• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61M
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61M
管理番号 1324841
異議申立番号 異議2015-700248  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-02 
確定日 2017-01-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5731829号発明「注射器安全装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5731829号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第5731829号の請求項1ないし6、8ないし14に係る特許を維持する。 特許第5731829号の請求項7に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第5731829号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成27年4月17日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人角田欣也より特許異議の申立てがされ、平成28年1月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年5月2日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年6月13日付けで特許異議申立人より意見書の提出がされ、平成28年7月4日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、その指定期間内である平成28年10月4日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年11月17日付けで特許異議申立人より意見書の提出がされたものである。
なお、平成28年5月2日にされた訂正請求は、平成28年10月4日に訂正請求されたことにより、本件特許異議申立事件において先にした訂正の請求であるから、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2 訂正の適否
2-1 訂正の内容
平成28年10月4日にされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1を以下の事項により特定されるとおりの請求項1として訂正することを請求し、その結果として請求項1を直接的または間接的に引用する請求項2?6及び請求項8?14も訂正することを請求する。
「【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、薬剤を収容する流体室を画定し、前記流体室の一部を画定するプランジャを含み、前記プランジャが内部に移動可能に配置された容器部分と、
前記プランジャと関連しかつそこから軸方向に延在するラムを有する発射機構と、
前記ハウジング内に移動可能に配置され、前記ラムの一部と係合するように構成されたラッチであって、前記ラッチは径方向外側に移動可能である、ラッチと、
前記ハウジング内において、前記ラッチが前記ラムの前記一部とトリガにより係合したまま保持される準備完了位置と、前記ラッチが解放され、前記ラムの移動を可能にする発射位置との間で移動可能に配置された前記トリガと、
前記トリガの前記発射位置への移動を制限するように、前記ハウジングに対して配置可能な安全部材と、を具備し、
前記ハウジングの遠位に延在する保護具をさらに有し、前記保護具が、前記ハウジングに対し、保護位置から作動位置まで引き込み可能であり、前記作動位置への引き込みにより、前記保護具の一部が前記トリガを前記発射位置まで移動させ、前記安全部材が、前記保護具の前記作動位置への移動を防止することにより、前記トリガの前記発射位置への移動を制限し、
前記ハウジング内に取り付けられかつ前記容器を保持するように構成されたスリーブと、係止要素をさらに有し、
前記ハウジング内に、前記保護具の前記作動位置への引き込みに続き前記保護具が前記保護位置に戻るように、前記保護具を前記保護位置に向かって弾性的に偏倚するように配置されたばねをさらに有し、前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する、注射器。」
イ 訂正事項2
特許権者は、特許請求の範囲の請求項7を削除する訂正を請求する。
ウ 訂正事項3
特許権者は、請求項8、9、11、13に「・・・請求項7に記載の注射器」と記載されているのを、「・・・請求項1に記載の注射器」と訂正することを請求する。
エ 訂正事項4
特許権者は、特許請求の範囲の請求項11を以下の事項により特定されるとおりの請求項11として訂正することを請求する。
「前記係止要素は、第1の位置から第2の位置まで移動可能であるように前記スリーブと摺動可能に関連し、前記第1の位置が、前記保護具が前記作動位置に引き込み可能であるような位置であり、前記第2の位置において、前記係止要素が、前記スリーブと固定した関係で配置され、かつ前記保護具の前記作動位置への移動を阻止する、請求項1に記載の注射器。」
オ 訂正事項5
特許権者は、特許請求の範囲の請求項12を以下の事項により特定されるとおりの請求項12として訂正することを請求する。
「前記保護具の前記保護位置への後続する戻りにより、前記係止要素が前記第2の位置まで移動する、請求項11に記載の注射器。」

2-2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1は、請求項1の記載に、請求項7に記載の「前記ハウジングの遠位に延在する保護具をさらに有し、前記保護具が、前記ハウジングに対し、保護位置から作動位置まで引き込み可能であり、前記作動位置への引き込みにより、前記保護具の一部が前記トリガを前記発射位置まで移動させ、前記安全部材が、前記保護具の前記作動位置への移動を防止することにより、前記トリガ機構の前記発射位置への移動を制限(する)」を含め、請求項11に記載の一部である「前記ハウジング内に取り付けられかつ前記容器を保持するように構成されたスリーブを有し、」及び「係止要素を有し、」を含め、さらに、請求項12に記載の一部である「前記ハウジング内に、前記保護具の前記作動位置への引き込みに続き前記保護具が前記保護位置に戻るように、前記保護具を前記保護位置に向かって弾性的に偏倚するように配置されたばねをさらに有し、前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止部材と係合(し)」を含めようとするものである。なお、請求項12に記載の「前記係止部材」は、下記(5)に記載のとおり「前記係止要素」の誤記と認められる。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項2は、請求項7の記載を削除しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3)訂正事項3は、請求項7の記載を請求項1の記載に含める(訂正事項1を参照。)と共に請求項7を削除する(訂正事項2を参照。)ことに伴い、請求項8、9、11、13の「請求項7」との記載を「請求項1」と訂正して整合させようとするものである。
したがって、訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(4)訂正事項4について検討する。
まず、訂正前の請求項11に記載の「安全部材が、第1の位置から第2の位置まで移動可能であるように前記スリーブと摺動可能に関連する係止要素を有し、」は、本件明細書の記載及び技術常識からみて、「注射器が、」「第1の位置から第2の位置まで移動可能であるように前記スリーブと摺動可能に関連する係止要素を有し、」の明らかな誤記と認められる。
この点を踏まえ、訂正事項4は、請求項11の記載の一部を請求項1の記載に含める(訂正事項1を参照。)ことに伴い、請求項1を引用して記載する請求項11において、重複することとなる記載部分を削除し、また、本来記載すべきでない「安全部材」との記載を削除しようとするものである。
したがって、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とするものである。
(5)訂正事項5について検討する。
まず、訂正前の請求項12における「前記係止部材」との記載は、請求項11の記載からみて「前記係止要素」の明らかな誤記と認められる。
この点を踏まえ、訂正事項5は、請求項12の記載の一部を請求項1の記載に含める(訂正事項1を参照。)ことに伴い、請求項1を引用する請求項11をさらに引用して記載する請求項12において、重複することとなる記載部分を削除しようとするものである。
したがって、訂正事項5は、明瞭でない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とするものである。
(6)よって、訂正事項1?5に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明の何れかを目的とするものである。
そして、新規事項の追加に該当せず、一群の請求項ごとに請求された訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3 むすび
上記訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正を認める。

3 特許異議の申立てについて
3-1 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?14に係る発明(以下「本件訂正発明1?14」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、薬剤を収容する流体室を画定し、前記流体室の一部を画定するプランジャを含み、前記プランジャが内部に移動可能に配置された容器部分と、
前記プランジャと関連しかつそこから軸方向に延在するラムを有する発射機構と、
前記ハウジング内に移動可能に配置され、前記ラムの一部と係合するように構成されたラッチであって、前記ラッチは径方向外側に移動可能である、ラッチと、
前記ハウジング内において、前記ラッチが前記ラムの前記一部とトリガにより係合したまま保持される準備完了位置と、前記ラッチが解放され、前記ラムの移動を可能にする発射位置との間で移動可能に配置された前記トリガと、
前記トリガの前記発射位置への移動を制限するように、前記ハウジングに対して配置可能な安全部材と、を具備し、
前記ハウジングの遠位に延在する保護具をさらに有し、前記保護具が、前記ハウジングに対し、保護位置から作動位置まで引き込み可能であり、前記作動位置への引き込みにより、前記保護具の一部が前記トリガを前記発射位置まで移動させ、前記安全部材が、前記保護具の前記作動位置への移動を防止することにより、前記トリガの前記発射位置への移動を制限し、
前記ハウジング内に取り付けられかつ前記容器を保持するように構成されたスリーブと、係止要素をさらに有し、
前記ハウジング内に、前記保護具の前記作動位置への引き込みに続き前記保護具が前記保護位置に戻るように、前記保護具を前記保護位置に向かって弾性的に偏倚するように配置されたばねをさらに有し、前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する、注射器。
【請求項2】
前記ハウジングに形成された開口部を前記ハウジングが含み、前記安全部材が、前記トリガの一部に当接するように前記ハウジング内に配置された端部を有する阻止部材を有し、前記阻止部材が、前記ハウジングの前記開口部を通って延在し、前記ハウジングの外側に配置された前記安全部材の本体部分に付着している、請求項1に記載の注射器。
【請求項3】
前記阻止部材が、スナップ嵌合により前記ハウジングの前記開口部内に保持され、前記トリガの前記発射位置への移動を可能にするように使用者によって取り除かれるように構成された、請求項2に記載の注射器。
【請求項4】
前記トリガが、第1の大きさの力により前記準備完了位置から前記発射位置まで移動可能であり、前記トリガと前記ラッチとの間に、第2の大きさの保持力をもたらす摩擦関係が存在し、前記安全部材が、前記トリガに対し第3の大きさの安全力を提供することにより、前記トリガの前記発射位置への移動を制限し、前記第1の大きさが前記第2の大きさより約1.13kg(約2.5lb)上回る、請求項2に記載の注射器。
【請求項5】
前記ラッチが可撓性アームおよび突起を有し、前記ラムが窪みを有し、前記突起が前記窪み内に受入可能であり、前記トリガが前記準備完了位置で前記ラッチに当接した時、前記突起が前記窪み内に保持される、請求項2に記載の注射器。
【請求項6】
前記窪みおよび前記突起が、前記突起が前記トリガにより前記窪み内に保持される時は前記ラッチが前記ラムの移動を制限するように、かつ前記トリガの前記発射位置への移動により、前記突起および前記窪みが分離し前記ラムが前記ラッチに対して軸方向に移動することが可能になるように構成された、請求項5に記載の注射器。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
針をさらに有し、前記針は先端部を有し、かつ前記薬剤を注射するために患者の皮膚を穿通するように前記室と関連する、前記保護具が、前記保護位置にある時、前記針先端部の遠位に配置される遠位端を有し、前記保護具が前記引き込み位置にある時、前記保護具の前記遠位端が、前記針先端部の近位に配置される、請求項1に記載の注射器。
【請求項9】
前記ハウジングが開口部を有し、前記安全部材が阻止部材および本体部分を有し、前記阻止部材が、前記保護具の一部に当接するように前記ハウジング内に配置された端部を有し、前記阻止部材が、前記ハウジングの前記開口部を通って延在し前記本体部分に連結し、前記本体部分が前記ハウジングの外側に配置される、請求項1に記載の注射器。
【請求項10】
前記保護具が近位端を有し、前記トリガが遠位端を有し、前記保護具の前記近位端が、前記保護具が前記保護位置にある時、前記トリガの前記遠位端から軸方向に離れて配置され、前記阻止部材が、前記保護具の前記近位端と前記トリガの前記遠位端との間に軸方向に配置される、請求項9に記載の注射器。
【請求項11】
前記係止要素は、第1の位置から第2の位置まで移動可能であるように前記スリーブと摺動可能に関連し、前記第1の位置が、前記保護具が前記作動位置に引き込み可能であるような位置であり、前記第2の位置において、前記係止要素が、前記スリーブと固定した関係で配置され、かつ前記保護具の前記作動位置への移動を阻止する、請求項1に記載の注射器。
【請求項12】
前記保護具の前記保護位置への後続する戻りにより、前記係止要素が前記第2の位置まで移動する、請求項11に記載の注射器。
【請求項13】
前記安全部材が、開放端または前記保護具を覆うようにかつ前記保護具を包囲するように構成されたキャップの形態であり、前記保護具がフランジを有し、前記キャップが突起を有し、それにより前記保護具と前記キャップとの間にスナップ嵌合が達成され、前記キャップの一部が前記ハウジングの一部に当接し、それにより前記キャップが前記保護具の前記作動位置への引き込みを制限する、請求項1に記載の注射器。
【請求項14】
前記ラムは、ばねの形態のエネルギー源により前記注射器の遠位端に向かって付勢され、前記トリガは、前記ラッチと当接する掛止部分を有し、前記トリガは外側ハウジングの内側で摺動可能であり、前記トリガが前記注射位置へ近位方向に摺動するときに、前記掛止部分は、前記掛止部分が接触する前記ラッチの部分を越えて摺動する、請求項1に記載の注射器。」

