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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B65H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B65H
審判 全部申し立て 2項進歩性  B65H
管理番号 1324855
異議申立番号 異議2016-700318  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-04-14 
確定日 2017-01-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5815210号発明「帯状物巻回方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5815210号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について、訂正することを認める。 特許第5815210号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5815210号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成22年3月8日に特許出願され、平成27年10月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人平賀博により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年7月15日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である同年9月16日付けで意見書の提出及び訂正の請求がなされ、差出日不明につき同年10月19日受付の補正書の提出がなされ、当審において同年11月4日付けで特許異議申立人に対して通知書を通知し、その指定期間内である同年11月18日付けで意見書の提出がなされたものである。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1、及び3の
「原反から繰り出される帯状物を巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、」を、
「コンデンサ又は電池等の材料となる帯状物であって原反から繰り出される帯状物を巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、」(下線は審決で付した。以下同じ。)と訂正する。
(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1、及び3の
「前記ボビンに巻き取られた帯状物の長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記ボビンに巻き取られた帯状物を前記原反から切断する工程と、」を、
「前記巻軸から隔絶した位置で、前記ボビンに巻き取られた帯状物の長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記ボビンに巻き取られた帯状物を前記原反から切断する工程と、」と訂正する。
(3)訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項1、及び3の
「前記ボビンに巻き取られた帯状物を前記巻回装置の巻軸に係止する工程と、」を、
「前記巻軸の近傍に前記ボビンを配置し、該ボビンに巻き取られた帯状物を前記巻回装置の巻軸に係止する工程と、」と訂正する。
(4)訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項2、及び3の
「複数の原反から繰り出される複数の帯状物を、互いに重ね合わせて巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、」を、
「コンデンサ又は電池等の材料となる帯状物であって複数の原反から繰り出される複数の帯状物を、互いに重ね合わせて巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、」と訂正する。
(5)訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項2、及び3の
「前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物のそれぞれの長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記複数の原反からそれぞれ切断する工程と、」を、
「前記巻軸から隔絶した位置で、前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物のそれぞれの長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記複数の原反からそれぞれ切断する工程と、」と訂正する。
(6)訂正事項2-3
特許請求の範囲の請求項2、及び3の
「前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記巻回装置の巻軸にそれぞれ係止する工程と、」を、
