• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1325788
審判番号 不服2015-2005  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-02-02 
確定日 2017-03-08 
事件の表示 特願2012-223228「改善されたカラークロストークを有するイメージセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日出願公開、特開2013- 30799〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年4月10日(パリ条約による優先権主張2006年10月13日、大韓民国)に出願した特願2007-103017号(以下「原出願」という。)の一部を平成24年10月5日に新たな特許出願としたものであって、同年10月9日に上申書及び手続補正書が提出され、平成25年12月10日付けで拒絶理由が通知され、平成26年3月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年2月2日に拒絶査定を不服とする審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。
そして、平成28年1月27日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年4月22日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明に対する判断
1 本願発明
本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成28年4月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載される事項により特定されるとおりであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「イメージセンサの製造方法であって、
ポテンシャル障壁のないエピタキシャル層を形成するステップであって、第1フォトダイオードに対応する第1領域と、第2フォトダイオードに対応する第2領域と、該エピタキシャル層の上面と、該エピタキシャル層と基板との接触面の間の厚さとを備える、エピタキシャル層を形成するステップと、
前記エピタキシャル層内にイオン注入を行って、前記第1領域内にポテンシャル障壁を形成するが、前記第2領域内に該ポテンシャル障壁を形成しないステップと
を含んでなり、
前記ポテンシャル障壁は、前記第1領域の上部によって前記上面から離れており、
前記ポテンシャル障壁は、前記第1領域の下部によって前記接触面から離れており、
前記ポテンシャル障壁は、前記第1領域の前記下部において形成される前記第2フォトダイオードに対応する電子が前記第2領域へと集まるように形成されており、
前記ポテンシャル障壁は、ドリフト領域によって前記第1フォトダイオードから分離されており、
前記ポテンシャル障壁は、前記第2フォトダイオードに対応する電子をそのまま上方に拡散させるように形成されていることを特徴とする、イメージセンサの製造方法。」

2 当審よりの拒絶理由通知の概要
平成28年1月27日付けで当審より通知した拒絶理由通知の概要は、次のとおりである。
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2004-152819号公報
2.特表2004-510355号公報

・理由 :1、2
・請求項 :1
・引用文献等:1
・備考
……(以下、省略)」

3 引用例の記載事項と引用発明
(1)引用例の記載事項
原出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、当審の拒絶理由通知で引用された刊行物である特開2004-152819号公報(以下「引用例」という。)には、「固体撮像装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図1?図24とともに、以下の事項が記載されている(下線は、参考のため、当審において付したものであり、以下、同様である。)。
ア 従来の技術
a 「【0006】
フォトダイオードによる画素の色配列が、RGB色配列(Red,Green,Blue)である場合、例えば、第1の信号蓄積領域1703aが赤色用フォトダイオード,第2の信号蓄積領域1703bが緑色用フォトダイオード,第3の信号蓄積領域1703cが青色用フォトダイオードである。入射光によって発生する光電荷密度は、P型ウェル1701を構成しているシリコン基板の電気的特性から、図15に示すようになり、波長の長い光(赤色>緑色>青色)ほど、シリコン基板(P型ウェル)の深い位置で光を発生している。」

イ 発明が解決しようとする課題
a 「【0007】
……(中略)……
【発明が解決しようとする課題】
上記した固体撮像装置では、画素サイズの縮小化に伴って、隣接するフォトダイオードの距離が短くなっているため、図14の矢印に示すように、波長の長い光(赤色)を入射することによってシリコン基板の深い位置で発生した信号電荷が、隣接するフォトダイオードの信号蓄積領域内に入り込むことがある。このように、波長の長い赤色用フォトダイオードから、隣接する緑色用フォトダイオードや青色用フォトダイオードに信号電荷が入り込むことによって、混色を引き起こしたり、暗電流が増大するなどの問題があった。
【0008】
なお、波長の長い色用フォトダイオードの信号蓄積領域下にも、一様にP^(+)型埋め込み層を設けると、特に、波長の長い色の信号蓄積領域において、光が発生しにくくなり、波長の長い色の感度の低下が生じる。
【0009】
本発明は、上記した問題点を解決すべくなされたもので、波長の長い色用フォトダイオードから、隣接する他の色用フォトダイオードに信号電荷が入り込むことによって生じる、混色や暗電流を低減することが可能となる固体撮像装置を提供することを目的とする。」

