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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G03F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G03F |
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管理番号 | 1324868 |
異議申立番号 | 異議2015-700354 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-25 |
確定日 | 2017-02-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5741744号発明「感光性樹脂組成物、および樹脂膜」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5741744号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第5741744号(請求項の数5。以下,「本件特許」という。)に係る特許出願は,平成26年3月25日に出願され,平成27年5月15日に特許権の設定登録がされたものである。 これに対し,同年12月25日に特許異議申立人より請求項1ないし5に係る特許について特許異議の申立てがされ,平成28年2月24日付けで特許権者に取消理由が通知され,特許権者より同年5月20日に意見書が,同年6月20日に上申書が提出され,同年7月21日付けで特許権者に取消理由が通知され(以下,当該取消理由の通知を「本件取消理由通知」といい,本件取消理由通知により通知された取消理由を「本件取消理由」という。),特許権者より同年9月14日に意見書が提出され,同年10月31日付けで特許権者に取消理由(決定の予告)が通知され,特許権者より同年12月28日に意見書が提出された。 2 本件特許の請求項1ないし5に係る発明 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下,「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は,それぞれ,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,請求項1ないし5の記載は次のとおりである。 「【請求項1】 永久膜を形成するために用いられる感光性樹脂組成物であって, アルカリ可溶性樹脂と,有機溶剤と,を含み, 120℃,3分の条件で前記有機溶剤を乾燥して樹脂膜aを得た後,前記樹脂膜aに対して窒素雰囲気下,320℃,30分の条件で加熱処理を施して得られる樹脂膜bの,波長630nmの光線に対する膜厚11μm換算の光線透過率をT_(1)(%)とし, 前記樹脂膜bに対して窒素雰囲気下,320℃,5時間の条件で加熱処理を施して得られる樹脂膜cの,波長630nmの光線に対する膜厚11μm換算の光線透過率をT_(2)(%)としたとき, (T_(1)-T_(2))/T_(1)×100が35%以下であり, 前記アルカリ可溶性樹脂は,下記式(1)により示される繰り返し単位を有するアミド結合を有する前駆体と,フェノール化合物とアルデヒド化合物を反応させて得られるフェノール樹脂と,を含む感光性樹脂組成物。 (式(1)中,mは2,nは0または2である。R_(1)は水酸基であり,XとR_(1)は,これらを組み合わせて下記式(1a),式(1b)および式(1c)で表される構造のいずれかである。R_(2)は-COOR_(3)であり,R_(3)は炭素数1?15の有機基である。YとR_(3)は,これらを組み合わせて下記式(1d),式(1e)および式(1f)で表される構造のいずれかである。) (式(1a)中,*は一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。式中Aはアルキレン基または置換アルキレン基である。) (式(1b)中,*は一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。) (式(1c)中,*は一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。) (式(1d)中,*は一般式(1)におけるC=O基に結合することを示す。) (式(1e)中,*は一般式(1)におけるC=O基に結合することを示す。R_(20)は炭素数1?15の有機基を示す。) (式(1f)中,*は一般式(1)におけるC=O基に結合することを示す。R_(20)は炭素数1?15の有機基を示す。) 【請求項2】 請求項1に記載の感光性樹脂組成物において, 前記樹脂膜aの,波長630nmの光線に対する膜厚11μm換算の光線透過率をT_(0)(%)として,(T_(0)-T_(1))/T_(0)×100が40%以下である感光性樹脂組成物。 【請求項3】 請求項1または2に記載の感光性樹脂組成物において, 120℃,3分の条件で前記有機溶剤を乾燥した後,i線を積算光量200mJ/cm^(2)照射して得られる樹脂膜の,23℃で2.38%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液に含浸させた際の膜厚変化量(μm)/現像時間(sec)で求められる現像速度が0.05μm/sec以上2.00μm/sec以下である感光性樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1?3いずれか一項に記載の感光性樹脂組成物において, 前記永久膜は,層間膜,表面保護膜またはダム材である感光性樹脂組成物。 【請求項5】 請求項1?4いずれか一項に記載の感光性樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂膜。」 3 引用例 (1)甲第1号証 ア 甲第1号証及びその記載 本件取消理由で「甲第1号証」として引用された特開2010-123713号公報(以下,「甲1」という。)は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には,次の記載がある。(下線部は,後述する甲1発明の認定に特に関連する箇所を示す。) (ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,耐熱性樹脂パターンの形成方法に関する。より詳しくは,半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜,有機電界発光素子の絶縁層などに適した耐熱性樹脂パターンの形成方法に関する。 