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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M |
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管理番号 | 1325286 |
審判番号 | 不服2015-16329 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-09-04 |
確定日 | 2017-02-16 |
事件の表示 | 特願2011- 53383「膜電極接合体およびその製造方法並びに固体高分子形燃料電池」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月 4日出願公開、特開2012-190656〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年3月10日の出願であって、平成26年10月6日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年12月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年6月16日付けで拒絶査定がされ、この査定を不服として同年9月4日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、その後、当審により、平成28年8月31日付けで平成27年9月4日付けの手続補正は却下されるとともに拒絶理由が通知され、平成28年10月31日付けで手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願の発明は、平成28年10月31日付けの手続補正書によって補正された、特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 [本願発明] 「固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜を挟持する一対の電極触媒層と、該一対の電極触媒層を挟持する一対のガス拡散層を含む固体高分子形燃料電池における膜電極接合体であって、 前記電極触媒層は、その厚みが2μm以上100μm以下であり、かつ高分子電解質と触媒物質と電子伝導性物質とを有する平均粒子径が1μm以上10μm以下の複合触媒粒子からなる層が少なくとも3層積層された積層構造を有し、 前記積層構造のうち、前記固体高分子電解質膜に接する第一の層と前記ガス拡散層に接する第二の層とを構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、前記第一の層と前記第二の層とに挟持された第三の層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多く、 前記第一の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比と、前記第二の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比が同じであることを特徴とする膜電極接合体。」 第3 当審による平成28年8月31日付けの拒絶理由の概要 当審による平成28年8月31日付けの拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 この出願の請求項1-4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:特開2010-257720号公報 引用文献2:特開2010-251140号公報 第4 刊行物の記載事項 1.刊行物1 本願の出願日前に日本国内において頒布され、当審により通知した拒絶の理由で引用された特開2010-257720号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 固体高分子電解質膜を一対の電極触媒層で挟持し、前記一対の電極触媒層を一対のガス拡散層で挟持した固体高分子形燃料電池における膜電極接合体において、 前記一対の電極触媒層は、高分子電解質と触媒物質と電子伝導性物質を有する複合触媒粒子からなり、電極触媒層の厚み方向において、ガス拡散層に接する側と比べて、前記固体高分子電解質膜に接する側において、前記複合触媒粒子中の前記高分子電解質の含有割合が多いことを特徴とする膜電極接合体。 【請求項2】 前記一対の電極触媒層において、前記複合触媒粒子における前記高分子電解質の含有割合が異なる少なくとも2種の前記電極触媒層が積層されていることを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。」 「【請求項4】 前記一対の電極触媒層において、前記複合触媒粒子の平均粒子径が1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の膜電極接合体。」 「【0008】 本発明は、電極触媒層において、高分子電解質と触媒物質と電子伝導性物質を有する複合触媒粒子からなり、電極触媒層の厚み方向において、ガス拡散層に接する側と比べて、固体高分子電解質膜に接する側において、高分子電解質の含有割合が多い複合触媒粒子を配置することで、電極触媒層と固体高分子電解質膜の界面におけるプロトン伝導性を高め、さらに、複合触媒粒子の平均粒子径を制御することで、電極触媒層中のガス拡散性を確保し、出力性能が向上する膜電極接合体及びその製造方法並びに固体高分子形燃料電池を提供することである。」 