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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B63H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B63H
管理番号 1325168
審判番号 不服2016-14409  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-27 
確定日 2017-02-28 
事件の表示 特願2016-501919号「船尾管シールシステム、船尾管シール装置、及び船舶」拒絶査定不服審判事件〔請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)1月15日を国際出願日とする出願であって、平成28年4月6日付けで拒絶理由が通知され、同年6月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月10日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後当審において同年11月28日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年12月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明(以下「本願発明1」?「本願発明6」という。また、まとめて「本願発明」ということもある。)は、平成28年12月21日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりものと認められる。
「【請求項1】
プロペラ軸を覆う船尾管内の潤滑油の流出を防止する船尾管シールシステムであって、
前記プロペラ軸が挿通される筒状のハウジングと、
前記ハウジングに保持され、前記プロペラ軸に外嵌するライナーの外周面に摺接する第1シールリングと、
前記第1シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第1シールリングとの間に第1空気室を形成する第2シールリングと、
前記第2シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第2シールリングとの間に第2空気室を形成する第3シールリングと、
前記第1シールリングの船尾側の海水圧の変動に応じて空気圧を調整し、前記海水圧以上の空気圧で前記第1空気室及び前記第2空気室に空気を供給する空気供給部と、
前記海水圧未満に調整された油圧で前記船尾管内に前記潤滑油を循環させる潤滑油循環部と、を有し、
前記第1シールリング、前記第2シールリング、及び前記第3シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられ、
前記第3シールリングは、前記海水圧未満に調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てていることを特徴とする船尾管シールシステム。
【請求項2】
前記第1空気室に侵入した海水及び前記潤滑油を前記第1空気室外に排出する排出部を有することを特徴とする請求項1に記載の船尾管シールシステム。
【請求項3】
前記第3シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第3シールリングとの間に潤滑油室を形成する第4シールリングを有し、
前記潤滑油循環部は、前記船尾管内に前記潤滑油を循環させる第1循環路と、前記潤滑油室に前記潤滑油を循環させる第2循環路と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の船尾管シールシステム。
【請求項4】
前記第4シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船首側に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の船尾管シールシステム。
【請求項5】
プロペラ軸を覆う船尾管内の潤滑油の流出を防止する船尾管シール装置であって、
前記プロペラ軸が挿通される筒状のハウジングと、
前記ハウジングに保持され、前記プロペラ軸に外嵌するライナーの外周面に摺接する第1シールリングと、
前記第1シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第1シールリングとの間に第1空気室を形成する第2シールリングと、
前記第2シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第2シールリングとの間に第2空気室を形成する第3シールリングと、を有し、
前記第1シールリング、前記第2シールリング、及び前記第3シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられており、
前記第1シールリングの船尾側の海水圧の変動に応じて空気圧を調整し、前記海水圧以上の空気圧で空気が供給される前記第1空気室及び前記第2空気室により、前記海水圧未満に調整された油圧で船尾管内を循環する前記潤滑油の流出を防止し、
前記第3シールリングは、前記海水圧未満に調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てていることを特徴とする船尾管シール装置。
【請求項6】
請求項1から4の何れか一項に記載の船尾管シールシステムを備える船舶。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1.特開2006-234101号公報
引用文献2.特開平6-8882号公報
引用文献2に記載の油圧を海水圧未満とし、空気室(7)と潤滑油室(8)の間のシールリング(5)のリップ部をキー部よりも該空気室側である船尾側に向ける構成を、引用文献1記載の発明に適用し、潤滑油循環部により供給される油圧を海水圧未満にするとともに空気室と潤滑油室の間のシールリングである該第3シールリングのリップ部をキー部よりも空気室側である船尾側に向けることに格別な困難性及び作用効果は認められない。

