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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1324886
異議申立番号 異議2016-700039  
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-20 
確定日 2017-02-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第5769362号発明「圧縮製剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5769362号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5769362号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成19年6月26日に特許出願され、平成27年7月3日に当該特許権の設定登録がされた。その後、当該特許について、特許異議申立人 井上 明謹(申立番号01、申立日;平成28年1月20日)及び特許異議申立人 成田 隆臣(申立番号02、申立日;平成28年2月25日)により、特許異議の申立てがされた。
当審において平成28年6月10日付けで取消理由を通知し、これに対し、特許権者から平成28年8月15日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人 井上 明謹及び特許異議申立人 成田 隆臣それぞれから、平成28年10月7日付けで意見書が提出された。
その後、当審において平成28年11月24日付けで取消理由を通知し、これに対し、特許権者から平成28年8月15日付け訂正請求を取り下げる旨の訂正請求取下書が同年12月6日付けで提出された。

第2 本件特許発明
平成28年8月15日付け訂正請求は同年12月6日付けで取り下げられたので、本件特許第5769362号の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、あるいはこれらをまとめて「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
組成物を圧縮する打錠工程を含むことを特徴とするオルメサルタンメドキソミル含有錠剤の溶出性改善方法であって、前記打錠工程が、141-400 N/mm^(2)の圧力を使用する工程であり、ステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合した組成物を打錠する工程であり、前記溶出性改善が打錠用混合末に対しての改善である方法。
【請求項2】
組成物が、溶出改善剤を含む請求項1に記載の溶出性改善方法。」

第3 取消理由の概要
(1)平成28年6月10日付けで通知した取消理由の概要
(ア)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物1、及び刊行物2?6に記載された発明並びに技術常識に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(以下、「取消理由1」という。)
(イ)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された刊行物2、及び刊行物1、3?6に記載された発明並びに技術常識に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(以下、「取消理由2」という。)

(2)平成28年11月24日付けで通知した取消理由の概要
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。(以下、「取消理由3」という。)

第4 引用刊行物
「取消理由1」及び「取消理由2」で引用された刊行物1?6は、以下のとおりである。

・刊行物1
オルメテック錠10mg・20mgの医薬品インタビューフォーム、三共株式会社・株式会社三和化学研究所、2004年1月(新様式第1版)、1?9頁(他目次等)
(特許異議申立人 井上 明謹による特許異議申立書の甲第1号証)

・刊行物2
錠剤からの難溶性薬物の溶出、武田研究所報、1981年、Vol.40、No.1/2、108?118頁(他目次等)
(特許異議申立人 井上 明謹による特許異議申立書の甲第7号証)

・刊行物3
薬剤マニュアル、株式会社南山堂、1989年3月20日、80?83、88?92頁
(特許異議申立人 井上 明謹による特許異議申立書の甲第2号証)

・刊行物4
総合製剤学、株式会社南山堂、2000年4月3日、454?459頁
(特許異議申立人 成田 隆臣による特許異議申立書の甲第2号証)

・刊行物5
International Journal of Pharmaceutics, 2003, Vol.250, pp.3-11
(特許異議申立人 成田 隆臣による特許異議申立書の甲第3号証)

・刊行物6
Journal of Pharmaceutical Science, 1970, Vol.59, No.5, pp.606-609
(特許異議申立人 成田 隆臣による特許異議申立書の甲第4号証)

第5 引用刊行物に記載された事項
1.刊行物1には以下の事項が記載されている。
(1a)
「1.販売名
(1)和 名 オルメテックR錠10mg
オルメテックR錠20mg
(2)洋 名 OLMETECR TABLETS 10
OLMETECR TABLETS 20
(3)名称の由来
一般名オルメサルタン(Olmesartan)
メドキソミルの 「オルメ(Olme)」と
technologyの「テック(tec)」との組み合わせより。
2.一般名
(1)和 名(命名法) オルメサルタン メドキソミル (JAN)
(2)洋 名 Olmesartan Medoxomil (JAN)
olmesartan medoxomil(INN)

