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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1324419
審判番号 不服2016-5517  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-14 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2013-258339「変圧器」拒絶査定不服審判事件〔平成27年3月16日出願公開、特開2015-50451、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月13日(パリ条約による優先権主張 2013年9月4日 中華人民共和国)の出願であって、平成27年4月13日付けで拒絶理由が通知され、同年7月21日付けで手続補正がなされたが、同年12月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成28年4月14日に拒絶査定不服の審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年4月14日付けの手続補正の適否
1.補正の内容
平成28年4月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、下記(1)に示す補正前の特許請求の範囲の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の記載へ補正するものである。なお、下記(2)における下線は、審判請求人が補正箇所を明示するために付したものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
軸方向及び径方向を有する磁芯と、
前記磁芯の前記軸方向に沿って配列される複数の巻き取り領域と、前記巻き取り領域の間に接続される少なくとも1つの接続領域と、を備える一次コイルと、
前記一次コイルを取り囲み、前記磁芯の前記軸方向に沿って配列され、且つ互いに絶縁されている複数の二次コイルと、を具備する変圧器であって、
複数の前記巻き取り領域のそれぞれは、前記磁芯を取り囲み、前記磁芯の前記径方向に沿って配列される複数の一次側巻き取り層と、前記一次側巻き取り層に接続する複数の引き出し部と、を含み、前記磁芯の表面での前記一次側巻き取り層の垂直投影の位置は、前記磁芯の表面での前記引き出し部の垂直投影の位置の間に部分的に位置し、前記巻き取り領域の隣接する両者は、その間に第1隙間を定義し、前記二次コイルの隣接する両者は、その間に第2隙間を定義し、
前記磁芯の前記表面での前記複数の二次コイルの各々の垂直投影の位置と、前記磁芯の前記表面での前記複数の巻き取り領域の各々の垂直投影の位置とは、交互に配置されていることを特徴とする変圧器。
【請求項2】
前記一次側巻き取り層の間に設けられる複数の一次側ステーを更に具備する変圧器であって、
前記一次側巻き取り層及び前記一次側ステーは、その間に一次側エアダクトを定義し、複数の前記一次側エアダクトのそれぞれは、前記磁芯の前記軸方向に平行な長さ方向を有し、前記磁芯の前記径方向に平行な方向に、径方向寸法を有することを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項3】
複数の二次側ステーを更に具備する変圧器であって、
複数の前記二次コイルのそれぞれは、前記磁芯の前記径方向に沿って配列される複数の二次側巻き取り層を備え、前記複数の二次側ステーは前記二次側巻き取り層の間に設けられ、前記二次側巻き取り層及び前記二次側ステーは、その間に、前記磁芯の前記軸方向に平行な長さ方向を有する二次側エアダクトを定義し、複数の前記二次側エアダクトのそれぞれは、前記磁芯の前記径方向に平行な方向に、径方向寸法を有することを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項4】
前記磁芯は、対向する2つの板体を有し、前記磁芯の前記軸方向は、前記板体に跨り、前記板体に最も近い前記第1隙間の寸法は、他の前記第1隙間の寸法より小さいことを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項5】
前記磁芯、前記一次コイル及び前記二次コイルを収納し、少なくとも1つの内表面を有するケースと、
前記ケースの前記内表面と前記二次コイルとの間に位置して前記磁芯の前記径方向に平行な少なくとも1つの主表面を各々が有し、前記磁芯の前記軸方向に沿って配列される複数の風防板と、
を更に具備することを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項6】
