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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G11B
管理番号 1325469
審判番号 不服2015-20653  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-19 
確定日 2017-03-14 
事件の表示 特願2010- 39085「サスペンション用基板、サスペンション、ヘッド付サスペンション、およびハードディスクドライブ、並びにサスペンション用基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 8日出願公開、特開2011-175706、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年2月24日の出願であって、平成26年10月22日付けで拒絶理由が通知され、同年12月22日付けで手続補正がされ、平成27年8月21日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成27年11月19日に拒絶査定不服審判が請求され、平成28年10月28日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年12月28日付けで手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成27年8月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-11に係る発明は、以下の刊行物A-Dに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物一覧
A.特開2005-251262号公報
B.特開2001-101639号公報
C.特開平11-238959号公報(周知技術を例示する文献)
D.特開2002-185133号公報(周知技術を例示する文献)


第3 当審拒絶理由通知の概要
当審拒絶理由通知の概要は次のとおりである。

本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



(1)請求項1、2について
刊行物1の図8(B)及びそれに関連する発明の詳細な説明に記載されたものにおいて、【0047】段落には「リード線230を含む平面がスライダ用パッド104の下側側面106より上側になるように構成するには、・・・・、導体層115を積層したりしてもよい。」と記載されているように、金属層111、誘電体層113、及び導体層115を上方に変位させる代わりに、導体層を積層することにより接続距離239を近くするものについても記載されている。
刊行物1には、導体層115のどの部分を積層するかについては記載されていないものの、接続距離239を近くするためにはリード用パッド235の部分のみを積層すれば十分であるから、導体層115のリード用パッド235の部分のみを積層し、本願請求項1?3のような構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(2)請求項3,4について
上記(1)に加え、本願発明の保護層に対応する刊行物1のカバー層117を、スライダ用パッドとの接続に必要とされないリード用パッド235以外の部分を覆うように構成することは容易である。

(3)請求項5?7について
上記(1)及び(2)に加え、刊行物1の図2?6及びこれに関連する発明の詳細な欄を参照すれば、本願発明のサスペンション、ヘッド付サスペンション、ハードディスクドライブに相当する構成に実装することが記載されている。

(4)請求項8?10について
上記(1)に加え、層状の構造を、エッチング、めっきによる層形成などを組み合わせて形成することは技術常識にすぎないことから、請求項8,9に記載された工程を行うようにすることは、当業者が適宜なし得た事項に過ぎない。

(5)請求項11について
上記(1)(2)(4)に加え、めっきを行う際に、保護層をレジストとして用いることは、刊行物2(絶縁保護層17がレジストとして作用している)に記載されているように周知の技術に過ぎない。

(刊行物一覧)
刊行物1:特開2005-251262号公報
刊行物2:特開2002-185133号公報


第4 本願発明
本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」のようにいう。)は、平成28年12月28日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-7は以下のとおりの発明と認める。