」(3頁)

(1b)
「III.有効成分に関する項目
(中略)
2.物理化学的性質
(1)外観・性状
白色?微黄色の粉末である。
わずかに特異なにおい又は特異なにおいがある。
(2)溶解性
ジメチルスルホキシドに溶けやすく、メタノール又はアセトンにやや溶けにくく、アセトニトリル又はエタノール(99.5)に溶けにくく、水にほとんど溶けない。(20℃)」(4頁)

(1c)
「IV.製剤に関する項目

(中略)
2.製剤の組成
(1)有効成分(活性成分)の含量
オルメテック錠10mg:
1錠中オルメサルタン メドキソミル10mgを含有
オルメテック錠20mg:
1錠中オルメサルタン メドキソミル20mgを含有
(2)添加物
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、乳糖、ステアリン酸マグネシウム」(6頁)

(1d)
「5.溶出試験
30分後の溶出率が75%以上
日局一般試験法「溶出試験法第2法(パドル法)」(9頁)

2.刊行物2には以下の事項が記載されている。
(2a)
「錠剤からの難溶性薬物の溶出」(90頁の「タイトル」)

(2b)
「 1.序 論
錠剤は飲み易く,正確な服用量が期待できること,製造コストが安いことから経済的であるなど幾つかの理由から現在最も繁用されている剤形である.
ところで錠剤は主に二つの相反する性質を持たなければならない.すなわち製造時から使われるまでの間充分に外力に耐えられるだけの強い硬さを持たなければならず,一方消化管中では容易に崩壊して主薬粒子が放出されなればならない.Cooper^(1))によればこれまでこの相反する性質に調和を持たせる錠剤の設計は勘と経験によるところが大で,その意味で錠剤の設計はartであった.しかし技術的進歩によりこれらの問題は次第に解決しつつあり,その意味ではscienceになりつつある.
一方最近錠剤は上記のような性質を具備するだけでなく,その錠剤が目的の治療効果を発揮するために,投与された場合の主薬の溶出および生体への吸収が注目されるようになった.日本薬局方^(2))では一定時間内に崩壊することが規定されているが,単に顆粒への再分散に対応する崩壊時間の規定のみでなく,主薬の溶出速度を規定しなければならないことが多くの研究者によって指摘されている^(3-5)).このような観点から米国薬局方^(6))では既に幾つかの錠剤(難溶性薬物を含む)について溶出速度の規定が設けられている.日本においても,10局に溶出速度の規定を設定すべく現在検討が進められている^(7)).したがって錠剤を設計するに当って考察しなければならない特性が従来より増えたために,これまでに確立されつつある技術を今一度考え直すべき時が来たと考える.
製剤とは本来投与されるべき薬物を投与しやすく,正確な投与量が設定できるように加工することあり,この加工の工程で主薬の持っている望ましい性質を充分に発揮できるようにすることである.場合によっては本来主薬の持っている性質を製剤にすることにより更に上廻る性質を持たせうることがあるが,これは特殊な場合と考えるべきである.一般には製剤化することにより主薬の性質を低下させないようにすることが大切である.例えば,錠剤の機械的強度を高めることにばかり注目して崩壊を悪くしたり,主薬の溶出が遅くなってしまうことがある.薬物溶出は上述の観点から,錠剤の設計では非常に重要であり,また困難な問題の一つである.」
(92頁6?25行)

