検出可能な方位の個数が制限される高分解能方位検出法を用いる形態でも良い。例えば、受信信号処理部114が、最小ノルム法、Capon法、又は、Pisarenko法を用いる形態でも良い。
【0055】
また、物体判定部112によって物体が存在すると判定され、且つ、衝突判定部113によって該物体と衝突する可能性があると判定された場合に限って、前記物体の存在する方位が検出されるため、衝突する可能性がある物体は存在しないと判定された領域(ここでは、領域AR1、AR2:図3参照)に対応するMUSIC法等の演算処理が省略されるのである。つまり、物体が存在しないと判定された領域(ここでは、領域AR2:図3参照)、及び、物体は存在するが、該物体は自車両と衝突する可能性がないと判定された領域(ここでは、領域AR1:図3参照)、に対応するMUSIC法等の演算処理が省略される。従って、受信信号処理部114によって物体の存在する方位を検出するために実行されるMUSIC法等の演算処理の負荷を軽減することができる。
【0056】
本実施形態では、受信信号処理部114が、物体が存在すると判定され、且つ、該物体と衝突する可能性があると判定された領域(ここでは、領域AR3:図3参照)に限って、前記物体の存在する方位を検出する場合について説明したが、受信信号処理部114が、物体が存在すると判定され領域(ここでは、領域AR1、AR3:図3参照)に限って、前記物体の存在する方位を検出する形態でも良い。この場合には、衝突判定部113による処理(=衝突の可能性があるか否かの判定処理)を省略することができる。」(なお、段落【0050】に「アレーアンテナを構成するの各アンテナ素子131」とある記載は、「アレーアンテナを構成する各アンテナ素子131」の誤記である。)

「【0060】
図2は、図1に示す送信部12の構成の一例を示すブロック図である。図に示すように
、送信部12は、送信指示部111からの指示に従って送信信号を送出するものであって、送信信号生成部121、合成波生成部122、位相調整線路123、及び、アンテナ素子124を備えている。
【0061】
送信信号生成部121は、送信指示部111からの指示に従って、互いに電波特性の相違する複数個(ここでは、3個)の送信信号を生成するものであって、送信信号生成部121a、121b、121cを備えている。また、送信信号生成部121は、生成した送信信号を合成波生成部122へ出力する。ここでは、前記電波特性は、周波数であって、送信信号生成部121a、121b、121cは、それぞれ、互いに周波数fの相違する複数個(ここでは、3個)の送信信号を生成する。例えば、送信信号生成部121a、121b、121cは、周波数fが、それぞれ、f1=75.5GHz、f2=76.0GHz、f3=76.5GHzの送信信号を生成する。」
【0069】
本実施形態では、送信信号生成部121が、互いに周波数fの相違する複数個の送信信号を生成する場合について説明するが、送信信号生成部121が、互いに電波特性の相違する複数個の送信信号を生成する形態であれば良い。例えば、送信信号生成部121が、互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成する形態でも良い。ただし、この場合には、位相調整線路123に換えて、送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等を配設する必要がある。」

引用例1における上記事項より、次の技術事項を読み取ることができる。
(ア)段落【0041】より、「送信アンテナを介して送信信号を送出すると共に、受信アンテナを介して受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出するレーダ装置。」との技術事項を読み取ることができる。

(イ)段落【0056】の「受信信号処理部114が、物体が存在すると判定され領域(ここでは、領域AR1、AR3:図3参照)に限って、前記物体の存在する方位を検出する形態でも良い。この場合には、衝突判定部113による処理(=衝突の可能性があるか否かの判定処理)を省略することができる。」との記載(以下、「段落【0056】の記載」という。)を踏まえれば、段落【0042】より、「レーダ装置1は、制御部11、送信部12、及び、受信部13を備えており、制御部11は、レーダ装置1全体の動作を制御するものであって、機能的に、送信指示部111、物体判定部112、受信信号処理部114を備えており、送信部12(送信アンテナに相当する)は、制御部11(送信指示部111)からの指示に従って、送信信号を送出するものであり、受信部13(受信アンテナに相当する)は、制御部11からの指示に従って、受信信号を受信するものである。」との技術事項を読み取ることができる。