2 原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
ア 引用文献1の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物である上記引用文献1には、図面と共に以下の記載がある。(下線は当審で付加した。以下同様。)
(ア)「【請求項1】
プロペラ用の推進軸(3)の外周をその軸方向に間隔をあけて配列した4つ以上のシールリング(8)で取り囲むと共に、シールリングをその外側からハウジング(7)によって取り囲んで保持し、隣り合うシールリング(8,8)の間に環状室を形成し、プロペラ側から1番目と2番目の環状室を第1、第2空気室(10,11)とし、3番目以降の環状室の中に潤滑油室(12)を設け、各シールリングには内周側にリップを有し、推進軸(3)の先端側であるプロペラ側から1番目と2番目のシールリングのリップをプロペラ側に向けてある船舶用推進軸の軸封装置において、
第1空気室(10)に通じるドレン経路(35)と、第2空気室(11)に通じるドレン経路(36)をそれぞれ設けてあることを特徴とする、船舶用推進軸の軸封装置。」

(イ)「【0009】
船体は図1に示すように、船尾管1の内側に軸受2を介して推進軸3の軸本体4を回転可能に支持し、軸受2よりも突出する推進軸3の軸本体4先端にプロペラ5を固定してある。
【0010】
そして、推進軸3の軸封装置は、軸本体4の先部にスリーブ6を嵌め込んで推進軸3を形成し、推進軸3の先部外側を同心円状に囲む筒状のハウジング7を、船尾管1にボルトで固定し、ハウジング7の内側にはシールリング8を軸方向に間隔をあけて4つ保持している。ハウジング7は、船尾管1からプロペラ側に向かって複数のガイドリング9を重ねて取り付けることによって筒状に形成してあり、隣接するガイドリング9,9間にシールリング8の外周部を収容して位置決めしてある。
【0011】
シールリング8は、その内周部にリップを有し、その弾性によってリップを推進軸3に押し付けている。1番目と2番目のシールリング8はリップをプロペラ側に向け、3番目と4番目のシールリング8はリップを反プロペラ側に向けている。そして、隣り合うシールリング8,8の間に環状室をそれぞれ形成し、これら環状室をプロペラ側から反プロペラ側に向かって順番に第1空気室10、第2空気室11、潤滑油室(第3潤滑油室)12とする。
【0012】
第2空気室11にはエア供給経路13が通じており、エア供給経路13を利用して空気源14から空気制御ユニット15を介して空気が第2空気室11に送られる。そして、この空気によって2番目と1番目のシールリング8のリップは順次押し上げられて、水中にエアを排出する。また、第3潤滑油室12にはオイル供給経路16が通じており、オイル供給経路16を利用して油タンク17からフィルター18、循環ポンプ19、クーラー20を経て油が第3潤滑油室12に供給される。オイル供給経路16はクーラー20よりも二次側で分岐しており、その分岐路21によって4番目のシールリング8と軸受2の間の環状室(第4潤滑油室)22にも油を供給し、その油によって軸受2の滑りを良くし、軸受2の反プロペラ側の環状室(第5潤滑油室)23にまで油を供給する。第5潤滑油室23にはオイル戻り経路24が通じており、オイル戻り経路24を利用して油タンク17に油を回収する。オイル供給経路16やオイル戻り経路24の途中には平時開いているバルブ25を有する。
【0013】
空気制御ユニット15は、空気源14から第2空気室11に向かってフィルター26、レギュレータ(減圧弁)27、流量計28、フローコントローラ(定流量制御弁)29、逆止弁30、平時開いているバルブ31を順次接続したものである。そして、レギュレータ27によって第2空気室11に送る空気圧を高くなりすぎない程度に落とし、フローコントローラ29によって、水圧変動に対して常に一定の差圧を保ちながら空気を一定量供給し、それによって水圧よりも第1空気室10の空気圧を常に一定圧高くし、最終的にはエアをプロペラ側に吐出して水の浸入を防止してある。また、空気制御ユニット15は、レギュレータ27よりも二次側から油タンク17に加圧経路32を接続し、加圧経路32中にエアリレー(圧力調整弁)33を設け、エア供給経路13の加圧経路接続箇所よりも二次側から圧入力信号経路34を引き出して、エアリレー33に接続してある。エアリレー33によって、エア供給経路13よりも油タンク17の室圧を僅かに高く、即ち、第3潤滑油室12の室圧を第2空気室11よりも僅かに高くして、第3潤滑油室12への異物の混入を防止してある。」

