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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H02M
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1325448
審判番号 不服2016-9505  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-27 
確定日 2017-03-21 
事件の表示 特願2011-157826「電力変換装置の初期充電装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 4日出願公開、特開2013- 27095、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年7月19日の出願であって、平成27年3月13日付けで拒絶理由通知がされ、平成27年5月8日付けで手続補正がされ、平成27年10月13日付けで最後の拒絶理由通知がされ、平成28年4月4日付けで拒絶査定がされたものである。これに対し、平成28年6月27日に本件審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年4月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項:1 引用文献等:1-3
引用文献1の段落38-50及び第1-2図等には、
電力変換装置の入力部に備えられ、直流電源から入力される電圧を平滑するための平滑コンデンサを初期充電する初期充電装置であって、前記直流電源と平滑コンデンサとの間に接続され、通流率を調節して前記平滑コンデンサの充電電流を制御するチョッパ装置と、このチョッパ装置と前記直流電源との間を開閉する充電切換スイッチとで構成されており、前記平滑コンデンサの電圧が前記直流電源の電圧に等しくなって前記平滑コンデンサが十分プリチャージされると前記充電切換スイッチを切り換える電力変換装置の初期充電装置の発明が記載されている。

ここで、請求項1に係る発明と、引用文献1に記載された技術の相違点は下記のとおりである。
<相違点>
本願請求項1に係る発明は、前記チョッパ装置の通流率が100%となり、かつ充電電流がゼロになることにより充電の完了を検知し、この充電の完了の検知により前記充電切換スイッチを切り換えているのに対し、引用文献1の発明は前記平滑コンデンサの電圧が前記直流電源の電圧に等しくなって前記平滑コンデンサが十分プリチャージされると前記充電切換スイッチを切り換える点で相違する。

上記相違点について、次のように検討する。
引用文献2に、コンデンサの初期充電時に過大電流が流れることを防止するために、デューティ比を小さい値から徐々に大きくして100%に近づけるように充電する発明が記載されており(段落45及び第3図等参照)、この記載からデューティ比が100%となったときに充電が完了したと判断することは、当業者が適宜決定すべき設計事項である。
また、充電が完了すると充電電流がほとんど流れなくなることは自明であり、充電電流がゼロになったときに充電が完了したと判断することは、引用文献3に記載されているように周知の技術である(段落19及び第2-3図等参照)。
引用文献3のものは、充電電流が所定値以下になったときに充電完了と判断しているが、電流の検出には誤差があるものであり、ゼロを検出するのにゼロに近い所定値を検出することは、よく行われていることである。

通流率が100%になったことを検知して、充電完了と判定することに加えて、電流が所定以下となったことを検出することの両方が成立して充電完了と判断することは、検出の信頼性が増すことになり、引用文献1が持つ本来の作用、機能を阻害するものではない。よって、引用文献1と引用文献3を組み合わせることは、当業者にとって容易である。

よって、請求項1に係る発明は、引用文献1-2に記載された発明及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて、当業者であれば容易になし得たものである。

・請求項 2 (引用文献等 1-2)
引用文献2の発明は、デューティ比(通流率に相当)を時間的に漸次増加することにより充電電流を調整するものである。

・請求項 3 (引用文献等 1-2)
引用文献1のものは、平均電流値を一定に制御するものであるが(段落41及び第2図等参照)、平均電流値に代えて電流値を一定に制御することは、当業者が適宜選択すればよいことである。

・請求項 4 (引用文献等 1-4)
引用文献3(段落31-32及び第1図等参照)に端子電圧に応じて充電方式が切り換えられることが、引用文献4(段落34及び第1-2図等参照)に操作パネルで充電方式を選択することが記載されている。

・請求項 5 (引用文献等 1-4)
引用文献1のものは、充電が完了した時点で充電切換スイッチに切換指令を送り、前記チョッパ装置を前記入力回路から切り離している。