3-2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?14に係る特許に対して平成28年7月4日付けで特許権者に通知した取消理由通知(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
ア 請求項1?3、8?10及び14に係る発明は、刊行物1に記載された発明と同一であり、また、請求項1、8及び14に係る発明は、刊行物2に記載された発明と同一であるから、これらの発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項4に係る発明は刊行物1に記載された発明に基づいて、請求項5及び6に係る発明は刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明に基づいて、請求項11に係る発明は刊行物1に記載された発明及び刊行物3に記載された発明に基づいて、請求項13に係る発明は刊行物2に記載された発明及び刊行物4に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3-3 刊行物の記載
(1)刊行物1
刊行物1(特表平8-505543号公報、異議申立人の提出した甲第1号証)には次のとおり記載されている。
(1-1)「 本発明は、第1の装置と第2の装置とを結合してなる予充填注射器用自動注射装置に関し、この自動注射装置の第1の装置は、注射針を使用者の体に剌すことを自動化し、かつ注射液の注入を行う第2の装置を制御して、注射針が完全に剌さった後のみに注射液の注入を開始させ、これにより所望の深さまたは所望の場所でないところに注射液の注入が行われないようにするものである。
本発明のさらなる目的は、注射後における注射針の有効かつ自動的な防護を提供し、偶発的にもこの注射針が剌さる危険性をなくすことにある。
本発明の第3の目的は、自動化することによって患者の体へ注射針を刺すことを助力し、しかも通常のように注射器のピストンを操作することで患者に手動的に注射液の注入を行えるようにした予充填注射器用自動装置を提供するにある。」(8頁3?12行)
(1-2)「 図1から明らかなように、本発明による自動注射装置は、患者または使用者の体に注射針を自動的かつ痛みなしに刺し込むための装置D1を包含する。この装置D1は、上端に、より大径のカラー2を備えた円筒形の管状本体1からなる。
このカラーは、通常のように半径方向面を備えた注射器4の頭部3の後部部分に当接するに適した座を形成している。注射器を支持するこの本体1は、注射針10の基部から注射器全体を収容するもので、その外側に滑動する管状の要素またはスライダ5をはめてある。このスライダ5は、ふたつの内孔を備えている。小さい方の内孔は、注射器4を支持する本体部分の直径に対応する直径を有し、大きい方の内孔は、カラー2の直径に対応する直径を有する。両内孔は肩部11により合体している。この肩部11は、これとカラー2の基部との間の距離が少なくとも注射針10の長さに対応し、図1に示す休息位置においてスライダ5が注射針全体を覆い、かつこれを一杯に滑動させた時図2に示すように注射針を一杯に露出させるような位置に形成されている。注射針を支持する本体1のカラー2は、環状の肩部6を備えており、これは、スライダ5の大きい方の内孔に形成した対応する環状の突起7に対して作用し、これらふたつの要素、本体1及びスライダ5が、互いに離れる可能性がないようにして往復して滑動できる。
前記注射器支持本体1はさらに、適当な位置に環状の、角を落とした突起8を備えている。この突起8は、スライダ5の肩部11とともに、座を形成しており、この座で弾性リングすなわち弾性止めスリットリング9を保持している。
これらの部分全体は、スリットング9が本体1及びスライダ5の往復運動を妨げ、このようにして、スライダ5を注射針全体を覆う位置に維持している。
カラー2は、自動注射針刺し込みの第1の装置D1及び注射液注入の第2の装置D2を取り付ける為の結合手段に嵌合されている。この結合手段は、スロット12を包含する。スロット12は、注射液注入の第2の装置を収容する中空の円筒形要素であるケーシング14の開放端部を保持し、挿入し、かつ鎖錠するものである。このケーシングは、本体1の上端に固定されており、カラー2の前記スロット12内に挿入される保持歯13を備えている。ケーシング14は、その下縁部が注射器4の上部部分3に当接して、これを鎖錠しており、その反対側の部分15は閉鎖された底部を有し、減径された外径のものである。これにより、肩部16を形成し、制御スリーブ17の位置を定める。この制御スリーブ17には、対応する当接部18が形成されており、この当接部は、前記肩部16に係合することができ、上部位置(図2)と下部位置(図1)との間で前記減径した直径の部分を越えて滑動するように装架されている。下方位置では、拡張可能な弾性リングすなわちスリットリング19が、内方に撓ませられて圧縮され、ケーシング14の円形の溝20内に閉じこめられている。弾性スリットリング19の止め歯はケーシング14の内孔の内部へと内方に突出しており、ピストン21を保留している。このピストン21は、前記内孔内に軸線方向に滑入され、ケーシング14の閉鎖底部とピストン21との間で圧縮されたばね22により付勢されている。このため、ピストン21は、その反対側の面を注射器4のピストン23に当てられている。このようなリング19の実施例が図15に示されている。
自動注射装置はさらに、管状の保護カバー24を包含する。この保護カバー24は、ケーシング14の上端に固定され、制御スリーブ17と自動注射装置全体を、スライダ5の上縁部まで覆っている。保護カバー24には、たわみ性のある半径方向アーム25が設けられ、ふたつのピン26、27を支持している。ピン26、27は、保護カバー24内に形成された対応する孔28、29内に挿入することができる。孔に挿入されている時は、自動注射装置は作動しない。下部のピン27は、スライダ5の縁部に当接して休息しており、上方のピン26は、制御スリーブ17に形成した環状の肩部30に当接して休息しており、その上方への動きを妨げられ、安全装置として作用している。
注射を行うには、これらの安全用のピン26、27をたわみ性のアーム25の自由端を引き抜くことで外し、スライダ5の下端を、注射しようとする使用者の体の部分に当て、保護カバー24を患者の体に向けて押す。
この時の押しの圧力は、ケーシング14及び注射器4の上部部分3を介して注射器支持本体1に伝達される。この注射器支持本体1の前進運動は、環状の、角を落とした突起8に当接されている弾性のスリット付き止めリング9によって対抗される。これは、止めリング9を押し開くに充分な大きさの圧力の達するまでであって、その後はスライダ5の肩部11によって伝達されるスラストのもとでスリット付きの止めリング9が拡張されて、環状の突起8をスナップ作動で乗り越える。
この作用は、スリットリング9の機械的特性及び弾性特性に依存して、使用者の手のなかで所定のエネルギの蓄積を行わせることとなり、スリットリング9が環状の突起8をスナップ作動で乗り越えた時に、瞬時に釈放され、本体1及び注射器4を含む自動注射装置全体の前進スナップ運動を引き起こすとともに、スライダ5の、本体1を越え保護カバー24の内部への後退運動を引き起こす。
このスライダ5の運動は、注射針10を瞬時に露出させ、この注射針10は所定の最適の速度及び力で体に刺し込まれる。スライダ5の上縁部は、この注射針の刺し込みのストロークの終わりに当たって、制御スリーブ17に達し、これをその位置から外して、止めリング19が拡張されるのを許容する。
この拡張はピストン21を釈放し、圧縮されたばね22のスラストの下に注射器のピストン23を押し、これによって図2に示すように注射液を放出する。この注射液の放出は、注射針が一杯にかつ正確に剌し込まれ
ている時、従って注射針が所望の場所及び深さにある時にだけに行われる。
本発明の自動注射装置にはまた、スライダ5を、注射針10を覆って保護する当初の位置に自動的に復帰させ、この位置にスライダ5を不可逆的に鎖錠する装置を備えるものとしてもよい。
図3ないし図6に示すように、自動注射装置は、弾性スリーブ31を備えたものとすることができる。この弾性スリーブ31は、図3によく示されているように、全長にわたって延びる長手方向のスリット37を備えており、これにより直径が大きくなるように拡張することが可能となっており、その時元の形及び直径の戻ろうとする張力が得られる。弾性スリーブには、上部の円筒形部分32が形成されている。この円筒形部分は、環状の突起33、大きな内径の下部部分、及び切頭円錐形の薄い壁を備えている。この壁には、長手方向のスリットが設けられており、壁をたわみ性に富む長手方向のセグメント34に分割している。
弾性スリーブ31は、図4及び図5に示すように、スライダ5の上部部分の外壁に減径部分として形成された適宜な座35の上に、その下部セグメント部分を挿入されている。この座35は、弾性スリーブ31を、その長手方向のスリット37とそのセグメント34の高いたわみ性によって、拡張させるような直径をゆうするものである。この位置においては、弾性スリーブ
31に形成された環状の突起33は、保護カバー24の壁と直接に接触して、これに所定のスラストを加える。
この装置はさらに、軽い戻しばね36を備えている。この戻しばね36は、注射針支持本体1のカラー2の外側基部に形成された座と、スライダ5の肩部11に適宜形成されたもうひとつの座との間に保留されている。操作にあたっては、保護カバー24の壁に対して環状の突起33によって呈せられる力は、スライダ5のスナップ後退運動を邪魔しない程度に弱いが、保護カバー24に対して摩擦力を生じさせる程度には充分高い。この摩擦力は、スライダ5の座35に対してセグメント34が生ずる摩擦力よりも大きい。後者の摩擦力は、セグメント34が高いたわみ性を有するので、非常に僅かなものである。
このことは、注射が完了し自動注射装置が患者の体から外された時、軽い戻しばね36によりスライダ5が押されて注射針全体を覆う最初の位置に戻る一方、弾性スリーブ31は、保護カバー24に対する環状の突起33の大きい摩擦のため、図5及び図6に示す位置に留まる。その長さはスライダ5のストローク寄りも短くスライダ5の座36から完全に出る。
これは、弾性スリーブ31を最初の小さい直径に戻す。この直径は、座35を越えて戻ること、すなわちスライダ5の後退運動を妨げ、このようにしてこれを注射針保護位置に不可逆的に鎖錠する。」(14頁13行?18頁11行)