(2c)
「6.2 実験
6.2.1 試料
クロラムフェニコール(武田薬品工業製),フェナセチン(大和化学製),プレドニゾロン(ウクラフ社製)の三つの溶解度の異なる難溶性薬物を用いた.稀釈剤としては乳糖(D.M.V.社製)を,また結合剤としてはヒドロキシプロピルセルロース(HPC-L,日本ソーダ製)を用いた.
6.2.2 試料の調製
主薬含量を10%にするために稀釈剤として乳糖を用いた.結合剤は3%を用いた.それぞれの主薬を乳糖と混合し,HPC-Lの水溶液を加えて乳鉢中で練合した.練合に際しては主薬の粒子がこわれぬように注意した.練合物は32メッシュの篩を通して整粒した.
顆粒は崩壊剤や滑沢剤を加えずにそのまま材料試験機(オートグラフIS-5000,島津製作所)で9mmの直径の円板状成形物に成形した.成形前に臼と杵にステアリン酸マグネシウムの粉末を塗って滑沢した.250mgの顆粒を1.0,2.0,3.0ton/cm^(2)の圧で圧縮した.圧縮の速度は5mm/minで行った.」(108頁最下行から12行目?109頁2行)

(2d)
「以上,崩壊過程を除いた溶出試験の結果によると,主薬含有率と初期主薬粒度の組み合わせにより次のようにまとめることができる.
これらの様子は主薬の溶解度が小さい程顕著に現れるが,その臨界溶解度はおおよそ0.1%付近であると考えられる.
また以上の結果より,微粒子を原料にして錠剤を作ることが必ずしも溶出をよくするとは限らない事実に注目しなければならない.微粒子は圧縮により凝集して溶出速度が低下し易く,主薬含有率が10%以下の場合にのみ微粒子の使用は有効である.したがって微粒化が必ず溶出速度の上昇につながるという考えは誤りである.粗粒をむしろ原料にした方が圧縮過程で粒子の破壊が起って溶出がよくなる場合もあることに注目すべきである.
以上のように錠剤を溶出の観点から見て設計する場合には,主薬含有率や初期主薬粒度に充分注意し,圧縮圧を適当に選ぶことが極めて重要な条件であることが明らかとなった.

」(117頁6?22行)

3.刊行物3には以下の事項が記載されている。
(3a)
「6-1-5.錠 剤(1)
定義 医薬品を一定の形状に圧縮して製したものである(日局11))」(88頁1?3行)

(3b)


」(89頁)

4.刊行物4には以下の事項が記載されている。
(4a)
「2.錠剤の製造
a)製造方法
錠剤の製造法には,顆粒圧縮法と直接粉末圧縮法とがある.
顆粒圧縮法は一度,打錠用顆粒を作りそれを圧縮する方法で,以前から広く用いられている.顆粒は粉末に比べ流動性がよく打錠機の臼への充填性にすぐれている.さらに圧縮時に塑性変形が生じやすく,このため打錠が容易である.直接粉末圧縮法は混合された粉末を直接打錠する方法である.顆粒を作る際の水分の添加や乾燥による熱の影響を受けないので,薬剤の安定性が損なわれず,さらに顆粒圧縮法に比べ製造工程が大幅に短縮される.今日ではこの方法が一般的となった.一方,打錠が一般に難しく,このため圧縮成形性の優れた賦形剤(例えば,結晶セルロースなど)を添加したり,また打錠機の操作に注意が必要である.図II-9-8に錠剤の製造フローチャートを示す.

b)打錠の機構
打錠機には少量生産用の単発式打錠機と大量生産用のロータリー型打錠機とがある.
図II-9-9に単発式打錠機の機構を示す.顆粒あるいは粉末を供給するホッパーと上杵および下杵が作動し「臼への充填-圧縮-錠剤の排出」のサイクルが繰り返される.このとき,錠剤の重量は充填時の下杵の位置により,硬度は圧縮時の上杵と下杵の間隔により決まる.