「前記巻軸の近傍に前記複数のボビンを配置し、該複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記巻回装置の巻軸にそれぞれ係止する工程と、」と訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、帯状物に関して、具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書(段落【0001】)に記載した事項の範囲において訂正をするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、ボビンに巻き取られた帯状物を原反から切断する工程に関して、切断する位置を具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、願書に添付した明細書の「また、帯状物の切断は、帯状物をボビンに巻き取らせた直後に行われるので、帯状物を巻軸の近傍で切断しなくて良い。このため、帯状物の切断時に活物質の粉塵が飛散することがあっても、この粉塵が巻軸の軸受等に至らないように、帯状物の切断される位置を巻軸から隔絶するのが容易である。」(段落【0012】)との記載を踏まえると、訂正事項1-2は、当業者にとって自明の事項であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲において訂正をするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項1-3
訂正事項1-3は、帯状物を巻回装置の巻軸に係止する工程に関して、ボビンの配置を具体的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1-3は、願書に添付した明細書(段落【0020】)に記載した事項の範囲において訂正をするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項2-1について
訂正事項2-1は、上記「(1)」のとおりであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲において訂正をするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項2-2について
訂正事項2-2は、上記「(2)」のとおりであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲において訂正をするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)訂正事項2-3
訂正事項2-3は、上記「(3)」のとおりであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲において訂正をするものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(7)一群の請求項について
これらの訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。
また、訂正後の請求項1?3は、一群の請求項である。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについて
1.本件特許発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?3に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)。
「【請求項1】
コンデンサ又は電池等の材料となる帯状物であって原反から繰り出される帯状物を巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、
前記原反から繰り出される帯状物をボビンに巻き取らせる工程と、
前記ボビンの回転数に基づいて、又は前記ボビンに巻き取られる前記帯状物に設けたタグに基づいて、前記ボビンに巻き取らせた前記帯状物の長さを計測する工程と、
前記巻軸から隔絶した位置で、前記ボビンに巻き取られた帯状物の長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記ボビンに巻き取られた帯状物を前記原反から切断する工程と、
前記巻軸の近傍に前記ボビンを配置し、該ボビンに巻き取られた帯状物を前記巻回装置の巻軸に係止する工程と、
前記巻軸の回転に従い前記ボビンから繰り出される帯状物を、前記巻軸の周りに巻回させる工程とからなり、
前記巻回装置が複数の巻軸を備え、
前記原反から繰り出される帯状物をボビンに巻き取らせ、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの一の巻軸に係止し、
前記一の巻軸の回転に従い前記ボビンから繰り出される帯状物を、前記一の巻軸の周りに巻回させる間に、ボビンを新たに準備し、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止することを特徴とする帯状物巻回方法。
【請求項2】
コンデンサ又は電池等の材料となる帯状物であって複数の原反から繰り出される複数の帯状物を、互いに重ね合わせて巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、
前記複数の原反から繰り出される複数の帯状物を複数のボビンにそれぞれ巻き取らせる工程と、
前記複数のボビンの回転数に基づいて、又は前記複数のボビンに巻き取られる各帯状物に設けたタグに基づいて、各ボビンに巻き取らせた各帯状物の長さを計測する工程と、
前記巻軸から隔絶した位置で、前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物のそれぞれの長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記複数の原反からそれぞれ切断する工程と、
前記巻軸の近傍に前記複数のボビンを配置し、該複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記巻回装置の巻軸にそれぞれ係止する工程と、
前記巻軸の回転に従い前記複数のボビンから繰り出される複数の帯状物を、前記巻軸の周りに巻回させる工程とからなり、
前記巻回装置が複数の巻軸を備え、
前記原反から繰り出される帯状物をボビンに巻き取らせ、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの一の巻軸に係止し、
