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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M |
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管理番号 | 1324766 |
審判番号 | 不服2016-3325 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-03-03 |
確定日 | 2017-02-09 |
事件の表示 | 特願2013-183324「燃料供給制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 3月16日出願公開、特開2015- 48835〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成25年9月4日の出願であって、平成27年7月24日付けで拒絶理由が通知され、平成27年9月28日に意見書が提出されたが、平成28年1月20日付けで拒絶査定がされ、平成28年3月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1ないし5に係る発明は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 外部機器から送信される自車両が衝突したことを示す衝突信号を受信する受信手段と、 自車両に搭載されるエンジンの停止を検出するエンジン停止検出手段と、 前記受信手段に前記衝突信号が受信され、かつ、前記エンジン停止検出手段により前記エンジンの停止が検出された場合に、該エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、 を備えることを特徴とする燃料供給制御装置。」 3.引用文献 3.1 引用文献1 (1)引用文献1の記載 本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2013-15116号公報(平成25年1月24日出願公開。以下、「引用文献1」という。)には、「車両の制御装置」に関し、図面とともに次の記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、車両の制御装置に関し、特に、車両の加速度を検出して燃料ポンプの作動を制御する車両の制御装置に関する。 に関する。 【背景技術】 【0002】 車両の衝突時に燃料ポンプの作動を停止する制御装置として、例えば特許文献1に記載されるようなものが提案されている。この特許文献1に記載の装置では、車体に設けられた加速度センサによって車体に強い衝撃を検出すると、高圧用電磁式プレッシャレギュレータを全開にして高圧ラインの燃料圧力を急激に低下させるとともに、フィードポンプの燃料供給動作を停止する。このような制御により、車両の衝突時に、燃料系の損傷箇所からの燃料噴出が抑制される。 …(中略)… 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 このような制御装置では、加速度センサで検出された加速度が所定値以上であると、車体が衝突したと判断するように構成されている。しかしながら、実際の走行状況においては、例えば車両が段差に乗り上げた場合などに、加速度センサが一時的に大きな加速度を検出することがある。このような場合にも、高圧ラインの燃料圧力を低下させてしまうと、車両の走行が継続できず、かえって走行の妨げとなる。 【0005】 本発明の目的は、燃料ポンプの作動を停止する制御装置の誤動作の可能性を低減し、信頼性を向上させることができる車両の制御装置を提供することにある。 …(後略)…」(段落【0001】ないし【0005】) (イ)「【0009】 以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照して説明する。 図1は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置1の構成を示す図である。この図1に示すように、本実施形態の車両の制御装置1は、燃料噴射弁2及び点火プラグ4を有するエンジン6と、エンジン6に燃料を圧送する燃料ポンプ8と、エンジン6を空冷する電動ファン10と、車両の衝突を検出するための加速度センサ12を備えたエアバッグ装置14と、エンジン6、燃料ポンプ8、電動ファン10、及びエアバッグ装置14の動作を制御する制御ユニット16と、を備える。 …(中略)… 【0011】 エアバッグ装置14は、運転席のハンドル(図示せず)に取り付けられており、また、加速度センサ12は、例えばフロアトンネルに取り付けられている。加速度センサ12は、本実施形態では、静電容量式のものが採用されており、可動電極及び固定電極を有する検出部を備える。このような構造の加速度センサ12では、車両に衝撃が加わることにより可動電極が移動すると、固定電極との間に静電容量の変化が生じ、これを検出部で検出して加速度を計算する構造となっている。本実施形態では、可動電極は、車両の前後方向に可動に配置されており、したがって加速度センサ12は、前方からの衝突に起因する車両の加速度、及び後方からの衝突に起因する車両の加速度の両方を1つの加速度センサ12で検出するようになっている。そして、検出された加速度は、制御ユニット16に出力されるようになっている。 