以上の記載によれば、刊行物1には以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
「本体1、注射器4、スライダ5、ケーシング14、制御スリーブ17、スリットリング19、ピストン21、保護カバー24等から構成される自動注射装置であって、注射器4を収納支持する本体1の外側にスライダ5が嵌合され、スライダ5は、注射針10全体を覆う休息位置と注射針10を一杯に露出させる位置との間で本体1に対して摺動可能であり、本体1の上端にケーシング14が固定され、ケーシング14の内孔に設けられたピストン21は、その上端面とケーシング14の閉鎖底部との間に設けられた圧縮ばね22により下方に付勢されるとともに、その下端面において注射器4のピストン23に当接し、ケーシング14の外側に摺動可能に装着された制御スリーブ17が下方位置にあるとき、弾性のスリットリング19がケーシング14の円形の溝20内に閉じ込められ、このときスリットリング19がケーシング14の内孔に突出してピストン21の下方への移動を規制し、ケーシング14の上端に固定された保護カバー24は、上方のピン26及び下方のピン27を備えた可撓性のアーム25を有し、ピン26及びピン27が保護カバー24に形成された孔28及び孔29にそれぞれ挿入されているとき、下方のピン27がスライダ5の上縁部に当接してスライダ5を休息位置に保持するとともに、上方のピン26が制御スリーブ17の肩部30に当接して制御スリーブ17の上方への動きを規制するように構成されており、注射を行うに際しては、アーム25の自由端を引っ張ってピン26及びピン27を孔28及び孔29から外し、スライダ5の下端を患者の体に当てて押すと、スライダ5が保護カバー24内に後退して注射針10が露出しながら体に刺し込まれ、スライダ5の上縁部が制御スリーブ17に達してこれを上方に移動させると、スリットリング19が拡張してピストン21を釈放し、圧縮ばね22の作用により注射器4のピストン23が押されて注射液を放出させるようにした自動注射装置。」

(2)刊行物2
刊行物2(特表2002-522171号公報、異議申立人の提出した甲第2号証)には次のとおり記載されている。
(2-1)「【0028】
図14aおよび図14bは、後退可能なシールドをシールドの周囲に備えた、本発明の好ましい実施形態を描いている。図16に示された内側ハウジング25は、内側ハウジング25上に配置された1対のスナップ65を用いて、外側ハウジング45の内側でスナップ固着する。スナップ65は、図15に示された、外側ハウジング45の開口85を通って突出し、内側ハウジング25と外側ハウジング45を互いに固定関係で維持する。グルー接着および溶接のような当該技術で公知の他の技術が、内側ハウジング25および外側ハウジング45を一緒に保持するための使用することができる。
【0029】
内側ハウジング25は、遠位端から延びる3つのトリガー突起部100を備えている。これらトリガー突起部100は、ラム125(図17)の環状窪み140と嵌合するような形状にされている。ラム125は圧縮スプリング240を用いて、注入器の遠位端に向けて付勢されるが、約2.5秒以内のうちに2ミリリットルまでの注入を行う他のエネルギー投与装置を使用することが可能である。これらエネルギー投与源は、通常は、ラバーエラストマーおよび圧縮ガスカートリッジを備えている。図18aに示されたラッチ160は、外側ハウジング45の内部で滑動自在であると同時に、内側ハウジング25を包囲している。ラッチ160はその遠位端のバレル部180と、その近位端の1対の拡張部200とを有している。ジェット注入器の発射準備ができると、図18bに示されたバレル部180上のリッジ225がトリガー突起部100と接触し、ラムの環状窪み140において突起部を維持し、圧縮スプリング240の力の下でラム125か発射するのを防止している。
【0030】
図19に示されたニードルホルダー260は、右手ねじ280を用いて内側ハウジング25上に載置されるとともに、内側ハウジング25の内部でカートリッジアセンブリ300を保持する。図20aに最もうまく示されているように、カートリッジアセンブリ300は、近位端の開口340と遠位端のシール360を備えたガラスアンプル320から構成されている。通常、ガラスアンプル320は0.02ミリリットルと2ミリリットルの間の薬剤400を保有する。ガラスの代わりに、アンプル320は、金属または当該技術で公知の他の好適な材料から構成することが可能である。ラバーストッパー380はガラスアンプル320の内部で滑動可能であり、ガラスアンプル320の近位端で開口340をシールし、ガラスアンプル320の内部に薬剤400が留まるようにする。遠位端のシール360は、その端部に穴を有しているアルミカップ440のような従来技術によりアンプルの端部に形成されたラバーシール420を備えている。ラム125はガラスアンプル320の近位端の開口340内に伸びて、ラバーストッパー380に当接する。装置の状態の視認指示を与えるために、外側ハウジング45の少なくとも一部が透明材料または半透明材料から構成されて、カートリッジアセンブリ300を使用者が見ることができるようにする。
【0031】
図21に示されたニードルアセンブリ460は、ニードルハブ520における長手方向ポケット500の内側にグルー接着された注入ニードル480から成る。長手方向ポケット500および注入ニードル480の溝または他の表面処理は、注入ニードル480とニードルハブ520の間の接着を向上させる。代替例として、モールド成形法のような他の公知の固定法を利用して、注入ニードル480をニードルハブ520に固着させることもできる。」
(2-2)「【0033】
ニードルアセンブリ460はニードルホルダー260に搭載され、約4分の1回転だけニードルホルダー260を時計方向に回転させることにより、ホルダーを内側ハウジング25に更にねじ入れ、注入ニードル480の近位端を強制的にラバーシール420に通すことにより、薬物の経路を設ける。
【0034】
図22aに描かれたニードルガード540は注入装置の遠位端に配置され、注入ニードル480を隠蔽する。ニードルガード540はニードルガードキャップ560と一緒にスナップ固着され、同キャップは図23aおよび図23bに示されている。ニードルガードキャップ560はラッチ160の拡張部200上を滑動し、それにより、注入器の遠位端上を長手方向にニードルガード540が滑動できるようにして、注入ニードル480を露出させる。拡張部200の端部のフィート580は、ニードルガードキャップ560が、従って、ニードルガード540が装置の端部を完全に離れて滑動するのを防いでいる。
【0035】
ニードルガード540の窪み600およびニードルホルダー260上の対応ボス620は、ニードルガード540の回転をニードルホルダー260の回転に変換する。図23bに示されたニードルガードキャップ560の内側表面上の当接部655は、ニードルホルダー260の反時計方向回転を禁止するために、ラッチ160のフィート580と相対的に位置決めされている。これは使用者が装置をねじ戻して、装置からカートリッジアセンブリを離脱させるのを防いでいる。
【0036】
ニードルガードキャップは、1対の切欠き645を有した内側フランジ635を備えている。切欠き645は内側ハウジング25上の1対のボス625に対応している。フランジ635は、切欠き645が回転して1対のボス625と整列状態になるまで、装置の近位端に向かうニードルガードキャップ560とニードルガード540との運動を防止するように作用する。これは、注入器の偶発的発射を防止するための安全機能として働く。代替例として、離脱自在安全ストリップのような他の公知の機構を使用して、注入器の偶発的発射を防止することができる。
【0037】
戻りスプリング660がニードルホルダー260の上に載置されるとともに、ニードルガード540を注入器の遠位端に向けて付勢し、それにより、注入用ニードル480を隠蔽状態に維持する。図23に示された1対のストップ640は、ニードルガードキャップ560から延びて、内側ハウジング25上のボス625と相対的に位置決めされ、ニードルガード54とニードルホルダー260とが戻りスプリング660の力の下では時計方向に回転できなくなるようにする。
【0038】
装置の近位端に向けてニードルガード540を押すことによりニードルガードキャップ560は装置の近位端に向けて長手方向にラッチ160を押し、それにより、ラッチ160のバレル部180上のリッジ225を動かして、内側ハウジング25上のトリガー突出部100から離す。これにより、トリガー突出部100はラム125の環状窪み140から曲がって飛び出すことができ、それにより、ラム125に圧縮スプリング240の力の下で発射させる。ラム125が発射すると、ラムはガラスアンプル320内のラバーストッパー380を装置の遠位端に向けて滑動させ、薬物経路(上述のように、発射前にニードルホルダー260を時計方向に4分の1回転させることにより設けられる)を通って薬剤400を流動させ、注入用ニードル480から射出させる。
【0039】
図22bに描かれているように、ニードルガード540はそこに配置されたポケット680を有している。図24に示されたロックリング700はポケット680に載置され、装置が発射された後で、注入用ニードル480の再露出を防止する。ロックリング700は傾斜を付けた複数のレッグ720と、拡張部760と嵌合するにげ溝740とを備えており、同拡張部はニードルホルダー260から突出する。ニードルガード540を装置の近位端に向けて押し下げると、拡張部760がにげ溝740と係合して、そこにロック状態となる。ニードルガード540がその下の位置に戻ると、ロックリング700がニードルガード540のポケット680から引き出され、傾斜を付したレッグ720が反抗方向外側に張り出す。ニードルガード540を再度押し下げようとした場合には、傾斜を付したレッグ720がニードルガード540上のショルダー780を捕獲し、ニードルガード540のそれ以上の動きを抑制することにより、注入ニードル480の再露出を防止している。
【0040】
この装置はまた、ニードルガード540の上を滑動し、装置を使用前に被覆する着脱自在安全キャップ800を特徴としている。安全キャップ800はニードルキャップ820(図26)がそこに接続されており、このニードルキャップ820がニードルアセンブリ460の周囲に無菌バリアを形成している。図25に示されているように、安全キャップ800は4つの長手方向窪み860がその内側表面840を中心として均等に配置されている。これら長手方向窪み860は、ニードルガード540上の対応各所に配置された2個以上のボス880を受容するような寸法にされている。これら2つの特徴のために、安全キャップ800を時計方向に回転させることにより、ニードルガード540とニードルホルダー260の対応する回転が生じる。従って、使用者は、装置から安全キャップ800を除去する前に、安全キャップを時計方向に4分の1回転させて、薬物経路を設けて、注入のために装置の準備をすることができる。
【0041】
好ましい実施形態の装置は、まず安全キャップ800を時計方向に4分の1回転させることにより作動して、注入用ニードル480の近位端をアンプル320に挿入することにより薬物経路を設けている。安全キャップ800を回転させると安全キャップ560の切欠き645が内側ハウジング25のボス625と整列し、ニードルガード540を押し下げることができる。次に、安全キャップ800が、従って、ニードルキャップ820が装置から除去される。装置の遠位端が注入場所を押圧すると、ニードルガード540は装置の近位端に向けて長手方向に移動し、注入用ニードル480が1ミリメートルと5ミリメートルの間の深さまで皮膚に入る。ニードルガード540の運動により、ラム125が発射させられ、従って、0.02ミリリットルと2.0ミリリットルの間の量の薬剤400が強制的にアンプル320から押出されて、約2.75秒も経過しないうちに薬物経路を通る。装置が注入場所から除去されてしまうと、ニードルガード540は戻りスプリング660の力の下で元の位置に戻り、注入用ニードル480を隠蔽する。ロックリング700はニードルガード540を適所にロックして、注入用ニードル480の再露出を防止する。代替例として、プッシュボタンは装置の近位端に配置することが可能であるとともに、アイドル位置にロックすることもできる。ニードルガード540の運動はプッシュボタンをロック解除して、使用者がプッシュボタンを押し下げた結果、装置を発射させることができる。」