前記一の巻軸の回転に従い前記ボビンから繰り出される帯状物を、前記一の巻軸の周りに巻回させる間に、ボビンを新たに準備し、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止することを特徴とする帯状物巻回方法。
【請求項3】
前記ボビンに巻き取られた帯状物の切口を前記巻回装置の巻軸のスリットに挿入することにより、前記ボビンに巻き取られた帯状物を該巻軸に係止することを特徴とする請求項1又は2に記載する帯状物巻回方法。」

2.取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1?3に係る特許に対して平成28年7月15日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
請求項1?3に係る発明は、甲1?3号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同項に係る特許は、取り消されるべきものである。

3.甲各号証の記載
(1)甲1号証
甲1号証(特開平11-86877号公報)には、次の事項が記載されている。
ア.「シート状の正極(1)とシート状の負極(2)をセパレータ(3)を介在して重ね合わせ、巻回機(20)にて巻回する渦巻状電極体の巻回方法において、
前記正極(1)および負極(2)を予めセル1個分フープ状に巻取った状態で前記巻回機(20)にセットし、各々セットされたフープ状の正極(1)および負極(2)を繰り出しながら前記セパレータ(3)と共に巻回することを特徴とする渦巻状電極体の巻回方法。」(【請求項1】)
イ.「【発明の属する技術分野】本発明は渦巻状の電極構造を有する円筒型の電池や電気二重層キャパシタなど電気化学的素子に使用する渦巻状電極体の巻回方法に関するものである。」(段落【0001】)
(エ)「発明の第1実施形態では、シート電極形成後、次工程で正極1および負極2をセル1個分の長さに切断し、各々フープ状に巻き取る。」(段落【0016】)
ウ.「図中、1はシート状の正極、2は負極である。何れもフープ状に巻き取られた状態で巻回機20の所定個所にセットされている。また、これらフープ状の電極1,2がカセット25に収納されている場合は、カセット25ごと巻回機20の所定位置にセットされる。3はフープ状に巻き取られたセパレータで、その先端部に巻回テンション用の重りG2が取り付けてある。巻回時には、正極1および負極2がそれぞれトレー22およびトレー23上に繰り出されてマンドレル21に供給され、前記セパレータ3と共にその割溝に各シートの端部を挿入した後、このマンドレル21が回転することにより、これを巻芯としてセパレータ3を介して正極1と負極2がスパイラル状に巻回され、図5に示すような渦巻電極体11が形成される。なお、正極用のトレー22と負極用のトレー23の上に設置したG1,G1は正極1および負極2の巻回テンションを得るためのテンションロールである。」(段落【0020】)
これらの記載を総合すると、甲1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「シート状の正極とシート状の負極をセパレータを介在して重ね合わせ、巻回機にて巻回する円筒型の電池や電気二重層キャパシタなど電気化学的素子に使用する渦巻状電極体の巻回方法において、
シート電極形成後、次工程で正極および負極をセル1個分の長さに切断し、各々フープ状に巻き取り、
フープ状に巻き取られた状態で巻回機の所定個所にセットされて、巻回時には、各々セットされたフープ状の正極および負極がそれぞれトレーおよびトレー上に繰り出されてマンドレルに供給され、前記セパレータと共にその割溝に各シートの端部を挿入した後、このマンドレルが回転することにより、これを巻芯としてセパレータを介して正極と負極がスパイラル状に巻回される円筒型の電池や電気二重層キャパシタなど電気化学的素子に使用する渦巻状電極体の巻回方法。」
(2)甲2号証
甲2号証(特開平6-203839号公報)には、次の事項が記載されている。
ア.「【産業上の利用分野】この発明は、円筒形リチウム電池などに内蔵されているスパイラル形電極セットを製造する設備に関し、特に、帯状に形成された正極と負極とセパレータとをスパイラル状に巻き込んで成形する装置に関する。」(段落【0001】)
イ.「【実施例】以下、本発明の好適な実施例について、添付図面を参照にして詳述する。図1は本発明の一実施例による装置の全体的な概略構成を示す正面図であり、10は当該装置の中心要素である割出しテーブルを示している。円形の割出しテーブル10の外周面を6等分する位置にそれぞれ以下の作業治具セットが回転対称に配設されており、割出しテーブル10は60度づつ時計方向に分割回転され、6分割回転で一周する。この割出しテーブル10の周囲に第1から第6の作業ステーションStn1?Stn6が設定されており、割出しテーブル10の各作業治具セットが各ステーションを順番に通過して一周する過程でスパイラル形電極セットが順次製作される。第1?第6ステーションでの作業治具セットの動きと周辺装置の動きをそれぞれ図2?図7に示している。」(段落【0007】)
ウ.「以上が作業治具セットの構成である。次に各作業ステーションでの作業治具セットと周辺機構の動きを順番に説明する。まず第1ステーションでは第1の固定ガイド11に帯状正極1がセットされる。図2に示すように、帯状正極1の端部には粘着テープ5がはみ出した状態で予め付けられている。この粘着テープ5付きの帯状正極1は図1に示す第1電極セット手段たる真空吸引式のハンドリング機構19によって第1の固定ガイド11の凹溝11aにセットされる。そして第1の固定ガイド11上では帯状正極1は磁石で吸着されて保持される(正極1はパンチングメタルを芯材としており、磁気吸着される)。また第1ステーションでは、次に、帯状正極1がセットされた第1の固定ガイド11上に第1の可動ガイド14を重ねる。その状態を図9に示している。」(段落【0017】)
