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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60C
管理番号 1324739
審判番号 不服2015-17827  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-30 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2011-122905号「多層構造体、空気入りタイヤ用インナーライナー及び空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月20日出願公開、特開2012-250576号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成23年5月31日の出願であって、平成26年11月14日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月15日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月19日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において、平成28年8月2日付けで拒絶理由が通知され、同年10月12日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、本願の請求項1?8に係る発明は、平成28年10月12日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
バリア層とエラストマー層とを、交互に、合計11層以上積層してなる多層構造体であって、
前記エラストマー層の全ての層が、扁平な充填材を含み、該充填材のアスペクト比が3以上30未満であり、前記エラストマー層に含まれるエラストマー成分がポリウレタン系熱可塑性エラストマーを有することを特徴とする多層構造体。」

2.引用文献
(1)引用文献1?3
平成28年8月2日付けの当審の拒絶理由で引用した、本願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1?3は次のとおりである。
引用文献1:特開2009-263653号公報
引用文献2:特表2007-509778号公報
引用文献3:特開2004-276699号公報

(2)引用文献1に記載の事項及び引用発明
引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、新品時及び走行後のタイヤの内圧保持性を向上させながらタイヤの重量を減少させることができ、更に冬場等の低温時の走行においても割れることなくバリア性を発揮することが可能なタイヤ用インナーライナーに用い得るフィルムに関するものである。」

「【0009】
しかしながら、上記特許文献4に開示のインナーライナーは、耐屈曲性、及び冬場等の低温走行時における柔軟性が十分でないため割れやすく、優れたバリア性を発揮できない等、依然として改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、タイヤの重量を減少させることが可能で、冬場等の低温走行時において割れにくいタイヤ用インナーライナーに用い得るフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン-ビニルアルコール共重合体(B)を含む樹脂中に粘弾性体(C)を分散させた、樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含むことを特徴とするフィルムを用いたインナーライナーが、優れたガスバリア性及び耐屈曲性を有し冬場等の低温走行時に割れにくいこと、また、該インナーライナーを配設したタイヤが、新品時及び走行後の内圧保持性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。」

「【0067】
また、上記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10^(-12)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10^(-12)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であることが更に好ましく、5.0×10^(-13)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であることが一層好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10^(-12)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHgを超えると、フィルムをインナーライナーとして用いる際に、タイヤの内圧保持性を高めるために、樹脂組成物(D)からなる層を厚くせざるを得ず、タイヤの重量を十分に低減できなくなる。」

「【0069】
本発明のフィルムは、上記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を1層以上備えることが好ましい。ここで、上記補助層(F)に、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)の水酸基と親和性が高いエラストマーを用いると、補助層(F)が樹脂組成物(D)からなる層から剥離し難くなるため好ましい。そして、このように親和性が高いエラストマーを用いれば、樹脂組成物(D)からなる層に破断・亀裂が生じても亀裂が伸展し難いので、大きな破断及びクラックのような弊害を抑制することができ、タイヤの内圧保持性を十分に維持することができる。また、本発明のフィルムにおいて、樹脂組成物(D)よりも柔軟性又は耐クリープ性が優れる補助層(F)を1層以上積層すれば、補助層(F)がクッションの役割を担い樹脂組成物(D)への歪入力を緩和するため、本発明のインナーライナーの耐クラック性が向上する。
【0070】
本発明のフィルムにおいて、補助層(F)に用いる前記エラストマーは、ポリオレフィン、ブチル系エラストマー、ジエン系エラストマー又はウレタン系エラストマーであることが好ましい。本発明のフィルムの補助層がオレフィン系エラストマー、ブチル系エラストマー、ジエン系エラストマー又はその水素添加物、或いはウレタン系エラストマーであることにより、補助層が樹脂組成物からなる層(バリア層)よりも柔軟であるか又は耐クリープ性があるものとなってクッションの役割を担い、樹脂組成物(D)への歪入力を緩和することができ、当該フィルムの耐クラック性が向上する。
【0071】
また、本発明のフィルムにおいて、複数の前記樹脂組成物(D)と前記補助層(F)とが積層されている場合、前記樹脂組成物(D)が前記補助層(F)に挟まれていること(例えば、(F)/(D)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F)/(D)/(F))が好ましい。なお、積層は、例えばTダイ法、インフレ法などの共押し出しで行うことができる。ここで、補助層(F)は、積層することが可能であり、種々の特性を持つエラストマーからなる補助層を多層化することが特に好ましい。なお、これらエラストマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。」