イ 引用文献1に記載された発明
(ア)引用発明A
上記アの記載事項に加え、以下の事項が認定できる。
a 引用文献1に記載される船舶用推進軸の軸封装置は、推進軸3の軸本体4を覆う船尾管1内の潤滑油の流出を防止するものといえる。

b 上記摘示事項(イ)の段落【0012】の「オイル供給経路16を利用して油タンク17からフィルター18、循環ポンプ19、クーラー20を経て油が第3潤滑油室12に供給される」、「その分岐路21によって4番目のシールリング8と軸受2の間の環状室(第4潤滑室)22にも油を供給し」という記載、同【0013】の「第3潤滑油室12の室圧を第2空気室11よりも僅かに高くして」という記載及び【図1】の記載より、空気制御ユニット15、油タンク17、オイル供給経路16及びオイル戻り経路24は、第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧で潤滑油室12及び船尾管1内に潤滑油を循環させるものといえ、また、3番目のシールリング8は潤滑油室12と第2空気室11とを隔てるものといえる。

c 上記摘示事項(イ)の段落【0011】及び【図1】の記載より、1番目のシールリング8及び2番目のシールリング8は、スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりもプロペラ側に設けられ、3番目のシールリング8及び4番目のシールリング8は、スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられていることが把握できる。

上記アの記載事項及び上記a?cの認定事項から、引用文献1には次の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されているものと認める。
「推進軸3の軸本体4を覆う船尾管1内の潤滑油の流出を防止する船舶用推進軸の軸封装置であって、
前記推進軸3の先部外側を囲む筒状のハウジング7と、
前記ハウジング7に保持され、前記軸本体4に嵌め込まれるスリーブ6の外周面に摺接する1番目のシールリング8と、
前記1番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記1番目のシールリング8との間に第1空気室10を形成する2番目のシールリング8と、
前記2番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記2番目のシールリング8との間に第2空気室11を形成する3番目のシールリング8と、
前記3番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記3番目のシールリングとの間に潤滑油室12を形成する4番目のシールリング8と、
前記第2空気室11に水圧変動に対して常に一定の差圧を保ちながら空気を一定量供給し、それによって水圧よりも前記第1空気室10の空気圧を常に一定圧高くする空気制御ユニット15及びエア供給通路13と、
前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧で前記潤滑油室12及び前記船尾管1内に前記潤滑油を循環させる空気制御ユニット15、油タンク17、オイル供給経路16及びオイル戻り経路24と、を有し、
前記1番目のシールリング8及び前記2番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりもプロペラ側に設けられ、前記3番目のシールリング8及び前記4番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられ、
前記3番目のシールリング8は、前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記潤滑油室12と前記第2空気室11とを隔てている船舶用推進軸の軸封装置。」

(イ)引用発明B
また、引用文献1には次の発明(以下「引用発明B」という。)も記載されているものと認める。
「推進軸3の軸本体4を覆う船尾管1内の潤滑油の流出を防止する船舶用推進軸の軸封装置であって、
前記推進軸3の先部外側を囲む筒状のハウジング7と、
前記ハウジング7に保持され、前記軸本体4に嵌め込まれるスリーブ6の外周面に摺接する1番目のシールリング8と、
前記1番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記1番目のシールリング8との間に第1空気室10を形成する2番目のシールリング8と、
前記2番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記2番目のシールリング8との間に第2空気室11を形成する3番目のシールリング8と、
前記3番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記3番目のシールリングとの間に潤滑油室12を形成する4番目のシールリング8と、
前記1番目のシールリング8及び前記2番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりもプロペラ側に設けられ、前記3番目のシールリング8及び前記4番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられており、
前記第2空気室11に水圧変動に対して常に一定の差圧を保ちながら空気を一定量供給し、それによって水圧よりも前記第1空気室10の空気圧を常に一定圧高くし、前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧で前記船尾管1内を循環する前記潤滑油の流出を防止し、
前記3番目のシールリング8は、前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記潤滑油室12と前記第2空気室11を隔てている船舶用推進軸の軸封装置。」

