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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1324875
異議申立番号 異議2016-700926  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-28 
確定日 2017-02-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第5895272号発明「溶存水素濃度の測定方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5895272号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5895272号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3係る特許についての出願は、平成26年1月14日を国際出願日とする出願(優先権主張 平成25年1月11日)であって、平成28年3月11日に特許の設定登録がされ、その後、その本件特許の請求項1?3に係る特許に対し、特許異議申立人中川賢治により特許異議の申立てがなされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるところ、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
飲料用の水溶液の溶存水素濃度の測定方法であって、
水素と所定の熱伝導度の差があるキャリアガスの選択及び流量制御を行うガス制御工程と、
水素およびその他の物質を含む水溶液試料の準備及び移動相であるキャリアガスに準備した水溶液試料の導入を行う試料導入工程であって、水溶液試料の準備として、内部を真空に保った容器を所望量の水溶液試料の上方に配設し、該容器内に該水溶液試料を噴出させた後に容器内を大気圧にすることで気液分離を行い、該容器内の上方の気相部分を導入試料として採取することを特徴とする、試料導入工程と、
移動相に導入された水溶液試料とカラムの固定相との吸着・分配の平衡により水溶液試料から水素の分離を行う分離工程と、
分離された水素を熱伝導度検出器により検出する検出工程と、
検出したデータの処理を行うデータ処理工程と、
から構成されるガスクロマトグラフィーによる飲料用の水溶液の溶存水素濃度の測定方法。」


第3 申立理由の概要
特許異議申立人(以下、「申立人」という。)は、証拠として次の甲1号証?甲第6号証(以下、甲第1号証を「甲1」のように甲と番号を組み合わせていうこととする。)を提出し、請求項1?3に係る発明は、甲1?甲3に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲1:特開2012-176395号公報
甲2:「日本原子力学会標準 加圧水型原子炉一次冷却材の化学分析方法-溶存水素:2010」、一般社団法人日本原子力学会、2011年7月7日発行、第i?xii頁、第(1)頁、第1?14頁
甲3:「ガスクロマトグラフ分析通則 K0114:2000」、JISハンドブック 49 化学分析 2004、日本規格協会、2004年、第738?758頁
甲4:A.Tolk et al.、Determination of Traces of Hydrogen, Nitrogen and Oxygen in Aqueous Solutions by Gas Chromatography、Analytica Chimica Acta、Vol.45、1969年、pp.137-142
甲5:S.Natelson et al.、Apparatus for Extraction of Gases for Injection into the Gas Chromatograph Application to Oxygen and Nitrogen in Jet Fuel and Blood、Analytical Chemistry、Vol.35 No.7、1963年、pp.847-851
甲6:J.W.Swinnerton et al.、Determination of Dissolved Gases in Aqueous Solutions by Gas Chromatography、Analytical Chemistry、Vol.34 No.4、1962年、pp.483-485


第4 申立理由についての検討
1 甲各号証の記載事項及び甲1発明の認定
(1) 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。なお、以下の摘記において、引用発明の認定に関連する箇所に下線を付した。
ア 「【0001】
本発明はPETボトルなどの容器中の水、各種飲料水やお酒などの水若しくは水溶液に水素を溶解させる水素水の調整方法及びその装置に関する。」

イ 「【0003】
水素は気体中で一番分子量が小さくそのために水素水を調整して容器に密閉しても、保存中に気散してしまう問題がある。従って、工場で水素水を調整して容器に詰めても保存や流通過程で水素が容器から気散してしまい、消費者の手元に渡った時点ではかなり水中の溶存水素濃度(DHと略す)が低下したものとなってしまう欠点があった。 一方、水素発生剤を使用する方法は、水素水を飲む直前に水素水を調整することが出来るので上記のような課題は解決されるが、マグネシウム金属は水との反応が遅く水素水を調整するのに時間を要したり、未反応の金属残渣が水中に残存する欠点があった。」

ウ 「【0042】
これらの水素発生剤は微量の水分とも反応して水素を発生するので、使用直前まではアルミラミネート袋などの透湿性の低い容器内に保管しておくのが好ましい。本発明の方法ではA液として水道水、天然水、炭酸水、お茶、ジュース等各種の飲料水を用いて水素水を調整することが出来る。
【0043】
以下に実施例を用いて本発明をさらに説明する。本発明での水素水中のDHの測定はガスクロマトグラフィー法で行った。PETボトル中の水素水のサンプリングは水素の気散を最小限にするために、外蓋を取り内蓋を取りだして直ちに図5に示したゴム栓付き外蓋で容器を密閉した。その後マイクロシュリンジでゴム栓を通してサンプリングを行った。」


(2) 甲1発明の認定
上記(1)ア?ウを含む甲1の記載を総合すると、甲1には、次の甲1発明が記載されていると認められる。

「PETボトルなどの容器中の飲料水であり、水素を溶解させた水素水の溶存水素濃度の測定方法であって、
PETボトル中の水素水のサンプリングは水素の気散を最小限にするために、外蓋を取り内蓋を取りだして直ちにゴム栓付き外蓋で容器を密閉し、その後マイクロシュリンジでゴム栓を通してサンプリングを行って、ガスクロマトグラフィー法により水素水の溶存水素濃度の測定を行う、
測定方法。」