【0012】 制御ユニット16は、加速度センサ12からの加速度の信号に基づいて、エアバッグ装置14の動作を制御するエアバッグ制御手段18と、加速度センサ12からの加速度の信号に基づいて、燃料ポンプ8の動作を制御する燃料ポンプ制御手段20と、を備える。 エアバッグ制御手段18は、加速度センサ12から加速度の信号を受け、この加速度が所定加速度αを超えているか否かを監視する。加速度の絶対値が所定加速度αより大きい場合には、車両が衝突を受けたと判断して、エアバッグ装置14に作動信号を出力するようになっている。 【0013】 燃料ポンプ制御手段20は、加速度センサ12からの加速度の信号に基づいて車両速度変化値を算出する算出手段22を備える。算出手段22は、加速度センサ12から加速度の信号を受け取るたびに、加速度を積分することにより車両速度を算出する。そして、その車両速度と前回算出した車両速度とを差を求めることにより車両速度変化値を算出する。したがって、本実施形態においては、加速度センサ12の加速度信号の頻度に応じた所定時間毎、例えば0.5ms毎の車両速度変化値が算出される。燃料ポンプ制御手段20は、算出手段22で算出された所定時間毎の車両速度変化値を監視し、この車両速度変化値の絶対値が所定速度変化値βより大きい場合には、車両が衝突を受けたと判断して、燃料ポンプ8に作動停止信号を出力するようになっている。 制御ユニット16は、エアバッグ装置14及び燃料ポンプ8の動作の制御を行う他、燃料ポンプ制御手段20から出力された燃料ポンプ8作動停止信号に基づいて、エンジン6の燃料噴射弁2及び点火プラグ4と、電動ファン10に作動停止信号を出力するようになっている。」(段落【0009】ないし【0013】) (ウ)「【0016】 このような構造の本実施形態の車両の制御装置1は、次のように動作する。 図4は、本発明の一実施形態に係る車両の制御装置1の動作を示すフローチャートである。この図4に示すように、車両の制御装置1は、まず、ステップS1において、加速度センサ12からの加速度信号の読み込みを行う。次に、ステップS2において、算出手段22は、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて、具体的には加速度を積分することによって車速を算出する。ステップS3において、加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定加速度αを超えているか否かを判断する。加速度の絶対値が所定値αを超えている場合には、制御ユニット16のエアバッグ制御手段18は、車両が衝突したと判断して、ステップS4においてエアバッグ装置14を作動させる。一方、加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定加速度α以下である場合には、車両の衝突がないと判断し、ステップS4をスキップしてエアバッグ装置14を作動させずにステップS5に進む。 【0017】 ステップS5において、燃料ポンプ制御手段20は、算出手段22で算出された所定時間毎の車速変化値の絶対値が、所定車速変化値βを超えているか否かを判断する。車速変化値が所定車速変化値β以下である場合には、燃料ポンプ制御手段20は、車両の衝突がないと判断し、ステップS6において燃料ポンプ8の作動を継続する。また、この場合、制御ユニット16は、車両の衝突がないとの燃料ポンプ制御手段20の判断に基づいて、ステップS7において、燃料噴射弁2の作動を継続し、ステップS8において点火プラグ4の作動を継続して燃料点火を継続することにより、エンジン6の作動を継続する。更に、制御ユニット16は、ステップS9において、電動ファン10の作動も継続させる。 【0018】 一方、ステップS5において、車両の車速変化値が所定車速変化値βよりも大きい場合には、燃料ポンプ制御手段20は、車両の衝突があったと判断し、ステップS10に進み、燃料ポンプ8の作動を停止する。また、制御ユニット16は、車両の衝突があったとの燃料ポンプ制御手段20の判断に基づいて、ステップS11において燃料噴射弁2の作動を停止し、ステップS12において点火プラグ4の作動を停止して燃料点火を停止することによって、エンジン6の作動を停止する。更に、制御ユニット16は、ステップS13において、電動ファン10の作動も停止する。」(段落【0016】ないし【0018】) (エ)「【0024】 燃料ポンプ制御手段20の算出手段22での計算に必要な加速度として、エアバッグ装置14の加速度センサ12の検出値を利用しながら、エアバッグ制御手段18とは異なる判断手法を用いている。つまり、エアバッグ制御手段18では加速度の絶対値が所定加速度αを超えたか否かで車両の衝突を判断するのに対して、燃料ポンプ制御手段20は、加速度から車両速度変化値を計算し、その車両速度変化値の絶対値が所定車両速度変化値βを超えたか否かで車両の衝突を判断する。 エアバッグ装置14においては、車両の衝突時、瞬時にエアバッグが開く必要があるため、加速度を監視して加速度が所定値を超えた時点でエアバッグ装置14を作動させることによってその機動性を確保している。その一方で、前述のように、車両の衝突以外の理由によっても加速度が所定値を超えることも考えられ、この場合にはエアバッグ装置14が誤動作する可能性がある。 【0025】 これに対して、燃料ポンプ制御手段20においては、燃料の流出を防止するために迅速性は求められるものの、エアバッグ装置14ほどの短時間で作動しなければならないわけではない。そこで、本実施形態では、エアバッグ装置14の加速度センサ12を用いつつ、加速度から車両速度変化値を計算して、車両速度変化値が所定値を超えた時点で燃料ポンプを停止する。