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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41C
管理番号 1324765
審判番号 不服2016-3290  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-03 
確定日 2017-02-09 
事件の表示 特願2014-543391「グラビアシリンダーの全自動製造システム及びそれを用いたグラビアシリンダーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月18日国際公開、WO2014/199774〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件出願は、平成26年5月16日(優先権主張 平成25年6月11日(以下、「優先日」という。))、日本)の国際出願であって、平成27年7月8日に手続補正書が提出され、同年12月16日付けで拒絶の査定がなされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年同月18日)、これに対し、平成28年3月3日に拒絶査定に対する審判請求及びこれと同時にする手続補正がなされ、さらに、当審において、同年9月20日付けで拒絶理由を通知したところ、同年11月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願の発明

本願の請求項1に係る発明は、上記の平成28年11月14日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
グラビアシリンダーの全自動製造システムであり、
被製版ロールをチャックしてハンドリングする非走行型の第一の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Aと、被製版ロールをチャックしてハンドリングする非走行型の第二の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Bと、を有し、前記処理室A及び前記処理室Bを連通せしめ、
前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリア又は前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに二台以上の真空成膜装置を配置し、
前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリアに、ロールストック装置、感光膜塗布装置、電子彫刻装置、レーザ露光潜像形成装置、脱脂装置、砥石研磨装置、超音波洗浄装置、銅メッキ装置、現像装置、腐食装置、レジスト画像除去装置、ペーパー研磨装置から選ばれる処理装置の少なくとも一つを配置し、前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに、前記処理装置のうち前記処理室Aに配置しなかった処理装置の少なくとも一つを配置し、
かつ前記処理室A及び前記処理室Bの前記処理装置は、設置及び撤去が可能とされてなり、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットのみを用いて、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡すことにより、
版母材と、該版母材の表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、
前記グラビアセルが形成された銅メッキ層の表面に設けられ、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、銀、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウム、コバルト、インジウム、スズ、ケイ素、タンタルからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成される下地成膜層と、前記下地成膜層の表面を被覆するDLC被膜とを有するグラビアシリンダーを製造してなり、
前記二台以上の真空成膜装置にて下地成膜層の形成処理及びDLC被膜の形成処理が行われ、下地成膜層の形成処理及びDLC被膜の形成処理が各々の前記二台以上の真空成膜装置で同時に行うことが可能とされてなることを特徴とするグラビアシリンダーの全自動製造システム。」

3.当審で指摘した拒絶理由の概要

当審において平成28年9月20日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)の理由2の概要は次のとおりである。

「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1?2
・引用文献等 1?3
・備考
引用文献1の[請求項1]には、「被製版ロールをチャックしてハンドリングする第一の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Aと、被製版ロールをチャックしてハンドリングする第二の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Bと、を有し、前記処理室A及び前記処理室Bを連通せしめ、前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリアに、ロールストック装置、感光膜塗布装置、電子彫刻装置、レーザ露光潜像形成装置、脱脂装置、砥石研磨装置、超音波洗浄装置、銅メッキ装置、表面硬化皮膜形成装置、現像装置、腐食装置、レジスト画像除去装置、ペーパー研磨装置から選ばれる処理装置の少なくとも一つを配置し、前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに、前記処理装置のうち前記処理室Aに配置しなかった処理装置の少なくとも一つを配置し、かつ前記処理室A及び前記処理室Bの前記処理装置は、設置及び撤去が可能とされてなり、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡すことにより、製版処理が行われるようにしたことを特徴とする全自動グラビア製版用処理システム。」が記載されている。
引用文献1の段落[0018]、[0022]の記載及び図1から見て、「第一の産業ロボット」及び「第二の産業ロボット」は非走行型であり、段落[0010]の記載から見て、引用文献1の「全自動グラビア製版用処理システム」は、第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットのみを用いて、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡すものである。
引用文献1の段落[0029][0031]?[0032]には、「製版ロール64」が、「被製版ロール20(版母材)」と「銅メッキ層」を有することが記載されている。また、段落[0037]?[0038]には「被製版ロール20」に「腐食(エッチング)作業」を行うことが記載されているから、「銅メッキ層」に多数のグラビアセルが形成されることは明らかである。
引用文献1の段落[0013]には、「表面硬化皮膜形成装置」として「DLC膜形成装置」を適用し「DLC(ダイヤモンドライクカーボン)被膜」を形成する点が記載されている。