「【0074】
上記補助層(F)は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10^(-9)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10^(-9)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であることが更に好ましい。ここで、酸素透過係数は、ガス透過性の代表値として用いている。20℃、65%RHにおける補助層の酸素透過量が3.0×10^(-9)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であると、フィルムをタイヤ用インナーライナーに用いた場合に、インナーライナーのガスバリア性に対する補強効果が十分に発揮され、タイヤの内圧保持性を高度に維持することが可能となる。また、上述した積層体は、ガスバリア性の観点から20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10^(-9)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10^(-9)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であることが更に好ましい。
【0075】
上記補助層(F)に用いるエラストマーとしては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン系エラストマー、熱可塑性ウレタン系エラストマーを好適に挙げることができる。ここで、ガスバリア性の観点からは、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴムが好ましく、ハロゲン化ブチルゴムが更に好ましい。また、樹脂組成物(D)からなる層に亀裂が生じた際の伸展を抑制するには、ブチルゴム及びジエン系エラストマーが好ましい。更に、補助層(F)を薄層化しつつ、亀裂の発生や伸展を抑制するには、樹脂組成物(D)からなる層よりも柔軟なエラストマー又は耐クリープ性に優れているエラストマーが好ましく、熱可塑性ウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー及びジエン系エラストマーが特に好ましい。」

「【0077】
また、本発明のフィルムにおいては、前記補助層(F)が熱可塑性ウレタン系エラストマーを含むことが好ましい。熱可塑性ウレタン系エラストマーは、ポリオールと、イソシアネート化合物と、短鎖ジオールとの反応によって得られる。ポリオール及び短鎖ジオールは、イソシアネート化合物との付加反応により、直鎖状ポリウレタンを形成する。ここで、ポリオールは、熱可塑性ウレタン系エラストマーにおいて柔軟な部分となり、イソシアネート化合物及び短鎖ジオールは硬い部分となる。なお、熱可塑性ウレタン系エラストマーは、原料の種類、配合量、重合条件等を変えることで、広範囲に性質を変えることができる。」

「【0102】
(実施例1?15及び比較例1?4のフィルム及び空気入りタイヤの作製)
合成例1及び2で得られた変性エチレン-ビニルアルコール共重合体または合成例3で得られた無水コハク酸変性SBRと表中に示す粘弾性体(C)とを二軸押出機で混練し、表1?3に示す配合処方の樹脂組成物(D)を得た。・・・
【0103】
次に、得られた樹脂組成物(D)と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルムである実施例1、2、7?11、15(熱可塑性ポリウレタン層/樹脂組成物(D)層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各フィルムに使用した各層の厚みを表1?3に示す。なお、実施例1、2、7?11、15及び比較例1以外は樹脂組成物(D)の単層フィルムとした。」

段落【0109】?【0111】の【表1】?【表3】には、「実施例1、2、7?11、15」の「フィルムの構成」が「TPU/樹脂組成物(D)/TPU」であることが記載されている。

樹脂組成物(D)は、上記イの変性エチレン-ビニルアルコール共重合体からなるとの記載、及び、上記ウの酸素透過量の記載からみて、バリア層であるといえる。
以上の事項からみて、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「バリア層である樹脂組成物(D)とエラストマーからなる補助層(F)とを、交互に、補助層(F)、樹脂組成物(D)、補助層(F)の3層を積層してなるフィルムであって、
エラストマーからなる補助層(F)がポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)を含む、フィルム。」

(3)引用文献2に記載の事項
引用文献2には図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項1】
(a)エラストマー配合物と、(b)高バリア性熱可塑性樹脂と;を含んでなるミクロレイヤー合成物。
【請求項2】
請求項1のミクロレイヤー合成物であって、前記ミクロレイヤー合成物は少なくとも25個の層を含むミクロレイヤー合成物。
・・・
【請求項67】
(a)エラストマー配合物と、(b)高バリア性熱可塑性樹脂を含むミクロレイヤー合成物を含む空気バリアを含んでなるタイヤ。
【請求項68】
請求項67のタイヤであって、前記ミクロレイヤー合成物は少なくとも25個の層を含むタイヤ。
・・・」

「【0001】
本発明は、エラストマー配合物と高バリア性熱可塑性樹脂とのブレンドから成りタイヤのインナーライナーなどの空気遮蔽(バリア)用に使用するミクロレイヤー合成物に関する。本発明は、また、ミクロレイヤー共押出しを使用してミクロレイヤー合成物を製造する方法を提供する。」

