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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1325825
異議申立番号 異議2016-700590  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-05 
確定日 2017-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5838981号「多段逆浸透膜装置の運転方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5838981号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 特許第5838981号の請求項1に係る特許についての特許異議申立を却下する。 特許第5838981号の請求項2に係る特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯
特許第5838981号の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、平成25年2月20日に出願されたものであって、平成27年11月20日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対して特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所により特許異議の申立てがされたので、これを検討して平成28年8月30日付けで当審から取消理由を通知したところ、同年11月7日付けで訂正請求がなされると共に意見書が提出され、これに対する意見を特許異議申立人に求めたところ、同年12月15日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について
1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「多段逆浸透膜装置を運転する方法において」と記載されているのを「袋状の逆浸透膜を原水スペーサと共に巻回してなる直径8インチのスパイラル型膜エレメントを備えた逆浸透膜装置を多段に設置してなり、前段の逆浸透膜装置の透過水を後段の逆浸透膜装置で処理する多段逆浸透膜装置において、1段目の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.7?2mmであり、2段目以降の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.2?0.6mmである多段逆浸透膜装置を運転する方法において」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の【発明の名称】に「多段逆浸透膜装置及びその運転方法」と記載されているのを「多段逆浸透膜装置の運転方法」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の【0007】を削除する。
(5)訂正事項5
明細書の【0008】に「かかる本発明の多段逆浸透膜装置を運転する方法であって」と記載されているのを「袋状の逆浸透膜を原水スペーサと共に巻回してなる直径8インチのスパイラル型膜エレメントを備えた逆浸透膜装置を多段に設置してなり、前段の逆浸透膜装置の透過水を後段の逆浸透膜装置で処理する多段逆浸透膜装置において、1段目の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.7?2mmであり、2段目以降の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.2?0.6mmである多段逆浸透膜装置を運転する方法であって」と訂正する。

2.訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
a)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するものである。
よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合する。
b)新規事項の有無について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するのみであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。
c)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除するのみであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
a)訂正の目的について
上記の訂正事項1により、訂正前の請求項1が削除されたことにより、訂正前の請求項2における「多段逆浸透膜装置」が訂正前の請求項1に規定された「多段逆浸透膜装置」であることを明記する必要があるため、訂正前の請求項2に「多段逆浸透膜装置を運転する方法において」と記載されているのを「袋状の逆浸透膜を原水スペーサと共に巻回してなる直径8インチのスパイラル型膜エレメントを備えた逆浸透膜装置を多段に設置してなり、前段の逆浸透膜装置の透過水を後段の逆浸透膜装置で処理する多段逆浸透膜装置において、1段目の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.7?2mmであり、2段目以降の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.2?0.6mmである多段逆浸透膜装置を運転する方法において」に訂正するものである。
即ち、訂正事項2は、訂正前の請求項1を削除したことにより、訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号の規定に適合する。
b)新規事項の有無について 及び 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項2は、何ら実質的な内容の変更を伴う訂正ではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
a)訂正の目的について
訂正事項3は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の発明の名称との整合を図るために、「多段逆浸透膜装置及びその運転方法」を「多段逆浸透膜装置の運転方法」とする訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
よって、訂正事項3は特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合する。
b)新規事項の有無について 及び 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項3は、上記のとおり、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の発明の名称との整合を図るための訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
a)訂正の目的について
訂正事項4は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るために、該当段落を削除するものだから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
よって、訂正事項4は特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合する。
b)新規事項の有無について 及び 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項4は、上記のとおり、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図る訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5について
a)訂正の目的について
訂正事項5は、上記訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
よって、訂正事項5は特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合する。
b)新規事項の有無について 及び 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項5は、訂正事項2と同様に、何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(6)一群の請求項について
訂正事項1,2に係る訂正前の請求項1、2は、請求項2が、請求項1を引用しているから一群の請求項である。
また、訂正事項3-5は、訂正前の全ての請求項である請求項1、2に関し明細書を訂正するものである。
したがって、訂正事項1-5は、特許法120条の5第4項及び同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

3.結言
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正を認容し、訂正後の、請求項1、2について請求項ごとに訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、その訂正特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
(削除)

