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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1324764
審判番号 不服2016-3011  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-29 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2012- 96162「圧電素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月31日出願公開、特開2013-225546〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月20日の出願であって、平成26年9月18日付けで審査請求がなされ、平成27年7月14日付けで拒絶理由が通知され、同年9月24日付けで意見書が提出されるとともに、同日付で手続補正がなされたが、同年11月24日付けで拒絶査定がなされたものである。
これに対して、平成28年2月29日付けで審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成28年2月29日付けの手続補正についての却下の決定

[補正却下の結論]
平成28年2月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
平成28年2月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項6に係る記載は次のとおりである。(なお、下線は、補正の箇所を示すものとして審判請求人が付加したものである。)

「基板上に少なくとも電極を有し、前記電極の表面に該電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜を有する圧電素子であって、
前記電極の表面は、白金からなり、
前記基板の表面は、粗面化された表面を有し、かつ、
前記電極の表面は、粗面化された表面を有すること
を特徴とする圧電素子。」

(2)補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲の請求項6に係る記載は次のとおりである。

「基板上に少なくとも電極が形成され、前記電極上に該電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜が形成された圧電素子であって、
前記基板の表面が粗面化されていることにより、前記電極の表面が粗面化されていることを特徴とする圧電素子。」

2 補正の適否について
(1)補正の目的について
補正後の請求項6に係る発明は、補正前の請求項6に係る発明に対応し、補正後の請求項6に係る発明は、補正前の請求項6に係る発明に次の補正がなされたものである。

(a)補正前の請求項6の「前記電極上に該電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜」を「前記電極の表面に該電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜」とし、同「電極の表面」について「前記電極の表面は、白金からなり」とする補正。
(b)補正前の請求項6の「基板上に少なくとも電極が形成され、」を「基板上に少なくとも電極を有し、」とし、同「圧電薄膜が形成された圧電素子」を「圧電薄膜を有する圧電素子」とし、同「前記基板の表面が粗面化されていることにより、前記電極の表面が粗面化されていること」を「前記基板の表面は、粗面化された表面を有し、かつ、前記電極の表面は、粗面化された表面を有すること」とする補正。

補正事項(a)について検討すると、補正事項(a)により加えられた部分は、当初明細書等に記載されているものと認められるから、補正事項(a)は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。したがって、補正事項(a)は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
また、補正事項(a)は、補正前の「前記電極上に該電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜」について、異なる配向方向を有する圧薄電膜が、補正前は「電極上」とあるのを「電極の表面」に限定するものであり、また、補正前の「電極の表面」について、「電極の表面は、白金からなり」と限定するものであるから、特許法第17条の2第5項に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そうすると、補正事項(a)は、特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり、また、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、補正後の請求項6に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)進歩性について
補正後の請求項6に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記[理由]1の「(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載」の請求項6に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(a)各引用例について
(a-1)引用例1について
(ア)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2005-295786号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。(なお、下線は、当審において付与した。以下、同じ。)