「【0108】
予言的な実施例
平行な層を持つミクロレイヤー合成物を準備する予言的な実施例
エラストマーと高バリア性熱可塑性樹脂の24個の交互層を持つ構造を発生させるフィードブロックを用いてサンプルを作るために以下の手順を実行する。主共押出しラインは、エラストマー用の直径30mm、長さ対直径比(L/D)が24:1の単一スクリュー押出機と、高バリア性熱可塑性樹脂用の直径19mm、長さ対直径比24:1の単一スクリュー押出機から成ることができる。これらの押出機は、10%の高バリア性熱可塑性樹脂と90%のエラストマーの層から成る必要なミクロレイヤー構造を作るように設計されているフィードブロックに取り付けられる。一般的な運転の場合、共押出しラインは、定常状態条件に達したことを確実にするために、指定された時間、例えば、最低30分間作動する。標準の押出速度は約3kg/時間である。共押出し構造を約200℃で押し出すことができる。
【0109】
フィードブロックと押出機の構成の概略図を図1に示す。図1は、第1押出機1と、第2押出機3と、付属のフィードブロック5及び可変深さ熱電対7とを示す。層の数を増加させることによって、2層構造の各層での欠点の影響は最小にされる。
【0110】
さらに、層数を256へ増やすことで、機械的特性とバリア特性のトータル的なバランスを大いに高めることができる。それは、256個の交互層で共押出される構造を生じさせることができるフィードブロックを設計することによって達成される。この構造を発生させるのに使用されるタイプのフィードブロックの概略図を図2と3に示す。特に、図2はフィードブロック5の正面図であり、流入11と流出9を示すものである。図3はフィードブロック5の側面図であり、第1流入13と第2流入15を流出17と共に示すものである。すべての層が極めて均一かつ平行である。
【0111】
256層構造の1つの重要な見方は、層を薄くすることによりいくつかの層欠陥が生じるが、個々の層の能力への貢献が大いに減少されるということである。4,096個を超える交互層をもつ構造は同様の方法と設備により作られる。」

(4)引用文献3に記載の事項
引用文献3には図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項1】
一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在して、これら各部を補強するラジアルカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向内側に配置したインナーライナーと、前記サイドウォール部の前記カーカスの最内側面と前記インナーライナーとの間に配置した一対の断面三日月状サイド補強ゴム層とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記インナーライナーに用いるゴム組成物の60℃での空気透過係数が6.0×10^(-10)cm^(3)・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下であり、前記サイド補強ゴム層と前記インナーライナーとの剥離抗力が3.5N/mm以上であることを特徴とする空気入りタイヤ。
・・・
【請求項4】
前記インナーライナー用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対してアスペクト比が5?30の無機充填剤を15質量部以上配合してなることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
・・・」

「【0018】
上記インナーライナー用ゴム組成物は、上記ゴム成分100質量部に対してアスペクト比が5?30の無機充填剤を15質量部以上配合してなるのが好ましい。ゴム成分にアスペクト比が5?30で偏平な無機充填剤を配合してなるゴム組成物は、該偏平無機充填剤が空気の透過を阻害するため、空気不透過性が高い。無機充填剤のアスペクト比が5未満では、上記インナーライナーの空気不透過性を向上させる効果が小さく、30を超えると、ゴム組成物の加工性が悪化する。上記偏平無機充填剤のアスペクト比は、インナーライナーの空気不透過性を向上させ、且つゴム組成物の加工性を良好に維持する観点から、5?20であるのが更に好ましい。ここで、上記アスペクト比は、上記偏平無機充填剤の厚みに対する長径の比をさす。また、上記偏平無機充填剤の配合量が、ゴム成分100質量部に対して15質量部未満では、上記インナーライナーの空気不透過性を向上させる効果が小さい。上記インナーライナーの空気不透過性を確実に向上させる観点から、上記偏平無機充填剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して20質量部以上であるのが更に好ましい。」

3.対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
後者の「バリア層である樹脂組成物(D)」は、前者の「バリア層」に相当する。
後者の「エラストマーからなる補助層(F)」と「エラストマーからなる補助層(F)がポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)を含む」ことは、前者の「エラストマー層」と「エラストマー層に含まれるエラストマー成分がポリウレタン系熱可塑性エラストマーを有する」ことに相当する。
後者の樹脂組成物(D)と補助層(F)とを「交互に、補助層(F)、樹脂組成物(D)、補助層(F)の3層を積層してなるフィルム」は、前者のバリア層とエラストマー層とを「交互に、合計11層以上積層してなる多層構造体」と、バリア層とエラストマー層とを「交互に、積層してなる多層構造体」である限りにおいて一致する。
そうすると、両者は、
「バリア層とエラストマー層とを、交互に、積層してなる多層構造体であって、
前記エラストマー層に含まれるエラストマー成分がポリウレタン系熱可塑性エラストマーを有する多層構造体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〔相違点1〕
本願発明は、バリア層とエラストマー層とを積層する層数が「合計11層以上」であるのに対して、引用発明は、補助層(F)、樹脂組成物(D)、補助層(F)の3層である点。
〔相違点2〕
本願発明は、「エラストマー層の全ての層が、扁平な充填材を含み、該充填材のアスペクト比が3以上30未満であり」との事項を有しているのに対して、引用発明は、補助層(F)がそのような事項を有していない点。