この判断手法により、エアバッグ装置14で発生する可能性のある誤動作を防止して、確実性を高めることができる。 このように、本実施形態では、同じ加速度センサ12を用いながら、別々の判断基準を用いているので、エアバッグ装置14の迅速な作動と、燃料ポンプ20の確実な作動停止の両方を確保することができる。」(段落【0024】及び【0025】) (2)引用文献1記載の事項 上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1及び4の記載から、以下の事項が分かる。 (カ)上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1及び4の記載から、引用文献1には、車両の制御装置1が記載されていることが分かる。 (キ)上記(1)(イ)及び(ウ)並びに図1及び4の記載から、引用文献1に記載された車両の制御装置1は、エアバッグ装置14と制御ユニット16を含み、制御ユニット16のエアバッグ制御手段18において、エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合には、車両が衝突したと判断して、エアバッグ装置14に作動信号を出力するものであることが分かる。 (ク)上記(1)(イ)及び(ウ)並びに図1及び4の記載から、引用文献1に記載された車両の制御装置1は、エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合及び同加速度の絶対値が所定値α以下である場合に、制御ユニット16の燃料ポンプ制御手段は、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて、その算出手段22で算出した所定時間毎の車速変化値の絶対値が所定車速変化値βを超えているか否かを判断し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値β以下である場合には、車両の衝突がないと判断し、燃料ポンプ8の作動を継続し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値βよりも大きい場合には、車両の衝突があったと判断し、燃料ポンプ8の作動を停止するものであることが分かる。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)並びに図1及び4の記載から、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「エアバッグ装置14と制御ユニット16を含む車両の制御装置1であって、 制御ユニット16のエアバッグ制御手段18において、エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合には、車両が衝突したと判断して、エアバッグ装置14に作動信号を出力し、 エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合及び同加速度の絶対値が所定値α以下である場合に、制御ユニット16の燃料ポンプ制御手段は、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて、その算出手段22で算出した所定時間毎の車速変化値の絶対値が所定車速変化値βを超えているか否かを判断し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値β以下である場合には、車両の衝突がないと判断し、燃料ポンプ8の作動を継続し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値βよりも大きい場合には、車両の衝突があったと判断し、燃料ポンプ8の作動を停止する 車両の制御装置1」 3.2 引用文献2 (1)引用文献2の記載 本願の出願前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭55-87830号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「燃料ポンプ制御回路」に関し、図面とともに次の記載がある。 (サ)「 本発明は、電子式燃料噴射装置等における燃料ポンプ制御回路に関する。 燃料ポンプ制御回路は、イグニツシヨンスイツチのオン状態においてエンジンが回転している時のみ燃料ポンプを作動状態にすべき機能を有するものである。従って、事故或いは故障等によりエンジンが停止した時は燃料吐出による火災等を防止するために燃料の供給を停止して安全を図っている。」(第1ページ右下欄第14行ないし第2ページ左上欄第2行) (シ)「 以下、本発明を第2図乃至第5図を参照して詳細に説明する。 第2図は、本発明による燃料ポンプ制御回路の第1の実施例の回路図である。…(中略)… かかる燃料ポンプ制御回路において、エンジン作動時は充放電回路6及び駆動回路7の上述した如き動作により燃料ポンプ5は作動状態を継続する。また、事故或いは故障等によりエンジンが停止した場合(第3図(c)における(A))、すなわちイグニツシヨンスイツチがオン状態においてエンジンが停止した場合にはコンデンサC_(1)に充電された電荷が放電されて駆動回路7の入力レベルがスレツシユホールドレベル以下になつた時に駆動回路7がオフ状態となるために燃料ポンプ5は作動を停止する。一方、エンジン作動時にイグニツシヨンスイツチをオフした場合(第3図(a)における(B))には燃料ポンプ5の一端にイグニツシヨンスイツチ信号が印加されないために燃料ポンプ5は作動を停止する。 