ウ 発明の実施の形態
a 「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1に固体撮像装置の単位セルのうち、光電変換部であるフォトダイオードと読み出しトランジスタの周囲の領域の要部断面図を示し、図2に、固体撮像装置の単位セルの回路構成の例を示す。単位セルは、光電変換部である信号を蓄積するフォトダイオードと、信号走査回路部である信号を読み出す読み出しトランジスタ,信号を増幅する増幅トランジスタ,信号を読み出すラインを選択する垂直選択トランジスタ,フォトダイオードの信号電
荷をリセットするリセットトランジスタなどから構成されている。
……(中略)……
【0015】
また、図1に示すように、半導体基板(図示しない)上に形成されたP型ウェル201に、素子分離領域208が形成されている。また、P型ウェル201内に、信号蓄積領域203が形成され、P型ウェル201の表面領域に、信号蓄積領域203と離間して、N型ドレイン領域207が形成されている。信号蓄積領域203の下には、P型バリア領域204が形成されている。また、信号蓄積領域203上のP型ウェル201の表面領域には、P型シールド領域202が形成されている。P型シールド領域202は、素子分離領域208と接続されている。さらに、P型ウェル201上に、ゲート絶縁膜206を介して読み出しゲート電極205が形成されている。P型ウェル201は、シリコン基板によって形成されており、P型ウェル201及び信号蓄積領域203によって光電変換部であるフォトダイオードが構成されている。
【0016】
信号蓄積領域203に蓄積された信号は、読み出しゲート電極205によって、N型ドレイン領域207から読み出すことができる。P型シールド領域202は、素子分離領域208と接続して接地されており、P型ウェル201の表面の結晶欠陥等の乱れによって生じるリーク電流を低減することができる。
【0017】
ここで、このフォトダイオードは、波長の長い色用フォトダイオードに隣接した、波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードであり、例えば、青色用フォトダイオードである。フォトダイオードの信号蓄積領域203の下には、P型バリア領域204が形成されている。入射光によって発生する光電荷密度は、シリコン基板(Pウェル)の電気的特性から、波長の長い光(赤色>緑色>青色)ほど、シリコン基板(P型ウェル)の深い位置で光を発生する。
【0018】
P型ウェル201の不純物濃度は、例えば、約1×10^(16)?1×10^(14)cm^(-3),P型バリア領域204の不純物濃度は、比較的高濃度であり、P型ウェル201よりも1桁ほど高く、例えば、約1×10^(17)?1×10^(15)cm^(-3) ,信号蓄積領域203の不純物濃度は、例えば、約1×10^(17)?1×10^(15)cm^(-3) ,P型シールド領域202の不純物濃度は、信号蓄積領域203の不純物濃度よりも高い不純物濃度であり、例えば、約1×10^(19)?1×10^(16)cm^(-3)である。
【0019】
図1に示したフォトダイオードは、波長の長い色用フォトダイオードに隣接した、波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードである。波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードである信号蓄積領域203の下に、P型バリア領域204を形成することによって、矢印に示すように、波長の長い色用フォトダイオードの信号蓄積領域から、隣接したフォトダイオードの信号蓄積領域へ信号電荷が入り込むことを抑止することができ、混色や暗電流を低減することができる。」

b 「【0021】
次に、図1に示した固体撮像装置の製造方法の一例について説明する。図3(a)に示すように、P型ウェル301に素子分離領域302を形成する。続いて、波長の長い色用以外のフォトダイオードの、N型の信号蓄積領域を形成する予定の領域の少なくとも一部上に開口部を有するレジストパターン303aを形成し、P型ウェル301上にP型不純物をイオン注入することによって、P型ウェル301に、P型バリア領域303を形成する。
【0022】
図3(b)に示すように、続いて、N型不純物をイオン注入することによって、P型ウェル301に形成されたP型バリア領域303上に、N型の信号蓄積領域304を形成し、フォトダイオードを構成する。また、レジストパターン303aを除去し、P型ウェル301上にゲート絶縁膜305を介して、読み出しゲート電極306を形成する。
【0023】
次に、図3(c)に示すように、信号蓄積領域304が形成されている読み出しゲート電極306の片側の、P型ウェル301の一部が露出するようなレジストパターン307aを形成する。続いて、P型不純物をイオン注入することによって、P型ウェル301の表面領域に、P型シールド領域307を形成する。P型シールド領域307は、素子分離領域302に接続されるなどして、接地されている。」

c 「【0026】
図4に、隣接した3つのフォトダイオードの信号蓄積領域のみを簡略化して示す。半導体基板(図示しない)上に形成されたP型ウェル501に、素子分離領域508が形成されている。また、P型ウェル501内に、第1の信号蓄積領域503a,第2の信号蓄積領域503b,第3の信号蓄積領域503cが離間して形成されている。第2及び第3の信号蓄積領域503b,503cの下には、それぞれ第1及び第2のP型バリア領域504a,504bが形成されている。第1乃至第3の信号蓄積領域503a,503b,503cは、異なる分光特性を有するフォトダイオードである。
【0027】
図5(a)及び図5(b)に、RGB(Red,Green,Blue)画素の色配列の例を示す。図4は、図5(a)のA-Aにおける断面図であり、隣接した3つのフォトダイオードの信号蓄積領域を簡略化して示した図である。図4に示した第1の信号蓄積領域503aは赤色用フォトダイオード,第2の信号蓄積領域503bは緑色用フォトダイオード,第3の信号蓄積領域503cは青色用フォトダイオードである。
【0028】
赤色用フォトダイオード以外の信号蓄積領域、すなわち、第2及び第3の信号蓄積領域503b,503cの下には、第1及び第2のP型バリア領域504a,504bが形成さ
れている。赤色用フォトダイオードの信号蓄積領域、すなわち、第1の信号蓄積領域503aの下には、P型バリア領域は、形成されておらず、P型バリア領域は、選択的に形成されている。
【0029】
このように、波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの、信号蓄積領域503b,503cの下にのみ、P型バリア領域を形成することによって、矢印に示すように、波長の長い色用フォトダイオードの信号蓄積領域から、隣接したフォトダイオードの信号蓄積領域へ信号電荷が入り込むことを抑止することができ、混色や暗電流を低減することができる。また、このとき波長の長い色用フォトダイオードの信号蓄積領域の下には、P型バリア領域が形成されていないため、感度の低下は生じない。P型バリア領域は、波長の長い色用フォトダイオード以外の信号蓄積領域のうち、少なくとも1つ以上の色のフォトダイオードの信号蓄積領域の下に形成されていれば、効果を得ることができる。」

d 「【0030】
また、P型バリア領域は、信号蓄積領域の直下に形成するのではなく、間に信号蓄積領域から広がる空乏層を設けて、信号蓄積領域の下方に形成してもよい。」

e 図1には、P型シールド領域202、信号蓄積領域203及びP型バリア領域204のスタックが設けられた領域に隣接するP型ウェル201の深い部分からの信号電荷の流れを示す矢印が、前記P型バリア領域204で止まっていることが、図示されている。
また、図4には、図面左端の第1の信号蓄積領域503aの下方部分のP型ウェル501からの信号電荷の流れを示す矢印が、前記第1の信号蓄積領域503aの隣に位置する、第1のP型バリア領域504a及び第2のP型バリア領域504bで止まっていることが、図示されている。

f 図3には、P型バリア領域303はp型ウェル301内に設けられていること、したがって、P型バリア領域303の下面とp型ウェル301の下面とは間隔をおいて離れていることが図示されている。

