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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1324880
異議申立番号 異議2016-700907  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-23 
確定日 2017-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5893230号発明「半導体装置用ボンディングワイヤ」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5893230号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5893230号の請求項1ないし5に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は,平成27年7月23日を国際出願日とする出願であって,平成28年3月4日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人田中電子工業株式会社(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第5893230号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】
Cuを主成分とし,Pd,Ptの一方又は両方を総計で0.1?3.0質量%含有する芯材と,該芯材表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と,該被覆層表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層とを含む半導体装置用ボンディングワイヤにおいて,ワイヤ最表面におけるCu濃度が1?10at%であることを特徴とする半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項2】
前記Pdを主成分とする被覆層の厚さが20?90nm,前記AuとPdを含む表皮合金層の厚さが0.5?40nm,Auの最大濃度が15?75at%であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項3】
前記芯材が,さらにAu,Niの一方又は両方を含有し,芯材中のPd,Pt,Au,Niの総計が0.1質量%を超え3.0質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項4】
前記ボンディングワイヤが,さらにP,B,Be,Fe,Mg,Ti,Zn,Ag,Siの1種以上を含有し,ワイヤ全体に占めるこれら元素濃度の総計が0.0001?0.01質量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【請求項5】
前記芯材を構成する元素および前記表皮合金層を構成する元素が前記被覆層に拡散していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 申立理由
本件特許発明1ないし5は,甲第02号証ないし甲第08号証(当審注:特許異議申立書第14頁の「(5)むすび」に「甲第02号証ないし甲第07号証」とあるのは,「甲第02号証ないし甲第08号証」の誤記と認める。)に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件特許発明1ないし5に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第113条第2号の規定により,取り消すべきものである。
[証拠方法]
・甲第01号証:特許5893230号公報(本件出願の特許公報)
・甲第02号証:再公表2010/106851号公報
・甲第03号証:特開2006-100777号公報
・甲第04号証:再公表2002/023618号公報
・甲第05号証:特開2012-39079号公報
・甲第06号証:菅沼克昭,外1名,“プリンテッド・エレクトロニクスの現状”,日本印刷学会誌,社団法人日本印刷学会,2010年12月,第47巻,第6号,p.358-363
・甲第07号証:“めっき最新技術?メカニズムの考察と品質向上?”,谷口彰敏,株式会社情報機構,2008年5月29日,p.89-97
・甲第08号証:樋上直太,外3名,“銅合金中の水素拡散挙動の調査”,銅と銅合金,銅及び銅合金技術研究会,2010年,第49巻,1号,p.96-101