(3) 甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
ア 「

」(第1頁第5行?第11行)

イ 「

」(第2頁第10行?第12行)

ウ 「

」(第5頁第1行?第6頁第6行)

エ 「

」(第9頁第1行?第10頁第5行、図C.1、図C.2)

オ 「

」(第11頁第1行?第19行)

カ 「

」(第12頁第15行?第24行)

キ 「

」(第13頁第30行?第14頁第5行)

(4) 甲3?6の記載事項
ア 甲3には、JISの規格における、ガスクロマトグラフを用いて無機物及び有機物の定性及び定量分析を行う場合の通則である「ガスクロマトグラフ分析通則」に関する事項が記載されている。

イ 甲4には、「Determination of Traces of Hydrogen, Nitrogen and Oxygen in Aqueous Solutions by Gas Chromatography」に関する技術が記載されている。

ウ 甲5には、「Apparatus for Extraction of Gases for Injection into the Gas Chromatograph」に関する技術が記載されている。

エ 甲6には、「Determination of Dissolved Gases in Aqueous Solutions by Gas Chromatography」に関する技術が記載されている。


2 対比・判断
(1) 本件特許発明と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「飲料水」としての「水素を溶解させた水素水」は、本件特許発明の「飲料用の水溶液」に相当し、甲1発明の「飲料水」としての「水素を溶解させた水素水」の「溶存水素濃度の測定方法」は、本件特許発明の「飲料用の水溶液の溶存水素濃度の測定方法」に相当する。

イ 甲1発明の「マイクロシュリンジでゴム栓を通して」「水素水のサンプリング」を行う工程と、本件特許発明の「水素およびその他の物質を含む水溶液試料の準備及び移動相であるキャリアガスに準備した水溶液試料の導入を行う試料導入工程であって、水溶液試料の準備として、内部を真空に保った容器を所望量の水溶液試料の上方に配設し、該容器内に該水溶液試料を噴出させた後に容器内を大気圧にすることで気液分離を行い、該容器内の上方の気相部分を導入試料として採取することを特徴とする、試料導入工程」とは、「水溶液試料の導入を行う試料導入工程」という点で共通する。

ウ 「ガスクロマトグラフィー法」が、吸着・分配の平衡によりガス成分の分離を行う分離工程と、分離されたガス成分を検出する検出工程と、検出したデータの処理を行うデータ処理工程を基本構成とするものであることは技術常識であるところ(必要であれば甲3の「ガスクロマトグラフ分析通則」を参照)、甲1発明は、「水素水の溶存水素濃度の測定を行う」ために、「ガスクロマトグラフィー法」を用いるものであるから、吸着・分配の平衡により水素の分離を行う分離工程と、分離された水素を検出する検出工程と、検出したデータの処理を行うデータ処理工程を有するものであることが明らかである。
したがって、甲1発明の「水素水の溶存水素濃度の測定を行う」ための「ガスクロマトグラフィー法」と、本件特許発明の「移動相に導入された水溶液試料とカラムの固定相との吸着・分配の平衡により水溶液試料から水素の分離を行う分離工程と、分離された水素を熱伝導度検出器により検出する検出工程と、検出したデータの処理を行うデータ処理工程と」を有する「ガスクロマトグラフィー」とは、「吸着・分配の平衡により水素の分離を行う分離工程と、分離された水素を検出する検出工程と、検出したデータの処理を行うデータ処理工程と」を有する「ガスクロマトグラフィー」である点で共通する。

エ 甲1発明の「ガスクロマトグラフィー法により水素水の溶存水素濃度の測定を行う」「測定方法」は、本件特許発明の「ガスクロマトグラフィーによる飲料用の水溶液の溶存水素濃度の測定方法」に相当する。

オ したがって、本件特許発明と甲1発明とは、
(一致点)
「飲料用の水溶液の溶存水素濃度の測定方法であって、
水溶液試料の導入を行う試料導入工程と、
吸着・分配の平衡により水素の分離を行う分離工程と、
分離された水素を検出する検出工程と、
検出したデータの処理を行うデータ処理工程と
から構成されるガスクロマトグラフィーによる飲料用の水溶液の溶存水素濃度の測定方法。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「ガスクロマトグラフィー」について、本件特許発明は、「水素と所定の熱伝導度の差があるキャリアガスの選択及び流量制御を行うガス制御工程」を有しているのに対して、甲1発明は、そのような構成を有するものか不明である点。

(相違点2)
「試料導入工程」について、本件特許発明は、「水素およびその他の物質を含む水溶液試料の準備及び移動相であるキャリアガスに準備した水溶液試料の導入を行う」試料導入工程であって、「水溶液試料の準備として、内部を真空に保った容器を所望量の水溶液試料の上方に配設し、該容器内に該水溶液試料を噴出させた後に容器内を大気圧にすることで気液分離を行い、該容器内の上方の気相部分を導入試料として採取する」ものであるのに対して、甲1発明は、そのような構成を有しない点。