(ウ)段落【0056】の記載を踏まえれば、段落【0044】、【0045】及び【0047】より、「送信指示部111(送信手段の一部に相当する)は、送信部12を介して送信信号を送出する機能部であり、送信部12を介して、複数個の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12)を介して互いに相違する領域に向けて送出し、また、送信指示部111は、物体判定部112によって物体が検出された場合に、該物体が検出された領域に限って、送信信号を送出し、
物体判定部112(物体判定手段に相当する)は、前記複数個の送信信号毎に、受信部13を介して対応する受信信号を受信し、前記複数個の送信信号に対応する領域に、それぞれ、物体が存在するか否かを判定する機能部であり、
受信信号処理部114(受信信号処理手段に相当する)は、受信アンテナ(=受信部13)を介して、前記複数個の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に物体の存在する方位を検出する機能部であり、物体判定部112によって物体が存在すると判定された領域の存在する方位を検出する。」との技術事項を読み取ることができる。

(エ)段落【0049】及び段落【0050】より、「受信信号処理部114は、MUSIC法等の高分解能方位検出法を用いて、物体の存在する方位を検出するが、MUSIC法において、信号到来方向(=物体の存在する方位)を検出するには、まず、アレーアンテナを構成するの各アンテナ素子131の時系列出力データから相関行列を作成し、そして、作成された相関行列の固有値と固有ベクトルとを算出し、次に、それらの固有値の大小を判別して、信号空間に属する固有ベクトルと雑音空間に属する固有ベクトルとに分類し、雑音空間に属する固有ベクトル行列に信号到来方向ベクトルを乗算する項を分母において、信号到来方向の角度をスキャンすると、その角度が実際の信号信号到来方向に一致した時に、分母の値が零に近づくことから急峻なピークが得られ、MUSIC法は、この作用を利用して信号の到来方向推定を行うものである。」との技術事項を読み取ることができる。

(オ)段落【0056】の記載を踏まえれば、段落【0053】及び段落【0055】より、「受信信号処理部114によって、受信された受信信号毎に物体の存在する方位が検出されるが、物体判定部112によって物体が存在すると判定された場合に限って、前記物体の存在する方位が検出されるため、受信信号処理部114によって物体の存在する方位を検出するために実行されるMUSIC法等の演算処理の負荷を軽減することができる。」との技術事項を読み取ることができる。

(カ)段落【0069】より、「複数個の送信信号を生成する形態は、送信信号生成部121が、互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成する形態でも良く、この場合には、送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等を配設する。」との技術事項を読み取ることができる。

上記(ア)ないし(カ)より、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「送信アンテナを介して送信信号を送出すると共に、受信アンテナを介して受信信号を受信し、前記送信信号及び受信信号に基づいて、物体を検出するレーダ装置であって((ア)より)、
レーダ装置1は、制御部11、送信部12、及び、受信部13を備えており、制御部11は、レーダ装置1全体の動作を制御するものであって、機能的に、送信指示部111、物体判定部112、受信信号処理部114を備えており、送信部12(送信アンテナに相当する)は、制御部11(送信指示部111)からの指示に従って、送信信号を送出するものであり、受信部13(受信アンテナに相当する)は、制御部11からの指示に従って、受信信号を受信するものであり((イ)より)、
送信指示部111(送信手段の一部に相当する)は、送信部12を介して送信信号を送出する機能部であり、送信部12を介して、複数個の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12)を介して互いに相違する領域に向けて送出し、また、送信指示部111は、物体判定部112によって物体が検出された場合に、該物体が検出された領域に限って、送信信号を送出し、
物体判定部112(物体判定手段に相当する)は、前記複数個の送信信号毎に、受信部13を介して対応する受信信号を受信し、前記複数個の送信信号に対応する領域に、それぞれ、物体が存在するか否かを判定する機能部であり、
受信信号処理部114(受信信号処理手段に相当する)は、受信アンテナ(=受信部13)を介して、前記複数個の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に物体の存在する方位を検出する機能部であり、物体判定部112によって物体が存在すると判定された領域の存在する方位を検出し((ウ)より)、
受信信号処理部114は、MUSIC法等の高分解能方位検出法を用いて、物体の存在する方位を検出するが、MUSIC法において、信号到来方向(=物体の存在する方位)を検出するには、まず、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子131の時系列出力データから相関行列を作成し、そして、作成された相関行列の固有値と固有ベクトルとを算出し、次に、それらの固有値の大小を判別して、信号空間に属する固有ベクトルと雑音空間に属する固有ベクトルとに分類し、雑音空間に属する固有ベクトル行列に信号到来方向ベクトルを乗算する項を分母において、信号到来方向の角度をスキャンすると、その角度が実際の信号信号到来方向に一致した時に、分母の値が零に近づくことから急峻なピークが得られ、MUSIC法は、この作用を利用して信号の到来方向推定を行うものであり((エ)より)、
受信信号処理部114によって、受信された受信信号毎に物体の存在する方位が検出されるが、物体判定部112によって物体が存在すると判定された場合に限って、前記物体の存在する方位が検出されるため、受信信号処理部114によって物体の存在する方位を検出するために実行されるMUSIC法等の演算処理の負荷を軽減することができ((オ)より)、
複数個の送信信号を生成する形態は、送信信号生成部121が、互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成する形態でも良く、この場合には、送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等を配設する((カ)より)、
レーダ装置1。」

