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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H04B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04B
管理番号 1324437
審判番号 不服2016-5939  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-21 
確定日 2017-02-21 
事件の表示 特願2012- 58698「RFIDリーダライタおよびRFIDタグシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日出願公開、特開2013-192171、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願の手続の概要は以下のとおりである。

平成24年 3月15日 特許出願
平成27年10月29日 拒絶理由通知
平成27年12月15日 意見書、手続補正書
平成28年 1月19日 拒絶査定
平成28年 4月21日 審判請求、手続補正書
平成28年 5月19日 前置報告
平成28年12月 8日 拒絶理由通知
平成28年12月20日 手続補正書

第2.特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲の記載は、平成28年12月20日付けの手続補正書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
RFIDタグとRFIDリーダライタとが通信するRFIDシステムであって、
前記RFIDリーダライタおよび前記RFIDタグは、それぞれが、
長手方向に延在する棒状のアンテナを有し、
前記それぞれのアンテナは、床や壁に対して傾斜し、且つ、それぞれのアンテナの傾斜が合うように設置され、前記床や壁に対して斜めに傾いた偏波面を持つ直線偏波の電波を送受信する、RFIDシステム。」

第3.当審の拒絶理由
平成28年12月8日付けで通知した当審の拒絶理由の概要は、(平成28年4月21日付けの手続補正書の)特許請求の範囲の請求項1及び2の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。
平成28年12月20日付けの手続補正により、補正前の請求項1及び2が削除され、補正前の請求項3が請求項1とされたので、当審の拒絶理由は解消した。
したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その記載は前記「第2.特許請求の範囲の記載」のとおりである。

第4.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された特開平9-307476号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

第5.当審の判断
1.引用発明
引用例には、図面とともに以下の記載がなされている。

(1)「【請求項2】 移動体に取付けられ、路上から電波を受信したときに内部に記憶された情報に基づいて変調をかけた電波を送信するワイヤレスカード、路上に設置され電波を発生する電波源、この電波源から発生された電波を上記ワイヤレスカードに送信する路上装置送信アンテナ、上記ワイヤレスカードで変調された電波を受信する路上装置受信アンテナ、この路上装置受信アンテナの受信変調信号の復調を行う路上装置復調部およびこの復調部の復調信号から上記ワイヤレスカード内に記憶された情報を判読する路上装置復号器から構成されるワイヤレスカード通信装置において、上記路上装置送信アンテナの偏波面と路上装置受信アンテナの偏波面が一定角度異常のずれを持つことを特徴とするワイヤレスカード通信装置。」
(「一定角度異常」とあるのは、「一定角度以上」の誤記と認める。)

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、移動体に取り付けられたワイヤレスカードに記憶されている所定の情報を、電波により路上装置で受信して取り出すワイヤレスカード通信装置に関するものである。」

(3)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来のワイヤレスカード通信装置は図7で示したように、路上装置送信アンテナ及び路上装置受信アンテナの主ビームがワイヤレスカードと正対しているため、通信対象列車の遠方の隣接線を走行する通信非対象列車に取付けられているワイヤレスカードとも通信する可能性があった。また、路上装置から放射された電波は、ワイヤレスカードから送信される電波以外の列車の車体等で反射した不要反射波も路上装置に受信されるため、通信が不安定になるなどの悪影響を与えていた。
【0007】この発明は、上記のような課題を解消するためになされたものであり、通信対象列車の遠方の隣接線を走行する通信非対象列車のワイヤレスカードとは通信せず、また列車の車体等から不要反射波の影響を排除し
て、通信対象列車のワイヤレスカードと安定した通信ができるワイヤレス
カード通信装置を得ることを目的とする。」

(4)「【0003】図8(a)は路上装置2の構成を示す図であり、6は電波を発生する電波源、7は電波源6で発生した電波をワイヤレスカード1に送信する路上装置送信アンテナ、8はワイヤレスカード1から送信された電波を受信する路上装置受信アンテナ、9は路上装置受信アンテナ8の受信信号を復調する復調部、10は復調部9で復調された信号からワイヤレス
カード1に記憶されていた情報を判読する復号器である。図8(b)はワイヤレスカード1の構成を示す図であり、11は路上装置2から送信された電波を受信するワイヤレスカード受信アンテナ、12はワイヤレスカード受信アンテナ11で受信した電波が所定のレベル以上であることを検出してワイヤレスカード1の動作を開始させるパワーオン回路、13は所定のデータを記憶するとともにパワーオン回路12の指示によりデータを送出するデータ記憶部、14はワイヤレスカード受信アンテナ11の受信電波に対し、データ記憶部13に記憶されたデータに基づいて変調をかける変調部、15は変調部14からの変調信号を路上装置2に送信するワイヤレスカード送信アンテナである。」