エ.「次に第1ステーションから第2ステーション、さらに第3ステーションへと作業治具セットが2分割回転する過程で、図3に示すように、第2の固定ガイド12の凹溝12aと可動ガイド14の凹溝14aに掛け渡すように長い帯状セパレータ3をセットする。すなわち、図1に示すように、第2ステーションにセパレータセット手段の一部を構成するセパレータ供給ドラム20が配設されている。帯状セパレータ3が連続的に巻き取られたロール4から引出したセパレータをドラム20に真空吸引し、このドラム20に吸着されたセパレータの所定部位を熱線カッター21で所定長さにカットし、次のセパレータの先端部に粘着テープ7をはみ出した状態で付ける。すなわち、ロール4から引き出されたセパレータ3は、複数のローラ22a,22bを介してドラム20に導かれるが、そのドラム20近隣にセパレータ4を把持し、逆方向にセパレータ4を引っ張る戻し装置23を配設し、熱線カッター21でカットされた後、後行側のセパレータを所定量後退させ、先行のセパレータ4との間に所定距離だけ離し、その後粘着テープ7を貼るようになる。なお、後退時のセパレータ4の弛みはテンションローラ22bで吸収する。」(段落【0018】)
オ.「次に第3ステーションから第4ステーションへと作業治具セットが回転する過程で、図5に示すように、帯状負極2を第2の可動ガイド16の凹溝16aにセットする。図1に示すように、第3ステーションには第2電極セット手段たる負極供給機構25がある。これはベルト式の搬送機構で、端部に粘着テープ6をはみ出し状態に付けた帯状負極2をベルトに真空チャンバ26にて真空吸引で保持し、割出しテーブル10が回転するのに伴って孔付きのベルト27を回転させ、そのベルト27に吸着されている帯状負極2を第2の可動ガイド16にセットする。そして帯状負極2は真空吸引機構により第2の可動ガイド16に保持される。」(段落【0021】)
カ.「次の第4ステーションでは、図5に示すように、押え治具30が凹部10aに進入してきて、まず帯状負極2の端部を押えて粘着テープ6をセパレータ3に貼り付け、さらにセパレータ3を押えて帯状正極1の端部の粘着テープ5をセパレータ3に貼り付ける。また押え治具30でセパレータ3を押えた状態において、それまで凹部10aの両側に後退していた巻芯軸18a,18bが互いに前進し、押えられているセパレータ3を半割り形の巻芯軸18aと18bの先端部で挟み込む。巻芯軸18aと18bでセパレータ3を挟むと、押え治具30は元の位置に後退復帰する。」(段落【0022】)
キ.「次に第4ステーションから第5ステーションへ、さらに第6ステーションへと作業治具セットが回転する過程で、割出しテーブル10の回転と連動して巻芯軸18aと18bが一体に回転し、巻芯軸18aと18bに挟み付けているセパレータ3と、その片側半分の上面側に配置されて粘着テープ6でセパレータ3に貼り付けられている帯状負極2と、反対側の半分の下面側の配置されて粘着テープ5でセパレータ3に貼り付けられている帯状正極1とがそれぞれ前記各固定ガイドおよび可動ガイドから引きずり出されながら、巻芯軸18aと18bに巻き付けられる。」(段落【0025】)
ク.「第6ステーションに作業治具セットが割出された段階では、巻芯軸18aと18bによるスパイラル形電極セットの巻き込み成形が終了し、セパレータ3の後端の粘着テープ7で電極セット40の終端止めがなされる。第6ステーションにおいて、完成したスパイラル形電極セット40が取り出され、このステーションおよび次の第1ステーションにおいて作業治具セットが初期状態に復帰する。」(段落【0028】)
ケ.「【発明の効果】以上詳細に説明したように、この発明の装置では、複数の作業治具セットを等間隔で割出しテーブルに配設し、その割出しテーブルの周囲に複数の作業ステーションを設定し、各ステーションでそれぞれの分担工程を並行して行い、帯状正極と帯状負極と帯状セパレータとを重ねて巻き込んで円筒形に成形する作業を順送り式に自動的に行うことができる。」(段落【0036】)
コ. 上記「ア.」?「ケ.」の記載から、甲2号証には、円筒形リチウム電池などに内蔵されているスパイラル形電極セットにおける帯状に形成された正極と負極とセパレータとをスパイラル状に巻き込む巻回方法が示されているといえる。
これらの記載を総合すると、甲2号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「円筒形リチウム電池などに内蔵されているスパイラル形電極セットにおける帯状に形成された正極と負極とセパレータとをスパイラル状に巻き込む巻回方法であって、
帯状に形成された正極と負極とセパレータとをスパイラル状に巻き込んで成形する装置の円形の割出しテーブル10の周囲に第1から第6の作業ステーションStn1?Stn6が設定されており、各作業治具セットが各ステーションを順番に通過して一周する過程でスパイラル形電極セットが順次製作されるものであって、
まず第1ステーションでは帯状正極1がセットされ、
次に第1ステーションから第2ステーション、さらに第3ステーションへと作業治具セットが2分割回転する過程で、長い帯状セパレータ3をセットし、
次に第3ステーションから第4ステーションへと作業治具セットが回転する過程で、帯状負極2をセットし、
次の第4ステーションでは、まず帯状負極2の端部を押えて粘着テープ6をセパレータ3に貼り付け、さらにセパレータ3を押えて帯状正極1の端部の粘着テープ5をセパレータ3に貼り付け、セパレータ3を半割り形の巻芯軸18aと18bの先端部で挟み込み、
次に第4ステーションから第5ステーションへ、さらに第6ステーションへと作業治具セットが回転する過程で、割出しテーブル10の回転と連動して巻芯軸18aと18bが一体に回転し、セパレータ3と帯状負極2と帯状正極1とが巻芯軸18aと18bに巻き付けられ、
第6ステーションに作業治具セットが割出された段階では、巻芯軸18aと18bによるスパイラル形電極セットの巻き込み成形が終了し、第6ステーションにおいて、完成したスパイラル形電極セット40が取り出され、このステーションおよび次の第1ステーションにおいて作業治具セットが初期状態に復帰し、
各ステーションでそれぞれの分担工程を並行して行い、帯状正極と帯状負極と帯状セパレータとを重ねて巻き込んで円筒形に成形する作業を順送り式に自動的に行うことができる帯状に形成された正極と負極とセパレータとをスパイラル状に巻き込む巻回方法。」