引用文献2の段落[0038]には「DLC被膜形成システム」での被膜形成を「CVD法」のうち「超高真空のUHVCVD法」で行うことが記載されているから、引用文献2の「DLC被膜形成システム」は真空で被膜形成を行う装置であるといえ、本願の「真空成膜装置」に相当する。
また、引用文献2の段落[0044]には「また、CVD法によってDLC被膜を形成するにあたっては、銅メッキ層の上に密着層を設けてからDLC被膜を形成するのが好ましい。前記密着層は、アルミニウム(Al)、リン(P)、チタン(Ti)及び珪素(Si)からなる群から選ばれる一種又は二種以上から形成されるのが好ましい。密着層の形成方法は特に限定されないが、DLC被膜の形成方法と同種の方法を用いることにより、同一の装置が使用可能となり、好適である。」と記載されている。そうすると、引用文献2記載の「DLC被膜形成システム」は「アルミニウム(Al)、リン(P)、チタン(Ti)及び珪素(Si)からなる群から選ばれる一種又は二種以上から形成される」「密着層」(本願の「下地成膜層」に相当)の形成及び「DLC被膜」(本願の「DLC被膜」に相当)の形成を行うものである。

製造装置において各工程の装置を二台以上設けることは、製造効率等を考慮して当業者が適宜なし得る設計事項であって、製版装置において各工程の装置を二台設けることも、例えば引用文献3(段落【0021】及び図14(特に「二基のクロムメッキ装置11」が設けられた点)参照)に示されるように、本出願前に周知の技術である。

そうすると、本願の請求項1?2に係る各発明は、引用文献1及び2に記載された発明、並びに、上記周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

引 用 文 献 等 一 覧

1.国際公開第2011/125926号
2.国際公開第2007/135898号
3.特開2004-223751号公報」

4.引用例

(1)当審拒絶理由に引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2011/125926号(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア.「[請求項1] 被製版ロールをチャックしてハンドリングする第一の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Aと、被製版ロールをチャックしてハンドリングする第二の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Bと、を有し、前記処理室A及び前記処理室Bを連通せしめ、前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリアに、ロールストック装置、感光膜塗布装置、電子彫刻装置、レーザ露光潜像形成装置、脱脂装置、砥石研磨装置、超音波洗浄装置、銅メッキ装置、表面硬化皮膜形成装置、現像装置、腐食装置、レジスト画像除去装置、ペーパー研磨装置から選ばれる処理装置の少なくとも一つを配置し、前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに、前記処理装置のうち前記処理室Aに配置しなかった処理装置の少なくとも一つを配置し、かつ前記処理室A及び前記処理室Bの前記処理装置は、設置及び撤去が可能とされてなり、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡すことにより、製版処理が行われるようにしたことを特徴とする全自動グラビア製版用処理システム。」

イ.「[0007]特許文献1:特開平10-193551号公報
特許文献2:WO2007/135898号公報
特許文献3:WO2007/135899号公報
特許文献4:特開2004-223751号公報
特許文献5:特開2004-225111号公報
特許文献6:特開2004-232028号公報
特許文献7:特開2008-221589号公報」

ウ.「[0012]また、前記処理室Aをクリーンルームとし、前記処理室Aにロール搬入口を設け、前記ロール搬入口近傍に被製版ロールをストックするためのロールストック装置を配置し、前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリアに、ロールストック装置、感光膜塗布装置、レーザ露光潜像形成装置、砥石研磨装置、ペーパー研磨装置を配置し、前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに、脱脂装置、超音波洗浄装置、銅メッキ装置、表面硬化皮膜形成装置、現像装置、腐食装置、レジスト画像除去装置、を配置し、前記処理室A又は前記処理室Bにロール中継載置台を設け、前記ロール中継載置台を介して前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡すことにより、製版処理が行われるようにするのが好適である。」

