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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1325269
審判番号 不服2015-22084  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-12-14 
確定日 2017-02-15 
事件の表示 特願2011-123767「薄膜トランジスタ表示板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月22日出願公開、特開2011-258949〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年6月1日(パリ条約による優先権主張2010年6月4日,大韓民国)を出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 5月 9日 審査請求
平成26年12月19日 拒絶理由通知(起案日)
平成27年 3月24日 意見書・手続補正書の提出
平成27年 8月 7日 拒絶査定(起案日)
平成27年12月14日 審判請求・手続補正書の提出


第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年12月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1については,本件補正の前後で以下のとおりである。
・補正前
「【請求項1】
絶縁基板上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極上に形成されるゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して、前記ゲート電極と重畳し、チャネル部を有する酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、互いに離隔して配置されたソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上部に形成される保護膜とを含み、
前記保護膜は、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンのうちの少なくとも1種からなる第1保護膜と、
前記第1保護膜の上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第2保護膜と、
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、
前記ゲート電極上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第1ゲート絶縁膜と、
前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンのうちの少なくとも1種からなる第2ゲート絶縁膜と、
を含み、
前記保護膜は、前記ドレイン電極を露出する第1コンタクトホールを有し、
前記第1コンタクトホールは、底面から上部に向かうほど次第に断面積が広くなる形状を有する、薄膜トランジスタ表示板。」

・補正後
「【請求項1】
絶縁基板上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極上に形成されるゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して、前記ゲート電極と重畳し、チャネル部を有する酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、互いに離隔して配置されたソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上部に形成される保護膜とを含み、
前記保護膜は、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第1保護膜と、
前記第1保護膜の上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第2保護膜と、
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、
前記ゲート電極上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第1ゲート絶縁膜と、
前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第2ゲート絶縁膜と、
を含み、
前記保護膜は、前記ドレイン電極を露出する第1コンタクトホールを有し、
前記第1コンタクトホールは、底面から上部に向かうほど次第に断面積が広くなる形状を有する、薄膜トランジスタ表示板。」

2 補正事項の整理
本件補正による,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1についての補正を整理すると次のとおりとなる。(当審注.下線は補正箇所を示し,当審で付加したもの。)
・補正事項1
本件補正前の請求項1の「前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンのうちの少なくとも1種からなる第1保護膜と、」を,「前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第1保護膜と、」に補正すること。

・補正事項2
本件補正前の請求項1の「前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンのうちの少なくとも1種からなる第2ゲート絶縁膜と、」を,「前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第2ゲート絶縁膜と、」に補正すること。

3 補正の適否について
・補正事項1
本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0037】及び【0038】の記載から,補正事項1は本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項1は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,補正事項1において,本件補正前の請求項1における「前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンのうちの少なくとも1種からなる第1保護膜と、」を,「前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第1保護膜と、」とする補正は,第1保護膜を構成する材料として並列的かつ択一的に記載された要素の一部を削除し,酸化ケイ素(SiO_(X))に限定するもので,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

・補正事項2
本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0028】-【0030】の記載から,補正事項2は本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,補正事項1は,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,補正事項2において,本件補正前の請求項1における「前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンのうちの少なくとも1種からなる第2ゲート絶縁膜と、」を,「前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第2ゲート絶縁膜と、」とする補正は,第2ゲート絶縁膜を構成する材料として並列的かつ択一的に記載された要素の一部を削除し,酸化ケイ素(SiO_(X))に限定するもので,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

4 独立特許要件についての検討
(1)検討の前提
上記3で検討したとおり,本件補正における,本件補正前の請求項1についての補正事項1及び2は,特許法第17条の2第5項第2号に掲げる,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むから,本件補正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かにつき,更に検討する。

(2)補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は,本件補正後の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「【請求項1】
絶縁基板上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極上に形成されるゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して、前記ゲート電極と重畳し、チャネル部を有する酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、互いに離隔して配置されたソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上部に形成される保護膜とを含み、
前記保護膜は、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第1保護膜と、
前記第1保護膜の上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第2保護膜と、
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、
前記ゲート電極上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第1ゲート絶縁膜と、
前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第2ゲート絶縁膜と、
を含み、
前記保護膜は、前記ドレイン電極を露出する第1コンタクトホールを有し、
前記第1コンタクトホールは、底面から上部に向かうほど次第に断面積が広くなる形状を有する、薄膜トランジスタ表示板。」

(3)引用例1の記載と引用発明1及び引用発明2
ア 引用例1
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献2として引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2010-45263号公報(以下「引用例1」という。)には,図1?図6Bとともに,次の記載がある。(当審注:下線は当審において付加した。以下同じ。)

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体及びそれからなるスパッタリングターゲットに関する。本発明は、さらに、薄膜トランジスタ及びその製造方法に関する。」

(イ)「【背景技術】
……(中略)……
【0006】
従来の薄膜トランジスタ(TFT)は、ガラス等の基板上にゲ-ト電極、ゲ-ト絶縁層、水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)等の半導体層、ソ-ス及びドレイン電極を積層した逆スタガ構造のものがあり、イメ-ジセンサを始め、大面積デバイスの分野において、アクティブマトリスク型の液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイ等の駆動素子として用いられている。これらの用途では、従来アモルファスシリコンを用いたものでも高機能化に伴い作動の高速化が求められてきている。
【0007】
このような状況下、近年にあっては、結晶性のシリコン半導体よりも大面積に製造することやマスク枚数の削減等コストダウンが容易で、非晶性のシリコン半導体(アモルファスシリコン)よりも安定性や高い移動度を示すものとして、酸化物を用いた酸化物半導体が注目されている。」

(ウ)「発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、亜鉛(Zn)を主要構成元素としない酸化物半導体、ターゲット組成の再現性が高い(即ち、ターゲットと薄膜の組成比の差が小さく、成膜条件の薄膜組成への影響が小さい)スパッタリングターゲット、大面積均一性、再現性の高い薄膜トランジスタを提供することを目的とする。」

