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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H03H 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H |
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管理番号 | 1324668 |
審判番号 | 不服2016-7668 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-05-25 |
確定日 | 2017-02-28 |
事件の表示 | 特願2012- 12406「弾性波デバイス及び弾性波デバイスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日出願公開、特開2013-153289、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願の手続の概要は以下のとおりである。 平成24年 1月24日 特許出願 平成27年11月16日 拒絶理由通知 平成28年 1月21日 意見書、手続補正書 平成28年 3月11日 拒絶査定 平成28年 5月25日 審判請求、手続補正書 平成28年 8月 1日 前置報告 第2.本願発明 本願の請求項1-8に係る発明は、平成28年5月25日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の各請求項に記載された事項により特定されるとおりのもので、その記載は以下のとおりである。 「 【請求項1】 基板と、 前記基板の第1面上に設けられ、高周波信号が入力する入力パッドと、 前記入力パッドに入力された高周波信号が入力する共振子と、 前記基板の第1面上に設けられ、前記入力パッドと前記共振子とを接続する入力配線と、 前記入力パッドおよび前記入力配線の全てと前記基板との間に設けられ、前記共振子が有する電極と前記基板との間に設けられておらず、前記基板より誘電率が小さい絶縁層と、を具備し、 前記基板は、圧電体を含む圧電基板であり、 前記共振子はIDTを含む弾性波共振子であり、 前記絶縁層は前記IDT上に設けられた保護層と同一の層であることを特徴とする弾性波デバイス。 【請求項2】 前記基板の前記第1面に対向する第2面上に設けられた金属層を具備することを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。 【請求項3】 前記金属層は前記第2面に接触していることを特徴とする請求項2記載の弾性波デバイス。 【請求項4】 前記基板は、前記第1面が実装基板と対向するように前記実装基板にフ リップチップ実装され、 前記金属層は前記基板を封止することを特徴とする請求項2又は3記載の弾性波デバイス。 【請求項5】 前記絶縁層は、酸化シリコン又はポリイミドを含むことを特徴とする請求項1から4いずれか一項記載の弾性波デバイス。 【請求項6】 前記第1面上に設けられ、前記共振子から出力された高周波信号が出力される出力パッドと、 前記第1面上に設けられ、複数の前記共振子を接続し、高周波信号を伝搬する配線と、 を具備し、 前記絶縁層は、前記出力パッドと前記基板との間、及び前記配線と前記基板との間に設けられていることを特徴とする請求項1から5いずれか一項記載の弾性波デバイス。 【請求項7】 前記第1面上に設けられ、前記共振子から出力された高周波信号が外部に出力される出力パッドと、 前記第1面上に設けられ、複数の前記共振子を接続し、高周波信号を伝搬する配線と、 を具備し、 前記絶縁層は、前記出力パッドと前記基板との間、及び前記配線と前記基板との間に設けられていないことを特徴とする請求項1から5いずれか一項記載の弾性波デバイス。 【請求項8】 基板の第1面上に、前記基板より誘電率が小さい絶縁層を形成する工程 と、 前記絶縁層上に、高周波信号が入力する入力パッドを形成する工程と、 前記第1面上の前記絶縁層の形成されていない領域に、前記入力パッドと接続され、前記入力パッドに入力された高周波信号が入力する共振子を形成する工程と、 前記絶縁層上に、前記入力パッドと前記共振子とを接続する入力配線を形成する工程と、 を具備し、 前記入力パッドおよび前記入力配線の全ては前記絶縁層上に形成され、 前記共振子を形成する工程は、前記第1面上にIDTを形成する工程を含み、 前記絶縁層は、前記IDT上の保護層と同じ工程によりに形成されることを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。」 (下線は手続補正書の記載のとおりである。) 第3.