以上の記載によれば、刊行物2には以下の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる(なお、刊行物2には、「トリガー突起部100」との記載と「トリガー突出部100」(【0038】を参照。)との記載とが認められるが、両者は同じ部材であると認め、「トリガー突起部100」に統一した。)

「内側ハウジング25、外側ハウジング45、ラム125、ラッチ160、ニードルホルダー260、ニードルガード540、安全キャップ800等から構成されるジェット注入器であって、内側ハウジング25を包囲するラッチ160が外側ハウジング45の内部でスライド可能に配置され、ラッチ160の近位端側が内側ハウジング25に設けられたトリガー突起部100に接触するとともにトリガー突起部100がラム125の環状窪み140と嵌合することで、圧縮スプリング240により遠位側に向けて付勢されるラム125の発射が防止され、ニードルホルダー260が内側ハウジング25にねじ結合され、薬剤を保有するガラスアンプル320が内側ハウジング25の内部で保持され、ガラスアンプル320の内部にラバーストッパー380がスライド可能に設けられ、ラム125がガラスアンプル320の近位端の開口内に伸びてラバーストッパー380に当接し、ニードルガード540がニードルホルダー260に載置された戻りスプリング660により遠位側に向けて付勢されて注入用ニードル480を隠蔽し、ニードルガード540に形成された窪み600とニードルホルダー260に形成されたボス620との作用でニードルガード540とニードルホルダー260が回転方向に一体的に動き、安全キャップ800に形成された窪み860とニードルガード540に形成されたボス880との作用で安全キャップ800とニードルガード540が回転方向に一体的に動き、ニードルガード540はニードルガードキャップ560に固定され、ニードルガードキャップ560は切欠き645を有したフランジ635を備え、ニードルガードキャップ560が回転して切欠き645が内側ハウジング25のボス625に整列すると、ニードルガードキャップ560及びニードルガード540の近位端への運動が許容されるように構成されたものであり、使用に際しては、まず安全キャップ800を時計方向に所定量回転させると、ニードルホルダー260が内側ハウジング25にねじ込まれ、注入用ニードル480の近位端がガラスアンプル320の遠位端に設けられたラバーシール420を貫通して薬物の経路が形成され、次いで、安全キャップ800を外し、ニードルガード540を近位端に向けて押すと、ラッチ160がニードルガードキャップ560に押されてトリガー突起部100から離れ、トリガー突起部100がラム125の環状窪み140から飛び出し、圧縮スプリング240の作用下でラム125が発射され、ラバーストッパー380が遠位側に向けてスライドし、薬剤が注入用ニードル480から射出されるようにしたジェット注入器。」