【請求項2】
袋状の逆浸透膜を原水スペーサと共に巻回してなる直径8インチのスパイラル型膜エレメントを備えた逆浸透膜装置を多段に設置してなり、前段の逆浸透膜装置の透過水を後段の逆浸透膜装置で処理する多段逆浸透膜装置において、
1段目の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.7?2mmであり、2段目以降の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.2?0.6mmである多段逆浸透膜装置を運転する方法において、1段目の逆浸透膜装置の透過流束を1.0m/d以下とし、2段目以降の逆浸透膜装置の透過流束を1.1m/d以上とすることを特徴とする多段逆浸透膜装置の運転方法。

2.取消理由の概要
訂正前の請求項2に記載された発明(以下、「訂正前本件発明2」という。)に係る特許に対して、平成28年8月30日付けで当審から特許権者に通知した取消理由の要旨と特許異議申立書に添付された甲各号証は、次のとおりである。

<取消理由の要旨>
訂正前本件発明2に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明、甲第9号証ないし甲第11号証に記載された周知技術、甲第2号証又は甲第5号証に記載された周知技術、及び甲第8号証に記載された技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

<特許異議申立書に添付された甲各号証>
・甲第1号証 :米国特許出願公開第2012/0298578号明細書
・甲第2号証 :国際公開第2007/129530号
・甲第3号証 :特開2008-100219号公報
・甲第4号証 :特開平5-305297号公報
・甲第5号証 :特開2007-152265号公報
・甲第6号証 :特開2000-271569号公報
・甲第7号証 :浄水膜(第2版)、浄水膜(第2版)編集委員会 編集、
膜分離技術振興協会 膜浄水委員会 監修、
技報堂出版株式会社、2008年2月12日発行、
252頁
・甲第8号証 :特表2004-518531号公報
・甲第9号証 :特開2009-220070号公報
・甲第10号証:特開2005-342653号公報
・甲第11号証:特開2004-50005号公報

3.取消理由について
(1)甲第1、2、8号証の記載
(1-1)甲第1号証の記載
甲第1号証には以下の記載があり、当審訳は異議申立人が甲第1号証に添付したものを参考にした。
(ア)「32.A filtration membrane system comprising a plurality of spiral wound membrane elements disposed in a common pressure vessel for receiving feed solution, wherein a first spiral wound membrane element of said plurality of spiral wound membrane elements in the pressure vessel has a first feed channel spacer, and wherein a second spiral wound membrane element of said plurality of spiral wound membrane elements, disposed downstream from said first spiral wound membrane element, has a second feed channel spacer, and wherein said second feed spacer has a height that is less than the height of said first feed channel spacer. 」
=当審訳=「請求項32.供給溶液が流入する共通の圧力容器に配置された複数のスパイラル巻回膜エレメントを備え、
前記圧力容器内の前記複数のスパイラル巻回膜エレメントにおける第1のスパイラル型巻回膜エレメントは、第1供給流路スペーサを有し、
前記第1スパイラル巻回膜エレメントの下流側に配置される、前記複数のスパイラル巻回膜エレメントにおける第2のスパイラル巻回膜エレメントは、第2供給流路スペーサを有し、
前記第2供給スペーサの高さは前記第1供給流路スペーサの高さ以下である、膜ろ過システム。」
(イ)「[0002]The present invention relates to filtration, and more particularly but not exclusively, to membrane filtration systems and methods.」
「[0005]There is a need to provide improved systems and methods for filtration, such as membrane filtration.」
=当審訳=「[0002]この発明は、ろ過技術に関するものであり、さらに詳しくは、ただしこれに限られるものではないが、膜ろ過システムと方法に関するものである。」
「[0005]改良されたろ過システムと方法、特に膜ろ過システムと方法を提供することが必要とされている。」
(ウ)「[0017]In yet another embodiment of the present invention, RO systems are often configured in multi-stage systems where the product water from the first stage is the feed water to the second stage. 」
=当審訳=「[0017]本発明のさらなる他の実施形態において、RO(逆浸透)システムはしばしば、第1工程からの精製水が供給水として第2工程に送液される複数段システムとして構成される。」
(エ)「[0077]・・・In addition, referring to FIG. 9 , large systems are also configured in stages, where first stage pressure vessels 110 are followed by second stage of pressure vessels 112 .・・・」
=当審訳=「[0077]・・・また、図9に示すように、第1ステージの圧力容器110の後段に圧力容器112の第2ステージが続いて、大きなシステムが多段に構成される。・・・」
(オ)「[0035]FIG. 9 is a diagram of a two stage membrane module system.」
=当審訳=「[0035]図9は2つの段階でなる膜モジュールシステムを示す図である。」
以下に、図9を示し、同図から、「FIRST STAGE MODULE」(当審訳:第1ステージモジュール)からの「HIGH SALT REJECT WATER」(当審訳:高塩分濃縮水)でない処理水が、後段の「SECOND STAGE RO MODULE」(当審訳:第2ステージ逆浸透膜モジュール)に供給され、そこでさらに処理されて「DRINKING WATER」(当審訳:飲料水)とされていることがみてとれる。



