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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1325649
審判番号 不服2015-20045  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-06 
確定日 2017-02-28 
事件の表示 特願2011- 76634「画像化プロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 4日出願公開、特開2011-221527〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年3月30日(パリ条約による優先権主張2010年4月13日、米国)の出願であって、平成23年5月20日に手続補正がなされ、平成27年3月19日付けで拒絶理由が通知され、同年6月17日に手続補正がなされたが、同年同月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、理由1は、概略、本願は、発明の詳細な説明の記載が、請求項1ないし3に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものでないから、同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

第3 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成27年6月17日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりの、次のものである(「(A)」ないし「(K)」は、当審において付した。以下、請求項1ないし3に係る発明を、それぞれ、「本願発明1」ないし「本願発明3」といい、総称して「本願発明」という。)。

「 【請求項1】
プロセスであって、
乳化重合会合製法によるトナー粒子を基板に塗布することと、
前記トナー粒子を前記基板に対して溶融させて、画像を形成することと、
を含み、
(A)100%ベタ領域単色パッチ用の前記画像の厚さは1μm?5μmであり、画像の前記厚さは、前記トナー粒子の直径の70%未満であり、
(B)前記トナー粒子は、
前記トナー粒子の25?50重量パーセントの量の低分子量非晶質ポリエステル樹脂と、
前記トナー粒子の25?50重量パーセントの量の高分子量非晶質ポリエステル樹脂と、
前記トナー粒子の5?10重量パーセントの結晶性ポリエステル樹脂と、
前記トナー粒子の7?40重量パーセントの顔料とを含み、
(C)前記トナー粒子の体積平均直径が5?8μmであり、
(D)前記トナー粒子のガラス転移温度は、40℃?65℃であり、
(E)前記塗布することは、前記トナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量が0.055mg/cm^(2)/μm?0.070mg/cm^(2)/μmになるように、実施される、
プロセス。
【請求項2】
溶融後の前記単色ベタ領域層厚さと、溶融前の前記層厚さとの比は、0.65未満であり、前記100%単一層光学密度は1.6?2.3である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
プロセスであって、
少なくとも1つのポリエステル樹脂と、少なくとも1つの顔料、少なくとも1つの界面活性剤および任意選択のワックスとを接触させて、小粒子を有するエマルションを形成することと、
前記小粒子を凝集させることと、
銅、鉄およびその合金からなる群から選択された金属塩を前記小粒子に付加することと、
前記凝集した粒子を合体させて、トナー粒子を形成することと、
前記トナー粒子を回復させることと、
前記トナー粒子を基板に塗布して、未完成の単一層を形成することと、
前記トナー粒子を前記基板に対して溶融させて、画像を形成することと、
を含み、
(F)前記画像は、厚さが1μm?5μmである完成した単一層を含み、前記画像の前記厚さは、前記トナー粒子の直径の70%よりも小さく、
(G)前記少なくとも1つのポリエステル樹脂は、
前記トナー粒子の25?50重量パーセントの量の低分子量非晶質ポリエステル樹脂と、
前記トナー粒子の25?50重量パーセントの量の高分子量非晶質ポリエステル樹脂と、
前記トナー粒子の5?10重量パーセントの結晶性ポリエステル樹脂とを含み、
(H)前記顔料の含有量は、前記トナー粒子の7?40重量パーセントであり、
(I)前記トナー粒子の体積平均直径が5?8μmであり、
(J)前記トナー粒子のガラス転移温度は、40℃?65℃であり、
(K)前記塗布は、前記トナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量が0.055mg/cm^(2)/μm?0.070mg/cm^(2)/μmになるように、実施される、
プロセス。」

第4 判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1は、上記第3に掲げたとおりのものであり、要するに、トナー粒子を基板に塗布すること(塗布工程)と、トナー粒子を基板に対して溶融させて画像を形成すること(画像形成工程)からなるプロセス、すなわち、画像を形成する方法の発明である。
そして、本願発明1の画像は、(A)100%ベタ領域単色パッチ用の画像である場合において、その厚さが、1μm?5μmであって、かつ、トナー粒子の直径の70%未満であることを要する。また、本願発明1のトナー粒子は、(B)当該トナー粒子の25?50重量パーセントの量の低分子量非晶質ポリエステル樹脂と、当該トナー粒子の25?50重量パーセントの量の高分子量非晶質ポリエステル樹脂と、当該トナー粒子の5?10重量パーセントの結晶性ポリエステル樹脂と、当該トナー粒子の7?40重量パーセントの顔料とを含むことを要し、また、(C)当該トナー粒子の体積平均直径が5?8μmであることを要し、さらに、(D)当該トナー粒子のガラス転移温度が、40℃?65℃であることを要する。さらに、本願発明1の塗布工程は、(E)前記トナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量が0.055mg/cm^(2)/μm?0.070mg/cm^(2)/μmになるように、実施されることを要する。

