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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P |
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管理番号 | 1324734 |
審判番号 | 不服2015-12265 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-29 |
確定日 | 2017-02-09 |
事件の表示 | 特願2011-502824「T細胞の機能増強方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年9月10日国際公開、WO2010/101249〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年3月5日(優先権主張 2009年3月6日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年3月23日付けで拒絶査定がされ、同年6月29日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成28年7月12日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月20日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願発明は、平成28年9月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。 「T細胞のProgrammed Death-1 Ligand 1(PD-L1)及び/又はProgrammed Death-1 1igand 2(PD-L2)の発現を、PD-L1及び/又はPD-L2に対する直接T細胞に導入されたsiRNA又はT細胞内で転写されたsiRNAによりエクス・ビボで抑制することを特徴とする、T細胞インターフェロン-γ(IFN-γ)産生増強方法であって、該siRNAが、配列番号1、2、9及び11からなる群より選択される塩基配列からなるsiRNAである、方法。」(以下、この発明を「本願発明」という。) 第3 引用例の記載 1 平成28年7月12日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された特表2008-543774号公報(以下、「引用例1」という。)には以下の事項が記載されている。 (1) 特許請求の範囲 ア 請求項40 「T細胞の細胞傷害活性を増大させる方法であって、該T細胞と、PD-1ポリペプチドの活性または発現を減少させる化合物とを接触させる工程を包含する、方法。」 イ 請求項41 「前記生物学的活性は、PD-1リガンド(PD-L1)またはPD-1リガンド2(PD-2L)の発現または活性を減少させることによって減少する、請求項40に記載の方法。」 ウ 請求項43 「前記細胞傷害活性は、サイトカイン産生、T細胞増殖、または感染因子クリアランスである、請求項40に記載の方法。」 エ 請求項44 「前記化合物は、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体、抗PD-1 RNAi、抗PD-L1 RNAi、抗PD-L2 RNAi、抗PD-1アンチセンスRNA、抗PD-L1アンチセンスRNA、抗PD-L2アンチセンスRNA、ドミナントネガティブPD-1タンパク質、ドミナントネガティブPD-L1タンパク質、またはドミナントネガティブPD-L2タンパク質である、請求項40に記載の方法。」 (2) 発明の要旨 「本発明は、抗原特異的CD8+ T細胞が、プログラム細胞死(Programmed Death)-1ポリペプチド(PD-1)の誘導後に感染因子に対して機能的に寛容性になる(『疲弊する(exhausted)』)という知見に基づく。したがって、PD-1、PD-L1またはPDL2の発現または活性を減少させることによって、機能的に寛容性のCD8+ T細胞の増殖、サイトカインの産生、・・・は、増大され、その結果、その感染因子に特異的な免疫応答が、増強される。 ・・・ さらに、本発明は、T細胞(例えば、アネルギー性T細胞または抗原に対する増大した免疫寛容を有するT細胞)の細胞傷害活性を、そのT細胞と、PD-1ポリペプチドの活性または発現を減少させる化合物とを接触させることによって増大させる方法を特徴とする。 ・・・望ましくは、本発明の化合物は、処置される被験体における細胞傷害性T細胞の活性を増大させること(例えば、細胞傷害性サイトカイン(例えば、IFNγ、・・・)の産生の増大、・・・)によって抗原特異的免疫応答を増大させる。例えば、上記化合物は、PDリガンド1(PD-L1)またはPDリガンド2(PD-L2)の発現または活性を減少させるか、あるいはPD-1とPD-L1との間の相互作用またはPD-1とPD-L2との間の相互作用を減少させる。