(3)刊行物3
引用した刊行物3(特開2005-177503号公報、異議申立人の提出した甲第3号証)には次のとおり記載されている。
(3-1)「【0011】
一例として示した自動注射装置は、前側ケーシング部分1及び後側ケーシング部分2から成るケーシングを有しており、これら2つのケーシング部分は接続部3によって互いに接続されている。自動注射装置が再充填可能な自動注射装置であるならば、接続部3は解放可能であり、例えば、ねじ式接続部とする。しかし、自動注射装置が使い捨て型自動注射装置であるならば、接続部3は固定し、例えば融着接続部、接着剤接続部又は掛止め接続部としてよい。図面の左側にて、以下により正確に説明するように、前側ケーシング部分1内にて軸方向に変位可能である針保護管4を見ることができる。軸方向に変位可能な摺動スリーブ5は、その前端を介して針保護管4内で及びその後端に形成されたフランジ6を介して前側ケーシング部分1内で案内される。摺動スリーブ5は、アンプル様活性剤容器7を受け入れ、該容器の内部にて、ピストン8は活性剤を供給する目的のため、ピストンロッド9の助けを受けて軸方向に変位することができる。その前端活性剤容器7の前端には注射針10が設けられている。
【0012】
係止スリーブ24の形態をした係止部材が摺動スリーブ5上で外側に取り付けられている。少なくとも1つの係止舌状体25が係止スリーブ24から弾性的に外方に突き出し、また、図1による作用状態にあるとき、針保護管4の内側ヒール部27と当接する。針保護管4に形成され且つ、係止舌状体25が内部に突き出すキャビティ26がヒール部27に接続されている。係止スリーブ24及び係止舌状体25の機能については以下に更に明確に説明する。案内スリーブ11が後側ケーシング部分2内に配置されており、該スリーブは軸方向に変位することができる。案内スリーブ11から後方に突き出し且つ、掛止め突起13を介して案内スリーブ11の一端のフランジと当接する駆動部分12が案内スリーブ11内に配置されている。駆動部分12は、ピストンロッド9に接触し且つ、駆動ばね14によってピストンロッドに対し偏倚される。」
(3-2)「【0016】
図2には、針保護キャップ15及び固定キャップ18が上述したように除去された後の自動注射装置が示されている。掛止め部材20は、依然、掛止め位置にあり、掛止め舌状体21は、注射針10と共に活性剤容器7が前方に摺動するのを防止する。更に、そのとき開放している端部にて、針保護管4は、注射針10が接触し又は注射針10に接触するのを少なくとも困難にする距離を形成する。針保護管4は、針保護管4の後端と後側ケーシング部分2との間に締め止めされるばね22の力によってこの位置に保持される。
【0017】
図3には、患者の皮膚に押し付けられたときの位置にあるが、未だ起動されていない自動注射装置が示されている。明確に理解し得るように、針保護管4は、図2に示した位置と比較してケーシング内に後方に変位されており、ばね22を圧縮し、注射針10の先端が患者の皮膚の僅かに上方に位置するようにする。図3にはまた、後方に変位した針保護管4が掛止め舌状体21を外方に押し、次に、該掛止め舌状体は、摺動スリーブ5のフランジ6を露呈させる状態も示されている。最後に、図2と比較したとき、針保護管4の後側部分の内部に形成されたフランジ23は次に、案内スリーブ11の前方に向けた側部と当接することが分かる。この点に関して、針保護管は、前側にて残る程度だけ前側ケーシング部分1から外方に突き出すことに注目することが重要である。しかし、図1及び図2を比較したとき、針保護管4は、係止スリーブ24を摺動スリーブ5上で多少後方に摺動させることは明らかである。
【0018】
図4には、起動した瞬間の自動注射装置が示されている。図3の状態から開始して、ユーザは、自動注射装置を自分の皮膚に僅かにより強く押し付けて、針保護管4が上述の残る程度だけケーシング内に変位し、フランジ23が案内スリーブ11を上述の残る程度だけ後側ケーシング部分2内にて後方に変位させ、掛止め突起13は、後側ケーシング部分2の後端に配置された起動リング28の領域内に移動している。起動リング28は、駆動部分の弾性的なアームに形成された掛止め突起13を互いに対して十分に押して、次に、起動リング及び掛止め突起は、駆動ばね14の力によって案内スリーブ11の端部開口部を通じて引っ張られる。次に、駆動ばね14の力は、ピストンロッド9を介してピストン8に妨害されずに作用し、該ピストン8は、実際上、活性剤容器7内の液圧圧力を急激に上昇させる。この圧力は、活性剤容器を前方に摺動させ、注射針10が患者の皮膚に貫入するようにする。注射針10内の通路の直径は比較的小さいから、起動時点と注射針10が皮膚内に貫入する時点との間のこの短い時間に、注射針10から出る活性剤の量は、最大でも極めて少量である。
【0019】
摺動スリーブ5のフランジ6が針保護管4の端部及び(又は)係止スリーブ24の端部と当接するとき、注射行程が完了する。図5及び図6には、注射針10が注射される位置にある自動注射装置が示されており、図5は、活性剤を供給し始めるときの作用状態を示し、図6は、活性剤容器7が完全に空となった状態を示す。図6による作用状態に達したとき、ユーザは、自動注射装置を引込めて、注射針10がその皮膚が除去されるようにする。
【0020】
図7には、注射針10が患者の皮膚から除去されたときの作用状態が示されている。針保護管4は、自動注射装置が患者の皮膚から持ち上げられると直ちに、ばね22の力によってその当初の状態へ戻り変位している。そのとき、該針保護管は、主として、注射針を隠蔽し且つ、ユーザ及びその他の人が注射針10によって損傷されないよう保護する作用を果たす。その結果、針保護管4は注射針10に対し変位し、注射針10が針保護管4から突き出すのを防止しなければならない。この作業は、係止スリーブ24に形成された上述した係止舌状体25により行われる。針保護管4が上述したように、ばねの力によって前方に変位される間、係止スリーブ24は、摺動スリーブ5に形成された掛止め舌状体29の結果として、摺動スリーブ5におけるその位置を維持し、該摺動スリーブは、次に、図7による位置にて係止スリーブ24のキャビティ内に突き出し、これにより、係止スリーブを摺動スリーブ5上の所要位置に固定する。
【0021】
図7から明確に理解し得るように、次に、針保護管4の後端における係止舌状体25の自由端がその経路内に突き出し、針保護管4は、係止スリーブ24無しにて引込むことはできず、これと共に、摺動スリーブ5、また、注射針10と共に、活性剤容器7は、駆動ばね14の力に抗して、係止舌状体25を介して、前側ケーシング部分1及び後側ケーシング部分2に対し後方に変位し、注射針10は、針保護管4に対するその相対的な位置を保ち、意図的に又は意図せずに、注射針10に接触することが確実に防止される。この解決策は、針保護管4の前端を押す力の強さに関係なく、係止舌状体25により吸収すべき軸方向への力が駆動ばね14の力を上廻ることは決してないという重要な利点を有する。」

(4)刊行物4
刊行物4(特許第3046947号公報、異議申立人の提出した甲第4号証)には次のとおり記載されている。
(4-1)「【0015】図1、2を参照すると、装置は使用者が容易に扱うことのできる細長いハウジング12を備えた駆動組立体を有する。ハウジングの一端は閉じており、他端はカラー14に装着される。カラーはハウジング12に恒久的に装着され、従って、ハウジングの一部と見做すことができる。キャップ16はカラーに隣接してスリーブ28の一端に装着される。キャップはスリーブ上で回転できず、注射器組立体を駆動組立体に装着するためにカラーに関連して使用される。この装着工程中、キャップの外表面に設けた複数個の細長いリブ18が使用される。これについては後に詳説する。
【0016】図2-4には、本発明の好ましい実施の形態に係る注射器組立体20を示す。プラグ24が注射器組立体の一端に装着され、針組立体26が注射器組立体の他端に装着される。スリーブ28は注射器組立体を取り囲む。注射器組立体はバレル即ちカートリッジ30と、このカートリッジ内で摺動自在に位置したピストン32とを有する。キャップ16はスリーブの一端に着脱自在に装着される。キャップの一対の同心壁の間に環状の溝穴34が形成される。スリーブ28の端部分が環状溝穴内に位置決めされる。
【0017】ゴムシールド36がキャップ内に位置し、注射器組立体の針38を保護する。ゴムシールドはキャップにより摩擦で保持され、装置を使用するときには、キャップと一緒に取り外すことができる。新たな注射器組立体及びスリーブを駆動組立体に固定する場合は、キャップを回転させることにより、駆動組立体に対して注射器組立体20及びスリーブ28を相対的に回転させる。
【0018】カートリッジ30に対してスリーブ28を弾性的に押圧するためのコイルバネ40を設ける。カートリッジはコイルバネの一端に当接するフランジ42を有する。コイルバネの他端はスリーブの半径方向内方に延びる壁に係合する。スリーブの部分44はプラグ24の背後へ延び、スリーブ及びプラグが注射器組立体から離脱するのを阻止する。バネ40は針上でスリーブを休止位置(図3)へ延出させる。」
(4-2)「【0029】図7-9はスリーブ28の解放端部に装着されるキャップ16の詳細を示す。キャップは4つの半径方向に突出するリブ18を備えた実質上円筒状の外壁80を有する。キャップは更に、外壁80と同軸の実質上円筒状の内壁82を有する。内壁82はその底端に一対の向き合った溝穴84を具備する。溝穴に隣接する向き合った各壁部分は半径方向内方に延びるリム86を有する。半径方向内方に延びる突起88が各溝穴84の頂部に形成される。針38のためのゴムシールド(図2)はその解放端に比較的厚い壁36Aを具備し、この壁はリム86と突起88との間に保持される。
【0030】半径方向内方に延びる2対の向き合った突起90はキャップの外壁80の下端に一体的に形成される。後述するが、これらの突起はスリーブ28の係止部材に係合できる係止部材としての機能を果たす。各突起90は傾斜した下表面と、長手軸線に対して実質上垂直に延びる頂表面とを有する。傾斜した表面がまずキャップの係止部材に係合し、キャップに軸方向の力を加えたときに、係止部材が突起の背後へスナップ式に移動する。
【0031】向き合った2対の溝92がキャップの外壁80の内表面に形成されている。各溝はほぼ鋸歯状の横断面を有する。溝は図8に示すように外壁の端面に隣接し、対応するリブ18と整合する。
【0032】図10-13は射出装置のスリーブ28の詳細を示す。スリーブは下表面から延びる長手方向のリブ28Cを備えた実質上円筒状の本体を有する。一対の垂直縁を備えたノッチ28Bはリブ28Cの前部分の近傍に形成される。比較的短いリブ28Gはスリーブの前部分の外表面から延び、キャップ16の内表面に設けた溝92の1つに係合するように構成されている。
【0033】スリーブの前部分は更に、細長い偏向可能なフィンガ94を有し、好ましくは、このフィンガは図示のようにスリーブの本体と一体的に形成される。フィンガは第1の比較的小さな突起即ちリブ96と、第2の比較的大きな鋸歯状の突起98とを有する。スリーブの前端に近い方のフィンガの端部はスリーブの本体と一体になっている。フィンガは細長い溝穴28H内に位置し、スリーブ本体との連結部のまわりにおいて溝穴内で偏向できる。2つの突起96、98を除き、フィンガはスリーブの前部分の外表面と実質上共面(同一面)となっている。
【0034】フィンガ94の第1の比較的小さな突起96はキャップ16内の半径方向に延びる突起の1つに係合する際に係止部材としての機能を果たす。短いリブ28G及び溝92は、キャップをスリーブに装着したときに、係止部材96、90が整合するのを保証する。突起96がキャップの突起90のうちの1つの突起の背後へスナップ式に移動した後は、フィンガ94が溝穴28H内で十分に偏向しない限り、キャップを取り外すことができない。この偏向は、大きな突起98を溝穴28Hの方へ手動で押すことにより達成できる。しかし、好ましくは、図14に略示するように、スリーブを駆動組立体に装着して作動位置へ移動させることにより、フィンガを偏向させる。」
(4-3)「【0041】装置の長手軸線に沿ってキャップ16を前方に引っ張ることにより、キャップを取り外す。シールド36もキャップと一緒に取り外される。このようにしない場合は、装置は元の位置の状態を維持する。
【0042】スリーブ28の端部を表皮に押し付け、スリーブに力を作用させる。スリーブはスリーブバネ40の力に抗して後方へ数ミリメートル移動し、その時点で、スリーブの後方部分44がハウジング12から延びたストッパ12Cに係合する。この運動は、スリーブの突起28Aが押しボタン66の下方運動に抵触しなくなるのに十分な距離だけスリーブの突起を変位させる。
【0043】次いで、押しボタンの突起66Cをハウジングの方へ手動で押圧し、バネ68を圧縮する。これにより、第1の係合部材66Aが変位し、ドライバ58と係合しなくなる。ドライバ58及びロッド46はバネ56の一定力のもとにユニットとして移動し、注射器組立体20を(プラグ24を介して)前方へ移動させ、その針38が皮膚を貫通する。バネ68の圧縮の結果、突起66Cはドライバ58の平坦部74に当接して位置する。その結果、射出工程中、スリーブの突起28Aは第2の係合部材66Bの係合面66Dに当接し、(例えば、定圧バネ56によって生じる「キックバック」力によって発生するような)表皮からのスリーブ28の早期の離脱を阻止する。
【0044】ロッドがドライバに結合されたままなので、ピストン32は移動しない。針が皮膚を貫通してその下の組織へ十分に侵入した後、ドライバ58の突起64がハウジング12から内方に延びる突起70に係合する。これにより、ドライバの枢動アーム62が回転し、爪60をノッチ52から離脱させる。この時点(スリーブバネ40の最大圧縮(bottoming) の直前)で、ドライバ58とロッドとの結合が解かれる。
【0045】定圧バネ56の後端がサドル48内で回転するとき、ロッド46は前方へ押圧される。従って、ロッドはドライバ58に関して移動し、ピストン32を前方へ押圧し、カートリッジ30から流体を排出させる。溝54がプラグの突起24Bと整合したとき、ロッドはプラグ24を通って前進する。ロッドのこの運動は、ピストン32がカートリッジ30の端壁に係合するまで続行する。ストロークの終端近くで、ロッド46の傾斜部50が押しボタンの第1の係合部材66Aに係合し、押しボタンを全体的にハウジング内へ引き込む。これが投薬の終了の可視表示を与える。第2の係合部材66がスリーブの突起28Aに関して十分に変位した後、スリーブ28が解放される。」

