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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1324822
異議申立番号 異議2016-700073  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-29 
確定日 2016-12-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5754402号発明「消泡剤用オイルコンパウンド及び消泡剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5754402号の明細書、及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第5754402号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5754402号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年3月28日(国内優先権主張 平成23年4月7日 平成24年3月12日)に特許出願され、平成27年6月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 エボニック デグサ ゲーエムベーハーにより特許異議の申立てがされ、平成28年4月15日付けで取消理由が通知され、同年6月13日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 エボニック デグサ ゲーエム ベーハー から同年8月18日付けで意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)?(5)のとおりである(下線部は,訂正箇所を示す)。

(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に「微粉末シリカ表面のトリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)のピーク面積量の比(M/D)が、80/20?10/90である」とあるのを、「微粉末シリカ表面のトリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)のピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90である」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2に「(A)成分と(B)成分とをアルカリ性触媒の存在下で混合することにより得られたもの」とあるのを、「(A)成分と(B)成分とのアルカリ性触媒の存在下における混合物」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の【0009】において、「ピーク面積量の比(M/D)の値が80/20?10/90」とあるのを、「ピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の【0010】において、「請求項1」中、「ピーク面積量の比(M/D)の値が80/20?10/90」とあるのを、「ピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90」に訂正し、かつ、「請求項2」中、「(A)成分と(B)成分とをアルカリ性触媒の存在下で混合する」とあるのを、「(A)成分と(B)成分とのアルカリ性触媒の存在下における混合物」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の【0029】において、「ピーク面積量の比(M/D)が、80/20?10/90、好ましくは70/30?20/80、より好ましくは60/40?30/70」とあるのを、「ピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90、好ましくは48/52?20/80、より好ましくは48/52?30/70」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、微粉末シリカ表面のトリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)とのピーク面積量の比(M/D)を、「80/20?10/90」から、「48/52?10/90」に減縮しようとするるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許明細書の【0062】の実施例3では、M/D=48/52と記載されていることを根拠として、訂正事項1は、M/Dの上限を48/52としたものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2について「(A)成分と(B)成分とをアルカリ性触媒の存在下で混合することにより得られたものである」と、物の発明についてその物の製造方法が記載されている場合に該当していたものを、「(A)成分と(B)成分とのアルカリ性触媒の存在下における混合物」と訂正して発明を明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、特許明細書の【0031】に、請求項2で特定するオイルコンパウンドは、(A)成分と(B)成分を混合する際にアルカリ性触媒を添加したものであることが記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴って、明細書の【0009】の記載を整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項1及び2による特許請求の範囲の訂正に伴って、明細書の【0010】の記載を整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正事項1による特許請求の範囲の訂正に伴って、明細書の【0029】の記載を整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1?6は一群の請求項であるから、上記訂正事項1?5は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、項番に従って、「本件発明1」?「本件発明6」とする。)は,次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
(A)25℃における粘度が10?100,000mm^(2)/sである本質的に疎水性のオルガノポリシロキサン:100質量部、及び
(B)微粉末シリカ:1?20質量部
を含有する消泡剤用オイルコンパウンドであって、(B)成分の微粉末シリカは表面疎水化処理されたものであり、上記オイルコンパウンドからヘキサンを用いて分取した不溶成分について^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、シリカ表面のSiO_(4/2)(Q)単位に起因するピークのうち、未反応シラノール基を2個有するケイ素原子のピーク面積Q2及び未反応シラノール基を1個有するケイ素原子のピーク面積Q3の合計面積量(Q2+Q3)と、未反応シラノール基を持たないケイ素原子のピーク面積Q4との面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]が、70/30?20/80であり、かつ上記^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、微粉末シリカ表面のトリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)のピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90であることを特徴とする消泡剤用オイルコンパウンド。
【請求項2】
(A)成分と(B)成分とのアルカリ性触媒の存在下における混合物である請求項1記載の消泡剤用オイルコンパウンド。
【請求項3】
請求項1又は2記載のオイルコンパウンドを含むことを特徴とする消泡剤組成物。
【請求項4】
オイルコンパウンドを溶媒に分散した溶液型である請求項3記載の消泡剤組成物。
【請求項5】
オイルコンパウンドをポリオキシアルキレン基で変性したオルガノポリシロキサンと併用した自己乳化型である請求項3記載の消泡剤組成物。
【請求項6】
オイルコンパウンドを乳化したエマルジョン型である請求項3記載の消泡剤組成物。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、平成28年4月15日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。

(1)特許法第36条第6項2号
請求項2に係る発明は、「消泡剤用オイルコンパウンド」という物の発明であるが、製造に関して経時的な要素の記載又は技術的な特徴や条件が付された記載があって明確でないため、請求項2、及び請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3?6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

(2)特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項
請求項1,3?6に係る発明は、甲第2?5号証を参酌すると、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、あるいは、仮に相違点があったとしても、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
また、請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第12号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

甲第1号証 特開平2-180603号公報
甲第2号証 アエロジル社の商品名アエロジルR812 Sに関する製 品パンフレット、2013年8月
甲第3号証 甲第1号証の実施例1に記載の製造方法により「疎水性微 粉末シリカ」としてアエロジルR812を用いて製造した オイルコンパウンドの^(29)Si-CP/MAS-NMR分 析結果
甲第4号証 アエロジルR812の^(29)Si-CP/MAS-NMR分 析結果
甲第5号証 甲第3号証に関する説明
甲第12号証 特開2007-222812号公報

3 甲号証の記載
甲第1号証には、3ページ左上欄13?16行目,実施例1、及び「(消泡持続性試験)」の欄などの記載からみて、
「25℃における粘度が100cSであるジメチルポリシロキサン:200g、及び、
微粉末シリカ20g
を含有する消泡剤用オイルコンパウンドであって、
上記微粉末シリカは疎水化処理されたものである、
消泡剤用オイルコンパウンド。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

甲第2号証には、アエロジルR812 Sは、甲第1号証の出発材料であるアエロジル300Lにヘキサメチルジシラザン処理を施したものであることが記載されている。

甲第3,4号証には、甲第1号証の実施例1の追試により得られたオイルコンパウンドDE2575、及びアエロジルR812 Sの^(29)Si-CP/MAS-NMR分析によるスペクトルが、それぞれ記載されている。

甲第5号証には、甲第3号証で分析したオイルコンパウンドの製造条件が記載されている。

甲第12号証には、疎水性オルガノポリシロキサン、オルガノポリシロキサンで表面処理した微粉末シリカ、カリウムシリコネートなどのアルカリ性触媒を混合処理して、シリコーンオイルコンパウンドを得ることに関して記載されている。

4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 特許法第36条第6項2号について
上記訂正事項2により訂正された請求項2には、製造に関して経時的な要素の記載又は技術的な特徴や条件が付された記載はないから、本件発明2、及び本件発明2を直接的又は間接的に引用する本件発明3?6は、明確でないとはいえない。

イ 特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項について
(a)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、以下の点で相違している。

相違点:本件発明1は、「オイルコンパウンドからヘキサンを用いて分取した不溶成分について^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、シリカ表面のSiO_(4/2)(Q)単位に起因するピークのうち、未反応シラノール基を2個有するケイ素原子のピーク面積Q2及び未反応シラノール基を1個有するケイ素原子のピーク面積Q3の合計面積量(Q2+Q3)と、未反応シラノール基を持たないケイ素原子のピーク面積Q4との面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]が、70/30?20/80であり、かつ上記^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、微粉末シリカ表面のトリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)のピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90である」のに対し、 引用発明は、上記[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)で表されるそれぞれのピーク面積量の比の値は明らかでない点。