エ 発明の効果
a 「【0060】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、隣接するフォトダイオードから信号電荷が入り込むことによって生じる、混色や暗電流を低減することができる。」

(2)引用発明
以上の記載事項から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「固体撮像装置の製造方法であって、
半導体基板上に、隣接して複数のフォトダイオードが形成されるP型ウェルを形成するステップと、
前記P型ウェル上にP型不純物をイオン注入することによって、前記P型ウェルに、前記P型ウェルより不純物濃度が1桁ほど高いP型バリア領域を形成するステップと、
N型不純物をイオン注入することによって、前記P型ウェルに形成された前記P型バリア領域上に、N型の信号蓄積領域を形成して、前記P型ウェル及び前記信号蓄積領域によって光電変換部である前記フォトダイオードを構成するステップと、
P型不純物をイオン注入することによって、前記P型ウェルの表面領域に、前記P型ウェルの表面の結晶欠陥等の乱れによって生じるリーク電流を低減するP型シールド領域を形成するステップと、
を含んでなり、
前記P型バリア領域は、前記信号蓄積領域の直下に形成するのではなく、間に前記信号蓄積領域から広がる空乏層を設けて、前記信号蓄積領域の下方に形成し、
前記P型バリア領域の下面と前記p型ウェルの下面とは間隔をおいて離れており、
波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下にのみ前記P型バリア領域を形成することによって、前記波長の長い色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域から、隣接する他の色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域に信号電荷が入り込むことを抑止して、混色や暗電流を低減することを特徴とする固体撮像装置の製造方法。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と、引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「固体撮像装置」は、本願発明の「イメージセンサ」に相当する。

イ 引用発明の「P型ウェル」は、「半導体基板上」に「形成」されるから、前記「半導体基板」と前記「P型ウェル」の界面を下面とし、当該下面から、前記「P型ウェル」の「表面」までの厚さを備えると認められる。
また、引用発明の「P型ウェル」には「隣接」する「複数のフォトダイオード」、すなわち、「波長の長い色用フォトダイオード」と、それ「以外」の「隣接する他の色用フォトダイオード」とが形成されるから、前記「P型ウェル」は、前記各「フォトダイオード」を形成する領域を有するものと認められる。したがって、引用発明の「P型ウェル」は、「隣接して複数のフォトダイオード」を形成する領域を有する半導体層といえるものである。したがって、引用発明の「P型ウェル」と、本願発明の「エピタキシャル層」とは、半導体「層」である点で共通する。
ここで、引用発明の「P型バリア領域」は、「P型ウェルより不純物濃度が1桁ほど高」く、「前記波長の長い色用フォトダイオードから、隣接する他の色用フォトダイオードに信号電荷が入り込むことを抑止」するから、前記「P型ウェル」内に存在する「信号電荷」にとっては「バリア」、すなわち、ポテンシャル障壁として機能すると認められる。したがって、引用発明の前記「P型バリア領域」は本願発明の「ポテンシャル障壁」に相当する。
そうすると、引用発明の「P型バリア領域を形成するステップ」を実行する前の「P型ウェル」と、本願発明の「ポテンシャル障壁のないエピタキシャル層」とは、「ポテンシャル障壁のない」半導体「層」である点で共通する。
以上から、引用発明の「半導体基板上に、隣接して複数のフォトダイオードが形成されるP型ウェルを形成するステップ」と、本願発明の「ポテンシャル障壁のないエピタキシャル層を形成するステップであって、第1フォトダイオードに対応する第1領域と、第2フォトダイオードに対応する第2領域と、該エピタキシャル層の上面と、該エピタキシャル層と基板との接触面の間の厚さとを備える、エピタキシャル層を形成するステップ」とは、「ポテンシャル障壁のない」半導体「層を形成するステップであって、第1フォトダイオードに対応する第1領域と、第2フォトダイオードに対応する第2領域と、該」半導体「層の上面と、該」半導体「層と基板との接触面の間の厚さとを備える」、半導体「層を形成するステップ」である点で共通する。

ウ 引用発明の「P型バリア領域」は、「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下にのみ」形成するものである。すなわち、「P型ウェル」における前記「波長の長い色用フォトダイオード」を形成する領域には、前記「P型バリア領域」は形成しない。
したがって、引用発明における「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオード」を形成する領域は本願発明の「ポテンシャル障壁を形成」する「第1領域」に対応し、前記「波長の長い色用フォトダイオード」を「形成」する領域は本願発明の「ポテンシャル障壁を形成」しない「第2領域」に対応する。
以上から、引用発明の「前記P型ウェル上にP型不純物をイオン注入することによって、前記P型ウェルに、前記P型ウェルより不純物濃度が1桁ほど高いP型バリア領域」を「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下にのみ」形成するステップと、本願発明の「前記エピタキシャル層内にイオン注入を行って、前記第1領域内にポテンシャル障壁を形成するが、前記第2領域内に該ポテンシャル障壁を形成しないステップ」とは、半導体「層内にイオン注入を行って、前記第1領域内にポテンシャル障壁を形成するが、前記第2領域内に該ポテンシャル障壁を形成しないステップ」である点で共通する。