「 【請求項1】
磁気ヘッドが実装される実装部と、この実装部に連なる基板本体とを備えたサスペンション用基板において、
実装部は、磁気ヘッドが載置されるヘッド載置領域と、このヘッド載置領域を囲む実装部本体領域とを有し、
実装部本体領域は、バネ性材料層と、このバネ性材料層に絶縁層を介して積層された配線層と、配線層に積層された保護層とを有し、
ヘッド載置領域と実装部本体領域との間に、開口部が形成され、
実装部本体領域の配線層から開口部の内方に向かって、磁気ヘッドに接続される導電性パッド部が延びており、
導電性パッド部の厚みは、配線層の厚みよりも厚くなっており、
導電性パッド部は、絶縁層上に設けられた第1導電性パッド層と、第1導電性パッド層上に設けられた第2導電性パッド層と、を有し、
第2導電性パッド層は、保護層の端縁から開口部の内方に向って延びており、
第1導電性パッド層および第2導電性パッド層は、銅により形成されていることを特徴とするサスペンション用基板。
【請求項2】
導電性パッド部の基端側において、絶縁層が、バネ性材料層よりも導電性パッド部の先端側に向かって延出していることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション用基板。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載のサスペンション用基板を有することを特徴とするサスペンション。
【請求項4】
請求項3に記載のサスペンションと、このサスペンションに実装された磁気ヘッドとを有することを特徴とするヘッド付サスペンション。
【請求項5】
請求項4に記載のヘッド付サスペンションを有することを特徴とするハードディスクドライブ。
【請求項6】
磁気ヘッドが載置されるヘッド載置領域と、このヘッド載置領域を囲む実装部本体領域とを有し、磁気ヘッドが実装される実装部と、この実装部に連なる基板本体とを備え、ヘッド載置領域と実装部本体領域との間に開口部が形成されたサスペンション用基板の製造方法において、
バネ性材料層と、このバネ性材料層に絶縁層を介して積層された、銅により形成された導電性材料層とを有する積層体を準備する工程と、
導電性材料層をパターニングして、実装部本体領域に配線層を形成すると共に、当該配線層から開口部の内方に向って延びる第1導電性パッド層を形成する工程と、
実装部本体領域の配線層に、保護層を形成する工程と、
第1導電性パッド層に、第2導電性パッド層を積層し、これら第1導電性パッド層と第2導電性パッド層とからなり、磁気ヘッドに接続される導電性パッド部を形成する工程と、
バネ性材料層のうち開口部に対応する領域に、バネ性材料層開口部を形成する工程と、
絶縁層に、バネ性材料層開口部に対応して絶縁層開口部を形成し、ヘッド載置領域と実装部本体領域との間に開口部を形成する工程と、を備え、
導電性パッド部の厚みは、配線層の厚みよりも厚くなっており、
第2導電性パッド層を積層する工程は、保護層を形成する工程の後に行われ、
第2導電性パッド層は、保護層をレジストとして、第1導電性パッド層に、銅めっきにより積層され、
第2導電性パッド層を積層する際、第2導電性パッド層は、保護層の端縁から開口部の内方に向かって延びるように形成されることを特徴とするサスペンション用基板の製造方法。
【請求項7】
絶縁層開口部を形成する際、導電性パッド部の基端側において、絶縁層が、バネ性材料層よりも導電性パッド部の先端側に向かって延出するように、絶縁層開口部が形成されることを特徴とする請求項6に記載のサスペンション用基板の製造方法。」


第5 引用発明
当審拒絶理由通知に引用された刊行物1(特開2005-251262号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「【0032】
図5は、図4に示した配線一体型フレキシャ・アセンブリ100の積層構造を示す図である。フレキシャ・アセンブリ100は、上述のとおりフォトリソグラフィック・エッチング工程、蒸着工程などの半導体加工技術を用いて形成する。図5(A)には、複数の層を積層して完成したフレキシャ・アセンブリ100を示し、フレキシャ・アセンブリ100を構成する各層の構造を図5(B)?図5(E)に示す。図5(A)は、完成したフレキシャ・アセンブリ100を磁気ディスク66側から見た図であり、ヘッド/スライダ103は図の簡略化のために省略してある。図5(B)?図5(E)は、磁気ディスク表面に向かって積層していく順番で描いている。
【0033】
図5(B)は金属層111の平面を示しており、材料として300シリーズのステンレス鋼の中から、板厚が0.02mmのSUS304を選定している。また、金属層111の材料はステンレス鋼に限定するものではなく、ベリリウム、銅又はチタンなどの他の硬質のバネ材料を選択することもできる。金属層111は、フレキシャ・タング101及びプラットフォーム214を含む。
【0034】
図5(C)は、金属層111と導体層115(図7(D)参照。)とを絶縁するためにポリイミドで形成した誘電体層113の平面を示す。誘電体層113は、導体層115のパターンに合わせた形状で金属層111の上に積層する。本実施の形態では、誘電体層の厚さを0.01mmに選択している。なお、誘電体層113の一部はフレキシャ・タング101の上にも積層している。
【0035】
図5(D)は、ヘッドに対する配線パターンである導体層115を示している。本実施の形態では、純粋な銅(pure copper)を0.01mmの厚さになるように積層してパターン化している。導体層の材料は、銅に限定するものではなく、アルミニウムや銀等の他の材料であってもよい。図5(E)は、導体層115の表面を保護するためのカバー層117のパターンを示しており、厚さ0.003mm程度のポリイミドの層を導体層115の上に付着させている。誘電体層113、導体層115、及びカバー層117は一体となって、配線トレース105を構成する。金属層111、誘電体層113、導体層115、及びカバー層117の各厚さは例示であって、本発明の範囲をこれらに限定するものではない。
【0036】
図6は、図5に示したフレキシャ・アセンブリ100の先端部を拡大した図である。本明細書において、ヘッド・サスペンション・アセンブリ62のマージ・リップ70側を先端側といい、アクチュエータ・アーム56側を支持端側ということにする(図2参照)。フレキシャ・アセンブリ100の先端側の溶接スポット112aと支持端側の溶接スポット112bとの間には、金属層111の一部であるフレキシャ・タング101を形成している。フレキシャ・タング101には、溶接スポット112aと112bとを結ぶ中心線上であってフレキシャ・タング101のほぼ中央に、ディンプル・コンタクト・ポイント(以下、DCPという。)205を定義している。DCP205は、フレキシャ・タングが裏側(紙面の裏側に相当する。)でロード・ビーム75aに形成したディンプルと接触して、ジンバル運動の支点を構成する。さらに、フレキシャ・タング101の表側(紙面の手前に相当する。)には、接着剤でヘッド・スライダ103を取り付ける。」