(2)ア 本願明細書(平成23年5月20日及び平成27年6月17日になされた手続補正による補正後のもの。以下同じ。)の発明の詳細な説明における、本願発明1の構成(A)及び(C)に関連する記載は次の(ア)ないし(キ)のとおりである(下線は当審において付した。以下同じ。)。
なお、(オ)の記載において参照されている図面(図1)を掲載した。
(ア)「【0005】
本開示は、トナー粒子によって画像を生成するプロセスと、これによって生成される画像とを提供する。実施形態において、本開示のプロセスは、乳化重合会合製法によるトナー粒子を基板に塗布することと、前記トナー粒子を前記基板に対して溶融させて、画像を形成することとを含む。100%ベタ領域単色パッチ用の前記画像の厚さは約1μm?約5μmであり、前記画像の前記厚さは、前記トナー粒子の直径の約70%よりも小さい。
【0006】
他の実施形態において、本開示のプロセスは、少なくとも1つのポリエステル樹脂、少なくとも1つの着色剤、少なくとも1つの界面活性剤および任意選択のワックスを含むトナー粒子を形成することと、前記トナー粒子を基板に塗布して、未完成の単分子層を形成することと、前記トナー粒子を前記基板に対して溶融させて、画像を形成することとを含む。前記画像は、完成した単分子層を含む。前記完成した単分子層の厚さは約1μm?約5μmである。前記画像の前記厚さは、前記トナー粒子の直径の約70%よりも小さい。
【0007】
さらなる他の実施形態において、本開示のプロセスは、少なくとも1つのポリエステル樹脂と、少なくとも1つの着色剤、少なくとも1つの界面活性剤および任意選択のワックスとを接触させて、小粒子を有するエマルションを形成することと、前記小粒子を凝集させることと、金属塩(例えば、銅、鉄、およびその合金)を前記小粒子に付加することと、前記凝集した粒子を合体させて、トナー粒子を形成することと、前記トナー粒子を回復させることと、前記トナー粒子を基板に塗布して、未完成の単分子層を形成することと、前記トナー粒子を前記基板に対して溶融させて、画像を形成することとを含む。前記画像は、厚さが約1μm?約5μmである完成した単分子層を含む。記画像の前記厚さは、前記トナー粒子の直径の約70%よりも小さい。」
(イ)「【0008】
【図1】本開示のトナーの画像の形成(図中右)を、高度顔料ローディングによるより小型のトナー(図中中央)およびノミナル顔料を用いた比較用トナー(図中左)と比較して示している。
・・・(以下省略)・・・」
(ウ)「【0009】
本開示は、当該印刷物上の色層の層厚さがトナー粒径よりも小さくなるように、トナー粒径を変化させることなくトナー層厚さを低減する印刷プロセスおよびトナーを提供する。」
(エ)「【0011】
本開示のトナーは、ラテックス樹脂を顔料と共に含み得る。前記ラテックス樹脂は、当業者の知識の範囲内の任意の方法によって調製することができるが、実施形態において、前記ラテックス樹脂は、エマルション重合方法(例えば、半連続エマルション重合)によって調製され得、前記トナーは、乳化重合会合製法によるトナーを含み得る。乳化重合会合製法では、サブミクロンのラテックスおよび顔料粒子双方をトナーサイズ粒子に凝集させ、実施形態における粒径の成長は、例えば約0.1μm?約15μmである。」
(オ)「【0080】
本開示の方法を用いれば、同じ画像を得る際により少量のトナーで済む、高度に着色されたトナーを製造することができる。これらの高度に着色されたトナーを用いた場合、顔料ローディングをノミナル値よりも約33?約100%増加させることができる。印刷物上のトナー単位面積質量(TMA)を低減すると、トナー層がより肉薄となる。このTMA低減を補償しつつ正確な光学密度を得るためには、画像層の顔料の全体量が変わらないように、トナー中への顔料ローディング量を前記TMAに反比例して増加させることが必要である。その結果、前記TMA低減に比例してトナー使用コストを低減させることができる。トナー層がより肉薄となることによっても、オフセット印刷のような印刷物に近い仕上がりを得ることが可能となる。これは、オフセットインクを用いると、印刷物上の画像層を肉薄とすることができるからである。
【0081】
よって、図1に示すように、従来のトナー(図1A)、およびより小型の粒径(図1B)の高度に着色されたトナーと比較して、本開示のトナー(図1C)は、望ましいより薄い厚さおよびTMAのトナー層を達成しつつ、高度に着色されかつより大きなサイズとすることができる。
【0082】
例えば、本開示のトナーの平均トナー直径を約5.8μmとして、このトナーを用いて、厚さ約5.5μmのベタ領域パッチ単分子層のカラートナーを製造することができる。トナーサイズを直径約4μmに低減した場合、4.2μmのベタ領域パッチ単分子層の色厚さが得られ、これは、より大型のトナーと比較して、層厚さを約30%低減できたことになる。光学密度を整合させるために、顔料ローディングを約45%だけ増加させる必要がある。しかし、4μmのトナーを用いた場合、現像剤ラチチュードが実質的に低減する。なぜならば、トナー濃度(TC)が約12%以上であるときにCゾーンにおいてのみ、所望の画像密度が到達できるからである。Aゾーンにおけるラチチュードも低減しているが、装填量の低減により対応可能である。」
【図1】

