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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16D
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 F16D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 取り消して特許、登録 F16D
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 F16D
管理番号 1325549
審判番号 不服2016-11362  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-28 
確定日 2017-03-21 
事件の表示 特願2014-521139「車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔2013年12月27日国際公開、WO2013/190651、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年6月20日を国際出願日とする出願であって、平成26年11月17日に手続補正書が提出され、平成27年9月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日に意見書が提出されたが、平成28年4月27日付け(発送日:同年5月10日)で拒絶査定がされ、これに対し、同年7月28日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年7月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
(1) 請求項1について
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を選択的に接続または遮断するクラッチ機構を備え、走行中に前記動力伝達経路を遮断して車両を惰性走行させることが可能な車両の制御装置において、
車速を検出する手段と、
走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻された場合に、前記クラッチ機構を解放して前記動力伝達経路を遮断することにより前記車両を惰性走行させる惰行制御を実行する実行手段と、
前記惰行制御の実行時に、前記惰行制御の実行中における前記車速の最低値を記憶し記憶された前記車速の最低値よりも現在の前記車速が低い場合に前記車速の最低値を逐次更新する更新手段と、
前記惰行制御の実行中における現在の前記車速と最新の前記車速の最低値との差である前記車速の増速量が所定値以上になった場合に、前記クラッチ機構を係合して前記動力伝達経路を接続することにより前記惰行制御を終了させる終了手段と
を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」(下線は請求人が付与。以下、同様。)
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでいる。

(2) 明細書の段落【0012】及び【0016】について
本件補正は、明細書の段落【0012】及び【0016】を、それぞれ、
「【0012】
上記の目的を達成するために、この発明は、駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を選択的に接続または遮断するクラッチ機構を備え、走行中に前記動力伝達経路を遮断して車両を惰性走行させることが可能な車両の制御装置において、車速を検出する手段と、走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻された場合に、前記クラッチ機構を解放して前記動力伝達経路を遮断することにより前記車両を惰性走行させる惰行制御を実行する実行手段と、前記惰行制御の実行時に、前記惰行制御の実行中における前記車速の最低値を記憶し記憶された前記車速の最低値よりも現在の前記車速が低い場合に記憶されている前記最低値を逐次更新する更新手段と、前記惰行制御の実行中における現在の前記車速と最新の前記最低値との差である前記車速の増速量が所定値以上になった場合に、前記クラッチ機構を係合して前記動力伝達経路を接続することにより前記惰行制御を終了させる終了手段とを備えていることを特徴とする制御装置である。」
「【0016】
したがって、この発明によれば、走行中にアクセル操作量が所定の操作量以下に戻されると、クラッチ機構が解放されて駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路が遮断される。すなわち、惰行制御が実行され、車両が惰性走行する。その結果、駆動力源に負荷が掛からない状態での車両の走行距離を伸ばすことができ、したがって、車両のエネルギ効率を向上させることができる。その惰行制御の実行時には、車速が検出されるとともに、その車速の最低値(最低車速)が記憶され、記憶された最低値よりも現在の車速が低い場合は記憶されている最低値が逐次更新される。そして、現在の車速と最低車速との差、すなわち最低車速からの車速の増速量が所定値以上になると、クラッチ機構が係合されて惰行制御が終了される。すなわち、駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路が接続され、その動力伝達系統における負荷や抵抗による制動トルクが駆動輪に作用する状態になる。したがって、惰行制御の実行中に最低車速から所定の変化量以上増速した車速を低下させることができる。例えば惰行制御の実行中に走行路の下り勾配がきつくなり、それに伴って車速が大きく増速した場合には、惰行制御が終了させられる。その結果、車両に制動力が掛かり、車速の上昇が抑制される。もしくは車速が低下させられる。そのため、惰行制御の実行中に走行環境が変化して車速が増速する場合であっても、運転者や搭乗者に違和感や不安感を与えることなく、惰行制御を適切に実行し、また適切に終了させることができる。」
とする補正(以下、「補正事項2」という。)を含んでいる。