エ.「[0018]処理室Aの構成について説明する。処理室Aにおいて、符号16は第一の産業ロボットであり、旋回自在な多軸のロボットアーム18を有している。この第一の産業ロボット16は制御盤28を操作することで制御される。符号Qは第一の産業ロボット16のハンドリングエリアであるロボットアーム18の旋回範囲を示す。」

オ.「[0021]図示の例では、感光膜塗布装置24を設置し、レーザ露光装置26でレーザ露光する場合を示したが、電子彫刻装置を設置して、電子彫刻する方法でもよい。電子彫刻装置としては従来公知の装置を適用することができ、例えば特許文献4?6に開示されたような電子彫刻装置を用いることができる。
[0022]次に、処理室Bの構成について説明する。処理室Bにおいて、符号30は第二の産業ロボットであり、旋回自在な多軸のロボットアーム32を有している。この第二の産業ロボット30は制御盤29を操作することで制御される。符号Pは第二の産業ロボット30のハンドリングエリアであるロボットアーム32の旋回範囲を示す。」

カ.「[0026]符号46はレジスト剥離装置であり、符号48はクロムメッキ装置である。レジスト剥離装置は従来公知の装置を適用することができ、例えば特許文献4?6に開示されたようなレジスト剥離装置を用いることができる。クロムメッキ装置については、従来公知のものを使用でき、例えば特許文献1に開示されたようなクロムメッキ装置を用いることができる。また、図示例では、表面硬化皮膜形成装置の例としてクロムメッキ装置を使用した例を示したが、表面硬化皮膜形成装置としては、他にもDLC膜形成装置や二酸化珪素被膜形成装置を適用できる。DLC被膜形成装置としては例えば特許文献2に記載されたようなDLC被膜形成装置を使用することができ、二酸化珪素被膜形成装置としては例えば特許文献3に記載されたような二酸化珪素被膜形成装置を使用することができる。」

キ.「[0029]処理室Aの壁56には扉58,60が設けられており、製版された製版ロールを取り出したり、新たな被製版ロール(版母材)を入れたりする。」

ク.「[0031]脱脂装置38での脱脂作業を終えると、第二の産業ロボット30が被製版ロール20をチャックして銅メッキ装置40に運んで被製版ロール20を離して銅メッキ装置40にセットする。
[0032]銅メッキ装置40でのメッキ作業を終えると、第二の産業ロボット30が被製版ロール20をチャックしてロール中継載置台50に運んで置き、第一の産業ロボット16に受け渡す。」

ケ.「[0037]現像装置42での現像作業を終えると、第二の産業ロボット30が被製版ロール20をチャックして腐食装置44に運んで被製版ロール20を離して腐食装置44にセットする。
[0038]腐食装置44での腐食(エッチング)作業を終えると、第二の産業ロボット30が被製版ロール20をチャックしてレジスト剥離装置46に運んで被製版ロール20を離してレジスト剥離装置46にセットする。
[0039]レジスト剥離装置46でのレジスト剥離作業を終えると、第二の産業ロボット30が被製版ロール20をチャックしてクロムメッキ装置48に運んで被製版ロール20を離してクロムメッキ装置48にセットする。そしてクロムメッキ装置48でクロムメッキを行う。」