ウ 引用文献2の記載事項
本願の出願前に頒布された刊行物である上記引用文献2には、図面と共に以下の記載がある。
(ア)「【0002】
【従来の技術】船舶における空気吹出し装置付船尾管シール装置として、実開平4-4567号公報の技術がある。この従来の技術は、図3に示す如く、シャフト1に遊嵌するライナー2を有するケーシング3内に、シャフト1側に摺接する第1乃至第3シールリング4,5,6 を船外側から船内側に順次配置し、この第1・第2シールリング4,5 間に空気チャンバー7を、第2・第3シールリング5,6間に油チャンバー8を夫々設けた船尾管シール装置において、第1シールリング4は空気チャンバー7からの空気を船外側に吹出し得るように背面側を空気チャンバー7に向けて設け、第2シールリング5 は空気チャンバー7の空気圧によってリップ部がシャフト1側に押付けられるように正面側を空気チャンバー7に向けて設けたものであり、この技術によれば、第1・第2シールリング4,5は共に背面側が船内側に向くようになっているので、油チャンバー8の圧力を海水圧より低めに設定するだけで良く、空気チャンバー7の空気圧と連動させる必要がない。
【0003】第2シールリング5は背面に油チャンバー8の潤滑油があるので、軸振動の発生によって大きな差圧がかかっても損傷し難い。また油チャンバー8で油圧変動が起きても、第2シールリング5のリップ部を常に空気圧でシャフト1側に押付けるため、空気チャンバー7 の空気が多量に油チャンバー8に洩れることは起こり得ない。なお、少量の空気は、給油配管より除去できる。」

(イ)「【0004】更に空気チャンバー7には常時空気を送り続ける必要がなく、油洩れや海水侵入等の異常があった時にのみ、空気を供給して吹出すようにできる。空気チャンバー7に供給された空気は第1シールリング4を通り抜けて海水側に流出する。第2リング5は通常の状態では空気チャンバー7に供給される空気をシールし、油チャンバー8 には空気の侵入を許さない。」

(2)本願発明1と引用発明Aとの対比
ア 本願発明1と引用発明Aとを対比すると、引用発明Aの「推進軸3の軸本体4」は本願発明1の「プロペラ軸」に相当し、以下同様に、「船尾管1」は「船尾管」に、「スリーブ6」は「ライナー」に、「ハウジング7」は「ハウジング」に、「1番目のシールリング8」は「第1シールリング」に、「反プロペラ側」は「船首側」に、「第1空気室10」は「第1空気室」に、「2番目のシールリング8」は「第2シールリング」に、「第2空気室11」は「第2空気室」に、「3番目のシールリング」は「第3シールリング」に、「プロペラ側」は「船尾側」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明Aの「船舶用推進軸の軸封装置」は、各シールリング8や空気制御ユニット15及びエア供給通路13等複数の構成要素からなるものであるから、本願発明1の「船尾管シールシステム」に相当するといえる。

ウ 引用発明Aの「前記推進軸3の先部外側を囲む筒状のハウジング7と、」は、本願発明1の「前記プロペラ軸が挿通される筒状のハウジングと、」に相当する。

エ 引用発明Aの「前記ハウジング7に保持され、前記軸本体4に嵌め込まれるスリーブ6の外周面に摺接する1番目のシールリング8と、」は、本願発明1の「前記ハウジングに保持され、前記プロペラ軸に外嵌するライナーの外周面に摺接する第1シールリングと、」に相当する。
同様に、前者の「前記1番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記1番目のシールリング8との間に第1空気室10を形成する2番目のシールリング8と、」は、後者の「前記第1シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第1シールリングとの間に第1空気室を形成する第2シールリングと、」に相当し、前者の「前記2番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記2番目のシールリング8との間に第2空気室11を形成する3番目のシールリング8と、」は、後者の「前記第2シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第2シールリングとの間に第2空気室を形成する第3シールリングと、」に相当する。