(3)甲3号証
甲3号証(特開平9-63565号公報)には、次の事項が記載されている。
ア.「電池用電極シートを駆動ロールにて両面から挟持した状態でボビンに向けて送り出し、ボビンに達した電池用電極シートを押付けロールにて押付け固定した状態で、粘着テープがセットされた接合ロールが、電池用電極シート先端側の端縁部付近にて電池用電極シートとボビンとの間をこれらの表面に接触しながら転動することで、前記粘着テープを電池用電極シートとボビンとの双方に貼付して電池用電極シートの端縁部をボビンに接合し、前記押付けロールが、電池用電極シートの巻取量に伴う巻き径の増大に追従してボビン中心から離れる方向に移動可能であることを特徴とする電池用電極シートの巻付方法。」(【請求項5】)

4.判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア.本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、
後者における「電気二重層キャパシタ」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「コンデンサ」に相当し、以下同様に、「円筒型の電池」は「電池」に、「『シート状の正極』、及び『シート状の負極』」は「帯状物」に、「巻回機」は「巻回装置」に、「マンドレル」は「巻軸」に、「円筒型の電池や電気二重層キャパシタなど電気化学的素子に使用する渦巻状電極体の巻回方法」は「帯状物巻回方法」に、それぞれ相当する。
また、後者は、シート状の正極およびシート状の負極をセル1個分の長さに切断し、各々フープ状に巻き取り、フープ状に巻き取られた状態で巻回機の所定個所にセットされるから、シート状の正極およびシート状の負極が、「原反から繰り出されるもの」であることは、明らかであり、また、「マンドレル(巻軸)から隔絶した位置で、シート状の正極およびシート状の負極(帯状物)の長さがマンドレル(巻軸)の周りに巻回されるシート状の正極およびシート状の負極(帯状物)の全長に一致するように、シート状の正極およびシート状の負極(帯状物)を原反から切断する工程」を備えていることは明らかである
また、後者は、シート電極形成後、次工程で正極および負極をセル1個分の長さに切断し、各々フープ状に巻き取りを行っているから、「原反から繰り出されるシート状の正極およびシート状の負極(帯状物)をボビンに巻き取らせる工程」を備えているといえる。
また、後者のシート状の正極およびシート状の負極は、セル1個分の長さに切断されているから、「シート状の正極およびシート状の負極(帯状物)の長さを計測する工程」を備えていることは明らかである。
また、後者のシート状の正極およびシート状の負極は、フープ状に巻き取られた状態で巻回機の所定個所にセットされて、巻回時には、各々セットされたフープ状の正極および負極がそれぞれマンドレルに供給され、前記セパレータと共にその割溝に各シートの端部を挿入されるから、「マンドレル(巻軸)の近傍に巻き取られたシート状の正極およびシート状の負極(帯状物)を配置し、巻き取られたシート状の正極およびシート状の負極(帯状物)を巻回機(巻回装置)のマンドレル(巻軸)に係止する工程」を備えていることは明らかである。
したがって、両者は、
「コンデンサ又は電池等の材料となる帯状物であって原反から繰り出される帯状物を巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、
前記原反から繰り出される帯状物を巻き取らせる工程と、
前記帯状物の長さを計測する工程と、
前記巻軸から隔絶した位置で、前記巻き取られた帯状物の長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記帯状物を前記原反から切断する工程と、
前記巻軸の近傍に配置し、巻き取られた帯状物を前記巻回装置の巻軸に係止する工程と、
前記巻軸の回転に従い繰り出される帯状物を、前記巻軸の周りに巻回させる工程とからなり、
前記巻回装置が巻軸を備え、
前記原反から繰り出される帯状物を巻き取らせ、この巻き取られた帯状物を巻軸に係止した、
帯状物巻回方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本件特許発明1においては、原反から繰り出される帯状物を「ボビンに」巻き取らせる、「前記ボビンに」巻き取られた帯状物、及び「前記ボビンから」繰り出される帯状物であるのに対し、引用発明1においては、その点につき、明らかでない点。
[相違点2]
本件特許発明1においては、「ボビンの回転数に基づいて、又は前記ボビンに巻き取られる帯状物に設けたタグに基づいて、前記ボビンに」巻き取らせた前記帯状物の長さを計測するのに対し、引用発明1においては、その点につき、明らかでない点。
[相違点3]
本件特許発明1においては、「巻軸の近傍に前記ボビンを配置し」ているのに対し、引用発明1においては、マンドレルの近傍に巻き取られたシート状の正極およびシート状の負極を配置している点。
[相違点4]
本件特許発明1においては、巻回装置が「複数の」巻軸を備え、「巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの一の」巻軸に係止し、「前記一の巻軸の回転に従い前記ボビンから繰り出される帯状物を、前記一の巻軸の周りに巻回させる間に、ボビンを新たに準備し、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止する」のに対し、引用発明1においては、フープ状に巻き取られた状態で巻回機の所定個所にセットされて、巻回時には、各々セットされたフープ状の正極および負極がそれぞれトレーおよびトレー上に繰り出されてマンドレルに供給され、前記セパレータと共にその割溝に各シートの端部を挿入した後、このマンドレルが回転することにより、これを巻芯としてセパレータを介して正極と負極がスパイラル状に巻回される点。
(イ)判断
上記相違点4について以下検討する。