(5)「【0008】
【課題を解決するための手段】……
【0009】第2の発明によるワイヤレスカード通信装置は、路上装置送信アンテナを45度の直線偏波で構成し、路上装置受信アンテナを路上装置送信アンテナの偏波方向と90度直交した方向の45度直線偏波で構成したものである。」

(6)「【0012】実施の形態2.図4はこの発明の実施の形態2を示すワイヤレスカード通信装置の構成図であり、24は45度直線偏波アンテナを持つ路上装置である。図5(a)は45度直線偏波アンテナを持つ路上装置24の構成を示す図で、25は45度直線偏波送信アンテナ、26は45度直線偏波受信アンテナである。図5(b)はワイヤレスカードの構成図で図8(b)と同様である。また、図6は45度直線偏波アンテナの構成の一例である。図中、27は送信パッチ素子E、28は受信パッチ素子Fであ
り、矢印は偏波の方向を示す。
【0013】次に動作について説明する。図5において、電波源6で発生した電波は45度直線偏波送信アンテナ25に給電される。45度直線偏波送信アンテナ25に給電された電波は図6において、パッチ素子E27で放射され、矢印方向の偏波となる。図4において通信対象列車3のワイヤレス
カード1の偏波と同一方向の成分で通信は行われるが、列車の車体等に反射した不要反射波は、偏波方向が変化せず、45度偏波送信アンテナ25から送信された電波の偏波方向と同じ45度直線偏波で戻る。そのため、受信
パッチ素子F28と列車の車体等に反射した不要反射波は偏波が直交するため受信されない。通信対象列車3のワイヤレスカードから送信された電波
は、45度直線偏波受信アンテナ26で受信される。以下の動作は従来技術と同様である。」

(7)「【0014】
【発明の効果】……
【0015】また、第2の発明によれば、路上装置の送信アンテナの偏波と受信アンテナの偏波を直交させているため、列車の車体からの不要反射電波を受信することなく、通信対象列車と安定した通信が行える。
【0016】以上の説明においては、列車に取り付けられたワイヤレスカードとの通信装置を例に説明したが、この発明は通信対象の移動体が道路上の走行車である場合も同様であり、有料道路における料金所での通行管理にも適用可能である。」

なお、引用例には「ワイヤレスカード1」の、「ワイヤレスカード受信アンテナ11」及び「ワイヤレスカード送信アンテナ15」について、その偏波面に関する具体的な記載はない。
上記(6)の「図4において通信対象列車3のワイヤレスカード1の偏波と同一方向の成分で通信は行われるが、」と記載されており、偏波面が合っていれば、わざわざ「成分」とはいわないはずであり、「ワイヤレスカード1の偏波と同一方向の成分」とは異なる方向の通信が行われない成分があって、「ワイヤレスカード1」の「ワイヤレスカード送信アンテナ15」は、「ワイヤレスカード通信装置」の「45度直線偏波受信アンテナ26」の偏波と同一方向の成分だけでなく、それとは異なる方向の成分も送信することを示すものである。
そして、「ワイヤレスカード通信装置」から放射され、列車の車体等で反射した不要反射波は、「路上装置受信アンテナ」を「路上装置送信アンテ
ナ」の偏波方向と90度直交した方向の直線偏波で構成すれば、その影響を排除でき、そのために「路上装置」と「ワイヤレスカード1」の対応するアンテナの偏波面が合うようにする必要がないことは明らかである。(ただ
し、送受信の効率のため、偏波面を合わせることは有効である。)
そのため、「ワイヤレスカード受信アンテナ11」及び「ワイヤレスカード送信アンテナ15」の偏波面はそれぞれ、「ワイヤレスカード通信装置」の「45度直線偏波送信アンテナ25」及び「45度直線偏波受信アンテナ26」の偏波面と同じであることが特定されているわけではない。
したがって、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

移動体に取り付けられたワイヤレスカードに記憶されている所定の情報
を、電波により路上装置で受信して取り出すワイヤレスカード通信装置において、
前記ワイヤレスカードは、移動体に取付けられ、路上から電波をワイヤレスカード受信アンテナで受信したときに、内部に記憶された情報に基づいて変調をかけた電波をワイヤレスカード送信アンテナで送信するワイヤレス
カードであり、
前記路上装置は、路上に設置され電波を発生する電波源、この電波源から発生された電波を上記ワイヤレスカードに送信する路上装置送信アンテナ、上記ワイヤレスカードで変調された電波を受信する路上装置受信アンテナ、この路上装置受信アンテナの受信変調信号の復調を行う路上装置復調部およびこの復調部の復調信号から上記ワイヤレスカード内に記憶された情報を判読する路上装置復号器から構成される路上装置であり、
上記路上装置送信アンテナの偏波面と路上装置受信アンテナの偏波面が一定角度以上のずれを持つことを特徴とし、路上装置送信アンテナを45度の直線偏波で構成し、路上装置受信アンテナを路上装置送信アンテナの偏波方向と90度直交した方向の45度直線偏波で構成したものである、
ワイヤレスカード通信装置。