オ 引用発明Aの「前記第2空気室11に水圧変動に対して常に一定の差圧を保ちながら空気を一定量供給し、それによって水圧よりも前記第1空気室10の空気圧を常に一定圧高くする空気制御ユニット15及びエア供給通路13と、」と、本願発明1の「前記第1シールリングの船尾側の海水圧の変動に応じて空気圧を調整し、前記海水圧以上の空気圧で前記第1空気室及び前記第2空気室に空気を供給する空気供給部と、」とは、「海水圧の変動に応じて空気圧を調整し、前記海水圧以上の空気圧で前記第1空気室及び前記第2空気室に空気を供給する空気供給部と、」の限度で一致するといえる。

カ 本願発明1の「前記海水圧未満に調整された油圧で前記船尾管内に前記潤滑油を循環させる潤滑油循環部と、」及び「前記第3シールリングは、前記海水圧未満に調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てている」という事項について検討する。
本願の請求項1の従属請求項である請求項3に「前記第3シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第3シールリングとの間に潤滑油室を形成する第4シールリングを有し、前記潤滑油循環部は、前記船尾管内に前記潤滑油を循環させる第1循環路と、前記潤滑油室に前記潤滑油を循環させる第2循環路と、を有する」との記載があり、発明の詳細な説明においても、請求項1の「前記第1シールリング、前記第2シールリング、及び前記第3シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられ」という事項を有する具体的な例としては、「第4シールリング」による「潤滑油室」を有する例である【図1】?【図3】に係る「第1の実施形態」(本願発明4に相当)と、当該「第4シールリング」及び「潤滑油室」を有さない例である【図6】?【図7】に係る「第3の実施形態」の両者が記載されていることから、本願発明1の上記事項は、「第3シールリング」と「船尾管内」の間に、「第3シールリング」と「第4シールリング」により形成される「潤滑油室」を付加的に有するものも含み得る概念のものと解するのが相当である。
そうすると、引用発明Aの「前記3番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記3番目のシールリングとの間に潤滑油室12を形成する4番目のシールリング8と、」「前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧で前記潤滑油室12及び前記船尾管1内に前記潤滑油を循環させる空気制御ユニット15、油タンク17、オイル供給経路16及びオイル戻り経路24と、」と、本願発明1の「前記海水圧未満に調整された油圧で前記船尾管内に前記潤滑油を循環させる潤滑油循環部と、」とは、「調整された油圧で前記船尾管内に前記潤滑油を循環させる潤滑油循環部と、」の限度で一致するといえる。
また、引用発明Aの「前記3番目のシールリング8は、前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記潤滑油室12と前記第2空気室11とを隔てている」と、本願発明1の「前記第3シールリングは、前記海水圧未満に調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てている」とは、「前記第3シールリングは、前記調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てている」の限度で一致するといえる。

キ 引用発明Aの「前記1番目のシールリング8及び前記2番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりもプロペラ側に設けられ、前記3番目のシールリング8及び前記4番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられ、」と、本願発明1の「前記第1シールリング、前記第2シールリング、及び前記第3シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられ、」とは、「前記第1シールリング、前記第2シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられ、」の限度で一致するといえる。

ク してみると、本願発明1と引用発明Aとの一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点1]
「プロペラ軸を覆う船尾管内の潤滑油の流出を防止する船尾管シールシステムであって、
前記プロペラ軸が挿通される筒状のハウジングと、
前記ハウジングに保持され、前記プロペラ軸に外嵌するライナーの外周面に摺接する第1シールリングと、
前記第1シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第1シールリングとの間に第1空気室を形成する第2シールリングと、
前記第2シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第2シールリングとの間に第2空気室を形成する第3シールリングと、
海水圧の変動に応じて空気圧を調整し、前記海水圧以上の空気圧で前記第1空気室及び前記第2空気室に空気を供給する空気供給部と、
調整された油圧で少なくとも前記船尾管内に前記潤滑油を循環させる潤滑油循環部と、を有し、
前記第1シールリング、前記第2シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられ、
前記第3シールリングは、前記調整された油圧の前記潤滑油が循環される
前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てている船尾管シールシステム。」

[相違点1]
「第3シールリング」の構造に関し、本願発明1は、「前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられ」るものであるのに対し、引用発明Aは、「前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられ」るものである点。