(カ)「【0083】
上記により、TMA量を通常みられる量よりも低減するように顔料ローディングを増加した場合、より小型のトナーで現像ラチチュードを維持できることが分かる。従って、従来よりも小型のサイズトナーを用いた場合も、トナー層の厚さは、トナー直径と差が無かった。本開示によれば、小型トナーを用いることにより、印刷物上のトナー層を、低減した粒径よりも薄くすることができ、よって高度に着色されたより小型のトナーよりも薄くすることができる。小型のトナーサイズに起因するラチチュード低減は、TMA低減の増進により、相殺することができる。
【0084】
トナー(特に、既に極めて小さなサイズとなっているため、トナーサイズの小型化による問題を最も被るであろう乳化重合会合製法(EA)によるトナー、およびEA極低融点(ULM)トナー)に関する別の選択肢として、トナーサイズは低減せず、かつ、画像上に現像されるトナーの量は低減する方法がある。トナー粒子は同一サイズに保持したままでTMAを低減した場合、初期の未溶融の現像トナー粒子は、全ベタ領域パッチ内の基板さえも完全に被覆することができない。溶融時において、EA ULMは良好に流動して画像内を満たし、これにより、粗い紙上でも、優れたベタ領域パッチを得ることができる。換言すれば、基板上に塗布されたトナー粒子は、溶融前の未完成層を形成した後、溶融後に、完成した単分子層を形成することができる。TMA低減の補償を支援しつつ、正確な光学密度を得るために、画像層中の顔料の総量が変わらないように、トナー中への顔料ローディングを前記TMA低減量に比例して増加させてもよい。実施形態において、その結果得られたトナーの直径は5μmを越え、その結果、トナー層厚さは5μm未満となる。下記例中で述べるように、TMAを30%低減した場合、このアプローチによるEAULMトナーを5.9μmとすることができ、その結果、顔料ローディングは45%増加する。
【0085】
このように、本開示は、以下のような印刷プロセスおよびトナーを提案する。前記印刷プロセスおよびトナーによれば、印刷物上の単色100%ベタ領域画像層の最終的なトナー層厚さは、トナー粒径よりもずっと薄く、その結果、直径が5μmよりも大きなトナー粒子から、約5μm未満の層厚さを得ることが可能となる。
【0086】
よって、トナー粒子の体積直径は、約2μm?約7μm(実施形態において約3?約6μm)であり得る。他の実施形態において、トナー粒子の体積直径は、約3.5μm?約5μm(実施形態において約4μm?約4。5μm)であり得る。
【0087】
溶融後、基板上のトナー粒子は、画像を形成する。その結果得られた100%ベタ領域の単色画像の厚さは、約1μm?約5μm(実施形態において、約2μm?約4μm)であり得る。
【0088】
このように、本開示によれば、100%単色ベタ領域の画像の厚さを、画像の形成に用いられるトナー粒子の直径の約70%未満とすることができ、実施形態において、画像厚さを、画像の形成に用いられるトナー粒子の直径の約30%?約65%(実施形態において、画像の形成に用いられるトナー粒子の直径の約40%?約60%)とすることができる。言い換えれば、実施形態において、溶融後の単色ベタ領域層厚の溶融前の層厚さに対する比は、0.65未満(実施形態において約0.30?約0.65、実施形態において約0.40?約0.55)である。」
(キ)「【0091】
実施形態において、本開示のプロセスを用いて、モノクロ画像(すなわち、単色が印刷された画像)を形成することができる。他の実施形態において、本開示のプロセスは、複数の色(実施形態において約2色?約8色、他の実施形態において約3色?約6色)の印刷を含み得る。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕プロセスであって、
乳化重合会合製法によるトナー粒子を基板に塗布することと、
前記トナー粒子を前記基板に対して溶融させて、画像を形成することと、
を含み、
100%ベタ領域単色パッチ用の前記画像の厚さは約1μm?約5μmであり、画像の前記厚さは、前記トナー粒子の直径の約70%未満である、
プロセス。
〔2〕前記トナー粒子の体積直径は、約2μm?約7μmであり、溶融後の前記単色ベタ領域層厚さと、溶融前の前記層厚さとの比は、0.65未満であり、前記100%単一層光学密度は約1.6?約2.3であり、前記100%単一層光学密度は約1.7?約2.2である、前記〔1〕に記載のプロセス。
〔3〕プロセスであって、
少なくとも1つのポリエステル樹脂、少なくとも1つの着色剤、少なくとも1つの界面活性剤および任意選択のワックスを含むトナー粒子を形成することと、
前記トナー粒子を基板に塗布して、未完成の単分子層を形成することと、
前記トナー粒子を前記基板に対して溶融させて、画像を形成することと、
を含み、
前記画像は、厚さが約1μm?約5μmである完成した単分子層を含み、前記画像の前記厚さは、前記トナー粒子の直径の約70%よりも小さい、
プロセス。
〔4〕プロセスであって、
少なくとも1つのポリエステル樹脂と、少なくとも1つの着色剤、少なくとも1つの界面活性剤および任意選択のワックスとを接触させて、小粒子を有するエマルションを形成することと、
前記小粒子を凝集させることと、
銅、鉄およびその合金からなる群から選択された金属塩を前記小粒子に付加することと、
前記凝集した粒子を合体させて、トナー粒子を形成することと、
前記トナー粒子を回復させることと、
前記トナー粒子を基板に塗布して、未完成の単分子層を形成することと、
前記トナー粒子を前記基板に対して溶融させて、画像を形成することと、
を含み、
前記画像は、厚さが約1μm?約5μmである完成した単分子層を含み、前記画像の前記厚さは、前記トナー粒子の直径の約70%よりも小さい、
プロセス。」