第4 当審の判断
1 甲第02号証ないし甲第08号証
(1)甲第02号証について
ア 甲第02号証の記載
甲第02号証には,下記の事項が記載されている。
(ア) 「【0001】
本発明は、半導体素子上の電極と、回路配線基板(リードフレーム、基板、テープ等)の配線とを接続するために利用される半導体用ボンディングワイヤに関するものである。」
(イ) 「【0054】
半導体用ボンディングワイヤ(以下、ボンディングワイヤという)について、導電性金属からなる芯材と、該芯材の上にPdを主成分とする外層とで構成されたものを評価した結果、酸化抑制、ウェッジ接合性又は長期接合信頼性を向上できる反面、ワイヤ製造工程での伸線加工及び、ワイヤボンディング工程での複雑なループ制御等における、外層の剥離・脱落、接合形状等の発生が問題となること、ボール接合形状の安定性等が十分でないこと等が判明した。
【0055】
複層ワイヤについて、不良率をppmオーダで管理する半導体製造工程での実用化、汎用の金ボンディングワイヤ等現行の単層ワイヤを超える量産安定性、品質を安定化させること、細線のワイヤ伸線加工における歩留まり、生産性を向上すること等を総合的に満足するため、ボンディングワイヤに含有される水素に着目し、その濃度、分布を高精度に管理することが有効であることを見出した。さらに、水素濃度の効率的な制御を促進するには、外層の膜厚・構造、外層又は芯材の合金成分の添加、ワイヤ製造プロセス等の適正化が有効であることも見出した。
【0056】
Cu、Au、及びAgのいずれか1種以上の元素を主成分とする芯材と、前記芯材の上にPdを主成分とする外層とを有し、ワイヤ全体に占める水素濃度が0.0001?0.008 mass%の範囲であることを特徴とする半導体用ボンディングワイヤであれば、ボール部の真球性、表面性状を良好にすることと、ワイヤ製造工程での加工性の向上、酸化の遅延による品質を向上することで、生産性と使用性能を同時に改善することができる。」
(ウ) 「【0076】
前記水素濃度で水素を含有する複層ボンディングワイヤの外層が2層以上で構成されることにより、接合性、ループ形状など多様な機能性を向上することができる。前述した複層ボンディングワイヤの水素濃度と特性の関係について、主として外層が1層構造である場合で説明したが、外層と濃化層の2層以上からなる複層ボンディングワイヤにおいても水素濃度の管理は有効である。以下に、外層と濃化層で構成されるボンディングワイヤに関して、濃化層がワイヤ表面に形成される場合(表面濃化層と称す)と、濃化層が芯材と外層との間に形成される場合(中間層と称す)の2種類の場合に分けて説明する。
【0077】
まず、表面濃化層について説明する。Cuを主成分とする芯材、前記芯材の上にPdを主成分とする外層、前記外層の表面側にAg、Auのうち1種以上の濃化層を有し、前記ワイヤ全体に含まれる総計の水素濃度が0.0001?0.008mass%の範囲であることが望ましい。こうした外層の表面側にAg、Auのうち1種以上の濃化層(表面濃化層)の形成と水素濃度の管理とを組合せることで、長期保管されたボンディングワイヤでも良好なウェッジ接合性を得ることができる。例えば前記ボンディングワイヤを3ヵ月保管した後で接合したときの連続ボンディング性が良好であること、さらにウェッジ接合部近傍のプル強度(セカンドプル強度)は、保管前に対して80%以上の高い値を維持できることが確認された。これは、AgまたはAuの表面濃化層が水素、酸素などガス成分のワイヤ表面からの侵入を抑えることで、長期間保管されたワイヤでも水素濃度をほぼ一定に保持することでウェッジ接合での良好な金属拡散を維持できるためと考えられる。前記表面濃化層は外層の一部に含まれる。これは、表面濃化層と外層では重複する機能も多いこと、前述したように、外層とはPd濃度が50mol%以上から表面までの領域であると定義していることなどの理由に基づく。
【0078】
図2に、上記の表面濃化層を有する外層が施されたボンディングワイヤにおけるワイヤ表面からの芯材(ワイヤ径中心)方向への金属元素濃度プロファイルの一例を示す。外層2の表面には、Ag、Auのうち1種以上である主成分Cを有する表面濃化層4があり、また、外層2の内部には、後述する単一金属層5が形成されている。
【0079】
濃化する元素がAg、Auのうち1種以上であることで、他の元素よりも高いウェッジ接合性が改善される。特にその改善効果が顕著な事例として、低い接合性が問題となるQFN(Quad Flat Non-Lead)構造の実装におけるウェッジ接合性を向上させる高い効果が確認された。QFN実装ではリード部の固定が十分ではないため、超音波振動を弱めたボンディングワイヤの接合が求められる。複層ボンディングワイヤの外層が硬いPdの場合にQFN実装は困難であるのに対して、外層表面側にAg、Auの濃化層を形成することで連続接続性が改善され、QFN実装での生産性向上が可能となる。」
(エ)「【0080】
Pdを主成分とする外層の表面側にAg、Auのうち1種以上の濃化層を有するボンディングワイヤにおいて、前記水素濃度の管理が濃化層を持たない外層の場合よりも重要となる。この理由として、前記濃化層は水素がワイヤ外部に放出するのを抑える働きにより、製造工程でワイヤ内に含有される水素濃度が高くなり、前述した水素に起因するボール形成の低下などの問題が起こりやすいためである。さらに、Cuが水素を少量含有することが可能であるため、芯材の主成分がCuである場合に、濃化層の形成と水素濃度の管理の関係が有効である。
【0081】
前記表面濃化層は、Ag、Auのうち1種以上とPdとの固溶合金であることが望ましい。表面濃化層の領域は、Ag、Auの濃度が10mol%以上で周囲より高濃度である領域と定義する。これは、局所的に10mol%以上の高濃度の領域であれば、接合部での拡散挙動、ループ形成時のワイヤの曲折などを制御できるためである。こうしたループ形状を安定化させる効果は、単一金属領域よりも濃化層の方が高い傾向にあることが確認された。好ましくは、前記濃化層は金属間化合物ではなく固溶合金であることで、短スパンなどの曲げ角度の大きいループ形状でも安定化できる。
【0082】
表面濃化層がAg、Auのうち1種以上の濃度勾配を有することが望ましい。濃度勾配によりウェッジ接合でのセカンドプル強度が増加して、実装時の歩留がさらに向上する。この改善効果はBGAまたはCSPでも効果はあるが、特に、QFN実装でのウェッジ接合のセカンドプル強度を上昇させる効果がより高い。これは表面濃化層が濃度勾配を有することで、ほぼ一定濃度の合金と比較して、ウェッジ接合に要求されるワイヤの大塑性変形、接合界面での相互拡散などを助長する効果が高いためと考えられる。ワイヤ径方向における濃度勾配の傾きは1μm当たり10mol%以上であれば、QFN実装でのセカンドプル強度を上昇させる効果がより高められる。好ましくは1μm当たり30mol%以上であれば、接合界面での相互拡散を助長することで、QFN実装でのセカンドプル強度を高める効果が高い効果が確認された。