エ 引用発明の「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオード」を「形成」する領域においては、前記「P型バリア領域」の上方には、少なくとも、「前記信号蓄積領域から広がる空乏層」と「N型の信号蓄積層」に加え、「前記P型ウェルの表面領域」に形成される「P型シールド領域」が設けられる。
この、引用発明において、「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオード」を形成する領域の「P型バリア領域」の上方に、少なくとも、「前記信号蓄積領域から広がる空乏層」と「N型の信号蓄積層」に加え「前記P型ウェルの表面領域」に形成される「P型シールド領域」が設けられることは、本願発明において、「前記ポテンシャル障壁は、前記第1領域の上部によって前記上面から離れて」いることに相当する。

オ 引用発明において、「前記P型バリア領域の下面」と「半導体基板上」に形成される「前記p型ウェルの下面とは間隔をおいて離れて」いることは、本願発明において、「前記ポテンシャル障壁は、前記第1領域の下部によって前記接触面から離れて」いることに相当する。

(2)一致点と相違点
以上のとおりであるから、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違する。
<一致点>
「イメージセンサの製造方法であって、
ポテンシャル障壁のない半導体層を形成するステップであって、第1フォトダイオードに対応する第1領域と、第2フォトダイオードに対応する第2領域と、該半導体層の上面と、該半導体層と基板との接触面の間の厚さとを備える、半導体層を形成するステップと、
前記半導体層内にイオン注入を行って、前記第1領域内にポテンシャル障壁を形成するが、前記第2領域内に該ポテンシャル障壁を形成しないステップと
を含んでなり、
前記ポテンシャル障壁は、前記第1領域の上部によって前記上面から離れており、
前記ポテンシャル障壁は、前記第1領域の下部によって前記接触面から離れていることを特徴とする、イメージセンサの製造方法。」

<相違点1>
一致点に係る「ポテンシャル障壁のない半導体層を形成するステップ」において、当該「半導体層」として、本願発明は「エピタキシャル層」を形成するのに対して、引用発明は「P型ウェル」を形成する点。

<相違点2>
本願発明の「前記ポテンシャル障壁は、前記第1領域の前記下部において形成される前記第2フォトダイオードに対応する電子が前記第2領域へと集まるように形成されて」いるのに対して、引用発明は「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下にのみ前記P型バリア領域を形成することによって、前記波長の長い色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域から、隣接する他の色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域に信号電荷が入り込むことを抑止して、混色や暗電流を低減する」点。

<相違点3>
本願発明の「前記ポテンシャル障壁は、ドリフト領域によって前記第1フォトダイオードから分離されて」いるのに対して、引用発明の「前記P型バリア領域は、前記信号蓄積領域の直下に形成するのではなく、間に前記信号蓄積領域から広がる空乏層を設けて、前記信号蓄積領域の下方に形成」される点。

<相違点4>
本願発明の「前記ポテンシャル障壁は、前記第2フォトダイオードに対応する電子をそのまま上方に拡散させるように形成されて」いるのに対して、引用発明の「前記P型バリア領域」は、そのような特定を有していない点。

5 当審の判断
(1)相違点1について
ア 引用例には、段落【0015】に「半導体基板(図示しない)上に形成されたP型ウェル201」と、段落【0026】に「半導体基板(図示しない)上に形成されたP型ウェル501」と記載される一方で、段落【0015】には「P型ウェル201は、シリコン基板によって形成されており」と、段落【0017】には「シリコン基板(P型ウェル)」と記載されている。
後者の記載から、引用例においては、「シリコン基板」と「P型ウェル」を同一視しているものである。
そうすると、「シリコン基板」は一般に結晶性であることを踏まえると、引用例においては、半導体基板上のフォトダイオードを形成するための結晶性の層であるP型シリコン基板をP型ウェルと呼んでいると認められる。
したがって、引用発明における「半導体基板上」のフォトダイオードを形成するための結晶性の層である「P型ウェル」を形成する方法と、半導体基板上のフォトダイオードを形成するための結晶性の層であるP型のエピタキシャル層を形成する方法との間に、実質的な差異があるとは認められない。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ また、仮に実質的に相違するとしても、固体撮像装置の技術分野において、半導体基板上の、フォトダイオードを形成する半導体層を、P型のエピタキシャル層とすることは、以下に挙げる周知例1?3に記載されるように周知技術である。
したがって、引用発明において、「隣接して複数のフォトダイオード」を「形成」する半導体層として、「P型ウェル」に代えてP型のエピタキシャル層を用いることで、相違点1に係る構成とすることは、当業者であれば適宜なし得たものと認められる。

(ア)周知例1の記載事項
原出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原審の拒絶理由通知で引用された刊行物である特開2006-210919号公報(以下「周知例1」という。)には、「光の波長に応じて異なる厚さの埋没バリヤ層を具備するイメージセンサ及びその形成方法」(発明の名称)に関して、図1?8とともに、以下の事項が記載されている。
a 「【0031】
図3を参照すると、緑色光を実現するための画素である緑色領域G、赤色を実現するための画素である赤色領域R及び青色を実現するための画素である青色領域Bを具備するP型半導体基板1上にP型エピタキシャル層3が位置する。前記各々の領域は素子分離膜7によって区別される。本実施形態で前記緑色領域G、前記赤色領域R及び前記青色領域Bの位置は本発明の要旨を容易に説明するために配置したものであり、任意に交換することができる。例えば3×3の配列で前記赤色領域Rは中心に位置して、前記グリーン領域Rは前記赤色領域Rを基準で左右及び上下に位置することができる。そして前記青色領域Bは前記赤色領域Rの対角線方向に位置することができる。
【0032】
前記エピタキシャル層3の上部にP型の第1不純物注入領域19とN型の第2不純物注入領域17が位置して、光電変換部であるフォトダイオードをなす。また、前記N型の第2不純物注入領域17と前記P型エピタキシャル層3も光電変換部をなすことができる。……(以下、省略)」