コ.「[0041]このようにして出来上がった製版ロール64は処理室Aの外側へと運び出されて完成する。」

上記の記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「全自動グラビア製版用処理システムであり、
被製版ロールをチャックしてハンドリングする第一の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Aと、被製版ロールをチャックしてハンドリングする第二の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Bと、を有し、前記処理室A及び前記処理室Bを連通せしめ、
前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリアに、ロールストック装置、感光膜塗布装置、レーザ露光潜像形成装置、砥石研磨装置、ペーパー研磨装置を配置し、前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに、脱脂装置、超音波洗浄装置、銅メッキ装置、表面硬化皮膜形成装置、現像装置、腐食装置、レジスト画像除去装置、を配置し、
電子彫刻装置を用いることができ、
かつ前記処理室A及び前記処理室Bの前記処理装置は、設置及び撤去が可能とされてなり、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡すことにより、製版処理が行われるようにし、
ロボットアーム18の旋回範囲が第一の産業ロボット16のハンドリングエリアであり、
ロボットアーム32の旋回範囲が第二の産業ロボット30のハンドリングエリアであり、
処理室Aに新たな被製版ロール(版母材)を入れ、
被製版ロール20を離して銅メッキ装置40にセットし、銅メッキ装置40でのメッキ作業をし、
被製版ロール20を離して腐食装置44にセットし、腐食装置44での腐食(エッチング)作業をし、
被製版ロール20を離してクロムメッキ装置48にセットし、クロムメッキ装置48でクロムメッキを行い、
表面硬化皮膜形成装置の例としてクロムメッキ装置を使用した例を示したが、表面硬化皮膜形成装置としては、DLC膜形成装置を適用でき、
このようにして出来上がった製版ロール64は処理室Aの外側へと運び出されて完成する、
全自動グラビア製版用処理システム。」

(2)当審拒絶理由に引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2007/135898号(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

サ.「[0020]上記課題を解決するために、本発明のグラビア製版ロールの全自動製造システムは、グラビア印刷に用いられるグラビア製版ロールを製造するための全自動グラビア製版ロール製造システムであって、中空ロールに銅メッキをするための銅メッキ形成手段と、前記銅メッキがされた中空ロールにグラビアセルを形成するためのグラビアセル形成手段と、前記グラビアセルが形成された中空ロールにDLC被膜を形成するためのDLC被膜形成手段と、前記銅メッキ形成手段に中空ロールを自動的に移載する第一自動移載手段と、前記銅メッキ形成手段において銅メッキされた中空ロールを前記グラビアセル形成手段に自動的に搬送する自動搬送手段と、前記グラビアセル形成手段においてグラビアセルが形成された中空ロールを前記DLC被膜形成手段に自動的に移載するための第二自動移載手段と、を含むことを特徴とする。」

シ.「[0038]符号46は、DLCの被膜形成を行うためのDLC被膜形成システム(DLC被膜形成手段)である。DLC被膜形成システム46は、中空ロール16を回転載置させるためのロール載置台48を有している。DLCの被膜形成は、PVD法又はCVD法を用いることができる。PVD法としては、スパッタリング法、真空蒸着法(エレクトロンビーム法)、イオンプレーティング法、MBE法(分子線エピタキシー法)、レーザーアブレーション法、イオンアシスト成膜法等の公知の方法を適用できる。CVD法としては、常圧で成膜するAPCVD法(Atmospheric Pressure Chemical Vapor Deposition)、0.05Torr程度の減圧で成膜する LPCVD法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)、常圧よりやや低い600Torr程度の圧力のSACVD法(Subatmospheric Pressure Chemical Vapor Deposition)、超高真空のUHVCVD法(Ultra-High-Vacuum Chemical Vapor Deposition)、600?1000℃の高温の熱CVD法、高周波プラズマエネルギーを用い200?450℃で成膜するプラズマCVD法(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)、紫外線による励起を利用した光CVD法、ソースに有機金属を用いた化合物結晶成長用のMOCVD法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)等が適用できる。CVD法によってDLC被膜を形成するために用いられる炭化水素系原料ガスとしては、シクロへキサン、ベンゼン、アセチレン、メタン、ブチルベンゼン、トルエン、シクロペンタン等の公知のガス種の一種又は二種以上が用いられる。
[0039]したがって、DLC被膜形成システム46は、上記した方法が実践できる装置であればよく従来公知のスパッタリング装置、真空蒸着装置、イオンプレーティング装置、MBE装置、レーザーアブレーシヨン装置、イオンアシスト成膜装置、APCVD装置、LPCVD装置、SACVD装置、UHVCVD装置、熱CVD装置、プラズマCVD装置、光CVD装置、MOCVD装置等が使用できる。」