【0083】
表面濃化層の最表面におけるPd濃度が20?90mol%の範囲であることが望ましい。これにより、ロングスパンでのループ形状のばらつきを低減したり、細径ワイヤの接合性を向上する効果が増進される。ワイヤ表面がPdで全て覆われる場合に、4mm以上のロングスパンでのループ形成時に階段状のしわが発生する不良(Wrinkled Loop)が問題となる。これは、硬いPdとキャピラリ内壁との摩擦が増加して摺動性が悪化することが要因であると考えられる。最表面のPd濃度が90mol%未満、言い換えるとAg、Auの総計濃度が10mol%以上である理由は、ロングスパンのループ制御が改善され、なかでも上記のWrinkled Loop不良の改善に効果的であるためである。また、濃化層の最表面におけるAg、Auの総計濃度を10mol%以上にすることで、線径20μmの細線でもウェッジ接合性を向上することができる。
一方、Pd濃度20mol%未満すなわちAg、Auの総計濃度が80mol%以上では、ボール内部に未溶融部が残り、ボール接合部のシェア強度が低下する。好ましくは、前記Pd濃度が30?80mol%の範囲であることにより、線径18μm以下の極細線において、Wrinkled Loop不良の抑制などの高い効果が得られる。
【0084】
表面濃化層を有する外層の内部にPd単一金属層を有することが望ましい。すなわち、Cuを主成分とする芯材、前記芯材の上にPdを主成分とする外層、ワイヤ全体に含まれる総計の水素濃度が0.0001?0.008mass%の範囲である半導体用ボンディングワイヤであって、前記外層の表面側にAg、Auのうち1種以上の濃化層、前記外層の内部にPd単一金属層を有する半導体用ボンディングワイヤであることが望ましい。これにより、真円で、サイズばらつきの少ないボール接合が可能となる。Pd単一金属層とは、濃度測定の誤差などの制約も考慮すると、Pd濃度が97%以上である領域に相当する。Pd単一金属層の位置は、前記濃化層に隣接することが望ましい。例えば、ワイヤ表面から内部方向へのワイヤ構成では、AgまたはAuの濃化層/Pd単一金属層/Pd-Cu拡散層/芯材で例示される。
【0085】
Pd単一金属層の役割は、芯材のCuの表面方向への拡散を抑制するバリア機能である。このバリア機能により、表面でのCuの偏析、酸化の抑制などの効果があり、結果としてアーク放電を安定化させて、真球性の良好なボール形成が可能となる。前記外層が、表面のAg、Auの濃化層、内部のPd単一金属層、水素濃度管理の三者の相乗効果を利用することで、細径ワイヤで小ボールを接合する厳しい条件でも、ボール接合部の真円性、サイズ安定性を向上できる。特に、圧着ボール径が線径の3倍以上となる大ボール変形の場合に真円化させる改善効果が顕著である。Pd単一金属層だけでは不十分であり、例えば、表面のAg、Auの濃化層が長期保管されたワイヤのウェッジ接合性を維持することも、アーク放電を安定化させて大ボール変形を安定化するのに有効である。Pd単一金属層の厚さは、0.005?0.1μmの範囲であることが望ましい。0.005μm以上であれば十分な上記効果が得られ、0.1μmを超えるとボール形成時に高融点金属のPdの溶融が不安定となり、花弁状のボール接合形状が問題となるためである。
【0086】
表面濃化層を有する外層の厚さが0.02?0.4μmの範囲であることが望ましい。これにより、表面濃化層を有する外層の効果である、長期保管後のウェッジ接合性およびセカンドプル強度、QFN実装での生産性およびセカンドプル強度の向上などに加えて、水素濃度が管理された外層の効果であるボール接合性の向上なども両立することが可能である。外層の厚さが0.02μm以上であれば、上記効果を得ることが容易であり、厚さが0.4μmを超えると、ボール部が硬化して接合時にチップ損傷を与えることが懸念されるためである。好ましくは、外層の厚さが0.03?0.3μmの範囲であれば、QFN実装の低温でのセカンドプル強度を増加させることができる。より好ましくは、0.04?0.25μmの範囲であれば、QFN実装の低温接合におけるボール接合強度、セカンドプル強度を増加させるより高い効果が得られる。
【0087】
次に中間層について説明する。Cuを主成分とする芯材、前記芯材の上にPdを主成分とする外層、芯材と外層との間にAg、Auのうち1種以上の中間層を有し、前記ワイヤ全体に含まれる総計の水素濃度が0.0001?0.008mass%の範囲であることが望ましい。こうした芯材と外層との間にAg、Auのうち1種以上の中間層を形成し、水素濃度の管理と組合せることで、長期間保管されたボンディングワイヤを用いたときのボール接合性が向上する。例えば前記ボンディングワイヤを4ヵ月保管された後で接合したときのボール接合部では、ボール部の内部気泡が抑制され、初期シェア強度、高湿環境での接合信頼性が向上することが確認された。これは、前記内部濃化層の役割として、水素、酸素などの内部方向への侵入、Cu中への水素の固溶の軽減および芯材のCu原子の表面方向への拡散を抑えるバリア機能により、ボール凝固時に水素、酸素などに起因する気泡の生成を抑えることができるためと考えられる。」
(オ) 実施例8について,Cuが主成分の芯材において添加元素Pdが0.2mol%であることが【表1】に記載されている。
(カ) 図2には、表面濃化層4において、表面濃化層の主成分が表面からの距離が近いほど高くなり、外層の主成分が表面からの距離が近いほど低くなり、芯材の主成分は含まれないとする濃度プロファイルが記載されている。
イ 甲第02号証に記載された発明
上記ア(ア)には、発明が「半導体用ボンディングワイヤに関するもの」であること、上記ア(ウ)には、ボンディングワイヤについて「Cuを主成分とする芯材、前記芯材の上にPdを主成分とする外層、前記外層の表面側にAg、Auのうち1種以上の濃化層を有」したものであること,上記ア(オ)には,実施例としてCuが主成分の芯材において添加元素Pdが0.2mol%であること、上記ア(エ)には,濃化層について「前記表面濃化層は、Ag、Auのうち1種以上とPdとの固溶合金であることが望ましい。」ことが、それぞれ記載されている。
よって,甲第02号証には,下記の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「芯材に占める添加元素Pdの濃度が総計で0.2mol%であるCuを主成分とする芯材と,前記芯材の上にPdを主成分とする外層と,前記外層の表面側にAg、Auのうち1種以上とPdとの固溶合金からなる表面濃化層とを有した半導体用ボンディングワイヤ。」