・請求項 6 (引用文献等 1-5)
引用文献5に、初期充電回路の数を削減するために、複数の電力変換装置に対する初期充電回路を1つだけ配置することが記載されている(段落16及び第1図等参照)。

<引用文献等一覧>
1.特開2007-336609号公報
2.特開2004-304939号公報
3.特開平10-248263号公報
4.特開2007-299532号公報
5.特開2005-94885号公報
6.特開2002-354830号公報

第3 審判請求時の補正について
平成28年6月27日付けの審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項乃至第5項の規定に適合するものである。
また、以下の「第4 本願発明」から「第6 当審の判断」までに示すように、補正後の請求項1-5に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、特許法第17条の2第6項の規定に適合するものである。

第4 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は、平成28年6月27日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
電力変換装置の入力部に備えられ、直流電源から入力される電圧を平滑するための平滑コンデンサを初期充電する初期充電装置であって、前記直流電源と平滑コンデンサとの間に接続され、通流率を調節して前記平滑コンデンサの充電電流を制御するチョッパ装置と、このチョッパ装置と前記直流電源との間を開閉する充電切換スイッチとで構成されおり、
前記平滑コンデンサを充電するとき、前記チョッパ装置の通流率を予め定めた充電時間内に0%から100%に漸次増加するように調整し、前記チョッパ装置の通流率が100%となり、かつ前記充電電流がゼロになることにより充電の完了を検知し、この充電の完了の検知により前記充電切換スイッチを切り換えることを特徴とする電力変換装置の初期充電装置。
【請求項2】
前記初期充電装置は、前記チョッパ装置により、前記電力変換装置の平滑コンデンサを充電するとき、その通流率を一定の増加率で時間的に漸次増加することにより充電電流を調整する制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の初期充電装置。
【請求項3】
前記初期充電装置は、前記チョッパ装置により、前記電力変換装置の平滑コンデンサを充電するとき、前記平滑コンデンサの充電電流が一定になるように前記チョッパ装置の通流率を制御する制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の初期充電装置。
【請求項4】
前記初期充電装置は、前記チョッパ装置により、前記電力変換装置の平滑コンデンサを充電するとき、その通流率を時間的に漸次増加することにより充電電流を調整する制御手段と、前記平滑コンデンサの充電電流が一定になるように前記チョッパ装置の通流率を制御する制御手段とを備え、前記両制御手段が選択可能であることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置の初期充電装置。
【請求項5】
入力部に直流電源から入力される電圧を平滑するための平滑コンデンサを備えた複数の電力変換装置を共通の直流電源に並列に接続し、前記複数の平滑コンデンサを充電する電力変換装置の初期充電装置であって、前記共通の直流電源と前記複数の電力変換装置の平滑コンデンサとの間に、電流を断続して通流率を制御するチョッパ装置と、このチョッパ装置と前記直流電源との間を開閉する充電切換スイッチとからなり、
前記平滑コンデンサを充電するとき、前記チョッパ装置の通流率を予め定めた充電時間内に0%から100%に漸次増加するように調整し、前記チョッパ装置の通流率が100%となり、かつ前記充電電流がゼロになることにより充電の完了を検知し、この充電の完了の検知により前記充電切換スイッチを切り換える回路を共通に1つ設けたことを特徴とする電力変換装置の初期充電装置。」

第5 刊行物
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献1(特開2007-336609号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線部は当審により付与したものである。