【背景技術】 【0002】 ポリイミドやポリベンゾオキサゾールなどの耐熱性樹脂は,その優れた耐熱性,電気絶縁性などからLSIなどの半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜,有機電界発光素子の絶縁層などに好適に用いられている。これらの耐熱性樹脂は,パターン形成後,オーブンまたは炉によって300℃以上の温度で熱処理することにより,熱硬化(キュア)させることが一般に行われている。 【0003】 半導体製造プロセスのスループット向上を目的として,耐熱性樹脂のキュアのための熱処理時間を短くする方策が取られている。例えば,室温ではなく150℃や200℃に昇温されたオーブンまたは炉に耐熱性樹脂を投入する方法や,オーブンまたは炉の昇温速度を大きくすることにより,熱処理温度(最高温度)への到達時間を短縮する方法が挙げられる。近年,パターンの微細化,ウエハーの大口径化が進むにつれ,上記のようなキュアを行う場合,微細パターンがキュアによって狭くなる,あるいは塞がるという課題が発生し,ウエハー面内の寸法均一性を確保することが非常に困難になっている。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は,かかる課題を解決し,ウエハー面内の寸法均一性に優れた耐熱性樹脂パターンの形成方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は,少なくとも(1)耐熱性樹脂組成物または耐熱性樹脂前駆体組成物を基板に塗布して樹脂膜を形成する工程,(2)樹脂膜を乾燥する工程,(3)樹脂膜をフォトリソグラフィーによりパターン形成する工程,(4)パターン形成した樹脂膜をホットプレートを用いて80℃以上160℃以下で熱処理する工程および(5)パターン形成した樹脂膜をオーブンまたは炉を用いて熱硬化させる工程をこの順に含むことを特徴とする耐熱性樹脂パターンの形成方法である。 【発明の効果】 【0007】 本発明によれば,ウエハー面内の寸法均一性に優れた耐熱性樹脂パターンを形成することができる。」 (イ) 「【発明を実施するための最良の形態】 【0008】 本発明に用いられる耐熱性樹脂または耐熱性樹脂前駆体としては,ポリイミドやポリベンゾオキサゾール,その前駆体であるポリアミド酸,ポリアミド酸エステル・・・(中略)・・・などを挙げることができる。耐熱性樹脂組成物または耐熱性樹脂前駆体組成物は,少なくとも前記樹脂と溶剤を含み,必要によりフェノール樹脂・・・(中略)・・・などを含有してもよい。本発明に用いられる耐熱性樹脂組成物または耐熱性樹脂前駆体組成物の好ましい例としては,・・・(中略)・・・ポリアミド酸やポリアミド酸エステルと光酸発生剤とを含有するポジ型ポリイミド樹脂前駆体組成物・・・(中略)・・・などが挙げられる。 【0009】 次に,本発明の耐熱性樹脂パターンの形成方法について説明する。 【0010】 まず,(1)耐熱性樹脂組成物または耐熱性樹脂前駆体組成物を基板に塗布して樹脂膜を形成する。基板としては,シリコンウエハー・・・(中略)・・・などが一般的に用いられるが,これらに限定されない。・・・(中略)・・・ 【0011】 続いて,(2)樹脂膜を乾燥する。乾燥には一般的に・・・(中略)・・・ホットプレート・・・(中略)・・・などが用いられ,乾燥温度は60℃?130℃,乾燥時間は1分?60分が好ましい。 【0012】 続いて,(3)樹脂膜をフォトリソグラフィーによりパターン形成する。・・・(中略)・・・耐熱性樹脂前駆体組成物が・・・(中略)・・・ポジ型の感光性を有する場合,樹脂膜をパターン露光した後,露光部を現像液で除去することにより,パターンを形成する。 【0013】 露光に用いられる化学線としては,紫外線・・・(中略)・・・などが挙げられる。本発明では水銀灯のi線(365nm)・・・(中略)・・・を用いることが好ましい。 【0014】 現像工程に用いられる現像液としては,・・・(中略)・・・ポジ型の場合には,テトラメチルアンモニウムの水溶液・・・(中略)・・・などのアルカリ性を示す化合物の水溶液が好ましく,これらを2種以上用いてもよい。・・・(中略)・・・ 【0015】 現像後は水にてリンス処理をすることが一般的である。・・・(中略)・・・ 【0017】 次に,(4)パターン形成した樹脂膜を,ホットプレートを用いて80℃以上160℃以下で熱処理する。熱硬化(キュア)の前に本工程を設けることによって,キュア前に樹脂膜中に残留している溶剤を均一に揮発させることができるため,微細パターンの寸法が変動することなく,ウエハー面内の寸法均一性に優れた耐熱性樹脂パターンを形成できる。溶剤の揮発を促進するためには80℃以上であることが重要である。一方,急激な加熱による樹脂の流動を防ぐためには160℃以下であることが重要であり,150℃以下が好ましい。熱処理時間は1分?60分が好ましい。 【0018】 続いて,(5)パターン形成した樹脂膜を,オーブンまたは炉を用いて熱硬化させる。耐熱性樹脂前駆体組成物を用いる場合は,この工程により耐熱性樹脂前駆体を耐熱性樹脂に変換させる。熱硬化のための熱処理温度は200℃?500℃,熱処理時間は5分?5時間が好ましい。・・・(中略)・・・一例としては,・・・(中略)・・・200℃の炉に樹脂膜を投入し,350℃まで30分で昇温する方法などが挙げられる。・・・(中略)・・・ 【0019】 本発明の方法により形成される耐熱性樹脂パターンの膜厚は,通常,0.1?100μmの範囲であるが,好ましくは1?20μmの範囲である。」 (ウ) 「【実施例】 【0020】 以下,実施例等をあげて本発明を説明するが,本発明はこれらの例によって限定されるものではない。 【0021】 合成例1 ポリイミド樹脂前駆体の合成 2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BAHF)18.3g(0.05モル)をアセトン100ml,プロピレンオキシド17.4g(0.3モル)に溶解させ,-15℃に冷却した。ここに3-ニトロベンゾイルクロリド20.4g(0.11モル)をアセトン100mlに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後,-15℃で4時間反応させ,その後室温に戻した。溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し,得られた固体をテトラヒドロフランとエタノールの溶液で再結晶した。 【0022】 再結晶して集めた固体をエタノール100mlとテトラヒドロフラン300mlに溶解させて,5%パラジウム-炭素を2g加えて激しく撹拌した。ここに水素を風船で導入して,還元反応を室温で行った。約4時間後,風船がこれ以上しぼまないことを確認して反応を終了させた。