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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01S |
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管理番号 | 1324542 |
審判番号 | 不服2016-830 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-01-19 |
確定日 | 2017-02-21 |
事件の表示 | 特願2011-208262「アクティブソーナー装置、アクティブソーナー装置における信号正規化方法およびそのプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月18日出願公開、特開2013- 68553、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 出願の経緯 本願は、平成23年9月23日の出願であって、平成27年5月28日付けで拒絶理由が通知され、平成27年7月31日付けで手続補正がなされたが、平成27年11月17日付けで拒絶査定がなされ(送達日:平成27年11月24日)、これに対し、平成28年1月19日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされ、当審において、平成28年10月31日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年12月16日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成28年12月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 所定時間長さを有するエコー信号を生成し、音波として送信する送信手段と、 目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信する受信手段と、 前記受信信号を時間方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する区分手段と、 前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、前記エコー信号が含まれる領域内のセルを昇順に前記所定時間長さ分に対応する範囲だけ除くことによって正規化用のセルを抽出し、該抽出したセル内の信号を取得する抽出手段と、 前記取得した信号を用いて正規化する正規化手段と、 を備えるアクティブソーナー装置。 【請求項2】 前記抽出手段は、前記セルをセル内に含まれる信号の強度レベル順に並びかえる、 請求項1記載のアクティブソーナー装置。 【請求項3】 前記正規化手段は、前記取得した信号を残響信号の減衰特性曲線へ内挿してフロアレベルを決定し、前記切り出した区間の中心位置の強度レベルで除算することにより、正規化を行う、 請求項2記載のアクティブソーナー装置。 【請求項4】 所定時間長さを有するエコー信号を生成し、音波として送信する送信手段と、 目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信する受信手段と、 前記受信信号を時間と周波数の2次元データとして切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する区分手段と、 前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、前記エコー信号が含まれる領域内のセルを昇順に前記所定時間長さ分に対応する範囲だけ除くことによって時間方向正規化用のセルを抽出し、前記区間内において前記セルをセル内に含まれる信号のスペクトルレベル順に並びかえ、周波数正規化用のセルを抽出し、該抽出したセル内の信号を取得する抽出手段と、 前記取得した信号を用いて正規化する正規化手段と、 を備えるアクティブソーナー装置。 【請求項5】 前記正規化手段は、前記取得した信号をスペクトル特性曲線へ内挿してフロアレベルを決定し、前記切り出した区間の中心位置のスペクトルレベルで除算することにより、正規化を行う、 請求項4記載のアクティブソーナー装置。 【請求項6】 前記区分手段は、隣接する区間同士が重なるように前記受信信号から複数の区間を切り出す、 請求項1乃至5のいずれか1項記載のアクティブソーナー装置。 【請求項7】 前記送信手段は、前記エコー信号として、時刻と共に周波数が変化する周波数変調波のパルス信号を生成する、 請求項1乃至6のいずれか1項記載のアクティブソーナー装置。 【請求項8】 所定時間長さを有するエコー信号を生成して音波として送信し、 目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信し、 前記受信信号を時間方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割し、 前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、前記エコー信号が含まれる領域内のセルを昇順に前記所定時間長さ分に対応する範囲だけ除くことによって正規化用のセルを抽出し、該抽出したセル内の信号を取得し、 前記取得した信号を用いて正規化する アクティブソーナー装置における信号正規化方法。 