前記磁芯の表面での前記風防板のうちの少なくとも1つの垂直投影の位置は、少なくとも、前記磁芯の表面での前記二次コイルの垂直投影の位置の間に部分的に位置することを特徴とする請求項5に記載の変圧器。
【請求項7】
前記第2隙間の少なくとも1つは、前記風防板に位置合わせ、寸法が他の前記第2隙間の寸法より大きいことを特徴とする請求項5に記載の変圧器。
【請求項8】
少なくとも1つの前記二次コイルは、一本の帯状導体によって巻かれたものであり、前記帯状導体は、前記磁芯の軸方向に沿った方向に幅wを有し、前記磁芯の径方向に沿った方向に厚さtを有し、前記幅wと前記厚さtの比は、10≦w/tを満たすことを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項9】
前記巻き取り領域の数は偶数であるが、前記第1隙間の数は奇数であることを特徴とする請求項1に記載の変圧器。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
軸方向及び径方向を有する磁芯と、
前記磁芯の前記軸方向に沿って配列される複数の巻き取り領域と、前記巻き取り領域の間に接続される少なくとも1つの接続領域と、を備える一次コイルと、
前記一次コイルを取り囲み、前記磁芯の前記軸方向に沿って配列され、且つ互いに絶縁されている複数の二次コイルと、を具備する変圧器であって、
複数の前記巻き取り領域のそれぞれは、前記磁芯を取り囲み、前記磁芯の前記径方向に沿って配列される複数の一次側巻き取り層と、前記一次側巻き取り層に接続する複数の引き出し部と、を含み、前記磁芯の表面での前記一次側巻き取り層の垂直投影の位置は、前記磁芯の表面での前記引き出し部の垂直投影の位置の間に部分的に位置し、前記巻き取り領域の隣接する両者は、その間に第1隙間を定義し、前記二次コイルの隣接する両者は、その間に第2隙間を定義し、
前記磁芯の前記表面での前記複数の二次コイルの各々の垂直投影の位置と、前記磁芯の前記表面での前記複数の巻き取り領域の各々の垂直投影の位置とは、交互に配置され、
前記複数の二次コイルは、前記径方向に沿って前記複数の巻き取り領域の外側に配置されていることを特徴とする変圧器。
【請求項2】
前記一次側巻き取り層の間に設けられる複数の一次側ステーを更に具備する変圧器であって、
前記一次側巻き取り層及び前記一次側ステーは、その間に一次側エアダクトを定義し、複数の前記一次側エアダクトのそれぞれは、前記磁芯の前記軸方向に平行な長さ方向を有し、前記磁芯の前記径方向に平行な方向に、径方向寸法を有することを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項3】
複数の二次側ステーを更に具備する変圧器であって、
複数の前記二次コイルのそれぞれは、前記磁芯の前記径方向に沿って配列される複数の二次側巻き取り層を備え、前記複数の二次側ステーは前記二次側巻き取り層の間に設けられ、前記二次側巻き取り層及び前記二次側ステーは、その間に、前記磁芯の前記軸方向に平行な長さ方向を有する二次側エアダクトを定義し、複数の前記二次側エアダクトのそれぞれは、前記磁芯の前記径方向に平行な方向に、径方向寸法を有することを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項4】
前記磁芯は、対向する2つの板体を有し、前記磁芯の前記軸方向は、前記板体に跨り、前記板体に最も近い前記第1隙間の寸法は、他の前記第1隙間の寸法より小さいことを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項5】
前記磁芯、前記一次コイル及び前記二次コイルを収納し、少なくとも1つの内表面を有するケースと、
前記ケースの前記内表面と前記二次コイルとの間に位置して前記磁芯の前記径方向に平行な少なくとも1つの主表面を各々が有し、前記磁芯の前記軸方向に沿って配列される複数の風防板と、
を更に具備することを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項6】
前記磁芯の表面での前記風防板のうちの少なくとも1つの垂直投影の位置は、少なくとも、前記磁芯の表面での前記二次コイルの垂直投影の位置の間に部分的に位置することを特徴とする請求項5に記載の変圧器。
【請求項7】
前記第2隙間の少なくとも1つは、前記風防板に位置合わせ、寸法が他の前記第2隙間の寸法より大きいことを特徴とする請求項5に記載の変圧器。
【請求項8】
少なくとも1つの前記二次コイルは、一本の帯状導体によって巻かれたものであり、前記帯状導体は、前記磁芯の軸方向に沿った方向に幅wを有し、前記磁芯の径方向に沿った方向に厚さtを有し、前記幅wと前記厚さtの比は、10≦w/tを満たすことを特徴とする請求項1に記載の変圧器。
【請求項9】
前記巻き取り領域の数は偶数であるが、前記第1隙間の数は奇数であることを特徴とする請求項1に記載の変圧器。」