イ.「【0042】
図7は、ヘッド/スライダとリード線の接続構造の実施形態を説明するための側面図である。リード線230は配線トレース105の構成要素であり、導体層115の一部でもある。図7の接続構造は、図6のフレキシャ・タング101にヘッド/スライダ103を搭載した状態でのX-X断面の一部を示している。フレキシャ・タング101は、ポリイミドの島状領域224を介在してスライダ103の底面135を固定している。ヘッド/スライダ103のトレイリング・エッジ側の側面131と空気軸受面133が形成するコーナーには、ヘッド102を形成している。ヘッド102は記録及び再生又はそのいずれか一方の機能を備えている。
【0043】
ヘッド/スライダの側面131には、ヘッド102に接続したスライダ用パッド104を設けている。スライダ用パッド104は、リード線230の数に合わせてスライダの側面131に並べて形成している。スライダ用パッド104は、ヘッド/スライダの底面135より空気軸受面133寄りに形成して、ハンダ・ボール接続によりスライダ用パッド104がスライダ103の本体と短絡するのを防止する。金属層111は、ヘッド/スライダの側面131を含む平面と交差する位置の近辺でスライダ用パッド104側に折れ曲がっており、金属層111の一部であるプラットフォーム214、その上に付着している誘電体層113、さらに、誘電体層113の上に付着しているリード線230が一体となって傾斜している。折れ曲がる位置は、本実施の形態に限定するものではなく後に述べるように接続距離237を形成できればいかなる位置で曲げてもよい。また、折れ曲がった構造はプレス加工で形成することができる。プラットフォーム214とフレキシャ・タング101との間には、ヘッド/スライダ103とリード線230との相互の位置関係の寸法公差を確保するために開口部227を設けている。
【0044】
リード線230の下部に位置する誘電体層113は、プラットフォーム214の端部215よりさらにスライダ用パッド104に接近するように開口部227の中を延びている。リード線230は、誘電体層113の端部114よりさらにスライダ用パッド104に接近するように開口部227の中を延びている。誘電体層113をプラットフォームの端部215より延ばしているのは、ハンダ・ボール接続により、リード線230とプラットフォーム214との間が短絡することを防止するためである。また、誘電体層113の端部114よりリード線230を延ばしているのは、ハンダ・ボール233をリフローするためのレーザ光を照射したときに、誘電体層113が焼損することを防ぐためである。
【0045】
リード線230の先端部には、特許文献3に示すような周知のハンダ・ボール保持構造を有するリード用パッド235を形成している。リード用パッド235はその形状に係わらずリード線に設けたハンダ・ボール接続の位置という意味である。ヘッド/スライダ103は、側面131がフレキシャ・タング101のトレイリング・エッジ231より開口部227寄りに位置するようにフレキシャ・タング101に固定し、ハンダ・ボール233のリフロー時にフレキシャ・タング101がスライダ用パッド104又はリード用パッド235と短絡することを防止する。リード用パッド235とスライダ用パッド104との間にハンダ・ボール233を仮固定してレーザ光線でリフローすることにより両パッドを接続することができる。フレキシャ・アセンブリ100は、スライダ用パッド104を含む平面と、リード線230を含む平面との交差角が90度未満になるように構成して、接続距離237を図1で説明した接続距離23に比べて短くすることができ、ハンダ・ボール接続の品質及び歩留まりを向上することができる。交差角は好ましくは70度?80度の範囲であり、交差角の下限は使用するハンダ・ボール233の大きさで決まる。」