【請求項9】 アクティブソーナー装置において信号の正規化を行うコンピュータが実行可能なプログラムであって、 所定時間長さを有するエコー信号を生成して音波として送信する機能、 目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信する機能、 前記受信信号を時間方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する機能、 前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、前記エコー信号が含まれる領域内のセルを昇順に前記所定時間長さ分に対応する範囲だけ除くことによって正規化用のセルを抽出し、該抽出したセル内の信号を取得する機能、 前記取得した信号を用いて正規化する機能、 を、前記コンピュータに実行させるためのプログラム。」 第3 原査定の理由について 1 原査定の理由の概要 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については刊行物等一覧参照) 請求項1、4、6、8、9に係る発明は、刊行物1(明細書の第2頁第7行目、第9頁第15行目?第11頁第12行目の記載参照。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、請求項2に係る発明は刊行物1に記載された発明及び強度信号に基づいてエコーを検出する周知技術(以下、「周知技術1」という。)(刊行物2参照。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項3に係る発明は、刊行物1に記載された発明、周知技術1、及び、信号の中間値で除算することにより正規化を行う周知技術(以下、「周知技術2」という。)(刊行物3参照。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項5に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 請求項7に係る発明は、刊行物1に記載された発明、周知技術1、周知技術2、及び、時刻とともに周波数が変化する超音波信号を用いる周知技術((以下、「周知技術3」という。)(刊行物4参照。)基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 <刊行物等一覧> 刊行物1.実願平1-101171号(実開平3-40583号)のマイクロフィルム 刊行物2.特開昭57-039367号公報(周知技術を示す文献) 刊行物3.特開平9-043340号公報(周知技術を示す文献) 刊行物4.特開2008-216005号公報(周知技術を示す文献) 2 原査定の判断 (1)刊行物の記載事項等 原査定の拒絶の理由で引用された、実願平1-101171号(実開平3-40583号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、図面ともに、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 ア 「[産業上の利用分野] 本考案は、周波数分析表示装置、特に船舶のソナー装置などに用いられ、目標物の特定、分析のための周波数分析表示装置に関する。」(明細書第2頁第1?4行) イ 「[従来の技術] 従来、この種の周波数分析表示装置においては、目標から反射する超音波信号のスペクトルレベルは小さいものから大きいものまで各種あり、この反射信号レベルを限られたダイナミックレンジの表示器であるブラウン管、記録紙等に表示するため、スペクトルレベルの正規化をして信号振幅の圧縮を行っている。 第3図には、信号のスペクトルデータの処理過程が示されており、周波数分析した後の信号のスペクトルは図(a)のようになり、目標物からの信号(図のΛで示される)は振幅レベルの高い信号として現れる。 ここで、図(b)に示されるように、次式で表される一定の周波数帯域Aのスペクトルデータが抽出される。 A=M×Δf ・・・(1) ただし、Δfは、周波数分析分解能、Mは個数である。 次に、図(b)に示されるスペクトルデータに基づいて、次式にてそのスペクトル平均レベル値Nkが演算される。 ただし、N_(k)は、k番目のスペクトルの平均レベル、x_(i)は、i番目のスペクトルのレベル値である。 そして、上式(2)式で得られた平均レベル値x_(i)を除算して、次式によりスペクトルレベルの正規化を行う。 X_(k)=X_(k)/N_(k) ・・・(3) ただし、X_(k)=正規化されたスペクトルレベル値である。 このようにして正規化されたスペクトルレベル値は、図(c)のようになり、この正規化は全てのスペクトルデータについて行われる。」(明細書第2頁第5行?