2 補正の適否
(1) 補正事項1について
本件補正の補正事項1は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、「更新手段」について、「前記惰行制御の実行中における前記車速の最低値を更新する更新手段」とあったものを、「前記惰行制御の実行中における前記車速の最低値を記憶し記憶された前記車速の最低値よりも現在の前記車速が低い場合に前記車速の最低値を逐次更新する更新手段」に限定し、
「最低値との差」について、「現在の前記車速と最新の前記最低値との差」とあったものを、「前記惰行制御の実行中における現在の前記車速と最新の前記車速の最低値との差である前記車速の増速量」に限定するものであって、
補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

ア 刊行物の記載事項
(ア) 原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-247773号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア-1) 「【請求項1】
車両に搭載されるエンジンが前記車両の走行に寄与する仕事をしないときに、前記エンジンと前記車両の駆動輪との間に介設されるクラッチを断にすると共に、前記エンジンをアイドル状態にして前記車両を惰性走行させる惰行制御を行う惰行制御装置であって、
アクセル開度及び前記クラッチのドリブン側回転数に基づく惰行制御開始条件が成立したときに、前記惰行制御を開始し、その惰行制御中にアクセル開度及び前記クラッチのドリブン側回転数に基づく惰行制御終了条件が成立したときに、前記惰行制御を終了する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記惰行制御中に前記惰行制御開始時の車速と現在の車速との差を求め、その差が所定のしきい値以上であるときに、前記惰行制御終了条件に拘らず前記惰行制御を終了することを特徴とする惰行制御装置。」

(ア-2) 「【0005】
惰行制御は、クラッチを自動で断接できる機構を搭載した車両において、エンジンが回転はしているが外部に対して仕事をしないときに自動でクラッチを切り、エンジン回転数をアイドリング回転数又は相当する回転数とする事で、燃費を向上させる手法である。」

(ア-3) 「【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0019】
図1に示すように、車両には、主として変速機・クラッチを制御する電子制御ユニット(ECU)11と、主としてエンジンを制御するECM(エンジン・コントロール・モジュール)12が設けられている。
【0020】
電子制御ユニット11には、シフトノブスイッチ、変速機のシフトセンサ、セレクトセンサ、ニュートラルスイッチ、T/M回転センサ、車速センサ(車速検出手段)13、
・・・(中略)・・・
【0022】
車両には、エンジンが車両の走行に寄与する仕事をしないときに、クラッチを断にすると共に、エンジン回転数をアイドル回転数(又は相当する回転数)に落してエンジンをアイドル状態として、車両を惰性走行させる惰行制御を実行する惰行制御装置が搭載されている。」

(ア-4) 「【0028】
次に、惰行制御装置について説明する。
【0029】
まず、図6により、惰行制御の作動概念を説明する。横軸は時間と制御の流れを示し、縦軸はエンジン回転数を示す。アクセルペダル71が大きく踏み込まれてアクセル開度70%の状態が継続する間、エンジン回転数72が上昇し、車両が加速される。エンジン回転数72が安定し、アクセルペダル71の踏み込みが小さくなりアクセル開度が35%になったとき後述する惰行制御開始条件が成立したとする。惰行制御開始により、クラッチが断に制御され、エンジン回転数72がアイドル回転数に制御される。その後、アクセルペダル71の踏み込みがなくなってアクセル開度が0%になるか又はその他の惰行制御終了条件が成立したとする。惰行制御終了により、エンジンが回転合わせ制御され、クラッチが接に制御される。この例では、アクセル開度が0%であるので、エンジンブレーキの状態となり、車両は減速される。
・・・(中略)・・・
【0031】
本実施形態に係る惰行制御装置は、アクセル開度及びクラッチ回転数に基づく惰行制御開始条件が成立したときに、惰行制御を開始し、その惰行制御中にアクセル開度及びクラッチ回転数に基づく惰行制御終了条件が成立したときに、惰行制御を終了する制御手段を備える。
【0032】
上記の制御手段は、具体的には、所定時間ごとにアクセル開度センサの出力信号をデジタルサンプリングし、その移動平均値を所定時間ごとのアクセル開度とするアクセル開度検出部と、アクセル開度の所定時間分を微分してアクセル開度速度を演算し、そのアクセル開度が負であって、かつ、その絶対値があらかじめ設定された開始基準値より小さいとき、惰行制御開始の判定を許可する判定条件検出部と、アクセル開度とクラッチ回転数を指標とし、エンジン出力トルクが負となるマイナス領域とエンジン出力トルクが正となるプラス領域との境界となるエンジン出力トルクゼロ線(ノーロード線)に沿わせて惰行制御しきい線が設定された惰行制御判定マップと、惰行制御開始の判定が許可されており、惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき、惰行制御を開始する惰行制御実行判定部とを有している。」