(2)甲第03号証について
甲第03号証には,下記の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
芯材と被覆層からなるボンディングワイヤーにおいて、前記ボンディングワイヤーの表面に芯材の元素の割合が8at%以下であり、前記芯材と前記被覆層が溶融してなる合金の融点が、前記芯材及び前記被覆層いずれかの融点よりも高いことを特徴とするボンディングワイヤー。
【請求項2】
芯材と被覆層からなるボンディングワイヤーにおいて、前記芯材は銅及び不可避不純物からなり、前記被覆層は白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムのいずれか1元素と不可避不純物からなり、前記ボンディングワイヤーの表面に銅の割合が8at%以下であることを特徴とする請求項1に記載のボンディングワイヤー。
【請求項3】
前記ボンディングワイヤーの被覆層の厚さが50Å以上で、かつボンディングワイヤーの断面において、X=被覆層面積/(芯材面積+被覆層面積)とした場合、X<0.0065であることを特徴とする請求項1または2記載のボンディングワイヤー。
【請求項4】
芯材と被覆材の拡散層の厚さが200Å以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のボンディングワイヤー。」
イ 「【0017】
本発明のワイヤーの表面において芯材の割合は8at%以下である。これは耐酸化性に優れるためである。被覆層に芯材の成分が8at%を超えて含まれていると、ワイヤー表面において芯材の成分が酸化されてしまうという問題が起きる。被覆層は好ましくは白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムのいずれか1元素と不可避不純物からなる。より好ましくは被覆層はパラジウムと不可避不純物からなる。被覆層が金や銀を用いると、例えば芯材に銅を用いた場合、銅と金からなる合金あるいは銅と銀からなる合金は純銅、純金、純銀より融点が低いため上記のように良好な球形のボールの形成が困難である。なお、ここでいう表面とはワイヤー外面から深さ0.005ミクロン(50Å)までを言う。ワイヤーの表面元素の測定は、オージェ電子分光法を用い、加速電圧10keV、10nAにて、5ミクロン径の視屋内分析をおこなった値をいう。なお、ワイヤー表面における芯材の成分比率は、ワイヤー表面に付着している有機物を主とするカーボンは含まない。」
ウ 「【0022】
次に、被覆材を形成した後、ダイスを用いて伸線加工をおこない、直径25ミクロン径まで伸線加工した。次に、350℃窒素雰囲気1m長の炉を用いて50m/分の線速で走間焼鈍を行い、ワイヤーを製造した。」
エ 「【0029】
[実施例2]
表2に示すメッキ条件により、被覆層としてパラジウムの厚さが50Å?400Åであるワイヤーを作製した。その他の条件は実施例1と同様である。ボールへの加工条件は45mA、1.4msec、5%水素と窒素との混合ガスを0.7L/分流した。ボンディング条件は、ファーストボンディングでは、時間25ミリ秒、荷重45g、超音波出力20%(最大出力2.25W)、セカンドボンディングでは、時間25ミリ秒、荷重60g、超音波出力40%(最大出力2.25W)にておこなった。なお、ステージ温度は200℃とした。表面の芯材である銅の露出量、および、オージェ電子分光による拡散層の厚さ、ワイヤーボンディング後のプル試験の結果を表2に示す。また、図1に、本発明に関わるボンディングワイヤーと(図1-1)、本発明の限定外の条件で作成したボンディングワイヤー(図1-2)のオージェ電子分光分析結果の代表例を示す。」