「【0001】
本発明は、電源安定化コンデンサをプリチャージするためのプリチャージ回路に関する。」

「【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係るプリチャージ回路の構成を表すものである。このプリチャージ回路は、バッテリ1の負荷であるインバータ41に並列接続された電源安定化コンデンサ3に対し、電源投入時などに後述する予備充電(プリチャージ)を行う回路であり、スイッチング回路21と、切換回路22と、放電回路23と、カレントトランス24,25と、最大電流検出回路26と、最小電流検出回路27と、スイッチング制御回路28と、タイマ回路29とを備えている。
【0020】
バッテリ1は、プリチャージ回路の入力端子T1,T2間に挿入配置されており、これら入力端子T1,T2間に直流入力電圧Vinを供給し、負荷であるインバータ41およびモータ42へ電力供給を行うための電源である。なお、入力端子T1は、高圧ラインLHおよび後述する切換回路22内のスイッチング素子S4を介してプリチャージ回路の出力端子T3に接続され、入力端子T3は、低圧ラインLLを介してプリチャージ回路の出力端子T4に接続されている。
【0021】
スイッチング回路21は、一対のスイッチング素子S1,S2と、コイルLと、4つの抵抗器R11,R12,R21,R22とを有している。スイッチング素子S1,S2は例えば電界効果型トランジスタにより構成され、本実施の形態ではNチャネル型のMOS-FET(Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor)により構成されている。スイッチング素子S1は、ゲートが抵抗器R11,R12の一端に共通接続され、ソースが接続点P3および抵抗器R12の他端に共通接続され、ドレインが後述するカレントトランス24を介して高圧ラインLH上の接続点P1に接続されている。スイッチング素子S2は、ゲートが抵抗器R21,R22の一端に共通接続され、ソースが低圧ラインLL上の接続点P2および抵抗器R22の他端に共通接続され、ドレインが接続点P3に接続されている。なお、抵抗器R11の他端および抵抗器R21の他端は、後述するスイッチング制御回路28の出力端子に接続されている。また、コイルLの一端は接続点P3に接続され、他端は後述するカレントトランス25内の1次側巻線251の一端に接続されている。このような構成によりスイッチング回路21では、詳細は後述するが、スイッチング制御回路28からの制御信号SG1,SG2によってスイッチング素子S1,S2がそれぞれ互いに同期してオン・オフ動作(PWM(Pulse Width Modulation;パルス幅変調)動作)をすると共に、コイルLを流れる電流(コイル電流IL)によってコイルLにエネルギー(電荷)が蓄積されるようになっている。
【0022】
なお、スイッチング素子S1,S2は、上記のように電界効果型トランジスタにより構成されるとは限らず、例えばバイポーラトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor)などにより構成されていてもよい。
【0023】
切換回路22は、一対のスイッチング素子S3,S4と、4つの抵抗器R31,R32,R41,R42とを有している。スイッチング素子S3,S4は、スイッチング素子S1,S2と同様に例えば電界効果型トランジスタにより構成され、本実施の形態ではNチャネル型のMOS-FETにより構成されている。スイッチング素子S3は、ゲートが抵抗器R31,R32の一端に共通接続され、ソースが接続点P6および抵抗器R32の他端に共通接続され、ドレインが高圧ラインLH上の接続点P4を介して出力端子T3に接続されている。スイッチング素子S4は、高圧ラインLH上に挿入配置されており、ゲートが抵抗器R41,R42の一端に共通接続され、ソースが高圧ラインLHを介して抵抗器R42の他端、接続点P4および出力端子T3に接続され、ドレインが高圧ラインLHを介して入力端子T1に接続されている。なお、抵抗器R31の他端および抵抗器R41の他端は、後述するスイッチング制御回路28の出力端子に接続され、接続点P6は、後述するカレントトランス25内の1次側巻線251の他端、および後述する放電回路23内のスイッチング素子S5のドレインに接続されている。このような構成により切換回路22では、詳細は後述するが、スイッチング制御回路28からの制御信号SG3,SG4によってスイッチング素子S3,S4がそれぞれ互いに同期してオン・オフ状態となり、後述する経路51(プリチャージ経路)と経路52(給電経路)とを切り換えるようになっている。
【0024】
なお、スイッチング素子S3,S4も、スイッチング素子S1,S2と同様に電界効果型トランジスタにより構成されるとは限らず、例えばバイポーラトランジスタやIGBTなどにより構成されていてもよい。
【0025】
放電回路23は、スイッチング素子S5と、2つの抵抗器R51,R52とを有している。スイッチング素子S5は、スイッチング素子S1?S4と同様に例えば電界効果型トランジスタにより構成され、本実施の形態ではNチャネル型のMOS-FETにより構成されている。スイッチング素子S5は、ゲートが抵抗器R51,R52の一端に共通接続され、ソースが低圧ラインLL上の接続点P5に接続され、ドレインが接続点P6に接続されている。なお、抵抗器R51の他端は、後述するスイッチング制御回路28の出力端子に接続されている。このような構成により放電回路23では、詳細は後述するが、スイッチング制御回路28からの制御信号SG5によってスイッチング素子S5がオン・オフ状態となり、オフ状態になったときに図中の放電電流Idによって経路51上の(コイルLに蓄積された)残存エネルギー(電荷)が放出されるようになっている。」