第4図は、本発明による燃料ポンプ制御回路の第2の実施例の回路図であり、第2図と同等部分は同一符号により示されている。図において、クランク軸(図示せず)の回転状態を検出するクランク軸回転検出回路8を設け、この出力信号を充放電回路6の他の入力端に供給した以外の構成は第2図と同様である。 クランク軸回転検出回路8は、例えば上記クランク軸に固定されかつ異なる磁極が交互に並ぶように着磁された磁石(図示せず)と該磁石の磁極と対向配置された磁気感応素子(図示せず)とからなるクランク角センサ9を有している。このクランク角センサ9はクランク軸の回転に応じた出力信号をコンデンサC_(3)及び抵抗R_(5)からなるCR回路に供給する。このCR回路の出力信号(第5図(d))は演算増幅器OPの非反転入力端に印加される。演算増幅器OPは、その反転入力端に抵抗R_(6)及びR_(7)からなる分圧回路による基準電圧V_(ref)が印加されており、第5図(e)の如き出力信号を次段の充放電回路6に供給する。クランク軸回転検出回路8の出力信号及びスタータスイッチ信号を入力とする充放電回路6と燃料ポンプ5を駆動する駆動回路7の回路構成及び動作は第1の実施例におけるそれと同じである。 以上説明した如く、本発明による燃料ポンプ制御回路は簡単な電子回路からなるために信頼性が高くかつ低コストである。よって、かかる燃料ポンプ制御回路によれば事故或いは故障等によりエンジンが停止した場合でも確実に燃料ポンプを制御し得るために燃料吐出による火災等の危険性がなく安全性が向上する。」(第2ページ左上欄第18行ないし第3ページ右上欄第1行) (2)引用文献2記載技術 上記(1)(サ)及び(シ)の記載から、引用文献2には次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されているといえる。 「燃料ポンプ制御回路において、事故によりエンジンが停止したときに燃料の供給を停止するためにクランク軸回転検出回路によりエンジンの停止を検出する技術。」 4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「車両」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明における「自車両」に相当し、同様に「車両の制御装置1」は「燃料供給制御装置」に相当する。 また、引用発明における「作動信号」は、「車両が衝突したと判断して」出力されるものであるから、その技術的意義からみて、本願発明における「衝突信号」に相当する。 そして、「自車両が衝突したことを示す衝突信号を発信するものである」という限りにおいて、引用発明において「制御ユニット16のエアバッグ制御手段18において、エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合には、車両が衝突したと判断して、エアバッグ装置14に作動信号を出力」することは、本願発明において「自車両が衝突したことを示す衝突信号を受信する受信手段」を備えることに相当する。 さらに、引用文献1の記載(上記3.1(1)(エ))からみて、引用発明において「エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合及び同加速度の絶対値が所定値α以下である場合に、制御ユニット16の燃料ポンプ制御手段は、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて、その算出手段22で算出した所定時間毎の車速変化値の絶対値が所定車速変化値βを超えているか否かを判断」することは、加速度の絶対値が所定値αを超えている場合に車両が衝突したと判断することとは別の判断手法を用いて、「車両が実際に衝突したこと」を「別途検出する」ことであるといえる。 したがって、引用発明において「エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合及び同加速度の絶対値が所定値α以下である場合に、制御ユニット16の燃料ポンプ制御手段は、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて、その算出手段22で算出した所定時間毎の車速変化値の絶対値が所定車速変化値βを超えているか否かを判断し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値β以下である場合には、車両の衝突がないと判断し、燃料ポンプ8の作動を継続し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値βよりも大きい場合には、車両の衝突があったと判断し、燃料ポンプ8の作動を停止する」ことは、車両が実際に衝突したことを別途検出する別検出手段を備え、少なくとも該別検出手段が車両が実際に衝突したことを別途検出したことを条件として、燃料ポンプ8の作動を停止する」ものであるということができる。 また、引用発明において「制御ユニット16の燃料ポンプ制御手段」が「燃料ポンプ8の作動を停止する」ということは、「エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段」を備えることであるといえる。 これに対し、本願の明細書の記載「EFI-ECU12が衝突信号の受信後、センサ16からのカム角信号又は回転角信号が時間経過に伴って変化しないものであることでエンジンが停止していると判定すれば、自車両が実際に衝突して、正規の衝突信号が入力されていたとして、その衝突信号によるエンジン14への燃料供給停止を実行する。」