2.補正の適否
(1)補正の目的要件、新規事項の有無、特別な技術的特徴の変更の有無について
本件補正による請求項1についての補正は、請求項1に記載された「複数の二次コイル」について、「前記径方向に沿って前記複数の巻き取り領域の外側に配置されている」ものに限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。
(2)独立特許要件について
本件補正による請求項1についての補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明及び当該請求項1の従属請求項である請求項2ないし9に係る発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア.本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、本件補正後の請求項1に記載されたとおりのものである(上記1.(2)参照。)。

イ.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-120804号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)
(ア)「本発明は、変圧器タンク内に、鉄心の外周に巻線を巻回してなる変圧器中身を収納すると共に、所定圧力で絶縁ガスを封入してなるガス絶縁変圧器に係り、特に冷却および絶縁構造を改良したガス絶縁変圧器に関する。」(第1頁左下欄第20行ないし右下欄第4行。)
(イ)「第3図は、従来の内鉄形ガス絶縁変圧器の巻線構造(多重円筒巻線構造)を示す図である。この第3図においては、鉄心1の外周に、低圧巻線2および高圧巻線7が巻回されており、これらの巻線2,7は、低圧巻線2を内側、高圧巻線7を外側として同軸上に配設されている。
低圧巻線2は、中性点側口出し3サイドから線路側口出し4サイドに至るまでの多重層の円筒巻線5によって構成されている。この多重円筒巻線は、以下のような工程によって製造されている。すなわち、中性点側口出し3サイドにおいて、絶縁シリンダ(図示せず)の外周に、第1層目の円筒巻線5を形成し、その外周に複数片の絶縁スペーサ6を分散配置し、さらにその外周に第2層目の円筒巻線5を形成し、以下、同様に絶縁スペーサ6を介して円筒巻線5を順次形成するという工程により製造されている。また、各円筒巻線5は、絶縁を施された銅線を巻回することによって形成されている。
」(第2頁右上欄第13行ないし左下欄第11行。)
(ウ)「本発明のガス絶縁変圧器は、低圧巻線として、絶縁を施された銅線にて形成された多重円筒巻線を使用し、高圧巻線として、導体シートと絶縁フィルムを重ねて巻回してなるシート巻線を使用し、且つこのシート巻線に、任意の間隔で垂直ガスダクトを形成したことを特徴としている。」(第3頁右下欄第5行ないし第10行。)
(エ)「まず、本実施例においては、第1図に示すように、鉄心1の外周に、従来と同様の、円筒巻線5および絶縁スペーサ6からなる多重円筒巻線(低圧巻線2)が配置されている。そして、この低圧巻線2の外側に、本発明のシート巻線15、すなわちアルミなどの導体シートとポリエステルフィルムなどの絶縁フィルムを重ねて巻回して形成されたシート巻線15(高圧巻線7)が配置されている。」(第4頁左上欄第11行ないし第19行。)

したがって、上記(ア)ないし(エ)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「鉄心と、鉄心の外周に巻回され、低圧巻線を内側、高圧巻線を外側として同軸上に配設された低圧巻線及び高圧巻線とを備え、前記低圧巻線は、多重層の円筒巻線によって構成され、前記各円筒巻線は、絶縁を施された銅線を巻回することによって形成されているガス絶縁変圧器。」