(イ)周知例2の記載事項
原出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-289137号公報(以下「周知例2」という。)には、「イメージセンサ及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図1?17とともに、以下の事項が記載されている。
a 「【0007】図1は、従来の技術に係るCMOSイメージセンサを示す断面図であって、フォトダイオード、トランスファートランジスタ及びフローティング拡散領域のみを示している。図1を参照すると、p^(+)基板11にエピタキシャル成長されたp-エピタキシャル層12が形成され、p-エピタキシャル層12に素子間隔離のためのフィールド酸化膜14が形成され、フィールド酸化膜14の下部には、n-チャネルフィールドストップ層(n-channel field stop layer)のためのフィールドストップ層13が形成される。
【0008】ここで、フィールドストップ層13は、フィールド酸化膜14が形成されるp-エピタキシャル層12に傾斜なしにイオン注入するため、フィールド酸化膜14下のみに位置する。したがって、フォトダイオードをなすn^(-)-拡散層16は、フィールド酸化膜14のエッジと境界をなすだけであって、フィールドストップ層13はn^(-)-拡散層16の面積に影響を及ぼさない。そして、p-エピタキシャル層12上にスペーサ17が両側壁に形成されたトランスファートランジスタのゲート電極Tx15が形成され、ゲート電極15の一側エッジに揃えられ(aligned)つつp-エピタキシャル層12内部に深いn^(-)-拡散層16が形成され、深いn^(-)-拡散層16上部とp-エピタキシャル層12表面下部にゲート電極の一側に形成されたスペーサ17に揃えられつつ浅いp^(O)-拡散層18が形成される。
【0009】結局、深いn^(-)-拡散層16と浅いp^(O)-拡散層18とからなるフォトダイオードPDが形成され、ゲート電極15の他側に形成されたスペーサ17に揃えられつつp-エピタキシャル層12内にフローティング拡散領域(FD)19が形成される。一方、n^(-)-拡散層16を形成するためのイオン注入マスクMK1は、一側面がトランスファートランジスタのゲート電極の中央に揃えられ、他側面が活性領域に侵入しないフィールド酸化膜上に整列される(図2参照)。
……(中略)……
【0011】一方、図1に示すように、フォトダイオードをなすn^(-)-拡散層16の形成の際イオン注入マスクMK1が実質的に形成されるn^(-)-拡散層16より広い線幅を有するので、n^(-)-拡散層16は、トランスファートランジスタのゲート電極Txと重なった部分を除外した全活性領域に形成されてフィールド酸化膜(FOX)と接することになる。上述した従来技術では、フォトダイオードのn^(-)-拡散層16とp-領域(p^(O)-拡散層、p-エピタキシャル層)との間に逆バイアスがかかると、n^(-)-拡散層16とp領域の不純物濃度が適切に調節された時、n^(-)-拡散層16が完全空乏されながらn^(-)-拡散層16下部に存在するp-エピタキシャル層12と、n^(-)-拡散層16上部に存在するp^(O)-拡散層18に空乏領域が拡張されるが、ドーパント濃度が相対的に低いp-エピタキシャル層12により多くの空乏層拡張がおきる。
【0012】このようなフォトダイオードPDを有するイメージセンサでは、フォトダイオードPDに格納された電子(e)をフォトダイオードPDから取り出して電気的出力信号(電圧または電流)を得ることになるが、最大出力信号は、フォトダイオードPDから取り出すことができる電子の数と直接的に比例するため、出力信号を増加させるためには、光によりフォトダイオード(PD)内で生成及び格納される電子の数を増加させなければならない。上述したように、フォトダイオードPDの空乏層で発生された電子が電気的信号(電圧または電流)に変換されるが、表面から深い所まで幅広く空乏層が形成できるように、表面層(p^(O)-拡散層)のドーパント濃度が下部層(n^(-)-拡散層及びp-エピタキシャル層)のドーパント濃度より非常に高くなるようにイオン注入をするようになる。」

b 「【0024】一方、フォトダイオードPDは、ゲート電極Txの一側面とフィールドストップ層25に揃えられて形成されたn^(-)-拡散層29と、ゲート電極27の一側面から所定距離を置いてフィールドストップ層25に揃えられてn^(-)-拡散層29内に形成されたp^(O)-拡散層31とからなる。一方、ゲート電極27の他側にはn^(+)-拡散層33が形成される。
……(中略)……
【0026】図4に示すように、高濃度p型不純物がドーピングされたp^(+)-半導体基板21上にp-エピタキシャル層22を成長させた後、p-エピタキシャル層22上にパッド酸化膜23とパッド窒化膜24を形成する。……(以下、省略)」

(ウ)周知例3の記載事項
原出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-228513号公報(以下「周知例3」という。)には、「カラ?イメ?ジセンサ及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図1?8とともに、以下の事項が記載されている。
a 「【0006】図2は、図1に示すフォトダイオードPDの断面図である。
【0007】図2に示すように、図1に示すピクセルユニットのフォトダイオードは、P^(+)シリコン基板21、P-エピタキシャル層22、フィールド酸化膜23、N^(-)拡散領域24及びP^(O)拡散領域25を備える。フォトダイオードPDは、P-エピタキシャル層22、N^(-)拡散領域24及びP^(O)拡散領域25が積層されて構成されるPNP接合構造を有する。」