「【0002】
電圧を印加することにより変位する圧電素子を具備するアクチュエータ装置は、例えば、液滴を噴射する液体噴射ヘッド等に搭載される。このような液体噴射ヘッドとしては、例えば、ノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドが知られている。そして、インクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータ装置を搭載したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータ装置を搭載したものの2種類が実用化されている。そして、たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電体膜を形成し、この圧電体層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けることによって各圧力発生室毎
に独立するように圧電素子を形成したものがある。」
「【0025】
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3?図6を参照して説明する。なお、図3?図6は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成する。なお、本実施形態では、流路形成基板10として、膜厚が約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハを用いている。
【0026】
次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、DCスパッタ法又はRFスパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成する。このとき、ジルコニウム層の表面粗さ(算術平均粗さRa)が1?3nmとなるように制御し、好ましくは1.5nm以上、さらに好ましくは2.0nmより大きくなるように制御する。
【0027】
さらに、ジルコニウム層は、その表面の(002)面配向度が80%以上となっていることが好ましい。なお、ここで言う「配向度」とは、X線回折広角法によってジルコニウム層を測定した際に生じる回折強度の比率をいう。具体的には、ジルコニウム層をX線回折広角法により測定すると、(100)面、(002)面及び(101)面に相当する回折強度のピークが発生する。そして、「(002)面配向度」とは、これら各面に相当するピーク強度の和に対する(002)面に相当するピーク強度の比率を意味する。
【0028】
そして、このようにジルコニウム層の表面粗さRaを1?3nmの範囲内とするためには、ジルコニウム層を形成する際のスパッタ出力を500W以下とすることが好ましい。また、スパッタ温度は常温(約23?25℃)とすることが好ましい。さらに、スパッタ圧力は0.5Pa以上とするのが好ましい。また、ターゲット間隔(ターゲットと基板との間の距離)を100mm以下とするのが好ましい。このように成膜条件を適宜選択してジルコニウム層を形成することにより、ジルコニウム層の表面粗さRaを1?3nmの範囲内に制御することができ、また同時に(002)面配向度を80%以上とすることができる。
【0029】
このようにジルコニウム層を形成した後は、このジルコニウム層を熱酸化して酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。このときの加熱温度は、900℃以下、好ましくは700?900℃の範囲内とするのがよい。このように熱酸化時の加熱温度を調整することで、絶縁体膜55の表面粗さRaが1?3nmの範囲内となるように形成する。例えば、本実施形態では、約700?900℃に加熱された酸素雰囲気下の拡散炉内に、300mm/min以上、好ましくは500mm/min以上のスピードで流路形成基板用ウェハ110を挿入してジルコニウム層を約15?60分間熱酸化させるようにした。
【0030】
これにより、結晶状態が良好な絶縁体膜55が得られ、その絶縁体膜55の表面粗さRaが1?3nmの範囲内となる。すなわち、絶縁体膜55を構成する酸化ジルコニウムの結晶が略均一に成長して下面から上面まで連続的な柱状結晶となることで、表面粗さRaが1?3nmの範囲内と比較的粗くなる。
【0031】
次いで、図3(c)に示すように、例えば、少なくとも白金とイリジウムとからなる下電極膜60を絶縁体膜55の全面にスパッタ法等により形成後、下電極膜60を所定形状にパターニングする。なお、この下電極膜60の表面粗さRaは、絶縁体膜55の表面粗さRaに依存するため、絶縁体膜55の表面粗さRaが1?3nmの範囲内であると、下電極膜60の表面粗さRaも1?3nmの範囲内となる。
【0032】
次に、図3(d)に示すように、下電極膜60及び絶縁体膜55上に、チタン(Ti)をスパッタ法、例えば、DCスパッタ法で2回以上、本実施形態では2回塗布することにより所定の厚さで連続する種チタン層65を形成する。この種チタン層65の膜厚は、1nm?8nmの範囲内となるように形成するのが好ましい。種チタン層65をこのような厚さで形成することにより、後述する工程で形成される圧電体層70の結晶性を向上させることができるからである。
【0033】
ここで、種チタン層65を形成する際のスパッタ条件は特に限定されないが、スパッタ圧力は、0.4?4.0Paの範囲内であるのが好ましい。また、スパッタ出力は50?100Wとするのが好ましく、スパッタ温度は常温(約23?25℃)?200℃の範囲内とするのが好ましい。さらに、パワー密度は1?4kW/m2程度とすることが好ましい。また、上述したように、ここではチタンを2回塗布することで、次工程で形成する圧電体層70の結晶の核となる種チタンを多数形成することができる。
【0034】
次に、このように形成した種チタン層65上に、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル-ゲル法を用いてPZTからなる圧電体層70を形成した。
【0035】
圧電体層70の形成手順としては、まず、図4(a)に示すように、種チタン層65上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、流路形成基板用ウェハ110上に金属有機化合物を含むゾル(溶液)を塗布する。次いで、圧電体前駆体膜71を、所定温度に加熱して一定時間乾燥させ、ゾルの溶媒を蒸発させることで圧電体前駆体膜71を乾燥させる。さらに、大気雰囲気下において一定の温度で一定時間、圧電体前駆体膜71を脱脂する。なお、ここでいう脱脂とは、圧電体前駆体膜71に含まれる有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。
【0036】
そして、このような塗布・乾燥・脱脂の工程を、所定回数、例えば、本実施形態では、2回繰り返すことで、図4(b)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定厚に形成し、この圧電体前駆体膜71を拡散炉で加熱処理することによって結晶化させて圧電体膜72を形成する。すなわち、圧電体前駆体膜71を焼成することで種チタン層65を核として結晶が成長して圧電体膜72が形成される。例えば、本実施形態では、約700℃で30分間加熱を行って圧電体前駆体膜71を焼成して圧電体膜72を形成した。なお、このように形成した圧電体膜72の結晶は(100)面に優先配向する。
【0037】
さらに、上述した塗布・乾燥・脱脂・焼成の工程を、複数回繰り返すことにより、図4(c)に示すように、複数層、本実施形態では、5層の圧電体膜72からなる所定厚さの圧電体層70を形成する。例えば、ゾルの塗布1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、圧電体層70全体の膜厚は約1μmとなる。
【0038】
以上のような工程で圧電体層70を形成することにより、圧電体層70の特性を向上させることができ且つ特性を安定させることができる。すなわち、圧電体層70の結晶性、例えば、配向度、強度、粒径等は、その下地の影響を受けやすく、その下地となる下電極膜60及び絶縁体膜55の表面粗さRaが比較的粗い程、結晶性は向上する傾向にあるが、あまり粗すぎると、結晶性が悪くなってしまう。本発明では、圧電体層70の下地となる振動板を構成する最表層である絶縁体膜55の表面粗さRaを1?3nmの範囲内に制御することで、下電極膜60の表面粗さRaを1?3nmの範囲内に制御すると共にこの下電極膜60上に形成される圧電体層70の結晶性を向上させている。これにより、電気的及び機械的特性に優れた圧電体層70を形成することができる。また、同一ウェハ内での圧電体層70の特性のばらつきも極めて小さく抑えることができる。」