(5)刊行物5
刊行物5(特表2004-515320号公報、異議申立人の提出した甲第5号証)には次のとおり記載されている。
(5-1)「【0023】
プランジャが前方へ動くことによって、そのリブ80は注射の動きがほぼ完了したときに針カバーのスナップフィット32と接触する。このことによって、前方延長チューブおよび後方延長チューブが互いから解除されるため、前方延長チューブおよび針カバーは、それが針カバーの後端に当接するため、圧縮ばね74によって前方に押される。患者が注射器を外すと、その棚部36がハウジングの内壁上の肩90に当接するまで、圧縮ばねがハウジングから針カバーを押し出し、これによって針が覆われる、図9。ロック輪のアーム42はハウジングの開口部11に対応する位置に動き、アームの弾力性によってこれらに入り込む。針カバーを再び押し込もうとしても、アームの突出部44が開口部の表面で停止することによって防止される。さらに、針カバーの外面上の棚部92および前端部の内面上の棚部94によって、針カバーを前端部から引出すことが防止される、図2。」

3-4 対比・判断
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1は、訂正前の請求項1の記載に請求項11及び請求項12の記載の一部を含める記載により特定される発明(上記2-2(1)欄を参照。)であるところ、平成28年7月4日付けの取消理由通知(決定の予告)において、訂正前の請求項1に係る発明については刊行物1発明又は刊行物2発明と同一であるとし、一方、訂正前の請求項11に係る発明については刊行物1発明及び刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるとしたことから、本件訂正発明1について、刊行物1発明又は刊行物2発明と同一であるか(以下、「同一性」という。)と刊行物1発明から当業者が容易になし得たものであるか(以下、「容易性」という。)を検討することとする。

(1-1)同一性について
(1-1-1)本件訂正発明1と刊行物1発明との対比・判断
(a)刊行物1発明の「注射器4のピストン23」は、その構造または機能からみて、本件訂正発明1の「プランジャ」に相当し、以下同様に、「注射器4」は「容器部分」に、「ピストン21」は「ラム」に、「スリットリング19」は「ラッチ」に、「制御スリーブ17」は「トリガ」に、「アーム25」は「安全部材」に、「自動注射装置」は「注射器」に、それぞれ相当する。
また、刊行物1発明の「本体1」、「ケーシング14」及び「保護カバー24のうちアーム25を除く部分」は、本件訂正発明1の「ハウジング」に相当する。
また、刊行物1発明の「スライダ5」は本件訂正発明1の「保護具」に、以下同様に、「注射針10全体を覆う休息位置」は「保護位置」に、「注射針10を一杯に露出させる位置」は「作動位置」に、それぞれ相当する。

そして、刊行物1発明は、注射器4が本体1に収納支持され、注射器4の内部に注射器4のピストン23が移動可能に設けられ、注射器4のピストン23が押されて移動すると注射液が注射針10から放出されるものであるから、本件訂正発明1における「前記ハウジング内に配置され、薬剤を収容する流体室を画定し、前記流体室の一部を画定するプランジャを含み、前記プランジャが内部に移動可能に配置された容器部分と」との要件を備えるといえる。
また、刊行物1発明は、ピストン21の下端面が注射器4のピストン23に当接し、ピストン21が釈放されると、圧縮ばね22の作用により注射器4のピストン23が押されて注射液が放出されるものであるから、本件訂正発明1における「前記プランジャと関連しかつそこから軸方向に延在するラムを有する発射機構と」との要件を備えるといえる。
また、刊行物1発明のスリットリング19は、保護カバー24の内側に配置されており、制御スリーブ17が下方位置にあるとき、ケーシング14の円形の溝20内に閉じ込められ、ケーシング14の内孔に突出してピストン21の下方への移動を規制し、制御スリーブ17が上方へ移動すると、拡張してピストン21を釈放するものであるから、刊行物1発明は、本件訂正発明1における「前記ハウジング内に移動可能に配置され、前記ラムの一部と係合するように構成されたラッチであって、前記ラッチは径方向外側に移動可能である、ラッチと」との要件を備えるといえる。
また、刊行物1発明の制御スリーブ17は、保護カバー24の内側に配置されており、下方位置にあるとき、スリットリング19がケーシング14の円形の溝20内に閉じ込められ、スリットリング19がケーシングの内孔に突出して、ピストン21の下方への移動を規制する一方、上方に移動したとき、スリットリング19が拡張してピストン21が釈放され、注射液が放出されるものであるから、刊行物1発明は、本件訂正発明1における「前記ハウジング内において、前記ラッチが前記ラムの前記一部とトリガにより係合したまま保持される準備完了位置と、前記ラッチが解放され、前記ラムの移動を可能にする発射位置との間で移動可能に配置された前記トリガと」との要件を備えるといえる。
また、刊行物1発明のアーム25は、ケーシング14に固定された保護カバー24の一部であり、ピン26が孔28に挿入されているとき、ピン26が制御スリーブ17の肩部30に当接して制御スリーブ17の上方への動きを規制し、これによりピストン21の下方への移動を規制するものであるから、刊行物1発明は、本件訂正発明1における「前記トリガの前記発射位置への移動を制限するように、前記ハウジングに対して配置可能な安全部材と」との要件を備えるといえる。
また、刊行物1発明では、本体1の外側にスライダ5が嵌合され、スライダ5は、注射針10全体を覆う休息位置と注射針10を一杯に露出させる位置との間で本体1に対して摺動可能なものであり、注射を行うに際して、アーム25の自由端を引っ張ってピン26及びピン27を孔28及び孔29から外し、スライダ5の下端を患者の体に当てて押すと、スライダ5が保護カバー24内に後退して注射針10が露出しながら体に刺し込まれ、スライダ5の上縁部が制御スリーブ17に達してこれを上方に移動させるものであり、ピン27が孔29に挿入された状態では、ピン27がスライダの上縁部に当接してスライダが休息位置に保持されるものであるから、刊行物1発明は、本件訂正発明1における「前記ハウジングの遠位に延在する保護具をさらに有し、前記保護具が、前記ハウジングに対し、保護位置から作動位置まで引き込み可能であり、前記作動位置への引き込みにより、前記保護具の一部が前記トリガを前記発射位置まで移動させ、前記安全部材が、前記保護具の前記作動位置への移動を防止することにより、前記トリガの前記発射位置への移動を制限し」との要件を備えるといえる。

(b)刊行物1発明の「本体1」は本件訂正発明1の「スリーブ」に相当する。
また、刊行物1には「本発明の自動注射装置にはまた、スライダ5を、注射針10を覆って保護する当初の位置に自動的に復帰させ、この位置にスライダ5を不可逆的に鎖錠する装置を備えるものとしてもよい。」(上記3-3(1-2)欄を参照。)と記載されているから、刊行物1発明は、本件訂正発明1の「ばね」に相当するものを有するといえる。

(c)しかしながら、刊行物1発明は、本件訂正発明1の「係止要素」に相当するものを有しておらず、また、本件訂正発明1における「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」との要件を備えるものでもない。

(d)この点について、特許異議申立人は、刊行物1の「図6から、後退したままの弾性スリーブ31の下端が、最初の位置に戻ったスライダ5の上端に係合することにより、スライダ5の再度の後退運動を妨げていることが見て取れる。ここで、訂正発明1における「保護具の引き込みにより、保護具が係止要素と係合する」との要件は、「保護具の引き込み」と「保護具が係止要素と係合する」との間に一定の因果関係があれば該要件を満たすと解される。」(平成28年11月17日付け意見書5頁)と主張している。
そこで、刊行物1をみてみる。
刊行物1には、「弾性スリーブ31は、図4及び図5に示すように、スライダ5の上部部分の外壁に減径部分として形成された適宜な座35の上に、その下部セグメント部分を挿入されている。・・・注射が完了し自動注射装置が患者の体から外された時、軽い戻しばね36によりスライダ5が押されて注射針全体を覆う最初の位置に戻る一方、弾性スリーブ31は、保護カバー24に対する環状の突起33の大きい摩擦のため、図5及び図6に示す位置に留まる。その長さはスライダ5のストローク寄りも短くスライダ5の座36から完全に出る。
これは、弾性スリーブ31を最初の小さい直径に戻す。この直径は、座35を越えて戻ること、すなわちスライダ5の後退運動を妨げ、このようにしてこれを注射針保護位置に不可逆的に鎖錠する。」と記載されている(上記3-3(1-2)を参照。)。
したがって、刊行物1に記載のスライダ5と弾性スリーブ31との関係は、「休息位置において、弾性スリーブ31が挿入された状態にあるスライダ5が上昇し、上昇位置に弾性スリーブ31が留まることにより、両者が分離し、スライダ5のみが再度休息位置に戻る構造」であると認められる。
そうすると、刊行物1に記載の「スライダ5」は、本件訂正発明1の「保護具」に対応し、以下同様に、「弾性スリーブ31」は「係止要素」に、「上昇」は「引き込み」にそれぞれ対応するとしてみても、刊行物1には、係止要素が挿入された保護具の引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と分離することが記載されているとすることができるにすぎない。そして、分離することは係合することではない。
したがって、刊行物1には、「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」ことが記載されているといえない。
よって、刊行物1の図6に係る上記記載に基づき、刊行物1発明が「弾性スリーブ31」を有するものであり、その弾性スリーブ31が本件訂正発明1の「係止要素」に相当するものであるとしてみても、刊行物1発明は、本件訂正発明1の「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」との要件を備えるものとならないから、特許異議申立人の当該主張は理由がない。