イ 上記アのとおり、発明の詳細な説明には、「乳化重合会合製法によるトナー粒子」の(体積平均)直径に関し、「実施形態」において、約0.1μm?約15μm(【0011】)、約5.8μm(【0082】)、5.9μm(【0084】)、5μmよりも大きい(【0085】)、約2μm?約7μm(「実施形態」において約3?約6μm)(【0086】)、他の「実施形態」において約3.5μm?約5μm(「実施形態」において約4μm?約4.5μm)(【0086】)といった数値が記載されており、これらのうち、具体的な数値は、5.8μmと5.9μmの二つのみである。
また、100%ベタ領域単色パッチ用の画像又は完成した単一層の厚さについて、約1μm?約5μm(【0005】、【0006】、【0007】、【0091】)、望ましいより薄い厚さ(【0081】)、約5.5μm(【0082】)、5μm未満(【0084】、【0085】)、約1μm?約5μm(「実施形態」において、約2μm?約4μm)(【0087】)といった記載があり、これらのうち、具体的な数値は、5.5μmのみである。
さらに、トナー粒子の直径に対する画像の厚さについては、約70%よりも小さい(【0005】、【0006】、【0007】、【0091】)、約70%未満(【0088】、【0091】)、約30%?約65%(「実施形態」において・・・約40%?約60%)(【0088】)、0.65未満(「実施形態」において約0.30?約0.65、「実施形態」において約0.40?約0.55)(【0088】)、0.65未満(【0091】)といった数値範囲が記載されているが、具体的な数値の記載はない。
なお、100%ベタ領域単色パッチ用の画像又は完成した単一層の厚さについての具体的な数値(5.5μm)は、乳化重合会合製法によるトナー粒子の(体積平均)直径についての具体的な数値(5.8μm又は5.9μm)の70%未満になっていない。

(3)ア 本願明細書の発明の詳細な説明における、本願発明1の構成(B)に関連する記載は次の(ア)ないし(オ)のとおりである。
(ア)「【0012】
本開示のプロセスにおいて、任意のトナー樹脂を用いることができる。このような樹脂は、任意の適切な重合方法を介して任意の適切なモノマー(単数または複数)で構成してよい。実施形態において、前記樹脂は、エマルション重合以外の方法で調製してもよい。さらなる実施形態において、前記樹脂は、縮合重合によって調製してもよい。
【0013】
本開示のトナー組成物は、実施形態において、非晶質樹脂を含む。前記非晶質樹脂は、直鎖状樹脂であってもよいし、あるいは分枝鎖状樹脂であってもよい。
【0014】
実施形態において、適切な直鎖状非晶質ポリエステル樹脂は、以下の式(I)を有するポリ(プロポキシル化ビスフェノールA-フマレート)樹脂であり得る。
【化I】