(3)甲第04号証について
甲第04号証には,下記の事項が記載されている。
ア 「実施例1
本実施例は、本発明の(1)?(6)に記載のボンディングワイヤに関するものである。
ボンディングワイヤの原材料として、Au,Pt,Pd,Cu,Ag,Al元素のそれぞれについて粒、または小片であり、純度が約99.9質量%以上のものを用意した。
こうした高純度材以外にも、Ca,Be,In,Cu,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で0.001-1%の範囲で含有するAu合金、Be,Auなどから1種類以上の元素を総計で0.001-1%の範囲で含有するCu合金、Si,Mg,Ag,Pt,Pdなどから1種類以上の元素を総計で0.01-1%の範囲で含有するAl合金なども、個別に高周波真空溶解炉で溶解鋳造により合金材を作製した。
芯線と外周部で異なる部材からなる中間層複合ボンディングワイヤを作製するために、下記の2種類の方法を使用した。
第一の方法は、芯線と外周部を個別に準備し、それらを組合わせてから、鍛造、圧延などにより、ある線径まで細くしてから、拡散熱処理を施し、その後さらに伸線加工により最終線径まで細くする方法(以下、挿入法と呼ぶ)である。今回は、長さが10cm、直径が約5mmの線を準備し、その断面の中心部に穴径0.4?2.5mmの範囲で貫通する穴を加工した外周部材と、その穴径と同等の線径である芯線材を別途作製した。この外周部材の穴に芯線材を挿入して、鍛造、ロール圧延、ダイス伸線などの加工を施して、線径50?100μmの線を作製した。そのワイヤの拡散熱処理として、20cmの均熱帯を持つ横型赤外加熱炉を用いて、300?900℃に設定された炉中を、0.01?40m/sの速度でワイヤを連続的に移動させながら熱処理を施した。その拡散熱処理されたワイヤをさらに、ダイス伸線により、最終径の20?30μmまで伸線した。最後に、上記の加熱炉で熱処理を施すことにより、加工歪みを取り除き、伸び値が4%程度になるように特性を調整した。」(第21頁11行?33行)