[相違点2]
「シールリング」の構造全体に関し、本願発明1は、「第1シールリング」から「第3シールリング」までの特定しかないのに対し、引用発明Aは、「前記3番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記3番目のシールリングとの間に潤滑油室12を形成する4番目のシールリング8」を更に有し、当該「潤滑油室12」にも潤滑油を循環させるものであり、「前記4番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられる」ものである点。

[相違点3]
「空気圧を調整」することに関し、本願発明1が、「第1シールリングの船尾側の海水圧の変動に応じて」いるのに対し、引用発明Aは、どの箇所の水圧変動に対するものであるのか明らかでない点。

[相違点4]
「調整された油圧」に関し、本願発明1が、「前記海水圧未満」であるのに対し、引用発明Aは、「前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く」というものである点。

(3)本願発明1の進歩性の判断
事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
ア 引用文献2の摘示事項(ア)及び【図3】より、引用文献2には、「船尾管シール装置において、シャフト1に遊嵌するライナーを有するケーシング内に、シャフト1側に摺接する第1乃至第3シールリング4、5、6を船外側から船内側に順次配置し、第1シールリング4と第2シールリング5との間に空気チャンバー7を設け、前記第1シールリング4は前記空気チャンバー7からの空気を船外側に吹出し得るように背面側を前記空気チャンバー7に向けて設け、前記第2シールリング5は前記空気チャンバ7の空気圧によってリップ部がシャフト1側に押付けられるように正面側を前記空気チャンバ7に向けて設け、第2シールリング5と第3シールリング6との間に油チャンバー8を設け、前記油チャンバー8の圧力を海水圧より低めに設定する」技術(以下「引用文献2技術事項A」という。)が記載されていることが把握できる。

イ しかしながら、引用発明Aにおいて、海水圧よりも高い「第2空気室11」の室圧よりも「潤滑油室12」及び「船尾管1内」への油圧を「僅かに高く」しているのは、引用文献1の摘示事項(イ)の段落【0013】に「即ち、第3潤滑油室12の室圧を第2空気室よりも僅かに高くして、第3潤滑油室への異物を混入を防止してある。」と記載されるように、「第2空気室11」からの「潤滑油室12」への異物の混入の防止のためである。したがって、仮に引用発明Aに引用文献2技術事項Aを適用したとすると、「第2空気室11」と「潤滑油室12」との圧力関係が逆転し、却って「潤滑油室12」へ異物が混入し易くなるような状態となり、上記の作用効果が失われることになるので、上記適用には阻害要因があるといえる。

ウ また、引用文献2の摘示事項(イ)に「更に空気チャンバー7には常時空気を送り続ける必要がなく、油洩れや海水侵入等の異常があった時にのみ、空気を供給して吹出すようにできる。」と変形例の技術(以下「引用文献2技術事項B」という。)が記載されているので、これについても検討する。
この場合、平常時においては、一応「空気チャンバー7」よりも「油チャンバー8」の方が圧力が高くなっていると考えられるが、そもそもの前提として「空気チャンバー7」には海水圧よりも高い室圧はかかっておらず、その前提なしに単に「油チャンバー8の圧力を海水圧よりも低めに設定する」という事項のみを取り出して、水圧変動に対して常に一定の差圧を保ちながら空気を一定量供給することにより海水圧より高い室圧をかけている「第1空気室10」及び「第2空気室11」を有する引用発明Aに適用することは、上述の「常時空気を送り続ける必要がなく」という目的に反することになり、当業者にとって容易に想到し得たということはできない。
また、仮に適用したとしても、上記イと同様に、引用発明Aの「第2空気室11」と「潤滑油室12」との圧力関係が逆転し、却って「潤滑油室12」へ異物が混入し易くなるような状態となり、上記の作用効果が失われることになるので、上記適用には阻害要因があるといえる。