「【0020】 本発明によれば、電極触媒層において、高分子電解質と触媒物質と電子伝導性物質を有する複合触媒粒子からなり、電極触媒層の厚み方向において、ガス拡散層に接する側と比べて、固体高分子電解質膜に接する側において、高分子電解質の含有割合が多い複合触媒粒子を配置することで、電極触媒層と固体高分子電解質膜の界面におけるプロトン伝導性を高め、さらに、複合触媒粒子の平均粒子径を制御することで、ガス拡散性を確保し、出力性能が向上する膜電極接合体及びその製造方法並びに固体高分子形燃料電池を提供することができる。」 2.刊行物2 本願の出願日前に日本国内において頒布され、当審により通知した拒絶の理由で引用された特開2010-251140号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、「…」は記載の省略を表す。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、膜電極接合体、膜電極接合体を備えた燃料電池、及び膜電極接合体の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 燃料電池は、電解質膜の面上に触媒層とガス拡散層とがこの順番で積層された膜電極接合体を備える。従来、燃料電池の性能を向上させるために、ガス拡散層側よりも高分子電解質膜側に位置する触媒層のアイオノマ(「高分子電解質」ともいう。)量(g/cm^(3))を大きくする技術が知られている(例えば、特許文献1)。これにより、水素イオン(H^(+)。「プロトン」ともいう。)の移動抵抗が低減され、ガス拡散層から供給される反応ガス(燃料ガス又は酸化ガス)のガス拡散性が向上される。 【0003】 しかしながら、燃料電池の動作環境によっては電解質膜及び触媒層から多量の水が蒸発する場合がある。ガス拡散層側に位置する触媒層のアイオノマ量が小さいと、電解質膜及び触媒層で蒸発した水がガス拡散層を通り反応ガスと共に燃料電池外に排出される。この結果、電解質膜及び触媒層の含水量が低下し、電池性能が低下する場合があった。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 従って本発明は、プロトンの移動抵抗の低減とガス拡散性の向上に加え、電解質膜及び触媒層の含水量の低下を防止する技術を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することができる。 【0007】 [適用例1]膜電極接合体であって、電解質膜と、前記電解質膜の面上に形成され、触媒とアイオノマとを含む触媒層と、前記触媒層の面上に形成されたガス拡散層と、を備え、前記触媒層は、前記電解質膜と接する第1の層部分と、前記ガス拡散層と接する第2の層部分と、前記第1と第2の層部分の間に位置する第3の層部分と、を有し、前記第1と第2の層部分のそれぞれのアイオノマ量は、前記第3の層部分のアイオノマ量よりも大きい、膜電極接合体。…」 「【0028】 触媒層14,15の厚さは、特に限定されないが、それぞれ2μm以上25μm以下であることが好ましい。 適用例1の膜電極接合体によれば、電解質膜と接する第1の層部分のアイオノマ量は第3の層部分のアイオノマ量より大きいことから、プロトンの移動抵抗を低減できる。また、ガス拡散層と接する第2の層部分のアイオノマ量は第3の層部分のアイオノマ量よりも大きいことから、電解質膜及び触媒層に含まれる水の一部が蒸発しても、蒸発した水のガス拡散層側への移動をアイオノマにより抑制し、蒸発した水が燃料電池外へ排出されるのを抑制できる。この結果、電解質膜及び触媒層の含水量の低下を防止することができる。…」 第5 当審の判断 1.刊行物1に記載された発明 刊行物1の【請求項1】の記載によれば、刊行物1には、「固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜を挟持する一対の電極触媒層と、該一対の電極触媒層を挟持する一対のガス拡散層を含む固体高分子形燃料電池における膜電極接合体」が記載されているといえる。 刊行物1の【請求項1】、【請求項2】、【請求項4】の記載によれば、刊行物1の「電極触媒層」は、高分子電解質と触媒物質と電子伝導性物質とを有する平均粒子径が1μm以上10μm以下の複合触媒粒子からなる層が少なくとも2層積層された積層構造を有しているものであるといえる。 刊行物1の【請求項1】の記載によれば、電極触媒層の厚み方向において、ガス拡散層に接する側と比べて、前記固体高分子電解質膜に接する側において、前記複合触媒粒子中の前記高分子電解質の含有割合が多いのであるから、上記2層積層された積層構造のうち、前記固体高分子電解質膜に接する層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、前記ガス拡散層に接する層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多いものであるといえる。 したがって、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 [引用発明] 「固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜を挟持する一対の電極触媒層と、該一対の電極触媒層を挟持する一対のガス拡散層を含む固体高分子形燃料電池における膜電極接合体であって、 前記電極触媒層は、高分子電解質と触媒物質と電子伝導性物質とを有する平均粒子径が1μm以上10μm以下の複合触媒粒子からなる層が少なくとも2層積層された積層構造を有し、 前記積層構造のうち、前記固体高分子電解質膜に接する層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、前記ガス拡散層に接する層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多い、 膜電極接合体。」 