上記相違点について検討する。
特許異議申立人が、甲第2,5号証の記載を考慮して行った追試によると、引用発明のオイルコンパウンドは、[(Q2+Q3)/Q4]=0.95、及び(M/D)=1.8である。
一方、本件発明1は、(M/D)が、48/52?10/90(≒0.923?0.111)であるから、引用発明は、本件発明1のピーク面積量の比(M/D)を満たすものではない。
そうすると、上記相違点は、実質的な相違点である。

したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

次に、引用発明のオイルコンパウンドについて、どのように製造条件を設定すれば(M/D)を48/52?10/90の範囲となるように調節できるのかは、甲第1号証に何ら示唆されていない。
そして、本件特許明細書の【実施例】、及び平成28年6月13日付けで特許権者の提出した意見書に添付した実験成績証明書によれば、本件発明1の消泡剤用オイルコンパウンドは、ピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]を70/30?20/80、かつ(M/D)を48/52?10/90とすることにより、アルカリ性の発泡液中でも良好な初期消泡性を有し、経時での性能低下が少なく、消泡性能に優れたシリコーン系消泡剤用オイルコンパウンド及び消泡剤組成物を提供することができるという、甲第1号証からは予測し得ない効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

(b)本件発明2?6について
本件発明3?6は、本件発明1に係る消泡剤用オイルコンパウンドを特定事項として含むものであるから、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。
また、本件発明2は、甲第1号証及び甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

(2)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、平成28年8月18日付けで提出した意見書において、新たに甲第13?15号証を提示して、下記ア、イの理由により、訂正後の発明も、新規性がない旨主張している。

ア 甲第1号証の実施例2で用いられている 乾式微粉末シリカ アエロジルR-972は、本件特許のピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び訂正後のピーク面積量の比(M/D)を満たしている。

イ シリコンオイル等の各種オイルの消泡剤として使用されてきたSipernat D10は、本件特許のピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び訂正後のピーク面積量の比(M/D)を満たしている。

しかしながら、上記意見の内容は、実質的に新たな証拠(甲第13?15号証)に基づく申立理由を主張しているものであるから、これらを採用して判断することはできない。

なお、上記意見の適否について一応検討すると、上記アにおいて、上記乾式微粉末シリカのピーク面積量の比は、ジメチルポリシロキサンとの混合処理前の値であり、混合処理により得られたオイルコンパウンドに含まれる不溶成分の微粉末シリカについてのものではないから、実施例2で用いられる乾式微粉末シリカのピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)が、本件発明1のピーク面積比の値を満たすとしても、オイルコンパウンドに含有される微粉末シリカのピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)が、本件発明1の値を満たすとまではいえない。
このことは、甲第3,4号証において甲第1号証の実施例1の追試として示したアエロジルR812Sとジメチルポリシロキサンを混合処理して得られたオイルコンパウンドDE2575と、アエロジルR812Sの^(29)Si-CP/MAS-NMRの分析結果から算出されたそれぞれのピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)が異なることからも裏付けられる。
また、同様に、上記イについても、Sipernat D10のピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)が、本件発明1のピーク面積比の値を満たすとしても、オイルコンパウンドに含有される微粉末シリカのピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)が、本件発明1の値を満たすとまではいえない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、上記取消理由以外に、概ね以下の理由を申立てていた。

ア 特許法第29条第1項第3号及び同法第29条第2項
(a)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第6?8号証、又は甲第11号証に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(b)訂正前の請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である、あるいは甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、又は、甲第9号証の記載を参酌すると、甲第1号証に記載された発明である、あるいは甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(c)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証を参酌すると、甲第9号証、又は甲第10号証に記載された発明である、あるいは、甲第9号証、又は甲第10号証に記載された発明、及び甲第6?8号証、又は甲第11号証に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(d)訂正前の請求項2に係る発明は、甲第9号証に記載された発明である、又は、甲9号証を参酌すると、甲第10号証に記載された発明である、あるいは、甲第9号証、又は甲第10号証に記載された発明、及び甲12号証に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(e)訂正前の請求項3?6に係る発明は、甲第9号証、又は甲第10号証に記載された発明である、あるいは、甲第9号証、又は甲第10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
甲第6号証 H.El Rassy et al. "NMR and IR spectroscopy of silica
aerogels with different hydrophobic characteristics",
Journal of Non-Crystalline Solids
351 (2005) 1603-1610
甲第7号証 H.El Rassy et al. "Surface Characterization of Silica
Aerogels with Different Proportions of Hydrophobic
Groups, Dried by the CO_(2) Supercritical Method",
Langmuir 2003,19,358-363
甲第8号証 D.W.Sindorf et al. "^(29)Si CP/MAS NMR Studies of
Methylchlorosilane Reactions on Silica Gel",
J.Am.Chem.Soc. 1981,103,4263-4265
甲第9号証 特開昭51-70194号公報
甲第10号証 特開2009-219974号公報
甲第11号証 欧州特許出願公開第0924269号明細書

イ 特許法第36条第6項第2号
(a)請求項1の「粘度」、及び「^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトル」なる表現に関して、これらをどのような条件下で測定するのかについて請求項中に定義がないため発明の範囲が理解できず、発明の範囲が不明確である。また、請求項1を引用する請求項2-6も同様である。
(b)請求項1の「本質的に」なる文言からは、発明の範囲が理解できず、発明の範囲が不明確である。また、 請求項1を引用する請求項2-6も同様である。

ウ 特許法第36条第4項第1号
ピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)は、特許明細書【0031】に特定の製造温度での混合処理が有効であることが説明されているのみであり、温度以外の他の調節手段が必要であるとすると、当業者が請求項1-6に係る発明を実施することができない。

上記ア?ウについて検討する。
● ア(a),(b)について
特許異議申立人は、甲第6?8号証を参酌すると、甲第1号証に記載のオイルコンパウンドのピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)を確認することは当業者にとって何ら困難性はないから、訂正前の請求項1に係る発明は、甲1発明から容易に発明することができたと主張している。
しかし、上記4(1) イ(a)に記載のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。
また、特許異議申立人は、甲第11号証に記載のシリカは、訂正前の請求項1に係る発明の(M/D)比を満たし、[(Q2+Q3)/Q4]の比も満たす蓋然性が高いから、本件発明の「(B)微粉末シリカ」に相当し、甲1発明に、甲第11号証に開示されたシリカを適用することは、当業者が容易に想到し得たと主張している。
しかし、甲第11号証に記載のシリカが、上記[(Q2+Q3)/Q4]の比を満たす根拠は明らかでなく、また、上記4(2)に記載したように、
オイルコンパウンドに用いるシリカが本件発明1のピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)を満たしたとしても、オイルコンパウンドに含まれるシリカが、本件発明1の上記ピーク面積量の比を満たすとまではいえない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第11号証に記載の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。
さらに、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明である、あるいは甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、とはいえない。