(段落【0025】)等からみて、本願発明において「自車両に搭載されるエンジンの停止を検出するエンジン検出手段」を備えることは、「自車両が実際に衝突したことを別途検出する別検出手段」を備えることであるということができる。 以上から、「自車両が実際に衝突したことを別途検出する別検出手段を備え、少なくとも該別検出手段が自車両が実際に衝突したことを別途検出する場合に、エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段を備える」という限りにおいて、引用発明において「エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合及び同加速度の絶対値が所定値α以下である場合に、制御ユニット16の燃料ポンプ制御手段は、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて、その算出手段22で算出した所定時間毎の車速変化値の絶対値が所定車速変化値βを超えているか否かを判断し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値β以下である場合には、車両の衝突がないと判断し、燃料ポンプ8の作動を継続し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値βよりも大きい場合には、車両の衝突があったと判断し、燃料ポンプ8の作動を停止する」ことは、本願発明において「衝突信号を受信する受信手段と、自車両に搭載されるエンジンの停止を検出するエンジン停止検出手段と、受信手段に衝突信号が受信され、かつ、エンジン停止検出手段によりエンジンの停止が検出された場合に、エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、を備える」ことに相当する。 よって、本願発明と引用発明とは、 「 自車両が衝突したことを示す衝突信号を発信するものであって、 自車両が実際に衝突したことを別途検出する別検出手段を備え、 少なくとも該別検出手段が自車両が実際に衝突したことを別途検出する場合に、エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段を備える燃料供給制御装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (a)「自車両が衝突したことを示す衝突信号を発信するものであ」ることに関し、本願発明においては衝突信号が外部機器から送信されるものであるのに対し、引用発明においては作動信号は制御ユニット16のエアバッグ制御手段18により出力されるものである点(以下、「相違点1」という。)。 (b)「自車両が実際に衝突したことを別途検出する別検出手段を備え、少なくとも該別検出手段が自車両が実際に衝突したことを別途検出する場合に、エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段を備える」ことに関し、本願発明においては「衝突信号を受信する受信手段と、自車両に搭載されるエンジンの停止を検出するエンジン停止検出手段と、受信手段に衝突信号が受信され、かつ、エンジン停止検出手段によりエンジンの停止が検出された場合に、エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、を備える」のに対し、引用発明においては「エアバッグ装置14の加速度センサ12で検出された加速度の絶対値が所定値αを超えている場合及び同加速度の絶対値が所定値α以下である場合に、制御ユニット16の燃料ポンプ制御手段は、加速度センサ12で検出された加速度に基づいて、その算出手段22で算出した所定時間毎の車速変化値の絶対値が所定車速変化値βを超えているか否かを判断し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値β以下である場合には、車両の衝突がないと判断し、燃料ポンプ8の作動を継続し、車速変化値の絶対値が所定車速変化値βよりも大きい場合には、車両の衝突があったと判断し、燃料ポンプ8の作動を停止する」ものである点(以下、「相違点2」という。)。 5.判断 まず、上記相違点1について検討する。 本願の特許請求の範囲には「前記外部機器は、エアバッグの展開制御を行うエアバッグ装置である」(【請求項5】)と記載されている。したがって、発明の詳細な説明に「図1は、本発明の一実施例である燃料供給制御装置10の構成図を示す。」(段落【0010】)と記載され、【図1】に燃料供給制御装置10が、衝突センサ22及びエアバッグECU20を含むように記載されているものの、本願発明における「外部機器」とは、例えば、本願の明細書に示された実施例におけるエンジン制御用電子制御ユニット(EFI-ECU)のようなエンジン及びエンジン内の燃焼に直接関与する機器に対して、その外部に設けられた機器であることを意味するものと理解できる。 これに対し、引用発明においては、制御ユニット16はエンジン及びエンジン内の燃焼に直接関与する機器であり、エアバッグ装置14はエンジン及びエンジン内の燃焼に直接関与する機器の外部に設けられた機器であると考えることができるところ、作動信号を出力するエアバッグ制御手段18は制御ユニット16内に設けられており、その意味で、作動信号は外部機器から送信されたものであるとはいえない。 しかし、引用発明において、エアバッグ制御手段18を、制御ユニット16内に配置するか、制御ユニット16外で、例えばエアバッグ装置14近傍に配置するかということは、設計上適宜決められる程度の事項にすぎない。 