(カ)「[0084]・・・As another non limiting example, the membrane system design may include two different stages. The first stage may comprise four membrane elements, all of which have feed spacer channel heights of for example 0.030 inches. The second stage may comprise two membrane elements, all of which have feed spacer channel heights of for example 0.015 inches.・・・」
=当審訳=「[0084]・・・他の限定されない例として、膜システムは2つの異なるステージから構成してもよい。第1ステージは、全ての膜エレメントの供給流路スペーサの高さがたとえば0.030インチ(0.762mm)の、4つの膜エレメントから構成してもよい。第2ステージは、全ての膜エレメントの供給流路スペーサの高さがたとえば0.015インチ(0.381mm)の、2つの膜エレメントから構成してもよい。」

(1-2)甲第2号証の記載
(サ)「[0060]・・・J:TDS (Total Dissolved Solids=総塩分)透過流束 [kg/m^(2)・s] 」
(シ)「[0074] 図7に示すフローの評価装置(以下、装置 Xという)を構成した。・・・
[0075] 装置Xは・・・図8に示すように、直径 10 cm、全長 l mの膜エレメント 51をパイプ ジョイント 49によって 4本直列に接続して片方の端部を栓 50で封止した上で耐圧容 器 52に装填したもの 2並列設けた構成に、そして第二の半透膜ユニット 15としては、 図9に示すように、直径 10cm、全長 lmの膜エレメント 51を同様に 2本直列に接続し 耐圧容器 52に装填したもの 1列設けたという構成にした。」
(ス)「[0076] <参考例1>通常運転として、装置Xを用いて、東レ (株)愛媛工場の近傍の海水を砂ろ過で前処理して濁質分を除去した前処理海水 (TDS濃度3. 4重量%、水温 22℃、pH = 7. 5)を、流量 80m^(3)/日で処理した。第一の半透膜ユニット用の膜エレメントとしては東レ(株)製SU-810、第二の半透膜ユニット用の膜エレメントとしては東レ(株)製SU-710を用い、第一の半透膜ユニットの回収率30%、第二の半透膜ユニットの回収率75%で運転した。・・・」
(セ)「[0080]<参考例5>参考例1の条件で3ヶ月連続運転した後、高温時の前処理海水 (TDS濃度3. 4重 量%、水温 27℃、pH = 7. 5)について、第二の半透膜ユニット 15の供給水pHを 9. 2 にした他は、参考例1と同じ条件で運転した。・・・」
(ソ)「[0083]<参考例8>通常運転として、第二の半透膜ユニット 15の供給水 pHを9. 26にする他は参考例5と同じ条件で運転を実施した。・・・」
(タ)「[0084]<参考例9>通常運転として、第一の半透膜ユニットの透過水流量 24 m^(3)/日のうち、 22 m^(3)/日 を第二の半透膜ユニット15の供給水とし、また、第二の半透膜ユニットの透過水流量 が 16 m^(3)/日となるように、回収率を72. 7%に設定する他は、参考例8と同じ条件で 運転した。・・・」
(チ)上記(シ)で説明される[図7][図9]を以下に示す。

(1-3)甲第8号証の記載
(ナ)「【0001】発明の背景 本発明は、水処理装置に関し、詳しくは海水から淡水を製造するのに適した水処理装置に関する。・・・」
(ニ)「【0027】2段目に用いられる複合逆浸透膜は、その原水濃度が1段目複合逆浸透膜の透過水であるためイオン類等の濃度が低いので、塩阻止率が高く、かつ透過流束が高いものが透過水の水質の向上、及び経済性の面で好ましい。好ましくは0.05%の食塩水(pH6.5)を供給液として0.75MPaの圧力、25℃の水温で運転した際に、食塩阻止率98%以上、透過流束0.5m^(3)/m^(2)・day以上の性能を持つ複合逆浸透膜が好ましく、より好ましくは食塩阻止率99.0%以上、透過流束0.7m^(3)/m^(2)・day以上である。・・・」
(ヌ)「【0031】図1に、本発明の水処置装置の基本的な構成の一例を示す。図示のように、この装置は、前段の複合逆浸透膜モジュール5および後段の複合逆浸透膜モジュール11を備え、さらに前処理ユニット2を備えている。・・・」
(ネ)水処理装置の一例の構成を示す【図1】を以下に示す。