反応終了後,ろ過して触媒であるパラジウム化合物を除き,ロータリーエバポレーターで濃縮し,ジアミン化合物を得た。 【0023】 乾燥窒素気流下,1lの4つ口フラスコ中,上記方法で合成したジアミン化合物24.2g(0.04モル)をN-メチルピロリドン(NMP)100gに溶解させ,3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物12.4g(0.04モル)を加えて40℃で3時間撹拌した。さらにN,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール11.7g(0.08モル)を加え,40℃で2時間撹拌し,室温に降温した。その後,酢酸24g(0.4モル)を投入し,室温で1時間撹拌した。これを水5Lに投入して沈殿物を濾別し,70℃で120時間乾燥してポリイミド樹脂前駆体を得た。 ・・・(中略)・・・ 【0025】 合成例3 ノボラック樹脂の合成 乾燥窒素気流下,1lの4つ口フラスコにm-クレゾール70.2g(0.65モル),p-クレゾール37.8g(0.35モル),37重量%ホルムアルデヒド水溶液75.5g(ホルムアルデヒド0.93モル),シュウ酸二水和物0.63g(0.005モル),メチルイソブチルケトン264gを仕込んだ後,100℃の油浴中に浸し,反応液を還流させながら,4時間重縮合反応を行った。その後,油浴の温度を3時間かけて150℃まで昇温した後,フラスコ内の圧力を40?67kPaまで減圧して揮発分を除去し,溶解している樹脂を室温まで冷却して,ノボラック樹脂のポリマー固体を得た。GPCから求めた重量平均分子量は3,500であった。 【0026】 実施例1 合成例1で得られたポリイミド樹脂前駆体7.0g,合成例3で得られたノボラック樹脂10.5gをγ-ブチロラクトン(GBL)32.5gに溶解させ,これに4,4’-[1-[4-[1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール1モルに対して1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド2.8モルを反応させて得られたオルトナフトキノンジアジドスルホン酸エステル3.5g,4,4’,4”-エチリデントリスフェノール2.4gを混合して,ポジ型の感光性が付与されたポリイミド樹脂前駆体組成物のワニスAを得た。 【0027】 8インチシリコンウエハー上に,ワニスAをプリベーク後の膜厚が10μmとなるように塗布し,ついでホットプレート(東京エレクトロン(株)製の塗布現像装置ACT8)を用いて,120℃で3分間プリベークすることにより,ポジ型感光性を有する樹脂膜を得た。 【0028】 続いて,露光機((株)ニコン製i線ステッパーNSR-2005i9C)に,パターンの切られたレチクルをセットし,365nmの紫外線を露光量300mJ/cm^(2)で樹脂膜全面に隙間なく97ショット照射した。 【0029】 露光後の樹脂膜に対して,東京エレクトロン(株)製ACT8の現像装置を用い,50回転で水酸化テトラメチルアンモニウムの2.38%水溶液を5秒間噴霧し,0回転で35秒間静置した。さらに50回転で水酸化テトラメチルアンモニウムの2.38%水溶液を5秒間噴霧し,0回転で35秒間静置した後,400回転で水にてリンス処理し,3000回転で10秒振り切り乾燥した。 【0030】 続いて,150℃で2分間ホットプレートによる熱処理を実施した。最後に,キュアとして,200℃に昇温した光洋サーモシステム(株)製縦型炉VM-1000Bに樹脂膜を投入し,350℃まで30分で昇温し,350℃で1時間熱処理を行い,耐熱性樹脂パターンを得た。 【0031】 形成されたパターンのうち,5μmスペースの寸法をCD-SEM((株)日立ハイテクノロジーズ製S-8820)で測長し,97ショットの平均値と最大値,最小値,レンジを求めた。レンジが2μm以内であれば合格,2μmよりも大きいと不合格とした。 ・・・(中略)・・・ 【0044】 実施例1?5および比較例1?6の評価結果を表1に示す。 【0045】 【表1】 」 イ 甲1に記載された発明 前記ア(ア)ないし(ウ)の記載から,実施例1で用いている「ワニスA」に対応する発明を把握することができるところ,当該発明の構成は次のとおりである。 「ポリイミド樹脂前駆体7.0gとノボラック樹脂10.5gをγ-ブチロラクトン32.5gに溶解させ,これに4,4’-[1-[4-[1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール1モルに対して1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド2.8モルを反応させて得られたオルトナフトキノンジアジドスルホン酸エステル3.5gと4,4’,4”-エチリデントリスフェノール2.4gを混合して得られた,ポジ型の感光性が付与されたポリイミド樹脂前駆体組成物であるワニスAであって, 前記ポリイミド樹脂前駆体は,2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン18.3g(0.05モル)をアセトン100ml,プロピレンオキシド17.4g(0.3モル)に溶解させ,-15℃に冷却し,ここに3-ニトロベンゾイルクロリド20.4g(0.11モル)をアセトン100mlに溶解させた溶液を滴下し,滴下終了後,-15℃で4時間反応させ,その後室温に戻し,溶液をロータリーエバポレーターで濃縮し,得られた固体をテトラヒドロフランとエタノールの溶液で再結晶し,再結晶して集めた固体をエタノール100mlとテトラヒドロフラン300mlに溶解させて,5%パラジウム-炭素を2g加えて激しく撹拌し,ここに水素を風船で導入して,還元反応を室温で行い,約4時間後,風船がこれ以上しぼまないことを確認して反応を終了させ,反応終了後,ろ過して触媒であるパラジウム化合物を除き,ロータリーエバポレーターで濃縮し,ジアミン化合物を得,乾燥窒素気流下,1lの4つ口フラスコ中,前記ジアミン化合物24.2g(0.04モル)をN-メチルピロリドン(NMP)100gに溶解させ,3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物12.4g(0.04モル)を加えて40℃で3時間撹拌し,さらにN,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール11.7g(0.08モル)を加え,40℃で2時間撹拌し,室温に降温し,その後,酢酸24g(0.4モル)を投入し,室温で1時間撹拌し,これを水5Lに投入して沈殿物を濾別し,70℃で120時間乾燥するという方法により得られたものであり, 前記ノボラック樹脂は,乾燥窒素気流下,1lの4つ口フラスコにm-クレゾール70.2g(0.65モル),p-クレゾール37.8g(0.35モル),37重量%ホルムアルデヒド水溶液75.5g(ホルムアルデヒド0.93モル),シュウ酸二水和物0.63g(0.005モル),メチルイソブチルケトン264gを仕込んだ後,100℃の油浴中に浸し,反応液を還流させながら,4時間重縮合反応を行い,その後,油浴の温度を3時間かけて150℃まで昇温した後,フラスコ内の圧力を40?67kPaまで減圧して揮発分を除去し,室温まで冷却するという方法によって得られたものであって,GPCから求めた重量平均分子量が3,500であり, 半導体素子の表面保護膜や層間絶縁膜などに適した耐熱性樹脂パターンを形成するために用いられるワニスA。」