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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G01J
管理番号 1325230
審判番号 不服2016-2846  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-25 
確定日 2017-03-07 
事件の表示 特願2014- 88614「溶解金属の温度を測定するための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日出願公開、特開2014-219395、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年4月22日(パリ条約による優先権主張 平成25年4月30日 欧州特許庁)の出願であって、平成27年4月15日付けで拒絶理由が通知され、同年8月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年10月27日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)されたところ、平成28年2月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。その後当審において同年9月8日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)され、同年12月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、平成28年12月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であり、そのうちの本願発明1は以下のとおりの発明である。なお、本願発明2ないし7は、本願発明1を引用し、限定した発明である。

「【請求項1】
光ファイバーにより溶解物の温度を測定するための方法であって、光ファイバーは、溶解物へと供給中の使い捨て案内管を通じて溶解物中に供給され、光ファイバー及び使い捨て案内管の浸漬端部が溶解物中に浸漬され、光ファイバー及び使い捨て案内管の両方は互いに独立な供給速度を有し、光ファイバー及び使い捨て案内管の両方は、浸漬の間、等しくない速度で常に動いている方法。」


第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要について
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物:特開平07-229791号公報(以下「引用例1」という。)

2 原査定の理由の判断
(1)引用例の記載事項及び引用発明
引用例1には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、光ファイバーを使用して溶融金属の温度を測定する装置、およびこの装置を使用した溶融金属の温度測定方法に関する。」

イ 「【0020】また、測定深さが特に深く、所定の深さまで浸漬させるまでに光ファイバーが溶融してしまう恐れのある場合には、光ファイバーの先端を耐火キャップの貫通孔から外に露出しない状態に保持し、貫通孔から不活性ガスを噴出させ、溶融金属が前記筒状ホルダー内に流入しないようにして筒状ホルダーを溶融金属中に浸漬し、耐火物製キャップの先端が所定の温度測定位置に到達したときに、光ファイバー供給手段で光ファイバー先端を溶融金属中に送り込んで温度測定をすると、正確な温度測定が可能となる。」

ウ 「【0022】図2はこの温度測定装置を使用して、溶融金属の温度を測定するときの、測定方法を示す。放射温度計を内蔵した光ファイバー1の巻取ドラム6を、測温対象物の近くに運び、この巻取ドラム6から巻き戻した光ファイバー1を、筒状ホルダー2およびキャップ3に挿通させ、光ファイバー1の先端をキャップ3から3cm程度露出させる。そして、作業者7が筒状ホルダー2およびハンドル5を持って、光ファイバー1の先端を溶融金属中に浸漬させる。」

エ 「【0027】この装置は特に測定深さが深いときに有効であり、図4に示すように、所定の深さに達するまでは光ファイバー1の先端を耐火物製キャップ3内に納め、耐火物製キャップ3先端からパージガスを噴出させながら、筒状ホルダー2を溶鋼中に浸漬し、所定の深さに達してから光ファイバー供給装置4で光ファイバー1を送り出し、光ファイバー1の先端を溶鋼中に露出させる。このようにすることにより、光ファイバー1の溶融を遅らすことができ、正確な温度測定が可能となる。なお、図4中符号17はシール装置、18は電源、19電源からの配線、20はパージガス取出口である。」

オ 上記アないしエにおける、「光ファイバー先端」と「光ファイバー1の先端」、「キャップ3」と「耐火物製キャップ3」と「耐火物製キャップ」、「筒状ホルダー」と「筒状ホルダー2」、「光ファイバー供給手段」と「光ファイバー供給装置4」は、それぞれ、同じものを指すと認められる。

カ 上記アないしオを総合すると、上記引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「溶融金属の温度を測定する測定方法であって、光ファイバー1を、筒状ホルダー2およびキャップ3に挿通させ、筒状ホルダー2を溶融金属中に浸漬し、キャップ3の先端が所定の温度測定位置に到達したときに、光ファイバー供給装置4で光ファイバー1の先端を溶融金属中に送り込んで温度測定をする方法。」


(2)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明における「光ファイバー1」、「溶融金属」は、それぞれ、
本願発明1における「光ファイバー」、「溶解物」に相当する。

イ 引用発明における「筒状ホルダー2およびキャップ3」は、挿通する「光ファイバー1」を所定の温度測定位置へと案内する機能を有する管状の構造物である。
よって、引用発明における「筒状ホルダー2およびキャップ3」と、本願発明1における「使い捨て案内管」とは、「案内管」という点で共通する。