(相違点3)
「分離工程」について、本件特許発明は、「移動相に導入された水溶液試料とカラムの固定相」との吸着・分配の平衡により「水溶液試料から水素の分離を行う」ものであるのに対して、甲1発明は、そのような構成を有するものか不明である点。

(相違点4)
「分離された水素を検出する検出工程」について、本件特許発明は、「熱伝導度式検出器」により検出を行うものであるのに対して、甲1発明は、そのような構成を有するものか不明である点。

(2) 上記(相違点2)を判断する。
甲2(上記1(3)ウ及びエ)には、加圧水型原子炉(PWR)プラントにおける一次冷却材の溶存水素ガスをガスクロマトグラフ分析する方法であって、採取した一次冷却材試料から溶存水素ガスを抽出するために、一次冷却材試料を採取した試料採取容器の上方に、内部を真空にしたガス捕集容器を接続し、約1秒に1個の気泡が出るように調節してバブリングを行った後、該ガス捕集容器を常圧に戻するともに、ガス捕集容器の底にたまった水層を除くことでガスを捕集する技術が記載されている。
しかしながら、甲2には、ガス捕集容器に一次冷却材試料を「噴出」させることが記載されておらず、ガス捕集容器の底にたまった水層を除くことが記載されているのみである。甲2には、ガス捕集容器に水が導入されることが示唆されているとはいえるものの、甲2に記載の技術は、約1秒に1個の気泡が出るように調節してバブリングを行うものであって、非常に穏やかな処理がなされているものといえ、ガス捕集容器内に試料そのものが「噴出」されるものとまでは認められない。すなわち、甲2には、「該容器内に該水溶液試料を噴出させ」る構成が記載されておらず、上記(相違点2)が記載されたものとはいえない。
そして、甲3には、ガスクロマトグラフ分析通則に関する事項が記載されており、キャリヤーガスとして、ヘリウムや窒素ガスを用いることは記載されているものの、上記(相違点2)の構成は記載されていない。
したがって、甲1発明に甲2?3に記載の技術を採用しても、上記(相違点2)の構成とはならない。

また、甲2のガス抽出法は、上記1(3)ア及びオに記載されているとおり、加圧水型原子炉プラントの安全・安定運転を図る上で定期的に一次冷却材の溶存水素濃度を測定するためのものであり、実プラントの運用を考慮して定められたものである。そして、当該実プラントの運用に適したガス抽出法が他の一般的なガス抽出に適用できることを示す記載が甲2にあるわけでもなく、また、加圧水型原子炉プラントの一次冷却材に関する一般技術が飲料水の一般技術に転用できることが技術常識であったなどの他の事情もない。さらに、甲1の「飲料水」に関する技術と、甲2の「加圧水型原子炉プラント」の「一次冷却材」に関する技術は、試料水の水質、製造目的及び製造環境、その他試料水の採取環境等も相違しており、その技術背景は大きく異なるものである。そうすると、甲2の「加圧水型原子炉プラント」の「一次冷却材」に関するガス抽出法を、「飲料水」に関する甲1発明に採用することには、動機が無いといわざるを得ない。
ここで、甲2には、ガス抽出法として、沸騰法、真空法及びストリッピング法が従来技術であったことが記載されており(上記1(3)カ)、当該従来技術を示す文献として甲4?甲6が引用されているが(上記1(3)カ及びキ)、甲4には、特にストリッピング法が記載され、また真空抽出法として、試料を大型の真空容器に導入し、溶解したガスを液体から真空チャンバ内に抽出することが記載されているのみであり、甲5には、試料を入れた真空デシケータの圧力を下げ、沸騰したガスを抽出する技術が記載されているのみであり、甲6には、試料チャンバにヘリウムガスを通して溶存ガスを抽出する技術が記載されているのみであって、甲2のガス抽出法と同じものは記載されていないから、甲4?6の記載事項を考慮しても、甲1発明に甲2に記載のガス抽出法を採用することの動機付けがあるものとはいえない。

以上のとおりであるから、甲1発明において、甲2に記載の技術を採用するには動機が無いし、たとえ、甲2?3に記載の技術を採用したとしても、上記(相違点2)の構成とはならない。
そして、甲1発明において、上記(相違点2)に関する構成を採用することが、単なる設計的事項であるともいえない。


(3) よって、本件特許発明は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2?3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明は、甲1発明及び甲2?3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
そして、請求項2?3に係る発明は、本件特許発明をさらに限定したものであるから、本件特許発明と同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび
以上検討したとおり、本件特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-26 
出願番号 特願2014-556460(P2014-556460)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 萩田 裕介磯田 真美  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 田中 洋介
▲高▼橋 祐介
登録日 2016-03-11 
登録番号 特許第5895272号(P5895272)
権利者 株式会社アクアバンク
発明の名称 溶存水素濃度の測定方法  
代理人 山口 修之  

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