」(454頁11行?455頁図II-9-9)

5.刊行物5には以下の事項が記載されている。
なお、刊行物5は英文のため、当審による日本語訳で記載する。
(5a)
「近年、低溶解性を有する活性剤の数が増加している。その結果、胃腸管からの吸収のための律速段階が有意に遅い溶解速度であることから、難水溶性薬物の経口送達の生体利用性は低い結果に終わる。難水溶性薬物の溶解速度を改善し、そのため経口生物利用性を改善するための一般的なアプローチは、ポリエチレングリコールといった水溶性の溶解速度促進高分子を用いた、固体分散体の形成によるものである(Chiou and Riegelman, 1971;Serajuddin, 1999)。固体分散体を製造するための典型的な方法は溶液法(Sumni,1986;Mura et al., 1996; Doshi et al.,1997)と溶融法(Mura et al., 1996; Doshi et al., 1997; Mura et al., 1999; Yan et al., 2000)であるが、これらの技術は容易に拡大可能ではなく、溶媒使用と昇温時の潜在的な薬物分解という欠点を有する。Bromanら(2001)は圧縮成形を用いた固体分散体を製造する方法を記載しているが、この技術もまた上昇した温度と熱可塑性高分子を利用している。
何人かの研究者は溶解速度促進高分子としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を使う方法を開発した(Kerc et al., 1997; Okimoto et al., 1997; Sugimoto et al., 1998; Usui et al., 1998; Iskandarsyah et al., 1999)。しかしながら、HPMCの固体分散体での使用はそのユニークな溶媒特性、非熱可塑性、昇温時の炭化によって複雑になる。製薬産業界には溶媒または加熱を用いない、難水溶性薬物と溶解速度促進高分子とを組み合わせるための、容易に拡大可能な方法へのニーズがある。そのため、この研究の目的は容易に拡張可能な乾式圧縮工程によりHPMCを用いて難水溶性薬物の溶解速度を増加させることであった。」(3頁左欄下から3行?4頁左欄25行)

6.刊行物6には以下の事項が記載されている。
なお、刊行物6は英文のため、当審による日本語訳で記載する。
(6a)
「過去10年間、多数の文献が生物学的利用可能性のデータを経口的に投与されるさまざまな薬物の粒子サイズと関連づけてきた。技術的理解の重要性と難水溶性薬物の溶解速度の改善が充分裏付けられてきた(1)。インビトロ溶出速度に関する情報によって、胃腸吸収での特徴と関係した、同じ薬物を含有する異なる投与剤形との間の違いを容易に明らかにしてきた。物質の溶解性速度はほぼ一世紀の間、表面積とともに直接的に定量化されてきた(2)。難水溶性薬物をより小さい実効性のある粒子サイズ範囲に減少させることは過去10年間の一般的な慣行であった。固体または液体投与剤形の不溶性薬物を調剤する際に、調査薬剤師は最終的な粒子サイズの減少を得るために、粉砕、空気摩擦、ボールミル、制御された沈殿といったさまざまなプロセスに頼ってきた。」(606頁左欄1?19行)

第6 取消理由1(刊行物1を主引用例とする進歩性)について

1.刊行物1に記載された発明
刊行物1には医薬品錠剤「オルメテック錠」(10mg、20mg)が記載されており(摘記(1a))、当該錠剤は有効成分であるオルメサルタンメドキソミルを含有し(摘記(1b))、添加剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、乳糖、ステアリン酸マグネシウムを含有すること(摘記(1c))が記載されている。
また、錠剤とは医薬品を一定の形状に圧縮して製造したものあること(刊行物3の摘記(3a))、及び錠剤製造の圧縮工程では打錠機を用いた打錠が行われること(刊行物3の摘記(3b)及び刊行物4の摘記(4a))は、本件特許に係る出願の優先日当時の技術常識であるから、刊行物1に記載されたオルメテック錠は、オルメサルタンメドキソミル及び添加剤を含む組成物を圧縮する打錠工程によって製造された錠剤である。
そして、刊行物1には、上記錠剤の、日局一般試験法「溶出試験法第2法(パドル法)」による30分後の溶出率が75%以上であることが記載されているから(摘記(1d))、刊行物1には、オルメサルタンメドキソミル含有錠剤の、日局一般試験法「溶出試験法第2法(パドル法)」による30分後の溶出率を75%以上にする方法が記載されているといえる。
以上のことから、刊行物1には下記の発明が記載されている。
「オルメサルタンメドキソミル含有錠剤の、日局一般試験法「溶出試験法第2法(パドル法)」による30分後の溶出率を75%以上にする方法であって、有効成分であるオルメサルタンメドキソミル、及び添加剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、乳糖、ステアリン酸マグネシウムを含有する組成物を圧縮する打錠工程を含む、上記方法。」 (以下、「刊行物1発明」という。)