例示の化合物としては、抗体(例えば、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、および抗PD-L2抗体)、RNAi分子(例えば、抗PD-1 RNAi分子、抗PD-L1 RNAi、および抗PD-L2 RNAi)、アンチセンス分子(例えば、抗PD-1アンチセンスRNA、抗PD-L1アンチセンスRNA、および抗PD-L2アンチセンスRNA)、ドミナントネガティブタンパク質(例えば、ドミナントネガティブPD-1タンパク質、ドミナントネガティブPD-L1タンパク質、およびドミナントネガティブPD-L2タンパク質)、および低分子インヒビターが挙げられる。」(段落【0006】?【0009】) (3) 発明を実施するための最良の形態 ア 詳細な説明 「最近数十年間における抗生物質およびワクチンの使用は、微生物感染に起因する死亡率を顕著に減少させている。しかし、抗微生物治療様式の成功は、宿主生物体の免疫系を回避し、次に持続感染を確立する特定の感染因子の能力によって制限されている。例えば、肝炎およびHIVなどのウイルスに対して惹起される免疫応答は、感染因子を除去するのに十分ではなく、その感染因子は、感染した被験体に残存する。このような感染において、抗原特異的CD8+ T細胞は、感染因子に対して機能的に寛容性(『アネルギー』または『疲弊(exhaustion)』として公知である)になる。アネルギー性T細胞は、それらの細胞傷害活性(すなわち、それらのサイトカインを産生する能力、増殖する能力、および感染因子を除去する能力)を失う。 本発明は、T細胞アネルギーが、PD-1発現の誘導と同時に生じること、およびPD-1発現が特定の型のリンパ増殖性障害と相関するという驚くべき知見に基づく。したがって、本発明は、T細胞と、PD-1、PD-1リガンド(PD-L1)またはPD-1リガンド2(PD-L2)の発現または活性を減少させる薬剤とを接触させることによってT細胞の細胞傷害性を増大させる方法を提供する。より具体的には、本発明は、被験体に、PD-1の発現または活性を減少させる薬剤を投与することによって持続感染またはリンパ増殖性障害(例えば、血管免疫芽球性リンパ腫および結節性リンパ球優勢型ホジキンリンパ腫などの癌)を処置または予防する方法を提供する。PD-1、PD-L1またはPD-L2の発現または活性の減少は、細胞傷害性T細胞の活性の増大をもたらし、感染因子に対する特異的な免疫応答を増大させる。本明細書中で提供される結果は、抗プログラム細胞死リガンド-1(PD-L1)遮断抗体を持続的に感染したマウスへと投与することがアネルギー性T細胞の細胞傷害活性を増大させたことを示す。具体的には、PD-1シグナリングの途絶は、アネルギー性CD8+ T細胞の増殖、増強されたサイトカイン産生、および増大したウイルスクリアランスを誘導する・・・。 T細胞が外来タンパク質に対して応答するためには、2つのシグナルが、抗原提示細胞(APC)によって休止Tリンパ球に与えられる必要がある。免疫応答についての特異性を与える第1のシグナルは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の構成(context)において提示される外来抗原ペプチドの認識後に、T細胞レセプター(TCR)を介して伝達される。補助刺激と称される第2のシグナルは、増殖しかつ機能性になるT細胞を誘導する。補助刺激は、抗原特異的でも、MHCにも拘束されず、そして補助刺激は、APCによって発現される1種以上の異なる細胞表面ポリペプチドによって提供される。T細胞が、さらなる補助刺激シグナルを受容することなくT細胞レセプターによってのみ刺激される場合、それらは、応答しなくなるか、アネルギー性になるか、または死に、免疫応答の下方調節(downmodulation)をもたらす。 APC上に発現されるCD80(B7-1)タンパク質およびCD86(B7-2)タンパク質は、重要な補助刺激ポリペプチドである。B7-2が、一次免疫応答の間に優勢な役割を果たす一方で、B7-1は、免疫応答の過程の後期にアップレギュレートされて一次T細胞応答を延長するかまたは二次的T細胞応答を補助刺激する。B7ポリペプチドは、免疫細胞に対して補助刺激シグナルまたは阻害性シグナルを提供して免疫細胞応答を促進または阻害し得る。例えば、補助刺激レセプターに結合した場合、PD-L1(B7-4)は、免疫細胞の補助刺激を誘導するか、または可溶性形態で存在する場合に免疫細胞補助刺激を阻害する。阻害性レセプターに結合した場合、B7-4分子は、阻害性シグナルを免疫細胞に対して伝達し得る。例示のB7ファミリーメンバーとしては、B7-1、B7-2、B7-3(抗体BB-1によって認識される)、B7h(PD-L1)、およびB7-4ならびにそれらの可溶性フラグメントまたは誘導体が挙げられる。B7ファミリーメンバーは、免疫細胞上の1種以上のレセプター(例えば、CTLA4、CD28、ICOS、PD-1および/または他のレセプター)に結合し、そしてB7ファミリーメンバーは、そのレセプターに依存して、阻害性シグナルまたは補助刺激シグナルを免疫細胞に対して伝達する能力を有する。 ・・・PD-1(PD-L1およびPD-L2が結合するレセプター)はまた、T細胞の表面上に迅速に誘導される。PD-1はまた、B細胞の表面上(抗IgMに対する応答において)、ならびに胸腺細胞および骨髄性細胞のサブセットにおいて発現される。 