ここで、mは、約5?約1000であり得る。」
(イ)「【0015】
実施形態において、前記低分子量非晶質ポリエステル樹脂は、飽和非晶質ポリエステル樹脂または不飽和非晶質ポリエステル樹脂であり得る。
【0016】
前記低分子量直鎖状非晶質ポリエステル樹脂は一般的には、有機ジオール、二塩基酸またはジエステルおよび重縮合触媒の重縮合により、調製され得る。
【0017】
前記低分子量非晶質ポリエステル樹脂は、分枝鎖状樹脂であり得る。本明細書中用いられる「分枝鎖状」または「分枝状」という用語は、分枝鎖状樹脂および/または架橋樹脂であり得る。
【0018】
飽和二塩基酸および不飽和二塩基酸(または無水物)と、二価アルコール(グリコールまたはジオール)との間の高精度のin situ反応が得られるように、直鎖状または分枝鎖状の不飽和ポリエステルを選択する。その結果得られた不飽和ポリエステルは、2つの前部上で(すなわち、(i)ポリエステル鎖に沿った不飽和部(二重結合)と、(ii)酸塩基反応を受け入れられる官能基(例えば、カルボキシル、ヒドロキシなどの基)との間)上で反応性(例えば、架橋性)となる。典型的な不飽和ポリエステル樹脂は、二塩基酸および/または無水物およびジオールを用いて、メルト重縮合または他の重合プロセスによって調製される。
【0019】
前記選択された非晶質ポリエステル樹脂の作製において用いられるモノマーは限定されず、用いられるモノマーは、例えば、エチレン、プロピレンなどのうちの任意の1つ以上のものを含み得る。公知の連鎖移動剤(例えば、ドデカンチオールまたは四臭化炭素)を用いて、前記ポリエステルの前記分子量特性を制御することができる。前記モノマーから前記非晶質ポリエステルまたは結晶性ポリエステルを形成するための任意の適切な方法を制限無く用いることができる。
【0020】
本開示のトナー粒子中の前記低分子量非晶質ポリエステル樹脂の量については、コア部内であろうと、任意のシェル部内であろうと、またはコア部およびシェル部の双方内であろうと、前記トナー粒子(すなわち、外部添加剤および水を除いたトナー粒子)の25?約50重量パーセントの量で存在し得、実施形態において約30?約45重量パーセントの量で存在し得、実施形態において約35?約43重量パーセントの量で存在し得、る。」
(ウ)「【0021】
実施形態において、前記トナー組成物は、少なくとも1つの結晶性樹脂(実施形態において、結晶性ポリエステル樹脂)を含む。本明細書中用いられる「結晶性ポリエステル樹脂」という用語は、示差走査熱量測定(DSC)において段階的な吸熱量変化ではなく明確な吸熱ピークを示す樹脂を含む。しかし、結晶性ポリエステル主鎖および少なくとも1つの他の成分の共重合によって得られたポリマーも、その他の成分が50重量%以下である場合に、本明細書中結晶性ポリエステルと呼ぶ場合がある。
【0022】
実施形態において、前記結晶性ポリエステル樹脂は、飽和結晶性ポリエステル樹脂または不飽和結晶性ポリエステル樹脂である。
【0023】
前記結晶性ポリエステル樹脂は、複数の供給源から入手可能であり、多様な融点(例えば、約30°C?約120°C、実施形態において約50°C?約90°C)を持ち得る。
【0024】
前記結晶性樹脂は、重縮合プロセスによって重縮合触媒の存在下で適切な有機ジオール(単数または複数)および適切な有機二塩基酸(単数または複数)を反応させることにより、調製することができる。
【0025】
本開示のトナー粒子中の前記結晶性ポリエステル樹脂の量は、コア部内であろうと、任意のシェル部内であろうと、またはコア部およびシェル部の双方内であろうと、前記トナー粒子(すなわち、外部添加剤および水を除いたトナー粒子)の1?約15重量パーセント(実施形態において約5?約10重量パーセント、実施形態において約6?約8重量パーセント)の量で存在し得る。」
(エ)「【0026】
実施形態において、本開示のトナーは、少なくとも1つの高分子量分枝鎖状ポリエステル樹脂または架橋非晶質ポリエステル樹脂も含み得る。この高分子量樹脂は、実施形態において、例えば、分枝鎖状非晶質樹脂または非晶質ポリエステル、架橋非晶質樹脂または非晶質ポリエステル、またはその混合物、または架橋が行われた非架橋非晶質ポリエステル樹脂を含み得る。本開示によれば、約1重量%?約100重量%の記高分子量非晶質ポリエステル樹脂を分枝鎖状または架橋とすることができ、実施形態において約2重量%?約50重量%の前記より高分子量の非晶質ポリエステル樹脂を分枝鎖状または架橋にすることができる。
【0027】
前記高分子量非晶質樹脂は、複数の供給源から入手可能であり、多様なガラス転移開始温度(Tg)(例えば、示差走査熱量測定(DSC)によって測定されたガラス転移開始温度(Tg)が約40°C?約80°C、実施形態において約50°C?約70°C、実施形態において約54℃?約68℃)を持ち得る。前記直鎖状非晶質ポリエステル樹脂および分枝鎖状非晶質ポリエステル樹脂は、実施形態において、飽和樹脂または不飽和樹脂であり得る。
【0028】
前記高分子量非晶質ポリエステル樹脂は、分枝状ポリエステル樹脂または架橋直鎖状ポリエステル樹脂により、調製され得る。一般的にポリエステルの分子量および多分散性を増加させる分岐剤(例えば、三官能性モノマーまたは多官能性モノマー)を用いることができる。
【0029】
実施形態において、架橋ポリエステル樹脂は、フリーラジカル条件下において反応し得る不飽和部分を含む直鎖状非晶質ポリエステル樹脂から作製され得る。
【0030】
実施形態において、架橋分枝鎖状ポリエステルは、高分子量非晶質ポリエステル樹脂として用いることができる。
【0031】
少なくとも2つの官能基を有する脂肪族多官能性酸は、約2?約100個の炭素原子またはそのエステル(いくつかの実施形態において、約4?約20個の炭素原子)を含む飽和酸および不飽和酸を含み得る。
【0032】
実施形態において、前記高分子量樹脂(例えば、分枝鎖状ポリエステル)は、本開示のトナー粒子の表面上に存在し得る。前記トナー粒子の表面上の前記高分子量樹脂は、実質的に微粒子であってもよく、その場合、高分子量樹脂粒子の直径は約100ナノメートル?約300ナノメートル、実施形態において約110ナノメートル?約150ナノメートルである。
【0033】
本開示のトナー粒子中の高分子量非晶質ポリエステル樹脂の量については、コア部内であろうと、任意のシェル部内であろうと、またはコア部およびシェル部の双方内であろうと、前記トナーの約25%?約50重量%、実施形態において約30%?約45重量%、他の実施形態において前記トナー(すなわち、外部添加剤および水を除いたトナー粒子)の約40%?約43重量%であり得る。」
(オ)「【0038】
実施形態において、本開示のトナーは、高顔料ローディングを持ち得る。本明細書中用いられる高顔料ローディングを挙げると、例えば、トナーの約7重量パーセント?トナーの約40重量パーセント、実施形態においてトナーの約10重量パーセント?トナーの約18重量パーセントの量の着色剤を有するトナーがある。」