● ア(c)?(e)について
特許異議申立人は、甲第9号証及び甲第10号証に記載のオイルコンパンウンドは、本件特許と同様に、(A)成分であるオルガノポリシロキサン、及び(B)成分である微粉末シリカの混合処理により得られるものであり、また、甲第1号証の実施例1と出発材料及び製造条件において近いから、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第9号証、又は甲第10号証に記載された発明であるとしている。
しかし、甲第1号証の実施例1のピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)は、本件発明1の値を満たすものではなく、製造方法が類似するとしても、甲第9号証及び甲第10号証に記載のオイルコンパウンドが、本件発明1のピーク面積量の比を満たすとはいえないから、本件発明1,及び本件発明2?6は、甲第9号証、又は甲第10号証に記載された発明である、とはいえない。
また、甲第9号証、甲第10号証、及びその他の証拠を参照したとしても、本件発明1?6の新規性進歩性を否定することはできない。

● イについて
(a)本件発明1で特定された「粘度」、及び「^(29)Si-CP/MAS-NMR」は、請求項中に定義はないが、「粘度」は、特許明細書【0016】,【0058】などにオストワルド粘度計について測定した25℃における値であることが、「^(29)Si-CP/MAS-NMR」は、【0058】に具体的な測定方法が記載されているものであり、発明の詳細な説明の記載を考慮すれば、請求項中に上記「粘度」、及び「^(29)Si-CP/MAS-NMR」が定義されていなくとも、それらの意味するところを十分に理解することができるから、本件発明1、及び本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?6は、明確でない、とはいえない。
(b)本件発明1の「本質的に疎水性のオルガノポリシロキサン」とは、オ
ルガノポリシロキサンが疎水性であることを意味していることは明らかであり、また、特許明細書【0013】には、「本質的に疎水性とは、一部の官能基に親水性基を含有してもオルガノポリシロキサン全体として疎水性を示すことである。」と定義されており、発明の詳細な説明の記載を考慮すれば、「本質的に」の意味するところを十分に理解することができるから、本件発明1、及び本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?6は、明確でない、とはいえない。