ウ.対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「鉄心」は、本願補正発明における「磁芯」に相当する。また、引用発明において、円筒巻線構造に用いられる前記「鉄心」が、軸方向及び径方向を有していることは明らかである。
(イ)引用発明における「低圧巻線」及び「高圧巻線」は、本願補正発明における「一次コイル」及び「二次コイル」にそれぞれ相当し、「二次コイル」に相当する前記「高圧巻線」は、径方向に沿って、「一次コイル」に相当する前記「低圧巻線」の外側に配置されている。
(ウ)引用発明において、「一次コイル」に相当する「低圧巻線」を構成する各「円筒巻線」は、銅線を巻回することによって形成されているから、当該「円筒巻線」は本願補正発明における「一次側巻き取り層」に相当する。また、前記各「円筒巻線」は「多重層」を構成していることからみて、本願補正発明における「複数の一次側巻き取り層」と同様に、磁芯(鉄心)を取り囲むとともに、磁芯(鉄心)の径方向に沿って配列されている。
(エ)引用発明において、「多重層の円筒巻線」が「低圧巻線」として機能するために、前記「低圧巻線」が本願補正発明における「引き出し部」に相当する部分を含んでいることは明らかである。ただし、当該「引き出し部」に相当する部分と前記「多重層の円筒巻線」との位置関係までは明らかではない。
(オ)上記(ウ)及び(エ)で説示したように、引用発明における「低圧巻線」は、本願補正発明における「複数の一次側巻き取り層」に相当する「多重層の円筒巻線」と本願補正発明における「引き出し部」に相当する部分とを備えており、前記「多重層の円筒巻線」と前記「引き出し部」に相当する部分を合わせた領域は、本願補正発明における「巻き取り領域」に相当する。
(カ)引用発明における「ガス絶縁変圧器」は変圧器の一種であるから、本願補正発明の「変圧器」に含まれるものである。

そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「軸方向及び径方向を有する磁芯と、
1つの巻き取り領域を備える一次コイルと、
前記一次コイルを取り囲む1つの二次コイルと、を具備する変圧器であって、
前記巻き取り領域は、前記磁芯を取り囲み、前記磁芯の前記径方向に沿って配列される複数の一次側巻き取り層と、前記一次側巻き取り層に接続する複数の引き出し部と、を含み、
前記二次コイルは、前記径方向に沿って前記巻き取り領域の外側に配置されている変圧器。」

<相違点>
・相違点1
「一次コイル」が、本願補正発明において、「前記磁芯の前記軸方向に沿って配列される複数の巻き取り領域と、前記巻き取り領域の間に接続される少なくとも1つの接続領域と」を備えているのに対し、引用発明においては、「1つの巻き取り領域」しか備えておらず、それゆえに「接続領域」を備えていない点。

・相違点2
「二次コイル」が、本願補正発明においては、「複数」具備されるとともに、「前記磁芯の前記軸方向に沿って配列され、且つ互いに絶縁されている」のに対し、引用発明においては、「1つ」しか具備されていない点。

・相違点3
「巻き取り領域」について、本願補正発明においては、「前記磁芯の表面での前記一次側巻き取り層の垂直投影の位置は、前記磁芯の表面での前記引き出し部の垂直投影の位置の間に部分的に位置し」ているのに対して、引用発明においては、一次側巻き取り層と引き出し部の位置関係は特定されていない点。

・相違点4
「巻き取り領域」と「二次コイル」の配置について、本願補正発明においては、「前記巻き取り領域の隣接する両者は、その間に第1隙間を定義し、前記二次コイルの隣接する両者は、その間に第2隙間を定義し、前記磁芯の前記表面での前記複数の二次コイルの各々の垂直投影の位置と、前記磁芯の前記表面での前記複数の巻き取り領域の各々の垂直投影の位置とは、交互に配置され、前記複数の二次コイルは、前記径方向に沿って前記複数の巻き取り領域の外側に配置されている」のに対して、引用発明においては、前記「巻き取り領域」と前記「二次コイル」はそれぞれ1つであるとともに、前記「二次コイル」は径方向に沿って前記「巻き取り領域」の外側に配置されている点。