PD-1の結合(engagement)(例えば、架橋または凝集による)は、免疫細胞において阻害性シグナルの伝達をもたらし、免疫細胞アネルギーの増大と同時に生じる免疫応答の減少を生じる。PD-1ファミリーメンバーは、抗原提示細胞上の1種以上のレセプター(例えば、PD-L1およびPD-L2)に結合する。 PD-L1およびPD-L2(これらの両方は、ヒトPD-1リガンドポリペプチドである)は、上記B7ファミリーのポリペプチドのメンバーである。各PD-1リガンドは、シグナル配列、IgVドメイン、IgCドメイン、膜貫通ドメイン、および短い細胞質テール(cytoplasmic tail)を含む。これらのリガンドは、胎盤、脾臓、リンパ節、胸腺、および心臓において発現される。PD-L2はまた、膵臓、肺、および肝臓において発現されるが、PD-L1は、胎児肝臓、活性化T細胞および内皮細胞において発現される。両方のPD-1リガンドは、活性化単球および樹状細胞においてアップレギュレートされる。」(段落【0023】?【0029】) イ 定義 (ア) 「本明細書中で使用される場合、『PD-1』によって、PD-L1タンパク質またはPD-L2タンパク質との複合体を形成し、したがって免疫応答(例えば、T細胞の補助刺激)に関与するポリペプチドが、意味される。本発明のPD-1タンパク質は、天然に存在するPD-1(例えば、Ishidaら、EMBO J. 11:3887-3895, 1992、Shinoharaら、Genomics 23:704-706, 1994;および米国特許第5,698,520号(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと)と実質的に同一である。PD-1シグナリングは、T細胞増殖、サイトカイン産生、またはウイルスクリアランスを減少させることによって、例えば、CD8+ T細胞の細胞傷害性を減少させ得る。」(段落【0032】) (イ) 「『PD-1の発現または活性を減少させる』によって、未処置のコントロールにおけるPD-1のレベルまたは生物学的活性と比較してPD-1のレベルまたは生物学的活性を減少させることが意味する。・・・例えば、PD-L1、PD-L2、またはその両方に対するPD-1の結合が減少する場合、PD-1の生物学的活性は減少し、それによってPD-1シグナリングの減少が生じ、したがってCD8+ T細胞の細胞傷害性の増大を生じる。」(段落【0035】) ウ 処置する方法 (ア) 「PD-1のインヒビターは、細胞におけるPD-1、PD-L1またはPD-2の発現または活性を減少させる能力を有する任意の因子である。・・・必要に応じて、上記PD-1インヒビターは、PD-L1、PD-L2、またはその両方に対するPD-1の結合を阻害するか、または減少させる。PD-1インヒビターは、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、低分子アンタゴニスト、またはsiRNAを含む。」(段落【0059】) (イ) 「上記PD-1インヒビターは、PD-1の発現または活性を標的とする、アンチセンス分子、RNA干渉(siRNA)分子、または低分子アンタゴニストである。用語『siRNA』によって、標的mRNAの翻訳を妨害する二本鎖RNA分子が意味される。siRNAを細胞に導入する標準的な技術が、使用され、その技術としては、DNAが鋳型であり、siRNAのRNAがその鋳型から転写されるものが挙げられる。上記siRNAは、センスのPD-1核酸配列、PD-L1核酸配列またはPD-L2核酸配列、アンチセンスのPD-1核酸配列、PD-L1核酸配列またはPD-L2核酸配列あるいはその両方を含む。必要に応じて、上記siRNAは、単一の転写物が標的遺伝子(例えば、ヘアピン)由来のセンス配列および相補アンチセンス配列の両方を有するように構築される。標的細胞中のPD-1転写物、PD-L1転写物またはPD-L2転写物に対する上記siRNAの結合は、細胞によるPD-1、PD-L1またはPD-L2の産生における減少を生じる。上記オリゴヌクレオチドの長さは、少なくとも10ヌクレオチドであり、そして天然に存在するPD-1転写物、PD-L1転写物またはPD-L2転写物と同程度の長さであり得る。好ましくは、上記オリゴヌクレオチドは、19?25ヌクレオチド長である。最も好ましくは、上記オリゴヌクレオチドは、75ヌクレオチド長未満、50ヌクレオチド長未満、25ヌクレオチド長未満である。」(段落【0064】) (4) 実施例 ア 実施例1:慢性的に感染したマウスにおける、抗PD-L1抗体を使用したPD-1経路の阻害 「PD-1/PD-L1経路の遮断が、T細胞機能を回復し得、そして慢性LCMV感染の間のウイルス制御を増強するという仮説を試験するために、PD-1/PD-L1同時阻害性経路を、αPD-L1遮断抗体を使用して、慢性LCMV感染の間に途絶させた。PD-L1に対する遮断モノクローナル抗体を、LCMV Cl-13に感染したマウス対して、感染後の23日目?37日目において3日毎にi.p.投与した(200μgのラット抗マウスPD-L1 IgG2bモノクローナル抗体(クローン10F.5C5またはクローン10F.9G2))。