(イ)引用例1発明
上記(ア)の記載により引用例1には以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「シリコンウェハの表面に二酸化シリコン膜を形成し、その上に酸化ジルコニウムからなる絶縁膜を形成する振動板上に、白金とイリジウムからなる下電極膜を形成し、下電極膜の表面に(100)面に優先配向する圧電体層を有する圧電素子であって、
下電極膜の表面は、種チタン層からなり、種チタン層の上にPZTからなる圧電層を形成し、
振動板の表面は最表層である絶縁体膜の表面粗さRaを1?3nmとすることで、下電極膜の表面粗さRaを1?3nmとすると共に、圧電体層の配向度、粒径等の結晶性を向上させること
を特徴とする圧電素子。」

(a-2)引用例2について
(ア)引用例2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2004-186646号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。

「【0006】
ところが、上記方法では、下地基板としてMgO単結晶基板を用いるため、圧電素子が高価になってしまい、この圧電素子を用いたインクジェットヘッドも高価になってしまうという問題がある。また、基板材料もMgO単結晶の一種類に制限されてしまうという欠点がある。
【0007】
そこで、シリコン等の安価な基板の上にPZT等のペロブスカイト型圧電材料の(001)面又は(100)面結晶配向膜を形成する方法として、種々の工夫がなされている。例えば、特許文献2には、(111)面に配向したPt電極上に、PZT又はランタンを含有したPZTの前駆体溶液を塗布し、この前駆体溶液を結晶化させる前に、先ず450?550℃で熱分解させ、その後550?800℃で加熱処理して結晶化させること(ゾル・ゲル法)により、PZT膜の(100)面優先配向膜が生成可能であることが示されている。」

(イ)引用例2記載事項
上記(ア)より、引用例2には、次の事項(以下、「引用例2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「圧電素子において、(111)面に配向したPt電極上に、PZT膜の(100)面優先配向膜を生成すること。」