原査定の理由の概要 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)についての原査定の理由の概要は、本願発明は、その出願前に日本国内において、頒布された特開2003-332874号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないという理由1、及び本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないという理由2である。 第4.当審の判断 1.引用発明 引用例には、図面とともに以下の記載がなされている。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 所定の圧電基板と,前記圧電基板上に形成された,平衡型端子に接続される第一のIDT電極と,前記圧電基板上に形成された,平衡型端子または不平衡型端子に接続される第二のIDT電極と,前記第一のIDT電極,第二のIDT電極をそれぞれ前記平衡型端子または前記不平衡型端子に接続するための接続電極と,前記第一のIDT電極,第二のIDT電 極,接続電極の内の少なくとも一つと前記圧電基板との間に形成された誘電体薄膜とを備えた弾性表面波フィルタ。 【請求項2】 前記接続電極は,前記第一のIDT電極を前記平衡型端子に接続するための第一の接続電極と,前記第二のIDT電極を前記平衡型端子または前記不平衡型端子に接続するための第二の接続電極とであって,前記誘電体薄膜は,(a)前記第一のIDT電極と前記第二のIDT電極との間に発生する容量,(b)前記第一のIDT電極と前記第二の接続電極との間に発生する容量,(c)前記第一の接続電極と前記第二のIDT電極との間に発生する容量,および(d)前記第一の接続電極と前記第二の接続電極との間に発生する容量の内の少なくとも一つがより抑制されるように形成されている請求項1記載の弾性表面波フィルタ。 …… 【請求項5】 前記誘電体薄膜は,前記接続電極と前記圧電基板との間には形成されているが,前記第一のIDT電極,第二のIDT電極と前記圧電基板との間には形成されていない請求項1記載の弾性表面波フィルタ。 【請求項6】 前記第一のIDT電極,第二のIDT電極,接続電極の内の少なくとも一つの上に形成された被覆誘電体薄膜を備えた請求項1記載の弾性表面波フィルタ。 …… 【請求項14】 前記誘電体薄膜の実効比誘電率は前記圧電基板の実効比誘電率よりも小さい請求項1記載の弾性表面波フィルタ。」 (2)「【0044】 【発明の実施の形態】以下に,本発明にかかる実施の形態について,図面を参照しつつ説明を行う。 【0045】(実施の形態1)はじめに,図1(a)?(b)を参照しながら,本実施の形態の弾性表面波フィルタの構成について説明する。なお,図1(a)は本発明にかかる実施の形態1の弾性表面波フィルタの平面図であり,図1(b)は本発明にかかる実施の形態1の弾性表面波フィルタのA-A′断面図である。 【0046】本実施の形態の弾性表面波フィルタのバランス特性は上述した従来の弾性表面波フィルタのバランス特性と比較して良好であるが,その原因の理論的な考察などに関しては後に詳述する。 【0047】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,図1(a)?(b)に示されているように,圧電基板200と,平衡型端子261?262に接続されるIDT(inter-digital transducer)電極210と,不平衡型端子271に接続されるIDT電極220と,不平衡型端子271に接続されるIDT電極230と,IDT電極210を平衡型端子261に接続するための接続電極281と,IDT電極210を平衡型端子262に接続するための接続電極282と,IDT電極220,230を不平衡型端子271に接続するための接続電極291と,IDT電極21 0,220,230,接続電極281?282,291と圧電基板200との間に面形状に形成された誘電体薄膜201と,反射器電極240,250とを備えた縦モード型の弾性表面波フィルタである。 …… 【0049】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,IDT電極210,220,230,接続電極281?282,291と圧電基板200との間に面形状に形成された誘電体薄膜201を備えた構成を有する点を特徴としている。 【0050】圧電基板200は,40以上の実効比誘電率を有するタンタル酸リチウムで構成され,板形状に形成された基板である。 【0051】誘電体薄膜201は,ほぼ10程度の実効比誘電率を有する窒化珪素で構成され,圧電基板200上に面形状に形成された(図1(b)参照)膜厚ほぼ200Åの薄膜である。誘電体薄膜201の膜厚(=h)を弾性表面波の波長(=λ)で規格化した規格化膜厚(=h/λ)は,およそ 0.5%である。誘電体薄膜201は,スパッタ法を利用して形成されている。」 (3)「【0060】つぎに,本実施の形態の弾性表面波フィルタの動作について説明する。 