引用発明2は、上記「(3)イ.」のとおりであって、引用発明2における「帯状に形成された正極と負極とセパレータとをスパイラル状に巻き込んで成形する装置」は、その構造、機能、作用等からみて、本件特許発明1における「巻回装置」に相当し、以下同様に、「巻芯軸18a、18b」は「巻軸」に、「帯状に形成された正極、負極、及びセパレータ」は「帯状物」に、それぞれ相当する。
また、後者の帯状に形成された正極と負極とセパレータとをスパイラル状に巻き込んで成形する装置(巻回装置)は、各ステーションでそれぞれの分担工程を並行して行うものであるから、「複数の巻芯軸18a、18b(巻軸)を備えている」ことは、明らかである。
また、後者は、第4ステーションで、セパレータ3を半割り形の巻芯軸18aと18bの先端部で挟み込み、次に第4ステーションから第5ステーションへ、さらに第6ステーションへと作業治具セットが回転する過程で、割出しテーブル10の回転と連動して巻芯軸18aと18bが一体に回転し、セパレータ3と帯状負極2と帯状正極1とが巻芯軸18aと18bに巻き付けるものであり、また各ステーションでそれぞれの分担工程を並行して行い、帯状正極と帯状負極と帯状セパレータとを重ねて巻き込んで円筒形に成形する作業を順送り式に自動的に行っているから、「セパレータ3(帯状物)を複数の巻芯軸18a、18b(巻軸)のうちの一の巻芯軸18a、18b(巻軸)に係止し、「前記一の巻芯軸18a、18b(巻軸)の回転に従い前記セパレータ3(帯状物)を、前記一の巻芯軸18a、18b(巻軸)の周りに巻回させる間に、セパレータ3(帯状物)を新たに準備し、このセパレータ3(帯状物)を前記複数の巻芯軸18a、18b(巻軸)のうちの他の巻芯軸18a、18b(巻軸)に係止している」といえる。
してみると、引用発明2は、上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項のうち、巻回装置が「複数の」巻軸を備え、「巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの一の」巻軸に係止し、「前記一の巻軸の回転に従い帯状物を、前記一の巻軸の周りに巻回させる間に、帯状物を前記複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止する」との事項が示されているが、「ボビンから繰り出される」帯状物、「ボビンを新たに準備し」、及び「このボビンに巻き取られた」帯状物との事項は示されていなし、また上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項が、周知の技術事項であるともいえない。
また、甲3号証には、上記「(3)ウ.」のとおり、電池電極用シート(帯状物)をボビンに巻き付けることが示されているから、帯状物をボビンに巻き取ることは、慣用の技術事項である。
しかしながら、引用発明1を上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項とするためには、まず、引用発明2に上記慣用の技術事項を適用して、更に、引用発明2に上記慣用の技術事項に適用したものを、引用発明1に適用しなければならず、つまり、容易の容易、所謂後付けの論理となる。
加えて、引用発明2は、割出しテーブル10の第1?3ステーションにおいて、巻回していない平坦な帯状正極1、巻回していない平坦な長い帯状セパレータ3、巻回していない平坦な帯状負極2の順で配置し、第4ステーションにおいて、帯状正極1、及び帯状負極2を長い帯状セパレータ3に貼り付けて、これらを巻芯軸18a、18bに巻き付けており、上記慣用の技術事項のようなボビンに巻き取った帯状物を配置することを想定していないから、引用発明2に上記慣用の技術事項を適用することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項が、当業者にとって設計事項とする根拠もない。
したがって、引用発明1において、上記相違点4に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えるものとすることについて、当業者が容易に想到し得るものではない。
よって、上記相違点1?3を検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1、及び2、並びに甲3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

イ.本件特許発明2、3について
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであり、本件特許発明3は、本件特許発明1、または2の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本件特許発明8は、上記「ア.」と同様の理由により、引用発明1、及び2、並びに甲3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア.特許異議申立人平賀博は、訂正前の特許請求の範囲、及び本件特許明細書の記載に関し、特許異議申立書において、請求項1、及び2の記載では、原反から帯状体を巻き取る際のボビンの位置とボビンに巻き取られた帯状体を巻軸の周りに巻回させる際のが同じ位置でもよいことになっているが、本件特許明細書に記載の「帯状物15を原反19から巻回装置1の巻軸まで直に走行させた従来例に比較して、帯状物15の原反19からボビン17までの行程を短縮し、更にボビン17から巻軸3までの行程も短縮できる。」(段落【0025】)等の作用効果を奏することはできないから、請求項1、及び2の記載は、不明確であり、どのようにしたら上記作用効果を奏するかについて、発明の詳細な説明に記載されておらず、特許法第36条第6項第2号、及び同法同条第4項第1号の要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、(訂正後の)請求項1は、「前記巻軸から隔絶した位置で・・・前記ボビンに巻き取られた帯状物を前記原反から切断する工程と、前記巻軸の近傍に前記ボビンを配置し、該ボビンに巻き取られた帯状物を前記巻回装置の巻軸に係止する工程と」と記載されており、帯状物を巻き取ったボビンを移動させることは明らかであるから、請求項1の記載は明確であり、また上記作用効果を奏することも明らかである。