「【0031】
スイッチング制御回路28は、最大電流検出回路26から供給される最大電流値および最小電流検出回路27から供給される最小電流値に基づいて制御信号SG1?SG5を生成すると共に出力し、スイッチング回路21におけるスイッチング素子S1,S2、切換回路22におけるスイッチング素子S3,S4、および放電回路23におけるスイッチング素子S5のスイッチング動作をそれぞれ制御するものである。具体的には、スイッチング素子S1,S2のオン・オフ状態を制御して互いに同期したPWM動作をさせ、そのスイッチング周波数およびデューティ比をそれぞれ変化させるようになっている。また、スイッチング素子S3?S5を制御して互いに同期したオン・オフ状態を設定するようになっている。」

「【0037】
次に、図1および図2を参照して、以上のような構成のプリチャージ回路の動作について詳細に説明する。
【0038】
ここで図2は、本実施の形態のプリチャージ回路によるプリチャージ動作の一例をタイミング図で表したものであり、(A)は直流出力電圧Voutを、(B)はコイル電流IL(プリチャージ期間においては出力電流Ioutに対応する)を、(C)?(E)は制御信号SG1?SG3を、(F)は制御信号SG4および制御信号SG5を、それぞれ表している。
【0039】
まず、タイミングt0においてバッテリ1の電源が投入された場合(直流入力電圧Vinが供給開始となった場合)、このタイミングt0以降は、プリチャージ回路による電源安定化コンデンサ3へのプリチャージ期間T1となる。なお、このプリチャージ期間T1においては、図示しない制御回路によってインバータ41の動作が停止し、モータ42の駆動動作も停止している。
【0040】
すると、このタイミングt0において、スイッチング制御回路28からの制御信号SG1?SG5のうち、制御信号SG1,SG3が「H」レベルとなってスイッチング素子S1,S3がそれぞれオン状態に設定されると共に(図2(C),(E))、制御信号SG2,SG4,SG5が「L」レベルとなってスイッチング素子S2,S4,S5がそれぞれオフ状態に設定される(図2(D),(F))。したがって、スイッチング素子S1のドレイン電流I1が流れ、これによりコイル電流ILも流れてコイルLに電荷が蓄積されると共に、プリチャージ経路51を介してその蓄積された電荷が出力電流Ioutとして流れ、電源安定化コンデンサ3に対するプリチャージがなされる。よって、コイル電流IL(出力電流Iout)が線形的に増加する(図2(B))と共に、直流出力電圧Voutも0Vから線形的に増加する(図2(A))。なお、制御信号SG3?SG5については、プリチャージ期間T1において固定値であり(図2(D)?(F))、後述するタイミングt6まで変化しない。
【0041】
ここで、スイッチング制御回路28は、出力電流Ioutの平均値が所定の設定値(例えば、図2中の平均電流値Iave)で一定となるようにするため、スイッチング素子S1のドレイン電流I1の最大値に対応する最大電流検出回路26からの最大電流値に基づいて、出力電流Imaxの最大値が所定の設定値(例えば、図2中の最大電流値Imax)で一定となるように制御信号SG1,SG2を生成し、スイッチング素子S1,S2のスイッチング周波数およびデューティ比を制御する。
【0042】
したがって、例えばタイミングt1で出力電流Ioutの最大値が最大電流値Imaxになると(図2(B))、スイッチング制御回路28は、制御信号SG1を「L」レベルにする(図2(C))と共に制御信号SG2を「H」レベルにし(図2(D))、これによりスイッチング素子S1がオフ状態になると共にスイッチング素子S2がオン状態になる。