● ウについて
特許明細書【0031】,【0032】には、本件発明1のオイルコンパウンドの調製法が記載され、実施例1,3(【0059】,【0062】)には、上記調製法に沿ったシリコーンオイルコンパウンドの製造工程が具体的に記載され、上記[(Q2+Q3)/Q4]、及び(M/D)の値を満たすシリコーンオイルコンパウンドが得られたことが記載されているから、発明の詳細な説明は、本件発明1?6を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない、とはいえない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
消泡剤用オイルコンパウンド及び消泡剤組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ表面のシラノール基の疎水化処理度が一定の範囲にコントロールされたシリカを含有する消泡剤用オイルコンパウンドに関するもので、発泡液、特にアルカリ性の発泡液中でも初期消泡性や消泡持続性が優れる消泡剤用オイルコンパウンド、及びそれを含む消泡剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコーン系消泡剤は、化学工業、食品工業、石油工業、製紙工業、織物工業、医薬品工業等の発泡を伴う工程において広く使用されており、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルビニルポリシロキサン等のシリコーンオイルと微粉末シリカとを混合したオイルコンパウンド型消泡剤が汎用的に用いられてきた。
【0003】
また、実際の使用に際しては、前記オイルコンパウンド型消泡剤を界面活性剤と共に水中に分散してなるエマルジョン型消泡剤や、ポリオキシアルキレン基で変性されたオルガノポリシロキサンとオイルコンパウンドとを併用した自己乳化型消泡剤等が提案されているが(特許文献1?5:特開昭51-71886号公報、特公昭54-43015号公報、特公昭52-19836号公報、特公昭52-22638号公報、特公昭55-23084号公報)、それらの消泡性能は原料であるオイルコンパウンド型消泡剤に負うところが大きく、従来技術では消泡性能が不足することがあった。一例として、初期消泡性能の不足や、発泡液と長時間接触することで消泡性能が経時で低下するなどの問題が起こることがあり、このことは発泡液がアルカリ性の場合に特に顕著であった。
【0004】
これらの問題を改善し、消泡性能をより向上させるために様々な提案がなされており、例えばオイルコンパウンドに使用するシリカを予めクロロシラン等で疎水化しておく方法(特許文献6:特公昭52-31836号公報)、シリカを窒素含有有機珪素化合物で処理する方法(特許文献7:特公昭51-35556号公報)等が挙げられるが、性能的に十分ではなく、特に消泡性能の経時低下が発生することがあり、性能の更なる向上が求められてきた。
【0005】
最近ではこれらの問題に対し、疎水性オルガノポリシロキサンと、オルガノポリシロキサンで表面処理した微粉末シリカをアルカリ性触媒の存在下で混合処理することで耐アルカリ性を高めた自己乳化型消泡剤組成物(特許文献8:特許第4232031号公報)、エマルジョン型消泡剤組成物(特許文献9:特開2007-222812号公報)等が提案されてきた。
【0006】
これらの消泡剤組成物は高い消泡性能を有し、アルカリ性発泡液中での経時劣化が少ない等の耐アルカリ性も得ることができるが、発泡液のアルカリ性が非常に高かったり、発泡液に含まれる界面活性剤の量が多い、使用される工程における撹拌力が非常に強い等の過酷な条件に対しては性能が不足することがあり、更なる性能の向上が望まれていた。また、これまでの消泡剤組成物では消泡性能を確認する定量的な評価方法が無く、評価はその都度、実際の使用条件又はそれに近似した条件での性能確認を行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭51-71886号公報
【特許文献2】特公昭54-43015号公報
【特許文献3】特公昭52-19836号公報
【特許文献4】特公昭52-22638号公報
【特許文献5】特公昭55-23084号公報
【特許文献6】特公昭52-31836号公報
【特許文献7】特公昭51-35556号公報
【特許文献8】特許第4232031号公報
【特許文献9】特開2007-222812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、発泡液、特にアルカリ性の発泡液中でも初期消泡性が良好で且つ経時劣化が少なく、消泡性能に優れたオイルコンパウンド、及びこのオイルコンパウンドを含有する消泡剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、微粉末シリカとして、表面シラノール基が疎水化処理されたものであって、^(29)Si-CP/MAS(Cross Polarization)/(Magic Angle Spinning)-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、シリカ表面のSiO_(4/2)(Q)単位に起因するピークのうち、未反応シラノール基を2個有するケイ素原子のピーク面積Q2及び未反応シラノール基を1個有するケイ素原子のピーク面積Q3の合計面積量(Q2+Q3)と、未反応シラノール基を持たないケイ素原子のピーク面積Q4との面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]の値が70/30?20/80であり、好ましくはシリカ表面のトリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)のピーク面積量の比(M/D)の値が48/52?10/90であるシリカを含有するオイルコンパウンドが、アルカリ性の発泡液中でも初期消泡性が良好且つ経時での性能低下が少なく、消泡性能に優れることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
従って、本発明は、下記に示す消泡剤用オイルコンパウンド及びこれを含む消泡剤組成物を提供する。
請求項1:
(A)25℃における粘度が10?100,000mm^(2)/sである本質的に疎水性のオルガノポリシロキサン:100質量部、及び
(B)微粉末シリカ:1?20質量部
を含有する消泡剤用オイルコンパウンドであって、(B)成分の微粉末シリカは表面疎水化処理されたものであり、上記オイルコンパウンドからヘキサンを用いて分取した不溶成分について^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、シリカ表面のSiO_(4/2)(Q)単位に起因するピークのうち、未反応シラノール基を2個有するケイ素原子のピーク面積Q2及び未反応シラノール基を1個有するケイ素原子のピーク面積Q3の合計面積量(Q2+Q3)と、未反応シラノール基を持たないケイ素原子のピーク面積Q4との面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]が、70/30?20/80であり、かつ上記^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、微粉末シリカ表面のトリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)のピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90であることを特徴とする消泡剤用オイルコンパウンド。
請求項2:
(A)成分と(B)成分とのアルカリ性触媒の存在下における混合物である請求項1記載の消泡剤用オイルコンパウンド。
請求項3:
請求項1又は2記載のオイルコンパウンドを含むことを特徴とする消泡剤組成物。
請求項4:
オイルコンパウンドを溶媒に分散した溶液型である請求項3記載の消泡剤組成物。
請求項5:
オイルコンパウンドをポリオキシアルキレン基で変性したオルガノポリシロキサンと併用した自己乳化型である請求項3記載の消泡剤組成物。
請求項6:
オイルコンパウンドを乳化したエマルジョン型である請求項3記載の消泡剤組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリ性の発泡液中でも良好な初期消泡性を有し、経時での性能低下が少なく、消泡性能に優れたシリコーン系消泡剤用オイルコンパウンド及び消泡剤組成物を提供することができる。また、その消泡性能の定量的な評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られたオイルコンパウンド中の不溶成分の^(29)Si-CP/MAS-NMRスペクトルを示すチャートである。
【図2】実施例3で得られたオイルコンパウンド中の不溶成分の^(29)Si-CP/MAS-NMRスペクトルを示すチャートである。
【図3】参考例1で得られたオイルコンパウンド中の不溶成分の^(29)Si-CP/MAS-NMRスペクトルを示すチャートである。
【図4】比較例1で得られたオイルコンパウンド中の不溶成分の^(29)Si-CP/MAS-NMRスペクトルを示すチャートである。
【図5】比較例3で得られたオイルコンパウンド中の不溶成分の^(29)Si-CP/MAS-NMRスペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
(A)成分
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、本質的に疎水性のものである。ここで、本質的に疎水性とは、一部の官能基に親水性基を含有してもオルガノポリシロキサン全体として疎水性を示すことである。
【0014】
本質的に疎水性のオルガノポリシロキサン(A)は、直鎖状のものでも分岐状のものでもよいが、特に下記平均組成式(I)で示されるものが好適である。
