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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1325622
審判番号 不服2015-9734  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-26 
確定日 2017-03-01 
事件の表示 特願2013- 48895「記録ヘッドコイル構造」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日出願公開、特開2013-191269〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年3月12日(パリ条約に基づく優先権主張 平成24年3月13日 米国(US))の出願であって、平成25年5月23日付けで手続補正がなされ、平成26年3月3日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年6月26日付けで手続補正がなされたが、平成27年1月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月26日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされた。
その後、当審の平成28年3月9日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年8月31日付けで意見書のみ提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成27年5月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
装置であって、
主磁極と、
トレーリング側に設けられたリターン磁極と、
前記主磁極に対して非対称であり、かつ前記主磁極の前記トレーリング側の磁束を前記主磁極のリーディング側の磁束よりも多く生成するように構成されたコイル装置を備え、
前記主磁極と前記リターン磁極との間の少なくとも一部に配置された前記コイル装置の一部が、前記装置の空気軸受面に垂直な軸の周りに巻かれ、かつ、前記装置の空気軸受面から離れる方向に部分的に曲がっているコイルワイヤを含む、装置。」

3.引用例
(1)引用例1
これに対して、当審の拒絶の理由に引用された特開2008-123666号公報(以下、「引用例1」という。)には、「複数の起磁力(MMF)源を用いた磁気書き込みヘッド」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
ア.「【請求項18】
書き込み磁極と、
前記書き込み磁極と磁気的に接続される第1戻り磁極と、
前記書き込み磁極と磁気的に接続される第2戻り磁極と、
前記第1戻り磁極および前記第2戻り磁極に起磁力を供給する第1起磁力源(第1MMF)と、
前記第2戻り磁極および前記書き込み磁極に起磁力を供給する第2起磁力源(第2MMF)と、
前記第1および第2MMF源に接続され、前記第1および第2MMF源によって生成される起磁力の相対量を制御する回路と、を有することを特徴とする垂直磁気記録のための構造。」

イ.「【0007】
垂直磁気書き込みヘッドの設計は、対立する課題の両立を図るために制限を受けてきた。例えば、媒体の強磁性最上層を効果的に磁化するために、可能な限り最大の書き込み磁界が生成されるのが望ましい。書き込み磁界は、この書き込み磁界が媒体に対して完全に垂直であるよりもやや斜めに傾斜した角度である場合に、より効果的に磁気ビットを媒体に書き込むことができる。この傾斜角度は、一定量の磁束をトレーリング・シールドに引き戻すことによって得られる。これは、不所望に、一定量の書き込み磁界がトレーリング・シールドに対して失われることを意味する。従って、より多くの磁束がトレーリング・シールドに引き戻されると、磁界の角度が大きくなるにつれ書き込みヘッドの初期の効果的な書き込み性能も高くなり、その結果トレーリング・シールドに対して磁界が失われれば失われるほど性能が低くなる。」

ウ.「【0012】
本発明による複数のMMF源は、書き込みヘッドが転移の際に所望の高められた磁界勾配を生成することを可能にし、一方で書き込みヘッドが転移の間の長い磁区で書き込み磁界を最大化することを可能にする。トレーリング・シールドに接続された戻り磁極に隣接するMMF源(例えば第2MMF源)を駆動することによって、このトレーリング・シールドを通ずる磁束が高められ、これによって書き込み磁界勾配が高められる。このMMF源の効果を低減させ、主として他のMMF源に依拠することによって、トレーリング・シールドの効果が低減され、書き込み磁界が増大される。
またこの複数のMMF源は、アンダーシュートの制御のため、そして製造誤差による影響の補償のためにも利用することができる。従って、本発明によって著しく向上した性能と融通性とが提供される。」

エ.「【0019】
図3および4を参照すると、垂直磁気記録に用いられる磁気書き込みヘッド302が示される。書き込みヘッド302は、書き込み磁極306、第1又はリーディング・戻り磁極308および第2又はトレーリング戻り磁極310を含むヨーク304を含む。ポール306、308、310は、空気軸受面(ABS)に向かって延在する。ABSは、好ましくは薄い高保磁力頂部磁気層314および低保磁力磁気下地層316を含む磁気媒体312と向かい合う。」