ウ 上記ア及びイを踏まえると、引用発明の「溶融金属の温度を測定する方法であって、光ファイバー1を、筒状ホルダー2およびキャップ3に挿通させ、筒状ホルダー2を溶融金属中に浸漬し、キャップ3の先端が所定の温度測定位置に到達したときに、光ファイバー供給装置4で光ファイバー1の先端を溶融金属中に送り込」むことと、本願発明1の「光ファイバーにより溶解物の温度を測定するための方法であって、光ファイバーは、溶解物へと供給中の使い捨て案内管を通じて溶解物中に供給され、光ファイバー及び使い捨て案内管の浸漬端部が溶解物中に浸漬され」ることとは、「光ファイバーにより溶解物の温度を測定するための方法であって、光ファイバーは、溶解物へと供給中の案内管を通じて溶解物中に供給され、光ファイバー及び案内管の浸漬端部が溶解物中に浸漬され」ることで共通する。

エ 引用発明における「筒状ホルダー2を溶融金属中に浸漬し、キャップ3の先端が所定の温度測定位置に到達したときに、光ファイバー供給装置4で光ファイバー1の先端を溶融金属中に送り込」むことは、「筒状ホルダー2およびキャップ3」と「光ファイバー1」とが一体となって浸漬し、温度測定位置まで到達した後、「光ファイバー」のみが所定の速度で送り込まれるから、温度測定位置到達後は、「筒状ホルダー2およびキャップ3」と「光ファイバー1」は、互いに独立な供給速度を有するといえる。
したがって、引用発明における「筒状ホルダー2を溶融金属中に浸漬し、キャップ3の先端が所定の温度測定位置に到達したときに、光ファイバー供給装置4で光ファイバー1の先端を溶融金属中に送り込」むことと、
本願発明1の「光ファイバー及び使い捨て案内管の両方は互いに独立な供給速度を有する」こととは、
「光ファイバー及び案内管の両方は互いに独立な供給速度を有する」という点で共通する。

オ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「光ファイバーにより溶解物の温度を測定するための方法であって、光ファイバーは、溶解物へと供給中の案内管を通じて溶解物中に供給され、光ファイバー及び案内管の浸漬端部が溶解物中に浸漬され、光ファイバー及び案内管の両方は互いに独立な供給速度を有する方法。」

(相違点1)
互いに独立な供給速度を有する光ファイバー及び案内管について、本願発明1では、「両方は、浸漬の間、等しくない速度で常に動いている」のに対し、引用発明は、両方が「常に」等しくない速度で動いているとはいえない点。

(相違点2)
案内管について、本願発明1では「使い捨て」であるのに対し、引用発明では使い捨てかどうか不明である点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用例1には、所定の温度測定位置に到達するまでの浸漬の間、「光ファイバー1」と「筒状ホルダー2およびキャップ3」を、それぞれ異なる速度で常に移動させることについての記載も示唆もない。
なお、相違点に係る本願発明1の「光ファイバー及び使い捨て案内管の両方は、浸漬の間、等しくない速度で常に動いている」という特徴は、下記第4の当審拒絶理由通知において引用された引用例2(特開2011-169917号公報)、引用例3(特開2010-071666号公報)、引用例4(特開平07-151607号公報)、引用例5(特開平08-075553号公報)の何れにも記載されていない。
さらに、相違点1に係る本願発明1の「光ファイバー及び使い捨て案内管の両方は、浸漬の間、等しくない速度で常に動いている」という特徴により、段落0040に記載されるような「使い捨て外側案内管40の浸漬端部50及び光ファイバー10の先導区域10’の両方が金属の事前に決めた表面」を「共に溶接することを回避する」との技術的効果も奏するものであり、引用例1に記載された技術的事項から予測されるものでもない。
したがって、本願発明1は、相違点2について検討するまでもなく、当業者が引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7も、本願発明1の「光ファイバー及び使い捨て案内管の両方は、浸漬の間、等しくない速度で常に動いている」との同一の特徴を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に発明できたものとは認められない。

3 小括
よって、本願発明1ないし7は、上記引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえないことから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由通知の概要及び当審拒絶理由についての判断
1 特許法第29条第2項について
当審拒絶理由通知は、平成28年2月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項9ないし11について、上記引用例1及び当審拒絶理由通知において引用された引用例2、引用例3、引用例4、引用例5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成28年12月26日付けの補正において、請求項9ないし11が削除された結果、この拒絶の理由は解消した。

2 特許法第36条第6項第2号について
当審拒絶理由通知では、平成28年2月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項7には、「前記光ファイバー及び使い捨て案内管は、等しくない速度で移動することを特徴とする」旨特定されているところ、請求項7が引用する請求項1には、「光ファイバー及び使い捨て案内管の両方は、浸漬の間、等しくない速度で常に動いている」点が特定されており、両者の関係が不明であるから請求項7が不明確であるとしているが、平成28年12月26日付けの補正において、請求項7が削除された結果、この拒絶の理由は解消した。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし7に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえないし、特許法第36条第6項第2号の要件も満たしていないため特許を受けることができないともいえない。
したがって、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2014-88614(P2014-88614)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01J)
P 1 8・ 537- WY (G01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 洋介  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
小川 亮
発明の名称 溶解金属の温度を測定するための装置及び方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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