【0043】
すると、ドレイン電流I1の代わりにスイッチング素子S2のドレイン電流I2が流れ、これによりコイル電流ILおよび出力電流Ioutが線形的に減少する(図2(B))。なお、このときも出力電流Iout自体は流れているので、引き続き直流出力電圧Voutは線形的に増加する(図2(A))。
【0044】
ここで、スイッチング制御回路28は、上記のように出力電流Ioutの平均値が一定に保たれるようにするため、出力電流Ioutの最大値に加え、コイル電流ILの最小値に対応する最小電流検出回路27からの最小電流値に基づいて、出力電流Imaxの最小値も所定の設定値(例えば、図2中の最小電流値Imin)で一定となるように制御信号SG1,SG2を生成し、スイッチング素子S1,S2のスイッチング周波数およびデューティ比を制御する。
【0045】
したがって、例えばタイミングt2で出力電流Ioutの最小値が最小電流値Iminになると(図2(B))、スイッチング制御回路28は、制御信号SG1を「H」レベルにする(図2(C))と共に制御信号SG2を「L」レベルにし(図2(D))、これによりタイミングt0?t1の期間と同様に、スイッチング素子S1がオフ状態になると共にスイッチング素子S2がオン状態になる。よって、ドレイン電流I2の代わりにドレイン電流I1が流れることによって、コイル電流ILおよび出力電流Ioutが線形的に増加し(図2(B))、直流出力電圧Voutも線形的に増加する(図2(A))。
【0046】
このようにしてタイミングt2以降も、タイミングt2?t3においてコイル電流ILおよび出力電流Ioutが線形的に増加し、タイミングt3?t4においてコイル電流ILおよび出力電流Ioutが線形的に減少し、タイミングt4?t5においてコイル電流ILおよび出力電流Ioutが線形的に増加し(図2(B))、…という動作を繰り返し、直流出力電圧Voutが線形的に増加していくことになる(図2(A))。
【0047】
そして例えばタイミングt6において、直流出力電圧Voutがバッテリ1からの供給電圧である直流入力電圧Vinに等しくなると、すなわち電源安定化コンデンサ3に対して十分なプリチャージがなされると、スイッチング制御回路28は、制御信号SG1,SG3を「L」レベルにする(図2(C),(E))と共に制御信号SG2,SG4,SG5を「H」レベルにし(図2(D),(F))、これによりスイッチング素子S1,S3ががそれぞれオフ状態に設定される(図2(C),(E))と共に、スイッチング素子S2,S4,S5がそれぞれオン状態に設定される(図2(D),(F))。
【0048】
すると、切換回路22によってプリチャージ経路51から給電経路52への経路切換がなされ、この給電経路52を介してバッテリ1からインバータ41へ直流出力電圧Voutが供給され、このインバータ回路41によって変換された交流電圧に基づいてモータ42が駆動動作を開始することとなる。すなわち、タイミングt0?t6までのプリチャージ期間T1が完了し、タイミングt6以降はバッテリ1による通常の給電期間T2となる(図2)。なお、この給電期間T2においては、制御信号SG1?SG5は固定信号となり、スイッチング素子S1?S5の状態も固定される。
【0049】
また、スイッチング素子S5がオン状態になることから(図2(F))、放電回路23内でスイッチング素子S5のドレイン電流(放電電流Id)が流れ、これによりコイルLの経路上の残存エネルギー(電荷)が低圧ラインLL上へ放出され、回路素子の破壊等につながるエネルギーが残ることはない。」