イ (ア)上記ア(イ)のとおり、発明の詳細な説明には、「低分子量非晶質ポリエステル樹脂」に関し、「実施形態」において、当該「低分子量非晶質ポリエステル樹脂」が、飽和非晶質ポリエステル樹脂又は不飽和非晶質ポリエステル樹脂であり得ること(【0015】)、直鎖状樹脂である場合には、有機ジオール、二塩基酸またはジエステル及び重縮合触媒の重縮合により調製され得ること(【0016】)、分枝鎖状樹脂でもあり得ること(【0017】)、直鎖状又は分枝鎖状の不飽和ポリエステルは、飽和二塩基酸及び不飽和二塩基酸(又は無水物)と、二価アルコール(グリコール又はジオール)との間の高精度のin situ反応が得られるように選択されること(【0018】)、典型的な不飽和ポリエステル樹脂は、二塩基酸及び/又は無水物及びジオールを用いて、メルト重縮合又は他の重合プロセスによって調製されること(【0018】)、前記選択された非晶質ポリエステル樹脂の作製において用いられるモノマーは限定されず、用いられるモノマーは、例えば、エチレン、プロピレンなどのうちの任意の1つ以上のものを含み得ること(【0019】)、前記モノマーから前記非晶質ポリエステルまたは結晶性ポリエステルを形成するための任意の適切な方法を制限無く用いることができること(【0019】)、トナー粒子中の前記低分子量非晶質ポリエステル樹脂の量については、前記トナー粒子(すなわち、外部添加剤及び水を除いたトナー粒子)の25?約50重量パーセント、又は約30?約45重量パーセント、又は約35?約43重量パーセントの量で存在し得ること(【0020】)が記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、「実施形態」を具体的に示した実施例の記載はなく、このため、低分子量非晶質ポリエステル樹脂の作製において、具体的にどのようなモノマーを用い、モノマーから低分子量非晶質ポリエステルを形成するために具体的にどのような方法を用い、どの程度の分子量の非晶質ポリエステル樹脂とすればよいのかについては、不明であるといわざるを得ない。
なお、【0014】には、「実施形態において、適切な直鎖状ポリエステル樹脂」が「式(I)を有するポリ(プロポキシル化ビスフェノールA-フマレート)樹脂であり得る」ことが記載されているが、当該【0014】の記載からは、「適切な直鎖状ポリエステル樹脂」が、低分子量直鎖状非晶質ポリエステル樹脂のことを指しているのかどうかわからない。
(イ)また、上記ア(エ)のとおり、発明の詳細な説明には、「高分子量非晶質ポリエステル樹脂」に関し、「実施形態」において、当該「高分子量非晶質ポリエステル樹脂」が、分枝鎖状非晶質ポリエステル、架橋非晶質ポリエステル、またはその混合物、または架橋が行われた非架橋非晶質ポリエステル樹脂を含み得ること(【0026】)、約1重量%?約100重量%を分枝鎖状または架橋とすることができ、実施形態において約2重量%?約50重量%を分枝鎖状または架橋にすることができること(【0026】)、複数の供給源から入手可能であり、多様なガラス転移開始温度(Tg)(例えば、示差走査熱量測定(DSC)によって測定されたガラス転移開始温度(Tg)が約40°C?約80°C、又は約50°C?約70°C、又は約54℃?約68℃)を持ち得ること(【0027】)、分枝鎖状非晶質ポリエステル樹脂または架橋直鎖状非晶質ポリエステル樹脂により調製され得ること(【0028】)、前記直鎖状非晶質ポリエステル樹脂及び分枝鎖状非晶質ポリエステル樹脂は、実施形態において、飽和樹脂又は不飽和樹脂であり得ること(【0027】)、ポリエステルの分子量及び多分散性を増加させる分岐剤(例えば、三官能性モノマーまたは多官能性モノマー)を用いることができること(【0028】)、架橋ポリエステル樹脂は、フリーラジカル条件下において反応し得る不飽和部分を含む直鎖状非晶質ポリエステル樹脂から作製され得ること(【0029】)、架橋分枝鎖状ポリエステルも用いることができること(【0030】)、トナー粒子中の高分子量非晶質ポリエステル樹脂の量については、前記トナー粒子(すなわち、外部添加剤および水を除いたトナー粒子)の約25%?約50重量%、又は約30%?約45重量%、又は約40%?約43重量%であり得ること(【0033】)が記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、「実施形態」を具体的に示した実施例の記載はなく、このため、高分子量非晶質ポリエステル樹脂の作製において、具体的にどのようなモノマーを用い、モノマーから高分子量非晶質ポリエステルを形成するために具体的にどのような方法を用い、どの程度の分子量の非晶質ポリエステル樹脂とすればよいのかについては、不明であるといわざるを得ない。
なお、【0014】には、「実施形態において、適切な直鎖状ポリエステル樹脂」が「式(I)を有するポリ(プロポキシル化ビスフェノールA-フマレート)樹脂であり得る」ことが記載されているが、当該【0014】の記載からは、「適切な直鎖状ポリエステル樹脂」が、高分子量直鎖状非晶質ポリエステル樹脂のことを指しているのかどうかわからない。
(ウ)また、上記ア(ウ)のとおり、発明の詳細な説明には、「結晶性ポリエステル樹脂」に関し、「実施形態」において、当該「結晶性ポリエステル樹脂」が、示差走査熱量測定(DSC)において段階的な吸熱量変化ではなく明確な吸熱ピークを示す樹脂を含むこと(【0021】)、飽和結晶性ポリエステル樹脂又は不飽和結晶性ポリエステル樹脂であること(【0022】)、複数の供給源から入手可能であり、多様な融点(例えば、約30°C?約120°C、又は約50°C?約90°C)を持ち得ること(【0023】)、重縮合プロセスによって重縮合触媒の存在下で適切な有機ジオール(単数又は複数)及び適切な有機二塩基酸(単数又は複数)を反応させることにより調製することができること(【0024】)、トナー粒子中の前記結晶性ポリエステル樹脂の量は、コア部内であろうと、任意のシェル部内であろうと、またはコア部およびシェル部の双方内であろうと、前記トナー粒子(すなわち、外部添加剤および水を除いたトナー粒子)の1?約15重量パーセント(約5?約10重量パーセント、又は約6?約8重量パーセント)の量で存在し得ること(【0025】)が記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明には、「実施形態」を具体的に示した実施例の記載はなく、このため、結晶性ポリエステル樹脂の作製において、具体的にどのようなモノマーを用い、モノマーから結晶性ポリエステルを形成するために具体的にどのような方法を用い、どの程度の分子量の結晶性ポリエステル樹脂とすればよいのかについては、不明であるといわざるを得ない。
(エ)また、上記ア(オ)のとおり、発明の詳細な説明には、「顔料」に関し、「実施形態」において、高顔料ローディングを持ち得ること(【0038】)、高顔料ローディングとは、例えば、トナーの約7重量パーセント?トナーの約40重量パーセント、又はトナーの約10重量パーセント?トナーの約18重量パーセントの量の着色剤を有するトナーであること(【0038】)が記載されているが、「実施形態」を具体的に示した実施例の記載はなく、このため、具体的にどのような顔料を用いるかについては、不明であるといわざるを得ない。