(a-3)引用例3について
(ア)引用例3の記載
本願出願前に日本国内で頒布された刊行物である特許第3021930号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、以下のことが記載されている。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)またはランタン含有チタン酸ジルコン酸鉛(PLZT)からなる強誘電体薄膜の結晶配向性制御方法に関する。PZT薄膜やPLZT薄膜は、例えば 赤外線センサー、圧電フィルター、振動子、レーザの変調素子、光シャッター、キャパシター膜、不揮発性のメモリー等に用いられており、鮮明な微細パターンを形成することができる優れた物性を具えている。本発明は、このPZT強誘電体薄膜の結晶配向性を制御する方法に関する。」
「【0003】
【課題の解決手段:発明の構成】本発明によれば、ゾル-ゲル法によってPZT薄膜やPLZT薄膜を形成する際に、原料溶液(前駆体溶液)を基板に塗布した後に施す熱処理の温度によりこれら薄膜の結晶配向性が異なることが見出された。本発明は上記知見に基づくものであり、原料溶液を基板に塗布した後の熱処理温度を調整することにより信頼性よくPZT薄膜およびPLZT薄膜の結晶配向性を制御する方法を提供する。具体的には、結晶面が(111)軸方向に配向した白金基板上にチタン酸ジルコン酸鉛またはランタン含有チタン酸ジルコン酸鉛の前駆体溶液を塗布し、加熱して強誘電体薄膜を形成する方法において、該前駆体溶液を基板上に塗布した後、まず所望の結晶配向をもたらす150?550℃の温度範囲で熱処理を行い、その後550?800℃で焼成して結晶化させることにより、薄膜の結晶面を熱処理温度に従った特定軸方向に優先的に配向させることを特徴とする強誘電体薄膜の結晶配向性制御方法が提供される。更に本発明によれば、基板上に塗布した前駆体溶液を結晶化前に150?250℃で熱分解させ、その後加熱して結晶化させることにより薄膜の結晶の(111)面を優先的に配向させる強誘電体薄膜の結晶配向性制御方法が提供される。また本発明によれば、基板上に塗布した前駆体溶液を結晶化前に250?350℃で熱分解させ、その後加熱して結晶化させることにより薄膜の結晶の(111)面と(100)面を優先的に配向させるの強誘電体薄膜の結晶配向性制御方法が提供される。また本発明によれば、基板上に塗布した前駆体溶液を結晶化前に450?550℃で熱分解させ、その後加熱して結晶化させることにより薄膜の結晶の(100)面と(200)面を優先的に配向させる強誘電体薄膜の結晶配向性制御方法が提供される。
【0004】本発明の方法に使用される出発物質は、Pb,Zr,Ti,Laの有機酸塩、アルコキシド、β-ジケトン錯体等で、これらは当該技術分野においてよく知られており、均等的に使用できる。本発明において、PZT薄膜およびPLZT薄膜を製造する基板としては結晶面が(111)軸方向に配向した白金板が好適に用いられる。PZT薄膜およびPLZT薄膜の基板は、下部電極として利用するため導電性であることが必要であり、かつPZT薄膜およびPLZT薄膜と反応しないことが必要である。その点で白金は非常に好ましい下地材料である。白金は板状のものに限らず、他の基板上に成膜した白金薄膜でも同じように用いることができる。因みにシリコンウエハーを熱酸化させた基板上に白金を成膜すると(111)軸配向膜となる。」

(イ)引用例3記載事項
上記(ア)より、引用例3には、次の事項(以下、「引用例3記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)薄膜を用いた振動子において、
基板上に成膜した下部電極として利用する、結晶面が(111)面に配向した白金薄膜上に、
(100)面と(200)面を優先的に配向させたPZT膜を結晶化させること。」