ス.「[0044]また、CVD法によってDLC被膜を形成するにあたっては、銅メッキ層の上に密着層を設けてからDLC被膜を形成するのが好ましい。前記密着層は、アルミニウム(Al)、リン(P)、チタン(Ti)及び珪素(Si)からなる群から選ばれる一種又は二種以上から形成されるのが好ましい。密着層の形成方法は特に限定されないが、DLC被膜の形成方法と同種の方法を用いることにより、同一の装置が使用可能となり、好適である。」

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「グラビア製版ロールを製造するための全自動グラビア製版ロール製造システムであって、
銅メッキ層の上に密着層を設けてからDLC被膜を形成し、
前記密着層は、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)及び珪素(Si)からなる群から選ばれる一種又は二種以上から形成され、
DLCの被膜形成はCVD法を用いることができ、CVD法としては超高真空のUHVCVD法が適用でき、DLC被膜形成システム46はUHVCVD装置が使用でき、
密着層の形成方法はDLC被膜の形成方法と同種の方法を用いることにより、同一の装置が使用可能となる
グラビア製版ロールの全自動製造システム。」

5.対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

後者の「製版ロール64」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「グラビアシリンダー」に相当し、後者の「全自動グラビア製版用処理システム」は、「製版ロール64」を完成させるのだから、前者の「グラビアシリンダーの全自動製造システム」に相当する。

後者の「第一の産業ロボット」及び「第二の産業ロボット」は、「ロボットアーム18の旋回範囲が第一の産業ロボット16のハンドリングエリアであり、ロボットアーム32の旋回範囲が第二の産業ロボット30のハンドリングエリアであ」るので、ロボットアームの旋回範囲をハンドリングエリアとするものであるところ、仮に産業ロボットが移動するのであれば、そのハンドリングエリアはロボットアームの旋回範囲を超える(図1における符号P、Q以外の範囲もハンドリングエリアになる。)ことになるから、ロボットアームの旋回範囲をハンドリングエリアとする「第一の産業ロボット」及び「第二の産業ロボット」は非走行型であるといえる。
そうすると、後者の「被製版ロールをチャックしてハンドリングする第一の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Aと、被製版ロールをチャックしてハンドリングする第二の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Bと、を有し、前記処理室A及び前記処理室Bを連通せしめ」た点は、前者の「被製版ロールをチャックしてハンドリングする非走行型の第一の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Aと、被製版ロールをチャックしてハンドリングする非走行型の第二の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Bと、を有し、前記処理室A及び前記処理室Bを連通せしめ」た点に相当する。

後者の「表面硬化皮膜形成装置」と前者の「真空成膜装置」とは、ともに膜を形成する装置であるから、両者は「前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに」「成膜装置を配置し」た点で共通する。

後者の「前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリアに、ロールストック装置、感光膜塗布装置、レーザ露光潜像形成装置、砥石研磨装置、ペーパー研磨装置を配置し、前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに、脱脂装置、超音波洗浄装置、銅メッキ装置」「現像装置、腐食装置、レジスト画像除去装置、を配置し、電子彫刻装置を用いることができ」る点は、前者の「前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリアに、ロールストック装置、感光膜塗布装置、電子彫刻装置、レーザ露光潜像形成装置、脱脂装置、砥石研磨装置、超音波洗浄装置、銅メッキ装置、現像装置、腐食装置、レジスト画像除去装置、ペーパー研磨装置から選ばれる処理装置の少なくとも一つを配置し、前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに、前記処理装置のうち前記処理室Aに配置しなかった処理装置の少なくとも一つを配置し」た点に相当する。