2.対比
引用発明は、「ワイヤレスカード」と「路上装置」とが通信する「ワイヤレスカード通信装置」であるから、「ワイヤレスカード」と本願発明の「RFIDタグ」とを第1の装置、「路上装置」と本願発明の「RFIDリーダライタ」とを第2の装置、「ワイヤレスカード通信装置」と本願発明の「RFIDシステム」とをシステムといえば、両者は、第1の装置と第2の装置とが通信するシステムである点で共通する。
引用発明の「ワイヤレスカード」は、「ワイヤレスカード受信アンテナ」及び「ワイヤレスカード送信アンテナ」を、引用発明の「路上装置」は、
「路上装置送信アンテナ」及び「路上装置受信アンテナ」を、それぞれ有しているから、本願発明とは、第1の装置及び第2の装置は、それぞれが、アンテナを有し、とする点で共通する。
引用発明の「路上装置送信アンテナ」及び「路上装置受信アンテナ」は、「路上装置送信アンテナを45度の直線偏波で構成し、路上装置受信アンテナを路上装置送信アンテナの偏波方向と90度直交した方向の45度直線偏波で構成したものである」とするものであるから、本願発明とは、第2の装置のアンテナは、斜めに傾いた偏波面を持つ直線偏波の電波を送受信する、とする点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、以下の点で一致し、また相違する。

(1)一致点
第1の装置と第2の装置とが通信するシステムであって、
前記第1の装置及び前記第2の装置は、それぞれが、
アンテナを有し、
前記第2の装置のアンテナは、斜めに傾いた偏波面を持つ直線偏波の電波を送受信する、システム。

(2)相違点1
本願発明は、第1の装置が「RFIDタグ」で、第2の装置が「RFIDリーダライタ」で、システムが「RFIDシステム」であって、床や壁のある環境で用いられるものであるのに対して、引用発明は、第1の装置が「ワイヤレスカード」で、第2の装置が「路上装置」で、システムが「ワイヤレスカード通信装置」であって、床や壁のない路上で用いられるものである
点。

(3)相違点2
本願発明の「アンテナ」は、「長手方向に延在する棒状のアンテナ」であるのに対して、引用発明のものはそのような特定がない点。

(4)相違点3
本願発明の「アンテナ」は、「前記それぞれのアンテナは、床や壁に対して傾斜し、且つ、それぞれのアンテナの傾斜が合うように設置され、前記床や壁に対して斜めに傾いた偏波面を持つ直線偏波の電波を送受信する」とするものであるのに対して、引用発明では、第2の装置である「路上装置」のものは、斜めに傾いた偏波面を持つ直線偏波の電波を送受信するものであるが、第1の装置である「ワイヤレスカード」のものは偏波面についての特定がなく、さらに、本願発明の「床や壁に対して傾斜し、且つ、それぞれのアンテナの傾斜が合うように設置され」とするような特定がない点。

3.判断
上記相違点1について検討する。
本願発明は、明細書に記載されたように、
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の、RFIDタグシステムは上記のように構成されていた。RFIDタグからの電波が床や壁などで反射したとき、直接波と反射波との位相差が180度となる場合がある。このような状態で直接波と反射波とがRFIDタグに入射すると、これらが合成、弱められて、読取エラーとなるポイント(ヌルポイント)が発生するという問題があった。
【0004】
この発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、ヌルポイントが生じないRFIDリーダライタおよびRFIDタグシステムを提供することを目的とする。」
という課題を解決して、
「【発明の効果】
【0010】
この発明においては、RFIDリーダライタは、反射面に対して所定の角度傾いた偏波面を持つ直線偏波の電波を送受信するアンテナを有するため、一般にRFIDタグシステムが設置される環境に多い、垂直方向の壁面や、水平な床面の影響を受けにくい。
【0011】
その結果、ヌルポイントを軽減し、安定した交信が可能となる。また、追加部品などは不要で簡単に実現できる。」
とするものである。
これに対して、引用発明は、上記「1.引用発明」の(3)及び(5)のとおり、「路上装置から放射された電波は、ワイヤレスカードから送信される電波以外の列車の車体等で反射した不要反射波も路上装置に受信されるため、通信が不安定になるなどの悪影響」を排除することを課題とするものであり、「路上装置送信アンテナを45度の直線偏波で構成し、路上装置受信アンテナを路上装置送信アンテナの偏波方向と90度直交した方向の45度直線偏波で構成」したものである。
そのため、引用発明を床や壁のある環境で用いること、さらにそのような環境でヌルポイントを軽減するという効果を予測することは、当業者であっても容易にできることではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-07 
出願番号 特願2012-58698(P2012-58698)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04B)
P 1 8・ 537- WY (H04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 石田 昌敏  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 加藤 恵一
山本 章裕
発明の名称 RFIDリーダライタおよびRFIDタグシステム  
代理人 特許業務法人アイミー国際特許事務所  

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