(b)対比・判断
(ア)本件補正発明と引用例1発明を対比する。
a.引用例1発明の「下電極」「圧電体層」「圧電素子」は、本件補正発明の「電極」「圧電薄膜」「圧電素子」に相当する。
b.引用例1発明は「下電極膜の表面に(100)面に優先配向する圧電体層を有」しているから、本件補正発明の「前記電極の表面に該電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜を有する」ことと、「前記電極上に圧電薄膜を有する」点で共通する。
c.引用例1発明の「振動板」は、「振動板」上に「下電極膜」を形成し、また、「振動板」の表面は最表層である絶縁体膜の表面粗さRaを1?3nmとすることで粗面化されていると言えるから、それぞれ、本件補正発明の「基板」の、「基板上に少なくとも電極を有し」、また、「前記基板の表面は、粗面化された表面を有し」ていることに対応するから、引用例1発明の「振動板」は、本件補正発明の「基板」に相当する。
d.引用例1発明の「下電極」は、表面粗さRaを1?3nmとしているから、本件補正発明の「前記電極の表面は、粗面化された表面を有する」と同様の構成を有していると認められる。
e.そうすると、本件補正発明と引用例1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。
[一致点]
基板上に少なくとも電極を有し、前記電極上に圧電薄膜を有する圧電素子であって、
前記基板の表面は、粗面化された表面を有し、かつ、
前記電極の表面は、粗面化された表面を有すること
を特徴とする圧電素子。」
[相違点1]
本件補正発明は、電極の表面に圧電薄膜を有しているのに対して、引用例1発明はそうなっていない点。
[相違点2]
本件補正発明は、電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜を有しているのに対して、引用例1発明は電極と圧電薄膜の配向方向が異なるのか同じであるのか不明である点。
[相違点3]
本件補正発明は、前記電極の表面は、白金からなっているのに対して、引用例1発明は、そうなっていない点。
(イ)判断
a.[相違点1]および[相違点3]について
引用例2および3に記載されているように、圧電素子において、電極の表面に圧電薄膜を形成するとともに、その表面を白金とすることは、周知の技術である。
引用例1発明において、該周知技術を採用し、電極の表面に圧電素子を有することとし、また、その際に、電極の表面を白金で構成するようにすることは、当業者が適宜為し得たものである。
b.[相違点2]について
圧電素子において、電極とその上の圧電薄膜との配向方向を異なる配向方向とすることは、引用例2および3に記載されているように、適宜行われている周知技術である。
そして、引用例1発明において、圧電薄膜を電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜とすることは、当業者が適宜為し得たものである。
c.本件補正発明の作用効果について
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0060】
〔5.粗面化の効果について〕
以上のように、電極としてのPt層3bよりも下層にある基板1の表面を粗面化することによってPt層3bの表面を粗面化するので、従来のように下層からPt層3b上に圧電薄膜4の構成元素と同じ元素の金属(例えばTi)を析出させることなく、Pt層3bの表面を粗面化することができる。これにより、上記金属の圧電薄膜4の間での相互拡散によって圧電薄膜4におけるPTOとPZOとの比率が変化して圧電特性が低下を回避することができる。
【0061】
また、Pt層3bよりも下層の表面の粗面化は、上述したように、公知の手法(例えばCMP)によって容易に行うことができるので、Pt層上にヒロックを形成する従来の手法に比べて、Pt層3bの表面粗さ(表面形状)を容易に制御することができ、これによって圧電薄膜4の(100)配向性およびペロブスカイト結晶性を高めることができる。
【0062】
したがって、(111)方向に配向するPt層3b上に、電極とは異なる(100)方向の配向方向を有する圧電薄膜4を形成する場合でも、圧電薄膜4の(100)配向性およびペロブスカイト結晶性を両方とも容易に満足させて、圧電特性を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態では、Pt層3bの表面粗さRMSが1nm以上10nm以下となるように、Pt層3bよりも下層の表面を粗面化している。Pt層3bの表面粗さRMSが下限の1nmを下回ると、Pt層3bの表面が平坦に近くなるため、図3で示したように、圧電薄膜4の(100)配向性が低下する。つまり、圧電薄膜4が下層のPt層3bに倣って(111)配向で成膜されやすくなり、圧電薄膜4を(100)配向で成膜することが困難となる。逆に、Pt層3bの表面粗さRMSが上限の10nmを上回ると、図3で示したように、圧電薄膜4のペロブスカイト結晶性が崩れて、良好な特性の圧電薄膜4を成膜することが困難となる。したがって、Pt層3bの表面粗さRMSが上記範囲内であることにより、圧電薄膜4の(100)配向性およびペロブスカイト結晶性を両立させて、良好な圧電特性を得ることができる。
【0064】
また、本実施形態では、Pt層3bの下地となる基板1の表面を粗面化することで、Pt層3bの表面を粗面化しているので、基板1の粗面化された表面に倣う形でPt層3bの表面を容易に粗面化することができる。特に、基板1の表面を、表面粗さRMSが1nm以上10nm以下となるように粗面化することにより、基板1上に形成されるPt層3bの表面粗さRMSを、1nm以上10nm以下に容易に制御することができる。
【0065】
なお、以上では、Pt層3bの下地の基板1として、Si基板を用いた例について説明したが、Si基板以外の基板を用いた場合でも、その基板上に電極を形成し、その電極とは異なる配向方向の圧電薄膜を成膜する際には、基板表面を所望の表面粗さとなるように研磨することにより、電極表面を粗面化して上述した効果を得ることができる。なお、Si以外の基板としては、例えばMgO(酸化マグネシウム)、STO(SrTiO_(3);チタン酸ストロンチウム)、ガラス、金属基板を用いることができる。」
してみれば、本願明細書の上記の記載から、本件補正発明の「基板」は、Si基板に限定されるものではなく、また、本件補正発明は、電極であるPt層よりも下にある基板の表面を粗面化することによってPt層の表面を粗面化(表面粗さRMSを、1nm以上10nm以下)し、それにより、圧電薄膜を(100)配向で成膜し、良好な圧電特性を得るものであると認められる。
他方、引用例1発明は、振動板の表面は最表層である絶縁体膜の表面粗さRaを1?3nmとすることで下電極膜の表面粗さRaを1?3nmとし、下電極膜の表面粗さRaを1?3nmとすることで、圧電層の配向度、粒径等の結晶性を向上させることにより圧電素子の特性を向上させているから、電極よりも下にある基板の表面を粗面化することによってPt層の表面を粗面化し、それにより、圧電薄膜を(100)を優先的に配向するよう成膜し、良好な圧電特性を得るものである点では、本件補正発明も、引用例1発明も作用効果が共通する。
したがって、本件補正発明が奏する作用効果は格別のものとは認められない。
d.小括
よって、本件補正発明は、引用例1乃至3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(c)進歩性についての結論
したがって、本件補正発明は、引用例1乃至3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
「2 補正の適否について」で検討したとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 補正却下の決定を踏まえた検討