(エ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.酸化物半導体
本発明の酸化物半導体は、In(インジウム)元素と、Sn(錫)元素と、6周期までの、3A族元素、4A族元素、5A族元素、6A族元素、7A族元素、8族元素及びSnより原子番号の小さい4B族から選択される1種以上の元素Xを含む。
【0019】
6周期までの3A族元素としては、Sc、Y、ランタノイド類(La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)が挙げられる。
6周期までの4A族元素としては、Ti、Zr、Hfが挙げられる。
6周期までの5A族元素としては、V、Nb、Taが挙げられる。
6周期までの6A族元素としては、Cr、Mo、Wが挙げられる。
6周期までの7A族元素としては、Mn、Tc、Reが挙げられる。
6周期までの8族元素としては、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptが挙げられる。
Snより原子番号の小さい4B族としては、Ge、Si、Cが挙げられる。
……(中略)……
【0071】
4.薄膜トランジスタ
本発明の酸化物半導体又は非晶質半導体膜は、薄膜トランジスタに用いることができる。具体的には、本発明の薄膜トランジスタは、基板上に、ゲート電極と、ゲート絶縁膜と、半導体層と、ソース電極と、ドレイン電極を有し、ソース電極とドレイン電極が、半導体層を介して接続してあり、ゲート電極と半導体層の間にゲート絶縁膜があり、半導体層が本発明の酸化物半導体又は非晶質半導体膜である。
……(中略)……
【0077】
ゲート絶縁膜を形成する材料にも特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO_(2),SiN_(X),Al_(2)O_(3),Ta_(2)O_(5),TiO_(2),MgO,ZrO_(2),CeO_(2),K_(2)O,Li_(2)O,Na_(2)O,Rb_(2)O,Sc_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3),PbTi_(3),BaTa_(2)O_(6),SrTiO_(3),AlN等の酸化物を用いることができる。これらのなかでも、SiO_(2),SiN_(X),Al_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO_(2),SiN_(X),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)であり、特に好ましくはY_(2)O_(3)である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO_(2)でもSiO_(X)でもよい)。
このようなゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。また、ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。」

(オ)「【0078】
電界効果トランジスタは、半導体の保護層があることが好ましい。半導体の保護層が無いと、真空中や低圧下で半導体の表面層の酸素が脱離し、オフ電流が高くなったり、閾値電圧が負になるおそれがある。また、大気下でも湿度等周囲の影響を受け、閾値電圧等のトランジスタ特性のばらつきが大きくなるおそれがある。
半導体の保護層を形成する材料にも特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO_(2),SiN_(X),Al_(2)O_(3),Ta_(2)O_(5),TiO_(2),MgO,ZrO_(2),CeO_(2),K_(2)O,Li_(2)O,Na_(2)O,Rb_(2)O,Sc_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3),PbTi_(3),BaTa_(2)O_(6),SrTiO_(3),AlN等の酸化物を用いることができる。これらのなかでも、SiO_(2),SiN_(X),Al_(2)O_(3),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO_(2),SiN_(X),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)であり、特に好ましくはSiO_(2),Y_(2)O_(3),Hf_(2)O_(3),CaHfO_(3)等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO_(2)でもSiO_(X)でもよい)。
このような保護膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また、保護層は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。しかし、保護層が非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜でないと界面の平滑性が悪く移動度が低下したり、閾値電圧やS値が大きくなりすぎるおそれがある。
保護層は酸化物でないと半導体中の酸素が保護層側に移動し、オフ電流が高くなったり、閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれがある。
また、エッチングストッパー層を保護膜としてもよい。」

(カ)「【実施例】
【0085】
[実施例1]
(1)スパッタリングターゲットの製造
原料として、酸化インジウム、酸化錫、酸化イットリビウムの粉末を、原子比〔In/(In+Sn+Yb)〕が0.70、原子比〔Sn/(In+Sn+Yb)〕が0.20、原子比〔Yb/(In+Sn+Yb)〕が0.10となるように混合した。これを湿式ボールミルに供給し、混合粉砕して原料微粉末を得た。
得られた原料微粉末を造粒した後、プレス成形して、これを焼成炉に入れ、1,500℃、12時間の条件で焼成して、焼結体を得た。焼結体を加工後、無酸素銅製バッキングプレートにインジウム半田で接着して、直径10cm、厚さ5mmのターゲットとした。」
……(中略)……
【0088】
(2)成膜
上記(1)で得られたスパッタリングターゲットを、DCスパッタ法の一つであるDCマグネトロンスパッタリング法の成膜装置に装着し、ガラス基板(コーニング1737)上に透明導電膜を成膜した。
スパッタ条件は、基板温度;25℃、到達圧力;1×10^(-6)Pa、雰囲気ガス;Ar95%及び酸素5%、スパッタ圧力(全圧);4×10^(-1)Pa、投入電力100W、S-T距離90mmであった。
【0089】
この結果、ガラス基板上に、膜厚が50nmの酸化物薄膜が形成された。
得られた膜組成をICP法で分析したところ、原子比〔In/(In+Sn+Yb)〕が0.70、原子比〔Sn/(In+Sn+Yb)〕が0.20、原子比〔Yb/(In+Sn+Yb)〕が0.10であった。」

(キ)「【0104】
[実施例2]
図2に示すBCH(バックチャンネルエッチ)型トランジスタを作製した他は、実施例1と同様にトランジスタを作製・評価した。
【0105】
<BCH型>
無アルカリガラス基板20上に、RFスパッタリングでMoゲートメタルを200nm積層した後、ウェットエッチングでパターニングしてゲート電極21を形成した。
その後、PECVDでゲート絶縁膜22としてSiO_(X)を積層した。
次に、(1)で得られたターゲットを用い(2)の条件で薄膜を成膜(50nm)し、その後ウェットエッチングでパターニングしてチャンネル層(半導体層)23を形成した。
次に、RFマグネトロンスパッタリング及びウェットエッチングを用い、Moからなるソース/ドレイン電極24(W=50μm、L=10μm)を形成した。
次に、PECVDで第一の保護膜25及び第二の保護膜26としてSiO_(X)を積層、その後ドライエッチングによりコンタクトホールを形成し、配線とコンタクトをとった。
得られた薄膜トランジスタを(3)の条件で熱処理を加え、ボトムゲート型の薄膜トランジスタを得た。」

(ク)「【0109】
[実施例5]
ボトムゲート型のトランジスタを作製した他は、実施例1と同様にトランジスタを作製・評価した。
【0110】
<BCH型>
熱酸化膜(100nm)付きシリコン基板上に、(1)で得られたターゲットを用い(2)の条件で薄膜を成膜(50nm)し、その後ウェットエッチングでパターニングしてゲート電極を形成した。
次に、RFマグネトロンスパッタリング及びウェットエッチングを用い、Moからなるソース/ドレイン電極(W=50μm、L=10μm)を形成した。
次に、RFマグネトロンスパッタリングで第一の保護膜としてSiO_(X)(200nm)、第二の保護膜としてSiN_(X)を積層(200nm)、その後ドライエッチングによりコンタクトホールを形成し、配線とコンタクトをとった。
得られた薄膜トランジスタを(3)の条件で熱処理を加え、ボトムゲート型の薄膜トランジスタを得た。」