後者の「前記処理室A及び前記処理室Bの前記処理装置は、設置及び撤去が可能とされてなり、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡す」点は、前者の「前記処理室A及び前記処理室Bの前記処理装置は、設置及び撤去が可能とされてなり、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットのみを用いて、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡す」点に相当する。

後者は「被製版ロール(版母材)」から「製版ロール64」を完成する間に、「被製版ロール20を離して銅メッキ装置40にセットし、銅メッキ装置40でのメッキ作業を」するから、「被製版ロール20」の表面に「銅メッキ」が設けられることは明らかである。後者は、続いて「被製版ロール20を離して腐食装置44にセットし、腐食装置44での腐食(エッチング)作業を」するから、後者が「全自動グラビア製版用処理システム」であって「製版ロール64」が「グラビア製版」を行うものであることも踏まえると、「銅メッキ」が設けられた「被製版ロール20」に「腐食(エッチング)作業」をすることにより、表面に、「グラビア製版」において通常形成される、多数のグラビアセルが形成されることも明らかである。後者は、続いて「被製版ロール20を離してクロムメッキ装置48にセットし、クロムメッキ装置48でクロムメッキを行」うところ、「表面硬化皮膜形成装置」として「クロムメッキ装置」に代えて「DLC膜形成装置を適用でき」るのだから、表面に「DLC膜」を形成するものである。
そうすると、前者が製造する「グラビアシリンダー」と後者の「製版ロール64」とは、「版母材と、該版母材の表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、」「前記グラビアセルが形成された銅メッキ層の表面に設けられ」る「DLC被膜とを有する」点で共通する。

したがって、両者は、

「グラビアシリンダーの全自動製造システムであり、
被製版ロールをチャックしてハンドリングする非走行型の第一の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Aと、被製版ロールをチャックしてハンドリングする非走行型の第二の産業ロボットのハンドリングエリアを有する処理室Bと、を有し、前記処理室A及び前記処理室Bを連通せしめ、
前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに成膜装置を配置し、
前記処理室Aの前記第一の産業ロボットのハンドリングエリアに、ロールストック装置、感光膜塗布装置、電子彫刻装置、レーザ露光潜像形成装置、脱脂装置、砥石研磨装置、超音波洗浄装置、銅メッキ装置、現像装置、腐食装置、レジスト画像除去装置、ペーパー研磨装置から選ばれる処理装置の少なくとも一つを配置し、前記処理室Bの前記第二の産業ロボットのハンドリングエリアに、前記処理装置のうち前記処理室Aに配置しなかった処理装置の少なくとも一つを配置し、
かつ前記処理室A及び前記処理室Bの前記処理装置は、設置及び撤去が可能とされてなり、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットのみを用いて、前記第一の産業ロボット及び第二の産業ロボットとの間で被製版ロールを受け渡すことにより、
版母材と、該版母材の表面に設けられかつ表面に多数のグラビアセルが形成された銅メッキ層と、
前記グラビアセルが形成された銅メッキ層の表面に設けられるDLC被膜とを有するグラビアシリンダーを製造してなる
グラビアシリンダーの全自動製造システム。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
前者の成膜装置が真空成膜装置であるのに対して、後者の成膜装置は真空成膜装置であるか否かが明らかでない点。

[相違点2]
前者が二台以上の成膜装置を配置するのに対して、後者が配置する成膜装置は二台以上ではない点。

[相違点3]
前者においては、グラビアシリンダーが、ニッケル、タングステン、クロム、チタン、銀、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウム、コバルト、インジウム、スズ、ケイ素、タンタルからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成される下地成膜層を有し、DLC被膜が下地成膜層の表面を被覆しているのに対して、後者においては下地成膜層を有さない点。

[相違点4]
前者が、二台以上の成膜装置にて下地成膜層の形成処理及びDLC被膜の形成処理が行われ、下地成膜層の形成処理及びDLC被膜の形成処理が各々の二台以上の成膜装置で同時に行うことが可能とされてなるのに対して、後者はそのような発明特定事項を有していない点。