エ したがって、引用発明Aにおいて、少なくとも上記相違点4に係る本願発明1の事項を有するものとすることは当業者にとって容易とはいえないことから、本願発明1は、引用発明A並びに引用文献2技術事項A及びBに基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)本願発明5と引用発明Bとの対比
ア 本願発明5と引用発明Bとを対比すると、引用発明Bの「推進軸3の軸本体4」は本願発明5の「プロペラ軸」に相当し、以下同様に、「船尾管1」は「船尾管」に、「スリーブ6」は「ライナー」に、「ハウジング7」は「ハウジング」に、「1番目のシールリング8」は「第1シールリング」に、「反プロペラ側」は「船首側」に、「第1空気室10」は「第1空気室」に、「2番目のシールリング8」は「第2シールリング」に、「第2空気室11」は「第2空気室」に、「3番目のシールリング」は「第3シールリング」に、「プロペラ側」は「船尾側」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明Bの「船舶用推進軸の軸封装置」は、本願発明5の「船尾管シール装置」に相当する。

ウ 引用発明Bの「前記推進軸3の先部外側を囲む筒状のハウジング7と、」は、本願発明5の「前記プロペラ軸が挿通される筒状のハウジングと、」に相当する。

エ 引用発明Bの「前記ハウジング7に保持され、前記軸本体4に嵌め込まれるスリーブ6の外周面に摺接する1番目のシールリング8と、」は、本願発明5の「前記ハウジングに保持され、前記プロペラ軸に外嵌するライナーの外周面に摺接する第1シールリングと、」に相当する。
同様に、前者の「前記1番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記1番目のシールリング8との間に第1空気室10を形成する2番目のシールリング8と、」は、後者の「前記第1シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第1シールリングとの間に第1空気室を形成する第2シールリングと、」に相当し、前者の「前記2番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記2番目のシールリング8との間に第2空気室11を形成する3番目のシールリング8と、」は、後者の「前記第2シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第2シールリングとの間に第2空気室を形成する第3シールリングと、」に相当する。

オ 引用発明Bの「前記第2空気室11に水圧変動に対して常に一定の差圧を保ちながら空気を一定量供給し、それによって水圧よりも前記第1空気室10の空気圧を常に一定圧高くし、」と、本願発明5の「前記第1シールリングの船尾側の海水圧の変動に応じて空気圧を調整し、前記海水圧以上の空気圧で空気が供給される前記第1空気室及び前記第2空気室により、」とは、 「海水圧の変動に応じて空気圧を調整し、前記海水圧以上の空気圧で空気が供給される前記第1空気室及び前記第2空気室により、」の限度で一致するといえる。

カ 本願発明5の「前記海水圧未満に調整された油圧で船尾管内を循環する前記潤滑油の流出を防止し、」及び「前記第3シールリングは、前記海水圧未満に調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てている」という事項について検討する。
発明の詳細な説明において、請求項5の「前記第1シールリング、前記第2シールリング、及び前記第3シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられており」という事項を有する具体的な例としては、「第4シールリング」による「潤滑油室」を有する例である【図1】?【図3】に係る「第1の実施形態」(本願発明4に相当)と、当該「第4シールリング」及び「潤滑油室」を有さない例である【図6】?【図7】に係る「第3の実施形態」の両者が記載されていることから、本願発明5の上記事項は、「第3シールリング」と「船尾管内」の間に、「第3シールリング」と「第4シールリング」により形成される「潤滑油室」を付加的に有するものも含み得る概念のものと解するのが相当である。
そうすると、引用発明Bの「前記3番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記3番目のシールリングとの間に潤滑油室12を形成する4番目のシールリング8と、」「前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧で前記船尾管1内を循環する前記潤滑油の流出を防止し、」と、本願発明5の「前記海水圧未満に調整された油圧で船尾管内を循環する前記潤滑油の流出を防止し、」とは、「調整された油圧で船尾管内を循環する前記潤滑油の流出を防止し、」の限度で一致するといえる。
また、引用発明Bの「前記3番目のシールリング8は、前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記潤滑油室12と前記第2空気室11とを隔てている」と、本願発明5の「前記第3シールリングは、前記海水圧未満に調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てている」とは、「前記第3シールリングは、前記調整された油圧の前記潤滑油が循環される前記船尾管内と前記第2空気室とを隔てている」の限度で一致するといえる。