(ケ)「【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の酸化物半導体は、スパッタリングターゲットとして使用できる。本発明のスパッタリングターゲットから形成される薄膜は、TFT等の半導体デバイスの半導体膜として使用できる。このような半導体デバイスは、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、及び無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等のディスプレイに使用できる。」

(コ)図2には,ゲート絶縁膜22がゲート電極21の上に形成される構成,チャンネル層(半導体層)23がゲート絶縁膜22を介してゲート電極21と重畳する構成,ソース/ドレイン電極24が互いに離隔して配置されている構成,ソース/ドレイン電極24がチャンネル層23の上に形成される構成,第一の保護膜25がチャンネル層23の上に形成される構成,第二の保護膜26が第一の保護膜25の上に形成される構成,第一の保護膜25及び第二の保護膜26に形成されたコンタクトホールによりドレイン電極24が露出されている構成が,それぞれ記載されていると認められる。

イ 引用発明1
上記アの(ア),(カ),(キ),(ケ)及び(コ)より,引用例1には,「実施例2」のボトムゲート型のBCH型薄膜トランジスタとして,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「無アルカリガラス基板20上に形成されたゲート電極21と,
前記ゲート電極21上に形成されるゲート絶縁膜22と,
前記ゲート絶縁膜22を介して,前記ゲート電極21と重畳するチャンネル層23であって,酸化物薄膜からなる半導体層であるチャンネル層23と,
前記チャンネル層23の上に形成されて,互いに離隔して配置されたソース電極24及びドレイン電極24と,
前記ソース電極24及びドレイン電極24の上部に形成される第一の保護膜25及び第二の保護膜26とを含み,
前記第一の保護膜25は,前記チャンネル層23の上に形成されたSiO_(X)からなり,
前記第二の保護膜26は,前記第一の保護膜25の上に形成されたSiO_(X)からなり,
前記ゲート絶縁膜22は,前記ゲート電極21上に形成されたSiO_(X)からなり,
前記第一の保護膜25及び前記第二の保護膜26は,前記ドレイン電極24を露出するコンタクトホールであって,ドライエッチングにより形成されたコンタクトホールを有する,
ディスプレイに使用されるボトムゲート型のBCH型薄膜トランジスタ。」

ウ 引用発明2
上記アの(ク)より,引用例1には,「実施例5」のボトムゲート型のBCH型薄膜トランジスタとして,次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「ボトムゲート型のBCH型薄膜トランジスタにおいて,
ソース/ドレイン電極の上に,SiO_(X)からなる第一の保護膜を形成し,
前記第一保護膜の上に,SiN_(X)からなる第二の保護膜を形成すること。」

(4)引用例2の記載と引用発明3
ア 引用例2
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献5として引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2009-260378号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置及びその作製方法に関する。特に、酸化物半導体を用いた半導体装置に関する。また、その半導体装置を備えた電子機器に関する。」

(イ)「【0007】
このような珪素からなる半導体に代わる材料として、近年、チャネル形成領域に酸化亜鉛などの酸化物半導体を用いてTFTを形成する報告がなされている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)。酸化物半導体は、非晶質珪素からなる半導体により形成されたTFTと同等かそれ以上の移動度を有しているため、さらなる特性の向上が求められている。
……(中略)……
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、特性を向上させた半導体素子を有する半導体装置及びその作製方法を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0075】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態について、図4、図5を用いて説明する。本実施の形態は、チャネル保護型の薄膜トランジスタを有する半導体装置の例である。
【0076】
基板400は、バリウムホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス等からなるガラス基板、シリコン基板、耐熱性を有するプラスチック基板又は樹脂基板を用いる。プラスチック基板又は樹脂基板として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、アクリル、ポリイミド等を用いることができる。また、基板400の表面が平坦化されるようにCMP法などによって、研磨しても良い。なお、基板400上に、絶縁層を形成してもよい。絶縁層は、CVD法、プラズマCVD法、スパッタリング法、スピンコート法等の公知の方法により、珪素を含む酸化物材料、窒化物材料を少なくとも一つ用いて、単層又は積層して形成される。この絶縁層は、形成しなくても良いが、基板400からの汚染物質などを遮断する効果や基板に熱が伝わるのを抑制する効果がある。
【0077】
基板400上に導電膜401を形成する。導電膜401は、所望の形状に加工されゲート電極となる。導電膜401は、印刷法、電界メッキ法、蒸着法等の手法によりLRTA加熱に用いる光源の波長に対する反射率が低い(熱を吸収しやすい、つまり加熱されやすい)材料を用いて形成することが好ましい。反射率の低い材料を用いることにより、後の加熱工程が可能となる。導電膜41としては、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、チタン(Ti)、ネオジウム(Nd)等の金属又はその合金、若しくはその金属窒化物を適宜用いることができる。また、これら複数の層を積層して形成しても良い。代表的には、基板表面に窒化タンタル膜、その上にタングステン膜を積層してもよい。また、珪素に一導電型を付与する不純物元素を添加した材料を用いても良い。例えば、非晶質珪素膜にリン(P)などのn型を付与する不純物元素が含まれたn型を有する珪素膜などを用いることができる。導電膜401は、10nm?200nmの膜厚で成膜する。
……(中略)……
【0079】
導電膜401上にフォトリソグラフィ工程を用いてレジストからなるマスクを形成し、マスクを用いて導電膜401を所望の形状に加工してゲート電極402を形成する(図4(B)参照)。
【0080】
次いで、ゲート電極402上にゲート絶縁膜403a、ゲート絶縁膜403bを形成し2層の積層構造とする。積層される絶縁膜は、同チャンバー内で真空を破らずに同一温度下で、反応ガスを切り変えながら連続的に形成するとよい。真空を破らずに連続的に形成すると、積層する膜同士の界面が汚染されるのを防ぐことができる。
【0081】
ゲート絶縁膜403a、ゲート絶縁膜403bは、酸化珪素(SiO_(x))、窒化珪素(SiN_(x))、酸化窒化珪素(SiO_(x)N_(y))(x>y)、窒化酸化珪素(SiN_(x)O_(y))(x>y)などを適宜用いることができる。更には、ゲート電極402を酸化して、ゲート絶縁膜403aの代わりに、酸化膜を形成しても良い。なお、基板から不純物などの拡散を防止するため、ゲート絶縁膜403aとしては、窒化珪素(SiN_(x))、窒化酸化珪素(SiN_(x)O_(y))(x>y)などを用いて形成することが好ましい。また、ゲート絶縁膜403bとしては、酸化珪素(SiO_(x))、酸化窒化珪素(SiO_(x)N_(y))(x>y)などを用いて形成することが望ましい。なお、低い成膜温度でゲートリーク電流の少ない緻密な絶縁膜を形成するには、アルゴンなどの希ガス元素を反応ガスに含ませ、形成される絶縁膜中に混入させると良い。本実施の形態では、SiH_(4)、NH_(3)を反応ガスとして形成される膜厚50nm?140nmの窒化珪素膜を用いてゲート絶縁膜403aを形成し、SiH_(4)及びN_(2)Oを反応ガスとして形成される膜厚100nmの酸化珪素膜を用いてゲート絶縁膜403bを積層して形成する。なお、ゲート絶縁膜403a及びゲート絶縁膜403bの膜厚をそれぞれ50nm?100nmとすると好ましい。
……(中略)……
【0083】
次にゲート絶縁膜403b上に酸化物半導体膜404を形成する。酸化物半導体膜404は流量Ar:O_(2)=50:5sccm、圧力0.4Pa、100nmの厚さでスパッタリング法により成膜する。
……(中略)……
【0090】
次に、酸化物半導体膜404をフォトリソグラフィ工程を用いてレジストによるマスク408を作製し(図4(H))、マスク408を用いてエッチングを行い、所望の形状に加工された酸化物半導体膜409(島状酸化物半導体膜ともいう)を形成する(図5(A))。なお、エッチングには、希釈したフッ酸を用いる。その後、酸化物半導体膜409上に第1の導電膜411、第2の導電膜412を形成し、フォトリソグラフィ工程を用いてレジストによるマスク413を形成する(図5(B))。マスク413を用いて第1の導電膜411、第2の導電膜412を所望の形状に加工し、ソース電極又はドレイン電極として機能する第1の導電膜414a、414b、第2の導電膜415a、415bを形成する(図5(C))。
……(中略)……
【0099】
以上の工程で、チャネル部の半導体層がエッチングされないボトムゲート型(逆スタガ型ともいう。)の薄膜トランジスタを作製することが出来る。なお、本実施形態では、ボトムゲート型のTFTを作製したが、基板上に設けられた酸化物半導体膜上にゲート絶縁膜を介して形成したゲート電極をLRTAで加熱して、少なくとも酸化物半導体膜のチャネル形成領域の結晶性を改善できるのであればトップゲート型TFTであってもよい。」