(引用例2)
本願の出願前に頒布された刊行物である、特表2009-541719号公報(以下、「引用例2」という。なお、引用例2は、拒絶査定の備考欄において周知技術を示すものとして引用された文献である。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念による方法、すなわち、自動車のレーダシステムに対する、物体の速度および距離を決定する方法であって、レーダシステムのカバー領域が、少なくとも2つの部分領域に分割され、連続する複数の測定サイクルにおいて、反射物体を対象にして調べられ、各測定サイクルにおいて受信されたレーダ信号は、部分領域にしたがって個別に処理され、処理されたレーダ信号を組み合わせて、空間方向に区分された全体結果が形成されるようにする方法に関する。また、本発明は、請求項10の上位概念によるレーダシステム、すなわち、上述の方法を実行するように構成されているレーダシステムにも関する。」

「【0035】
図1は、自動車10に対する、反射物体14、16の速度v14、v16の半径方向の成分の速度vr14、vr16、および、距離r14、r16を決定する自動車用レーダシステム12を備えた自動車10を示す。この例では、レーダシステム12は、N=3個の部分領域TB1、TB2、TB3に分割されたカバー領域EBを用いるように構成されている。2以上の、他のN値を用いることも可能である。各部分領域TB1、TB2、TB3は、送信ローブと受信角度領域とが重なった領域、すなわちオーバーレイとして実現される。
【0036】
オーバーレイは、それぞれ、異なる空間的方向を向いている。第1の実施形態において、レーダシステム12が、反射物体14、16を対象として、カバー領域EBを各部分ごとに調べるために、これらのオーバーレイは、1測定サイクルにおいて、順次起動される。部分領域ごとの各検査は、以下の説明において、個別測定とも呼ばれる。部分領域TB1、TB2、TB3が一緒になって、カバー領域EBが生成されるのであるから、1測定サイクルの期間は、カバー領域EBの部分領域の個別測定の期間の和として得られる。
【0037】
全部分領域TB1、TB2、TB3の1回の検査が終わるごとに、新しい測定サイクルが行なわれる。1測定サイクルMZにおいて、レーダシステム12によって受信されたレーダ信号は、部分領域TB1、TB2、TB3ごとに個別に処理され、処理された信号が組み合わされて、空間方向にしたがって区分された全体結果が形成される。その全体結果は、例えば画面表示によって、自動車10の運転者に示される。それに代えて、または、それに加えて、全体結果は、さらに、前述の例示的な応用例の1つ以上の範囲で、例えば距離制御のために用いられる。」
「【0040】
各部分領域TB1、TB2、TB3に対して、測定期間M_TB1_1、M_TB2_1、M_TB3_1が割り当てられる。これらの測定期間のそれぞれにおいて、レーダシステム12は、対応する部分領域TB1、TB2、TB3から、それらに1つ以上の反射物体14、16が存在しているときに、反射レーダ信号を受信する。この測定期間の表記法において、それぞれの最初の数字は、部分領域の番号、2番目の数字は、測定サイクルの番号を表わしている。1測定サイクルは、カバー領域EBが、1回、完全に調べられる期間に相当する。」