R^(1)_(m)SiO_((4-m)/2) (I)
【0015】
上記式(I)において、R^(1)は置換もしくは非置換の炭素数1?18の一価炭化水素基であり、これらは同一であっても異なっていてもよい。R^(1)の一価炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、スチリル基、α-メチルスチリル基等のアラルキル基など、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、水酸基等で置換したクロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、3-アミノプロピル基、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピル基等が挙げられるが、消泡性及び経済性の面から全R^(1)の80モル%以上、特に90モル%以上がメチル基であることが好ましい。また、mは1.9≦m≦2.2、好ましくは1.95≦m≦2.15の正数である。なお、オルガノポリシロキサンの末端は、R^(1)_(3)Si-で示されるトリオルガノシリル基で封鎖されていても、(HO)R^(1)_(2)Si-で示されるジオルガノヒドロキシシリル基で封鎖されていてもよい。
【0016】
この本質的に疎水性のオルガノポリシロキサン(A)のオストワルド粘度計により測定した25℃における粘度は、消泡性、作業性の面から10?100,000mm^(2)/sであり、好ましくは50?30,000mm^(2)/sである。10mm^(2)/s未満では消泡性能が劣り、100,000mm^(2)/sを超えるとシリコーンオイルコンパウンドの粘度が増大して作業性が悪くなる。
【0017】
(B)成分
(B)成分の微粉末シリカは公知のものでよく、例えば、煙霧質シリカ、沈降シリカ、焼成シリカ等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。微粉末シリカの比表面積(BET法)は50m^(2)/g以上であることが好ましく、より好ましくは100?700m^(2)/g、更に好ましくは150?500m^(2)/gである。比表面積が50m^(2)/g未満では好ましい消泡性能が得られない場合がある。
【0018】
本発明においては、微粉末シリカとして、消泡性の点からその表面を疎水化処理したものが用いられる。
【0019】
微粉末シリカの添加量は、オルガノポリシロキサン(A)100質量部に対して1?20質量部、好ましくは5?15質量部である。添加量が1質量部未満では消泡性能が劣り、20質量部より多いと、シリコーンオイルコンパウンドの粘度が増加して作業性が悪くなる。
【0020】
ここで、微粉末シリカの表面処理状態、及びその測定方法について説明する。
ケイ素の固体NMR測定法には、^(29)Si-DD/MAS(Dipolar Decoupled/Magic Angle Spinning)-NMR法と、^(29)Si-CP/MAS-NMR法があるが、このうち^(29)Si-DD/MAS-NMR法は全てのケイ素原子が測定されるという特徴がある。これに対し、^(29)Si-CP/MAS-NMR法は水素原子核を励起し、近隣のケイ素原子核へと磁化移動を行い、磁化移動されたケイ素原子核のみを検出する。磁化移動に要する時間(contact time)を5ms程度に設定すると、検出されるケイ素が大幅に限定され、水素が近傍にないケイ素及びオイル状など運動性の高いケイ素は検出され難くなるという特徴がある。
【0021】
そのため、微粉末シリカを^(29)Si-CP/MAS-NMR法で測定すると、シリカ内部のケイ素は水素が近傍にないため検出されないのに対し、シリカ表面のケイ素はシラノール基又はシラノール基に固定された表面処理基の形で水素が近傍に存在するため検出できる。このことを利用してシリカ表面のケイ素のみを選択的に測定することができ、微粉末シリカの表面状態を定量的に評価することができる。
【0022】
また、^(29)Si-CP/MAS-NMRでは、微粉末シリカに固定された表面処理基も選択的に検出することができる。
【0023】
なお、シラノール基と反応せず、シリカ表面に固定化されていない表面処理剤や、オイル成分等は水素原子核からの磁化移動が十分にできないため、^(29)Si-CP/MAS-NMR法では感度が低く、ほとんど検出されることはない。
ここで、^(29)Si-CP/MAS-NMR分析するに際しては、シリコーンオイルコンパウンド10gにヘキサン100mLを添加し、3時間振とう分散後、10,000rpm×15分の遠心分離を行い、得られた不溶成分(微粉末シリカ)を100℃にて30分乾燥した後、NMR測定することが有効である。
【0024】
^(29)Si-CP/MAS-NMR法で測定したスペクトルは、TMS(テトラメチルシラン)基準で概ね以下のように帰属することができる。
25?-10ppm;R^(2)R^(3)R^(4)SiO_(1/2)[トリオルガノシロキシ単位:Mと略記](R^(2)、R^(3)、R^(4);-H、-CH_(3)、-C_(2)H_(5)、-CH=CH_(2)、-C_(6)H_(5)等)
-10?-50ppm;R^(2)R^(3)SiO_(2/2)[ジオルガノシロキシ単位:Dと略記](R^(2)、R^(3);-H、-CH_(3)、-C_(2)H_(5)、-CH=CH_(2)、-C_(6)H_(5)等)
-50?-85ppm;R^(2)SiO_(3/2)[モノオルガノシロキシ単位:Tと略記](R^(2);-H、-CH_(3)、-C_(2)H_(5)、-CH=CH_(2)、-C_(6)H_(5)等)
-85?-120ppm;SiO_(4/2)[Qと略記]
【0025】
これらのうちSiO_(4/2)単位については、未反応シラノール基を2つ持つケイ素原子のピークQ2、未反応シラノール基を1つ持つケイ素原子のピークQ3、未反応シラノール基を持たないケイ素原子のピークQ4がそれぞれ観測され、TMS基準の帰属は概ね以下のとおりである。
-85?-95ppm;Q2
-95?-105ppm;Q3
-105?-120ppm;Q4
【0026】
ここで、Q4は全てのシラノール基を表面処理剤等で反応させたものであり、一般的にはシリカの表面処理剤は疎水化剤であることから、Q4の含有量が多ければ多いほどシリカ全体の疎水化度は高くなるということができる。
【0027】
即ち、^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定された、シリカ表面の未反応シラノール基のピーク面積量の合計(Q2+Q3)と、表面疎水化剤と反応して未反応シラノール基を持たないシリカ表面のシラノール基(Q4)のピーク面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]で、微粉末シリカの疎水化度を表すことができる。また、その値が大きいほど疎水化度は低くなり、小さいほど疎水化度は高くなる。
【0028】
この(Q2+Q3)/Q4が、70/30?20/80、好ましくは65/35?30/70、より好ましくは60/40?40/60である微粉末シリカを用いると良好な消泡性能が得られる。70/30より大きいと微粉末シリカの疎水化度が低く、即ちシリカの親水性が高いため、十分な消泡性能が得られず、特にアルカリ性発泡液中での消泡持続性が劣る。また、20/80より小さいものを得ることは表面処理剤の立体障害から製造上困難である。
【0029】
また、^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定された、トリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)のピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90、好ましくは48/52?20/80、より好ましくは48/52?30/70である微粉末シリカを用いると良好な消泡性能が得られる。80/20より大きいと、又は10/90より小さいと良好な消泡性が得られず、特にアルカリ性発泡液に添加した直後の消泡性能、即ち初期消泡性が劣る場合がある。
【0030】
本発明の微粉末シリカとしては、上述したように、表面が疎水化処理されたものを用いるが、微粉末シリカ表面の疎水化処理は従来公知の方法によって、即ち、オルガノクロロシラン、オルガノアルコキシシラン、オルガノジシラザン、オルガノポリシロキサン、オルガノハイドロジェンシラン等の有機ケイ素化合物(表面疎水化処理剤)で親水性シリカを処理することによって行うことができる。この場合、このようにあらかじめ表面処理した微粉末シリカを使用し得るが、本発明においては、好ましくはこのようにあらかじめ表面疎水化処理された又は表面疎水化処理されていない微粉末シリカを上記(A)成分と混合することで、微粉末シリカを更に表面処理し、(Q2+Q3)/Q4及びM/Dを上述した値とすることが好ましい。
【0031】
この場合、(Q2+Q3)/Q4及びM/Dを上述した値とするには、(A),(B)成分を混合してオイルコンパウンドを製造する際に、必要に応じて上記表面疎水化処理剤を添加し、室温(25℃)?200℃、好ましくは100?200℃、更に好ましくは120?180℃の温度で混合処理することが有効である。また、必要に応じて上記のシリカ表面処理に用いられる有機ケイ素化合物や、(B)成分の表面に(A)成分を反応吸着させて良好な疎水化処理を行うためのアルカリ性触媒を添加し、微粉末シリカの処理を並行して行うこともできる。アルカリ性触媒を添加した条件では、必要に応じて混合処理を行った後に中和剤を添加して中和反応を行うことができ、また濾過工程による中和塩等の除去を行うこともできる。また、必要に応じて、減圧留去により未反応の有機ケイ素化合物、及び低沸点留分の除去を行うことができる。
【0032】
なお、混合処理時間は10分?5時間、特に1?3時間とすることが好ましい。また、混合処理は窒素等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0033】