【0061】以下では,平衡型端子261,262が入力端子であり,不平衡型端子271が出力端子である場合について説明する(不平衡型端子271が入力端子であって平衡型端子261,262が出力端子である場合についても,同様である)。 【0062】入力電気信号が平衡型端子261,262から入力されると,圧電基板200上に弾性表面波が励起される。励起された弾性表面波は,反射器電極240と反射器電極250との間に閉じ込められる。縦モード型の弾性表面波フィルタにおいては,このようにして生じた共振モードを利用してフィルタリングが行われ,出力電気信号が不平衡型端子271から取り出される。」 (4)「【0094】(実施の形態2)はじめに,図8?9を参照しなが ら,本実施の形態の弾性表面波フィルタの構成について説明する。なお,図8は本発明にかかる実施の形態2の弾性表面波フィルタの平面図である。また,図9は本発明にかかる実施の形態2の弾性表面波フィルタの部分拡大断面図である。 …… 【0097】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,上述した実施の形態1の弾性表面波フィルタ(図1(a)?(b)参照)と類似した構成を有している。 【0098】ただし,本実施の形態の弾性表面波フィルタは,図9に示されているように,たとえばIDT電極210の電極指間Pなど,IDT電極210,220,230,接続電極281?282,291の下にはない部分がこれらをエッチングする際にオーバーエッチングされた誘電体薄膜202を備えた構成を有する点を特徴としている。 【0099】誘電体薄膜202は,ほぼ10程度の実効比誘電率を有する窒化珪素で構成され,圧電基板200上に面形状に形成された(図9参照)薄膜である。誘電体薄膜202は,スパッタ法を利用して形成されている。 【0100】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,上述した実施の形態1の弾性表面波フィルタと同様な動作を行う。」 (5)「【0109】(実施の形態4)はじめに,図11(a)?(b)を参照しながら,本実施の形態の弾性表面波フィルタの構成について説明す る。なお,図11(a)は本発明にかかる実施の形態4の弾性表面波フィルタの平面図であり,図11(b)は本発明にかかる実施の形態4の弾性表面波フィルタのA-A′断面図である。 【0110】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,図11(b)に示されているように,圧電基板200と,平衡型端子パッド電極263?264に接続されるIDT電極210と,不平衡型端子パッド電極272に接続されるIDT電極220と,不平衡型端子パッド電極272に接続されるIDT電極230と,IDT電極210を平衡型端子パッド電極263に接続するための接続電極283と,IDT電極210を平衡型端子パッド電極264に接続するための接続電極284と,IDT電極220,230を不平衡型端子パッド電極272に接続するための接続電極292と,接続電極283?284,292と圧電基板200との間に形成された誘電体薄膜204 と,反射器電極240,250とを備えた縦モード型の弾性表面波フィルタである。 【0111】なお,接続電極283?284は本発明の第一の接続電極に対応し,接続電極292は本発明の第二の接続電極に対応し,誘電体薄膜204は本発明の誘電体薄膜に対応する。また,平衡型端子パッド電極263?264は本発明の平衡型端子に対応し,不平衡型端子パッド電極272は本発明の不平衡型端子に対応する。 【0112】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,上述した実施の形態1の弾性表面波フィルタ(図1(a)?(b)参照)と類似した構成を有している。 【0113】ただし,本実施の形態の弾性表面波フィルタは,図11(a)?(b)に示されているように,IDT電極210,220,230などの下にある部分には形成されず,接続電極283?284,292の下にある部分にのみ形成された誘電体薄膜204を備えた構成を有する点を特徴としている。 【0114】誘電体薄膜204は,ほぼ10程度の実効比誘電率を有する窒化珪素で構成され,圧電基板200上に形成された(図10(b)参照)薄膜である。誘電体薄膜204は,スパッタ法を利用して形成されている。 【0115】接続電極283は,誘電体薄膜204の上に形成された線路形状をもつ電極であり,抵抗が小さいアルミ合金の金属薄膜で構成されてい る。 【0116】接続電極284は,接続電極283と同様,誘電体薄膜204の上に形成された線路形状をもつ電極であり,抵抗が小さいアルミ合金の金属薄膜で構成されている。 【0117】接続電極292は,接続電極283と同様,誘電体薄膜204の上に形成された線路形状をもつ電極であり,抵抗が小さいアルミ合金の金属薄膜で構成されている。 