(ア-5) 「【0049】
ここで、本実施形態に係る惰行制御装置では、上記の制御手段は、惰行制御開始時の車速を記憶し、惰行制御中に惰行制御開始時の車速と現在の車速との差を求め、その差が所定のしきい値以上であるときに、通常の惰行制御終了条件に拘らず惰行制御を終了する点に特徴を有する。即ち、本実施形態では、惰行制御中に惰行制御開始時の車速(Akm/h)に対してしきい値(+αkm/h、-βkm/h)以上の速度変化(増速・減速)が発生したときに、通常の惰行制御終了条件に拘らず惰行制御を終了するようにしている。例えば、上記のしきい値(+αkm/h、-βkm/h)はそれぞれ、+3?+5km/h、-3?-5km/h程度に設定される。」

(ア-6) 「【0062】
11 電子制御ユニット(制御手段)
12 ECM(制御手段)
13 車速センサ
51 クラッチ(クラッチシステム)
71 アクセルペダル」

以上のことから、引用文献1には、補正発明1の記載ぶりに則って整理すると、「惰行制御装置」に関して、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「エンジンEと駆動輪との間のクラッチ51を備え、走行中にクラッチ51を断にして車両を惰性走行させることが可能な車両の惰行制御装置において、
車速を検出する車速センサ13を備え、
惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したときに、前記クラッチ51を断にすることにより前記車両を惰性走行させる惰行制御を実行し、
前記惰行制御の実行中における現在の前記車速と惰行制御開始時の車速との差がしきい値以上になった場合に、惰行制御を終了する、
制御手段を備えている、車両の惰行制御装置。」

(イ) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-77662号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「自動車の走行制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0015】惰性走行モードは、ブレーキペダル踏み角(θ_(b))10が0、かつ、アクセルペダル踏み角(θ_(a))18が0、かつ、車速(v)11が惰性走行最低車速v_(L) と惰性走行最高車速v_(H) の間の時に、平地での自然惰行に近い減速度になるような制御を行うモードである。
【0016】図4は惰性走行モード時の処理を示したものである。比較器26は、現在の車速(v)11と惰性走行最低車速v_(L) とを比較し、v<v_(L) の場合には処理32でスロットル開度信号(θ_(T))20に0を代入してエンジン出力トルクを最小にする。さらに処理33を行い、制動信号(F_(b))22を算出する。ここで制動信号(F_(b))22は、予めマイクロコンピュータに記憶しておいた図5に示す制動力導出曲線のデータを用いて、ブレーキペダル踏み角(θ_(b))10から線形補間により求める。処理32と処理33によって低速走行時にブレーキペダルとアクセルペダルから足をはなした場合に極低速で走行する事が可能となり、坂道発進が容易にできる。v>v_(L) の場合には処理27の惰性走行演算処理27を行った後、比較器28でブレーキペダル踏み角(θ_(b))10を調べ、θ_(b)>0、つまりブレーキペダルが踏まれている場合には減速モード処理30に移行する。θ_(b) =0、つまりブレーキペダルが踏まれていない場合には、比較器29でアクセルペダル踏み角(θ_(a))18を調べ、θ_(a)>0、つまりアクセルペダルが踏まれている場合には加速モード処理31に移行する。θ_(a) =0、つまりアクセルペダルも踏まれていない場合には惰性走行モード処理を続ける。」(以下、「引用文献2に記載された事項」という。)

(ウ) 原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-202538号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「クルーズコントロール装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