ウ.「【0046】
図8は、ヘッド/スライダとリード線の接続構造の他の実施の形態を説明するための側面図である。図8(A)の接続構造は、ヘッド/スライダの側面131を含む平面と交差する位置の近辺でリード線230だけが誘電体層131から分離してスライダ用パッド104側に折れ曲がり、接続距離237を形成している。このような構造は、アディティブ・タイプの配線一体型フレキシャ・アセンブリ及びサブトラクティブ・タイプの配線一体型フレキシャ・アセンブリのいずれにおいてもプレス加工で形成することができる。
【0047】
図8(B)の接続構造は、金属層111、誘電体層113、及び導体層115が、ヘッド/スライダの側面131を含む平面と交差する位置の近辺で図の上方に変位し接続距離239を形成している。この構成においては、リード線230を含む平面がスライダ用パッド104と交差し、接続距離239は図1で示した接続距離23より短くなっている。変位の量は、リード線230を含む平面が、スライダ用パッド104の下側側面106より上側になるように設定する。リード線230を含む平面がスライダ用パッド104の下側側面106より上側になるように構成するには、金属層111の上に誘電体層113を厚く積層したり、導体層115を積層したりしてもよい。」

エ.図5、図6、図8(B)として、以下の図が記載されている。
図5


図6


図8(B)


したがって、上記刊行物1の特に図8(B)には、これに関連する記載や図面の記載を総合すると次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(引用発明)
「 ヘッド・スライダ103が取り付けられるフレキシャ・タング101が先端側に形成されたフレキシャ・アセンブリ100において、
フレキシャ・タング101を囲う領域は、バネ材料によって構成された金属層111、誘電体層113、ヘッドに対する配線パターン層である導体層115と、導体層115の表面を保護するためのカバー層117が積層されて構成され、
フレキシャ・タング101と、フレキシャ・タング101を囲う領域の間には開口部227が形成され、
導体層の一部であるリード線230の先端部に、ヘッド・スライダ103と接続されるリード用パッド235が開口部に向かって突出して形成される、フレキシャ・アセンブリ100。」


第6 当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「フレキシャ・アセンブリ100」は、本願発明1における「サスペンション用基板」に対応する。
引用発明における「ヘッド・スライダ103」「金属層111」「誘電体層113」「導体層115」及び「カバー層117」は、それぞれ本願発明1における「磁気ヘッド」「バネ性材料層」「絶縁層」「配線層」及び「保護層」に相当する。
そして、引用発明においてヘッド・スライダ103が取り付けられる「フレキシャ・タング101」は、本願発明1において磁気ヘッドが載置される「ヘッド載置領域」に対応し、引用発明の「フレキシャ・タング101」を囲う「フレキシャ・タング101を囲う領域」は、本願発明1の「実装部本体領域」に相当する。
また、引用発明の「フレキシャ・タング101」と「フレキシャ・タング101を囲う領域」を合わせて、「実装部」と呼ぶことは任意であり、これに連なる「フレキシャ・アセンブリ100」の部分を「基板本体」と呼ぶことも任意である。
引用発明の「リード用パッド235」は、その構造は明らかではないが、本願発明1の「導電性パッド部」に対応する。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点が認められる。

(一致点)
「 磁気ヘッドが実装される実装部と、この実装部に連なる基板本体とを備えたサスペンション用基板において、
実装部は、磁気ヘッドが載置されるヘッド載置領域と、このヘッド載置領域を囲む実装部本体領域とを有し、
実装部本体領域は、バネ性材料層と、このバネ性材料層に絶縁層を介して積層された配線層と、配線層に積層された保護層とを有し、
ヘッド載置領域と実装部本体領域との間に、開口部が形成され、
実装部本体領域の配線層から開口部の内方に向かって、磁気ヘッドに接続される導電性パッド部が延びている、
サスペンション用基板。」

