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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L |
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管理番号 | 1324906 |
異議申立番号 | 異議2016-700098 |
総通号数 | 207 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-03-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-02-08 |
確定日 | 2017-02-06 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5763991号発明「炭素繊維複合材料、油田装置及び炭素繊維複合材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5763991号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5763991号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成23年7月5日を出願日とする出願であって、平成27年6月19日に設定登録がされ、同年8月12日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成28年2月8日に特許異議申立人小松一枝により特許異議の申立てがされ、同年5月19日付けで取消理由が通知されたが、特許権者から何らの応答もなされなかったものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。また、総称して「本件特許発明」という場合がある。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 エラストマー100質量部にカーボンナノファイバー0.01質量部以上0.70質量部以下が分散し、 前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.4nm?5.0nmであって、単層カーボンナノチューブ及び2層カーボンナノチューブの少なくとも一方を多層カーボンナノチューブよりも多数含み、 厚さ1mmの試験片における体積抵抗率が1.0×10^(8)Ω・cm以上である、炭素繊維複合材料。 【請求項2】 請求項1において、 前記エラストマーが天然ゴムであって、 前記炭素繊維複合材料の切断時伸びが480%以上である、炭素繊維複合材料。 【請求項3】 請求項1または2において、 前記エラストマーがエチレン-プロピレン-ジエン共重合体であって、 前記炭素繊維複合材料の切断時伸びが230%以上である、炭素繊維複合材料。 【請求項4】 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の炭素繊維複合材料を用いた油田装置。 【請求項5】 エラストマー100質量部に、平均直径が0.4nm?5.0nmであって、単層カーボンナノチューブ及び2層カーボンナノチューブの少なくとも一方を多層カーボンナノチューブよりも多数含むカーボンナノファイバー0.01質量部以上0.70質量部以下を混合した後、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロールを用いて、0℃ないし50℃で薄通しを行って、厚さ1mmの試験片における体積抵抗率が1.0×10^(8)Ω・cm以上である炭素繊維複合材料を得る、炭素繊維複合材料の製造方法。」 第3 取消理由についての判断 1 第36条第6項第1号について (1)本件特許発明 本件特許発明は、段落【0002】ないし【0005】の記載に照らせば、良好な引張強さ、切断時伸び及び絶縁性を課題としていると解される。 しかるところ、発明の詳細な説明には、「単層カーボンナノチューブ」(【表2】)、「2層カーボンナノチューブ」(【表1】)及び「多層カーボンナノチューブ」(【表3】)それぞれ単独の場合の引張強さ、切断時伸び及び絶縁性が記載されるにとどまり(しかも「多層カーボンナノチューブ」(【表3】)については比較例のみである。)、「単層カーボンナノチューブ及び2層カーボンナノチューブの少なくとも一方を多層カーボンナノチューブよりも多数含」んだ場合に上記課題が解決できることは記載されていないし、出願時の技術常識であるともいえない。 したがって、「単層カーボンナノチューブ及び2層カーボンナノチューブの少なくとも一方を多層カーボンナノチューブよりも多数含」んだ場合まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 (2)本件特許発明2及び請求項2を直接間接に引用する本件特許発明4 本件特許発明2は、段落【0002】ないし【0005】の記載に照らせば、良好な引張強さ及び絶縁性に加えて、良好な切断時伸びを課題としていると解される。 しかるところ、本件特許発明2の切断時伸びにつき、実施例の最大値は、「540%」であり(「実施例1」)、切断時伸びの低下の原因となるカーボンナノチューブの配合量を0とした「比較例1」でさえ「550%」に止まる。また、540%を超えて上記課題が解決できることが理解できるような記載は、発明の詳細な説明からは読み取れないし、出願時の技術常識であるともいえない。 