「【0054】
図4?図6は、オーバーレイ、すなわち部分領域の種々の可能な実施例を示している。図4においては、狭い送信ローブ18が、広い受信角度領域20の内部に位置しており、そのため、オーバーレイすなわち部分領域TBを形成している。広い受信角度領域20は、この場合には、レーダシステム12の全カバー領域EBと一致している。一実施形態におけるレーダシステム12の操作において、送信ローブ18、したがって部分領域TBの切り換えによって、カバー領域EBは、部分ごとに走査される。」

よって、引用例2には、周知技術として「レーダシステム12は、N個の部分領域に分割されたカバー領域EBを用いるように構成されており、各部分領域は、送信ローブと受信角度領域とが重なった領域、すなわちオーバーレイとして実現され、カバー領域EBを各部分ごとに調べるために、これらのオーバーレイは、1測定サイクルにおいて、順次起動され、全部分領域の1回の検査が終わるごとに、新しい測定サイクルが行なわれ、1測定サイクルMZにおいて、レーダシステム12によって受信されたレーダ信号は、部分領域ごとに個別に処理され、処理された信号が組み合わされて、空間方向にしたがって区分された全体結果が形成され、各部分領域に対して、測定期間が割り当てられ、これらの測定期間のそれぞれにおいて、レーダシステム12は、対応する部分領域から、それらに1つ以上の反射物体14、16が存在しているときに、反射レーダ信号を受信し、狭い送信ローブ18、したがって部分領域TBの切り換えによって、カバー領域EBは、部分ごとに走査される、レーダシステム12。」が記載されている。

(引用例3)
本願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第99/34234号(以下、「引用例3」という。なお、引用例3は、拒絶査定の備考欄において周知技術を示すものとして引用された文献である。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「技術分野
本発明は、複数の受信アンテナで受信したターゲットからの反射波からターゲットの方位を検出するレーダ装置、特に複数の送信アンテナを順次切り替えて使用するものに関する。」(第1頁第2?5行)

「本発明は、互いに異なる指向性ビーム方向を有するとともに、順次切り替えて電波を放射する複数の送信アンテナと、この複数の送信アンテナから放射された 電波についてのターゲットからの反射波を受信する複数の受信アンテナと、複数の受信アンテナにおける受信波間の位相差または振幅差に基づいてターゲットの方位を検出する方位検出手段と、を有することを特徴とする。」(第3頁第2?6行)
よって、引用例3には、周知技術として「互いに異なる指向性ビーム方向を有するとともに、順次切り替えて電波を放射する複数の送信アンテナを有し、複数の送信アンテナを順次切り替えて使用するレーダ装置。」が記載されている。

(引用例4)
本願の出願前に頒布された刊行物である、特表2011-516861号公報(以下、「引用例4」という。なお、引用例4は、平成28年7月15日付けの前置報告書において周知技術を示すものとして引用された文献である。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0001】
本明細書において記載する構造および技法は、レーダに関し、更に特定すれば、自動車レーダのようなレーダにおける閉塞(blockage)を検出するための構造および技法に関する。」

「【0051】
送信アンテナ154は、1つまたは複数の送信ビームを有するように設けることができる。特定数の送信ビームには関係なく、送信アンテナ154は1つ以上のRFチャープ信号を1つ以上の所望の視野(例えば、合算(summed)または図1における検出ゾーン24を個々にカバーする)において放出する。これらの送信ビームは、アンテナ・パターンにおいて同様であっても異なっていてもよく、あるいは視野において同様であっても異なっていてもよい。送信ビームの視野は、完全な重複から完全な非重複まで、様々な程度で重複してもよい。」