キ 引用発明Bの「前記1番目のシールリング8及び前記2番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりもプロペラ側に設けられ、前記3番目のシールリング8及び前記4番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられており、」と、本願発明5の「前記第1シールリング、前記第2シールリング、及び前記第3シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられており、」とは、「前記第1シールリング、前記第2シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられており、」の限度で一致するといえる。

ク してみると、本願発明5と引用発明Bとの一致点、相違点は次のとおりである。
[一致点2]
「プロペラ軸を覆う船尾管内の潤滑油の流出を防止する船尾管シールシステムであって、
前記プロペラ軸が挿通される筒状のハウジングと、
前記ハウジングに保持され、前記プロペラ軸に外嵌するライナーの外周面に摺接する第1シールリングと、
前記第1シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第1シールリングとの間に第1空気室を形成する第2シールリングと、
前記第2シールリングよりも船首側で前記ハウジングに保持され、前記ライナーの外周面に摺接して前記第2シールリングとの間に第2空気室を形成する第3シールリングとを有し、
前記第1シールリング、前記第2シールリングは、前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられており、
海水圧の変動に応じて空気圧を調整し、前記海水圧以上の空気圧で空気が供給される前記第1空気室及び前記第2空気室により、調整された油圧で船尾管内を循環する前記潤滑油の流出を防止している船尾管シール装置。」

[相違点5]
「第3シールリング」の構造に関し、本願発明5は、「前記ライナーの外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジングに保持されるキー部よりも船尾側に設けられ」るものであるのに対し、引用発明Bは、「前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられ」るものである点。

[相違点6]
「シールリング」の構造全体に関し、本願発明5は、「第1シールリング」から「第3シールリング」までの特定しかないのに対し、引用発明Bは、「前記3番目のシールリング8よりも反プロペラ側で前記ハウジング7に保持され、前記スリーブ6の外周面に摺接して前記3番目のシールリングとの間に潤滑油室12を形成する4番目のシールリング8」を更に有し、当該「潤滑油室12」にも潤滑油を循環させるものであり、「前記4番目のシールリング8は、前記スリーブ6の外周面に摺接するリップ部が、前記ハウジング7に保持されるキー部よりも反プロペラ側に設けられる」ものである点。

[相違点7]
「空気圧を調整」することに関し、本願発明5が、「第1シールリングの船尾側の海水圧の変動に応じて」いるのに対し、引用発明Bは、どの箇所の水圧変動に対するものであるのか明らかでない点。

[相違点8]
「調整された油圧」に関し、本願発明5が、「前記海水圧未満」であるのに対し、引用発明Bは、「前記第2空気室11の室圧よりも僅かに高く」というものである点。

(5)本願発明5の進歩性の判断
事案に鑑み、上記相違点8について検討する。
上記相違点8は、上記(3)で検討した相違点4と実質的に同様のものであるから、同様の理由により、引用発明Bにおいて、少なくとも上記相違点8に係る本願発明5の事項を有するものとすることは当業者にとって容易とはいえない。
したがって、本願発明5は、引用発明B並びに引用文献2技術事項A及びBに基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(6)小活
以上検討したとおり、本願発明1は、引用発明A並びに引用文献2技術事項A及びBに基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、本願発明5は、引用発明B並びに引用文献2技術事項A及びBに基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2?4及び6は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に引用発明A並びに引用文献2技術事項A及びBに基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
〔理由1〕この出願は、特許請求の範囲の記載が不備で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
〔理由2〕この出願は、特許請求の範囲の記載が不備で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。(なお、拒絶理由通知において、「第1号」と記載してあるが「第2号」の誤記である。)

2 当審拒絶理由の判断
平成28年12月21日付け手続補正により、本願の請求項1?6の記載は、上記第2に示すとおりに補正され、指摘した特許請求の範囲の記載の不備はいずれも解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-13 
出願番号 特願2016-501919(P2016-501919)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B63H)
P 1 8・ 121- WY (B63H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 泰二郎岸 智章  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 森林 宏和
一ノ瀬 覚
登録日 2017-03-10 
登録番号 特許第6105803号(P6105803)
発明の名称 船尾管シールシステム、船尾管シール装置、及び船舶  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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