b 「【0025】或いは上記目的を達成するために、本発明は、光学的イメージを電気的信号に変換するためのカラーイメージセンサの製造方法において、基板上にP型半導体層を形成する第1段階と、レッド、グリーン及びブルーフォトダイオードの領域を画定するために上記P型半導体層にフィールド酸化膜を形成する第2段階と、上記レッド、グリーン及びブルーフォトダイオードのために互いに相異なマスクパターンを持つイオン注入マスクを提供する第3段階と、上記P型半導体層にN型拡散領域を形成するために上記イオン注入マスクを利用して上記P型半導体層に不純物イオンを注入する第4段階と、上記レッド、グリーン及びブルーフォトダイオードに該当する互いに相異な第1、第2及び第3空乏領域を形成するために得られた構造体に熱的処理を遂行する第5段階とを包含している。」

c 「【0032】図6に示すように、本実施形態のカラーイメージセンサは、レッド、グリーン及びブルーピクセルユニットが光の多様な成分に対する光感度を改善させるために互いに異なる空乏領域構造を有している。
【0033】レッドピクセルユニット710のフォトダイオードは、光のレッド成分を受光して、このレッド成分から光電荷を生成する。レッドピクセルユニット710のフォトダイオードは、P-エピタキシャル層701の表面近くに設けられた空乏領域702を有する。
……(中略)……
【0036】レッド、グリーン及びブルーピクセルユニット710、720及び730の各々は、低濃度のP-エピタキシャル層701、P-エピタキシャル層701において形成されたN^(-)拡散領域、及びP-エピタキシャル層701の表面とN^(-)拡散領域との間に形成されたP^(O)拡散領域を有する。」

(2)相違点2について
ア 本願明細書の段落【0021】の「P型ドープ層212が電子に対して小さなポテンシャル障壁を形成し、電子の横拡散を防止することにより、赤色光発生電子216も上方に誘導される。さらに、P型ドープ層212の下の赤色光発生電子214も、ポテンシャル障壁を克服することができず、P型ドープ層212の周辺に拡散して赤色のフォトダイオードのポテンシャル井戸に到達しなければならない」という記載によれば、本願発明の「前記ポテンシャル障壁」が「前記第1領域の前記下部において形成される前記第2フォトダイオードに対応する電子が前記第2領域へと集まるよう」にできるのは、本願発明が「前記第1領域内にポテンシャル障壁を形成するが、前記第2領域内に該ポテンシャル障壁を形成しない」という構成を備えているからであると認められる。
一方、引用発明も、「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下にのみ前記P型バリア領域を形成する」という、上記構成と同じ構成を備えている。
したがって、引用発明の前記「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下」にのみ形成される「前記P型バリア領域」も、「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオード」が形成される領域の下部において形成される「波長の長い色用フォトダイオード」に対応する「信号電荷」を、当該「波長の長い色用フォトダイオード」が形成される領域に集めるものと認められる。
よって、相違点2に係る構成は、引用例に記載されているに等しい事項であると認められる。

イ 引用発明は「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下にのみ前記P型バリア領域を形成することによって、前記波長の長い色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域から、隣接する他の色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域に信号電荷が入り込むことを抑止」するものである。
さて、引用例には、段落【0007】に、「波長の長い光(赤色)を入射することによってシリコン基板の深い位置で発生した信号電荷が、隣接するフォトダイオードの信号蓄積領域内に入り込むことがある。」と記載されている。
ここで、前記「波長の長い色」の光は「波長の長い色用フォトダイオード」に対して入射される光であると認められる。そして、前記「波長の長い色」の光を入射することで「P型ウェル」の深い位置で発生した信号電荷には、前記「波長の長い色用フォトダイオード」が形成される領域における深い位置で発生した信号電荷の他に、たとえば入射光の散乱により、「隣接する他の色用フォトダイオード」が形成される領域における深い位置で発生した信号電荷も存在することは、当業者の技術常識である。
そうすると、引用発明の「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下にのみ」形成される「P型バリア層」は、「前記波長の長い色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域から、隣接する他の色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域に信号電荷が入り込むことを抑止」するだけでなく、前記「隣接する他の色用フォトダイオード」が形成される領域における深い位置で発生した「波長の長い色」の光に基づく信号電荷が、当該「隣接する他の色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域」に「入り込む」ことも「抑止」するものと認められる。
そして、それぞれ「抑止」されて前記「隣接する他の色用フォトダイオード」方向への行き場を失った信号電荷は、当然に、「波長の長い色用フォトダイオード」が形成される領域における「N型の信号蓄積領域」に蓄積されると認められる。
よって、引用例の記載を参酌しても、相違点2に係る構成は、引用例に記載されているに等しい事項であると認められる。

ウ なお、仮に相違点2において引用発明が本願発明と実質的に相違するとしても、「隣接する他の色用フォトダイオード」が形成される領域における深い位置で発生した「波長の長い色」の光に基づく信号電荷を、本来受光検出すべき「波長の長い色用フォトダイオード」が形成される領域における「N型の信号蓄積領域」で蓄積できるようにすることは、前記「波長の長い色用フォトダイオード」の感度を高めるために、当業者であれば適宜なし得たものと認められる。

エ 以上から、相違点2は実質的な相違点ではない。
また、仮にそうでないとしても、引用発明を相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば適宜なし得たものと認められる。

(3)相違点3について
ア 引用例の段落【0030】には「P型バリア領域は、信号蓄積領域の直下に形成するのではなく、間に信号蓄積領域から広がる空乏層を設けて、信号蓄積領域の下方に形成してもよい。」と、「P型バリア領域」と「信号蓄積領域」の「間」に前記「信号蓄積領域から広がる空乏層」を設けることが記載されている。
したがって、引用発明において、「空乏層」は、「P型バリア領域」や「信号蓄積領域」とは別の領域に形成されるものと解される。