37日目にて、未処置のコントロールと比較して、処置マウス中に約2.5倍のD^(b)NP396-404特異的CD8^(+)T細胞および3倍のDbGP33-41特異的CD8^(+)T細胞が、存在した(図2A)。増殖の誘導は、CD8^(+)T細胞に対して特異的であった。なぜならば、脾臓におけるCD4+ T細胞の数が、処置マウスおよび未処置マウスの両方においてほぼ同じ(脾臓あたり約6×10^(4) IA^(b)GP61-80のCD4+ T細胞)であったからである。 CD8+ T細胞増殖の増大に加えて、PD-1シグナリングの阻害はまた、ウイルス特異的CD8^(+)T細胞における抗ウイルスサイトカインの増大した産生をもたらした。CD8+ T細胞による、8種の異なるCTLエピトープに対するIFN-γおよびTNF-αの産生を、決定した。組み合せられた応答は、未処置マウスと比較して、処置マウスにおいて2.3倍高かった(図2Bおよび2C)。・・・ウイルスクリアランスはまた、ウイルスが処置マウスの血清、脾臓、および肝臓から除去されるにつれて増進された。減少したウイルス力価が、感染の37日目(処置を開始した14日後)に処置マウスの肺および腎臓において観察された(約10倍)。しかし、未処置マウスは、これら全て組織においてウイルスの顕著なレベルを示した(図2E)。血清および組織ホモジネートにおけるウイルス力価を、・・・Vero細胞を使用して決定した。この結果は、PD-1インヒビターがCD8+ T細胞増殖およびウイルスクリアランスを増大させ、したがってPD-1シグナリングの阻害がCD8+ T細胞機能を回復させることを示す。」(段落【0131】?【0132】) イ 実施例3:PD-1 RNAiを使用した慢性的に感染したマウスにおけるPD-1経路の阻害 「RNA干渉(RNAi)は、哺乳動物細胞において遺伝子発現をサイレンシングし得る。長い二本鎖RNA(dsRNA)が、細胞に導入され、そして次に、特異的mRNA分子または小さい群のmRNAを標的とするより小さいサイレンシングRNA(siRNA)へとプロセシングされる。この技術は、抗体が機能的ではない状況において特に有用である。・・・ PD-1サイレンサーRNAを、市販のsiRNA発現ベクター(例えば、pSilencer^(TM)発現ベクターまたはpSilencer^(TM)アデノウイルスベクター(・・・)に挿入する。次いでこれらのベクターを、インビボまたはエキソビボで標的である疲弊したT細胞と接触させる(実施例4を参照のこと)。」(段落【0139】?【0140】) 2 平成28年7月12日付けの当審による拒絶理由通知において引用した本願の優先日前に頒布された国際公開第2005/116204号(以下、「引用例F」という。)には以下の事項が記載されている。 (1) 技術分野 「本発明は、RNA干渉を生じさせるポリヌクレオチドに関する。以下本明細書においてRNA干渉のことを『RNAi』と表記する場合がある。」(1ページ7?8行) (2) 背景技術 「RNA干渉は、機能阻害したい遺伝子の特定領域と相同なセンスRNAとアンチセンスRNAからなる2本鎖RNA(double-stranded RNA、以下『dsRNA』という)が標的遺伝子の転写産物であるmRNAの相同部分を干渉破壊するという現象で、1998年に線虫を用いた実験により初めて提唱された。しかし、哺乳類においては、約30塩基対以上の長いdsRNAを細胞内へ導入すると、インターフェロンレスポンスが誘導され、細胞がアポトーシスによって死んでしまうため、RNAi法を用いることが困難であった。 一方、マウス初期胚や哺乳類培養細胞では、RNA干渉が起こりえることが示され、RNA干渉の誘導機構そのものは、哺乳類細胞にも存在することがわかってきた。現在では、およそ21?23塩基対の短い2本鎖RNA(short interfering RNA、siRNA)が、哺乳類細胞系でも細胞毒性を示さずにRNA干渉を誘導できることが示され、哺乳類においてもRNAi法を利用することが可能となってきている。」(1ページ11?23行) (3) 発明の開示 「RNAi法は様々な応用が期待される技術である。しかし、ショウジョウバエや線虫では、ある遺伝子の特定領域と相同なdsRNAおよびsiRNAは、ほとんどの配列でRNA干渉効果を示すのに対して、哺乳類では無作為に選択した(21塩基の)siRNAの70?80%はRNA干渉効果を示さない。これは、哺乳類においてRNAi法を用いた遺伝子機能解析を行う際に大きな問題点となっている。 また、従来siRNAを設計するにあたっては、試験者等の経験やセンスに依存する部分が大きく、実際にRNA干渉効果を示すsiRNAを高い確率で設計することが困難であった。さらに、RNA合成は、費用、時間等を要することから、RNA干渉を行うために無駄なsiRNAを合成してしまうことは、RNA干渉のさらなる研究や、RNA干渉を利用した数々の利用法の普及を妨げる要因となっていた。 本発明は、上記問題の解決のために、siRNAとして有効に機能しうるポリヌクレオチド、その設計方法、当該ポリヌクレオチドを用いた遺伝子発現抑制方法、当該ポリヌクレオチドを含む医薬組成物、遺伝子発現抑制組成物を提供することを目的とする。」(1ページ26行?2ページ12行) (4) 図面の簡単な説明 「図46は、本発明のポリヌクレオチドの標的となる標的配列、遺伝子、生物学的機能カテゴリー、文献情報に基づく生物学的機能、関連する疾患の関係を示す図である。 ・・・ 図46中の『標的配列』の欄に記載された配列において、実際にRNAiの標的となる配列は5’末端から3番目の塩基から3’末端から3番目までの塩基である。・・・本願明細書及び請求の範囲中、狭義の『規定配列』とは、実際にRNAiの標的となる配列を意味し、例えば、図46中の『標的配列』の5’末端から3番目の塩基から3’末端から3番目までの塩基に相当する。ただし便宜のため、本願明細書及び請求の範囲中、『規定配列』『標的配列』はともに、文意により、狭義の『規定配列』と同義、或いは、図46中の『標的配列』と同様に、狭義の『規定配列』に5’末端および3’末端に2塩基ずつRNAiの標的となる配列に隣接する配列が付加された配列、の双方の意味で使用される。」(5ページ6?23行) (5) 発明の詳細な説明 ア 「本発明者らは、上記課題を解決するために、RNAi法を用いる際最も労力、時間、費用を要する部分の1つである、siRNAの入手を容易に行う手法について検討を進めた。siRNAの調製は哺乳類において特に問題となっていることから、本発明者らは哺乳類培養細胞系を用いて、RNA干渉に有効なsiRNAの配列規則性を同定することを試みたところ、有効なsiRNAの配列には所定の規則性があることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、次の通りである。 〔1〕 目的生物の遺伝子の中から選ばれる標的遺伝子について、RNA干渉を生じさせるポリヌクレオチドであって、 少なくとも2本鎖領域を有し、 前記2本鎖領域における一方の鎖が、標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(a)から(d)の規則: (a)3’末端の塩基が、アデニン、チミンまたはウラシルであり; (b)5’末端の塩基が、グアニンまたはシトシンであり; (c)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる1種または2種以上の塩基がリッチであり; (d)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数であるに従う規定配列と相同な塩基配列からなり、そして 前記2本鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなる ことを特徴とするポリヌクレオチド。 ・・・ 〔5〕 前記規定配列が、さらに下記(e)の規則: (e)10塩基以上グアニンまたはシトシンが連続する配列を含まない に従う配列であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。 〔6〕 前記規定配列が、さらに下記(f)の規則: (f)目的生物の全遺伝子配列のうち、標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の相同性を有する配列が含まれない に従う配列であることを特徴とする〔5〕に記載のポリヌクレオチド。 ・・・ 〔8〕前記規定配列が、図46の標的配列の欄に記載された配列であることを特徴とする〔6〕に記載のポリヌクレオチド。」(6ページ7行?7ページ19行) イ 発明の効果 「本発明のポリヌクレオチドは、標的遺伝子に対して高いRNA干渉効果を有するとともに、標的遺伝子と関係のない遺伝子についてRNA干渉を生じる危険性が非常に小さいため、発現を抑制しようとする標的遺伝子のみに特異的にRNA干渉を生じさせることができる。したがって、本発明のポリヌクレオチドは、RNA干渉を利用する試験、治療方法等に好適に利用することができ、哺乳類などの高等動物、特にヒトを対象とするRNA干渉を行う際に特に有効性を発揮するものである。」(11ページ6?11行) ウ <3>ポリヌクレオチドの作製方法 「本発明はまた一態様として、上述した本発明のポリペプチドの選択方法も提供する。具体的には、発現を抑制しようとする標的遺伝子の発現系に導入するポリヌクレオチドの選択方法であって、 少なくとも2本鎖領域を有し、 前記2本鎖領域における一方の鎖が、標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(a)から(f)の規則: (a)3’末端の塩基が、アデニン、チミンまたはウラシルであり; (b)5’末端の塩基が、グアニンまたはシトシンであり; (c)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミンおよびウラシルからなる群より選ばれる1種または2種以上の塩基がリッチであり; (d)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数であり、; (e)10塩基以上グアニンまたはシトシンが連続する配列を含まず; (f)目的生物の全遺伝子配列のうち、標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の相同性を有する配列が含まれない に従う規定配列と相同な塩基配列からなり、そして、 前記2本鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドを選択することを特徴とするポリヌクレオチドの選択方法、が提供される。 