2.本件特許発明1と刊行物1発明との対比・判断
(1)対比
刊行物1発明のオルメサルタンメドキソミル含有錠剤は、本件特許発明1の「オルメサルタンメドキソミル含有錠剤」に相当する。
また、刊行物1には、オルメサルタンメドキソミルが水に溶けない難溶性薬物であることが記載されており(摘記(1b))、刊行物1発明で用いられた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは有効成分の錠剤からの溶出性を上げる作用を有する崩壊剤であること(要すれば、特許異議申立人 成田 隆臣による特許異議申立書の甲第6号証である特開平07-165580号公報の段落【0029】等参照)を勘案すると、刊行物1発明の方法は、錠剤からのオルメサルタンメドキソミルの溶出性を改善する方法であるといえる。
一方、本件特許明細書には、本件特許発明が解決すべき課題は「溶出性の改善されたオルメサルタンメドキソミル含有製剤を提供すること」であり(段落【0005】)、当該課題を解決するための手段について「溶出性を低下させると考えられていた組成物を圧縮する工程を採用することにより、むしろ溶出性が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。」と記載されているので(段落【0006】)、本件特許発明1は、特定の圧縮工程すなわち特定の打錠工程を採用することによって、錠剤からのオルメサルタンメドキソミルの溶出性を改善する方法であると解される。
そうすると、本件特許発明1と刊行物1発明とは、いずれも「組成物を圧縮する打錠工程を含む、オルメサルタンメドキソミル含有錠剤からのオルメサルタンメドキソミルの溶出性改善方法」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本件特許発明1では「組成物を圧縮する打錠工程を単に「含む」のではなく「特徴とする」ものであって、その打錠工程が、141-400 N/mm^(2)の圧力を使用し、ステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合した組成物を打錠する工程であり、打錠用混合末に対して溶出性を改善させる」という手段を用いて、錠剤からのオルメサルタンメドキソミルの溶出性を改善しているのに対し、刊行物1発明では、本件特許発明1における上記手段を用いることについて特定されていない点。