また、請求項2の記載も、上記と同様のことがいえる。
したがって、上記の主張は理由がない。
イ.特許異議申立人平賀博は、訂正前の特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書において、請求項1、及び2の「ボビンを新たに準備し」の記載では、何をもって新たに準備することになるのか、不明確であるから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、請求項1には、「ボビンを新たに準備し、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止する」と記載されているから、新たに準備するボビンとは、複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止するための帯状体を巻き取ったボビンであることは明らかである。
また、請求項2の記載も、上記と同様のことがいえる。
したがって、上記の主張は理由がない。
ウ.特許異議申立人平賀博は、訂正前の特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書において、請求項1、及び2の「帯状物」や「ボビン」の記載において、「前記」との文言により特定されていない箇所があり、これらの箇所の「帯状物」や「ボビン」がどの「帯状物」や「ボビン」を指しているのか、明確でないから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、請求項1に記載されている「前記」との文言により特定されていない「帯状物」は、「前記原反から繰り出される帯状物」、「前記ボビンに巻き取られた帯状物」、「前記巻軸の周りに巻回される帯状物」、「該ボビンに巻き取られた帯状物」、「前記ボビンから繰り出される帯状物」、及び「このボビンに巻き取られた帯状物」と記載されているから、これらの「帯状物」が、どの「帯状物」を指しているかは明らかである。
また、請求項1に記載されている「前記」との文言により特定されていない「ボビン」に関して、「前記原反から繰り出される帯状物をボビンに巻き取らせ」と記載されているから、原反から繰り出される帯状物を巻き取らせるボビンであることは明らかであり、また「ボビンを新たに準備し、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止する」と記載されているから、新たに準備するボビンとは、複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止するための帯状体を巻き取ったボビンであることは明らかである。
また、請求項2の記載も、上記と同様のことがいえる。
したがって、上記の主張は理由がない。
エ.特許異議申立人平賀博は、訂正前の特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書において、請求項1、及び2には、「前記複数のボビンに巻き取られる各帯状物に設けたタグに基づいて、各ボビンに巻き取らせた各帯状物の長さを計測する」と記載されているが、発明の詳細な説明には、当該「タグ」によって、具体的にどのようして計測しているのか開示されていないから、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、本件特許明細書の「上記の手順として、図2に示すボビン17の回転数、又は帯状物15の適所に設けたタグ等に基づき、ボビン17に巻き取られる帯状物15の長さを計測する。」(段落【0019】)との記載、及び「タグ」に関する一般的技術常識を踏まえれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「タグ」による計測に関して、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。
したがって、上記の主張は理由がない。
オ.特許異議申立人平賀博は、訂正前の特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書において、請求項1、及び2の記載は、「ボビンに巻き取らせる工程」の後に「長さを計測する工程」を別途行うかのような記載となっているが、本件特許明細書(段落【0019】)には、「ボビンに巻き取らせる工程」の中で、「長さを計測すること」が記載されているのみであるから、サポート要件を具備しておらず、請求項1、及び2の記載は、不明確であり、特許法第36条第6項第1、及び2号の要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、請求項1の記載から、各工程が経時的に記載されているとはいえない。
また、本件特許明細書の段落【0019】には、「上記の手順として、図2に示すボビン17の回転数、又は帯状物15の適所に設けたタグ等に基づき、ボビン17に巻き取られる帯状物15の長さを計測する。そして、帯状物15のカッター25の正面に対向する箇所27を基準に、これよりも帯状物15の走行する向きを指す矢印Fの上流側にある帯状物15の長さが上記の全長に達した時点で、カッター25を帯状物15に切り込むよう前進させる。カッター25が図示の位置に復帰したところで帯状物15の切断が完了する。以上の工程で、1個分のコンデンサ、又は電池等の材料となる帯状物15が、4個のボビン17にそれぞれ巻き付けられる。」と記載され、帯状物の長さを計測しながら、ボビンに帯状物が巻き付けられることになることが示されているから、請求項1に記載されているように、「ボビンに巻き取らせる工程」、及び「長さを計測する工程」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているし、請求項1の記載も明確である。