オ.「【0024】
図4を参照すると、磁気転移を記録するときなど、高められた書き込み磁界勾配が必要となる場合、コイル326、328の電流は同一方向に流れてMMFを生成し、このMMFによって所望の、多量の磁束336が第2戻り磁極310を通じて流れる。第2(又はトレーリング)磁極310への磁束を増大させることによって、トレーリング・シールド320が活性化される。トレーリング・シールド320の活性化によって書き込み磁界334が引き付けられ、これによって図4に示すように書き込み磁界が傾斜し、磁界勾配が高められる。この態様において、書き込み磁界334は、標準に対して(磁気媒体312の表面に対して)、例えば45°の角度で傾斜する。トレーリング・シールド320の活性化によって、書き込み磁界勾配が高められ、これによって磁気転移の媒体312への書き込みの際の磁化のより迅速な切り替えが可能となる。」

カ.「【0029】
ここで図9を参照すると、本発明のもう1つの実施の形態において、書き込みヘッド900は、第1又はリーディング戻り磁極904を有するヨーク902、第2又はトレーリング戻り磁極906、および書き込み磁極908を含み、これらは全て、図4および5において示される実施の形態と同様に、バック・ギャップ910で接続される。トレーリング・シールド907はトレーリング戻り磁極906から書き込み磁極908に向かって延在する。しかし、書き込みヘッド900は、書き込み磁極に巻き付くヘリカル書き込みコイル912を用いる。この書き込み磁極は、書き込み磁界914を生成する第1起磁力(第1MMF)源912である。第2MMF源916は、バック・ギャップ910に巻き付くバイアス・コイル916の形態で提供される。バイアス・コイルは、トレーリング戻り磁極906およびトレーリング・シールド907を通じて流れる磁束の量を独立的に制御する磁界を生成する。」

・上記引用例1に記載の「複数の起磁力(MMF)源を用いた磁気書き込みヘッド」は、上記「ア.」、「カ.」の記載事項、及び図9等によれば、書き込み磁極908と、書き込み磁極908と磁気的に接続されたリーディング戻り磁極904と、書き込み磁極908と磁気的に接続されたトレーリング戻り磁極906と、リーディング戻り磁極904およびトレーリング戻り磁極906に起磁力を供給する第1起磁力源(第1MMF)912と、トレーリング戻り磁極906および書き込み磁極908に起磁力を供給する第2起磁力源(第2MMF)916と、を備え、第1および第2起磁力源912,916によって生成される起磁力の相対量を制御するようにした垂直磁気記録のための構造(磁気書き込みヘッド)に関するものである。
・上記「エ.」の記載事項、及び図4、図9等によれば、書き込み磁極908、リーディング戻り磁極904およびトレーリング戻り磁極906は、空気軸受面(ABS)に対して垂直に延在するものである。
・上記「カ.」の記載事項、及び図9等によれば、空気軸受面(ABS)側の端部において、トレーリング戻り磁極906から書き込み磁極908に向かって延在するトレーリング・シールド907が設けられている。
・上記「カ.」の記載事項、及び図9によれば、第1起磁力源(第1MMF)912は、書き込み磁極908に巻き付くヘリカル書き込みコイルである。また、第2起磁力源(第2MMF)916は、書き込み磁極908とトレーリング戻り磁極906とを磁気的に接続するバック・ギャップ910に巻き付くバイアス・コイルであり、当該バイアス・コイルは、トレーリング戻り磁極906およびトレーリング・シールド907を通じて流れる磁束の量を独立的に制御する磁界を生成するものである。
・上記「イ.」?「カ.」の記載事項、及び図4、図9等によれば、磁気転移の際など、高められた書き込み磁界勾配が必要となる場合に、第2起磁力源(第2MMF)916を駆動することによって、トレーリング・シールド907を通ずる磁束を高め(トレーリング戻り磁極906への磁束を増大させ)、これによって書き込み磁界を傾斜させて磁界勾配を高めるようにしたものであると理解することができる。

したがって、特に図9に示される実施の形態に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「垂直磁気記録のための磁気書き込みヘッドにおいて、
空気軸受面(ABS)に対して垂直に延在する書き込み磁極と、
空気軸受面(ABS)に対して垂直に延在し、前記書き込み磁極と磁気的に接続されたリーディング戻り磁極と、
空気軸受面(ABS)に対して垂直に延在し、前記書き込み磁極と磁気的に接続されたトレーリング戻り磁極と、
前記トレーリング戻り磁極の空気軸受面(ABS)側端部に設けられ、前記書き込み磁極に向かって延在するトレーリング・シールドと、
前記リーディング戻り磁極および前記トレーリング戻り磁極に起磁力を供給する第1起磁力源であって、前記書き込み磁極に巻き付くヘリカル書き込みコイルと、
前記トレーリング戻り磁極および前記書き込み磁極に起磁力を供給する第2起磁力源であって、前記書き込み磁極と前記トレーリング戻り磁極とを磁気的に接続するバック・ギャップに巻き付くバイアス・コイルと、を備え、
磁気転移の際など、高められた書き込み磁界勾配が必要となる場合に、前記バイアス・コイルを駆動することによって、前記トレーリング・シールドを通ずる磁束を高め(前記トレーリング戻り磁極への磁束を増大させ)、これによって書き込み磁界を傾斜させて磁界勾配を高めるようにした、垂直磁気記録のための磁気書き込みヘッド。」