【0118】平衡型端子パッド電極263?264は,ワイヤ実装または フェースダウン実装時の取り出し電極である。 【0119】不平衡型端子パッド電極272は,平衡型端子パッド電極263?264と同様,ワイヤ実装またはフェースダウン実装時の取り出し電極である。 【0120】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,上述した実施の形態2の弾性表面波フィルタと同様な動作を行う。 【0121】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,接続電極283?284,292,平衡型端子パッド電極263?264,不平衡型端子パッド電極272などの下にある部分に誘電体薄膜204が形成されることで接続電極283?284,292,平衡型端子パッド電極263?264,不平衡型端子パッド電極272による容量成分が低減されており,上述した実施の形態1の弾性表面波フィルタと同様,良好なバランス特性を有する。」 (6)「【0122】(実施の形態5)はじめに,図12(a)?(b)を参照しながら,本実施の形態の弾性表面波フィルタの構成について説明す る。なお,図12(a)は本発明にかかる実施の形態5の弾性表面波フィルタの平面図であり,図12(b)は本発明にかかる実施の形態5の弾性表面波フィルタのA-A′断面図である。 …… 【0125】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,上述した実施の形態1の弾性表面波フィルタ(図1(a)?(b)参照)と類似した構成を有している。 【0126】ただし,本実施の形態の弾性表面波フィルタは,図12(b)に示されているように,IDT電極210,220,230,接続電極281?282,291の上に面形状に形成された被覆誘電体薄膜206を備えた構成を有する点を特徴としている。 【0127】誘電体薄膜205は,ほぼ10程度の実効比誘電率を有する窒化珪素で構成され,圧電基板200上に面形状に形成された(図12(b)参照)薄膜である。誘電体薄膜205は,スパッタ法を利用して形成されている。 【0128】被覆誘電体薄膜206は,ほぼ10程度の実効比誘電率を有する窒化珪素で構成され,IDT電極210,220,230,接続電極281?282,291の上に面形状に形成された(図12(b)参照)薄膜である。被覆誘電体薄膜206は,スパッタ法を利用して形成されている。 【0129】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,上述した実施の形態1の弾性表面波フィルタと同様な動作を行う。 【0130】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,IDT電極210,220,230,接続電極281?282,291の上にある部分にも被覆誘電体薄膜206が形成されているため,パッシベーションの作用を有す る。」 上記(4)に「(実施の形態2)」について、 「【0100】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,上述した実施の形態1の弾性表面波フィルタと同様な動作を行う。」と、 上記(5)に「(実施の形態4)」について、 「【0120】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,上述した実施の形態2の弾性表面波フィルタと同様な動作を行う。」と記載されていることか ら、上記「(実施の形態4)」の「平衡型端子パッド電極263?264」は、上記「(実施の形態1)」の「平衡型端子261?262」に対応するものであることは明らかである。 したがって、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 圧電基板(200)と、平衡型端子パッド電極(263、264)に接続される第一のIDT電極(210)と、不平衡型端子パッド電極(272)に接続される第二のIDT電極(220、230)と、第一のIDT電極 (210)を平衡型端子パッド電極(263、264)に接続するための第一の接続電極(283、284)と、第二のIDT電極(220、230)を不平衡型端子パッド電極(272)に接続するための第二の接続電極(292)と、第一の接続電極(283、284)及び第二の接続電極(29 2)と圧電基板(200)との間に形成された誘電体薄膜(204)と、反射器電極(240、250)とを備えた縦モード型の弾性表面波フィルタにおいて、 前記誘電体薄膜(204)は、第一の接続電極(283、284)及び第二の接続電極(292)、平衡型端子パッド電極(263、264)、及び不平衡型端子パッド電極(272)の下にある部分に形成され、第一のIDT電極(210)及び第二のIDT電極(220、230)の下にある部分には形成されず、前記誘電体薄膜の実効比誘電率は前記圧電基板の実効比誘電率よりも小さいものであり、 入力電気信号が平衡型端子パッド電極(263、264)から入力されると、圧電基板(200)上に弾性表面波が励起され、励起された弾性表面波は、反射器電極(240、250)の間に閉じ込められ、このようにして生じた共振モードを利用してフィルタリングが行われる弾性表面波フィルタ。 