(以下,「甲1発明」という。) (2)周知の技術的事項 ア 周知例 甲第3号証:独立行政法人 労働安全衛生総合研究所,「労働安全衛生総合研究所技術指針 静電気安全指針2007」,社団法人 産業安全技術協会,平成20年12月10日(第3刷),72ないし75ページ 甲第4号証:(社)近畿化学協会 安全研究会 編著,「新人研究者・技術者のための安全のてびき 現場で求められる知識と行動指針」,第1版,(株)化学同人,平成22年8月10日(第1刷),136ページ 甲第5号証:太田潔,「化学プラントの静電気危険性の評価と対策」,住友化学 技術誌 2004-II,住友化学株式会社,平成16年11月30日,55ないし64ページ 甲第6号証:松本喜代一 外1名,「ポリアミック酸の微量水分による加水分解」,高分子論文集,公益社団法人 高分子学会,平成3年11月,Vol.48,No.11,711ないし717ページ 甲第7号証:杉谷初雄 外1名,「アミド酸モノマー及びポリアミド酸の溶液状態における化学反応の解析」,熱硬化性樹脂,合成樹脂工業協会,平成6年,Vol.15,No.3,125ないし135ページ 甲第8号証:特開2011-74278号公報 甲第9号証:特開2004-149590号公報 イ 甲第3号証の記載 甲第3号証(以下,「甲3」という。)は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲3には,次の記載がある。(下線部は,後述する「慣用技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) 「A.4 不活性ガスによる置換・シール A.4.1 不活性ガスによる置換・シールの意味 不活性ガスによる置換・シールは,着火源の除去・防止が困難な場合に,可燃性物質を含む混合気体等に不活性ガス(正しくは不燃性ガスであるが,慣例により不活性ガスという。)を添加することによって,最終的には混合気体中の酸素濃度を燃焼の継続に必要な爆発限界酸素濃度以下に低下させ,着火を防止するために実施する。また,置換・シールは,混合気体中の酸素濃度を爆発限界酸素濃度以下まで低下させることができない場合であっても,混合気体等の着火エネルギーを増大させることによって,静電気による着火危険性を低下させるため実施する。 A.4.2 不活性ガスの種類 置換・シールに使用される不活性ガスは,窒素,炭酸ガス,水蒸気等を使用する。なお,置換・シールの効果は窒素,水蒸気,炭酸ガスの順に大きくなるが,一般には取扱いの容易な窒素を使用する。 ・・・(中略)・・・ A.4.4 不活性ガスによる置換・シールの方法 置換・シールは,対象となる設備・操作の種類に応じて,バッチ式または連続式のいずれによって,実施することが望ましい。 A.4.4.1 バッチ式置換・シール 次のような場合は,バッチ式の置換・シール(作業・操作のつど不活性ガスを供給して置換・シールする方法をいう)を実施する。 ・・・(中略)・・・ A.4.4.2 連続式置換・シール 次のような場合は,連続式の置換・シール(常時,連続的に不活性ガスを供給して置換・シールする方法をいう)を実施する。 (1)・・・(中略)・・・ (3)バッチ式反応槽などにおいて,大気に開放された槽内に引火性の高い溶剤などを充填する操作を行う場合」(72ページ1行ないし73ページ25行) ウ 甲第4号証の記載 甲第4号証(以下,「甲4」という。)は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には,次の記載がある。(下線部は,後述する「慣用技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) 「■中実験装置の安全対策■ 中実験装置(図9-3)には,次のような安全対策が必要となる(表9-4). ○1(注:本決定においては,丸囲み数字を,数字の前に「○」を付すことによって表す。)引火性の危険物を扱う場合,系内が爆発範囲に入らないように窒素シールを行う.」(136ページ左欄1ないし5行) エ 甲第5号証の記載 甲第5号証(以下,「甲5」という。)は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲5には,次の記載がある。(下線部は,後述する慣用技術の認定に特に関連する箇所を示す。) 「はじめに 静電気現象は近年の目覚しい研究成果によって複写機,集じん機等,産業上の有効活用が図られるに至っているが,一方ではESD(Electrostatic Discharge)と呼ばれることが多いエレクトロニクス分野の静電気放電による障害問題や化学産業における火災や爆発トラブルといった静電気災害が今もなお後を絶たない。静電気災害防止のためには専門的な知識もさることながら,工場で実際に生産に携わるオペレーターやスタッフが静電気安全に関する正しい知識を身に付け,静電気的な潜在危険要因を発見し,保安防災の専門家に相談することが何よりも重要である。本稿では対象を静電気による火災・爆発防止に限定し,静電気災害防止に関して工場で生産現場に携わる人が知っておくべき静電気帯電ならびに放電現象について紹介するとともに,災害防止技術と当社で実施している静電気危険性評価手法について紹介する。 ・・・(中略)・・・ 静電気災害の種類と対策 災害が発生した時の損害は時として甚大なものとなる。人命にかかわることは勿論,設備損傷による損害,生産活動停止に伴う損害だけでなく,供給責任問題,工場周辺への影響問題など,企業の社会的信用をも失うことになるため,なんとしても防止しなければならない。火災爆発は酸化燃焼反応であり,燃焼の3要素である○1可燃物○2支燃物(空気あるいは酸素など)○3着火源の3つの条件が満たされた時に発生する可能性がある。どれか一つでも条件が欠ければ火災爆発は起こらない。従って安全対策ではこれらの条件を除去することを考えることになる。以下,災害の種類別に現象の説明と○1可燃物除去と○2支燃物除去の観点から安全対策について紹介し,最後に○3着火源除去の観点から対策について紹介する。 