「すなわち、セットスイッチ4が操作された後に車速検出器1によって検出されて実車速メモリ744に更新登録されている実車速と、目標車速メモリ745に登録されている目標車速との差が車速偏差演算部93において求められる。そしてその求められた差がスロットルバルブ開度補正量演算部94に与えられ、そこで定数メモリ75における乗数メモリ753から読み出された一定の定数が乗算されてスロットルバルブ開度補正量が算出される。そしてその算出されたスロットルバルブ開度補正量が加算部95において先に目標スロットルバルブ開度メモリ747に登録されている目標スロットルバルブ開度に加えられて、その補正された新たな目標スロットルバルブ開度が目標スロットルバルブ開度メモリ747に更新登録される。」(3ページ右下欄15行?4ページ左上欄10行)(以下、「引用文献3に記載された事項」という。)

イ 対比
補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「エンジンE」は、補正発明1の「駆動力源」に相当する。
以下同様に、「クラッチ51」は、「動力伝達経路を選択的に接続または遮断するクラッチ機構」に、
「クラッチ51を断」にすることは、「動力伝達経路を遮断」すること、及び「クラッチ機構を解放して前記動力伝達経路を遮断」することに、
「車速を検出する車速センサ13」は、「車速を検出する手段」に、
「惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したとき」は、「走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻された場合」に、
「しきい値」は、「所定値」に、
「惰行制御装置」は、「制御装置」に、それぞれ相当する。

引用発明の制御手段は、惰行制御判定マップ上で、アクセル開度とクラッチ回転数の座標点が惰行制御しきい線をアクセル開度が減少する方向に通過したときに、クラッチ51を断にすることにより車両を惰性走行させる惰行制御を実行するから、引用発明は、「走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻された場合に、前記クラッチ機構を解放して前記動力伝達経路を遮断することにより前記車両を惰性走行させる惰行制御を実行する実行手段」を備えている。

引用発明の「現在の前記車速と惰行制御開始時の車速との差」と、補正発明1の「現在の前記車速と最新の前記車速の最低値との差である前記車速の増速量」とは、「現在の車速との差」という点で共通する。
そして、引用発明の制御手段は、現在の車速と惰行制御開始時の車速との差がしきい値以上になった場合に、惰行制御を終了するから、引用発明は、「現在の車速との差が所定値以上になった場合に、前記クラッチ機構を係合して前記動力伝達経路を接続することにより前記惰行制御を終了させる終了手段」を備えている。

以上のことから、補正発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を選択的に接続または遮断するクラッチ機構を備え、走行中に前記動力伝達経路を遮断して車両を惰性走行させることが可能な車両の制御装置において、
車速を検出する手段と、
走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻された場合に、前記クラッチ機構を解放して前記動力伝達経路を遮断することにより前記車両を惰性走行させる惰行制御を実行する実行手段と、
前記惰行制御の実行中における現在の車速との差が所定値以上になった場合に、前記クラッチ機構を係合して前記動力伝達経路を接続することにより前記惰行制御を終了させる終了手段と
を備えていることを特徴とする車両の制御装置。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
補正発明1は、「惰行制御の実行時に、前記惰行制御の実行中における前記車速の最低値を記憶し記憶された前記車速の最低値よりも現在の前記車速が低い場合に前記車速の最低値を逐次更新する更新手段」を備え、現在の車速との差が、「現在の前記車速と最新の前記車速の最低値との差である前記車速の増速量」であるのに対して、
引用発明は、かかる更新手段を備えておらず、現在の車速との差が、現在の車速と惰行制御開始時の車速との差である点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
引用文献2に記載された事項には、車速(v)11が惰性走行最低車速v_(L) と惰性走行最高車速v_(H) の間の時に、惰性走行モードを行うことが記載されている。
しかし、補正発明1の「車速の最低値」は、惰行制御の実行中における車速の最低値であるのに対して、引用文献2に記載された事項の「惰性走行最低車速v_(L) 」は、惰性走行モードを行う条件としての最低車速であり、両者は、その技術的な意味が異なる。
そして、引用文献2に記載された事項には、「惰行制御の実行時に、前記惰行制御の実行中における前記車速の最低値を記憶し記憶された前記車速の最低値よりも現在の前記車速が低い場合に前記車速の最低値を逐次更新する更新手段」を備えること、及び現在の車速との差が「現在の前記車速と最新の前記車速の最低値との差である前記車速の増速量」であることについては、記載も示唆もされていない。