2.本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明とを対比する。 本願発明と引用発明は、「固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜を挟持する一対の電極触媒層と、該一対の電極触媒層を挟持する一対のガス拡散層を含む固体高分子形燃料電池における膜電極接合体」である点で一致する。 本願発明と引用発明は、何れも、「電極触媒層」は、「高分子電解質と触媒物質と電子伝導性物質とを有する平均粒子径が1μm以上10μm以下の複合触媒粒子からなる層が少なくとも2層積層された積層構造を有」する点では共通するといえるが、「電極触媒層」が、本願発明では、「その厚みが2μm以上100μm以下」であるのに対し、引用発明では、厚みが特定されていない点では相違する。 本願発明の「電極触媒層」が有する「少なくとも3層積層された積層構造」は、「前記固体高分子電解質膜に接する第一の層」、「前記第一の層と第二の層とに挟持された第三の層」、「前記ガス拡散層に接する第二の層」の少なくとも3層が、固体高分子電解質膜側からガス拡散層側へとこの順に積層されたものであって、「前記固体高分子電解質膜に接する第一の層と前記ガス拡散層に接する第二の層とを構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、前記第一の層と前記第二の層とに挟持された第三の層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多く、 前記第一の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比と、前記第二の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比が同じである」ものである。 引用発明の「電極触媒層」が有する「少なくとも2層積層された積層構造」は、「前記固体高分子電解質膜に接する層」、「前記ガス拡散層に接する層」の2層が、固体高分子電解質膜側からガス拡散層側へとこの順に積層されたものであって、「前記積層構造のうち、前記固体高分子電解質膜に接する層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、前記ガス拡散層に接する層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多い」ものである。 両者の有する積層構造のうち、引用発明の「前記固体高分子電解質膜に接する層」は、本願発明の「前記固体高分子電解質膜に接する第一の層」に相当する。 また、本願発明の「前記第一の層と第二の層とに挟持された第三の層」と、引用発明の「前記ガス拡散層に接する層」とは、何れも、「前記第一の層のガス拡散層側に積層される層」であって、「前記固体高分子電解質膜に接する第一の層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、前記第一の層のガス拡散層側に積層される層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多い」といえる点で共通するものである。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記積層構造のうち、前記固体高分子電解質膜に接する第一の層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、前記第一の層のガス拡散層側に積層される層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多い」点では共通するものであるといえるが、複合触媒粒子からなる層が少なくとも2層積層された積層構造を有する電極触媒層における、固体高分子電解質膜に接する層のガス拡散層側に積層される層が、本願発明では、少なくとも「前記第一の層と第二の層とに挟持された第三の層」と「前記ガス拡散層に接する第二の層」の2層であって、「前記ガス拡散層に接する第二の層」に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、「前記第一の層と第二の層とに挟持された第三の層」と比べて多いものであり、「前記第一の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比と、前記第二の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比が同じである」のに対し、引用発明では、少なくとも「ガス拡散層に接する層」の1層である点では相違する。 以上をまとめると、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 [一致点] 「固体高分子電解質膜と、該固体高分子電解質膜を挟持する一対の電極触媒層と、該一対の電極触媒層を挟持する一対のガス拡散層を含む固体高分子形燃料電池における膜電極接合体であって、 前記電極触媒層は、高分子電解質と触媒物質と電子伝導性物質とを有する平均粒子径が1μm以上10μm以下の複合触媒粒子からなる層が少なくとも2層積層された積層構造を有し、 前記積層構造のうち、前記固体高分子電解質膜に接する第一の層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、前記第一の層のガス拡散層側に積層される層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多い、 膜電極接合体。」 [相違点] 相違点1 「電極触媒層」が、本願発明では、「その厚みが2μm以上100μm以下」であるのに対し、引用発明では、厚みが特定されていない点。 