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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1324863
異議申立番号 異議2016-701062  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-17 
確定日 2017-01-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第5919841号発明「発泡体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5919841号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5919841号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成24年1月27日に出願され、平成28年4月22日に特許の設定登録がされ、平成28年11月17日にその特許に対し、特許異議申立人一條淳から特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

特許第5919841号の請求項1ないし8に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
発泡体の全成分100質量%中にポリオレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含み、該ポリオレフィン系樹脂が天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレンを25質量%?80質量%、化石原料から生成される低密度ポリエチレンが75質量%?20質量%含有し、発泡体の密度が20kg/m^(3)?50kg/m^(3)の範囲であり、ASTM D6866(2004年制定)によって測定されるバイオマス度が25%以上であることを特徴とする、発泡体。
【請求項2】
示差走査熱量分析による吸熱ピークの値として、118℃以上のピークを有する、請求項1に記載の発泡体。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレンを含み、該ポリエチレンが、天然由来エチレンに由来する成分を含む(天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレンを、以下、バイオポリエチレンという)、請求項1又は2に記載の発泡体。
【請求項4】
前記バイオポリエチレンが、石油由来オレフィンに由来する成分を含む、請求項3に記載の発泡体。
【請求項5】
前記石油由来オレフィンが、1-ブチレン及び/又は1-ヘキセンである、請求項4に記載の発泡体。
【請求項6】
前記バイオポリエチレン中の石油由来オレフィンに由来する成分の含有量が、2質量%以上30質量%以下であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の発泡体。
【請求項7】
ゲル分率が5%以上であることを特徴とする、請求項1?6のいずれかに記載の発泡体。
【請求項8】
請求項1?7いずれかに記載の発泡体を用いたパッキング材。」

以下、特許第5919841号の請求項1ないし8に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。

第3 特許異議の申立ての概要

特許異議申立人一條淳は、証拠として特開2009-138052号公報(以下、「甲1」という。)、特表2011-506628号公報(以下、「甲2」という。)、特願2011-199177号(特開2013-60514号)(以下、「甲3」という。)、「押出成形技術入門-基礎と応用技術-、132頁、沢田慶司著、株式会社シグマ出版、2003年10月15日、初版第3刷発行」(以下、「甲4」という。)、「広がるバイオベースプラスチック、1?24頁、ARCリポート(RS-926)、株式会社旭リサーチセンター 2010年11月発行」(以下、「甲5」という。)を提出し、特許異議の申立てとして要旨以下のとおりの主張をしている。

1.特許法第29条第2項について
(1)本件発明1ないし8は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

(2)本件発明1ないし8は、甲4に記載された発明及び甲5、1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

2.特許法第29条の2について
本件発明1ないし8は、甲3の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、併せて「甲3明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもないから、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであり、取り消すべきものである。

第4 甲1、2、甲3明細書等、甲4、5の記載及び甲1、甲3明細書等、甲4に記載された発明

1.甲1の記載
甲1には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂と、植物由来樹脂と、熱分解型発泡剤とを含む樹脂組成物を架橋・発泡させることを特徴とする植物由来樹脂含有架橋発泡体の製造方法。
・・・(略)・・・
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする植物由来樹脂含有架橋発泡体。」

(2)「【0015】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、発泡剤や化学架橋剤などの練り込み時の分解の問題を解決するとともに、未発泡シートの割れ、発泡体の密度、柔軟性の問題を解決した植物由来樹脂含有架橋発泡体の製造方法およびこの方法により得られる植物由来樹脂含有架橋発泡体を提供することを目的とする。」