2.対比 引用発明の「圧電基板(200)」は、本願発明の「前記基板は、圧電体を含む圧電基板であり」とする「基板」に対応する。 引用発明は「入力電気信号が平衡型端子パッド電極(263、264)から入力されると、圧電基板(200)上に弾性表面波が励起され、励起された弾性表面波は、反射器電極(240、250)の間に閉じ込められ、このようにして生じた共振モードを利用してフィルタリングが行われ」とするので、その「圧電基板(200)」の「反射器電極(240、250)」、 「第一のIDT電極(210)」、及び「第二のIDT電極(220、230)が備えられた部分は、本願発明の「前記共振子はIDTを含む弾性波共振子であり」とする「共振子」に対応する。 引用発明の「平衡型端子パッド電極(263、264)」は、「入力電気信号が平衡型端子パッド電極(263、264)から入力されると」とあることから、本願発明の「高周波信号が入力する入力パッド」に対応する。 引用発明の「第一の接続電極(283、284)」は、本願発明の「前記入力パッドと前記共振子とを接続する入力配線」に対応する。 引用発明の「誘電体薄膜204」は、「…と圧電基板(200)との間に形成された誘電体薄膜(204)」であって、「前記誘電体薄膜(204)は、第一の接続電極(283、284)及び第二の接続電極(292)、平衡型端子パッド電極(263、264)、及び不平衡型端子パッド電極(272)の下にある部分に形成され、第一のIDT電極(210)及び第二のIDT電極(220、230)の下にある部分には形成されず、前記誘電体薄膜の実効比誘電率は前記圧電基板の実効比誘電率よりも小さいものであ り」とするものであるから、本願発明の「絶縁層」とは、入力パッドおよび入力配線の全てと基板との間に設けられ、共振子が有する電極と前記基板との間に設けられておらず、前記基板より誘電率が小さい絶縁層である点で共通する。 引用発明の「第一のIDT電極(210)」、「第二のIDT電極(220、230)」、「第一の接続電極(283、284)」、及び「平衡型端子パッド電極(263、264)」が、「圧電基板(200)」の同じ面上に設けられたものであることは明らかである。 引用発明は上記のとおりの「弾性表面波フィルタ」であるから、弾性波デバイスといえる。 したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、以下の点で一致し、また相違する。 (1)一致点 基板と、 前記基板の第1面上に設けられ、高周波信号が入力する入力パッドと、 前記入力パッドに入力された高周波信号が入力する共振子と、 前記基板の第1面上に設けられ、前記入力パッドと前記共振子とを接続する入力配線と、 前記入力パッドおよび前記入力配線の全てと前記基板との間に設けられ、前記共振子が有する電極と前記基板との間に設けられておらず、前記基板より誘電率が小さい絶縁層と、を具備し、 前記基板は、圧電体を含む圧電基板であり、 前記共振子はIDTを含む弾性波共振子であることを特徴とする弾性波デバイス。 (2)相違点 本願発明は「前記絶縁層は前記IDT上に設けられた保護層と同一の層である」とするのに対して、引用発明では、そのような特定がない点。 3.相違点について 上記相違点について検討する。 引用例には、上記1.(1)に「【請求項6】 前記第一のIDT電極,第二のIDT電極,接続電極の内の少なくとも一つの上に形成された被覆誘電体薄膜を備えた請求項1記載の弾性表面波フィルタ。」と、 上記1.(6)に「(実施の形態5)」について、 「【0130】本実施の形態の弾性表面波フィルタは,IDT電極210,220,230,接続電極281?282,291の上にある部分にも被覆誘電体薄膜206が形成されているため,パッシベーションの作用を有す る。」と記載されていることから、「(実施の形態4)」に基づいた引用発明においても、その「第一のIDT電極(210)」及び「第二のIDT電極(220、230)」上に、保護層といえるパッシベーションの作用を有する被覆誘電体薄膜を設けることに格別困難な点はない。 しかし、そのような保護層といえる被覆誘電体薄膜を、絶縁層といえる 「誘電体薄膜204」と同一の層とすることは、引用例には記載も示唆もない。 この点について、平成28年8月1日付けでされた前置報告では、周知技術として以下の引用文献2-4を引用して、当業者にとって格別困難なことではないとしている。 引用文献2.