(相違点1)
本願発明1の導電性パッド部は、配線層の厚みよりも厚く、絶縁層上に設けられた第1導電性パッド層と、第1導電性パッド層上に設けられた第2導電性パッド層とを有し、第2導電性パッド層は、保護層の端縁から開口部の内方に向って延びているのに対して、引用発明の「リード用パッド235」はその構成が明らかではない点。

(相違点2)
本願発明1の第1導電性パッド層および第2導電性パッド層は、銅により形成されているのに対して、引用発明の「リード用パッド235」はその素材が明らかではない点。

(2)相違点についての判断
相違点1について検討する。
本願発明1の「導電性パッド部」は、積層された第1導電性パッド層と第2導電性パッド層からなり、第2導電性パッド層が保護層の端縁から開口部の内方に向って延びるように構成されることにより、第2導電性パッド層を形成する際に保護層(カバー層)をレジスト層として兼用でき、レジストを設ける工程を省略できるという効果を奏するものである(本願明細書【0057】参照。)。
これに対して、刊行物1の【0047】段落には、「変位の量は、リード線230を含む平面が、スライダ用パッド104の下側側面106より上側になるように設定する。リード線230を含む平面がスライダ用パッド104の下側側面106より上側になるように構成するには、金属層111の上に誘電体層113を厚く積層したり、導体層115を積層したりしてもよい。」(上記「第5 引用発明」の摘記事項「ウ.」参照。)と記載され、導体層を積層して厚く構成するという技術事項について示唆されているものの、導体層を2層で構成し、上位の層をカバー層の端縁から構成することは記載も示唆もされていないから、上記技術事項を引用発明に適用しても相違点1とした本願発明1の構成は容易に想到できたものとはいえない。
そして、上述した本願発明1のレジストを設ける工程を省略できるという効果も、引用発明及び上記技術事項から予想できたものとはいえない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は刊行物1から容易に発明をすることができたものとはいえない。

2.本願発明2-5について
本願発明2は、本願発明1の構成を更に限定したものであるから、本願発明1と同様の理由により刊行物1から容易に発明をすることができたものとはいえない。
本願発明3-5は、「サスペンション」「ヘッド付サスペンション」「ハードディスクドライブ」としてそれぞれ特定された発明であるが、本願発明1の構成を全て有するから、本願発明1と同様の理由により本願発明3-5は刊行物1から容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本願発明6,7について
本願発明6はサスペンション用基板の製造方法に係る発明であり、次の構成を有する。
「第1導電性パッド層に、第2導電性パッド層を積層し、これら第1導電性パッド層と第2導電性パッド層とからな・・・る導電性パッド部を形成する工程と、
第2導電性パッド層は、保護層をレジストとして、第1導電性パッド層に、・・・積層され、
第2導電性パッド層を積層する際、第2導電性パッド層は、保護層の端縁から開口部の内方に向かって延びるように形成される・・・」
そうすると、本願発明6は、導電性パッドを2層に構成し、第2導電性パッド層を積層する際に保護層をレジストとして使用することにより、第2導電性パッド層をカバー層の端縁から構成することを前提としているが、上記「1.本願発明1について」欄の「(2)相違点についての判断」で検討したように、当該構成は刊行物1から容易に想到できたものとはいえないから、本願発明1と同様の理由により本願発明6は刊行物1から容易に発明をすることができたものとはいえない。
本願発明6を更に限定した本願発明7も同様の理由により容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 原査定についての判断
原査定において引用された刊行物B(特開2001-101639号公報)に記載された電極パッド22は、刊行物A(当審拒絶理由通知の刊行物1と同じ。)に記載されたリード用パッドのように開口部の中をヘッドに接近するように伸びているような構成を採用したものではないから、刊行物Bに記載された電極パッド22に係る技術を刊行物Aに記載されたリード用パッドに適用することは当業者が容易になし得た事項ということはできない。さらに刊行物C(特開平11-238959号公報)及び刊行物D(特開2002-185133号公報)を参照しても本願発明1-7を容易になし得たということはできない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-01 
出願番号 特願2010-39085(P2010-39085)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G11B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 齊藤 健一  
特許庁審判長 加藤 恵一
特許庁審判官 山本 章裕
近藤 聡
発明の名称 サスペンション用基板、サスペンション、ヘッド付サスペンション、およびハードディスクドライブ、並びにサスペンション用基板の製造方法  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 永井 浩之  
代理人 山下 和也  

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