(3)「【発明の効果】
【0021】
本発明に係る架橋発泡体の製造方法および架橋発泡体は、石油系資源の節約と二酸化炭素発生量の削減に寄与し、地球環境への負荷低減に貢献し得るとともに、植物由来材料の欠点であった、発泡剤の練込み性、未発泡シートの割れ、発泡体の密度、柔軟性を改善することができるといった優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明で用いられるポリオレフィン系樹脂は、従来、架橋発泡で好適に使用されているものであり、重合触媒は特に限定されない。ポリオレフィン系樹脂として、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-グリシジルジメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル一グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸メチル-グリシジルメタクリレート共重合体などのエチレン共重合体系ポリオレフィン樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本発明で用いられる植物由来樹脂としては、トウモロコシなどの糖質を発酵させて得た乳酸をモノマーとして合成されたポリ乳酸(PLA(Poly LacticAcid))、澱粉を主成分としたエステル化澱粉、糖質など植物資源を栄養源として微生物が体内に生産する微生物生産型ポリエステル樹脂であるポリヒドロキシアルカエネート(PHA(Poly HydoroxyAlkanoate))、発酵法で得られる1,3-プロパンジオールと石油由来のテレフタル酸とを原料とするポリトリメチレンテレフタレート(PTT(PolyTrimethylene Terephtalate))、主原料の一つであるコハク酸が植物由来で製造されたポリプチレンサクシネ-ト(PBS(Poly ButyleneSuccinate))等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、植物由来樹脂は、上記生分解性樹脂を構成する成分の共重合体であってもよい。これらの中で、ポリ乳酸が供給面や物性面から耐久剤に使用できる可能性が高く、好ましい。上記生分解性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。」

(4)「【0040】
「実施例1」
ポリ乳酸(ユニチカ株式会社製TP-4000)を単軸40mmの押出機を用いて、直径約3mmのストランド(棒)状に押出し、すぐに水槽へ通して急冷させ、その後ストランドを切断し、直径約3mm、長さ約4mmの非晶性ポリ乳酸ペレットを作製した。
【0041】
次に、上記非晶性ポリ乳酸55重量部に対し、ポリオレフィン系樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル株式会社製EV560)を45重量部、熱分解型発泡剤としてアゾジカルボンアミド(永和化成製AC#1L)を25重量部、相溶化剤としてエチレン-アクリル酸共重合体(日本ポリエチレン株式会社製)を5重量部、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを0.4重量部加え、1Lの加圧ニーダーで130℃で混練後、6インチの二本ロールを用いてシート化した。このシートをシートペレタイザーを用いてペレット化し、40mm単軸押出機で130℃にて押出し、幅150mm、厚さ3mmのシートを得た。
【0042】
上記未発泡シートについて、練り込み性を判定すべく、その表面および断面を観察したが、気泡は認められず、良好であった。また、割れ性を判定すべく、シートを手で曲げたが、割れは生じず、良好であった。
【0043】
さらに、未発泡シートを100mm×100mmの大きさに切り取り、220℃のオーブン中で発泡させたところ、厚さ9mm、密度32kg/m^(3)の架橋発泡体が得られた。この架橋発泡体を100mm×100mmの大きさに切り取った発泡シートについて、柔軟性を判断すべく、辺と辺が重なるように180°に折り曲げ、その折り曲げ部に亀裂が生じるかどうか目視したところ、亀裂は生じず、良好であった。」

2.甲1に記載された発明
甲1には、特に実施例1の記載から、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

「植物由来樹脂として非晶性ポリ乳酸を55重量部、ポリオレフィン系樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体を45重量部、熱分解型発泡剤としてアゾジカルボンアミドを25重量部、相溶化剤としてエチレン-アクリル酸共重合体を5重量部、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを0.4重量部含む樹脂組成物を架橋・発泡させて製造された、密度が32kg/m^(3)である架橋発泡体。」

3.甲2の記載
甲2には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
a)植物源原料(1a)の抽出及び加工によって糖類(2a)を生成する工程と、
・・・(略)・・・
を統合された方法で含む、1-ブチレンがコモノマーであり、エタノール及びブタノールが原料であり、これらが植物を供給源とする材料から、それらから抽出された糖類の発酵を経て得られる、エチレン-ブチレンコポリマーの製造のための統合された方法。
・・・(略)・・・
【請求項17】
ASTM D 6866-06技術規格によるアッセイ法によって決定されて再生可能な天然原料からの炭素含有量100%を有する、請求項1から16までのいずれか一項に記載の方法によって得られたエチレン-ブチレンコポリマー。」