特開2011-71912号公報 圧電基板1と、圧電基板1上に形成された櫛歯型電極を含む共振器2a及び2bと、櫛歯型電極に接続された配線部3と、櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層4とを備える弾性波フィルタであって、配線部3は、櫛歯型電極と同層の下層配線部3dと、下層配線部3dの上部に配された上層配線部3eとを備え、上層配線部3eは、下層配線部3dの電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている弾性波フィルタが記載されている。 (【要約】等) 下層配線部3dは櫛歯型電極と同層であるから、誘電体層4は入力のための配線部の全てと圧電基板との間に設けられたものではない。 また、誘電体層4は、 「【0018】 本実施の形態は、櫛歯型電極表面を誘電体で覆うことで温度特性を改善した弾性波フィルタにおいて、樹脂による絶縁層を形成することなく、櫛歯型電極と配線部の電気的接続を保ちつつ、配線間の寄生容量を低減することを主な特徴としている。」 と記載されていることから、温度補償層といえるが、保護層とは直ちにいうことはできない。 引用文献3.特開2011-259516号公報 圧電基板と、圧電基板上に形成された複数のIDT電極と、複数のIDT電極にそれぞれ接続される第1、及び第2の配線電極とを備えた弾性表面波フィルタであって、前記第1の配線電極は入力側のIDT電極に接続され、前記第2の配線電極は出力側のIDT電極に接続され、前記第1、及び前記第2の配線電極とは絶縁層を介して立体交差する構成であると共に、第1の配線電極501は、立体交差部において、電極幅が他よりも小さい構成である弾性波フィルタが記載されている。(【要約】等) 絶縁層は配線電極が立体交差するためのもので、絶縁層は入力のための配線電極の全てと圧電基板との間に設けられたものではない。 また、絶縁層は、 「【0052】 また、絶縁層に関しては、SiO_(2)やSiN、樹脂系の材料など、絶縁性が確保でき、誘電体として機能する材料であればかまわない。特に、絶縁層としてSiO_(2)など弾性表面波フィルタの温度補償に使用される材料を用いる場合には、絶縁層がIDT電極を覆うように構成すれば、小型で、帯域内特性、及び温度特性に優れた弾性表面波フィルタを実現することができ る。」 と記載されていることから、温度補償層といえるが、保護層とは直ちにいうことはできない。 引用文献4.国際公開第2009/113274号 弾性波フィルタについて、 「[0057] 例えば、具体的には、第1の配線48と第2の配線49との間に介在する誘電体膜50により、第1、第2、第3、第4、第5のIDT電極32、33、34、35、36、および/または第6、第7、第8、第9、第10のIDT電極37、38、39、40、41を覆う構成としそれらの機能膜として作用する構成とする。 [0058] すなわち、例えば、これらの第1、第2、第3、第4、第 5、第6、第7、第8、第9、第10のIDT電極32、33、34、3 5、36、37、38、39、40、41上に、例えば、酸化ケイ素からなる機能膜を形成することにより、IDT電極の保護膜とすることができ る。」 と記載されている。 誘電体膜50は配線の間に介在するもので、入力のための配線の全てと圧電基板との間に設けられたものではない。 上記引用文献2-4にも、本願発明や引用発明のような配線の全てと基板との間に設けられた絶縁層と、IDT上に設けられた保護層とを同一の層とすることは、記載も示唆もされていない。 したがって、本願発明は、引用発明と同一の発明ではなく、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 請求項2-7は、請求項1を引用するものであり、請求項8に係る発明 は、本願発明に対応する弾性波デバイスの製造方法に関する発明であるか ら、本願発明と同様に、引用発明と同一の発明ではなく、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1-8に係る発明は、引用発明と同一の発明ではなく、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-02-13 |
出願番号 | 特願2012-12406(P2012-12406) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(H03H)
P 1 8・ 121- WY (H03H) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | ▲高▼橋 徳浩、新井 寛、鬼塚 由佳 |
特許庁審判長 |
近藤 聡 |
特許庁審判官 |
加藤 恵一 山本 章裕 |
発明の名称 | 弾性波デバイス及び弾性波デバイスの製造方法 |
代理人 | 片山 修平 |