(2)引用例2
同じく当審の拒絶の理由に引用された特開平3-189911号公報(以下、「引用例2」という。)には、「垂直記録用薄膜磁気ヘッド」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
ア.「2.特許請求の範囲
記録再生用の薄膜の主磁極(11,51)と、該主磁極の後端に接続された磁束帰還用の補助磁極(12,52)と、該主磁極に対して設けられたコイルとを有する垂直記録用薄膜磁気ヘッドにおいて、
該コイル(13、53)を、一対の半ターン部(20,21,54,55)が、上記主磁極の先端(11b,50a)を中心とするパターンであり且つ垂直とされて上記主磁極(11,51)を間に挟んでこの両側に配され、且つ各半ターン部の端部(54a,55a)同士が該一対の半ターン部が一の経路を形成するように接続された構成としてなる垂直記録用薄膜磁気ヘッド。」(1頁左下欄6?19行)

イ.「第1図は本発明の垂直記録用薄膜磁気ヘッド10の原理構成を示す。
11は記録再生用の薄膜の主磁極である。
12は磁束帰還用の補助磁極であり、主磁極11の後端11aに接続されている。
13はコイルであり、第1図(A)に示す主磁極11の先端11bを中心として配された平面状のコイル14の半ターン部15,16を、線17に沿って矢印18,19で示すように上方に折り曲げて得た構造と同じ構造である。
即ちコイル13は、共に垂直面内に配されて上記主磁極11を間に挟んでこの両側に配された一対の半ターン部20,21よりなり、各半ターン部20,21の上端部同士が符号22で示すように接続され、各半ターン部20,21が一つの経路とされた構造である。
23,24は引出し線である。
〔作用〕
(記録過程について)
電流は、コイル13の一の半ターン部20には例えば矢印25(27)で示す方向に流れ、別の半ターン部21には矢印26(28)で示す方向に流れる。
即ち、電流は主磁極1を挟んで互いに逆方向に流れる(第2図(A),(B)参照)。
・・・・・(中 略)・・・・・
従って、主磁極11は、この両側の半ターン部20,21から発生する磁束を加えられて従来より強く磁化され、しかも、先端11bを直接磁化される。
これにより、主磁極11の先端からは従来よりも約20%程度強い磁界が発生される。
この結果、高保磁力記録媒体の飽和磁化が可能となり、記録媒体の高保磁力化に十分に対応することが可能となる。」(2頁右下欄2行?3頁右上欄9行)

ウ.「第4図(A),(B)は本発明の一実施例になる垂直記録用薄膜磁気ヘッド50を示す。第4図(B),(C)は夫々第4図(A)中IVB-IVB線及びIVC-IVC線に沿う断面図である。
51は記録再生用の薄膜の主磁極である。
51aはその先端、51bはその後端である。
52は補助磁極であり、NiZnフェライト、MnZnフェライト等の磁性基板製である。
この補助磁極52は、主磁極51の後端51bと接続してあり、磁束帰還用として機能する。
53はCu又はAl等のコイルであり、第1の半ターン部54と第2の半ターン部55とが共に垂直とされて上記主磁極51を間に挟んでこの両側に配され、各半ターン部54,55の端部54a,55a同士が電気的に接続されている。各半ターン部54,55は一つの経路を形成する。56は接続部である。
各半ターン部54,55は、夫々主磁極51の先端51aを中心とする半同心円状パターンである。
コイル53の一端53aからは、端子引出し線57が、他端53bからは別の端子引出し線58が夫々引き出されている。」(3頁左下欄8行?同頁右下欄10行)