(2)甲第1号証に記載された発明
i)上記の甲第1号証の記載事項(ア)から、甲第1号証には、
「供給溶液が流入する共通の圧力容器に配置された複数のスパイラル巻回膜エレメントを備え、
前記圧力容器内の前記複数のスパイラル巻回膜エレメントにおける第1のスパイラル型巻回膜エレメントは、第1供給流路スペーサを有し、
前記第1スパイラル巻回膜エレメントの下流側に配置される、前記複数のスパイラル巻回膜エレメントにおける第2のスパイラル巻回膜エレメントは、第2供給流路スペーサを有し、
前記第2供給スペーサの高さは前記第1供給流路スペーサの高さ以下である、膜ろ過システム。」について記載されているといえる。
ii)上記「膜ろ過システム」の「第1のスパイラル型巻回膜エレメント」と「第2のスパイラル巻回膜エレメント」は「圧力容器」内に収容されて加圧できる構造を有しており、これは加圧して水処理することを示すので、同(ウ)から、「第1のスパイラル型巻回膜エレメント」と「第2のスパイラル巻回膜エレメント」は「RO(逆浸透)システム」でなるものといえる。
iii)同(エ)及び同(オ)の図9において、
「第1ステージモジュール」は、上記「膜ろ過システム」における「第1のスパイラル型巻回膜エレメント」でなる「複数のスパイラル巻回膜エレメント」にあたり、
「第2ステージ逆浸透膜モジュール」は、上記「膜ろ過システム」における「第2のスパイラル巻回膜エレメント」でなる「複数のスパイラル巻回膜エレメント」にあたることは明らかである。
そして、同(ウ)?(オ)から、「第1ステージモジュール」からの「高塩分濃縮水」でない処理水が後段の「第2ステージ逆浸透膜モジュール」に供給され、そこでさらに処理されて「飲料水」とされており、「高塩分濃縮水」でない処理水は「第1のスパイラル型巻回膜エレメントからの精製水」といえる。
すると、上記の「前記圧力容器内の前記複数のスパイラル巻回膜エレメントにおける第1のスパイラル型巻回膜エレメントは、第1供給流路スペーサを有し、
前記第1スパイラル巻回膜エレメントの下流側に配置される、前記複数のスパイラル巻回膜エレメントにおける第2のスパイラル巻回膜エレメントは、第2供給流路スペーサを有」する「膜ろ過システム」は、
「第1のスパイラル型巻回膜エレメント」でなる「複数のスパイラル巻回膜エレメント」の「精製水」を、後段の「第2のスパイラル巻回膜エレメント」でなる「複数のスパイラル巻回膜エレメント」で処理する「膜ろ過システム」であるといえる。
iv)同(カ)から、「第1ステージは、全ての膜エレメントの供給流路スペーサの高さがたとえば0.030インチ(0.762mm)の、4つの膜エレメントから構成してもよい。第2ステージは、全ての膜エレメントの供給流路スペーサの高さがたとえば0.015インチ(0.381mm)の、2つの膜エレメントから構成し」てもよいから、上記「膜ろ過システム」における「前記第2供給スペーサの高さは前記第1供給流路スペーサの高さ以下である」ことは、「第1供給流路スペーサの高さ」が「0.030インチ(0.762mm)」であり、「第2供給スペーサの高さ」が「0.015インチ(0.381mm)」であることといえる。
v)同(イ)から、甲1号証には、上記「膜ろ過システム」を用いる「ろ過方法」が示されており、これは「膜ろ過システム」の「運転方法」ということができる。
vi)以上の点を総合し、本件発明2の記載に則して整理すると、甲第1号証には、
「供給溶液が流入する共通の圧力容器に配置された複数のスパイラル巻回膜エレメントを備え、
RO(逆浸透)システムである第1のスパイラル型巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメントからの精製水を、後段のRO(逆浸透)システムである第2のスパイラル巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメントで処理する膜ろ過システムにおいて、
第1供給流路スペーサの高さが0.030インチ(0.762mm)であり、第2供給スペーサの高さが0.015インチ(0.381mm)である膜ろ過システムの運転方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)本件発明2と引用発明との対比
i)本件発明2の「スパイラル型膜エレメントを備えた逆浸透膜装置」は、「逆浸透膜装置」であるから加圧のための圧力容器を当然に備えるものであって、引用発明の「供給溶液が流入する共通の圧力容器に配置された複数のスパイラル巻回膜エレメントを備え、」ることを含むものである。
ii)引用発明は「RO(逆浸透)システムである第1のスパイラル型巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメントからの精製水を、後段のRO(逆浸透)システムである第2のスパイラル巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメントで処理する」から、これは、本願発明1の「逆浸透膜装置を多段に設置」することにあたる。
iii)引用発明の「RO(逆浸透)システムである第1のスパイラル型巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメント」、「後段のRO(逆浸透)システムである第2のスパイラル巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメント」は、それぞれ、本件発明2の「前段の逆浸透膜装置」、「後段の逆浸透膜装置」に相当する。
iv)引用発明の「第1供給流路スペーサの高さ」、「第2供給スペーサの高さ」は、本件発明2の「1段目の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚み」、「2段目以降の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚み」に相当する。
v)引用発明の「膜ろ過システム」は、「RO(逆浸透)システム」による浄化装置であり、「RO(逆浸透)システムである第1のスパイラル型巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメント」の後段に「第2のスパイラル巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメント」を備えるから、本件発明2の「多段逆浸透膜装置」にあたる。
vi)以上から、本件発明2と引用発明とは、
「スパイラル型膜エレメントを備えた逆浸透膜装置を多段に設置してなり、前段の逆浸透膜装置の透過水を後段の逆浸透膜装置で処理する多段逆浸透膜装置において、
1段目の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.030インチ(0.762mm)であり、2段目以降の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.015インチ(0.381mm)である、多段逆浸透膜装置の運転方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
「スパイラル型膜エレメント」の構造と大きさについて、本件発明2では「袋状の逆浸透膜を原水スペーサと共に巻回してなる直径8インチ」のものであるのに対して、引用発明では構造と大きさについて明らかでない点。
(相違点2)
本件発明2は、「多段逆浸透膜装置」を、「1段目の逆浸透膜装置の透過流束を1.0m/d以下」として「運転する方法」であるのに対して、引用発明の運転方法は、「膜ろ過システム」を運転するのに、「RO(逆浸透)システムである第1のスパイラル型巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメント」の透過流束をどの程度にするのか明らかでない点。
(相違点3)
本件発明2は、「多段逆浸透膜装置」を、「2段目以降の逆浸透膜装置の透過流束を1.1m/d以上」として「運転する方法」であるのに対して、引用発明の運転方法は、「膜ろ過システム」を運転するのに、「後段のRO(逆浸透)システムである第2のスパイラル巻回膜エレメントでなる複数のスパイラル巻回膜エレメント」の透過流束をどの程度にするのか明らかでない点。