また、引用文献3に記載された事項には、実車速が、車速検出器1によって検出されて実車速メモリ744に更新登録されることが記載されている。
しかし、補正発明1において逐次更新する対象は、車速の最低値であるのに対して、引用文献3に記載された事項において逐次更新する対象は、実車速であり、補正発明1と引用文献3に記載された事項とでは、逐次更新の対象とする速度が異なる。
そして、引用文献3に記載された事項には、「惰行制御の実行時に、前記惰行制御の実行中における前記車速の最低値を記憶し記憶された前記車速の最低値よりも現在の前記車速が低い場合に前記車速の最低値を逐次更新する更新手段」を備えること、及び現在の車速との差が「現在の前記車速と最新の前記車速の最低値との差である前記車速の増速量」であることについては、記載も示唆もされていない。

すると、たとえ引用発明に、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項を適用したとしても、上記相違点に係る補正発明1の構成に至るものではない。

したがって、補正発明1は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2) 補正事項2について
本件補正の補正事項2は、補正事項1に伴って特許請求の範囲の記載との整合を図るため、明細書の段落【0012】及び【0016】を補正するものであり、特許法第17条の2第3項に違反するところはない。

3 むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?4に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、「本願発明1」?「本願発明4」という。)

「【請求項1】
駆動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を選択的に接続または遮断するクラッチ機構を備え、走行中に前記動力伝達経路を遮断して車両を惰性走行させることが可能な車両の制御装置において、
車速を検出する手段と、
走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻された場合に、前記クラッチ機構を解放して前記動力伝達経路を遮断することにより前記車両を惰性走行させる惰行制御を実行する実行手段と、
前記惰行制御の実行時に、前記惰行制御の実行中における前記車速の最低値を記憶し記憶された前記車速の最低値よりも現在の前記車速が低い場合に前記車速の最低値を逐次更新する更新手段と、
前記惰行制御の実行中における現在の前記車速と最新の前記車速の最低値との差である前記車速の増速量が所定値以上になった場合に、前記クラッチ機構を係合して前記動力伝達経路を接続することにより前記惰行制御を終了させる終了手段と
を備えていることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
走行路の勾配を検出する手段を更に備え、
前記実行手段は、走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻され、かつ、前記勾配が0%を挟んだ所定の勾配範囲内である場合に、前記惰行制御を実行する手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記実行手段は、走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻され、かつ、前記車速が所定車速以上の場合に、前記惰行制御を実行する手段を含み、
前記終了手段は、前記車速が前記所定車速よりも低くなった場合に、前記惰行制御を終了させる手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記駆動力源は、燃料を燃焼させて動力を出力するエンジンを含み、
前記エンジンのエンジン回転数を検出する手段を更に備え、
前記実行手段は、走行中アクセル操作量が所定の操作量以下に戻され、かつ、前記エンジンが燃焼運転中である場合に、前記惰行制御を実行するとともに、前記惰行制御の実行時に、前記エンジン回転数が前記惰行制御が実行されていない走行時におけるエンジン回転数よりも低いアイドリング回転数になるように、前記エンジンを制御する手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。」

そして、本願発明1(補正発明1)は、上記「第2 2(1)」のとおり、当業者が引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
また、本願発明1を直接的に引用する本願発明2?4は、本願発明1をさらに限定した発明であるから、本願発明1と同様に、当業者が引用発明、引用文献2に記載された事項及び引用文献3に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-07 
出願番号 特願2014-521139(P2014-521139)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16D)
P 1 8・ 572- WY (F16D)
P 1 8・ 55- WY (F16D)
P 1 8・ 575- WY (F16D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 日下部 由泰  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
発明の名称 車両の制御装置  
代理人 渡邉 丈夫  

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