前記アルカリ性触媒としては、ポリシロキサンの転移反応に用いられる公知のアルカリ性触媒である、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド又はシリコネートを用いることができ、好ましくはカリウムシリコネート及び水酸化カリウムである。
【0034】
アルカリ性触媒の使用量は、オルガノポリシロキサン(A)100質量部に対して0.001?5質量部、好ましくは0.01?3質量部、より好ましくは0.05?2質量部である。0.001質量部未満では触媒としての効果が弱い場合があり、5質量部を超える量でも触媒の効果は大きく向上しないため、コスト的に不利になる場合がある。
【0035】
本発明の製造方法において、混練を行うために使用される混練機としては、例えばゲートミキサー、ニーダー、加圧ニーダー、二軸混練機、インテンシブミキサー等が挙げられるが、特に限定されない。これら混練機は、(A),(B)成分の混合処理やシリカの表面処理、その後の中和工程等、いずれの工程においても使用することができる。
【0036】
消泡剤組成物
上記の工程で得られたシリコーンオイルコンパウンドは、そのまま使用されるか、あるいはこのシリコーンオイルコンパウンドを含む消泡剤組成物、具体的には、適当な溶媒に分散した溶液型消泡剤組成物、ポリオキシアルキレン基で変性されたオルガノポリシロキサンとの併用による自己乳化型消泡剤組成物、又は周知の乳化技術によって得られるエマルジョン型消泡剤組成物等として使用することができる。
【0037】
ここで、適当な溶媒に分散した溶液型消泡剤組成物とする場合、溶媒としては、(A)成分である本質的に疎水性のオルガノポリシロキサンが溶解する溶媒、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、クロロホルム、2-ブタノン、4-メチル-2-ペンタノン等が挙げられる。
【0038】
溶液型消泡剤組成物とする場合、シリコーンオイルコンパウンドの含有量は、消泡剤組成物全体の5?80質量%であることが好ましく、より好ましくは30?70質量%である。シリコーンオイルコンパウンドの含有量が少なすぎると消泡剤組成物としての消泡性能が劣る場合があり、多すぎるとオイルコンパウンド成分の分散性を高めるという溶液型消泡剤組成物の主目的を満足できない場合がある。
【0039】
また、ポリオキシアルキレン基で変性されたオルガノポリシロキサンとの併用による自己乳化型消泡剤組成物とする場合、ポリオキシアルキレン基で変性されたオルガノポリシロキサンとしては、下記一般式(II)で示されるものが挙げられる。
R^(5)_(2)R^(7)SiO-(R^(5)_(2)SiO)_(x)-(R^(5)R^(6)SiO)_(y)-SiR^(5)_(2)R^(7) (II)
【0040】
上記式(II)中、R^(5)は互いに同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1?18の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、スチリル基、α-メチルスチリル基等のアラルキル基など、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基、アミノ基等で置換したクロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、3-アミノプロピル基、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピル基等の一価炭化水素基が挙げられる。
【0041】
また、R^(6)は下記一般式(III)で示されるポリオキシアルキレン基である。
-R^(8)-O(CH_(2)CH_(2)O)_(a)-(CH_(2)(CH_(3))CHO)_(b)-R^(9) (III)
上記式(III)中、R^(8)は炭素数2?6の二価炭化水素基であり、アルキレン基、アルケニレン基等が挙げられ、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。また、R^(9)は水素原子、炭素数1?6のアルキル基、アセチル基又はイソシアン基であり、アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。a及びbは3≦a+b≦80、好ましくは5≦a+b≦60、かつa/b=2/8?8/2、好ましくはa/b=2.5/7.5?7.5/2.5を満たす正数である。
【0042】
一方、R^(7)はR^(5)もしくはR^(6)と同様の基、水酸基又は炭素数1?6のアルコキシ基であり、具体的には前記のR^(5)及びR^(6)として例示した基、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
なお、上記式(II)中のxは5?200、好ましくは20?150の整数であり、yは1?30、好ましくは1?20の整数である。
【0043】
このポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても、2種以上の混合物を用いてもよいが、オストワルド粘度計により測定した25℃における粘度が、10?10,000mm^(2)/s、好ましくは50?8,000mm^(2)/s、更に好ましくは500?5,000mm^(2)/sであるものを用いることができる。
【0044】
ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンの具体例としては、次のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(CH_(3))_(3)SiO-[(CH_(3))_(2)SiO]_(30)-[(CH_(3))R’SiO]_(5)-Si(CH_(3))_(3)
R’:-C_(3)H_(6)O-(C_(2)H_(4)O)_(30)-(C_(3)H_(6)O)_(10)-C_(4)H_(9)、
(CH_(3))_(3)SiO-[(CH_(3))_(2)SiO]_(30)-[(CH_(3))R’SiO]_(3)-Si(CH_(3))_(3 ) R’:-C_(3)H_(6)O-(C_(2)H_(4)O)_(20)-(C_(3)H_(6)O)_(20)-C_(4)H_(9)、
(CH_(3))_(3)SiO-[(CH_(3))_(2)SiO]_(40)-[(CH_(3))R’SiO]_(4)-Si(CH_(3))_(3)
R’:-C_(3)H_(6)O-(C_(2)H_(4)O)_(21)-(C_(3)H_(6)O)_(7)-COCH_(3)、
(CH_(3))_(3)SiO-[(CH_(3))_(2)SiO]_(50)-[(CH_(3))R’’SiO]_(6)-[(CH_(3))R’’’SiO]_(1)-Si(CH_(3))_(3)
R’’:-C_(3)H_(6)O-(C_(2)H_(4)O)_(32)-(C_(3)H_(6)O)_(8)-C_(4)H_(9)
R’’’:-C_(12)H_(25)、
(CH_(3))_(3)SiO-[(CH_(3))_(2)SiO]_(135)-[(CH_(3))R’SiO]_(15)-Si(CH_(3))_(3)
R’:-C_(3)H_(6)O-(C_(2)H_(4)O)_(21)-(C_(3)H_(6)O)_(21)-CH_(3)、
(CH_(3))_(3)SiO-[(CH_(3))_(2)SiO]_(30)-[(CH_(3))R’SiO]_(5)-Si(CH_(3))_(3)
R’:-C_(3)H_(6)O-(C_(2)H_(4)O)_(25.5)-(C_(3)H_(6)O)_(8.5)-C_(4)H_(9)、
(CH_(3))_(3)SiO-[(CH_(3))_(2)SiO]_(27)-[(CH_(3))R’SiO]_(3)-Si(CH_(3))_(3)
R’:-C_(3)H_(6)O-(C_(2)H_(4)O)_(23)-(C_(3)H_(6)O)_(23)-C_(4)H_(9)
【0045】
また、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンとの併用による自己乳化型消泡剤組成物には、
HO-[CH_(2)(CH_(3))CHO]_(35)-H、
HO-[CH_(2)(CH_(3))CHO]_(70)-H、
HO-(CH_(2)CH_(2)O)_(4)-[CH_(2)(CH_(3))CHO]_(30)-H、
HO-(C_(2)H_(4)O)_(25)-(C_(3)H_(6)O)_(35)-H、
HO-(C_(3)H_(6)O)_(30)-H、
CH_(2)=CHCH_(2)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(32)-[CH_(2)(CH_(3))CHO]_(8)-H、
CH_(2)=CHCH_(2)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(22)-[CH_(2)(CH_(3))CHO]_(22)-C_(4)H_(9)、
CH_(2)=CHCH_(2)O-(CH_(2)CH_(2)O)_(10)-CH_(3)
で例示されるようなポリオキシアルキレン重合体や、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油等の非イオン性界面活性剤を用いてもよい。なお、上記に例示した組成式は一例であり、本発明を制限するものではない。
【0046】
また、自己乳化型消泡剤組成物とする場合、シリコーンオイルコンパウンドの含有量は、消泡剤組成物全体の5?80質量%であることが好ましく、より好ましくは10?70質量%であり、更に好ましくは20?60質量%である。シリコーンオイルコンパウンドの含有量が少なすぎると消泡剤組成物としての消泡性能が劣る場合があり、多すぎるとオイルコンパウンド成分の分散性を高めるという自己乳化型消泡剤組成物の主目的を満足できない場合がある。