(4)相違点の検討
相違点3について検討する。
(4-1)甲第8号証に記載の技術手段の適用について
甲第8号証には、「前段の複合逆浸透膜モジュール5」の「透過水」を「後段の複合逆浸透膜モジュール11」へ供給し「淡水」を得る方法(上記甲第8号証の記載事項(ナ)、(ヌ)、(ネ)の【図1】を参照)において、「2段目に用いられる複合逆浸透膜は、その原水濃度が1段目複合逆浸透膜の透過水であるためイオン類等の濃度が低いので、塩阻止率が高く、かつ透過流束が高いものが透過水の水質の向上、及び経済性の面で好ましい。好ましくは0.05%の食塩水(pH6.5)を供給液として0.75MPaの圧力、25℃の水温で運転した際に、食塩阻止率98%以上、透過流束0.5m^(3)/m^(2)・day以上の性能を持つ複合逆浸透膜が好ましく、より好ましくは食塩阻止率99.0%以上、透過流束0.7m^(3)/m^(2)・day以上である。」(同(ニ))ことが示されている。
すると、甲第8号証において、「透過流束が高」いものとして想定される「2段目に用いられる複合逆浸透膜」は「食塩阻止率99.0%以上、透過流束0.7m^(3)/m^(2)・day以上」のものであるといえる。
これに対して、本件発明2では、「2段目以降の逆浸透膜装置」の「透過流束を1.1m/d以上」とするものであり、当該「透過流束」を採用することで「NaCl」の「真の除去率が99.9%を超え、水質向上の点で好ましい。」(本件明細書【0022】)ものであり、また、本件発明2の実験例を示す【表1】【表2】において、本件発明2の実施例といえる「実施例2」「実施例4」「実施例5」(後段ROの透過流束(フラックス(m/d))は、順に、1.1、1.1、1.3)と、比較例1?4(フラックス(m/d)はいずれも1)を比較すると、「2段目処理水TOC濃度(ppb)」において実施例の値が比較例に比して半分程度以下に小さくなっており、作用効果が優れることがみてとれる。
すると、甲第8号証には、「透過流束が高」い後段ROとして「食塩阻止率99.0%以上、透過流束0.7m^(3)/m^(2)・day以上」のものが示されているにとどまるから、引用発明において甲第8号証に記載の技術手段を適用しても、後段ROとして、「2段目処理水TOC濃度(ppb)」に優れ、「NaCl」の「真の除去率が99.9%を超え」るものとして「透過流束」が「1.1m/d以上」である「2段目の逆浸透膜装置」を想起することは、当業者が容易に成し得ることとはいえない。