よって、引用例4には、レーダに関する周知技術として「送信ビームの視野は、完全な重複から完全な非重複まで、様々な程度で重複してもよい」ことが記載されている。

(引用例5)
本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2010-203801号公報(以下、「引用例5」という。なお、引用例5は、平成28年7月15日付けの前置報告書において周知技術を示すものとして引用された文献である。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0004】
また、方位方向にビーム走査を行う複数のアンテナを有するレーダ装置であって、隣接するアンテナのビーム走査範囲を一部重複させることにより、その重複する領域への一定時間内にビームを照射する回数を増加させて追尾精度を向上させると共に、複数のアンテナを備えた空中線装置全体を機械的に回転させることにより、隣接するアンテナのビーム走査範囲が重複する領域を任意の方位に設定することができるレーダ装置の技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。」
よって、引用例5には、周知技術として「方位方向にビーム走査を行う複数のアンテナを有するレーダ装置であって、隣接するアンテナのビーム走査範囲を一部重複させるレーダ装置。」が記載されている。

(引用例6)
本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2000-227473号公報(以下、「引用例6」という。なお、引用例6は、平成28年7月15日付けの前置報告書において周知技術を示すものとして引用された文献である。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
「【0004】例えば、本出願人に係る特許第2567332号広報には、ミリ派帯の高周波電波ビームをレーダ波として用いたマルチビームレーダ装置について提案されており、このなかで複数の送受信手段を用いて空間的に重複するレーダビームを放射し、その送受信手段の組み合わせを変えることにより検出精度を向上させるレーダ装置が開示されている。」
よって、引用例6には、周知技術として「空間的に重複するレーダビームを放射するマルチビームレーダ装置。」が記載されている。

イ 対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1における「送信指示部111(送信手段の一部に相当する)」は、「送信部12を介して送信信号を送出する機能部であり、送信部12を介して、複数個の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12)を介して互いに相違する領域に向けて送出し」、また、「物体判定部112によって物体が検出された場合に、該物体が検出された領域に限って、送信信号を送出」しているが、「複数個の送信信号を生成する形態」として「送信信号生成部121が、互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成」し、「送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等を配設する」場合には、「送信指示部111」が、「互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成」し、「送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等」に信号を出力して、「各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12)を介して互いに相違する領域に向けて送出」することは明らかである。
よって、引用発明1における上記形態において、「送信指示部111」は、「互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成」し、「送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等」に信号を出力して、「各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12)を介して互いに相違する領域に向けて送出」するものであるから、本件補正発明における「所定回数の送信周期毎に、レーダ送信ビームの主ビーム幅よりも狭い間隔で、分割された複数の送信エリアに、主ビーム方向を切り換えるための制御信号を出力する送信ビーム制御部」とは、「分割された複数の送信エリアに、レーダ送信ビームの主ビーム方向を切り換えるための制御信号を出力する送信ビーム制御部」の点で共通する。

(イ)引用発明1の上記「(ア)」で示した形態において、「レーダ装置1」における「送信部12」は、「ビームEBの指向性を変化する回路等」に出力された信号に基づき、「ビームEBの指向性」が向けられた「領域」に対して、「互いに拡散符号の相違する複数個」の「各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12)を介して互いに相違する領域に向けて送出」しているから、本件補正発明における「前記制御信号に基づき前記主ビーム方向が切り替えられた前記送信エリアに対してレーダ送信信号を送信するレーダ送信部」に相当する。

(ウ)引用発明1では「受信信号処理部114(受信信号処理手段に相当する)」について、「受信アンテナ(=受信部13)を介して、前記複数個の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に物体の存在する方位を検出する機能部」と表現されているが、該表現を引用例1における開示内容に則して正確に表現すると、「受信信号処理部114」は、「物体判定部112によって物体が存在すると判定された場合に限って」、「送信指示部111」が「該物体が検出された領域に限って、送信信号を送出し」、「前記物体の存在する方位」を検出する機能部であるから、本件補正発明における「前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された反射波信号を受信する複数のアンテナ系統処理部を用いて、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を、前記主ビーム方向が送信された前記送信エリアに対して、推定するレーダ受信部」とは、「少なくとも、前記主ビーム方向が送信され、前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された送信エリアに対して、前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された反射波信号を受信する複数のアンテナ系統処理部を用いて、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を、前記主ビーム方向が送信された前記送信エリアに対して、推定するレーダ受信部」の点で共通する。