また、請求項2の記載も、上記と同様のことがいえる。
したがって、上記の主張は理由がない。
カ.特許異議申立人平賀博は、訂正前の特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書において、請求項2の「複数の原反から繰り出される複数の帯状物を・・・前記巻軸の周りに巻回させる工程とからなり、」(以下「第1の記載」という。)との記載においては、「ボビン」や「帯状物」は、「複数」と記載されているが、請求項2の「前記原反から繰り出される帯状物をボビンに巻き取らせ・・・他の巻軸に係止する」(以下「第2の記載」という。)との記載においては、「ボビン」や「帯状物」は、「複数」とは記載されておらず、第1の記載の「複数のボビン」や「複数の帯状物」のどれを指しているのか、不明確であるから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさない旨主張している。
しかしながら、第1の記載の「前記複数の原反から繰り出される複数の帯状物を複数のボビンにそれぞれ巻き取らせる工程」、及び「前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記巻回装置の巻軸にそれぞれ係止する工程」の記載を踏まえれば、第2に記載に記載されている「ボビン」、及び「帯状物」は、「複数」であることは明らかである。
したがって、上記の主張は理由がない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ又は電池の材料となる帯状物であって原反から繰り出される帯状物を巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、
前記原反から繰り出される帯状物をボビンに巻き取らせる工程と、
前記ボビンの回転数に基づいて、又は前記ボビンに巻き取られる前記帯状物に設けたタグに基づいて、前記ボビンに巻き取らせた前記帯状物の長さを計測する工程と、
前記巻軸から隔絶した位置で、前記ボビンに巻き取られた帯状物の長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記ボビンに巻き取られた帯状物を前記原反から切断する工程と、
前記巻軸の近傍に前記ボビンを配置し、該ボビンに巻き取られた帯状物を前記巻回装置の巻軸に係止する工程と、
前記巻軸の回転に従い前記ボビンから繰り出される帯状物を、前記巻軸の周りに巻回させる工程とからなり、
前記巻回装置が複数の巻軸を備え、
前記原反から繰り出される帯状物をボビンに巻き取らせ、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの一の巻軸に係止し、
前記一の巻軸の回転に従い前記ボビンから繰り出される帯状物を、前記一の巻軸の周りに巻回させる間に、ボビンを新たに準備し、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止することを特徴とする帯状物巻回方法。
【請求項2】
コンデンサ又は電池の材料となる帯状物であって複数の原反から繰り出される複数の帯状物を、互いに重ね合わせて巻回装置の巻軸の周りに巻回する帯状物巻回方法であって、
前記複数の原反から繰り出される複数の帯状物を複数のボビンにそれぞれ巻き取らせる工程と、
前記複数のボビンの回転数に基づいて、又は前記複数のボビンに巻き取られる各帯状物に設けたタグに基づいて、各ボビンに巻き取らせた各帯状物の長さを計測する工程と、
前記巻軸から隔絶した位置で、前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物のそれぞれの長さが前記巻軸の周りに巻回される帯状物の全長に一致するように、前記複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記複数の原反からそれぞれ切断する工程と、
前記巻軸の近傍に前記複数のボビンを配置し、該複数のボビンに巻き取られた複数の帯状物を前記巻回装置の巻軸にそれぞれ係止する工程と、
前記巻軸の回転に従い前記複数のボビンから繰り出される複数の帯状物を、前記巻軸の周りに巻回させる工程とからなり、
前記巻回装置が複数の巻軸を備え、
前記原反から繰り出される帯状物をボビンに巻き取らせ、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの一の巻軸に係止し、
前記一の巻軸の回転に従い前記ボビンから繰り出される帯状物を、前記一の巻軸の周りに巻回させる間に、ボビンを新たに準備し、このボビンに巻き取られた帯状物を前記複数の巻軸のうちの他の巻軸に係止することを特徴とする帯状物巻回方法。
【請求項3】
前記ボビンに巻き取られた帯状物の切口を前記巻回装置の巻軸のスリットに挿入することにより、前記ボビンに巻き取られた帯状物を該巻軸に係止することを特徴とする請求項1又は2に記載する帯状物巻回方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2016-12-27 
出願番号 特願2010-50897(P2010-50897)
審決分類 P 1 651・ 537- YA (B65H)
P 1 651・ 536- YA (B65H)
P 1 651・ 121- YA (B65H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 笹木 俊男  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 藤本 義仁
黒瀬 雅一
登録日 2015-10-02 
登録番号 特許第5815210号(P5815210)
権利者 株式会社皆藤製作所
発明の名称 帯状物巻回方法  
代理人 楠本 高義  
代理人 楠本 高義  
代理人 中川 茂樹  
代理人 中川 茂樹  

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