イ 引用発明3
上記アの(ア)及び(ウ)より,引用例2には,次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「酸化物半導体膜404を有するボトムゲート型の薄膜トランジスタにおいて,
基板からの不純物などの拡散を防止するために,基板400上のゲート電極402上に,窒化硅素膜を用いてゲート絶縁膜403aを形成し,
前記ゲート絶縁膜403a上に,酸化珪素膜を用いてゲート絶縁膜403bを形成することで,
前記ゲート電極402上に,前記ゲート絶縁膜403a及び前記ゲート絶縁膜403bからなる2層の積層構造を形成し,
前記ゲート絶縁膜403b上に酸化物半導体膜404を形成したボトムゲート型の薄膜トランジスタ。」

(5)周知例の記載と周知技術
ア 周知例1
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献4として引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平11-204498号公報(以下「周知例1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体装置の製造方法に関し、特にリアクティブ・イオン・エッチング(RIE:Reactive Ion Etching)でのエッチング法する半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体装置の製造過程では、シリコン酸化膜をリアクティブ・イオン・エッチングする必要のある場合が多い。このシリコン酸化膜のリアクティブ・イオン・エッチングは、一般に下地膜との高選択比を得るためにデポジションガスを用いている。デポジションガスを用いると、シリコン酸化膜以外の膜はデポジションが起こるためエッチングが進まない。一方、シリコン酸化膜では膜中の酸素によってデポジション反応が阻止されるためにデポジションが起こらずエッチングが進行するというメカニズムになっている。エッチング反応は高エネルギーイオン照射により進行していく。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述のようにシリコン酸化膜にリアクティブ・イオン・エッチングを行った場合、イオンは垂直入射される。このため、横方向にはエッチングが進まず、エッチングの側壁形状が垂直になる。トランジスタ等を有する半導体装置の製造工程では、このエッチング後の工程で上部に薄膜を堆積させる場合も多い。この場合、エッチング側壁が垂直であると膜のカバレッジが悪くなり、段切れ等の不良が発生する可能性が高くなる。このため、エッチングの側壁はテーパ状に形成されている方が好ましい場合もある。しかし、リアクティブ・イオン・エッチングではテーパ状の側壁を得るのは困難である。」

(イ)「【0009】図1からわかるように、シリコン基板からなる半導体基板10上に、CVD(Chemical Vapor Deposition )により、シリコン酸化膜20を堆積する。次に、このシリコン酸化膜20上に、CVDにより、中間膜としてのシリコン窒化膜を200nm堆積する。つまり、下地としてのシリコン酸化膜20上に、他種類の膜としてのシリコン窒化膜30を形成する。このシリコン窒化膜30が中間膜IMを構成する。続いて、このシリコン窒化膜30上に、レジスト40を塗布して所定のパターンにパターンニングする。これによりレジスト40にレジスト開孔42を形成する。このレジスト開孔42形成後にベーキングを行う。このレジスト40の現像後のベーキングは、例えば、130℃で3分行う。以上の工程により図1に示す中間半導体装置が得られる。
【0010】次に、図2からわかるように、シリコン窒化膜30を等方性エッチングすることにより空間32を形成する。すなわち、レジスト40とシリコン酸化膜20との間に、空間32を形成する。等方性エッチングとしては、例えば、RIEでSF_(6) ガス流量100sccm、圧力20Pa、RFパワー1000Wで30秒間エッチングを行うことが考えられる。または、例えば、弗酸で30秒間エッチングを行うことが考えられる。つまり、シリコン窒化膜30をケミカルエッチング効果の高いガスを用いて、サイドエッチングの大きい条件で等方性エッチングする。このように等方性エッチングをすることにより、シリコン窒化膜30が選択的にエッチングされる。これにより、シリコン窒化膜20を大きくサイドエッチングして、空間32を形成する。以上の工程のより図2に示す中間半導体装置が得られる。
【0011】次に、図3からわかるように、シリコン酸化膜20をRIEでエッチングすることにより酸化膜開孔22を形成する。例えば、CHF_(3) ガス流量20sccm、O_(2) ガス流量50sccm、圧力20Paで240秒間、リアクティブ・イオン・エッチングをする。このリアクティブ・イオン・エッチングの際には、レジスト40はソフトベーキングのため、プラズマによってエッチングされて、変形する。しかし、レジスト40とシリコン酸化膜20との間には空間32が形成されているため、シリコン酸化膜20にレジスト40が付着することはない。以上の工程により図3に示す中間半導体装置が得られる。
【0012】次に、図4からわかるように、レジスト40を除去する。このようにして、半導体基板10との選択比を高く保ちながら、シリコン酸化膜20をテーパ形状の酸化膜開孔22を形成する。以上の工程により図4に示す中間半導体装置が得られる。
【0013】以上のように本実施形態に係る半導体装置の製造方法によれば、図3からわかるように、レジスト40とシリコン酸化膜20との間に空間32が形成されているので、このシリコン酸化膜20をRIEでエッチングする際に、レジスト40がシリコン酸化膜20に付着するのを防止でき、シリコン酸化膜20に良好なテーパ形状の開孔22を形成することができる。
【0014】より詳しくは、シリコン酸化膜20上に中間膜IMであるシリコン窒化膜30を堆積させ、このシリコン窒化膜30上にレジスト40をパターンニングする。続いて、上層であるシリコン窒化膜30をケミカルエッチング効果の高いガスを用いてサイドエッチングの大きい条件でエッチングする。その後シリコン酸化膜20をRIEでエッチングする。このRIEの際には、レジスト40はソフトベーキングのためのプラズマによってエッチングされて、変形する。しかし、レジスト40とシリコン酸化膜20との間には空間32があるため、レジスト40が熱変形しても、シリコン酸化膜20にレジスト40が付着しないようにすることができる。このようにレジスト40が付着しないようにすることにより、レジスト40の後退をスムーズに行うことができ、シリコン酸化膜20に良好なテーパ状の開孔22を形成することができる。すなわち、レジスト40の端部が次第に変形していくことにより、結果的にテーパ状の開孔22を形成することができる。
【0015】このようにシリコン酸化膜20の開孔22をテーパ状に形成することにより、この開孔22内に薄膜を形成する場合におけるカバレッジを良くすることができる。すなわち、開孔22内に形成する薄膜に、段切れ等が生じるおそれを回避することができる。」