(1)本願発明
平成28年2月29日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年9月24日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「基板上に少なくとも電極が形成され、前記電極上に該電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜が形成された圧電素子であって、
前記基板の表面が粗面化されていることにより、前記電極の表面が粗面化されていることを特徴とする圧電素子。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1および2には、上記「第2 [理由]2(2)(a)各引用例について」に記載したとおりの事項が記載されている。

(3)対比・判断
(ア)本願発明と引用例1発明を対比する。
a.引用例1発明の「下電極」「圧電体層」「圧電素子」は、本願発明の「電極」「圧電薄膜」「圧電素子」に相当する。
b.引用例1発明は「下電極膜の表面に(100)面に優先配向する圧電体層を有」しているから、本願発明の「前記電極上に該電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜を有する」ことと、「前記電極上に圧電薄膜を有する」点で共通する。
c.引用例1発明の「振動板」は、「振動板」上に「下電極膜」を形成し、また、「振動板」の表面は最表層である絶縁体膜の表面粗さRaを1?3nmとすることで、下電極膜の表面粗さRaを1?3nmとしているから、これらは、本願発明の「基板」の、「基板上に少なくとも電極を有し」、また、「前記基板の表面が粗面化されていることにより、前記電極の表面が粗面化されていること」に相当するから、引用例1発明の「振動板」は、本願発明の「基板」に相当する。
d.そうすると、本願発明と引用例1発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。
[一致点]
「基板上に少なくとも電極が形成され、前記電極上に圧電薄膜が形成された圧電素子であって、
前記基板の表面が粗面化されていることにより、前記電極の表面が粗面化されていることを特徴とする圧電素子」
[相違点1]
本願発明は、電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜を有しているのに対して、引用例1発明は配向方向が異なるのか同じであるのか不明である点。

(イ)判断
a.[相違点1]について
圧電素子において、電極とその上の圧電薄膜との配向方向を異なる配向方向とすることは、引用例2に記載されているように適宜行われている周知技術である。
そして、引用例1発明において、圧電薄膜を電極とは異なる配向方向を有する圧電薄膜とすることは、当業者が適宜為し得たものである。
b.本願発明の作用効果について
上記「第2 2 (2)(イ)c.本件補正発明の作用効果について」で検討したとおり、本願発明の奏する作用効果は格別のものとは認められない。
(ウ)小括
よって、本願発明は、引用例1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1および2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は他の請求項について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-02 
結審通知日 2016-12-06 
審決日 2016-12-19 
出願番号 特願2012-96162(P2012-96162)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 境 周一  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 飯田 清司
小田 浩
発明の名称 圧電素子およびその製造方法  
代理人 特許業務法人 佐野特許事務所  

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