(2)「【0026】
本発明の別の目的は、ASTM D 6866-06の技術規格に記載のアッセイ法によって規定される認定によって再生可能な起源からの炭素100%を含む、完全に再生可能な天然原料から製造されたエチレン-ブチレンコポリマー、コモノマーとしての1-ブチレンを提供することである。
【0027】
全く天然の再生可能な炭素原料だけから供給されるエチレン及び1-ブチレンの、エチレンコポリマーの製造のための使用も本発明の1つの目的である。その結果として、本発明のエチレン-ブチレンコポリマーは、焼却されたときに非化石由来のCO_(2)を発生するというさらなる性質を有する。
【0028】
こうして本発明から得られる製品は、そのライフサイクルの過程において、化石起源に基づくポリマー材料の燃焼によって通常発生されるいわゆる「温室効果」に対して責任のあるガスの放出の低減に有利に働く。」

4.甲3明細書等の記載
甲3明細書等には、以下のとおりの記載がある。
(1)「【請求項1】
ASTM D 6866により測定された植物度が80%以上の植物由来ポリエチレン系樹脂を含み、
植物度が1%以上である、ポリエチレン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
前記植物由来ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、1000質量部以下の石油由来ポリエチレン系樹脂をさらに含む、請求項1に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子。
・・・(略)・・・
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂発泡粒子を用いて発泡成形させて得られた、ポリエチレン系樹脂発泡成形体。」

(2)「【0027】
植物由来ポリエチレン系樹脂及び石油由来ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、エチレンとα-オレフィン単量体との共重合体、エチレンと官能基に炭素、酸素、及び水素原子だけを持つ非オレフィン単量体との共重合体が挙げられ、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
植物由来ポリエチレン系樹脂は、低密度ポリエチレン系樹脂(LDPE:密度 0.910?0.940g/cm^(3))、高密度ポリエチレン系樹脂(HDPE:密度 0.940?0.970g/cm^(3))などであってもよい。耐衝撃性が必要な用途には、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であることが好ましい。直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を用いて発泡成形体を作製すると、高い耐衝撃性を発揮することができる。また、低摩擦抵抗が必要な用途には、高密度ポリエチレン系樹脂であることが好ましい。高密度ポリエチレン系樹脂を用いて発泡成形体を作製すると、低い摩擦抵抗を発揮することができる。この観点から、密度0.945g/cm^(3)以上の低圧法で重合された高密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0029】
なお、石油由来ポリエチレン系樹脂は、種々のグレードの中から1種または複数種が任意に選択され得る。」