・上記引用例2に記載の「垂直記録用薄膜磁気ヘッド」は、上記「ア.」?「ウ.」の記載事項、及び第1図、第4図等によれば、空気軸受面に対して垂直に延在する主磁極(11,51)と、主磁極(11,51)の後端に接続された磁束帰還用の補助磁極(12,52)と、主磁極(11,51)に対して設けられたコイル(13,53)とを有する垂直記録用薄膜磁気ヘッドに関するものである。
・上記「ア.」?「ウ.」の記載事項、及び第1図、第4図等によれば、コイル(13,53)は、一対の半ターン部(20,21,54,55)が、主磁極の先端(11b,50a)を中心とする半同心円状パターンであり且つ主磁極(11,51)を間に挟んでこの両側に配され、且つ各半ターン部の端部(54a,55a)同士が該一対の半ターン部が一の経路を形成するように接続された構造である。
つまり、上記「イ.」の記載事項、及び第1図によれば、当該コイル(13,53)は、主磁極(11,51)を中心としてその周りにいわゆるパンケーキ状に巻かれたコイルを、主磁極(11,51)の延在方向と直交する線17に沿って上方(空気軸受面から離れる方向)に折り曲げて得た構造と同じ構造である。そして、かかる構造により、主磁極(11,51)の先端11bが直接磁化され、当該先端11bからは強い磁界が発生される。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「空気軸受面に対して垂直に延在する主磁極と、前記主磁極の後端に接続された磁束帰還用の補助磁極と、前記主磁極に対して設けられたコイルとを有する垂直記録用薄膜磁気ヘッドにおいて、
前記コイルは、前記主磁極を中心としてその周りにいわゆるパンケーキ状に巻かれたコイルを、前記主磁極の延在方向と直交する線に沿って空気軸受面から離れる方向に折り曲げて得た構造とし、これにより、主磁極先端が直接磁化され、強い磁界が発生されるようにしたこと。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「空気軸受面(ABS)に対して垂直に延在する書き込み磁極と」によれば、
引用発明における「書き込み磁極」は、本願発明における「主磁極」に相当し、
本願発明と引用発明とは、「主磁極」を備えるものである点で一致する。

(2)引用発明における「空気軸受面(ABS)に対して垂直に延在し、前記書き込み磁極と磁気的に接続されたトレーリング戻り磁極と」によれば、
引用発明における「トレーリング戻り磁極」は、本願発明でいう、トレーリング側に設けられた「リターン磁極」に相当し、
本願発明と引用発明とは、「トレーリング側に設けられたリターン磁極」を備えるものである点で一致する。

(3)引用発明における「前記リーディング戻り磁極および前記トレーリング戻り磁極に起磁力を供給する第1起磁力源であって、前記書き込み磁極に巻き付くヘリカル書き込みコイルと、前記トレーリング戻り磁極および前記書き込み磁極に起磁力を供給する第2起磁力源であって、前記書き込み磁極と前記トレーリング戻り磁極とを磁気的に接続するバック・ギャップに巻き付くバイアス・コイルと、を備え、磁気転移の際など、高められた書き込み磁界勾配が必要となる場合に、前記バイアス・コイルを駆動することによって、前記トレーリング・シールドを通ずる磁束を高め(前記トレーリング戻り磁極への磁束を増大させ)、これによって書き込み磁界を傾斜させて磁界勾配を高めるようにした・・」によれば、
(a)引用発明における「ヘリカル書き込みコイル」及び「バイアス・コイル」からなるものが、本願発明でいう「コイル装置」に相当し、
引用発明の「ヘリカル書き込みコイル」は書き込み磁極に巻き付くコイルであり、「バイアス・コイル」は書き込み磁極とトレーリング戻り磁極とを磁気的に接続するバック・ギャップに巻き付くコイルであることから、書き込み磁極のトレーリング側のコイルターン数(書き込み磁極とトレーリング戻り磁極との間に位置するコイルターン数)は、書き込み磁極のリーディング側のコイルターン数(書き込み磁極とリーディング戻り磁極との間に位置するコイルターン数)よりもバイアス・コイルによるコイルターン数分だけ多いといえ、引用発明においても、本願発明と同様、コイル装置は書き込み磁極に対して非対称であるということができる(引用例の図9も参照)。
また、引用発明は、高められた書き込み磁界勾配が必要となる場合に、バイアス・コイルを駆動することによって、トレーリング・シールドを通ずる磁束を高め(トレーリング戻り磁極への磁束を増大させ)、これによって書き込み磁界を傾斜させて磁界勾配を高めることができるものであり、この場合、書き込み磁極のトレーリング側の磁束をリーディング側の磁束よりも多く生成するようにしているといえる(引用例の図4も参照)。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記主磁極に対して非対称であり、かつ前記主磁極の前記トレーリング側の磁束を前記主磁極のリーディング側の磁束よりも多く生成するように構成されたコイル装置」を備える点で一致する。