相違点2 複合触媒粒子からなる層が少なくとも2層積層された積層構造を有する電極触媒層における、固体高分子電解質膜に接する層のガス拡散層側に積層される層が、本願発明では、少なくとも「前記第一の層と第二の層とに挟持された第三の層」と「前記ガス拡散層に接する第二の層」の2層であって、「前記ガス拡散層に接する第二の層」に含まれる前記高分子電解質の含有割合が、「前記第一の層と第二の層とに挟持された第三の層」と比べて多いものであり、「前記第一の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比と、前記第二の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比が同じである」のに対し、引用発明では、少なくとも「ガス拡散層に接する層」の1層である点。 3.相違点についての検討 燃料電池において、いわゆるフラッディングが生じたり、ドライアップが生じたりしないように、電解質膜及び触媒層の含水量を調整する必要があることは、当業者に周知の課題であるところ、引用発明がこのような課題を内在することは、当業者には明らかである。 また、引用発明は、刊行物1の【0008】の記載によれば、電極触媒層と固体高分子電解質膜の界面におけるプロトン伝導性を高めるために、電極触媒層の厚み方向において、ガス拡散層に接する側と比べて、固体高分子電解質膜に接する側において、高分子電解質の含有割合が多い複合触媒粒子を配置したもの、すなわち、ガス拡散層側よりも高分子電解質膜側に位置する触媒層のアイオノマ(高分子電解質)量を大きくしたものであるところ、刊行物2に接した当業者であれば、引用発明が、刊行物2の【0002】に記載された従来技術に該当しており、したがって、【0003】に記載された、燃料電池の動作環境によっては電解質膜及び触媒層の含水量が低下すること、すなわち、ドライアップという課題を有するものであることを当然に理解するものである。 そうであれば、当業者にとって上記周知の課題が内在していることが明らかである引用発明において、刊行物2に記載された上記課題を解決するために、刊行物2の【0007】に記載された、「触媒層を、前記電解質膜と接する第1の層部分と、前記ガス拡散層と接する第2の層部分と、前記第1と第2の層部分の間に位置する第3の層部分と、を有し、前記第1と第2の層部分のそれぞれのアイオノマ量は、前記第3の層部分のアイオノマ量よりも大きいものとする」という課題解決手段を適用して、ガス拡散層に接する層のガス拡散層と直接接する層部分の複合触媒粒子に含まれる高分子電解質の含有割合を大きくすることによって、本願発明でいう「第一の層」と「第二の層」を構成する複合触媒粒子に含まれる「高分子電解質の含有割合」を、「第三の層を構成する複合触媒粒子に含まれる前記高分子電解質の含有割合と比べて多い」、「3層積層された積層構造」とすることは当業者が容易に想到し得ることであり、その際、高分子電解質の含有割合を大きくした「第二の層」を、同様に含有割合が多い「第一の層」と同じ複合触媒材料によって構成することにより、第一の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比と、前記第二の層を構成する前記複合触媒粒子に含まれる前記電子伝導性物質の質量に対する前記高分子電解質の質量比を同じとすることは、コストや手間を低減するという観点から、当業者には自然に想到し得ることである。 さらに、その際の触媒層の厚さを、刊行物2の【0028】に記載されたように、第1?第3の層部分を有する構成としたときに好ましいとされる2μm以上25μm以下とすることは適宜なし得ることである。 また、本願発明が奏する、電極触媒層と固体高分子電解質膜の界面におけるプロトン伝導性を高めること、複合触媒粒子の平均粒子径を制御することで、電極触媒層中のガス拡散性を確保しつつ、固体高分子電解質膜および電極触媒層中のドライアップを防ぐ、との効果(本願明細書の【0019】)について検討する。 引用発明は、「電極触媒層と固体高分子電解質膜の界面におけるプロトン伝導性を高め、さらに、複合触媒粒子の平均粒子径を制御することで、電極触媒層中のガス拡散性を確保」(刊行物1の【0020】)する効果を奏するものであり、また、刊行物2に記載された技術は、「ガス拡散層と接する第2の層部分のアイオノマ量は第3の層部分のアイオノマ量よりも大きいことから、電解質膜及び触媒層に含まれる水の一部が蒸発しても、蒸発した水のガス拡散層側への移動をアイオノマにより抑制し、蒸発した水が燃料電池外へ排出されるのを抑制できる。この結果、電解質膜及び触媒層の含水量の低下を防止することができる。」(刊行物2の【0007】)との効果を奏するものであるから、引用発明において、ガス拡散層と接する第2の層部分のアイオノマ量を第3の層部分のアイオノマ量よりも大きくする刊行物2に記載された技術を適用した発明が、本願発明が奏する上記効果を奏することは当業者が予測し得ることであり、格別のものとはいえない。 したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 したがって、その余の請求項に係る発明に論及するまでもなく本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-12-06 |
結審通知日 | 2016-12-13 |
審決日 | 2017-01-05 |
出願番号 | 特願2011-53383(P2011-53383) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 藤原 敬士 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
千葉 輝久 小川 進 |
発明の名称 | 膜電極接合体およびその製造方法並びに固体高分子形燃料電池 |