(2)本件特許発明1についての判断
(a)相違点について
刊行物2(摘記(2b))、刊行物5(摘記(5a))及び刊行物6(摘記(6a))の記載にあるように、錠剤からの溶出性を改善して難溶性薬物の経口生物利用性を向上させることは、本件特許に係る出願の優先日当時、周知の課題であったといえる。また、ステアリン酸マグネシウム(滑沢剤)を除く成分を混合した後、ステアリン酸マグネシウム(滑沢剤)を加えて混合した組成物を打錠することは、例えば刊行物2(摘記(2d))、刊行物3(摘記(3b))及び刊行物4(摘記(4a)の図II-9-8)に記載のように、本件特許に係る出願の優先日当時の周知技術である。
しかし、刊行物3?6には、141-400 N/mm^(2)の圧力で打錠する工程を用いて錠剤からの難溶性薬物の溶出性を改善することについて、記載も示唆もされていない。
刊行物2には、難溶性薬物含有錠剤を溶出の観点から見て設計する場合、主薬含有率や初期主薬粒度に充分注意し、圧縮圧を適当に選ぶことが極めて重要な条件であること、そして、主薬含有率が低くかつ初期主薬粒度が粗粒である場合、圧縮圧の上昇に伴い主薬の溶出速度が上昇する傾向が見られたことが記載されている(摘記(2a)?(2d))。
しかし、刊行物2で、圧縮圧と主薬の溶出速度との関連性を示す「TABLE XII.」(摘記(2d))は、クロラムフェニコール、フェナセチン及びプレドニゾロンの三つの溶解度の異なる難溶性薬物(摘記(2c))を用いた実験結果を根拠として記載されたものであり、刊行物2には、上記三つ以外の全ての難溶性薬物において「TABLE XII.」と同様の傾向が見られるとまでは記載されていない。そうすると、これら刊行物2の記載は、上記三つ以外の難溶性薬物の中にも圧縮圧を上げれば溶出速度が上昇するものがあるかもしれないという示唆を当業者に与えるものである、とはいい得ても、特定の難溶性薬物であるオルメサルタンメドキソミルについて、141-400 N/mm^(2)という特定の圧縮圧を採用することについての示唆までを当業者に与えるものとはいえない。
また、本件特許発明1の「打錠用混合末」は「有効成分及び添加剤を全て混合して得られた打錠工程に至る前の組成物」を意味しているが(本件特許明細書の段落【0041】及び【0045】)、刊行物1?6のいずれにも、「打錠用混合末」に対して溶出性を改善させることについて記載も示唆もされていない。
以上のように、刊行物1?6の記載を参酌しても、刊行物1発明において、「打錠工程が、141-400 N/mm^(2)の圧力を使用し、ステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合した組成物を打錠する工程であり、打錠用混合末に対して溶出性を改善させる」という手段によって、錠剤からのオルメサルタンメドキソミルの溶出性を改善する方法を得ることを、当業者が容易に想到し得たとはいない。
したがって、刊行物1?6に記載された事項から、当業者が本件特許発明1を得ることが容易想到であったとはいえない。

(b)本件特許発明1による効果について
本件特許明細書の実施例(段落【0040】?【0054】)には、処方A(段落【0042】)を混合して得られた打錠用混合末である「比較例C-1」、処方Aを混合して得られた打錠用混合末を打錠圧141N/mm^(2)で打錠して得られた錠剤である「実施例A-3」、実施例A-3の錠剤を乳鉢粉砕した粉末である「実施例A-4」、処方B(段落【0046】)を混合して得られた打錠用混合末である「比較例C-2」、処方Bを混合して得られた打錠用混合末を打錠圧141N/mm^(2)で打錠して得られた錠剤である「実施例B-3」、実施例B-3を乳鉢粉砕した粉末である「実施例B-4」のそれぞれについて、オルメサルタンメドキソミルの溶出率(%)をパドル法で測定した結果が、以下のように記載されている(段落【0054】の(表1)から抜粋して記載する。)。
検体 30分後の溶出率 60分後の溶出率
実施例A-3(錠剤) 83.1% 90.3%
実施例A-4(錠剤を粉砕) 79.1% 82.9%
比較例C-1(打錠用混合末)60.6% 71.0%
実施例B-3(錠剤) 81.2% 91.4%
実施例B-4(錠剤を粉砕) 83.2% 91.2%
比較例C-2(打錠用混合末)58.5% 71.0%

上記測定結果からみて、処方Aの打錠用混合末(比較例C-1)、処方Bの打錠用混合末(比較例C-2)のいずれに対しても、打錠圧141N/mm^(2)で打錠して得られた錠剤(処方Aの錠剤は実施例A-3、処方Bの錠剤は実施例B-3)からのオルメサルタンメドキソミルの溶出率(%)が上昇したこと、また、打錠圧141N/mm^(2)で打錠して得られた錠剤を乳鉢粉砕して打錠用混合末と同様に粉末状態に戻したもの(処方Aは実施例A-4、処方Bは実施例B-4)についても、それぞれに対応する打錠用混合末と比較してオルメサルタンメドキソミルの溶出率(%)が上昇したことが理解できる。
上記のように、本件特許明細書の実施例(段落【0040】?【0054】)には、本件特許発明1の「打錠工程が、141-400 N/mm^(2)の圧力を使用し、ステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合した組成物を打錠する工程であり、打錠用混合末に対して溶出性を改善させる」という手段によって、錠剤からのオルメサルタンメドキソミルの溶出性が改善されたことが示されており、このような溶出性改善効果は、刊行物1?6の記載を参酌しても、当業者が予測できない格別顕著な効果である。