(4)甲第05号証について
甲第05号証には,下記の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
銅(Cu)または銅合金からなる芯材、パラジウム(Pd)からなる中間層および表面層からなる、線径が10?25μmのボールボンディング用被覆銅ワイヤにおいて、
上記中間層は、ワイヤ径の0.001?0.02倍の膜厚のパラジウム(Pd)被覆層であり、
上記芯材が0.5?99質量ppmのジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ホウ素(B)、チタン(Ti)の少なくとも一種を含み、残部が純度99.9質量%以上の銅(Cu)からなり、
前記表面層は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)又はこれらの合金からなり、ダイヤモンドダイスにより理論的な最終膜厚が1?7nmまで連続伸線され、かつ、前記中間層の厚さに対して1/8以下の厚さとした最上層の被覆層
であることを特徴とするボールボンディング用被覆銅ワイヤ。」

(5)甲第06号証について
甲第06号証には,下記の事項が記載されている。
ア 「これは,物質の体積が小さくなると結晶内部に対し表面の比率が大きくなり融点降下するためで,その例として,図1に金ナノ粒子の融点に及ぼす球形の影響を示した。金の融点は1064℃であるが,粒径を小さくし10nmの粒径を下回ると,急激に融点が低下している。」(第358頁左欄下から3行?同右欄2行)

(6)甲第07号証について
甲第07号証には,下記の事項が記載されている。
ア 「Pbフリー化の流れは,この半田めっきの代替え技術を要求することになり,その候補として注目を浴びているのがパラジウムめっきを用いたPPF技術である。PPF技術ではパット部,インナーリード部,アウターリード部を同時にパラジウムめっきが施されている(図5)。」(第91頁下から6行?同下から3行)

(7)甲第08号証について
甲第08号証には,下記の事項が記載されている。
ア 「(1) 本合金の鋳塊中の水素のほとんどは拡散型であり,全水素量は3.2mass ppmであった。この鋳塊に熱間圧延を行った後も,材料中には水素が1.9wt ppm残存していた。」(第101頁左欄下から8行?同下から5行)