(2)判断
上記各相違点について以下検討する。
〔相違点1について〕
引用文献1の段落【0071】(上記2.(2)エを参照)には、
「本発明のフィルムにおいて、複数の前記樹脂組成物(D)と前記補助層(F)とが積層されている場合、前記樹脂組成物(D)が前記補助層(F)に挟まれていること(例えば、(F)/(D)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F)、(F)/(D)/(F)/(D)/(F)/(D)/(F))が好ましい。」
と記載されており、樹脂組成物(D)、補助層(F)を「(F)/(D)/(F)」、「(F)/(D)/(F)/(D)/(F)」、「(F)/(D)/(F)/(D)/(F)/(D)/(F)」とすること、すなわち、順に3層、5層、7層とすることが記載されており、引用発明の層の数を3層から増やせることが示唆されているといえる。
引用文献2には、タイヤのインナーライナーなどに用いる空気遮蔽(バリヤ)用に使用するミクロレイヤー合成物に関し(上記2.(3)コを参照)、エラストマーと高バリア性熱可塑性樹脂とを少なくとも25層とすることが記載されており(上記2.(3)ケ、サを参照)、また、多層構造の空気バリア層において、層の数を増やすことで2層構造の各層での欠点の影響を最小にすることも記載されている(同サの段落【0109】を参照)。
そうすると、引用発明の樹脂組成物(D)と補助層(F)とからなるガスバリア性のフィルムに、その性能向上のために引用文献2に記載の事項を適用し、層の数をさらに増やし相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るといえる。
〔相違点2について〕
引用文献3には、インナーライナー用ゴム組成物に、アスペクト比が5?30の偏平な無機充填剤を配合し、インナーライナーの空気不透過性を向上させることが記載されている(上記2.(4)スを参照)。また、インナーライナーにアスペクト比の高い無機充填材を含ませることでガスバリア性を向上させることは周知ともいえる(例えば、特開平5-24406号公報の段落【0046】、特開平10-86604号公報の段落【0012】、特開2002-88191号公報の段落【0013】?【0014】等を参照)。
引用文献1の段落【0074】(上記2.(2)オを参照)には、
「上記補助層(F)は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが更に好ましい。ここで、酸素透過係数は、ガス透過性の代表値として用いている。20℃、65%RHにおける補助層の酸素透過量が3.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であると、フィルムをタイヤ用インナーライナーに用いた場合に、インナーライナーのガスバリア性に対する補強効果が十分に発揮され、タイヤの内圧保持性を高度に維持することが可能となる。」
と記載されており、引用発明の補助層(F)の酸素透過量、すなわちガス透過性がより低い方が好ましい旨記載されており、引用発明のエラストマーからなる補助層(F)の酸素透過量を低減させるための手段として、引用文献3に記載の事項を適用する動機付けは十分にあるといえる。
そして、引用発明に引用文献2に記載の事項を適用し層の数を増やしたものにおいても同様に補助層(F)の酸素透過量の低減が求められることは明らかであるので、そうすると、引用発明に引用文献2に記載の事項を適用したフィルムにおいて、その補助層(F)に引用文献3に記載の事項を適用し、アスペクト比が5?30の偏平な無機充填剤を含ませることは、当業者が容易に想到し得るといえ、その際、全ての補助層(F)に無機充填材を含むようにすることは、フィルム全体のガスバリア性能に応じて当業者が適宜になし得ることといえる。
したがって、引用発明を、相違点2に係る本願発明の構成のようにすることは、引用文献3に記載の事項から当業者が容易に想到し得るといえる。

そして、本願発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明、引用文献2に記載の事項及び引用文献3に記載の事項から予測できる程度のものであって格別のものとは認められない。
よって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載の事項及び引用文献3に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用発明、引用文献2に記載の事項及び引用文献3に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-06 
結審通知日 2016-12-13 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2011-122905(P2011-122905)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 出口 昌哉
平田 信勝
発明の名称 多層構造体、空気入りタイヤ用インナーライナー及び空気入りタイヤ  
代理人 鈴木 治  
代理人 吉田 憲悟  
代理人 鈴木 治  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 憲司  
代理人 吉田 憲悟  

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