(ウ)図3には,シリコン酸化膜20に形成されたテーパ形状の開孔22として,底面よから上部に向かうほど広く形成される開孔の構成が記載されていると認められる。

イ 周知技術
周知例1における「従来の技術」が有する「課題」についての説明である上記アの(ア)より,シリコン酸化膜をエッチングして開孔を形成する場合、膜のカバレッジを良好にして段切れ等の不良が発生する可能性を低くするため,エッチングの側壁はテーパ状に形成されている方が好ましいことは,周知の事項であった。
そして、上記アの(イ)より,
「半導体基板10上にシリコン酸化膜20を堆積し,下地としての前記シリコン酸化膜20上に他種類の膜としてのシリコン窒化膜30を形成して,
前記シリコン窒化膜30をサイドエッチングの大きい条件でエッチングした後に,前記シリコン酸化膜20をエッチングして酸化膜開孔22を形成することで、
前記シリコン酸化膜20に良好なテーパ形状の前記開孔22を形成することができ,これにより,前記開孔22内に薄膜を形成する場合におけるカバレッジを良くすることができ,前記開孔22内に形成する薄膜に段切れ等が生じるおそれを回避すること。」
は,本願の優先権主張の日前,当該技術分野では周知の技術(以下「周知技術1」という。)と認められる。
なお,上記アの(イ)及び(ウ)より,前記周知の事項及び周知技術1における「テーパ状」とは,底面から上部に向かうほど広く形成される形状のことを示すものである。

(6)補正発明と引用発明1の対比
ア 引用発明1における「無アルカリガラス基板20」,「ゲート電極21」は,補正発明の「絶縁基板」,「ゲート電極」にそれぞれ相当するといえる。

イ 引用発明1における「ゲート絶縁膜22」は,補正発明の「第1ゲート絶縁膜」についての後述の相違点に係る構成を除き,ゲート電極上に形成されるゲート絶縁膜を構成するものであり,かつ,「酸化ケイ素(SiO_(X))」からなるという点で,補正発明の「ゲート絶縁膜」が有する「第2ゲート絶縁膜」と共通するといえる。
そして,引用発明1における「ゲート絶縁膜22」は,後述の相違点に係る構成を除き,補正発明の「ゲート絶縁膜」に対応するといえる。

ウ 引用発明1における「酸化物薄膜からなる半導体層であるチャンネル層23」は,補正発明の「酸化物半導体層」に相当するといえる。

エ 引用発明1における「ソース電極24及びドレイン電極24」は,補正発明の「ソース電極及びドレイン電極」に相当するといえる。

オ 引用発明1における「前記チャンネル層23の上に形成されたSiO_(X)」からなる「第一の保護膜25」は,補正発明の「前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))」からなる「第1保護膜」に相当するといえる。
また,引用発明1における「前記第一の保護膜25の上に形成されたSiO_(X)」からなる「第二の保護膜26」は,後述の相違点に係る構成を除き,前記「第1保護膜」の上に形成される保護膜であるという点で,補正発明の「前記第1保護膜の上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第2保護膜」と共通するといえる。
よって,引用発明1における「第一の保護膜25及び第二の保護膜26」は,後述の相違点に係る構成を除き,補正発明の「保護膜」に対応するといえる。

カ 引用発明1における「コンタクトホール」は,後述の相違点に係る構成を除き,保護膜が有するコンタクトホールであり,かつ,ドレイン電極を露出するコンタクトホールであるという点で,補正発明の第1コンタクトホールと共通するといえる。

キ 引用発明1における「ボトムゲート型のBCH型薄膜トランジスタ」は,「無アルカリガラス基板20上に形成された」ことで「ディスプレイに使用される」ものと認められる。
したがって,「ディスプレイに使用されるボトムゲート型のBCH型薄膜トランジスタ」が形成された「無アルカリガラス基板20」は,補正発明の「薄膜トランジスタ表示板」に相当するといえる。

ク 以上から,補正発明と引用発明1とは,下記(ア)の点で一致し,下記(イ)の点で相違すると認める。

(ア)一致点
「絶縁基板上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極上に形成されるゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して、前記ゲート電極と重畳し、チャネル部を有する酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、互いに離隔して配置されたソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上部に形成される保護膜とを含み、
前記保護膜は、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第1保護膜と、
前記第1保護膜の上に形成される第2保護膜と、
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、
酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第2ゲート絶縁膜と、
を含み、
前記保護膜は、前記ドレイン電極を露出する第1コンタクトホールを有する、
薄膜トランジスタ表示板。」

(イ)相違点
・相違点1
補正発明の「第2保護膜」が,「SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる」のに対し,引用発明1における「第二の保護膜26」は,「SiO_(X)」からなる点。