(3)「【0070】
(実施例1)
先ず、植物由来ポリエチレン系樹脂としての植物由来高密度ポリエチレン(ブラスケン社製 商品名「SCH726 」)100質量部及び気泡調整剤として重曹クエン酸系の化学発泡剤(大日精化社製 ファインセルマスター商品名「PO217K」)1.0質量部を口径が65mmの単軸押出機に供給して溶融混練した。なお、単軸押出機内において、植物由来高密度ポリエチレンを始めは170℃にて溶融混練した後に220℃まで昇温させながら溶融混練した。
【0071】
続いて、単軸押出機の途中から、イソブタン35質量%及びノルマルブタン65質量%からなるブタンをポリエチレン系樹脂100質量部に対して5質量部となるように溶融状態のポリエチレン系樹脂発泡粒子に圧入して、ポリエチレン系樹脂中に均一に分散させた。
【0072】
その後、押出機の先端部において、溶融状態の溶融物を150℃に冷却した後、図1及び図2に示すように、単軸押出機の前端に取り付けたマルチノズル金型1の各ノズルから剪断速度4750sec^(-1)で押出物を押出発泡させた。マルチノズル金型1の温度は150℃に維持されていた。
・・・(略)・・・
【0078】
冷却されたポリエチレン系樹脂発泡粒子は、冷却ドラム41の排出口41eを通じて冷却液42と共に排出された後、脱水機にて冷却液42と分離された。得られたポリエチレン系樹脂発泡粒子は、その粒径が2.2?2.6mmであり、嵩密度が0.25g/cm^(3)であった。また連続気泡率は70%であり、ASTM D6866によりバイオマス度(植物度)を測定したところ94%であった。
【0079】
次に、上記ポリエチレン系樹脂発泡粒子を密閉容器内に入れ、この密閉容器内に二酸化炭素を0.5MPaの圧力にて圧入して20℃にて24時間に亘って放置してポリエチレン系樹脂発泡粒子に二酸化炭素を含浸させた後、圧力容器から取り出し即座に、金型に投入し2.5kf/cm^(2)の蒸気圧力で成型を実施し、ポリエチレン系樹脂発泡成形体を得た。
【0080】
(実施例2)
植物由来ポリエチレン系樹脂100質量部に対し、石油由来ポリエチレン系樹脂としての高密度ポリエチレン(東ソー社製 商品名「CK57」)215質量部をさらに添加した点以外は実施例1と同様にし、実施例2のポリエチレン系樹脂発泡粒子及びポリエチレン系樹脂発泡成形体を得た。」

(4)「【0089】
(評価結果)
【表2】



5.甲3明細書等に記載された発明
甲3明細書等には、特に実施例2の記載から、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

「植物由来ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、石油由来ポリエチレン系樹脂としての高密度ポリエチレンを215質量部含み、ASTM D 6866により測定された植物度が30%である発泡粒子を発泡成形させて得られた、発泡成形体。」

6.甲4の記載
甲4には、以下のとおりの記載がある。
(1)「5-6-1 発泡押出とその種類
押出成形による発泡成形品は,ポリエチレン(PE),ポリスチレン(PS),塩化ビニル(PVC)あるいはABSなど種々のものがあるが,そのうちでもPEとPSが最も量的に多い.
発泡成形品は発泡倍率が35倍から50倍程度の高発泡体に始まり1.5倍から3倍程度の低発泡体まで広範囲に及んでいる.発泡法も多種多様で,例えば化学発泡剤による方法とガス発泡による方法などがある.
このなかで高発泡成形品はポリスチレン(PS)やポリエチレン(PE)が主体で断熱材,緩衝材として,建材,包装部材として使用されている(写真5-23).」(132頁第7行?第17行)

7.甲4に記載された発明
甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

「ポリエチレンの発泡成形品。」

8.甲5の記載
甲5には、プラスチックの原料は石油由来、石油由来+バイオマス由来、又はバイオマス由来であることが記載されている。また、バイオベースポリエチレンは、従来の石油由来のポリエチレンと同じ設備を用いて同じように製品を作れることが記載されている。

第5 対比・判断

1.甲1及び甲2に基づく特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明において、架橋発泡体の密度は32kg/m^(3)であり、本件発明1において、発泡体の「密度が20kg/m^(3)?50kg/m^(3)の範囲」であるという数値範囲を満たす。また、甲1発明において、架橋発泡体は、原料である樹脂組成物のうち、植物由来樹脂としての非晶性ポリ乳酸55重量部、ポリオレフィン系樹脂としてのエチレン-酢酸ビニル共重合体45重量部、相溶化剤としてのエチレン-アクリル酸共重合体5重量部、架橋剤としてのジクミルパーオキサイド0.4重量部に基づく組成を有すると認められるところ、植物由来樹脂としての非晶性ポリ乳酸の当該重量部からみて、本件発明1において、ASTM D6866(2004年制定)によって測定される「バイオマス度が25%以上」であるという数値範囲を満たすといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリオレフィン系樹脂を含み、発泡体の密度が20kg/m^(3)?50kg/m^(3)の範囲であり、ASTM D6866(2004年制定)によって測定されるバイオマス度が25%以上であることを特徴とする、発泡体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1においては、ポリオレフィン系樹脂が「天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレンを25質量%?80質量%、化石原料から生成される低密度ポリエチレンが75質量%?20質量%含有」するのに対して、甲1発明においては、ポリオレフィン系樹脂が「エチレン-酢酸ビニル共重合体」である点。