したがって、切断時伸びが540%を超えた本件特許発明2の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件特許発明2及びこれを直接間接に引用する本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 (3)本件特許発明3及び請求項3を引用する本件特許発明4 本件特許発明3は、段落【0002】ないし【0005】の記載に照らせば、良好な引張強さ及び絶縁性に加えて、良好な切断時伸びを課題としていると解される。 しかるところ、本件特許発明3の切断時伸びにつき、実施例の最大値は、「240%」であり(「実施例9」)、切断時伸びの低下の原因となるカーボンナノチューブの配合量を0とした「比較例9」でさえ「220%」に止まり、かえって「実施例9」よりも低い値になっている。また、「240%」を超えて上記課題が解決できることが理解できるような記載は、発明の詳細な説明からは読み取れないし、出願時の技術常識であるともいえない。 したがって、切断時伸びが240%を超えた本件特許発明3の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件特許発明3及びこれを引用する本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 (4)小括 よって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2 第29条について 本件特許発明1は、その出願前に外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 本件特許発明1ないし4は、引用発明又は引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1 Composites Science and Technology、2011年4月、Vol.71、p.1098-1104 刊行物2 特開2007-39648号公報 刊行物3 国際公開第2011/077598号 刊行物4 特開2005-62475号公報 (刊行物1ないし4は、それぞれ、特許異議申立書に添付された甲第1号証の1及び甲第2ないし4号証である。) (1) 刊行物1に記載された事項及び引用発明 ア 「2.1.材料 フィラー材料として、・・・SWNT(・・・産業技術総合研究所製の「スパーグロース」)を用いた。マトリックスとしては、スチレン・ブタジエンゴム・・・を用いた。」 イ 「表1 本研究で用いたCNTの規格」として、「SWNT(スパーグロース)」の「直径(nm)」が「1-5」であること。 ウ 「表2 phr単位での試料組成」として、「成分」の「直径(nm)」に「SBR」が「100」、「CNT」が「0-15」であること。 エ 図7 図7(d)から「SWNT(スパーグロース)」の「フィラー含有量(φ)/phr」が約0.1の場合に複合材料の直流導電率が10^(-12)Sm^(-1)?10^(-11)Sm^(-1)の間であり、約0.3の場合に複合材料の直流導電率が10^(-10)Sm^(-1)?10^(-9)Sm^(-1)の間であることが読み取れる。 オ 「4.結論 ・・・この原則の発見は、他のCNT/エラストマー複合材料の・・・有用な指標となる。・・・」 これらの記載事項及び図7(d)の図示内容を総合し、本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の引用発明が記載されている。 「スチレン・ブタジエンゴム100phrにSWNT(スパーグロース)約0.1phr又は約0.3phrが分散し、 SWNT(スパーグロース)は、直径が1-5nmであって、SWNT(スパーグロース)のみを含み、 SWNT(スパーグロース)のフィラー含有量(φ)/phrが約0.1の場合に複合材料の直流導電率が10^(-12)Sm^(-1)?10^(-11)Sm^(-1)の間であり、約0.3の場合に複合材料の直流導電率が10^(-10)Sm^(-1)?10^(-9)Sm^(-1)の間である、複合材料。」 (2) 本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と引用発明とを対比すると、その機能、構造からみて、後者の「スチレン・ブタジエンゴム」は前者の「エラストマー」に相当し、以下同様に、「SWNT(スパーグロース)」は「カーボンナノファイバー」及び「単層カーボンナノチューブ」に、「複合材料」は「炭素繊維複合材料」に、それぞれ相当する。 また、後者の「約0.1phr又は約0.3phr」は前者の「0.01質量部以上0.70質量部以下」に包含されるし、後者の「直径が1-5nm」が前者の「平均直径が0.4nm?5.0nm」を満たすことも明らかである。 さらに、後者の「SWNT(スパーグロース)のみを含」むことは前者の「単層カーボンナノチューブ及び2層カーボンナノチューブの少なくとも一方を多層カーボンナノチューブよりも多数含」むことを満たすことも明らかである。 以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明とは、 [一致点] 「エラストマー100質量部にカーボンナノファイバー0.01質量部以上0.70質量部以下が分散し、 前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.4nm?5.0nmであって、単層カーボンナノチューブ及び2層カーボンナノチューブの少なくとも一方を多層カーボンナノチューブよりも多数含む、 炭素繊維複合材料。」 である点で一致し、 次の点で一応相違する。 [相違点] 本件特許発明1では、「厚さ1mmの試験片における体積抵抗率が1.0×10^(8)Ω・cm以上である」が、引用発明では、「厚さ1mmの試験片における体積抵抗率が1.0×10^(8)Ω・cm以上である」であるか不明である点。 イ 判断 上記相違点について検討する。 引用発明は、「SWNT(スパーグロース)」の「フィラー含有量(φ)/phr」が約0.1の場合に複合材料の直流導電率が10^(-12)Sm^(-1)?10^(-11)Sm^(-1)の間であり、約0.3の場合に複合材料の直流導電率が10^(-10)Sm^(-1)?10^(-9)Sm^(-1)の間であるところ、直流導電率と体積抵抗率は互いに逆数の関係にあることは技術常識であるから、直流導電率が「10^(-12)Sm^(-1)?10^(-11)Sm^(-1)の間」、「10^(-10)Sm^(-1)?10^(-9)Sm^(-1)の間」であることは、体積抵抗率が「10^(13)Ω・cm?10^(14)Ω・cm」、「10^(11)Ω・cm?10^(12)Ω・cm」であることである。 そうすると、体積抵抗率が「10^(13)Ω・cm?10^(14)Ω・cm」、「10^(11)Ω・cm?10^(12)Ω・cm」であることは、いずれも、「体積抵抗率が1.0×10^(8)Ω・cm以上である」ことだから、上記相違点は実質的な相違点ではなく、本件特許発明1と引用発明とは、同一である。 仮に、そうでないとしても、引用発明において、「体積抵抗率が1.0×10^(8)Ω・cm以上」とすることは、当業者が適宜なし得ることに過ぎない。 また、本件特許発明1による効果も、引用発明から当業者が予測し得たものである。 ウ まとめ よって、本件特許発明1は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 また、本件特許発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (3) 本件特許発明2について 引用発明において、上記記載事項(1)(オ)によれば、スチレン・ブタジエンゴムを他のエラストマーである天然ゴム(刊行物2の段落【0030】、段落【0079】及び【表1】、刊行物3の段落[0047])に置換することは、当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎない。 また、本件特許発明2による効果も、引用発明及び刊行物2、3に記載された事項から当業者が予測し得たものである。 よって、本件特許発明2は、引用発明及び刊行物2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (4) 本件特許発明3について 引用発明において、上記記載事項(1)(オ)によれば、スチレン・ブタジエンゴムを他のエラストマーであるエラストマーがエチレン-プロピレン-ジエン共重合体(刊行物2の段落【0030】、段落【0079】及び【表1】、刊行物3の段落[0047]、段落[0060]並びに[表2]、[表3]及び[表5]、刊行物4の段落【0014】及び段落【0030】)に置換することは、当業者が適宜なし得る設計変更に過ぎない。 また、本件特許発明3による効果も、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項から当業者が予測し得たものである。 よって、本件特許発明3は、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (5) 本件特許発明4について 引用発明を油田装置に用いることは、当業者が容易に成し得ることである(刊行物3の[請求項9]及び段落[0053])。 また、本件特許発明4による効果も、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項から当業者が予測し得たものである。 よって、本件特許発明4は、引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (6)小括 よって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 むすび 以上のとおり、本件特許は、特許法第113条第4号及び第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定をする。 |
異議決定日 | 2016-09-29 |
出願番号 | 特願2011-148881(P2011-148881) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Z
(C08L)
P 1 651・ 121- Z (C08L) P 1 651・ 537- Z (C08L) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 小森 勇 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
小柳 健悟 大島 祥吾 |
登録日 | 2015-06-19 |
登録番号 | 特許第5763991号(P5763991) |
権利者 | 国立大学法人信州大学 シュルンベルジェ ホールディングス リミテッド 日信工業株式会社 |
発明の名称 | 炭素繊維複合材料、油田装置及び炭素繊維複合材料の製造方法 |
代理人 | 大渕 美千栄 |
代理人 | 大渕 美千栄 |
代理人 | 布施 行夫 |
代理人 | 大渕 美千栄 |
代理人 | 布施 行夫 |
代理人 | 布施 行夫 |