【0047】
ポリオキシアルキレン重合体や非イオン性界面活性剤の使用量は0?90質量%、特に0?70質量%が好ましく、またポリオキシアルキレン基で変性されたオルガノポリシロキサンの使用量は残部であるが、消泡剤組成物全体の少なくとも20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であることが好ましい。
【0048】
更に、エマルジョン型消泡剤組成物とする場合、公知の方法を用いることができるが、シリコーンオイルコンパウンドを乳化する乳化剤としては、上述したポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンや、ポリオキシアルキレン重合体、非イオン性界面活性剤等を使用することができる。
【0049】
エマルジョン型消泡剤組成物において、上記ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても、2種以上の混合物を用いてもよいが、その含有量は消泡剤組成物全体の0?30質量%であることが好ましく、より好ましくは1?20質量%である。含有量が30質量%を超えると組成物の消泡性能が悪くなる場合がある。
【0050】
また、エマルジョン型消泡剤組成物において、上記ポリオキシアルキレン重合体は、乳化助剤となるもので、1種単独で用いても、2種以上の混合物を用いてもよいが、その含有量は消泡剤組成物全体の0?40質量%であることが好ましく、より好ましくは0?20質量%である。含有量が40質量%を超えると組成物の乳化特性が悪くなる場合がある。なお、配合する場合は有効量とすることができるが、5質量%以上配合することが好ましい。
【0051】
更に、エマルジョン型消泡剤組成物において、上記非イオン性界面活性剤は、シリコーンオイルコンパウンドを水に分散させるためのものであり、1種単独で用いても、2種以上の混合物を用いてもよいが、この含有量は消泡剤組成物全体の0?20質量%であることが好ましく、より好ましくは1?10質量%である。20質量%を超えると消泡剤組成物の粘度が高くなり、作業性が悪くなる場合がある。
【0052】
上記ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシアルキレン重合体、非イオン性界面活性剤等の乳化剤の合計量は、消泡剤組成物全体の1?40質量%、より好ましくは5?20質量%であることが好ましい。
【0053】
また、エマルジョン型消泡剤組成物とする場合、シリコーンオイルコンパウンドの含有量は、消泡剤組成物全体の5?50質量%であることが好ましく、より好ましくは10?40質量%である。シリコーンオイルコンパウンドの含有量が少なすぎると消泡剤組成物としての消泡性能が劣る場合があり、多すぎると消泡剤組成物の粘度が高くなり、作業性が悪くなる場合がある。
【0054】
エマルジョン型消泡剤組成物においては、シリコーンオイルコンパウンド、ポリオキシアルキレン変性オルガノポリシロキサン、ポリオキシアルキレン重合体、非イオン性界面活性剤等の各成分を乳化するのに必要な水を添加する必要があり、その量は各成分の含有割合の合計に対する残部であり、好ましくは各成分の合計100質量部に対して50?2,000質量部、より好ましくは80?400質量部となるように添加する。
【0055】
なお、エマルジョン型消泡剤組成物は、水以外の各成分の所定量を混合し、必要に応じて加熱しながら、公知の方法、例えばホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル等の混合・分散機により撹拌・乳化することにより調製することができるが、特に水以外の各成分の所定量を均一に混合・分散させた後、水の一部を添加し、撹拌・乳化を行った後に更に残りの水を加え、均一に撹拌・混合して調製する方法が好ましい。
【0056】
また、エマルジョン型消泡剤組成物には、防腐の目的で少量の保存料・殺菌料を任意で添加してもよい。この保存料・殺菌料の具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラベン類、イソチアゾリン化合物等が挙げられる。この添加量は、エマルジョン型消泡剤組成物全体の0?0.5質量%、特に0.005?0.5質量%が好ましい。
【0057】
また、エマルジョン型消泡剤組成物には、増粘の目的で少量の増粘剤を任意で添加してもよい。この増粘剤の具体例としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸・メタクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、キサンタンガム、グアーガム等が挙げられる。この添加量は、エマルジョン型消泡剤組成物全体の0?1.0質量%、特に0.01?0.5質量%が好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、粘度はオストワルド粘度計により測定した25℃における値である。
また、^(29)Si-CP/MAS-NMR分析は以下のようにして行った。
試料(オイルコンパウンド)10gに溶剤(ヘキサン)100mLを添加し、3時間振とう分散後、10,000rpm×15分の遠心分離を行った。不溶成分を100℃にて30分乾燥した後、NMR測定した。
[NMR測定条件]
装置 Bruker社AVANCE700
プローブ Bruker社 4mmφCP/MASプローブ
^(29)Si核測定周波数 139.1MHz
観測幅 52kHz
測定法 CP/MAS法
コンタクトタイム 5ms
繰り返し時間 5s
積算回数 5,000?10,000回
試料量 約0.1g
試料回転数 8,000Hz
温度 室温
【0059】
[実施例1]
本質的に疎水性のオルガノポリシロキサンとして、粘度が10,000mm^(2)/sの分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部、微粉末シリカとして、アエロジル(Aerosil)R812[日本アエロジル社製、比表面積260m^(2)/g]を5質量部、アルカリ性触媒として水酸化カリウムを3質量%含有するカリウムシリコネート1質量部を用い、窒素ガス雰囲気下、ゲートミキサーを使用して150℃、3時間混練した。100℃以下に冷却後、2-クロロエタノールで中和し、次いで低沸点留分の除去を行い、シリコーンオイルコンパウンド(a-1)を得た。
ヘキサンを用いてオイルコンパウンド(a-1)から不溶成分を分取し、^(29)Si-CP/MAS-NMR(BRUKER社製、型番AVANCE700、700MHz)によって不溶成分の測定を行ったところ、(Q2+Q3)/Q4=47/53、M/D=35/65だった。図1にチャートを示す。
【0060】
このシリコーンオイルコンパウンド(a-1)30質量部に、平均組成が下記式
R^(5)_(2)R^(7)SiO-(R^(5)_(2)SiO)_(x)-(R^(5)R^(6)SiO)_(y)-SiR^(5)_(2)R^(7)
(但し、R^(5)及びR^(7)は-CH_(3)、R^(6)は-C_(3)H_(6)O(C_(2)H_(4)O)_(21)(C_(3)H_(6)O)_(21)CH_(3)、xは135、yは15である。)
で表され、且つ粘度が2,500mm^(2)/sであるポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサン(a-2)70質量部を室温で混合して消泡剤組成物(A)を調製した。
【0061】
[実施例2]
実施例1のシリコーンオイルコンパウンド(a-1)20質量部とソルビタンモノステアレート4質量部とポリオキシエチレン(55)モノステアレート6質量部の混合物を加熱溶解後、水70質量部を加え、ホモミキサーで撹拌、乳化して消泡剤組成物(B)を調製した。
【0062】
[実施例3]
本質的に疎水性のオルガノポリシロキサンとして、粘度が8,000mm^(2)/sでCH_(3)SiO_(3/2)単位を0.01モル分率含有する分岐状の分子鎖末端がトリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部、微粉末シリカとしてニプシル(Nipsil)HD-2[東ソーシリカ社製、比表面積300m^(2)/g]を12質量部、シリカ表面処理剤としてヘキサメチルジシラザン1.0質量部を添加し、窒素ガス雰囲気下、ゲートミキサーを使用して150℃で1時間混練した。100℃以下に冷却後、更にヘキサメチルジシラザン1.8質量部を添加し、150℃で3時間混練した。冷却後にナイロンメッシュで濾過を行い、シリコーンオイルコンパウンド(c-1)を得た。
ヘキサンを用いてオイルコンパウンド(c-1)から不溶成分を分取し、^(29)Si-CP/MAS-NMRによって不溶成分の測定を行ったところ、(Q2+Q3)/Q4=63/37、M/D=48/52だった。図2にチャートを示す。
【0063】
このシリコーンオイルコンパウンド(c-1)30質量部に、平均組成が下記式
R^(5)_(2)R^(7)SiO-(R^(5)_(2)SiO)_(x)-(R^(5)R^(6)SiO)_(y)-SiR^(5)_(2)R^(7)
(但し、R^(5)及びR^(7)は-CH_(3)、R^(6)は-C_(3)H_(6)O(C_(2)H_(4)O)_(25.5)(C_(3)H_(6)O)_(8.5)C_(4)H_(9)、xは30、yは5である。)
で表され、且つ粘度が1,000mm^(2)/sであるポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサン(c-2)50質量部と、平均組成が下記式
HO-(C_(2)H_(4)O)_(25)-(C_(3)H_(6)O)_(35)-H
で表されるポリオキシアルキレン重合体(c-3)20質量部を室温で混合して消泡剤組成物(C)を調製した。
【0064】
[参考例1]