・相違点2
補正発明の「ゲート絶縁膜」が,「前記ゲート電極上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第1ゲート絶縁膜」を備え,「前記第1ゲート絶縁膜の上に」第2ゲート絶縁膜が形成されるのに対し,引用発明1は,上記の構成を備えていない点。

・相違点3
補正発明の「第1コンタクトホール」が,「底面から上部に向かうほど次第に断面積が広くなる形状を有する」のに対し,引用発明1は,上記の構成を備えていない点。

(7)相違点についての検討
ア 相違点1及び3について
以下,相違点1及び3についてまとめて判断する。

上記(3)ウ のとおり,引用発明1が記載された引用例1には,引用発明1と同じ「ボトムゲート型のBCH型薄膜トランジスタ」における保護膜に係る他の構成として,SiO_(X)からなる第一の保護膜上の第二の保護膜をSiN_(X)とすること(引用発明2)が記載されており、引用発明1における「第二の保護膜26」をSiN_(X)とすることは、引用例1の上記の記載に接した当業者が普通に行い得るものといえる。

また,上記(3)イのとおり,引用発明1におけるコンタクトホールはSiO_(X)からなる膜に形成されるものであって,かつ,ドライエッチングにより形成されるものであるところ,上記(5)イのとおり,シリコン窒化膜の下に設けたシリコン酸化膜にエッチングを行う際に,各膜のエッチング条件を適宜に選択することで,前記シリコン酸化膜のエッチングで形成した開孔の側壁をテーパ状に形成して,前記開孔内に薄膜を形成する場合におけるカバレッジを良くすることは,半導体装置の製造方法に係る技術分野において周知の技術(周知技術1)であった。
そして,引用発明1の「前記ドレイン電極24を露出するコンタクトホール」内にも,電極膜を形成することは自明であり,その際に良好なカバレッジが求められるものと認められる。

そうすると,引用例1における引用発明2についての記載,及び,周知技術1に鑑みれば,引用発明1において,「第二の保護膜26」をSiN_(X)にするとともに,各「保護膜」の「エッチング」条件を適宜に選択することで,SiO_(X)からなる第一の保護膜に形成されたコンタクトホールの側壁をテーパー状とし,底面から上部に向かうほど広くなる形状を有するようにすることは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

イ 相違点2について
上記(3)ア(エ)のとおり,引用例1には,段落【0077】に,「ゲート絶縁膜を形成する材料」として「SiO_(2),SiN_(X)」等が「より好まし」こと,「ゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。」ことが記載されている。
一方,上記(4)イのとおり,引用例2には,基板上のゲート電極上に,前記基板から不純物などの拡散を防止するための窒化硅素膜からなるゲート絶縁膜を形成し,その上に,酸化珪素膜からなるゲート絶縁膜を形成することで,2層の積層構造のゲート絶縁膜を形成すること(引用発明3)が記載されている。

ここで,上記(3)イ,及び,(4)イのとおり,引用発明1及び引用発明3は,酸化物半導体層を有するボトムゲート型の薄膜トランジスタという共通の技術分野に係るものである。
そして,上記の「基板から不純物などの拡散を防止する」という引用発明3が有する技術的課題は,技術常識からすれば,当該技術分野においてよく知られた課題であるといえ,引用発明1においても当然に求められる課題であると認められる。

そうすると,引用発明1において,「前記ゲート電極21上に形成されたSiO_(X)から」なる「ゲート絶縁膜22」と「無アルカリガラス基板20上に形成されたゲート電極21」との間に,引用発明3のように,絶縁基板である前記「基板20」から不純物などの拡散を防止するためのSiN_(X)からなるゲート絶縁膜を備える構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。

(8)補正発明の作用効果について
ア 作用効果1について
補正発明が奏する作用効果のうち,コンタクトホールの形状に基づく作用効果(以下「作用効果1」という)について,本願明細書には,「しかし、上記酸化物と窒化物の多層膜でゲート絶縁膜230及び保護膜170を成膜する場合、ドレイン電極拡張部67を露出するコンタクトホール77を形成する時、ゲート絶縁膜230及び保護膜170は、相対的にエッチング速度が低い酸化物が多層膜の中間に挟まっている構造となる。したがって、ゲート絶縁膜230及び保護膜170は、エッチングによって形成されたコンタクトホールの垂直的な構造が不安定な構造、例えば、下側の幅が上側の幅より広い構造を有することもあり、結果的に薄膜トランジスタ(TFT)及び画素電極の間の電気的な接続関係に問題が発生し得る。」,「したがって、本発明の他の実施形態では、酸化物半導体におけるコンタクトホールの形成において、工程改善のための方案を提示する。即ち、本発明では、ドレイン電極拡張部を露出するコンタクトホールを形成時、エッチング工程を2段階に分けることによって、コンタクトホールが垂直的に安定した構造、例えば、底面から上部に向かうほど断面積が次第に広くなる逆梯形状の構造を有する。」(段落【0042】及び【0043】)と記載され,「結果的に、実際の工程に適用した図6を参照すれば、ドレイン電極拡張部を露出するコンタクトホール(図6A)やゲートパッド部を露出するコンタクトホール(図6B)において、コンタクトホールの底面から上部に向かうほど断面積が次第に広くなる垂直的に安定した形状の構造を有することが確認できる。」(段落【0055】)と記載されている。

他方,上記(5)イのとおり,コンタクトホールを,底部から上部に向かうほど広くなるという,本願明細書でいう安定した形状で形成することは当該技術分野における周知の事項であった。
また,上記(5)イのとおり,シリコン酸化膜上にシリコン窒化膜を形成したものに開孔を形成する際,エッチング工程を2段階に分け,前記開孔内に薄膜を形成する場合におけるカバレッジを良くすることができ,前記開孔内に形成する薄膜に段切れ等が生じるおそれを回避できるという,安定したテーパ形状を形成することも,周知の技術(周知技術1)である。

そうすると,「前記第1コンタクトホールは、底面から上部に向かうほど次第に断面積が広くなる形状を有する」ことに基づいて補正発明が奏する作用効果1は,周知技術1を参酌すれば,引用発明1から当業者が予測し得る範囲内のものであるといえる。