(e)小括
以上のとおりであるから、刊行物1発明は、少なくとも本件訂正発明1に係る「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」との発明特定事項を有していないから、本件訂正発明1と同一でない。

(1-1-2)本件訂正発明1と刊行物2発明との対比・判断
(a)刊行物2発明の「ラバーストッパー380」は、その構造または機能からみて、本件訂正発明1の「プランジャ」に相当し、以下同様に、「ガラスアンプル320」は「容器部分」に、「ラム125」は「ラム」に、「トリガー突起部100」は「ラッチ」に、「ラッチ160」は「トリガ」に、「ジェット注入器」は「注射器」に、「内側ハウジング25」及び「外側ハウジング45」は「ハウジング」に、それぞれ相当する。
また、刊行物2発明の「ニードルガード540」は本件訂正発明1の「保護具」に、以下同様に、「ニードルガードが」「注入用ニードル480を隠蔽」は「保護位置」に、「ニードルガード540の近位端への運動」は「作動位置」に、それぞれ相当する。
また、刊行物2発明の「安全キャップ800」は本件訂正発明1の「安全部材」に相当する。

そして、刊行物2発明は、薬剤を保有するガラスアンプル320が内側ハウジング25の内部で保持され、ガラスアンプル320の内部にラバーストッパー380がスライド可能に設けられ、ラバーストッパー380が遠位端に向けてスライドすると薬剤が注入用ニードル480から射出されるものであるから、本件訂正発明1における「前記ハウジング内に配置され、薬剤を収容する流体室を画定し、前記流体室の一部を画定するプランジャを含み、前記プランジャが内部に移動可能に配置された容器部分と」との要件を備えるといえる。
また、刊行物2発明は、ラム125がガラスアンプル320の近位端の開口内に伸びてラバーストッパー380に当接するものであるから、本件訂正発明1における「前記プランジャと関連しかつそこから軸方向に延在するラムを有する発射機構と」との要件を備えるといえる。
また、刊行物2発明のトリガー突起部100は、内側ハウジング25に設けられており、ラッチ160の近位端と接触しているときは、ラム125の環状窪み140と嵌合し、ラッチ160がニードルガードキャップ560に押されてトリガー突起部100から離れたときは、ラム125の環状窪み140から飛び出すものであるから、刊行物2発明は、本件訂正発明1における「前記ハウジング内に移動可能に配置され、前記ラムの一部と係合するように構成されたラッチであって、前記ラッチは径方向外側に移動可能である、ラッチと」との要件を備えるといえる。
また、刊行物2発明のラッチ160は、外側ハウジング45の内部でスライド可能に配置され、その近位端側がトリガー突起部100に接触しているときは、トリガー突起部100がラム125の環状窪み140と嵌合し、ラム125の発射が防止され、ニードルガードキャップ560に押されてトリガー突起部100から離れたときは、トリガー突起部100がラム125の環状窪み140から飛び出し、圧縮スプリング240の作用下でラム125が発射されるものであるから、刊行物2発明は、本件訂正発明1における「前記ハウジング内において、前記ラッチが前記ラムの前記一部とトリガにより係合したまま保持される準備完了位置と、前記ラッチが解放され、前記ラムの移動を可能にする発射位置との間で移動可能に配置された前記トリガと」との要件を備えるといえる。
また、刊行物2発明の安全キャップ800は、内側ハウジング25にねじ結合されるニードルホルダー260と、ニードルガード540を介して回転方向に一体的に動くものであるから、刊行物2発明は、本件訂正発明1における「ハウジングに対して配置可能な安全部材」との要件を備えるといえる。
また、刊行物2発明では、安全キャップ800を外さなければ、ニードルガート540を押すことができず、したがって、ラッチ160を押すことができないから、本件訂正発明1における「トリガの発射位置への移動を制限する」「安全部材」との要件を備えるといえる。
また、刊行物2発明では、装置の使用前においては、ニードルガード540がニードルホルダー260に載置された戻りスプリング660により遠位側に向けて付勢されて注入用ニードル480を隠蔽する一方、使用に際して、所定の操作後に安全キャップ800を外してニードルガード540を近位端に向けて押すと、ラッチ160がニードルガード540に固定されたニードルガードキャップ560に押されてトリガー突起部100から離れ、さらに、安全キャップが装着された状態では、ニードルガード540を近位端に向けて押すことができないものである。
よって、刊行物2発明は、本件訂正発明1における「前記ハウジングの遠位に延在する保護具をさらに有し、前記保護具が、前記ハウジングに対し、保護位置から作動位置まで引き込み可能であり、前記作動位置への引き込みにより、前記保護具の一部が前記トリガを前記発射位置まで移動させ、前記安全部材が、前記保護具の前記作動位置への移動を防止することにより、前記トリガの前記発射位置への移動を制限し」との要件を備えるといえる。

(b)刊行物2発明の「内側ハウジング25」、「戻りスプリング660」は、それぞれ、本件訂正発明1の「スリーブ」、「ばね」に相当する。

(c)刊行物2には「【0039】・・・ニードルガード540はそこに配置されたポケット680を有している。図24に示されたロックリング700はポケット680に載置され、装置が発射された後で、注入用ニードル480の再露出を防止する。」(上記3-3(2-2)欄を参照。)と記載されているから、刊行物2発明は、本件訂正発明1の「係止要素」に相当するものを有するといえる。
しかしながら、刊行物2発明のロックリング700は、本件訂正発明1における「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」との要件を備えるものではない。

(d)この点について、特許異議申立人は、「ロックリング700は、ニードルガード540の後退に端を発して、その後、ニードルガード540のみが戻ることにより、後退したままのロックリング700の傾斜を付けたレッグ720が、ニードルガード540上のショルダー780と係合する。ここで、・・・訂正発明1における「保護具の引き込みにより、保護具が係止要素と係合する」との要件は、「保護具の引き込み」と「保護具が係止要素と係合する」との間に一定の因果関係があれば該要件を満たすと解される。」(平成28年11月17日付け意見書8頁)と主張している。
そこで、刊行物2をみてみる。
刊行物2には、「【0039】
図22bに描かれているように、ニードルガード540はそこに配置されたポケット680を有している。図24に示されたロックリング700はポケット680に載置され、装置が発射された後で、注入用ニードル480の再露出を防止する。ロックリング700は傾斜を付けた複数のレッグ720と、拡張部760と嵌合するにげ溝740とを備えており、同拡張部はニードルホルダー260から突出する。ニードルガード540を装置の近位端に向けて押し下げると、拡張部760がにげ溝740と係合して、そこにロック状態となる。ニードルガード540がその下の位置に戻ると、ロックリング700がニードルガード540のポケット680から引き出され、傾斜を付したレッグ720が反抗方向外側に張り出す。」と記載されている(上記3-3(2-2)を参照。)。
したがって、刊行物2に記載のニードルガード540とロックリング700との関係は、「ロックリング700がポケット680に載置されたニードルガード540を近位端に向けて押し下げると、ロックリング700がポケット680から引き出されることにより、両者が分離しニードルガード540のみが元の位置に戻る構造」であると認められる。
そうすると、刊行物2に記載の「ニードルガード540」は、本件訂正発明1の「保護具」に対応し、以下同様に、「ロックリング700」は「係止要素」に、「近位端に向けて押し下げる」は「引き込み」にそれぞれ対応するとしてみても、刊行物2には、係止要素が載置された保護具の引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と分離することが記載されているとすることができるにすぎない。そして、分離することは係合することではない。
したがって、刊行物2には、「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」ことが記載されているといえない。
よって、刊行物2の上記記載に基づき、刊行物2発明が「ロックリング700」を有するものであり、そのロックリング700が本件訂正発明1の「係止要素」に相当するものであるとしてみても、刊行物2発明は、本件訂正発明1の「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」との要件を備えるものとならないから、特許異議申立人の当該主張は理由がない。

(e)小括
以上のとおりであるから、刊行物2発明は、少なくとも本件訂正発明1に係る「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」との発明特定事項を有していないから、本件訂正発明1と同一でない。

(1-2)容易性について
(1-2-1)本件訂正発明1と刊行物1発明との対比・判断
(a)上記(1-1-1)に記載したとおり、刊行物1発明は、本件訂正発明1の「係止要素」に相当するものを有しておらず、また、本件訂正発明1における「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」との要件を備えるものでもない。
したがって、本件訂正発明1と刊行物1発明とを対比すると、両者は、少なくとも次の点で相違する。

(相違点)
本件訂正発明1は、係止要素を有し、保護具の引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合するものであるのに対し、刊行物1発明は、係止要素を有しておらず、また、保護具が係止要素と係合するものでない点。