2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
ア 甲2発明の「芯材」は、「Cuを主成分とする」ものであり、「添加元素Pd」を含むものである。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、「Cuを主成分とし,Pd,Ptの一方又は両方を含有する芯材」である点で共通する。
イ 甲2発明の「外層」は、「芯材の上に」有したものなので、芯材の表面に設けられたものと認められる。
そうすると、甲2発明の「前記芯材の上にPdを主成分とする外層」は、本件特許発明1の「該芯材表面に設けられたPdを主成分とする被覆層」に相当する。
ウ 甲2発明の「表面濃化層」は、「前記外層の表面側にAg、Auのうち1種以上とPdとの固溶合金からなる」ものなので、外層の表面に設けられたAuとPdと含む合金層であると認められる。
そうすると、甲2発明の「前記外層の表面側にAg、Auのうち1種以上とPdとの固溶合金からなる表面濃化層」は、本件特許発明1の「該被覆層表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層」に相当する。
エ 甲2発明の「半導体用ボンディングワイヤ」は、下記の相違点1および2を除いて、本件特許発明1の「半導体装置用ボンディングワイヤ」に相当する。
オ 上記の対応関係から、本件特許発明1と甲2発明とは、下記カの点で一致し、下記キおよびクの点で相違する。

カ 一致点
「Cuを主成分とし,Pd,Ptの一方又は両方を含有する芯材と,該芯材表面に設けられたPdを主成分とする被覆層と,該被覆層表面に設けられたAuとPdを含む表皮合金層とを含む半導体装置用ボンディングワイヤ。」

キ 相違点1
本件特許発明1の「芯材」は、「Cuを主成分とし,Pd,Ptの一方又は両方を総計で0.1?3.0質量%含有する」ものであるのに対し、甲2発明の芯材は、「芯材に占める添加元素Pdの濃度が総計で0.2mol%であるCuを主成分とする芯材」である点。

ク 相違点2
本件特許発明1の「半導体装置用ボンディングワイヤ」は、「ワイヤ最表面におけるCu濃度が1?10at%である」のに対し、甲2発明は、上記の構成を備えていない点。

(2)判断
最初に甲2発明の外装および濃化層の作用効果について確認し、次に、甲2発明において、相違点2に係る構成を備えることが容易であるかについて検討する。
ア 甲2発明の外装および濃化層の作用効果
甲第02号証には、上記1(1)のア(イ)に,「半導体用ボンディングワイヤ(以下、ボンディングワイヤという)について、導電性金属からなる芯材と、該芯材の上にPdを主成分とする外層とで構成されたものを評価した結果」,「ボンディングワイヤに含有される水素に着目し、その濃度、分布を高精度に管理することが有効であることを見出し」,「Cu、Au、及びAgのいずれか1種以上の元素を主成分とする芯材と、前記芯材の上にPdを主成分とする外層とを有し、ワイヤ全体に占める水素濃度が0.0001?0.008 mass%の範囲であることを特徴とする半導体用ボンディングワイヤであれば、ボール部の真球性、表面性状を良好にすることと、ワイヤ製造工程での加工性の向上、酸化の遅延による品質を向上することで、生産性と使用性能を同時に改善することができる。」ことが記載されている。
また,上記1(1)のア(エ)には,「表面濃化層を有する外層の内部にPd単一金属層を有することが望ましい。」こと,「Pd単一金属層の役割は、芯材のCuの表面方向への拡散を抑制するバリア機能である。このバリア機能により、表面でのCuの偏析、酸化の抑制などの効果があり、結果としてアーク放電を安定化させて、真球性の良好なボール形成が可能」となること,「前記内部濃化層の役割として、水素、酸素などの内部方向への侵入、Cu中への水素の固溶の軽減および芯材のCu原子の表面方向への拡散を抑えるバリア機能により、ボール凝固時に水素、酸素などに起因する気泡の生成を抑えることができる」ことが記載されている。そして、濃化層は、水素の侵入の軽減だけでなく、Cu原子の表面方向への拡散を抑制するものであるから、「表面濃化層」がCu原子の表面方向への拡散の抑制するものであることは明らかである。
そうすると,Cuを主成分とする芯材とPdを主成分とする外層とを有する半導体用ボンディングワイヤでは,生産性と使用性能を同時に改善するために,ボンディングワイヤに含有される水素の濃度と分布を高精度に管理することが有効であるため,Pdを主成分とする外層と表面濃化層が,芯材のCuの表面方向への拡散を抑制するバリアとして機能することで,表面でのCuの偏析、酸化を抑制し,また,表面濃化層は、水素の内部方向への侵入によるCu中への水素の固溶の軽減を図っているものと認められる。
イ 相違点2に係る構成を備えることについて
甲2発明では、上記アの記載から、半導体用ボンディングワイヤに含有される水素の濃度と分布を高精度に管理する必要があるため、半導体用ボンディングワイヤの内部にある水素を外部に出さず、外部の水素を半導体用ボンディングワイヤへ侵入することを防止することで、水素濃度を一定に保つ管理が行われるものと認められるところ、具体的には、Cuは水素を固溶するため、「Pdを主成分とする外層」が、芯材のCuの表面方向への拡散を抑制し、かつ、「外層の表面側にAg、Auのうち1種以上とPdとの固溶合金からなる表面濃化層」も芯材のCuの表面方向への拡散を抑制しているものと認められる。
すなわち、甲2発明は、半導体用ボンディングワイヤに含有される水素の濃度と分布を高精度に管理するため、芯材のCuの表面方向への拡散を抑制するバリアとして機能する外装および表面濃化層により、半導体用ボンディングワイヤの表面にCuが偏析することを防止しなければならないものである。
そうすると、甲2発明では、相違点2に係る構成である、半導体用ボンディングワイヤの「最表面におけるCu濃度が1?10at%である」とすることは阻害要因になるので、他の証拠方法である甲第03号証ないし甲第08号証に半導体用ボンディングワイヤの「最表面におけるCu濃度が1?10at%である」ことが記載されていたとしても、甲2発明において、相違点2に係る構成を備えることの動機付けにはならず、容易に構成できたものとはいえない。
ウ 本件特許発明1のまとめ
したがって、本件特許発明1は、相違点1を検討するまでもなく、当業者が甲第02号証ないし甲第08号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