(4-2)甲第2号証に記載の技術手段の適用について
異議申立人は、意見書において、甲第2号証(甲第4号証の記載を参酌)に記載された技術手段を引用発明に適用することで、相違点3に係る透過流束は容易に成し得る旨主張するから、これを検討する。

i)甲第2号証の<参考例9>(上記甲第2号証の記載事項(タ)を参照)には、同(チ)の[図7][図9]に示される「第一の半透膜ユニット」と「第二の半透膜ユニット」を連続して有する「半透膜ユニット評価装置」(淡水製造装置)において、「・・・第二の半透膜ユニットの透過水流量が16m^(3)/日」として運転すると、「第二の半透膜ユニットの透過水」の「TDS濃度が2.6mg/l」(同(サ)よりTDSは「総塩分透過流束[kg/m^(2)・s]」)に低減できることが記載されている。
ii)ここで、<参考例9>の前提条件として、同(ス)の<参考例1>には、「第2の半透膜ユニット用の膜エレメント」(「第二の半透膜ユニット15」)として「東レ(株)SU710」を用いることが記載されており、甲第4号証【0034】に「東レ(株)SU710」の「膜面積」は「7m^(2)」であることが記載されている。
iii)すると、「第二の半透膜ユニット15」の「透過流束」は次のように計算される。
a)同(チ)の[図9]から、「東レ(株)SU710」の膜エレメントが2本で1列に配置されるから、「第二の半透膜ユニット15」の総膜面積は
2本×1列×7m^(2)=14m^(2)
「第二の半透膜ユニット」の透過水の流量は、16[m^(3)/日]だから、単位膜面積当たりでは、
16[m^(3)/日]/14[m^(2)]=1.143m/日[m/日](異議申立書15頁)
b)以上から、甲第2号証には、「第一の半透膜ユニット」と「第二の半透膜ユニット」を連続して有する「半透膜ユニット評価装置」(淡水製造装置)において、
「第二の半透膜ユニット」の透過流束が1.14[m/日](>1.1[m/d])、
であることが示されており、この「第二の半透膜ユニット」の透過流束は、相違点3に係る本件発明2の透過流束に相当する。
iv)しかしながら、甲第2号証の<参考例9>は、「他は、参考例8と同じ条件で運転」(同(タ))されるものであり、<参考例8>は「他は参考例5と同じ条件で運転」される(同(ソ))ものであり、<参考例5>は「参考例1の条件で3ヶ月連続運転した後」に「高温時の前処理海水」について「供給水pHを9.2にした他は、参考例1と同じ条件で運転」される(同(セ))ものであるから、一旦「3ヶ月連続運転」した後で、処理水の温度やpHが変動した場合の事例にすぎない。
v)すると、甲第2号証に記載の上記透過流束を、運転条件の異なる引用発明に適用することは容易に成し得ることではない。
なお、甲第5、9-11号証には相違点3に関する記載や示唆はない。

(5)取消理由についての結言
以上から、少なくとも相違点3を有する本件発明2に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明、甲第9号証ないし甲第11号証に記載された周知技術、甲第2号証又は甲第5号証に記載された周知技術、及び甲第8号証に記載された技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないので、取消理由によっては取り消すことはできない。