本質的に疎水性のオルガノポリシロキサンとして、粘度が10,000mm^(2)/sの分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部、微粉末シリカとして、アエロジル(Aerosil)R202[日本アエロジル社製、比表面積100m^(2)/g]を8質量部、アルカリ性触媒として水酸化カリウム0.005質量部を用い、窒素ガス雰囲気下、ゲートミキサーを使用して150℃、3時間混練した。100℃以下に冷却後、コハク酸0.03質量部で中和し、次いでナイロンメッシュで濾過を行い、シリコーンオイルコンパウンド(d-1)を得た。
ヘキサンを用いてオイルコンパウンド(d-1)から不溶成分を分取し、^(29)Si-CP/MAS-NMRによって不溶成分の測定を行ったところ、(Q2+Q3)/Q4=42/58、M/D=0/100だった。図3にチャートを示す。
【0065】
このシリコーンオイルコンパウンド(d-1)30質量部に、平均組成が下記式
R^(5)_(2)R^(7)SiO-(R^(5)_(2)SiO)_(x)-(R^(5)R^(6)SiO)_(y)-SiR^(5)_(2)R^(7)
(但し、R^(5)及びR^(7)は-CH_(3)、R^(6)は-C_(3)H_(6)O(C_(2)H_(4)O)_(23)(C_(3)H_(6)O)_(23)C_(4)H_(9)、xは27、yは3である。)
で表され、且つ粘度が1,700mm^(2)/sであるポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサン(d-2)50質量部と、平均組成が下記式
HO-(C_(3)H_(6)O)_(30)-H
で表されるポリオキシプロピレン重合体(d-3)20質量部を室温で混合して消泡剤組成物(D)を調製した。
【0066】
[参考例2]
参考例1のシリコーンオイルコンパウンド(d-1)20質量部とソルビタンモノステアレート6質量部とポリオキシエチレン(55)モノステアレート6質量部の混合物を加熱溶解後、水68質量部を加え、ホモミキサーで撹拌、乳化して消泡剤組成物(E)を調製した。
【0067】
[比較例1]
本質的に疎水性のオルガノポリシロキサンとして、粘度が10,000mm^(2)/sの分子鎖両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部、微粉末シリカとして、アエロジル(Aerosil)R812[日本アエロジル社製、比表面積260m^(2)/g]を5質量部用い、窒素ガス雰囲気下、ゲートミキサーを使用して150℃、3時間混練してシリコーンオイルコンパウンド(f-1)を得た。
ヘキサンを用いてオイルコンパウンド(f-1)から不溶成分を分取し、^(29)Si-CP/MAS-NMRによって不溶成分の測定を行ったところ、(Q2+Q3)/Q4=72/28、M/D=100/0だった。図4にチャートを示す。
【0068】
このシリコーンオイルコンパウンド(f-1)30質量部に、平均組成が下記式
R^(5)_(2)R^(7)SiO-(R^(5)_(2)SiO)_(x)-(R^(5)R^(6)SiO)_(y)-SiR^(5)_(2)R^(7)
(但し、R^(5)及びR^(7)は-CH_(3)、R^(6)は-C_(3)H_(6)O(C_(2)H_(4)O)_(21)(C_(3)H_(6)O)_(21)CH_(3)、xは135、yは15である。)
で表され、且つ粘度が2,500mm^(2)/sであるポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサン(f-2)70質量部を室温で混合して消泡剤組成物(F)を調製した。
【0069】
[比較例2]
比較例1のシリコーンオイルコンパウンド(f-1)20質量部とソルビタンモノステアレート4質量部とポリオキシエチレン(55)モノステアレート6質量部の混合物を加熱溶解後、水68質量部を加え、ホモミキサーで撹拌、乳化して消泡剤組成物(G)を調製した。
【0070】
[比較例3]
本質的に疎水性のオルガノポリシロキサンとして、粘度が8,000mm^(2)/sでCH_(3)SiO_(3/2)単位を0.01モル分率含有する分岐状の分子鎖末端がトリメチルシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン100質量部、微粉末シリカとして、ニプシル(Nipsil)HD-2[東ソーシリカ社製、比表面積300m^(2)/g]を12質量部を用い、窒素ガス雰囲気下、ゲートミキサーを使用して150℃、3時間混練してシリコーンオイルコンパウンド(h-1)を得た。
ヘキサンを用いてオイルコンパウンド(h-1)から不溶成分を分取し、^(29)Si-CP/MAS-NMRによって不溶成分の測定を行ったところ、(Q2+Q3)/Q4=88/12、M/Dはシリカ表面処理が成されていないため、共に0だった。図5にチャートを示す。
【0071】
このシリコーンオイルコンパウンド(h-1)30質量部に、平均組成が下記式
R^(5)_(2)R^(7)SiO-(R^(5)_(2)SiO)_(x)-(R^(5)R^(6)SiO)_(y)-SiR^(5)_(2)R^(7)
(但し、R^(5)及びR^(7)は-CH_(3)、R^(6)は-C_(3)H_(6)O(C_(2)H_(4)O)_(21)(C_(3)H_(6)O)_(21)CH_(3)、xは135、yは15である。)
で表され、且つ粘度が2,500mm^(2)/sであるポリオキシアルキレン変性オルガノシロキサン(h-2)70質量部を室温で混合して消泡剤組成物(H)を調製した。
【0072】
実施例1?3、参考例1,2及び比較例1?3で得られた消泡剤組成物(A)?(H)について、下記方法により評価した。結果を表1に示す。
[評価方法]
消泡性(初期):
市販の水性切削油剤(ユシロ化学工業(株)製、ユシローケンFGE234)に各消泡剤サンプルを有効成分量で0.2質量%添加したものを水で30倍に希釈し、1Lビーカー中でホモミキサーにより8,000rpm×10分間撹拌した。10分間撹拌したときの液+泡の体積(mL)と、撹拌停止から完全に泡が消えるまでの時間を測定した。
【0073】
消泡性(50℃×7日後):
上記水性切削油剤に各消泡剤サンプルを有効成分量で0.2質量%添加したものを50℃で7日間保存し、その後水で30倍に希釈して、1Lビーカー中でホモミキサーにより8,000rpm×10分間撹拌した。10分間撹拌したときの液+泡の体積(mL)と、撹拌停止から完全に泡が消えるまでの時間を測定した。
【0074】
内添安定性:
上記水性切削油剤に各消泡剤サンプルを有効成分量で0.2質量%添加したものを50℃で7日間保存したときの外観を目視にて下記基準で観察した。
○:浮遊物・沈降物無し
△:浮遊物・沈降物ややあり
×:浮遊物・沈降物多い
【0075】
【表1】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)25℃における粘度が10?100,000mm^(2)/sである本質的に疎水性のオルガノポリシロキサン:100質量部、及び
(B)微粉末シリカ:1?20質量部
を含有する消泡剤用オイルコンパウンドであって、(B)成分の微粉末シリカは表面疎水化処理されたものであり、上記オイルコンパウンドからヘキサンを用いて分取した不溶成分について^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、シリカ表面のSiO_(4/2)(Q)単位に起因するピークのうち、未反応シラノール基を2個有するケイ素原子のピーク面積Q2及び未反応シラノール基を1個有するケイ素原子のピーク面積Q3の合計面積量(Q2+Q3)と、未反応シラノール基を持たないケイ素原子のピーク面積Q4との面積量の比[(Q2+Q3)/Q4]が、70/30?20/80であり、かつ上記^(29)Si-CP/MAS-NMRによって測定されたスペクトルにおいて、微粉末シリカ表面のトリオルガノシロキシ単位(M)とジオルガノシロキシ単位(D)のピーク面積量の比(M/D)が、48/52?10/90であることを特徴とする消泡剤用オイルコンパウンド。
【請求項2】
(A)成分と(B)成分とのアルカリ性触媒の存在下における混合物である請求項1記載の消泡剤用オイルコンパウンド。
【請求項3】
請求項1又は2記載のオイルコンパウンドを含むことを特徴とする消泡剤組成物。
【請求項4】
オイルコンパウンドを溶媒に分散した溶液型である請求項3記載の消泡剤組成物。
【請求項5】
オイルコンパウンドをポリオキシアルキレン基で変性したオルガノポリシロキサンと併用した自己乳化型である請求項3記載の消泡剤組成物。
【請求項6】
オイルコンパウンドを乳化したエマルジョン型である請求項3記載の消泡剤組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-09 
出願番号 特願2012-72948(P2012-72948)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B01D)
P 1 651・ 113- YAA (B01D)
P 1 651・ 121- YAA (B01D)
P 1 651・ 537- YAA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神田 和輝  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 新居田 知生
後藤 政博
登録日 2015-06-05 
登録番号 特許第5754402号(P5754402)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 消泡剤用オイルコンパウンド及び消泡剤組成物  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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