6.判断

上記相違点について検討する。

ア.相違点1について
引用発明2においては「DLCの被膜形成はCVD法を用いることができ、CVD法としては超高真空のUHVCVD法が適用でき、DLC被膜形成システム46はUHVCVD装置が使用でき」るから、引用発明2の「UHVCVD装置」は「超高真空のUHVCVD法が適用でき」るものであって、本願発明の「真空成膜装置」に相当する。
引用発明1及び2は、グラビア製版用処理システムという共通の技術分野に属し、銅メッキ上に表面被膜を形成するという共通の作用・機能を奏するものであって、引用例1には引用例2が「特許文献2」として挙げられて「DLC被膜形成装置としては例えば特許文献2に記載されたようなDLC被膜形成装置を使用することができ」(上記4.(1)イ.及びカ.参照)と、引用発明2を適用することが示唆されているから、引用発明1において、引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。

したがって、引用発明1に引用発明2を適用することにより、相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

イ.相違点2について
製版装置の技術分野において各工程の装置を二台設けることが本願の優先日前に周知の技術事項である(例えば、当審拒絶理由で引用された特開2004-223751号公報を参照。段落【0021】及び図14に、「二基のクロムメッキ装置11」を設備することが示されている。)ことを考慮すれば、製版装置の工程の一部を行う「成膜装置」を二台以上設けるように設計することは、当業者が製造効率等を勘案して選択することができる設計的事項というべきものである。

したがって、引用発明1において「成膜装置」を二台以上とするように設計変更することにより、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

ウ.相違点3について
引用発明2の「アルミニウム(Al)、チタン(Ti)及び珪素(Si)からなる群から選ばれる一種又は二種以上から形成され」る「密着層」は、本願発明の「ニッケル、タングステン、クロム、チタン、銀、ステンレス鋼、鉄、銅、アルミニウム、コバルト、インジウム、スズ、ケイ素、タンタルからなる群から選ばれた少なくとも一種の材料から構成される下地成膜層」に相当する。
また、引用発明2が「銅メッキ層の上に密着層を設けてからDLC被膜を形成」する点は、本願発明の「DLC被膜が下地成膜層の表面を被覆する」点に相当する。

引用発明1及び2は、グラビア製版用処理システムという共通の技術分野に属し、銅メッキ上に表面被膜を形成するという共通の作用・機能を奏するものであるから、銅メッキと表面被膜の密着性を高めるために、引用発明1において、引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。

したがって、引用発明1に引用発明2を適用することにより、相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

エ.相違点4について
引用発明2は、「密着層の形成方法はDLC被膜の形成方法と同種の方法を用いることにより、同一の装置が使用可能となる」のだから、「同一の装置」で「密着層の形成」及び「DLC被膜の形成」を行うものであって、この点は、本願発明の「成膜装置にて下地成膜層の形成処理及びDLC被膜の形成処理が行われ」る点に相当する。

引用発明1及び2は、グラビア製版用処理システムという共通の技術分野に属し、銅メッキ上に表面被膜を形成するという共通の作用・機能を奏するものであるから、引用発明1において、引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。

また、成膜装置を二台以上とすることは、上記「イ.相違点2について」のとおり、当業者が容易に想到し得るものであって、二台以上の成膜装置においてそれぞれ「下地成膜層の形成処理及びDLC被膜の形成処理が行われ」れば、「下地成膜層の形成処理及びDLC被膜の形成処理が各々の二台以上の成膜装置で同時に行う」ようになることは明らかである。

したがって、引用発明1に引用発明2を適用するとともに、その際、「成膜装置」を二台以上とするように設計変更することにより、相違点4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明の発明特定事項の全体によって奏される効果も、引用発明1、2及び上記周知の技術事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

7.むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明1、2及び上記周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-12-13 
結審通知日 2016-12-14 
審決日 2016-12-27 
出願番号 特願2014-543391(P2014-543391)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 森次 顕
畑井 順一
発明の名称 グラビアシリンダーの全自動製造システム及びそれを用いたグラビアシリンダーの製造方法  
代理人 石原 進介  

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