エ.判断
上記相違点4について検討する。
本願補正発明は、変圧器が複数の二次コイルを具備することを前提として、当該二次コイルの短絡インピーダンスを向上させることを課題とする発明である。そして、当該課題を解決するために、一次コイルを複数の巻き取り領域及び接続領域に領域分けするとともに、前記複数の巻き取り領域と前記複数の二次コイルの配置を、相違点4に係る発明特定事項のようにするものである。
これに対して、引用発明は、二次コイル及び一次コイルの巻き取り領域はそれぞれ1つしかなく、引用発明の一次コイルに、原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-77737号公報(以下、「引用文献2」という。)に記載されている「多セクション円筒巻き」と呼ばれる巻線構造(【0002】、【0021】、【0022】、図1及び10参照。)を採用したとしても、二次コイルは依然として1つしかないから、本願補正発明のような配置にはならない。また、一次コイルに前記巻線構造を採用することに加えて、二次コイルを複数具備させることが仮に容易であったとしても、引用文献1にも引用文献2にも、二次コイルの短絡インピーダンスを向上させるという課題は記載も示唆もされていないから、複数の巻き取り領域と複数の二次コイルの配置を、本願補正発明の相違点4に係る発明特定事項のようにすることは、当業者といえども容易に導き出すことはできない。

さらに、原査定において、周知技術を示す文献として引用されている文献についても以下に検討する。
実願昭59-180629号(実開昭61-96513号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献4」という。)には、二次コイルの巻線構造をセクション巻きとすることや、一次コイルと二次コイルを同軸状に積層状に配置することは記載されている(第3図参照。)が、複数の巻き取り領域と複数の二次コイルの配置を、本願補正発明のような位置関係にすることは記載も示唆もされていない。
また、特開2011-61171号公報(以下、「引用文献5」という。)や中国特許出願公開第103021634号明細書(以下、「引用文献6」という。)には短絡インピーダンスについての言及はあるものの(引用文献5については【0017】、【0024】を、引用文献6については要約欄を参照。)、短絡インピーダンスを向上させるために、複数の巻き取り領域と複数の二次コイルの配置を、本願補正発明の相違点4に係る発明特定事項のようにすることは記載も示唆もされていない。
また、特開平7-283037号公報(以下、「引用文献7」という。)には、一次巻線と二次巻線が磁芯の軸方向に交互に、かつ、磁芯の径方向にずらして配置することが記載されている(【0016】ないし【0020】図3参照。)が、そのような配置は補助一次巻線を二次巻線の下に巻回するための配置であるから、補助一次巻線を備えていない引用発明においてそのような配置を採用することはできない。
また、特開2001-167945号公報(以下、「引用文献8」という。)には、一次巻線と二次巻線を磁芯の軸方向に交互に配置することが記載されている(【0044】ないし【0052】、図1参照。)が、交互に配置されている前記一次巻線と前記二次巻線の径方向の位置は同じであるから、本願補正発明の相違点4に係る発明特定事項の位置関係までは記載されていない。
なお、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-106848号公報(以下、「引用文献3」という。)には、本件補正後の請求項5に記載の「風防板」に相当する部材について記載がある(図1参照。)だけで、相違点4に関連するような配置については何ら記載がない。

以上のとおりであるから、引用発明及び引用文献2ないし8に記載された技術事項に基づいて、本願補正発明の相違点4に係る発明特定事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、相違点1ないし3について検討するまでもなく、本願補正発明は、引用発明及び引用文献2ないし8に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、請求項2ないし9に係る発明は、本願補正発明をさらに限定した発明であるから、請求項2ないし9に係る発明も、請求項1に係る発明と同様に、引用発明及び引用文献2ないし8に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、本件補正による請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本件補正後の請求項1に係る発明である本願補正発明は、上記「第2」の「2.」の「(2)独立特許要件について」で説示したとおり、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願の請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用する請求項2ないし9に係る発明は、請求項1に係る発明を更に限定したものであるから、引用文献1ないし8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-07 
出願番号 特願2013-258339(P2013-258339)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H01F)
P 1 8・ 121- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 五貫 昭一  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 酒井 朋広
國分 直樹
発明の名称 変圧器  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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