3 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし本件特許発明5は,本件特許発明1を更に減縮したものである。
そうすると,上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により,
当業者が甲第02号証ないし甲第08号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

4 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,特許異議申立書「(ウ) 本件特許発明における構成要素C」欄(第6頁25行?第8頁18行)において、甲第03号証ないし甲第06号証の記載から、Cu芯材を拡散熱処理するとPd被覆層の外側に芯材のCuが析出するとして、本件特許発明1も上記相違点2に係る構成である「構成要素C」を実質的に有していることを主張している。
しかしながら、甲第02号証の明細書には、半導体用ボンディングワイヤの最表面の「Cu濃度」については記載されておらず、甲第02号証のボンディングワイヤの濃度プロファイルが記載された図2には、上記1(1)のア(カ)に記載したように、芯材の主成分は表面濃化層4の範囲には含まれないことが記載されているところ、上記2(2)に記載したように、甲2発明は、半導体用ボンディングワイヤに含有される水素の濃度と分布を高精度に管理するため、芯材のCuの表面方向への拡散を抑制するバリアとして機能する外装および表面濃化層により、半導体用ボンディングワイヤの表面にCuが偏析することを防止しなければならないものであるから、相違点2に係る構成、すなわち「構成要素C」は、甲2発明に対して阻害要因になるものである。
よって、他の証拠方法では半導体用ボンディングワイヤの表面にCuが析出する場合があるからといって、甲2発明の半導体用ボンディングワイヤの表面においても同様にCuが析出しているとはいえないので、上記特許異議申立人の主張は採用することができない。

第5 結言
以上検討したとおり,特許異議申立ての理由および証拠によっては,請求項1ないし請求項5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし請求項5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-02-01 
出願番号 特願2015-540380(P2015-540380)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 飯田 清司
加藤 浩一
登録日 2016-03-04 
登録番号 特許第5893230号(P5893230)
権利者 新日鉄住金マテリアルズ株式会社 日鉄住金マイクロメタル株式会社
発明の名称 半導体装置用ボンディングワイヤ  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
代理人 宮崎 悟  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  

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