したがって、引用発明において、エアバッグ制御手段18を、制御ユニット16外に配置することにより、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に、上記相違点2について検討する。 本願発明は、「エンジン制御用電子制御ユニットに受信された衝突信号が、エアバッグ制御用電子制御ユニットが正規に送信したものでないときにも、エンジンへの燃料供給が停止されるので、エンジンへの燃料供給が過度に制限される不都合が生じる」(本願の発明の詳細な説明の段落【0004】)ことを発明が解決しようとする課題とし、「車両衝突時にエンジンへの燃料供給を確実に停止させつつ、エンジンへの燃料供給が不正な衝突信号によって誤って停止されるのを防止することが可能な燃料供給制御装置を提供することを目的とする」(同【0005】)ものである。 これに対し、引用発明は、車両の衝突以外の理由によって作動信号が発生した場合に、エアバッグ装置14が誤動作する可能性があるところ、燃料ポンプ制御手段20が誤って燃料ポンプの作動停止を行うことを防止することができるものである(上記3.1(1)(エ)参照)。 そして、上記したように引用発明における「作動信号」は本願発明における「衝突信号」に相当するところ、本願発明と引用発明は、エアバッグ制御手段が誤って衝突信号を出力した場合に、エンジンへの燃料供給が不正な衝突信号によって誤って停止されるのを防止するという点で、軌を一にするものである。 ここで、引用発明は、所定時間毎の車速変化値の絶対値が所定車速変化値βを超えているか否かに基づいて車両の衝突があったことを判断するときに、作動信号の受信を条件とはしていない。しかし、引用文献1の段落【0024】及び【0025】(上記3.1(1)(エ)参照)において、もっぱらエアバッグ装置14の誤作動について記載されているのに対し、エアバッグが非作動のときに燃料ポンプを停止させることについては記載されていないことにみられるように、車両速度変化値が所定値を超えるときには、当然に加速度も所定値を超えるということを前提としていると認められる。したがって、引用発明において、車両速度変化値が所定値を超え、かつ、所定時間毎の車速変化値の絶対値が所定車速変化値βを超える場合に、車両の衝突があったと判断するように構成することは、制御装置の設計上の事項にすぎないことである。 また、引用発明において、車速変化値の絶対値が所定車速変化値を超えているかを判断する代わりに、車両が実際に衝突したことを別途検出する別検出手段として、事故によりエンジンが停止したときに燃料の供給を停止するという点で機能が共通する引用文献2記載技術を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。 したがって、引用発明において、上記で相違点1について検討したように、エアバッグ制御手段18を制御ユニット16外のエアバッグ装置14近傍に配置した場合に、制御ユニット16にエアバッグ制御手段18により出力された作動信号を受信する受信手段を備え、車両が実際に衝突したことを別途検出する手段として、引用文献2記載技術のエンジンの停止を検出する手段を備えるとともに、受信手段に作動信号が受信され、かつ、エンジンの停止を検出する手段によりエンジンの停止が検出された場合に、エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段を備えることにより、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、審判請求人は、意見書及び審判請求書において、引用発明は、エアバッグ装置14の作動と燃料ポンプ8の停止とを行うために同じ加速度センサを用いることを前提とした発明であり、引用発明において、燃料ポンプの停止を行うために加速度センサを用いない技術を適用すると、引用発明の前提(意図する目的)が崩れることになり、該適用には阻害要因がある旨を主張している。しかし、引用文献2記載技術は、既存のクランク軸回転検出回路を用いてエンジンの停止を検出するものであって、引用発明が当然に有するクランク軸回転検出回路を用いて、燃料ポンプ8の作動の継続、停止を決定するように構成することに阻害要因は存しない。 そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明及び引用文献2記載技術から予測できる作用効果以上の格別な作用効果を奏するものではない。 6.まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7.むすび 上記のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-12-08 |
結審通知日 | 2016-12-13 |
審決日 | 2016-12-27 |
出願番号 | 特願2013-183324(P2013-183324) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F02M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 赤間 充 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
中村 達之 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 燃料供給制御装置 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 伊東 忠彦 |