本発明の選択方法によって得られるポリペプチドの標的となる配列は、前述の(a)-(f)の規則を満たす規定配列として、選択された配列である。好ましくは、配列番号47?配列番号817081のいずれであってよい。 本発明の選択方法は、前記選択したポリヌクレオチドから、さらに、前記標的遺伝子の規定配列と相同な塩基配列が、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列とのミスマッチ数が少なくとも3塩基であり、かつ、当該少なくとも3塩基のミスマッチを有する塩基配列を有する他の遺伝子の数が最も少ない配列であるポリヌクレオチドを選択することを含んでもよい。 ・・・ 例えば、配列番号47?配列番号817081の中から、他の遺伝子の塩基配列とのミスマッチ数が3塩基であり(言い換えれば、19塩基からなる(狭義の)規定配列のうち当該ミスマッチ3塩基以外の16塩基が一致する)、かつ、3塩基のミスマッチを有する塩基配列を有するその他の遺伝子の数が最も少ない配列を選択して得られたのが、図46に示す53998種の配列である。よって、これらの配列のいずれかであることが特に好ましい。」(25ページ6行?26ページ23行) エ <8>医薬用組成物 「実施例8においてsiRNAの標的とした配列・・・は、本発明にかかるポリヌクレオチドの標的となる標的配列のうち、図46に示す53998種の標的配列の中から無作為に選択したものである。後述するように、ここでは選択した全ての標的配列において、RNAi効果が確認された。このように得られた実施例8での結果を統計学の『母比率を推定する方法』に基づき処理したところ、本発明にかかるポリヌクレオチド、具体的には、配列番号47?817081に示す標的遺伝子の規定配列と相同な配列を2本鎖領域の一方の鎖に含むポリヌクレオチド)が標的遺伝子の発現抑制効果を示すということは統計的に妥当であり、かつ、特に、前記規定配列が図46に示す53998種の配列のいずれかであるポリヌクレオチドを用いた場合には、そのほぼ全てが標的遺伝子の発現抑制効果を示すということは統計的に妥当である、ということが明らかになった。」(54ページ21行?55ページ3行) (6) 図46 ア (図面ページ 39/1456) イ (図面ページ 644/1456) ウ (図面ページ 1229/1456) 第4 当審の判断 1 引用例1に記載された発明 引用例1には、T細胞と、プログラム細胞死(Programmed Death)-1ポリペプチド(以下、「PD-1」という。)又はそのリガンドであるPD-L1若しくはPD-L2の活性又は発現を減少させる化合物とを接触させることによって、T細胞の細胞傷害活性を増大させる方法が記載されている(前記第3の1(1)ア及びイ、(2)並びに(3)ア)。そして、引用例1では、PD-L1が活性化T細胞で発現していることを説明する(前記第3の1(3)ア)とともに、PD-1、PD-L1又はPD-L2の活性又は発現を減少させる化合物として、抗PD-L1 RNAiを例示し(前記第3の1(1)エ、(2))、また、PD-1、PD-L1又はPD-L2の活性又は発現を減少させる化合物のことをPD-1インヒビターと言い換えた上で、RNA干渉分子を例示し、ここでは、「RNA干渉」の後に括弧書きで「siRNA」と記載している(前記第3の1(3)ウ)。また、引用例1では、T細胞の細胞傷害活性としてインターフェロン-γ(以下、「IFN-γ」という。)の産生を記載し(前記第3の1(2))、実施例1では、PD-1、PD-L1又はPD-L2の活性又は発現を減少させる化合物として抗PD-L1抗体を使用することにより、T細胞によるIFN-γの産生増大を確認している(前記第3の1(4)ア)。加えて、引用例1には、PD-1経路、すなわち、PD-1シグナリングの阻害にPD-1に対するsiRNAを使用し、エクスビボでT細胞と接触させることを記載した実施例3も存在する(前記第3の1(4)イ)。そして、siRNAによる遺伝子発現の抑制を行う方法としては、当該遺伝子が発現している細胞に直接siRNAを導入する方法や、細胞内での転写によりsiRNAを生成させる方法が、本願の優先権主張日における周知技術である。そうしてみると、引用例1には、「T細胞のPD-L1の発現を、PD-L1に対する直接T細胞に導入されたsiRNA又はT細胞内で転写されたsiRNAによりエクス・ビボで抑制するT細胞IFN-γの産生を増強する方法。」についての発明(以下、この発明を「引用発明」という。)が記載されているということができる。 2 本願発明と引用発明の対比 本願発明と引用発明を対比すると、両者は、「T細胞のPD-L1の発現を、PD-L1に対する直接T細胞に導入されたsiRNA又はT細胞内で転写されたsiRNAによりエクス・ビボで抑制するT細胞IFN-γの産生を増強する方法。」において一致し、当該siRNAが、本願発明では配列番号1又は9からなる群より選択される塩基配列からなるsiRNAであるであるのに対し、引用発明ではsiRNAの具体的な塩基配列は特定されていない点において相違する。 