第4頁第6行) ウ 「[課題の解決手段] 上記目的を達成するため、本考案は、水中音響信号を周波数分析し、周波数スペクトルを表示する周波数分析表示装置において、一定の周波数帯域内のスペクトルデータを入力保持するデータ保持回路と、このデータ保持回路内のスペクトルデータをレベルの低い順に並び替えるデータ並び替え回路と、このデータ並び替え回路で並び替えたスペクトルデータの低いレベルから抽出した所定個のデータの平均レベル値を演算する平均値回路と、上記データ保持回路中の中間スペクトルデータ値を上記平均値回路の平均レベル値により除算して正規化する正規化回路とを設けた構成としてある。」(第5頁第10行?第6頁第5行) エ 「[実施例] 以下、本考案の一実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。 第1図には、実施例に係る周波数分析表示装置の構成ブロックが示されており、船舶が航走中に得られた超音波反射信号を入力信号として周波数分析する周波数分析器1には、データ保持回路としてM段の遅延シフトレジスタ2が接続され、この遅延シフトレジスタ2により、上記(1)式の一定の周波数帯域内のスペクトルデータが記憶保持される。 この遅延シフトレジスタ2には、記憶保持されたスペクトルデータを低いレベル順に並び替える並び替え回路3と、低いレベル値の所定個数(N個)のデータを平均する平均値回路4が設けられている。 この平均値回路4と上記遅延シフトレジスタ2には、正規化回路としての除算回路5が接続され、この除算回路5は遅延シフトレジスタ2からの中間スペクトルデータの出力と平均値回路4の出力により上記(3)式の除算を行っており、この除算回路にはD/A変換器6を介してスペクトルデータを表示する表示器7が接続される。 また、上記各構成回路を制御するために制御器8が設けられる。 実施例は以上の構成からなり、以下にその作用を説明する。 超音波反射波を変換した入力信号101は、周波数変換器1により周波数分析され、この周波数変換器1からは分析出力制御信号201により支持された周波数のスペクトルレベルを遅延シフトレジスタ2に出力する。この場合、制御部8は表示器7に対して掃引表示制御信号205を与えて掃引しているので、周波数変換器1へ与えられる上記分析出力制御信号201として、表示器7の掃引と同期した信号を与える。したがって、周波数分析器1の出力102には分析結果のスペクトルレベルの信号が表示器7の掃引と同期して周波数順に現れる。 この周波数分析器出力102は、M段の遅延シフトレジスタ2に記憶保持され、この遅延シフトレジスタ2のM/2段目から前記記憶保持データの中間スペクトルデータ値103、すなわち第3図(b)(c)のXkに相当する値が除算回路5に出力されると共に、遅延シフトレジスタ2は新しいスペクトル(レベル)データが出力される毎に制御部8から与えられるシフトクロック信号202によりデータをシフトさせる。この結果、遅延シフトレジスタ2内には常に最新のスペクトルデータから逆のぼってM個のスペクトルデータが収納されていることになる。 そして、上記遅延シフトレジスタ2からのM個の各出力104は、制御部8から並び替え制御信号203が出力される毎に、並び替え回路3によりレベルの低い順に並び替えが行われる。次段の平均値回路4では、外部より設定された平均化するデータ個数Nの信号109及び平均値回路制御信号204に基づき、並び替えられたスペクトルデータ(出力105)の低いレベルの方からN個抽出されて単純平均化処理が施されており、このスペクトルの平均レベル値106は除算回路5に出力される。 ここで、除算回路5に入力される中間スペクトルデータ値103と上記平均レベル値106に着目すると、平均レベル値106は、常に中間スペクトルデータ値103を中心とする複数スペクトルレベルの平均値(海中雑音スペクトル平均レベル値に相当する)として把握されることになる。 そうして、除算回路5においては、中間スペクトルデータ103が平均レベル値106によって除算され、除算器出力107は、D/A変換器6でアナログ信号108に変換されて表示器7に入力される。 以上のようにして、上記中間スペクトルデータに対する正規化が行われたことになるが、遅延シフトレジスタ2の記憶保持個数Mを目標物の信号スペクトル周波数幅と比較して十分大きい値に設定し、また海中雑音レベルのレベル変化と比較して十分小さい値にしておき、周波数分析器1の出力に基づいて低い周波数から高い周波数まで上記動作を実行することにより、海中雑音レベルに近いスペクトルデータを含めて周波数分析帯域全体を一様なレベルのもとに表示処理することができる。 第2図には実施例により処理した結果が示されており、第3図(a)と比較すると、スペクトルの振幅が圧縮されており、第3図(c)と比較すると海中雑音レベルに近い目標物からのスペクトルレベルXkが表示可能なa幅に入っていることが明らかとなる。」(第6頁第18行?