イ 作用効果2について
ゲート絶縁膜及び保護膜に基づく作用効果(以下,「作用効果2」という)について,本願明細書には,「ゲート絶縁膜230は、ゲート線22上に形成された下部絶縁膜232、及び下部絶縁膜232上に形成されて酸化物半導体層40と接触する上部絶縁膜234からなる。下部絶縁膜232は酸化物半導体層40と接触しないことが好ましい。下部絶縁膜232は窒化物、例えば窒化ケイ素(SiN_(X))、窒化酸化ケイ素(SiON)、SiONとSiN_(X)との組み合わせ等で形成され、好ましくは窒化ケイ素で形成されるとよい。上部絶縁膜234は、酸化物半導体層40の電気的特性の劣化を防止するために、酸化物、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンなどで形成され、好ましくは酸化ケイ素で形成されるとよい。下部絶縁膜232は約250乃至500nmの厚さに形成され、上部絶縁膜234は約30乃至100nmの厚さに形成されるとよい。」,「一般に、水素は酸化物半導体層40と反応すれば、酸化物半導体層40を還元させ、酸化物半導体層40内に酸素空孔(oxygen vacancy)を生成する。このような酸素空孔は、酸化物半導体層40のチャネル部のキャリア(carrier)濃度を増加させる。したがって、ゲート絶縁膜230内に水素の含有量の高い場合、キャリア濃度が増加するようになって、酸化物薄膜トランジスタのしきい電圧(Vth)が負の方向に移動することによって、酸化物半導体層40が導電体と同様の電気的特性を有するようになる。したがって、ゲート絶縁膜230の場合、酸化物半導体層40と接触するため、ゲート絶縁膜230内の水素含有量を低くするのが重要である。」,「酸化物半導体層40と接触する上部絶縁膜234を酸化物、例えば、酸化ケイ素で形成する場合、反応ガスとして水素含有ガスを使用せずに、N_(2)OガスまたはO_(2)ガスを使用するため、上部絶縁膜234内に水素の含有量が殆どなくて、酸化物半導体層40の電気的特性が劣化するのを防止することができる。」(段落【0028】ないし【0030】)と記載されるとともに,「上記したゲート絶縁膜230の形成過程で説明したように、酸化物半導体層40と接触する保護膜170内の水素含有量を低くするのが重要である。したがって、保護膜170は、酸化物半導体層40と接触する下部保護膜172、及び酸化物半導体層40と接触しないように下部保護膜172上に形成された上部保護膜174からなる。下部保護膜172は、酸化物半導体層40の電気的特性の劣化を防止するために酸化物、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンなどで形成され、好ましくは酸化ケイ素で形成されるとよい。上部保護膜174は窒化物、例えば、窒化ケイ素、窒素酸化ケイ素(SiON)、SiONとSiN_(X)との組み合わせ等で形成され、好ましくは窒化ケイ素で形成されるとよい。下部保護膜172は、約50乃至400nmの厚さに形成され、上部保護膜174は約50乃至400nmの厚さに形成されるとよい。」,「酸化物半導体層40と接触する下部保護膜172を酸化物、例えば酸化ケイ素で形成する場合、反応ガスとして水素含有ガスを使用せずに、N_(2)OガスまたはO_(2)ガスを使用するため、下部保護膜172内に水素の含有量が殆どなくて、酸化物半導体層40の電気的特性が劣化するのを防止することができる。この時、酸化ケイ素のみで形成された保護膜の厚さは350nm以上に形成するとよい。」(段落【0037】及び【0038】)と記載されている。

しかしながら,補正発明は,「薄膜トランジスタ表示板」という物の発明に関するものであり,「酸化物半導体層40と接触する上部絶縁膜234を酸化物、例えば、酸化ケイ素で形成する場合、反応ガスとして水素含有ガスを使用」しないという発明特定事項,「酸化物半導体層40と接触する下部保護膜172を酸化物、例えば酸化ケイ素で形成する場合、反応ガスとして水素含有ガスを使用せずに、N_(2)OガスまたはO_(2)ガスを使用する」ことに関する発明特定事項を有していない。また、「酸化物半導体層」と接触する「ゲート絶縁膜」ないし「保護膜」の水素含有量が小さいという発明特定事項も有していない。
したがって,前記作用効果2のうち,「上部絶縁膜234を酸化物、例えば、酸化ケイ素で形成する場合、反応ガスとして水素含有ガスを使用せずに、N_(2)OガスまたはO_(2)ガスを使用するため、上部絶縁膜234内に水素の含有量が殆どなくて、酸化物半導体層40の電気的特性が劣化するのを防止することができる。」及び「酸化物半導体層40と接触する下部保護膜172を酸化物、例えば酸化ケイ素で形成する場合、反応ガスとして水素含有ガスを使用せずに、N_(2)OガスまたはO_(2)ガスを使用するため、下部保護膜172内に水素の含有量が殆どなくて、酸化物半導体層40の電気的特性が劣化するのを防止することができる。」という効果は補正発明が奏する効果であるとは認められない。

他方,前記作用効果2のうち,「上部絶縁膜234」は「酸化物、例えば、酸化ケイ素」で形成することで「酸化物半導体層40の電気的特性の劣化を防止する」,及び,「酸化物半導体層40と接触する下部保護膜172を酸化物、例えば酸化ケイ素で形成する」ことで「酸化物半導体層40の電気的特性が劣化するのを防止する」という効果は,「前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第2ゲート絶縁膜」と「前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))からなる第1保護膜」を備える補正発明が奏する作用効果であると認められる。
しかしながら、上記(3)ア(オ)のとおり,引用例1の段落【0078】には「このような保護膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。」及び「保護層は酸化物でないと半導体中の酸素が保護層側に移動し、オフ電流が高くなったり、閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれがある。」と記載され,酸化物半導体層に接触する膜を酸化物として,前記半導体層中の酸素が移動することを防止して,電気特性の劣化を防止するという効果は,引用例1に示唆されていると認められる。
そうすると,引用発明1は,「前記チャンネル層23の上に形成されたSiO_(X)」からなる「前記第一の保護膜25」を備えており,また,上記(7)イのとおり,絶縁基板である前記「基板20」から不純物などの拡散を防止するためのSiN_(X)からなるゲート絶縁膜の上に「SiO_(X)から」なる「ゲート絶縁膜22」を備える構成とすることは,引用発明3に基づいて当業者が容易に想到し得たものと認められるから,補正発明における,「上部絶縁膜234」は「酸化物、例えば、酸化ケイ素」で形成することで「酸化物半導体層40の電気的特性の劣化を防止する」,及び,「酸化物半導体層40と接触する下部保護膜172を酸化物、例えば酸化ケイ素で形成する」ことで「酸化物半導体層40の電気的特性が劣化するのを防止する」という作用効果は,いずれも,引用発明1において,引用発明3を参酌すれば当業者が容易に予期し得たものといえる。

ウ 補正発明の作用効果についてのまとめ
以上から,本願明細書に記載の作用効果のうち,補正発明が奏する効果は,引用発明1において,引用発明2,引用発明3及び周知技術1を参酌すれば,当業者が容易に予測し得るものと認められ,格別のものとはいえない。