(c)小括
したがって、本件特許発明1は、刊行物1、及び刊行物2?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本件特許発明2と刊行物1発明との対比・判断
本件特許発明2は、本件特許発明1にさらに「溶出改善剤を含む」という発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件特許発明2は、上記「第6 2.」で検討した本件特許発明1と同様に、刊行物1、及び刊行物2?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 取消理由2(刊行物2を主引用例とする進歩性)について
1.刊行物2に記載された発明
刊行物2は「錠剤からの難溶性薬物の溶出」とのタイトルの総説であり(摘記(2a))、錠剤を溶出の観点から見て設計する場合、主薬含有率や初期主薬粒度に充分注意し、圧縮圧を適当に選ぶことが極めて重要な条件であること、そして、主薬含有率が低くかつ初期主薬粒度が粗粒である場合、圧縮圧の上昇に伴い、主薬の溶出速度が上昇する傾向が見られたことが記載されている(摘記(2d))。
また、刊行物2には、クロラムフェニコール、フィナセチン、プレドニゾロンのいずれか一つの主薬と、稀釈剤として乳糖、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを用い、ステアリン酸マグネシウムを除く成分を顆粒にし、当該顆粒にステアリン酸マグネシウムの粉末を塗って滑沢した後、圧縮が行われることが記載されている(摘記(2c))。
そうすると、刊行物2には下記の発明が記載されている。
「クロラムフェニコール、フィナセチン、プレドニゾロンのいずれか一つを主薬として含有する錠剤からの主薬の溶出速度を上昇させる方法であって、主薬含有率を低くかつ初期主薬粒度を粗粒にし、稀釈剤として乳糖、結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース、滑沢剤としてステアリン酸マグネシウムを用い、ステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合して顆粒を形成した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合した組成物を打錠する工程を含み、圧縮圧を上昇させて主薬の溶出速度を上昇させる方法。」(以下、「刊行物2発明」という。)

2.本件特許発明1と刊行物2発明との対比・判断
(1)対比
刊行物2発明の「溶出速度を上昇させる方法」は、錠剤からの主薬の溶出性を改善する方法に相当し、刊行物2発明で「圧縮圧を上昇させる」ことは、打錠工程における打錠圧を上昇させることを意味している。
また、刊行物2発明の主薬であるクロラムフェニコール、フィナセチン、プレドニゾロンはいずれも難溶性薬物であり、本件特許発明1のオルメサルタンメドキソミルも難溶性薬物である(刊行物1の摘記(1b))。
そうすると、本件特許発明1と刊行物2発明とは、「組成物を圧縮する打錠工程を含むことを特徴とする難溶性薬物含有錠剤からの難溶性薬物の溶出性改善方法であって、前記打錠工程がステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合した組成物を打錠する工程を含む、方法」である点で一致するが、以下の点で相違する。
[相違点]
本件特許発明1では、「打錠工程が、141-400 N/mm^(2)の圧力を使用し、ステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合した組成物を打錠する工程であり、打錠用混合末に対して溶出性を改善させる」という手段を用いて、錠剤からのオルメサルタンメドキソミルの溶出性を改善しているのに対し、刊行物2発明では、本件特許発明1における上記手段を用いることについて特定されていない点。