3 相違点に対する判断 (1) 引用例Fに記載された発明 引用例Fには、哺乳類細胞ではおよそ21?23塩基対のsiRNAが細胞毒性を示さずにRNA干渉を誘導できることが知られているものの、無作為に選択した21塩基のsiRNAの70?80%はRNA干渉効果を示さないことから、哺乳類でRNAi法を用いる際の問題点となっていることを述べた上で、有効なsiRNAの配列には所定の規則性があることを見いだし、引用例Fに記載された発明を完成させるに至ったことが記載されている(前記第3の2(1)?(3)及び(5)ア)。そして、少なくとも2本鎖領域を有し、前記2本鎖領域における一方の鎖が、図46の標的配列の欄に記載された配列(実際に標的となる配列は5’末端から3番目の塩基から3’末端から3番目までの塩基。以下、この配列を「規定配列」という。)と相同な塩基配列からなり、そして、前記2本鎖領域における他方の鎖が、前記規定配列と相同な塩基配列と相補的な配列を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドが、図46の遺伝子名の欄に記載された遺伝子(標的遺伝子)に対して高いRNA干渉効果を有するとともに、標的遺伝子と関係のない遺伝子についてRNA干渉を生じる危険性が非常に小さいことが記載されている(前記第3の2(5))。特に、引用例Fでは、図46に示す標的配列の中から無作為に抽出した全ての配列においてRNAi効果が確認されたことが記載されており、その結果、引用例Fでは、「規定配列が図46に示す53998種の配列のいずれかであるポリヌクレオチドを用いた場合には、そのほぼ全てが標的遺伝子の発現抑制効果を示すということは統計的に妥当である」と述べている(前記第3の2(5)エ)。 そして、引用例Fの図46の整理番号44411の欄には、遺伝子名「PDCD1LG」(refseq_NO. NM_014143.2)を標的とするsiRNAの標的配列として「gccgactacaagcgaattactgt」が配列番号309250で示される配列として記載されている(前記第3の2(6)ウ)。ここで、図46に示された標的配列で、実際に標的となる配列は5’末端から3番目の塩基から3’末端から3番目までの塩基(前記第3の2(4))ということから、遺伝子「PDCD1LG」を標的とするsiRNAの標的配列は「cgactacaagcgaattact」であり、遺伝子「PDCD1LG」にRNA干渉を生じさせるポリヌクレオチドは、「cgacuacaagcgaauuacu」で示される塩基配列、及びこの配列と相補的な塩基配列からなる2本鎖領域を有するポリヌクレオチドということができる。(審決注:遺伝子はDNAなので塩基としてt(チミン)が、siRNAはRNAなので塩基としてu(ウラシル)が使用される。)ここで、遺伝子名「PDCD1LG」の遺伝子(refseq_NO. NM_014143)がprogrammed cell death 1 ligand 1、すなわち、PD-L1であることは、例えば、J Virol, 2007, Vol.81, pp.12005-12018.の12010ページ左欄12行に記載されているように周知の事項である。 そうしてみると、引用例Fには、PD-L1にRNA干渉を生じさせるポリヌクレオチドであって、「cgacuacaagcgaauuacu」で示される塩基配列、及びこの配列と相補的な塩基配列からなる2本鎖領域を含むポリヌクレオチドについての発明が記載されているということができる。 (2) 判断 前記1及び2で述べたように、引用例1には、「T細胞のPD-L1の発現を、PD-L1に対する直接T細胞に導入されたsiRNA又はT細胞内で転写されたsiRNAによりエクス・ビボで抑制するT細胞IFN-γの産生を増強する方法。」についての発明が記載されているところ、引用例1には、当該siRNAの具体的な塩基配列は記載されていない。しかし、前記(1)アで述べたように、PD-L1にRNA干渉を生じさせる塩基配列として「cgacuacaagcgaauuacu」が引用例Fに記載されていることから、当該文献に接した当業者であれば、引用例1に記載された発明の実施にあたり、引用例Fに記載されたPD-L1にRNA干渉を生じさせる塩基配列を採用することに格別の創意を要するものとは認められない。 ここで、引用例Fに記載された前記配列と本願の配列番号9で示される塩基配列(cgacuacaagcgaauuacu)は同一であることから、本願発明は、引用例1及び引用例Fに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 審判請求人の主張について (1) 審判請求人は、参考資料1(Growth Factors, 2007, Vol.25, pp.1-8.)、並びに引用例3(Immunol Lett, 2006, Vol.102, pp.222-228.)及び本願明細書の記載を根拠に、引用例1は、PD-1ポリペプチドの活性又は発現を減少させる化合物として、抗体、RNAi分子、アンチセンス分子、ドミナントネガティブタンパク質及び低分子インヒビターの5種類の化合物を例示するが、化合物の種類が異なれば、同様の効果が得られるとは限らないので、抗体の代わりにsiRNAを用いて同様の効果が得られるとの確信は持てないとの主張を行っている。 