第11頁第18行) 以上より、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「船舶のソナー装置に用いられる周波数分析表示装置であって(「ア」より)、 一定の周波数帯域内のスペクトルデータを入力保持するデータ保持回路と、このデータ保持回路内のスペクトルデータをレベルの低い順に並び替えるデータ並び替え回路と、このデータ並び替え回路で並び替えたスペクトルデータの低いレベルから抽出した所定個のデータの平均レベル値を演算する平均値回路と、上記データ保持回路中の中間スペクトルデータ値を上記平均値回路の平均レベル値により除算して正規化する正規化回路とを設けて構成され(「ウ」より)、 船舶が航走中に得られた超音波反射信号を入力信号として周波数分析する周波数分析器1には、データ保持回路としてM段の遅延シフトレジスタ2が接続され、この遅延シフトレジスタ2により、 A=M×Δf (ただし、Δfは、周波数分析分解能、Mは個数である。) の一定の周波数帯域内のスペクトルデータが記憶保持され、 周波数分析器1の出力102には分析結果のスペクトルレベルの信号が周波数順に現れ、この周波数分析器出力102は、M段の遅延シフトレジスタ2に記憶保持され、この遅延シフトレジスタ2のM/2段目から前記記憶保持データの中間スペクトルデータ値103に相当する値が除算回路5に出力されると共に、遅延シフトレジスタ2は新しいスペクトル(レベル)データが出力される毎にシフトクロック信号202によりデータをシフトさせ、この結果、遅延シフトレジスタ2内には常に最新のスペクトルデータから逆のぼってM個のスペクトルデータが収納されていることになり、 上記遅延シフトレジスタ2からのM個の各出力104は、並び替え制御信号203が出力される毎に、並び替え回路3によりレベルの低い順に並び替えが行われ、次段の平均値回路4では、外部より設定された平均化するデータ個数Nの信号109及び平均値回路制御信号204に基づき、並び替えられたスペクトルデータ(出力105)の低いレベルの方からN個抽出されて単純平均化処理が施されており、このスペクトルの平均レベル値106は除算回路5に出力され、 除算回路5においては、中間スペクトルデータ103が平均レベル値106によって除算され、上記中間スペクトルデータに対する正規化が行われなる(「エ」より。なお、「(1)式」については、「イ」の記載で置き換えた。)、 周波数分析表示装置。」 (引用例2) 原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された、特開昭57-39367号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「次に、本発明の一実施例について、図面に基づいて詳細に説明する。第2図は本発明の一実施例を示すブロック図であり、ソナー映像信号14は検波器11によって検波され、低域▼ろ▲波器12によって平滑化される。差動アンプ13は前記低域▼ろ▲波器12の出力信号16と前記検波器11の出力信号15とを入力し、両信号の差を出力信号17として出力する。前記各信号の波形を第6図に示す。第6図(a)には入力信号14が示されている。検波信号15は同図(b)に示されるように入力信号14の負側が除去された波形となる。該検波信号15を低域▼ろ▲波器16を通すことにより高周波部分が除去されて第6図(c)に示すような平滑化された信号16が得られる。該信号16と前記信号15との差をとると第6図(d)に示したような正規化された映像信号17が得られる。該正規化映像信号は平均的背景レベルと受信レベルとの差が現われているので平均的背景レベルが高い部分でも雑音レベルは小さく、目標物からのエコーを容易に発見することができる。」(第2頁左上欄第2?20行。なお、▼ろ▲は、漢字をひらがなに置換したものである。)) また、図3には、横軸を時間軸(t)として、ソナー映像信号14、検波信号15、平滑化された信号16、正規化された映像信号17の信号波形が示されている。 よって、引用例2には、「ソナー映像信号14を検波した検波器11の出力信号15と、検波器11の出力信号15を低域▼ろ▲器12によって平滑化した、低域▼ろ▲波器12の出力信号16との差を、差動アンプ13により出力し、正規化された映像信号17を得る技術。」が記載されている。 (引用例3) 原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された、特開平9-43340号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0002】 【従来の技術】受信信号または時間的に変動する入力信号から微小な信号を検出する方法として、受信信号に対して正規化処理を行い、微小信号を強調する方式がある。受信信号に対する正規化技術は、例えば、関根松夫著 レーダ信号処理技術 電子情報通信学会 p.103?105のlinear CFAR技術が知られている。また、正規化を実現する方法は、例えば、入力信号x(n)を用いて中間値M(n)を求め、数1により正規化処理演算を行う方法がある。 【0003】 【数1】 ・・・(数1) 【0004】ここで中間値とは、母数列{x(n),x(n-1),... ,x(n-2m)}の2m+1個(mは整数)の要素を昇順または降順に並べた時の中間要素(m+1番目の要素)の値を言う。」 よって、引用例3には、「入力信号x(n)を用いて中間値M(n)を求め、正規化処理演算を行う技術。」が記載されている。 (引用例4) 原査定の拒絶の理由において、周知技術を示す文献として引用された、特開2008-216005号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0027】 図1に示すように、本発明の実施形態に係るアクティブソーナー装置1は、音波を送受波可能なアクティブソーナー装置1であって、周波数変調がなされる送信信号を生成して出力する送信信号生成部2と、送信信号を音波として送波する送波部4と、送波部4からの音波が目標で反射されてなるエコーを含む音波を受波し、これを受信信号として出力する受波部5と、受信信号に含まれるエコーに対応するエコー信号を送信信号よりも帯域幅の小さい周波数変調信号に変換する信号処理部90とを備えてなる。 【0028】 送信信号生成部2は、図2(a)に示すように、いわゆるFM信号である送信信号Fを、送信時間幅Ht[sec]分だけ生成する。本実施形態においては、送信信号生成部2は、送信信号Fの周波数ftを、信号生成開始時刻からの時間tをパラメータとする関数g(t)で生成する。 なお、関数g(t)は、少なくとも、0≦t<Htの範囲内において、g(t)>0の関係を満たす関数である。 【0029】 関数g(t)は、例えば、下記の式(2)としている。 周波数ft=g(t)=m・t+c 式(2) ここで、式(2)において、mは周波数掃引勾配、cは、m>0のとき送信信号Fの下限周波数fl、m<0のとき送信信号Fの上限周波数fhとなる値である。 なお、周波数掃引勾配mは、送信信号Fの帯域幅fbw[Hz](送信信号Fの上限周波数fhから送信信号Fの下限周波数flを減算した値)を送信信号Fの送信時間幅Ht[sec]で割った値(m=fbw/Ht)である。 本実施形態においては、m>0,c=flとしている。この関数g(t)で生成される信号は、FM信号の中でもLFM信号(線形周波数変調波信号)と言われるものとなる。」 よって、引用例4には、「周波数変調がなされた送信信号を音波として送波する送波部4を備える、音波を送受波可能なアクティブソーナー装置。」が記載されている。 (引用例5) 前置報告書において、周知の事項を示す文献として引用された、特開2011-33561号公報(以下、「引用例5」という、)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【発明を実施するための形態】 【0015】 図1は、本発明を水中探知装置に適用した場合の一実施形態を示す回路ブロック図である。図1において、送受波器1は、船底等に装備され、電気機械変換素子である所要数の超音波振動子がその送波面を一方に向けた状態で結束されて構成されている。送受波器1は、水中に向けて超音波を送波し、魚や海底からの反射波を受波するものである。送信部2は、所定の送信周期毎に超音波振動子を励振する所定パワーの高周波駆動信号を生成するもので、生成された駆動信号は送受切換回路3を経て送受波器1に出力される。送受切換回路3は、送信部2からの駆動信号を送受波器1に導き、一方、送受波器1からの受信信号を受信部4に導くというように、信号経路の切り換えを行うものである。」 「【0018】 ここで、マッチドフィルタ動作について、図2、図3を用いて簡単に説明する。送受波器1は、送信信号Txとして、周波数変調された正弦波バースト信号からなる時間幅T1のパルスで、時間幅T1の間で周波数が所定周波数からある範囲内で連続的に変化する、例えば130KHzから70KHzまで連続的に変化する(時間とともに周波数が漸減する)信号を生成する。送受波器1の各超音波振動子はこの信号により励振され、図2(a)と同じ波形の超音波信号を水中に送信する。水中に送信された超音波信号のパルスが魚で反射し、エコーとして帰って来ると、このエコーは送受波器1で受信される。このときの受信信号Rxの波形は、図2(b)のように、基本的に図2(a)に示した送信信号Txと同じ波形である。但し、実際には水中の浮遊物からのエコーやプロペラノイズ等の影響により、受信信号には多くのノイズが含まれ、図2(b)のような理想的な波形にはならないが、ここでは便宜上、受信信号と送信信号とを同じ波形として扱う。」 よって、引用例5には、次の技術的事項が記載されている。 「水中探知装置の送受波器1は、水中に向けて超音波を送波し、魚や海底からの反射波を受波するものであるが、水中に送信された超音波信号のパルスが魚で反射し、エコーとして帰って来ると、このエコーは送受波器1で受信され、このときの受信信号Rxの波形は送信信号Txと同じ波形である。」 (2)対比・判断 (請求項1に係る発明について) ア 対比 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明1とを比較する。 (ア)引用発明1のような、「船舶が航走中に得られた超音波反射信号を入力信号」とする「船舶のソナー装置」には、アクティブ・ソナー、つまり、超音波を送信し、目標物からの超音波反射信号を受信するソナー装置が用いられることは、当業者にとっていうまでもないことである。 よって、引用発明1における「船舶のソナー装置」において、超音波を送信する手段と、本願発明1における「所定時間長さを有するエコー信号を生成し、音波として送信する送信手段」とは、「エコー信号を生成し、音波として送信する送信手段」の点で共通するといえる。 (イ)引用発明1の「船舶のソナー装置」において「船舶が航走中に得られた超音波反射信号」を受信する手段が、本願発明1における「目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信する受信手段」に相当する。 (ウ)引用発明1における「一定の周波数帯域内のスペクトルデータを入力保持するデータ保持回路」は、「超音波反射信号を入力信号として周波数分析する周波数分析器1」に接続された「M段の遅延シフトレジスタ2」で構成され、この「遅延シフトレジスタ2」は、「周波数分析器1の出力102」に「周波数順に現れ」る、「A=M×Δf (ただし、Δfは、周波数分析分解能、Mは個数である。)の一定の周波数帯域内のスペクトルデータが記憶保持され」、「遅延シフトレジスタ2は新しいスペクトル(レベル)データが出力される毎にシフトクロック信号202によりデータをシフトさせ、この結果、遅延シフトレジスタ2内には常に最新のスペクトルデータから逆のぼってM個のスペクトルデータが収納されていることにな」る。 よって、引用発明1における「一定の周波数帯域内のスペクトルデータを入力保持するデータ保持回路」は、超音波反射信号から、周波数順に、一定の周波数帯域(A=M×Δf)を切り出し、切り出した一定の周波数帯域内のスペクトルデータをM段の遅延シフトレジスタ2に分割して保持しているから、本願発明1における「前記受信信号を時間方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する区分手段」とは、「前記受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する区分手段」の点で共通する。 (エ)引用発明1における「データ保持回路内のスペクトルデータをレベルの低い順に並び替えるデータ並び替え回路」で、「遅延シフトレジスタ2からのM個の各出力104」を「並び替え回路3によりレベルの低い順に並び替え」ることが、本願発明1における「前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ」ることに相当する。 (オ)引用発明1における「平均値回路」のうち「データ並び替え回路で並び替えたスペクトルデータの低いレベル」から「所定個のデータ」を抽出する部分は、「外部より設定された平均化するデータ個数Nの信号109」に基づき、「並び替えられたスペクトルデータ(出力105)の低いレベルの方からN個抽出している。 言い替えると、引用発明1における「平均値回路」のうち「データ並び替え回路で並び替えたスペクトルデータの低いレベル」から「所定個のデータ」を抽出する部分は、レベルの低い順に並び替えたM個のスペクトルデータについて、高いレベルの方からM-N個(ここで、Mは、データ保持回路に保持される、一定の周波数帯域内のスペクトルデータの個数、Nは、外部より設定された平均化するデータ個数)のデータ(周波数帯域としては、(M-N)×Δf分に対応する。)を除いて、スペクトルの平均レベル値(正規化のために用いられる値)を演算するためのデータを抽出しているから、本願発明1における「前記エコー信号が含まれる領域内のセルを昇順に前記所定時間長さ分に対応する範囲だけ除くことによって正規化用のセルを抽出し、該抽出したセル内の信号を取得する抽出手段」とは、「前記エコー信号が含まれる領域内のセルを昇順に所定長さ分に対応する範囲だけ除くことによって正規化用のセルを抽出し、該抽出したセル内の信号を取得する抽出手段」である点で共通するといえる。 (カ)引用発明1における「平均値回路」のうち「抽出した所定個のデータの平均レベル値を演算する」部分と「上記データ保持回路中の中間スペクトルデータ値を上記平均値回路の平均レベル値により除算して正規化する正規化回路」が、次の相違点は除いて、本願発明1における「前記取得した信号を用いて正規化する正規化手段」に相当する。 (キ)上記「ア」で述べたことを踏まえれば、引用発明1における「船舶のソナー装置」が、次の相違点は除いて、本願発明1における「アクティブソーナー装置」に相当するといえる。 よって、本願発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「エコー信号を生成し、音波として送信する送信手段と、 目標物から反射された前記エコー信号を含む反射波を受信信号として受信する受信手段と、 前記受信信号を所定方向に切り出し、切り出した区間内に含まれる信号を複数セルに分割する区分手段と、 前記区間内においてセル内に含まれる信号のレベル順にセルを並びかえ、前記エコー信号が含まれる領域内のセルを昇順に所定長さ分に対応する範囲だけ除くことによって正規化用のセルを抽出し、該抽出したセル内の信号を取得する抽出手段と、 前記取得した信号を用いて正規化する正規化手段と、 を備えるアクティブソーナー装置。」 (相違点) 本願発明1では、送信手段で生成され、送信されるエコー信号が「所定時間長さを有」し、受信信号を「所定時間方向」に切り出し、正規化用のセルを抽出するために「前記所定時間長さ分」に対応する範囲だけ除いているのに対し、引用発明1では、超音波反射信号から、「周波数順」に、一定の周波数帯域(A=M×Δf)を切り出し、正規化を行なうため、M-N個(ここで、Mは、データ保持回路に保持される、一定の周波数帯域内のスペクトルデータの個数、Nは、外部より設定された平均化するデータ個数)のデータ(周波数帯域としては、(M-N)×Δf分に対応する)を除いている点。 