<相違点2>
本件発明1においては、発泡体の全成分100質量%中にポリオレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含むのに対して、甲1発明においては、架橋発泡体の全成分100質量%中のポリオレフィン系樹脂の含有量は50質量%よりも少ない点。

相違点1について検討する。
甲1には、用いられるポリオレフィン系樹脂として、低密度ポリエチレン等が列記されているものの、本件発明1にいう「天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレン」については記載も示唆もされていない(第4 1.(3)の【0022】)。また、植物由来樹脂としても、ポリエチレンを用いることについては記載も示唆もされていない(第4 1.(3)の【0023】)。
一方、甲2には、完全に再生可能な天然原料から製造されたエチレン-ブチレンコポリマー(本件発明1の「天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレン」に相当する。)が単に記載されているに留まる。また、当該エチレン-ブチレンコポリマーを、化石原料から生成される所定量の低密度ポリエチレンと併用することについては、記載も示唆もされていない(第4 3.)。
そうである以上、たとえ、甲2に第4 3.で摘示したような技術の開示があったとしても、甲1発明において、ポリオレフィン系樹脂として、化石原料由来の低密度ポリエチレンと共に植物由来の所定量のポリエチレンを用いることに関し、甲2に開示の技術を甲1発明に組み合わせる動機付けがなく、仮に組み合わせたとしても、甲1発明において相違点1に係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。

以上のとおり、本件発明1は甲1発明と相違点1、2において相違するものであり、これらの相違点のうち相違点1は想到容易とはいえないのであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1に係る請求項1を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.甲4及び甲5、1、2に基づく特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明における「ポリエチレン」、「発泡成形品」は、それぞれ、本件発明1における「ポリオレフィン系樹脂」、「発泡体」に相当する。
甲4発明において、発泡成形品はポリエチレンからなる、すなわちポリエチレンが100質量%であるから、本件発明1において、発泡体の全成分100質量%中にポリオレフィン系樹脂を「50質量%以上100質量%以下」含むという数値範囲を満たすといえる。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、
「発泡体の全成分100質量%中にポリオレフィン系樹脂を50質量%以上100質量%以下含むことを特徴とする、発泡体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件発明1においては、ポリオレフィン系樹脂が「天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレンを25質量%?80質量%、化石原料から生成される低密度ポリエチレンが75質量%?20質量%」含有するのに対して、甲4発明においては、ポリオレフィン系樹脂が「ポリエチレン」である点。

<相違点4>
本件発明1においては、発泡体の密度が20kg/m^(3)?50kg/m^(3)の範囲であるのに対して、甲4発明においては、発泡成形品の密度は特定されていない点。

<相違点5>
本件発明1においては、ASTM D6866(2004年制定)によって測定される発泡体のバイオマス度が25%以上であるのに対して、甲4発明においては、発泡成形品のバイオマス度は特定されていない点。