しかし、請求人が指摘する参考資料1の該当箇所には、非小細胞肺がん細胞株におけるインスリン様成長因子1受容体の阻害の効果が示されているところ、抗体や低分子インヒビターと比較してsiRNAを用いた場合に最も阻害効果が示されたことが記載されていることから、参考資料1は抗体の代わりにsiRNAの使用を積極的に進めることが記載された文献であって、参考資料1の記載により本願の進歩性を肯定することはできない。また、引用例3と本願明細書では、実験において使用するT細胞が異なることから、これらの結果を直接比較することは適切な方法ということはできない。 一方、Gasteroenterology, 2008, Vol.135, pp.1228-1237.e2.の図6には、PD-L1に対する抗体で処理した結腸筋線維芽細胞と活性化T細胞を共培養した場合の結果(図6A)と、PD-L1に特異的なsiRNAにより処理した腸筋線維芽細胞と活性化T細胞を共培養した場合の結果(図6C)が示されており、これらの図から、結腸筋線維芽細胞を抗体で処理した場合よりもsiRNAで処理した場合の方が、当該細胞による活性化T細胞増殖の抑制能が阻害されることが記載されている。 このように、抗体を使用する場合よりもsiRNAを使用する場合の方がPD-L1の阻害効果に優れる例が、請求人が提示した資料のほかにも本願の優先権主張日において知られていたことから、請求人の前記主張は、これを採用することはできない。 (2) 引用例1は、RNAi分子として、抗PD-1 RNAi、抗PD-L1 RNAi及び抗PD-L2 RNAiの3種類を例示するが、これら3種類の中のいずれのものが効果的であるかについてを引用例1は記載していないので、これらの中からPD-L1のsiRNAを選択することは、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである旨も、請求人は主張する。 しかし、3種の標的遺伝子の中から1つの遺伝子を選択することは当業者の通常の創作能力を発揮することにより達成可能なものであって、これを過度の試行錯誤ということはできない。また、引用例1には、抗PD-L1抗体を使用する実施例も記載されているところ、この実施例はPD-L1に着目したものということができるので、PD-L1のsiRNAを使用する方法が記載されているとの引用発明の認定に誤りはない。 (3) 審判請求人は、引用例Fに記載されるような多数の配列から当該特定の配列のsiRNAに至ることは困難である旨も主張する。 しかし、引用例Fの図46において、遺伝子PDCD1LG(これがPD-L1の遺伝子であることは、前記(1)アで述べたとおり。)について記載している箇所は、上述した整理番号44411のほかに、その直下の整理番号44412と、整理番号19635(前記第3の2(6)イ)のみである。すなわち、引用例Fには、PD-L1にRNA干渉を生じさせる塩基配列として3種の配列しか記載されていないので、引用例Fに多数の配列が記載されているとの請求人の主張は失当である。 (4) 請求人は、PD-L1は、引用例1及び3に記載されているようなPD-1を介する抑制シグナル経路とは別に、PD-1とは別のレセプターを介する共刺激シグナル経路に関与しT細胞を刺激することが知られているところ、当業者は、PD-1抑制シグナル経路をブロックする抗体に代えて、siRNAによりPD-L1の発現自体を抑制すると、抑制シグナル経路だけではなく共刺激シグナル経路もブロックし、T細胞の機能を阻害してしまうことを予想し、PD-1抑制シグナル経路をブロックする抗体に代えてPD-L1のsiRNAを使用することには阻害要因がある旨も主張する。 しかし、引用例1で具体的に示された実施例において使用された抗体はPD-L1に対する抗体であることから、PD-L1に対するsiRNAを使用してPD-L1の発現を抑制した場合と同様に、請求人のいう抑制シグナル経路と共刺激シグナル経路をともにブロックするものである。すなわち、PD-L1が関与するシグナル伝達に対する作用は、抗体を使用した場合も、siRNAを使用した場合も原理的には変わらないことから、請求人の主張は失当である。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、及び、引用例Fに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-12-01 |
結審通知日 | 2016-12-06 |
審決日 | 2016-12-27 |
出願番号 | 特願2011-502824(P2011-502824) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C12P)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 白井 美香保 |
特許庁審判長 |
大宅 郁治 |
特許庁審判官 |
三原 健治 高堀 栄二 |
発明の名称 | T細胞の機能増強方法 |
代理人 | 冨田 憲史 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 笹倉 真奈美 |
代理人 | 笹倉 真奈美 |
代理人 | 冨田 憲史 |
代理人 | 山崎 宏 |
代理人 | 山崎 宏 |
代理人 | 田中 光雄 |