(エ)引用発明1における「受信信号処理部114」は、「MUSIC法等の高分解能方位検出法を用いて、物体の存在する方位を検出するが、MUSIC法において、信号到来方向(=物体の存在する方位)を検出するには、まず、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子131の時系列出力データから相関行列を作成し、そして、作成された相関行列の固有値と固有ベクトルとを算出し、次に、それらの固有値の大小を判別して、信号空間に属する固有ベクトルと雑音空間に属する固有ベクトルとに分類し、雑音空間に属する固有ベクトル行列に信号到来方向ベクトルを乗算する項を分母において、信号到来方向の角度をスキャンすると、その角度が実際の信号信号到来方向に一致した時に、分母の値が零に近づくことから急峻なピークが得られ、MUSIC法は、この作用を利用して信号の到来方向推定を行うものであ」る。そして、本願明細書の段落【0130】には「なお、評価関数値P[D(θselect),k]は、到来方向推定アルゴリズムによって種々知られており、本実施形態を含む各実施形態では、・・・(中略)・・・アレーアンテナを用いたビームフォーマ法の評価関数値を用いる。・・・(中略)・・・他に、Capon法又はMUSIC法を用いても良く、この場合、演算処理量は増大するが、角度分解能を高めた推定値が得られる。」と記載されているから、引用発明1において、「受信信号処理部114」が「MUSIC法」を用いる場合に、
(a)引用発明1の「受信信号処理部114」において、「アレーアンテナを構成する各アンテナ素子131の時系列出力データから相関行列を作成」する「演算処理」部が、本件補正発明の「前記レーダ受信部」における「前記複数のアンテナ系統処理部からの各出力を基に、受信アンテナの配置に起因する位相差情報を生成するアンテナ間相関演算部」に相当する。
(b)引用発明1の受信信号処理部114は、「物体が検出された領域に限って」送出された送信信号に対し、「MUSIC法」によって、物体の存在する方位が検出されるのであるから、その「MUSIC法」用いられる「信号到来方向ベクトル」が、上記「物体が検出された領域」内の方向ベクトルであることは、いうまでもないことである。
よって、引用発明1の「受信信号処理部114」において、上記「物体が検出された領域」内の「信号到来方向ベクトル」を出力する「演算処理」部が、本件補正発明における「前記レーダ送信ビームの主ビーム幅が送信された前記送信エリアに対応する前記反射波信号の到来方向の推定範囲を選択する推定範囲選択部」に相当する。
(c)引用発明1の「受信信号処理部114」において「作成された相関行列の固有値と固有ベクトルとを算出し、次に、それらの固有値の大小を判別して、信号空間に属する固有ベクトルと雑音空間に属する固有ベクトルとに分類し、雑音空間に属する固有ベクトル行列に信号到来方向ベクトルを乗算する項を分母において、信号到来方向の角度をスキャン」し、「急峻なピークが得られ」た方向を「実際の信号信号到来方向に一致した」とする「演算処理」部が、本件補正発明における「前記アンテナ間相関演算部及び前記推定範囲選択部の各出力を基に、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を推定する到来方向推定部」に相当する。

よって、本件補正発明と引用発明1との一致点、相違点は、次のとおりである。
(一致点)
分割された複数の送信エリアに、レーダ送信ビームの主ビーム方向を切り換えるための制御信号を出力する送信ビーム制御部と、
前記制御信号に基づき前記主ビーム方向が切り替えられた前記送信エリアに対してレーダ送信信号を送信するレーダ送信部と、
少なくとも、前記主ビーム方向が送信され、前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された送信エリアに対して、前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された反射波信号を受信する複数のアンテナ系統処理部を用いて、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を、前記主ビーム方向が送信された前記送信エリアに対して、推定するレーダ受信部と、を含み、
前記レーダ受信部は、
前記複数のアンテナ系統処理部からの各出力を基に、受信アンテナの配置に起因する位相差情報を生成するアンテナ間相関演算部と、
前記レーダ送信ビームの主ビーム幅が送信された前記送信エリアに対応する前記反射波信号の到来方向の推定範囲を選択する推定範囲選択部と、
前記アンテナ間相関演算部及び前記推定範囲選択部の各出力を基に、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を推定する到来方向推定部と、を有するレーダ装置。」