イ 判断 そこで上記相違点について検討すると、引用発明1は周波数分析表示装置であるから、これを「時間方向」での分析表示装置に変更することは、当業者といえども、容易に想到し得たことではない。 また、引用例2ないし引用例4に記載された周知技術には、受信信号を「時間方向」に切り出し、正規化用のセルを抽出するために、送信されるエコー信号の長さである、「所定時間長さ分」対応する範囲だけ除くことが記載も示唆もされていない。 よって、引用例2ないし引用例4に記載された周知技術を考慮しても、引用発明1において、上記相違点に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことではない。 なお、前置報告書で引用された引用例5に記載された周知の事項を参酌しても、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明1の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことではない。 ウ まとめ したがって、本願発明1は、当業者が引用発明1及び周知技術(引用例2ないし引用例4)に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (請求項2ないし9に係る発明について) 本願の請求項4に係る発明は、本願の請求項1に記載された発明特定事項を全て含み、さらに他の技術的事項を付加した発明である。 また、本願の請求項2?3に係る発明は、本願発明1を直接的または間接的にさらに限定したものであり、本願の請求項5に係る発明は、本願の請求項4に係る発明をさらに限定したものであり、本願の請求項6、7に係る発明は、本願の請求項1または請求項4に係る発明を直接的または間接的にさらに限定したものである。 さらに、本願の請求項8、9に係る発明は、本願発明1を、それぞれ「信号正規化方法」、「コンピュータに実行させるためのプログラム」として表現したものである。 よって、本願の請求項2ないし9に係る発明は、上記「(請求項1に係る発明について)」で述べたのと同様の理由により、当業者が引用発明1及び周知技術(引用例2ないし引用例4)に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (3)原査定の理由についてのまとめ 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 第4 当審拒絶理由について 1 当審拒絶理由の概要 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (1)請求項1には、受信信号から「区間」を信号を切り出す「方向」について、「所定方向」と記載されているに過ぎず、該「方向」が「時間方向」であることが特定されていないため、請求項1の記載は技術的に首尾一貫したものとなっていない。 よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項6、7の記載は明確でない。 (2)請求項4には、受信信号から「区間」を信号を切り出す「方向」が、「周波数方向」であると特定されている。しかし、請求項4が引用する請求項1では、「前記エコー信号が含まれる領域内のセルを昇順に前記所定時間長さ分に対応する範囲だけ除く」と記載されているから、請求項4の記載は、全体として、「時間方向」についての記載と「周波数方向」についての記載とが混乱しており、技術的にみて不合理な記載となっている。 よって、請求項4及び請求項4を引用する請求項5?7の記載は明確でない。 (3)上記「(1)」で述べたのと同様の理由により、請求項8、9の記載は明確でない。 2 当審拒絶理由の判断 請求項1、請求項8及び請求項9については、本件補正により、受信信号から「区間」を信号を切り出す「方向」について、「時間方向」であることが特定された。 また、請求項4については、本件補正により「前記受信信号を時間と周波数の2次元データとして切り出」すこと、及び「所定時間長さ分に対応する範囲だけ除くこと」によって「時間方向正規化用のセルを抽出する」ことが特定され、「時間方向」についての記載と「周波数方向」についての記載との区別が明確になった。 よって、請求項1、請求項1を引用する請求項6、7、請求項4、請求項4を引用する請求項5?7、請求項8、9に係る発明は明確になった。 したがって、当審拒絶理由は解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由及び当審で通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-02-06 |
出願番号 | 特願2011-208262(P2011-208262) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(G01S)
P 1 8・ 121- WY (G01S) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 目黒 大地 |
特許庁審判長 |
酒井 伸芳 |
特許庁審判官 |
清水 稔 大和田 有軌 |
発明の名称 | アクティブソーナー装置、アクティブソーナー装置における信号正規化方法およびそのプログラム |
代理人 | 下坂 直樹 |
代理人 | 机 昌彦 |