イ さて、審判請求人は、平成28年4月22日に提出した意見書において、
「新請求項1の「前記ポテンシャル障壁は、ドリフト領域によって前記第1フォトダイオードから分離されて」いる旨の補正事項は、例えば、本願の出願当初の図?の記載と、段落[0021]の「ピンドフォトダイオードで全ての電荷が空乏化すると、空乏領域211がシリコンバルク内の深さXd1で形成される。高エネルギーのボロンイオン注入により形成されたP型ドープ層212は、ポテンシャル障壁として機能する。この層は、空乏領域211の下の深さXgで『青色』及び『緑色』のフォトダイオードの下にのみ位置し、ここで、ほとんどの緑色及び青色の光子は、既に電子215に転換されている。この電子215は、空乏領域211のエッジから、短距離においては上方に移動し、N型ドープ層210に位置するフォトダイオードのポテンシャル井戸内に速やかに拡散する」旨の記載等に接した当業者にとって自明なものです。」
と主張している。(審決注:前記主張における「本願の出願当初の図?」の記載は、「本願の出願当初の図2」の誤記と認められる。)
したがって、審判請求人は、本願発明の「ドリフト領域」は、内部を「電子215」が「移動」する「空乏領域211」を指し、『青色』及び『緑色』のフォトダイオードの下にのみ位置する「P型ドープ層212」は、前記「空乏領域211」によって、『青色』及び『緑色』のフォトダイオードから分離されていることが「本願の出願当初の図2」に記載されている、と主張していると認められる。

ウ ここで、第2の5(1)イ(イ)で摘記したように、周知例2の段落【0011】?【0012】に、従来の技術として「n^(-)-拡散層16下部に存在するp-エピタキシャル層12」に形成される「フォトダイオードPDの空乏層で発生された電子が電気的信号(電圧または電流)に変換される」と記載されるように、フォトダイオードの「空乏層」に照射された光によって電子が励起され、この電子が「空乏層」内を移動することによって、照射された光が電気的信号に変換されることは、当業者の技術常識である。

エ そうすると、引用発明のように、「P型バリア領域」が「間に前記信号蓄積領域から広がる空乏層を設けて、前記信号蓄積領域の下方に形成」するとき、審判請求人が主張するとおり、前記「空乏層」が内部で励起された「信号電荷」の移動経路である「ドリフト領域」となることは、当業者が直ちに察知できたものと認められ、このとき、前記「P型バリア領域」は、「信号電荷」の移動経路となる前記「空乏層」によって、「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオード」から分離されると認められる。
したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。

オ なお、上述のとおり、引用発明において、「空乏層」は、「P型バリア領域」や「N型の信号蓄積領域」とは別の領域に設けられるものと解される。
そして、引用発明と同様に、半導体基板上に、表面から順に、P型領域、N型領域、P型領域の各半導体領域が形成され、少なくとも最下層のP型領域とN型領域とがフォトダイオードを構成する固体撮像素子において、光で励起される電子が生成・移動する空乏層を前記最下層のP型領域に形成することは、以下に示すように、前記周知例1?3に記載され、周知技術である。
したがって、仮に相違点3が実質的な相違点であるとしても、引用発明において、「P型バリア領域」と「N型の信号蓄積領域」との間にP型領域を設け、前記P型領域に、前記「N型の信号蓄積領域」から広がる「空乏層」を形成することで、前記「P型バリア領域」を、前記「空乏層」が形成される前記P型領域によって、「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオード」から分離することは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(ア)周知例1の記載事項
周知例1には、第2の5(1)イ(ア)で摘記した事項に加え、以下の事項が記載されている。
a 「【0032】
前記エピタキシャル層3の上部にP型の第1不純物注入領域19とN型の第2不純物注入領域17が位置して、光電変換部であるフォトダイオードをなす。また、前記N型の第2不純物注入領域17と前記P型エピタキシャル層3も光電変換部をなすことができる。前記第2不純物注入領域17の下部の前記エピタキシャル層3内に第1埋没バリヤ層5が位置する。前記第1埋没バリヤ層5はP型の不純物がドーピングされてなることができる。前記第1埋没バリヤ層5にドーピングされた不純物の濃度は前記エピタキシャル層3にドーピングされた不純物の濃度より高い。前記緑色領域Gと前記青色領域Bで前記第1埋没バリヤ層5上に第2埋没バリヤ層11が位置する。前記青色領域Bで前記第2埋没バリヤ層11上に第3埋没バリヤ層15が位置することができる。前記第2埋没バリヤ層11と前記第3埋没バリヤ層15はP型の不純物でドーピングされてなることができ、前記第1埋没バリヤ層5にドーピングされた不純物の濃度と同一の濃度でドーピングされることができる。前記各々の領域で前記埋没バリヤ層の上部は前記第2不純物注入領域17と離隔される。すなわち、前記緑色領域Gで前記第2埋没バリヤ層11は前記第2不純物注入領域17と離隔される。前記赤色領域Rで前記第1埋没バリヤ層5は前記第2不純物注入領域17と離隔される。前記青色領域Bで前記第3埋没バリヤ層15は前記第2不純物注入領域17と離隔される。
【0033】
これによって、各々の領域から入射される波長の長さに適するようにフォトダイオードの空乏領域を調節することができ、イメージセンサの感度を改善することができる。すなわち、青色の波長が最も短くて、赤色の波長が最も長い。したがって、前記青色領域Bでは青色光が前記第2不純物注入領域17の上部側に到逹するので、空乏領域の幅(深度)が大きくなくても感度が低下しない。一方、前記赤色領域Rでは赤色光が前記第2不純物注入領域17の下部側に到逹するので、大きな幅(深度)の空乏領域を要求する。
【0034】
これと同時に、クロス-トーク現象を防止することができる。すなわち、波長が長い赤色光が前記赤色領域Rで前記第2不純物注入領域17を逸脱して前記エピタキシャル層3に入射するようになって電子-正孔対が生成される場合、電子の移動を前記エピタキシャル層3より高濃度でドーピングされた前記埋没バリヤ層5、11、15が遮断する。すなわち、前記埋没バリヤ層5、11、15内で移動する電子が正孔と再結合して隣り合う画素へのクロス-トーク現象を防止することができる。」