1)可燃性ガス・蒸気の爆発 可燃性蒸気やガスの最小発火エネルギーは0.2mJ前後のものが多く,ブラシ放電で容易に着火するので,接地などの着火源対策を講じるだけでは不十分であり,安全工学的には着火源がいつ存在してもおかしくないと考えるべきである。従って,可燃物と支燃物の濃度を制御(典型的な例は窒素シール)して爆発範囲に入るのを回避する必要がある。」(55ページ左欄1行ないし58ページ右欄3行) オ 甲第6号証の記載 甲第6号証(以下,「甲6」という。)は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲6には,次の記載がある。(下線部は,後述する「慣用技術」の認定に特に関連する箇所を示す。) 「ポリイミド(以下PIと略す)は,優れた耐熱性,機械的性質,寸法安定性,摺動特性,耐放射線性などの特徴をもち,電気,電子,一般機械,自動車,航空機,原子力関連の各種産業分野で信頼できうる高性能材料として広範囲に使用されつつある.しかし,PIの製膜時において,その前駆体であるポリアミック酸(以下PAAと略す)は,常温においてさえも微量の水分の存在下で比較的容易に加水分解し,そのためにPAAからPIへの熱的な脱水閉環反応に関連して,しばしばPAAドープからの製膜における再現性を乏しくしている.本報告は,このようなPAAの加水分解を速度論的に解明するとともに,その重合度とドープの溶液粘度との相関関係を検討する.」(711ページ左欄2ないし14行) カ 甲第7号証の記載 甲第7号証(以下,「甲7」という。)は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲7には,次の記載がある。(下線部は,後述する周知事項の認定に特に関連する箇所を示す。) 「概要 アミド酸モノマー及びポリアミド酸のジメチルスルホキシド溶液を常温以上の温度で保管した場合に進行する化学反応を^(13)C-NMR法を用いて解析した。 アミド酸モノマー溶液を用いた検討においては・・・(中略)・・・ 一方,ポリアミド酸溶液を用いた検討においては23℃及び90℃でアミド交換,加水分解及びイミド化の三反応が同時に進行していることが明らかとなった。 1.緒言 芳香族ポリイミドは耐熱性,電気特性及び微細加工性などに優れることから,半導体素子の層間絶縁膜,表面保護膜(注:上付き文字により表記された引用文献を示す番号は摘記を省略する。以下,同様。),液晶表示素子の配向膜などに使用されている。このような分野に使用される芳香族ポリイミド及びその前駆体であるポリアミド酸は多くの場合,ワニスの状態で使用されることからワニス粘度を一定に保つことは重要な品質管理項目の一つとなっている。ところが,ポリアミド酸ワニスの場合,常温以上の温度に保管すると粘度が大きく変化し,品質を一定に保つことができない。この粘度変化の主因は,保管中にアミド交換,加水分解,イミド化などの化学反応が進行するためと考えられ,多くの解析が試みられてきた。 例えば,Hasegawaらはポリアミド酸溶液へモノアミンを添加すると分子量が低下することを光散乱法などを用いて明らかにし,分子量低下の原因はアミド交換反応のためと結論するとともに,交換反応はアミド結合が酸無水物とアミンに分解する工程を経て進行すると推定した。また,Cottsらは分子量の大きなポリアミド酸と分子量の小さいポリアミド酸をN-メチル-2-ピロリドン中で混合し,常温下に保管したときの分子量変化をSEC(サイズ排除クロマトグラフ)法で測定し,分子量及び分子量分布が経日で変化するのはアミド交換反応の進行によると推論した。一方,KreuzはSEC法などを用いてワニス中に水が共存するとアミド交換反応とともに加水分解反応も進行することを示し,Youngら及びDickinsonらはIR,SEC,UV-VISなどの方法を用いて,100℃を越える高温下ではイミド化反応が優先的に進行することを明らかにした。これらの研究結果からポリアミド酸ワニス中で起こる反応を推定すると常温下ではアミド交換反応,100℃以上の高温下ではイミド化反応が主反応と考えられるが,多くの研究が分子量変化の解析を中心に進められているため,化学構造の変化を直接解析した例は少なく,副反応の有無など解決すべき残された課題も多い。そこで,筆者らは化学構造に関する詳細な情報が得られる^(13)C-NMRを用い,常温以上の温度に保管されたポリアミド酸ワニス中で起こる反応を解析することを試みた。以下にその検討結果を詳述する。 2.実験方法 ・・・(中略)・・・ 2.3 アミド酸モノマー及びポリアミド酸を用いた反応解析 A/PMDA,60.8mg及びB/PMDA,54.8mgをそれぞれ重水素化ジメチルスルホキシド(略号:DMSO-d6,NMR用溶媒)1.0mlに溶解し,NMR試料管に移した後,窒素ガス置換を行って封止した。この状態で試料を常温(23℃)で85日間保管し,保管中の化学構造変化を^(13)C-NMRで解析した。・・・(中略)・・・ さらに,ポリアミド酸についても常温(23℃)で90日間保管した場合及び加熱処理(90℃-1h)した場合における化学構造変化を^(13)C-NMRで解析した。 3.結果及び考察 ・・・(中略)・・・ 3.3 ポリアミド酸を用いた反応解析 ・・・(中略)・・・以上の解析結果からポリアミド酸ワニスを常温に長期間保管した場合はアミド交換の他,加水分解やイミド化も同時に進行していることが明らかとなった。・・・(中略)・・・加熱処理を受けたポリアミド酸ワニス中ではアミド交換,加水分解及びイミド化がさらに進行していることが分かる。Kreuzはポリアミド酸ワニス中に水が共存する(溶媒の半分が水)とアミド交換反応と加水分解反応の両方が進行することを示したが,本研究においては意識的に水の添加を行わない系においても加水分解が進行していることが明らかにした。」(125ページ5行ないし135ページ左欄9行) キ 甲第8号証の記載 甲第8号証(以下,「甲8」という。)は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲8には,次の記載がある。(下線部は,後述する周知事項の認定に特に関連する箇所を示す。) 「【0004】 機械的強度の向上,熱膨張率の低下,ガスバリア性の向上等を目的として,各種有機樹脂と無機層状化合物との複合化が盛んに研究されており,ポリイミドについても多くの研究がなされている。ポリイミドは,耐熱性,力学特性,耐薬品性及び電気的特性が良好な材料であるため,幅広い分野で用いられている。ポリイミドの製造プロセスとしては,前駆体のポリアミド酸(「ポリアミック酸」と呼ばれることもある。)を加熱することによりイミド化する手法が用いられている。ポリイミドの前駆体としてポリアミド酸を用いる場合,有機溶媒に溶解させたポリアミド酸溶液として用いられる。 ・・・(中略)・・・ 【0007】 上記したように,ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は,有機溶媒中で原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を反応させることによって得ることができる。しかし,水分が存在すると反応が阻害され,生成したポリアミド酸が加水分解されてしまう。このようなポリアミド酸から得られるポリイミドは,途中のイミド化プロセスにおいて,十分な強度が得られないという問題がある。 【0008】 以上のようなことから,テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミド酸は十分に脱水されていることが望まれる。ポリアミド酸の製造において原料や溶媒を十分に脱水することや,ポリアミド酸の合成反応時やポリアミド酸の保存時には水分が混入しないよう処置をすることが行われているが,これらは容易な処置ではなく,水分除去効果についても未だ不十分である。」 ク 甲第9号証の記載 甲第9号証(以下,「甲9」という。)は,本件特許に係る特許出願の出願より前に頒布された刊行物であるところ,当該甲9には,次の記載がある。(下線部は,後述する周知事項の認定に特に関連する箇所を示す。) 「【0002】 【従来の技術】 芳香族環がイミド構造で結合されている芳香族ポリイミド樹脂は,その優れた耐熱性や機械特性を生かして電子実装用途を始めとする薄層電子部品の構成材料等へ用途展開が進んでいる。一般に,芳香族ポリイミド樹脂は溶媒に不溶である。従ってその製造には通常,N-メチル-2-ピロリドン(以下,NMPと略する)等のアミド系溶媒の存在下,芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる芳香族ポリアミック酸溶液をその前駆体として利用しており,例えばそれを溶液キャストした後,加熱によりアミック酸を脱水閉環してポリイミドのフィルムを得る,というプロセスにて製造されることが多い。 【0003】 かかる際に前駆体として用いられるポリアミック酸は,溶液中で加水分解により分子量低下を引き起こしやすいという特性があり,その溶液粘度は経時的に低下しやすいという傾向があった。特に高温状態では加水分解が促進され粘度低下を引き起こしやすい。このような溶液粘度の不安定さは,均質な製品が求められる実用化の面からは好ましくないものである。 【0004】 安定した溶液を得るには溶液中の水分を完全に除去することが必要であるが,一般にポリアミック酸溶液の溶媒として用いられるNMP等のアミド系溶媒は水と自由に相溶するため,実際の操作上水を完全に取り除くのは難しい。溶液中の水分としては,ポリアミック酸溶液中に予め存在していた水と,アミック酸が加熱により脱水閉環を起こしてイミド化する際に生じる水がある。」 ケ 甲3ないし甲5の記載から把握される周知の技術的事項 前記イないしエで摘記した甲3ないし甲5の記載から,本件特許に係る特許出願の出願より前に,引火性の危険物を扱うプラントや中実験装置(注:平成28年9月14日提出の意見書において特許権者が主張するように,「中実験」を「実験室スケールの実験ではなく,製品の本生産を開始する前に本生産を想定して行うパイロットプラント等での実験」の意味で用い,「中実験装置」を当該中実験に用いる製造設備の意味で用いる。)において,次の技術が広く採用されていたことを把握することができる。 「窒素による置換・シールを行うことによって,静電気による引火性危険物への着火の危険性を低下させる技術。」(以下,当該技術を「慣用技術」という。) コ 甲6ないし甲9の記載から把握される周知の技術的事項 前記オないしクで摘記した甲3ないし甲5の記載から,本件特許に係る特許出願の出願より前に,次の技術的事項が広く知られていたことを把握することができる。(なお,「ポリアミック酸」は「ポリアミド酸」の別称である。次の技術的事項においては,「ポリアミド酸」という文言を用いた。) 「ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は,常温であっても,微量の水分の存在で容易に加水分解してしまうことから,ポリアミド酸溶液について,安定したものを得るためには,ポリアミド酸の合成反応時やポリアミド酸の保存時に水分が混入しないような処置をする必要があり,ポリアミド酸溶液中に予め存在していた水分やアミド酸がイミド化する際に生じる水分を除去する必要もあること。」(以下,当該技術的事項を「周知事項」という。) 4 本件取消理由についての判断 (1)本件特許発明1について ア 甲1発明との対比 (ア) 甲1発明の「表面保護膜や層間絶縁膜」,「ポジ型の感光性が付与されたポリイミド樹脂前駆体組成物であるワニスA」,「『ポリイミド樹脂前駆体』及び『ノボラック樹脂』」,「γ-ブチロラクトン」,「ポリイミド樹脂前駆体」,「『m-クレゾール』及び『p-クレゾール』」,「ホルムアルデヒド」及び「ノボラック樹脂」は,本件特許発明1の「永久膜」,「感光性樹脂組成物」,「アルカリ可溶性樹脂」,「有機溶剤」,「前駆体」,「フェノール化合物」,「アルデヒド化合物」及び「フェノール樹脂」にそれぞれ相当する。 (イ) 甲1発明は,「ポジ型の感光性が付与されたポリイミド樹脂前駆体組成物であるワニスA」(本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」に相当する。以下,「ア 甲1発明との対比」の欄中で,甲1発明の構成が「」で囲まれ,当該「」に続いて()が付されているとき,当該()中の文言は,「」中の甲1発明の構成に相当する本件特許発明1の発明特定事項を指す。)であって,半導体素子の「表面保護膜や層間絶縁膜」(永久膜)などに適した耐熱性樹脂パターンを形成するために用いられるから,本件特許発明1の「永久膜を形成するために用いられる感光性樹脂組成物であ」るとの要件を満足する。 (ウ) 甲1発明は,ポリイミド樹脂前駆体7.0gとノボラック樹脂10.5gをγ-ブチロラクトン32.5gに溶解させ,これに4,4’-[1-[4-[1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール1モルに対して1,2-ナフトキノン-2-ジアジド-5-スルホニルクロリド2.8モルを反応させて得られたオルトナフトキノンジアジドスルホン酸エステル3.5gと4,4’,4”-エチリデントリスフェノール2.4gを混合して得られたものであって,その成分として「ポリイミド樹脂前駆体及びノボラック樹脂」(アルカリ可溶性樹脂)を含有し,溶剤として「γ-ブチロラクトン」(有機溶剤)を用いているから,本件特許発明1の「アルカリ可溶性樹脂と,有機溶剤と,を含」むとの要件を満足する。 (エ)a 甲1発明の「ポリイミド樹脂前駆体」(前駆体)は,2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン18.3g(0.05モル)と,3-ニトロベンゾイルクロリド20.4g(0.11モル)を反応させ,これを還元(ニトロ基をアミノ基に還元)して得られる「ジアミン化合物」に,3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物12.4g(0.04モル)を加えて反応(ポリアミック酸の生成)させ,さらにN,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール11.7g(0.08モル)と反応(エステル化)させて得られるものであるところ,本件特許の明細書(以下,「本件特許明細書」という。)に記載された「実施例3」(【0083】)において「前駆体」として用いている「アルカリ可溶性樹脂(A-3)」の合成に関する【0074】の記載を参酌すると,前述した反応によって得られる甲1発明の「ポリイミド樹脂前駆体」は,本件特許発明1の「式(1)により示される繰り返し単位を有するアミド結合を有する前駆体」のうち,nを2とし,R_(2)中のR_(3)を炭素数2のエチル基とし,XとR_(1)を組み合わせた部分を式(1c)で表される構造とし,YとR_(2)を組み合わせた部分を式(1e)で表される構造(ただしR_(20)が炭素数3のエチル基)とした化合物と認められる。 したがって,甲1発明の「ポリイミド樹脂前駆体」は,本件特許発明1の「式(1)により示される繰り返し単位を有するアミド結合を有する前駆体」に該当する化合物である。 b 甲1発明の「ノボラック樹脂」(フェノール樹脂)は,「m-クレゾール及びp-クレゾール」(フェノール化合物)と,ホルムアルデヒド水溶液中の「ホルムアルデヒド」(アルデヒド化合物)とを,重縮合反応させて得られるものである。 したがって,甲1発明の「ノボラック樹脂」は,本件特許発明1の「フェノール化合物とアルデヒド化合物を反応させて得られるフェノール樹脂」に該当する化合物である。 c 前記a及びbによれば,甲1発明の「ポリイミド樹脂前駆体及びノボラック樹脂」(アルカリ可溶性樹脂)は,本件特許発明1の「式(1)により示される繰り返し単位を有するアミド結合を有する前駆体と,フェノール化合物とアルデヒド化合物を反応させて得られるフェノール樹脂と,を含む」との「アルカリ可溶性樹脂」についての要件を満足する。 (オ) 前記(ア)ないし(エ)に照らせば,甲1発明と本件特許発明1は, 「永久膜を形成するために用いられる感光性樹脂組成物であって, アルカリ可溶性樹脂と,有機溶剤と,を含み, 前記アルカリ可溶性樹脂は,下記式(1)により示される繰り返し単位を有するアミド結合を有する前駆体と,フェノール化合物とアルデヒド化合物を反応させて得られるフェノール樹脂と,を含む感光性樹脂組成物。 (式(1)中,mは2,nは0または2である。R_(1)は水酸基であり,XとR_(1)は,これらを組み合わせて下記式(1a),式(1b)および式(1c)で表される構造のいずれかである。R_(2)は-COOR_(3)であり,R_(3)は炭素数1?15の有機基である。YとR_(3)は,これらを組み合わせて下記式(1d),式(1e)および式(1f)で表される構造のいずれかである。) (式(1a)中,*は一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。式中Aはアルキレン基または置換アルキレン基である。) (式(1b)中,*は一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。) (式(1c)中,*は一般式(1)におけるNH基に結合することを示す。) (式(1d)中,*は一般式(1)におけるC=O基に結合することを示す。) (式(1e)中,*は一般式(1)におけるC=O基に結合することを示す。R_(20)は炭素数1?15の有機基を示す。) (式(1f)中,*は一般式(1)におけるC=O基に結合することを示す。R_(20)は炭素数1?15の有機基を示す。)」 である点で一致し,次の点で一応相違する。 相違点: 120℃,3分の条件で有機溶剤を乾燥して樹脂膜aを得た後,前記樹脂膜aに対して窒素雰囲気下,320℃,30分の条件で加熱処理を施して得られる樹脂膜bの,波長630nmの光線に対する膜厚11μm換算の光線透過率をT_(1)(%)と定義し,前記樹脂膜bに対して窒素雰囲気下,320℃,5時間の条件で加熱処理を施して得られる樹脂膜cの,波長630nmの光線に対する膜厚11μm換算の光線透過率をT_(2)(%)と定義したとき, 本件特許発明1では,「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」の値が35%以下であるのに対して, 甲1発明では,「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」の値が定かでない点。 イ 相違点についての判断 (ア) 相違点に係る本件特許発明1の構成要件である「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100が35%以下である」を満足させる方法について,本件特許明細書の【0063】には,「感光性樹脂組成物は,アルカリ可溶性樹脂(A)と,必要に応じてその他の成分と,を有機溶剤に混合して溶解することにより調製される。本実施形態においては,たとえば窒素フロー下において各成分を有機溶剤中に混合して溶解することにより,感光性樹脂組成物の調製を行うことができる。また,たとえば窒素フロー下においてアルカリ可溶性樹脂(A)の合成を行うこともできる。このような調製方法を採用することにより,感光性樹脂組成物の(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100および(T_(0)-T_(1))/T_(0)×100を,それぞれ所望の範囲内に制御することができる。この理由は,定かではないが,感光性樹脂組成物中に混入する酸素や水分の量を抑えることにより,これらに起因して加熱時に生じる光線透過率の低下を抑制できることが要因の一つであると想定される。」と説明されている。 当該説明や,特許権者が提出した乙第4号証(特許権者の従業者である本件特許の発明者による実験成績証明書)が示す実験結果,及び前記3(2)コで認定した周知事項によれば,同一成分からなる組成物であっても,当該組成物中に混入した酸素や水分の量によって,「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」の値に違いが生じるものと解される。 したがって,甲1発明のワニスAにおける「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」の値は,当該組成物中に混入した酸素や水分の量に応じて変化するものと認められる。 (イ) ここで,前述した乙第4号証の実験結果を参酌すると,乙第4号証の実験結果に係る組成物では,混合工程を大気下で行った場合には,「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」の値は35%を越え,溶剤に対する混合前の窒素フローを行うとともに混合工程を窒素フロー下で行った場合には,「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」の値は35%を大きく下回っている。 甲1発明のワニスAは,乙第4号証が示す実験に係る組成物と成分等が酷似することから,「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」の値が35%を越えるのか否かは,混合工程を大気下で行うのか,それとも溶剤に対する混合前窒素フローや混合工程における窒素フローを行うのか等によって決まるものと推察されるところ,甲1発明では混合工程を大気下で行うのか,それとも溶剤に対する混合前窒素フローや各成分の混合工程を窒素フロー下で行うのか等については特定されていないから,甲1発明の「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」が35%以下であるとは限らない。 したがって,本件特許発明1と甲1発明の間の相違点は,実質的な相違点である。 (ウ) 甲1発明のワニスAが,最終的に上市されるためのものであることは自明であるところ,当該ワニスAを上市するために製造する場合,すなわち甲1発明を実施する場合,ワニスAを甲1発明の構成どおり実験室レベルの装置で製造したのでは,効率が悪くコスト高となってしまうことは当業者に自明であるから,上市のための製造時には,製造プラントにて製造すること,及びそのときの各製造条件を製造プラントでの製造に適したものに変更することは,甲1発明の実施に際して当業者が適宜行う設計事項というほかない。 しかるに,前記3(2)コで認定した周知事項や前記3(2)ケで認定した慣用技術に照らせば,甲1発明の上市のための製造プラントでの製造に際して,安定したワニスAを得るために,また,静電気による着火を防止するために,各工程を乾燥窒素気流下で行うことは,当業者が容易になし得たことといえる。 しかしながら,安定したワニスAを得るために,また,静電気による着火を防止するために各工程を乾燥窒素気流下で行うようにした甲1発明において,ワニスA中に混入する水分量や酸素量は,ポリアミド酸の加水分解による品質低下が製品として問題にならない程度に水分量を低減でき,静電気による着火を防止できる程度の乾燥窒素の流量によって実現される水分量及び酸素量になると認められるところ,当該ワニスAの「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」が35%以下になるのか否かは,当該水分量及び酸素量が,「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」を35%以下にするために要求される水分量及び酸素量よりも小さいのか,大きいのかによって決まるものと解される。 しかるに,特許異議申立人が提出した証拠を含め,前者の水分量及び酸素量が後者の水分量及び酸素量よりも小さいことを示す証拠は見当たらず,かつ,そのことを特許異議申立人が実験等により示しているわけでもない。 加えて,安定したワニスAを得るために,また,静電気による着火を防止するために各工程を乾燥窒素気流下で行うようにした甲1発明では,当然に各製造条件が製造プラントでの製造に適したものに変更されるところ,当該製造条件がどのようなものとなるのかを特定することはできない。そして,製造条件が変われば,得られるワニスA中に混入する水分量や酸素量も変化すると考えられるから,そもそも,各工程を乾燥窒素気流下で行うようにした甲1発明といっても,混入する水分量及び酸素量が特定の数値範囲に収まるというものでもない。 そうすると,甲1発明において,前記3(2)コで認定した周知事項や前記3(2)ケで認定した慣用技術を考慮することで,製造時の各工程を乾燥窒素気流下で行うことが容易であるとはいえても,当該製造方法によって得られたワニスAの「(T_(1)-T_(2))/T_(1)×100」が,必ず35%以下になるとはいえない。 (エ) 以上によれば,本件特許発明1は,甲1発明,周知事項及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)本件特許発明2ないし5について 本件特許の請求項2ないし5は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,これにさらなる限定を付したものに該当するところ,本件特許発明1が,甲1発明,周知事項及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものといえない以上,本件特許発明2ないし5も,甲1発明,周知事項及び慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)小括 前記(1)及び(2)のとおりであるから,本件特許の請求項1ないし5に係る特許は,いずれも,特許法29条2項の規定に違反してされたものとはいえない。 5 本件取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は,本件特許発明1ないし5がいずれも甲1発明と同一であるから,その特許が,特許法29条の規定に違反してされたものと主張するが,前記4(1)ア(オ)で認定したように,本件特許発明1と甲1発明の間には相違点があり,前記4(1)イ(イ)で検討したとおり,当該相違点は実質的な相違点であるから,当該特許異議申立人の主張は採用できない。 6 むすび 以上のとおり,本件取消理由通知に記載した本件取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-01-25 |
出願番号 | 特願2014-61284(P2014-61284) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(G03F)
P 1 651・ 113- Y (G03F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 外川 敬之 |
特許庁審判長 |
鉄 豊郎 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 清水 康司 |
登録日 | 2015-05-15 |
登録番号 | 特許第5741744号(P5741744) |
権利者 | 住友ベークライト株式会社 |
発明の名称 | 感光性樹脂組成物、および樹脂膜 |
代理人 | 速水 進治 |