(相違点1)
本件補正発明における「送信ビーム制御部」は、「所定回数の送信周期毎に、レーダ送信ビームの主ビーム幅よりも狭い間隔で、分割された複数の送信エリアに、主ビーム方向を切り換える」のに対し、引用発明1における「送信指示部111」は、「互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成」し、「送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等」に信号を出力して、「各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12)を介して互いに相違する領域に向けて送出」するものである点。

(相違点2)
本件補正発明における「レーダ受信部」は、「前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された反射波信号を受信する複数のアンテナ系統処理部を用いて、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を、前記主ビーム方向が送信された前記送信エリアに対して、推定する」のに対し、引用発明1では、「受信信号処理部114によって、受信された受信信号毎に物体の存在する方位が検出されるが、物体判定部112によって物体が存在すると判定された場合に限って」、「送信指示部111」が「該物体が検出された領域に限って、送信信号を送出し」、「前記物体の存在する方位が検出される」点。

ウ 判断
上記相違点について検討すると、
(ア)相違点1について
一般に、レーダ装置において、監視領域の走査は、所定時間毎に繰り返し行われるものである。そして、送信ローブ(指向性ビーム)、つまり、部分領域の順次の切り換えによって、カバー領域を、部分ごとに走査すること、及び、ビーム走査範囲を一部重複させることは、例えば引用例3?6に記載されているとおり、レーダにおける周知技術である。
よって、引用発明1において、「送信指示部111」が、「互いに拡散符号の相違する複数個の送信信号を生成」し、「送信信号の拡散符号に応じてビームEBの指向性を変化する回路等」に信号を出力する際、レーダにおける上記周知技術を適用し、各送信信号を、「所定時間毎」に、送信アンテナ(=送信部12)の「順次の切り換えによって」、互いに相違する領域に向けて「繰り返し」送出すること、及び、「ビームEB」の幅よりも狭い間隔でビームEBの指向性を切り換え、ビーム走査範囲を一部重複するようにして、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
引用発明1では、「受信信号処理部114によって物体の存在する方位を検出するために実行されるMUSIC法等の演算処理の負荷を軽減する」ため、「受信信号処理部114によって、受信された受信信号毎に物体の存在する方位が検出されるが、物体判定部112によって物体が存在すると判定された場合に限って」、「送信指示部111」が「該物体が検出された領域に限って、送信信号を送出し」、「前記物体の存在する方位が検出される」ものである。
よって、引用発明1において、「送信指示部111(送信手段の一部に相当する)は、送信部12を介して送信信号を送出する機能部であり、送信部12を介して、複数個の送信信号を生成し、各送信信号を、それぞれ、送信アンテナ(=送信部12)を介して互いに相違する領域に向けて送出し」、物体判定部112によって物体が存在すると判定することなく、「受信信号処理部114(受信信号処理手段に相当する)」が、「受信アンテナ(=受信部13)を介して、前記複数個の送信信号にそれぞれ対応する受信信号を受信し、受信された受信信号毎に物体の存在する方位」を、「MUSIC法」により検出するようにすることは、演算処理の負荷の軽減を目的とする引用発明1の主旨に反することになるから、当業者といえども動機付けられないことである。
よって、引用例2?引用例6に記載された周知技術を考慮しても、引用発明1において、上記相違点2に係る本件補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

よって、本件補正発明は、引用発明1及び周知技術(引用例2ないし引用例6)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