「【0057】
また、タイマ回路29によってプリチャージ期間T1を一定期間以下に制限するようにしたので、例えば何らかの不具合(回路の故障等)によって正常なプリチャージ動作ができなくなってしまったような場合でも、一定期間後には必ずプリチャージ動作を停止させることができ、無駄なプリチャージ動作による回路素子の破壊や熱の発生等を回避することができる。よって、回路の信頼性をより向上させることが可能となる。」

以上の記載(特に、下線部)、及び、図1、図2の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「バッテリ1の負荷であるインバータ41に並列接続された電源安定化コンデンサ3に対し、プリチャージを行うプリチャージ回路であって、
前記バッテリ1と前記電源安定化コンデンサ3との間に接続され、スイッチング素子S1、S2のスイッチング周波数およびデューティ比を制御して、前記電源安定化コンデンサ3にプリチャージする出力電流Ioutを、最大電流値Imax、最小電流値Iminとなるように制御するスイッチング回路21と、
前記バッテリ1から前記電源安定化コンデンサ3への経路を、プリチャージ経路51から給電経路52へと経路切換を行う、前記スイッチング回路21と前記電源安定化コンデンサ3との間に接続された切換回路22と、
前記スイッチング回路21が有するコイルLに蓄積された残存エネルギーを前記切換回路22による経路切換後に放出する放電回路23と、
前記スイッチング回路21、前記切換回路22および前記放電回路23におけるスイッチング素子を制御するスイッチング制御回路28と、
で構成されおり、
前記電源安定化コンデンサ3の両端の直流出力電圧Voutがバッテリ1からの供給電圧であるVinに等しくなり前記電源安定化コンデンサ3に対して十分なプリチャージがなされると、前記切換回路22によってプリチャージ経路51から給電経路52への経路切換がなされるプリチャージ回路。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献2(特開2004-304939号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0045】
充電回路42は、制御部120の制御にしたがい交流電源41から供給される電力により電気二重層コンデンサ44を定電流充電する。本実施形態で蓄電手段として用いられる電気二重層コンデンサ44の特徴として、充電する時間または放電する時間にしたがって端子間電圧が変化することになるが、電気二重層コンデンサの静電容量、定電流充電時の充電電流、負荷などが一定であれば図5および図6に示すように充電または放電時間と端子間電圧の変化の関係はほぼ一定となる。しかしながら、電気二重層コンデンサ44がほとんど放電している場合、つまり端子間電圧が小さい場合においては単純に電力を供給して電気二重層コンデンサ44を充電すると、最初に過大な電流が流れてしまうことになり、上記図5に示す充電時間と電圧との関係とは異なることとなってしまう。このような過大な電流が流れてしまうことを防止するため、本実施形態では充電回路42デューティー制御によって充電を行うようにしている。すなわち、充電期間の最初はディーティーが小さく、時間がたつにつれて徐々にデューティーを挙げて100%に近づけるといった充電制御を行うのである。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用文献3(特開平10-248263号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0019】ステップS4で所定時間(例えば、2秒)が経過してメインスイッチ8のONと同時にスタートしたタイマーがタイムアップし、ステップS5で電圧センサS2 で検出したインバータ6の直流部の電圧VPDU (即ち、コンデンサ17の電圧)が所定電圧V1 以上になり、且つステップS6で電流センサS1 で検出したインバータ6の直流部の電流IPDU (即ち、コンデンサ17に流れる電流)が所定電流I1 以下になると、コンデンサ17の充電が完了したと判断する。」

第6 当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「バッテリ1の負荷であるインバータ41に並列接続された電源安定化コンデンサ3に対し、プリチャージを行うプリチャージ回路」は、本願発明1における「電力変換装置の入力部に備えられ、直流電源から入力される電圧を平滑するための平滑コンデンサを初期充電する初期充電装置」に相当する。

引用発明における「前記バッテリ1と前記電源安定化コンデンサ3との間に接続され、スイッチング素子S1、S2のスイッチング周波数およびデューティ比を制御して、前記電源安定化コンデンサ3にプリチャージする出力電流Ioutを、最大電流値Imax、最小電流値Iminとなるように制御するスイッチング回路21」は、本願発明1における「前記直流電源と平滑コンデンサとの間に接続され、通流率を調節して前記平滑コンデンサの充電電流を制御するチョッパ装置」に相当する。