(4)ア 本願明細書の発明の詳細な説明における、本願発明1の構成(E)に関連する記載は次のとおりである。
「【0090】
実施形態において、トナー粒子の体積直径に対する(基板上の画像によって発見される)トナー単位面積質量の比は、約0.050mg/cm^(2)/μm?約0.075mg/cm^(2)/μm(実施形態において、約0.055mg/cm^(2)/μm?約0.070mg/cm^(2)/μm)であり得る。」

イ 上記アのとおり、発明の詳細な説明には、「トナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量」に関し、「実施形態」において、約0.050mg/cm^(2)/μm?約0.075mg/cm^(2)/μm又は約0.055mg/cm^(2)/μm?約0.070mg/cm^(2)/μmであり得ること(【0090】)が記載されているが、「実施形態」を具体的に示した実施例の記載はなく、このため、具体的に何をどのようにして「トナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量」が上記範囲内に入るように制御するかについては、不明であるといわざるを得ない。

(5)ア 特許法第36条第4項第1号中の「その実施」とは、請求項に係る発明の実施のことであると解される。したがって、発明の詳細な説明は、当業者が請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなければならない。
イ 本願発明1はプロセス(方法)の発明であるところ、方法の発明について実施ができることとは、その方法を使用できることであるから、「実施形態」は、方法の使用が可能となるように記載する必要がある。
さらに、本願発明1は、画像を形成する方法の発明である(上記(1)参照。)ところ、方法の発明が画像を形成する方法の発明である場合において、「その方法を使用できる」というのは、その方法により画像を形成することができることであるから、これが可能となるように「実施形態」を記載する必要がある。
ウ 画像を形成する方法の発明については、当業者がその方法により画像を形成することができなければならないから、明細書及び図面の記載並びに技術常識に基づき、当業者が画像を形成することができるように、画像の原材料、その処理方法及び生産物である画像の三つについて、十分に記載しなければならない。この場合において、形成すべき画像とは、本願発明の課題が解決された画像、すなわち、トナー使用コストを低減させつつ、オフセット印刷のような印刷物に近い仕上がりの、肉薄の画像層を有する画像でなければならず、そのためには、現像ラチチュードを損なうことなくトナーの顔料ローディング量を高めなければならない(本願明細書の【0080】?【0082】参照。)。
エ そして、「実施形態」の記載は、当業者が発明を実施できるように発明を説明するために必要である場合には、「実施形態」を具体的に示した実施例を用いて行うのが普通である。
ところが、本願の発明の詳細な説明には、上記(2)ないし(4)で述べたとおり、「実施形態」を具体的に示した実施例の記載はない。
オ 画像の原材料に当たる「乳化重合会合製法によるトナー粒子」については、上記(2)で述べたとおり、「実施形態」に示されたその体積平均直径についての具体的な数値は5.8μmと5.9μmの二つのみであるところ、100%ベタ領域単色パッチ用の画像又は完成した単一層の厚さについての唯一の具体的な数値である5.5μmは、上記二つの体積平均直径の70%未満になっていないから、上記二つの体積平均直径の数値がはたして適切な具体例であるのかどうかは疑わしいといわざるを得ない。
また、上記(3)で述べたとおり、「乳化重合会合製法によるトナー粒子」の原材料である、「低分子量非晶質ポリエステル樹脂」、「高分子量非晶質ポリエステル樹脂」及び「結晶性ポリエステル樹脂」が、どのようなモノマーを用い、モノマーからこれらポリエステルを形成するために具体的にどのような方法を用い、どの程度の分子量のポリエステル樹脂とすればよいのかについて、「実施形態」には具体的に示されていない。また、同じく「乳化重合会合製法によるトナー粒子」の原材料である「顔料」として、どのような顔料を用いるかについても、「実施形態」には具体的に示されていない。
さらに、上記(4)で述べたとおり、トナー粒子を基板に塗布する際の「トナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量」についても、実施例の記載がないため、何をどのようにして「トナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量」が上記範囲内に入るように制御するかについては、「実施形態」には具体的に示されていない。
カ そうすると、本願の発明の詳細な説明には、画像の原材料やその処理方法について、広範囲な記載や一般的な記載はあるものの、具体的な記載はほとんどないのであるから、たとえ技術常識を参酌したとしても、明細書及び図面の記載に基づき、当業者が課題が解決された画像を形成するためには、例えば、ポリエステル樹脂製造の際のモノマーや分子量の決定、トナー粒子を基板に塗布する際の各種パラメータの決定等の膨大な選択肢の組み合わせについて試行錯誤をしなければならず、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があるものである。