(9)審判請求書の主張について
ア 審判請求人は,審判請求書において,
(ア)「上記(ア)-(ウ)の構成によって、酸化ケイ素(SiO_(X))から成る第1保護膜と第2ゲート絶縁膜とが酸化物半導体層をサンドイッチ(sandwich)するため、「酸化物半導体層40と直接的に接触する絶縁膜及び保護膜は、酸化物半導体40の電気的特性の劣化を防止する」(本願出願当初明細書の段落[0042])という顕著な効果を奏します。」
(イ)「さらに、上記(オ)(カ)の構成によって、第2ゲート絶縁膜の下には、酸化物よりもエッジング速度が速い(本願出願当初明細書の段落[0042])窒化物によって第1ゲート絶縁膜が成膜され、第1保護膜の上には、酸化物よりもエッジング速度が速い(本願出願当初明細書の段落[0042])窒化物によって第2保護膜が成膜されるため、所定の膜厚が必要なゲート絶縁膜と保護膜の生産性を向上させる(本願出願当初明細書の段落[0042])という顕著な効果を奏します。」
との主張をする。

イ しかしながら,主張された効果については,上記(8)アないしウのとおり,引用発明1において,引用発明3及び周知技術1を参酌すれば,当業者が容易に予測し得るものと認められ,格別のものとはいえない。
よって,審判請求人の当該主張は採用することができない。

ウ また,審判請求人は,審判請求書において,「ここで、引用文献2は、酸化ケイ素(SiO_(X))から成る第1保護膜と第2ゲート絶縁膜とが酸化物半導体層をサンドイッチ(sandwich)する構造を開示してはいるものの、保護膜、ゲート絶縁膜のそれぞれが酸化物、窒化物の2層構造を開示しているわけではありません。 引用文献5は、ゲート絶縁膜を窒化物からなるゲート絶縁膜403aと、ゲート絶縁膜403aに形成された酸化物からなるゲート絶縁膜403bから成る2層構造で形成することを開示しています。しかし、引用文献5には、ゲート絶縁膜403aに窒化物を採用したのは、基板からの不純物の拡散を防止するため(引用文献5の段落[0081]参照)であり、窒化物が酸化物よりもエッジング速度が速いことを利用して生産性を向上させることを意図したものではありません。したがって、引用文献2に係る発明に引用文献5の発明を組み合わせる動機づけはありません。また、引用文献3、4等においても、層間絶縁膜にSiO_(X)とSiN_(X)との2層構造で形成することを開示していますが、窒化物が酸化物よりもエッジング速度が速いことが開示、示唆されておらず、引用文献2に係る発明に引用文献3、4等の発明を組み合わせる動機づけはありません。」との主張をする。

エ しかしながら,引用発明1に引用例2(引用文献5)に記載された引用発明3を適用する動機付けについては,上記(7)イで指摘した通りである。
よって,審判請求人の当該主張は採用することができない。

(10)まとめ
本件補正後の請求項1に係る発明(補正発明)は,引用例1に記載された発明(引用発明1及び2),引用例2に記載された発明(引用発明3),周知例1に見られるような周知技術(周知技術1)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明の特許性の有無について
1 本願発明について
平成27年12月14日に提出された手続補正書による手続補正は,前記の通り却下された。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成27年 3月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「【請求項1】
絶縁基板上に形成されたゲート電極と、
前記ゲート電極上に形成されるゲート絶縁膜と、
前記ゲート絶縁膜を介して、前記ゲート電極と重畳し、チャネル部を有する酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、互いに離隔して配置されたソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極及び前記ドレイン電極の上部に形成される保護膜とを含み、
前記保護膜は、
前記酸化物半導体層の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンのうちの少なくとも1種からなる第1保護膜と、
前記第1保護膜の上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第2保護膜と、
を含み、
前記ゲート絶縁膜は、
前記ゲート電極上に形成されて、SiON、SiN_(X)、及びSiONとSiN_(X)との組み合わせのいずれか1種からなる第1ゲート絶縁膜と、
前記第1ゲート絶縁膜の上に形成されて、酸化ケイ素(SiO_(X))、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化タングステンのうちの少なくとも1種からなる第2ゲート絶縁膜と、
を含み、
前記保護膜は、前記ドレイン電極を露出する第1コンタクトホールを有し、
前記第1コンタクトホールは、底面から上部に向かうほど次第に断面積が広くなる形状を有する、薄膜トランジスタ表示板。」

2 引用文献の記載と引用発明,及び周知例の記載と周知技術
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献2として引用された引用例1の記載は第2の4(3)アのとおりであり,引用発明1及び引用発明2は,それぞれ,第2の4(3)イ及びウで認定したとおりである。
また,原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献5として引用された引用例2の記載は第2の4(4)アのとおりであり,引用発明3は第2の4(4)イで認定したとおりである。
更に,原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用文献4として引用された周知例1の記載は第2の4(5)アのとおりであり,周知技術1は第2の4(5)イで認定したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比
第2の1及び2から明らかなように,本願発明は,補正発明に対し,平成27年12月14日に提出された手続補正書による補正事項1及び2により削除された択一的な要素(第2の2及び3参照。)を並列的に付加したものである。
そして,削除された択一的な要素を並列的に付加しても,新たな相違点が生じるとは認められない。
そうすると,本願発明と引用発明1とを対比すると,第2の4(6)より,両者は,補正発明と引用発明との一致点で一致するとともに,相違点1ないし相違点3の点で相違すると認められる。

4 相違点についての検討
第2の4(7)アで検討したとおり,相違点1及び3に係る構成は,引用例1における記載及び周知技術1に鑑みれば,引用発明1に基づいて当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
また,第2の4(7)イで検討したとおり,相違点2に係る構成は,引用発明1及び引用発明3に基づいて,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
また,第2の4(8)と同様の理由により,本願発明が奏する作用効果は,引用発明1において,引用発明2,引用発明3及び周知技術1を参酌すれば,当業者が容易に予測し得るものと認められ,格別のものとはいえない。

5 まとめ
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用例1に記載された発明(引用発明1及び2),引用例2に記載された発明(引用発明3),周知例1に見られるような周知技術(周知技術1)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第4 結言
したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-08 
結審通知日 2016-09-13 
審決日 2016-09-30 
出願番号 特願2011-123767(P2011-123767)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇多川 勉山口 大志  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 鈴木 匡明
加藤 浩一
発明の名称 薄膜トランジスタ表示板及びその製造方法  
代理人 山下 託嗣  

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