エ まとめ
本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明について
本件補正は、上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)。
「【請求項1】
所定回数の送信周期毎に、レーダ送信ビームの主ビーム幅よりも狭い間隔で、分割された複数の送信エリアに、主ビーム方向を切り換えるための制御信号を出力する送信ビーム制御部と、
前記制御信号に基づき前記主ビーム方向が切り替えられた前記送信エリアに対してレーダ送信信号を送信するレーダ送信部と、
前記レーダ送信信号がターゲットにて反射された反射波信号を受信する複数のアンテナ系統処理部を用いて、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を、前記主ビーム方向が送信された前記送信エリアに対して、推定するレーダ受信部と、を含み、
前記レーダ受信部は、
前記複数のアンテナ系統処理部からの各出力を基に、受信アンテナの配置に起因する位相差情報を生成するアンテナ間相関演算部と、
前記レーダ送信ビームの主ビーム幅が送信された前記送信エリアに対応する前記反射波信号の到来方向の推定範囲を選択する推定範囲選択部と、
前記アンテナ間相関演算部及び前記推定範囲選択部の各出力を基に、前記ターゲットからの反射波信号の到来方向を推定する到来方向推定部と、を有するレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記レーダ受信部は、
前記到来方向の範囲毎に、前記複数のアンテナ系統処理部間において生じる振幅及び位相の偏差情報を含む方向ベクトルを記憶する方向ベクトル記憶部と、を更に含み、
前記到来方向推定部は、
前記選択された前記推定範囲の方位角方向を含む前記方向ベクトルを用いて、前記反射波信号の到来方向を推定するレーダ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記アンテナ系統処理部は、
受信アンテナと、
前記受信アンテナにおいて受信された前記反射波信号と前記レーダ送信信号に含まれる送信符号との相関値を算出する相関演算部と、
前記相関値を、所定回数加算する加算部と、を有するレーダ装置。
【請求項4】
請求項2に記載のレーダ装置であって、
前記到来方向推定部は、
前記アンテナ間相関演算部から受信アンテナの配置に起因する位相差情報として出力された相関行列と前記推定範囲選択部により選択された前記推定範囲の方位角方向を含む前記方向ベクトルとを基に、前記到来方向の評価関数を算出し、前記評価関数が極大値となる前記方位角方向を前記反射波信号の到来方向として推定するレーダ装置。
【請求項5】
請求項2に記載のレーダ装置であって、
前記方向ベクトル記憶部は、
前記レーダ送信ビームの主ビーム幅内における前記ターゲットの数に応じた方向行列を更に含み、
前記到来方向推定部は、
前記アンテナ間相関演算部から受信アンテナの配置に起因する位相差情報として出力された相関行列と前記推定範囲選択部により選択された前記推定範囲の方位角方向を含む前記方向ベクトル及び前記方向行列を基に、前記到来方向の評価関数を算出し、前記評価関数が極小値となる前記方位角方向を前記反射波信号の到来方向として推定するレーダ装置

【請求項6】
請求項5に記載のレーダ装置であって、
前記レーダ受信部は、
前記主ビーム方向毎に生じる前記レーダ送信ビームの利得差を補正するための補正係数を記憶する補正係数乗算部と、を更に含み、
前記到来方向推定部は、
前記補正係数をオフセット値として用いて前記評価関数を算出するレーダ装置。
【請求項7】
請求項1?6のうちいずれか一項に記載のレーダ装置であって、
前記複数の送信エリアは、他の送信エリアと一部重複しているレーダ装置。」

第4 原査定について
本願発明1(本件補正発明に同じ)は、上記「第2」「2」「(2)独立特許要件について」で述べたとおり、当業者が引用発明1及び周知技術(引用例2ないし引用例6)に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明1を直接または間接的に引用する本願発明2ないし7は、本願発明1をさらに限定した発明であるから、同様の理由により、当業者が引用発明1及び周知技術(引用例2ないし引用例6)に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。
よって、原査定の拒絶の理由を維持することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願については、原査定の拒絶の理由を検討しても、その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-06 
出願番号 特願2012-78309(P2012-78309)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大和田 有軌中村 説志  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 関根 洋之
清水 稔
発明の名称 レーダ装置  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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