キ また、本願の発明の詳細な説明には、画像の原材料やその処理方法、トナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量について、具体的にそれらを実施した例の記載が一つもないのであるから、請求項1に規定された各種パラメータ(画像の厚さ、トナー粒子の直径に対する画像の厚さの割合、トナー粒子に対する低分子量非晶質ポリエステル樹脂、高分子非晶質ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂及び顔料の各含有量、トナー粒子の体積平均直径及びガラス転移温度並びにトナー粒子の体積直径に対するトナー単位面積質量)が、当該請求項1に特定された範囲内に入るすべてのプロセスについて、本願発明の課題が解決されるかどうかは不明であるといわざるを得ない。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に開示された技術的範囲を超えて、請求項1に係る発明の範囲にまで、拡張ないし一般化されているといわざるを得ない。

(6)請求人は、平成27年11月6日に提出した審判請求書(6頁末行?7頁13行)において、「・・・本発明の特徴は、乳化重合会合製法によるトナー粒子であって、前記トナー粒子の体積平均直径が5?8μmであるトナー粒子を用いることによって、現像ラチチュードを損なうことなく顔料ローディング量を高めることができ(トナー中における顔料の含有量が7?40重量パーセント)、それによって、厚みが薄いオフセット印刷のような印刷物に近い仕上がりを得ることができる点にある。すなわち、本発明の効果は、乳化重合会合製法(審決注:原文は「性法」となっているが、明らかな誤記であるので、訂正した。)によるトナー粒子において、トナー粒子の体積平均直径を5?8μmとすることにより得られる効果であり、この点は本願請求項1において特定されているから、本願発明は実施可能要件を満たしている。また、本願特許請求の範囲に記載された各要件は本願出願時の特許請求の範囲、図面又は発明の詳細な説明に記載された事項であるから、サポート要件も従属している。従って、実施可能要件及びサポート要件に関する拒絶理由も解消している」などと主張している。
しかし、例えば、本願明細書の【0083】には、「TMA量を通常みられる量よりも低減するように顔料ローディングを増加した場合、より小型のトナーで現像ラチチュードを維持できることが分かる」との記載があるように、本願明細書の記載から、本願発明の効果が、乳化重合会合製法によるトナー粒子において、トナー粒子の体積平均直径を5?8μmとすることにより得られる効果であることは必ずしも読み取れない。また、仮に本願発明の効果についての請求人の主張が正しいとしても、発明の効果が記載されていれば、発明の詳細な説明が当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるわけではない。
また、本願発明1が発明の詳細な説明に記載したものでないことは、上記(5)キで述べたとおりである。
以上のとおりであるから、上記請求人の主張は採用できない。

2 本願発明2及び3について
(1)上記1のとおり、本願発明1に関して、本願の発明の詳細な説明の記載が当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないこと、及び、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものでないことを述べたが、請求項1を引用して記載された請求項2に係る発明(本願発明2)についても、上記1の(1)ないし(6)に記載したとおりであるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、また、請求項2に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。

(2)さらに、請求項3に係る発明(本願発明3)についても、本願発明3は、本願発明1の構成(A)ないし(E)に実質的に相当する構成(F)ないし(K)を備えるから、上記1の(2)ないし(6)と同様の検討が成立し、その結果、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、また、請求項3に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでないといわざるを得ない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、請求項1ないし3に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、請求項1ないし3に係る発明は、いずれも、発明の詳細な説明に記載したものでないから同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-05 
結審通知日 2016-10-06 
審決日 2016-10-18 
出願番号 特願2011-76634(P2011-76634)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G03G)
P 1 8・ 537- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 多田 達也
西村 仁志
発明の名称 画像化プロセス  
代理人 西島 孝喜  
代理人 弟子丸 健  
代理人 箱田 篤  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 市川 さつき  
代理人 浅井 賢治  

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