本願発明1における「このチョッパ装置と前記直流電源との間を開閉する充電切換スイッチ」と、引用発明における「前記バッテリ1から前記電源安定化コンデンサ3への経路を、プリチャージ経路51から給電経路52へと経路切換を行う、前記スイッチング回路21と前記電源安定化コンデンサ3との間に接続された切換回路22」とは、「充電切換スイッチ」である点で共通する。

引用発明は、「バッテリ1の負荷であるインバータ41に並列接続された電源安定化コンデンサ3に対し、プリチャージを行うプリチャージ回路」であり、「電力変換装置の初期充電装置」といえるものである。また、引用発明は、「切換回路22」(本願発明の「充電切換スイッチ」に相当)を切り換えるものであるから、本願発明1と引用発明とは、「前記充電切換スイッチを切り換える電力変換装置の初期充電装置」である点で一致する。

したがって、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
「電力変換装置の入力部に備えられ、直流電源から入力される電圧を平滑するための平滑コンデンサを初期充電する初期充電装置であって、前記直流電源と平滑コンデンサとの間に接続され、通流率を調節して前記平滑コンデンサの充電電流を制御するチョッパ装置と、充電切換スイッチとで構成されおり、
前記充電切換スイッチを切り換える電力変換装置の初期充電装置。」

[相違点]
(相違点1)
「充電切換スイッチ」が、本願発明1では、「チョッパ装置と前記直流電源との間を開閉する」ものであるのに対し、引用発明は「チョッパ装置と前記直流電源との間を開閉する」ものではない点。

(相違点2)
本願発明1は、「前記平滑コンデンサを充電するとき、前記チョッパ装置の通流率を予め定めた充電時間内に0%から100%に漸次増加するように調整し、前記チョッパ装置の通流率が100%となり、かつ前記充電電流がゼロになることにより充電の完了を検知し、この充電の完了の検知により前記充電切換スイッチを切り換える」ものであるのに対し、引用発明はそのようなものではない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点2について検討する。
相違点2に係る本願発明1の構成、特に、「前記チョッパ装置の通流率が100%となり、かつ前記充電電流がゼロになることにより充電の完了を検知」することは、引用文献2、引用文献3には、記載乃至示唆はされていない(前置報告書で提示された特開2009-89572号公報にも記載されていない)し、周知技術ともいえない。引用文献2には、充電期間の最初はデューティーが小さく、時間がたつにつれて徐々にデューティ比をあげて100%に近づけるといった充電制御を行う技術は開示されているが、デューティ比により充電の完了を検知するものではない。また、引用文献3には、コンデンサに流れる電流が所定電流以下になると充電が完了したと判断することは記載されているが、デューティ比により充電の完了を検知することは記載されていない。
したがって、引用発明において、本願発明1の「前記チョッパ装置の通流率が100%となり、かつ前記充電電流がゼロになることにより充電の完了を検知し、この充電の完了の検知により前記充電切換スイッチを切り換える」構成を採用することが当業者に容易であったことを示す証拠はなく、本願発明1は、引用発明、及び、引用文献2、3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.請求項2-5について
本願発明2-5は、何れも、本願発明1が有する「前記チョッパ装置の通流率が100%となり、かつ前記充電電流がゼロになることにより充電の完了を検知し、この充電の完了の検知により前記充電切換スイッチを切り換えること」との発明特定事項を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明、及び、引用文献2、3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
原査定の拒絶の理由で引用されたその他の引用文献4-6に記載された技術を考慮しても、本願発明2-5が、引用発明、及び、引用文献2-6に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-06 
出願番号 特願2011-157826(P2011-157826)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H02M)
P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 服部 俊樹  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 山田 正文
千葉 輝久
発明の名称 電力変換装置の初期充電装置  
代理人 山本 浩  
代理人 山口 巖  

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