(イ)周知例2の記載事項
周知例2には、第2の5(1)イ(ア)で摘記した事項に加え、以下の事項が記載されている。
a 「【0012】このようなフォトダイオードPDを有するイメージセンサでは、フォトダイオードPDに格納された電子(e)をフォトダイオードPDから取り出して電気的出力信号(電圧または電流)を得ることになるが、最大出力信号は、フォトダイオードPDから取り出すことができる電子の数と直接的に比例するため、出力信号を増加させるためには、光によりフォトダイオード(PD)内で生成及び格納される電子の数を増加させなければならない。上述したように、フォトダイオードPDの空乏層で発生された電子が電気的信号(電圧または電流)に変換されるが、表面から深い所まで幅広く空乏層が形成できるように、表面層(po-拡散層)のドーパント濃度が下部層(n^(-)-拡散層及びp-エピタキシャル層)のドーパント濃度より非常に高くなるようにイオン注入をするようになる。」

b 「【0026】図4に示すように、高濃度p型不純物がドーピングされたp^(+)-半導体基板21上にp-エピタキシャル層22を成長させた後、p-エピタキシャル層22上にパッド酸化膜23とパッド窒化膜24を形成する。ここで、p-エピタキシャル層22を成長させる理由は、低濃度p-エピタキシャル層22が存在するので、フォトダイオードPDの空乏層の深さを増加させることができるため、優れた光感度特性が得られ、フォトダイオードPDの空乏層が到達しないp^(+)-半導体基板21の深い所で発生し得る光電荷等の不規則な移動による単位画素間クロストーク現象を高濃度のp^(+)-半導体基板21の存在により光電荷を再結合させることによって防止できるためである。」

(ウ)周知例3の記載事項
周知例3には、以下の事項が記載されている。
b 「【0032】図6に示すように、本実施形態のカラーイメージセンサは、レッド、グリーン及びブルーピクセルユニットが光の多様な成分に対する光感度を改善させるために互いに異なる空乏領域構造を有している。
【0033】レッドピクセルユニット710のフォトダイオードは、光のレッド成分を受光して、このレッド成分から光電荷を生成する。レッドピクセルユニット710のフォトダイオードは、P-エピタキシャル層701の表面近くに設けられた空乏領域702を有する。
【0034】グリーンピクセルユニット720のフォトダイオードは、光のグリーン成分を受光して、グリーン成分から光電荷を生成する。光のグリーン成分はレッド成分に比べより短い波長を有するため、グリーンピクセルユニット720のフォトダイオードは、レッドピクセルユニット710のフォトダイオードよりP-エピタキシャル層701の表面により近接した状態で設けられた空乏領域703を有する。
【0035】ブルーピクセルユニット730のフォトダイオードは、光のブルー成分を受光して、ブルー成分から光電荷を生成する。光のブルー成分はグリーン成分に比べより短い波長を有するため、ブルーピクセルユニット730のフォトダイオードは、グリーンピクセルユニット720のフォトダイオードよりP-エピタキシャル層701の表面にさらに近接した状態で設けられた空乏領域704を有する。
【0036】レッド、グリーン及びブルーピクセルユニット710、720及び730の各々は、低濃度のP-エピタキシャル層701、P-エピタキシャル層701において形成されたN^(-)拡散領域、及びP-エピタキシャル層701の表面とN^(-)拡散領域との間に形成されたP^(O)拡散領域を有する。」

(4)相違点4について
ア 引用発明の「波長の長い色用フォトダイオード」の「N型の信号蓄積領域」の下には、「前記P型バリア領域」は「形成」されない。
したがって、前記「波長の長い色用フォトダイオード」が形成される領域においては、前記「N型の信号蓄積領域」の下方で生成された「信号電荷」の上方への移動を「抑止」する「P型バリア領域」は存在しない。
よって、引用発明の「P型バリア領域」が、前記「波長の長い色用フォトダイオード」が形成される領域で生成された「信号電荷」を、そのまま上方へ移動させるように形成されていることは、引用例に記載されているに等しい事項であると認められるから、相違点4は実質的な相違点ではない。

イ また、仮にそうでないとしても、引用発明において、「波長の長い色用フォトダイオード」が形成される領域の下方で生成された「信号電荷」が、そのまま上方の「前記波長の長い色用フォトダイオードの前記信号蓄積領域」に「入り込む」ように、「波長の長い色用フォトダイオード以外のフォトダイオードの信号蓄積領域の下にのみ前記P型バリア領域を形成する」ことは、当業者であれば当然になし得たものと認められる。

(5)小括
以上のとおり、相違点1?相違点4は、いずれも、実質的な相違点ではないから、本願発明は、引用例に記載された発明である。

また、仮に引用発明が相違点1?相違点4において本願発明と実質的に相違するとしても、相違点1?相違点4に係る構成は、周知例1?3に見られる周知技術を勘案すれば、引用発明から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
そして、本願発明の効果も、引用発明、周知例1?3に見られる周知技術から、当業者が予期し得たものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知例1?3に見られる周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。


第3 結言
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、仮にそうでないとしても、本願発明は、引用例の記載された発明及び周知例1?3に見られる周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-12 
結審通知日 2016-10-13 
審決日 2016-10-25 
出願番号 特願2012-223228(P2012-223228)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 聖和加藤 俊哉  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 河口 雅英
鈴木 匡明
発明の名称 改善されたカラークロストークを有するイメージセンサ  
代理人 松島 鉄男  
代理人 河村 英文  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