相違点3について検討する。
甲4には、ポリエチレンが具体的には如何なるポリエチレンであるかについて、記載も示唆もされていない(第4 6.)。
一方、甲5には、一般論として、プラスチックの原料は石油由来、石油由来+バイオマス由来、又はバイオマス由来であること、また、バイオベースポリエチレンは従来の石油由来のポリエチレンと同じ設備を用いて同じように製品を作れることが記載されているものの、天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレン及び化石原料から生成される低密度ポリエチレンを所定量で併用することについては、記載も示唆もされていない(第4 8.)。
さらに、甲1には、ポリオレフィン系樹脂と植物由来樹脂を含む樹脂組成物を架橋・発泡させて製造された架橋発泡体が記載されているものの、植物由来樹脂としてポリエチレンを用いることについては、記載も示唆もされていない(第4 1.)。また、甲2には、完全に再生可能な天然原料から製造されたエチレン-ブチレンコポリマーが単に記載されているに留まる(第4 3.)。そして、甲1、2には、天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレン及び化石原料から生成される低密度ポリエチレンを所定量で併用することについては、記載も示唆もされていない。
そうである以上、たとえ、甲5、1、2に第4 8.、1.、3.で摘示したような技術の開示があったとしても、甲4発明において、ポリエチレンとして、天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレンを用い、さらに化石原料から生成される所定量の低密度ポリエチレンを併用することに関し、甲5、1、2に開示の技術を甲4発明に組み合わせる動機付けがなく、仮に組み合わせたとしても、甲4発明において相違点3に係る構成とすることは、たとえ当業者であっても到底容易であるとはいえない。

以上のとおり、本件発明1は甲4発明と相違点3ないし5において相違するものであり、これらの相違点のうち相違点3は想到容易とはいえないのであるから、相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲5、1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1に係る請求項1を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲4発明及び甲5、1、2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.特許法第29条の2について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「植物由来ポリエチレン系樹脂」、「石油由来ポリエチレン系樹脂」、「発泡成形体」は、それぞれ、本件発明1における「天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレン」、「化石原料から生成される」「ポリエチレン」、「発泡体」に相当する。
甲3発明において、発泡成形体の組成は発泡粒子と同様であると認められ、発泡成形体は植物由来ポリエチレン系樹脂及び石油由来ポリエチレン系樹脂からなる、すなわちポリエチレン系樹脂が100質量%であるから、本件発明1において、発泡体の全成分100質量%中にポリオレフィン系樹脂を「50質量%以上100質量%以下」含むという数値範囲を満たすといえる。
甲3発明の全ポリエチレン系樹脂において、植物由来ポリエチレン系樹脂は、100÷(100+215)×100より約32質量%であり、石油由来ポリエチレン系樹脂は、215÷(100+215)×100より約68質量%であるから、本件発明1において、天然由来エチレンに由来する成分を含むポリエチレンを「25質量%?80質量%」含有し、化石原料から生成されるポリエチレンを「75質量%?20質量%」含有するという数値範囲を満たすといえる。
甲3発明において、発泡成形体の植物度は発泡粒子と同様であると認められ、ASTM D 6866により測定された植物度が30%である発泡成形体は、本件発明1において、「ASTM D6866(2004年制定)によって測定されるバイオマス度が25%以上である」という数値範囲を満たすといえる。

一方、甲3発明においては、石油由来ポリエチレン系樹脂が「高密度ポリエチレン」であるのに対して、本件発明1においては、化石原料から生成されるポリエチレンが「低密度ポリエチレン」であるから、両発明は含有するポリエチレンの種類の点で相違する。
さらに、甲3発明においては、発泡成形体の密度が特定されていないのに対して、本件発明1においては、発泡体の密度が「20kg/m^(3)?50kg/m^(3)の範囲」であると特定されているから、両発明は密度の特定の有無の点で相違する。また、甲3明細書等には、甲3発明における発泡粒子の発泡倍数が4、すなわち密度が250kg/m^(3)であることが記載されている(第4 4.(4))ものの、発泡粒子を発泡成形させて得られた発泡成形体の密度は記載されておらず、当該発泡成形体の密度が20kg/m^(3)?50kg/m^(3)の範囲であることが実質的に記載されているともいえないから、上記密度の特定の有無は、実質的な相違点である。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、同一ではない。

以上のとおり、本件発明1は、甲3明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

(2)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、本件発明1に係る請求項1を直接的あるいは間接的に引用してなるものであるから、本件発明1と同様に、甲3明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-17 
出願番号 特願2012-14883(P2012-14883)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 161- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 深谷 陽子加賀 直人  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 守安 智
西山 義之
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5919841号(P5919841)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 発泡体  

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