(2)本件特許発明1についての判断
上記「第6 2.(2)(a)」で検討したように、刊行物2において圧縮圧と主薬の溶出速度との関連性を示す「TABLE XII.」(摘記(2d))は、クロラムフェニコール、フェナセチン及びプレドニゾロンの三つの溶解度の異なる難溶性薬物(摘記(2c))を用いた実験結果を根拠とするものであって、刊行物2には、全ての難溶性薬物において「TABLE XII.」と同様の傾向が見られるとまでは記載されていない。そうすると、これら刊行物2の記載は、上記三つ以外の難溶性薬物の中にも圧縮圧を上げれば溶出速度が上昇するものがあるかもしれないという示唆を当業者に与えるものである、とはいい得ても、特定の難溶性薬物であるオルメサルタンメドキソミルについて、141-400 N/mm^(2)という特定の圧縮圧を採用することについての示唆までを当業者に与えるものとはいえないのであるから、当業者が、刊行物2の記載を根拠として、難溶性薬物としてオルメサルタンメドキソミルを用いることを自然に想起するとはいえない。
そして、刊行物1、3?6には、141-400 N/mm^(2)という特定の圧縮圧で打錠する工程を用いて錠剤からの難溶性薬物の溶出性を改善することについて、記載も示唆もされていない。
さらに、本件特許発明1の「打錠用混合末」は「有効成分及び添加剤を全て混合して得られた打錠工程に至る前の組成物」を意味しているが(本件特許明細書の段落【0041】及び【0045】)、刊行物1?6のいずれにも、「打錠用混合末」に対して溶出性を改善させることについて記載も示唆もされていない。
以上のように、刊行物1?6の記載を参酌しても、刊行物2発明において、「打錠工程が、141-400 N/mm^(2)の圧力を使用し、ステアリン酸マグネシウムを除く成分を混合した後、ステアリン酸マグネシウムを加えて混合した組成物を打錠する工程であり、打錠用混合末に対して溶出性を改善させる」という手段によって、オルメサルタンメドキソミルの溶出性を改善する方法を得ることを、当業者が容易に想到し得たとはいない。
したがって、刊行物1?6に記載された事項から、当業者が本件特許発明1を得ることが容易想到であったとはいえない。
また、上記「第6 2.(2)(b)」で検討したように、本件特許発明1による効果として本件特許明細書の実施例で示された溶出性改善効果は、刊行物1?6の記載を参酌しても、当業者が予測できない格別顕著な効果である。

3.本件特許発明2について
上記「第6 3.」で検討したように、本件特許発明2は、本件特許発明1に、さらに「溶出改善剤を含む」という発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件特許発明2は、上記「第7 2.」で検討した本件特許発明1と同様に、刊行物2、及び刊行物1?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第8 取消理由3(実施可能要件)について
取消理由3は、平成28年8月15日付け訂正請求により、本件特許第5769362号の請求項1に、「かつ、日本薬局方第14改正に記載の溶出試験法第2法(パドル法)に従い、毎分50回転、試験液として日局第2液(JP-2)900mlを用いて試験した場合における試験開始から30分後のオルメサルタンメドキソミルの溶出率を79.1%以上にする」という発明特定事項を付加する訂正がなされたことによって生じた取消理由である。
そして、特許権者から、平成28年8月15日付け訂正請求を取り下げる旨の訂正請求取下書が同年12月6日付けで提出されたことによって、上記取消理由3は解消された。
したがって、本件特許が、特許法第36条第4項第1号に記載する要件を満たしていない出願に対してなされたものであるとすることはできない。

第9 むすび
以上述べたとおり、上記取消理由1?3によっては、本件特許第5769362号の請求項1及び2に係る特許を取り消すことができない。
そして、刊行物1?6以外の各甲号証の記載を参酌しても、他に上記請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、上記請求項1及び2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に、上記請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-31 
出願番号 特願2008-522575(P2008-522575)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小堀 麻子馬場 亮人長岡 真関 景輔  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 山本 吾一
前田 佳与子
登録日 2015-07-03 
登録番号 特許第5769362号(P5769362)
権利者 第一三共株式会社
発明の名称 圧縮製剤  
代理人 酒匂 禎裕  
代理人 箱田 篤  
代理人 辻居 幸一  
代理人 高石 秀樹  
代理人 岩澤 朋之  
代理人 市川 さつき  
代理人 石橋 公樹  

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