(b)さらに、上述したように引用発明の「ヘリカル書き込みコイル」は、書き込み磁極に巻き付くコイルであり、書き込み磁極は空気軸受面に対して垂直に延在するものであることから、引用発明にあっても、本願発明と同様、書き込み磁極とトレーリング戻り磁極との間に配置されたコイル装置の一部(すなわちヘリカル書き込みコイル)が空気軸受面に垂直な軸の周りに巻かれているコイルワイヤを含むものである。
したがって、本願発明と引用発明とは、「前記主磁極と前記リターン磁極との間の少なくとも一部に配置された前記コイル装置の一部が、前記装置の空気軸受面に垂直な軸の周りに巻かれているコイルワイヤを含む」ものである点で共通するといえる。
ただし、空気軸受面に垂直な軸の周りに巻かれている上記コイルワイヤについて、本願発明では、「前記装置の空気軸受面から離れる方向に部分的に曲がっている」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点で相違している。

(4)そして、引用発明における「垂直磁気記録のための磁気書き込みヘッド」は、本願発明でいう「装置」に相当するものである。

よって、本願発明と引用発明とは、
「装置であって、
主磁極と、
トレーリング側に設けられたリターン磁極と、
前記主磁極に対して非対称であり、かつ前記主磁極の前記トレーリング側の磁束を前記主磁極のリーディング側の磁束よりも多く生成するように構成されたコイル装置を備え、
前記主磁極と前記リターン磁極との間の少なくとも一部に配置された前記コイル装置の一部が、前記装置の空気軸受面に垂直な軸の周りに巻かれているコイルワイヤを含む、装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
主磁極とリターン磁極との間の少なくとも一部に配置されたコイル装置の一部に含まれるコイルワイヤについて、本願発明では、「前記装置の空気軸受面から離れる方向に部分的に曲がっている」旨特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。

5.判断
上記相違点について検討すると、
引用例2には、空気軸受面に対して垂直に延在する主磁極と、前記主磁極の後端に接続された磁束帰還用の補助磁極と、前記主磁極に対して設けられたコイルとを有する垂直記録用薄膜磁気ヘッドにおいて、前記コイルは、前記主磁極を中心としてその周りにいわゆるパンケーキ状に巻かれたコイルを、前記主磁極の延在方向と直交する線に沿って空気軸受面から離れる方向に折り曲げて得た構造とし、これにより、主磁極先端が直接磁化され、強い磁界が発生されるようにした技術事項が記載(上記「3.(2)」を参照)されている。すなわち、空気軸受面に対して垂直に延在する主磁極を中心としてその周りに巻かれたコイルの構造として、空気軸受面から離れる方向に部分的に曲がっているコイルワイヤを含むようにした技術事項が記載されており、引用発明においても、主磁極先端からより強い磁界を発生させるために、空気軸受面に対して垂直に延在する主磁極の周りに巻かれるヘリカル書き込みコイルに対して、あるいは当該ヘリカル書き込みコイルに代えて、上記引用例2に記載のコイル構造に関する技術事項を採用し、相違点に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願発明が奏する効果についてみても、引用発明及び引用例2に記載の技術事項から当業者が予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

なお、請求人は平成28年8月31日付け意見書において、「引用文献2において、空気軸受面から離れる方向に部分的に曲がっているコイルワイヤを含む構成が開示されていると指摘されています。しかしながら、引用文献2の第1図、第2図等に示されるように、引用文献2の開示においては、コイルワイヤの巻軸の方向は空気軸受面に平行な方向です。引用文献2には、『前記装置の空気軸受面に垂直な軸』の周りに巻かれたコイルワイヤは開示も示唆もされていません。」などと主張している。
しかしながら、上述したとおり、引用例2の垂直記録用薄膜磁気ヘッドにおけるコイルは、主磁極を挟んで折り曲げた構造であるものの、空気軸受面に対して垂直に延在する主磁極を中心としてその周りにパンケーキ状に巻かれたコイルであり、空気軸受面に垂直な軸の周りに巻かれたコイルワイヤを含むといえるものであることは明らかである。
したがって、請求人の上記主張は誤りであって採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-27 
結審通知日 2016-10-04 
審決日 2016-10-18 
出願番号 特願2013-48895(P2013-48895)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 直也  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
発明の名称 記録ヘッドコイル構造  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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