(b)相違点についての判断
本件訂正発明1に係る上記相違点について、刊行物2?5に記載又は示唆があるかどうかみてみる。
刊行物1及び2には、それぞれ、上記(1-1-1)及び(1-1-2)欄に記載したとおりであるから、これらの刊行物には、上記相違点についての記載も示唆もあるといえない。
刊行物3には、その記載からみて、係止スリーブ24と針保護管4との関係について、活性剤容器7を受け入れる摺動スリーブ5の外側に係止スリーブ24を設け、針保護管4を患者の皮膚に押しつけたとき、係止スリーブ24が針保護管4と共に後方に摺動し、注射針10が皮膚から除去されると、係止スリーブ24が摺動スリーブ5上に固定され、針保護管4が係止スリーブ24から分離されて当初の状態に戻る構造が記載されている。
そうすると、刊行物3に記載の「針保護管4」は本件訂正発明1の「保護具」に対応し、以下同様に、「係止スリーブ24」は「係止要素」に、「後方に摺動」は「引き込み」にそれぞれ対応するとしてみても、刊行物3には、係止要素が保護具の引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と分離することが記載されているとすることができるにすぎない。そして、分離することは係合することではない。
したがって、刊行物3には、「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」ことが記載されているといえない。
また、刊行物4及び5には、それぞれ、上記3-3の(4)及び(5)に記載した事項が記載されていると認められるにすぎないから、これらの刊行物にも、上記相違点についての記載も示唆もあるといえない。
従って、刊行物1?5のいずれにも、「前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する」ことについて記載も示唆もない。
よって、刊行物1発明において、本件訂正発明1の相違点に係る発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得る事項であるといえない。

(c)小括
よって、本件訂正発明1は、刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(2)本件訂正発明2?6、8?14について
本件訂正発明2?6、8?14は、本件訂正発明1の構成をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、刊行物1又は2に記載された発明でなく、また、刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?6、8?14は、本件訂正発明1の構成をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、刊行物1又は2に記載された発明でなく、また、刊行物1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

3-5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立人は、訂正前の請求項11に関し、「請求項11の「前記安全部材」は、同請求項が請求項7を介して引用する請求項1の「安全部材」のことであり、実施例でいえば、安全部材80またはキャップ110に対応すると考えられるところ、安全部材80またはキャップ110が係止リング70を有しているとはいえないから、請求項11における「前記安全部材が」「係止要素を有し」との記載は、その意味が不明であり、実施例との対応関係も不明である。
請求項11を引用する請求項12も同様である。
また、請求項12には「前記係止部材」との記載があるが、同請求項が直接または間接に引用する請求項1、請求項7及び請求項11のいずれにも「係止部材」との記載はないから、請求項12の「前記係止部材」は不明である。
したがって、本件特許の請求項11及び請求項12は、不明確であり、また、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。」(特許異議申立書55?56頁)と主張している。
しかしながら、上記2-2(4)欄に記載したとおり、訂正前の請求項11に記載の「安全部材が、第1の位置から第2の位置まで移動可能であるように前記スリーブと摺動可能に関連する係止要素を有し、」は、「注射器が、」「第1の位置から第2の位置まで移動可能であるように前記スリーブと摺動可能に関連する係止要素を有し、」の明らかな誤記と認められ、また、本件訂正請求により、この記載不備は解消されたので、特許異議申立人の「請求項11における「前記安全部材が」「係止要素を有し」との記載は、その意味が不明であり、実施例との対応関係も不明である。」との主張は理由がない。
また、上記2-2(5)欄に記載したとおり、訂正前の請求項12に記載の「前記係止部材」との記載は、「前記係止要素」の明らかな誤記と認められ、また、本件訂正請求により、この記載不備は解消されたので、特許異議申立人の「請求項12の「前記係止部材」は不明である」との主張も理由がない。
したがって、特許異議申立人の、これらの主張を前提とする「特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。」との主張は理由がない。

4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1?6、8?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1?6、8?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項7に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項7に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、薬剤を収容する流体室を画定し、前記流体室の一部を画定するプランジャを含み、前記プランジャが内部に移動可能に配置された容器部分と、
前記プランジャと関連しかつそこから軸方向に延在するラムを有する発射機構と、
前記ハウジング内に移動可能に配置され、前記ラムの一部と係合するように構成されたラッチであって、前記ラッチは径方向外側に移動可能である、ラッチと、
前記ハウジング内において、前記ラッチが前記ラムの前記一部とトリガにより係合したまま保持される準備完了位置と、前記ラッチが解放され、前記ラムの移動を可能にする発射位置との間で移動可能に配置された前記トリガと、
前記トリガの前記発射位置への移動を制限するように、前記ハウジングに対して配置可能な安全部材と、を具備し、
前記ハウジングの遠位に延在する保護具をさらに有し、前記保護具が、前記ハウジングに対し、保護位置から作動位置まで引き込み可能であり、前記作動位置への引き込みにより、前記保護具の一部が前記トリガを前記発射位置まで移動させ、前記安全部材が、前記保護具の前記作動位置への移動を防止することにより、前記トリガの前記発射位置への移動を制限し、
前記ハウジング内に取り付けられかつ前記容器を保持するように構成されたスリーブと、係止要素をさらに有し、
前記ハウジング内に、前記保護具の前記作動位置への引き込みに続き前記保護具が前記保護位置に戻るように、前記保護具を前記保護位置に向かって弾性的に偏倚するように配置されたばねをさらに有し、前記保護具の前記引き込みにより、前記保護具が前記係止要素と係合する、注射器。
【請求項2】
前記ハウジングに形成された開口部を前記ハウジングが含み、前記安全部材が、前記トリガの一部に当接するように前記ハウジング内に配置された端部を有する阻止部材を有し、前記阻止部材が、前記ハウジングの前記開口部を通って延在し、前記ハウジングの外側に配置された前記安全部材の本体部分に付着している、請求項1に記載の注射器。
【請求項3】
前記阻止部材が、スナップ嵌合により前記ハウジングの前記開口部内に保持され、前記トリガの前記発射位置への移動を可能にするように使用者によって取り除かれるように構成された、請求項2に記載の注射器。
【請求項4】
前記トリガが、第1の大きさの力により前記準備完了位置から前記発射位置まで移動可能であり、前記トリガと前記ラッチとの間に、第2の大きさの保持力をもたらす摩擦関係が存在し、前記安全部材が、前記トリガに対し第3の大きさの安全力を提供することにより、前記トリガの前記発射位置への移動を制限し、前記第1の大きさが前記第2の大きさより約1.13kg(約2.5lb)上回る、請求項2に記載の注射器。
【請求項5】
前記ラッチが可撓性アームおよび突起を有し、前記ラムが窪みを有し、前記突起が前記窪み内に受入可能であり、前記トリガが前記準備完了位置で前記ラッチに当接した時、前記突起が前記窪み内に保持される、請求項2に記載の注射器。
【請求項6】
前記窪みおよび前記突起が、前記突起が前記トリガにより前記窪み内に保持される時は前記ラッチが前記ラムの移動を制限するように、かつ前記トリガの前記発射位置への移動により、前記突起および前記窪みが分離し前記ラムが前記ラッチに対して軸方向に移動することが可能になるように構成された、請求項5に記載の注射器。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
針をさらに有し、前記針は先端部を有し、かつ前記薬剤を注射するために患者の皮膚を穿通するように前記室と関連する、前記保護具が、前記保護位置にある時、前記針先端部の遠位に配置される遠位端を有し、前記保護具が前記引き込み位置にある時、前記保護具の前記遠位端が、前記針先端部の近位に配置される、請求項1に記載の注射器。
【請求項9】
前記ハウジングが開口部を有し、前記安全部材が阻止部材および本体部分を有し、前記阻止部材が、前記保護具の一部に当接するように前記ハウジング内に配置された端部を有し、前記阻止部材が、前記ハウジングの前記開口部を通って延在し前記本体部分に連結し、前記本体部分が前記ハウジングの外側に配置される、請求項1に記載の注射器。
【請求項10】
前記保護具が近位端を有し、前記トリガが遠位端を有し、前記保護具の前記近位端が、前記保護具が前記保護位置にある時、前記トリガの前記遠位端から軸方向に離れて配置され、前記阻止部材が、前記保護具の前記近位端と前記トリガの前記遠位端との間に軸方向に配置される、請求項9に記載の注射器。
【請求項11】
前記係止要素は、第1の位置から第2の位置まで移動可能であるように前記スリーブと摺動可能に関連し、前記第1の位置が、前記保護具が前記作動位置に引き込み可能であるような位置であり、前記第2の位置において、前記係止要素が、前記スリーブと固定した関係で配置され、かつ前記保護具の前記作動位置への移動を阻止する、請求項1に記載の注射器。
【請求項12】
前記保護具の前記保護位置への後続する戻りにより、前記係止要素が前記第2の位置まで移動する、請求項11に記載の注射器。
【請求項13】
前記安全部材が、開放端または前記保護具を覆うようにかつ前記保護具を包囲するように構成されたキャップの形態であり、前記保護具がフランジを有し、前記キャップが突起を有し、それにより前記保護具と前記キャップとの間にスナップ嵌合が達成され、前記キャップの一部が前記ハウジングの一部に当接し、それにより前記キャップが前記保護具の前記作動位置への引き込みを制限する、請求項1に記載の注射器。
【請求項14】
前記ラムは、ばねの形態のエネルギー源により前記注射器の遠位端に向かって付勢され、前記トリガは、前記ラッチと当接する掛止部分を有し、前記トリガは外側ハウジングの内側で摺動可能であり、前記トリガが前記注射位置へ近位方向に摺動するときに、前記掛止部分は、前記掛止部分が接触する前記ラッチの部分を越えて摺動する、請求項1に記載の注射器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-19 
出願番号 特願2010-550821(P2010-550821)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61M)
P 1 651・ 121- YAA (A61M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 永冨 宏之金丸 治之佐々木 一浩  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 橘 均憲
高木 彰
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5731829号(P5731829)
権利者 アンタレス・ファーマ・インコーポレーテッド
発明の名称 注射器安全装置  
代理人 山本 修  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 串田 幸一  
代理人 串田 幸一  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