4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、相違点3について、申立書において、取消理由通知で採用しなかった次の概要の申立理由を主張しているので検討する。

(申立理由の概要)相違点3に係る透過流束は、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証(甲第7号証の記載を参酌)に記載の技術手段、及び、甲第8号証に記載の技術手段を適用して当業者が容易に成し得たものである。

(1)申立理由の詳細
i)甲第6号証には、【図1】に示される「第1の逆浸透膜2」と「第2の逆浸透膜4」を連続して有する「純水の製造方法」を実施する工程において、「【実施例】厚木市水・・・を第1の逆浸透膜・・・に通水した。・・・この第1の逆浸透膜処理水を・・・第2の逆浸透膜[日東電工(株)製、4インチの「ES-20」1本使用]に通水した。この際・・・処理水量は0.28m^(3)/hrであり、また、処理水中のナトリウムイオンの含有量は170?180ppbであった。」(【0008】)ことが記載されている。
ii)すると、「第2の逆浸透膜4」の「透過流束」は次のように計算される。
甲第7号証には、「日東電工(株)製ES-20」として、「膜面積」が「7.5m^(2)」のものが記載されているから、
「第2の逆浸透膜」の透過流束は、
0.28[m^(3)/hr]×24[hr/d]/(7.5[m^(2)]×1本)
=0.896[m/d]≒0.90[m/d]となる。
iii)以上から、甲第6号証には、「第1の逆浸透膜2」と「第2の逆浸透膜4」を連続して有する「純粋の製造方法」において、「第2の逆浸透膜」の透過流束が0.90[m/d]であることが示されている。
iv)ここで、上記甲第8号証の記載事項(ニ)には「2段目に用いられる複合逆浸透膜は、その原水濃度が1段目複合逆浸透膜の透過水であるためイオン類等の濃度が低いので、塩阻止率が高く、かつ透過流束が高いものが透過水の水質の向上、及び経済性の面で好ましい。」と記載されるから、引用発明に甲第6号証に記載に技術手段を適用し、「第2の逆浸透膜4」の透過流束を0.90[m/d]からさらに増加して「1.1m/d以上」とすることは適宜成し得ることである。

(2)当審の判断
甲第6号証において「第2の逆浸透膜4」の透過流束を「1.1m/d以上」とすることはできないことについて、以下に理由i)?iii)を記す。
i)甲第6号証において「第2の逆浸透膜」の「透過流束」を1.1[m/d]以上にするために、「第2の逆浸透膜」を構成する「日東電工(株)製ES-20」として、どのくらいの膜面積のものを使用すればよいかを検討する。当該膜面積を y[m^(2)]とすると、
0.28[m^(3)/hr]×24[hr/d]/y[m^(2)]≧1.1[m/d]
y≦6.109[m^(2)]≒6.11[m^(2)]となる。
しかし、膜面積が6.11[m^(2)]以下となる「日東電工(株)製ES-20」は甲第7号証中に記載がない。
したがって、甲第6号証に記載の技術手段において、[日東電工(株)製、「ES-20」を用いる以上、透過流束を「1.1m/d以上」とすることはできないといえる。
ii)本件発明2は「直径8インチのスパイラル型膜エレメント」を用いるが、甲第6号証では【0008】に「日東電工(株)製ES-20」の「4インチ逆浸透膜」を用いることが記載されている。
したがって、甲第6号証において他の条件をそのままに「4インチ逆浸透膜」を「8インチ逆浸透膜」にした場合、甲第7号証から「8インチタイプ」の「有孔膜面積は37m^(2)」だから、「第2の逆浸透膜」の透過流束は、
0.28[m^(3)/hr]×24[hr/d]/(37[m^(2)]×1本)
=0.1816[m/d]≒0.182[m/d]<1.1[m/d]となる。
したがって、甲第6号証に記載の技術手段において、[日東電工(株)製、「ES-20」を用いる以上、透過流束を「1.1m/d以上」とすることはできないといえる。
iii)上記「3.(4-1)」でみたように、甲第8号証には「2段目に用いられる複合逆浸透膜」は「食塩阻止率99.0%以上、透過流束0.7m^(3)/m^(2)・day以上」のものが記載されているに止まり、透過流束を「1.1m/d以上」とすることは示されていない。
したがって、甲第6号証に記載の技術手段において、[日東電工(株)製、「ES-20」を用いる以上、透過流束を「1.1m/d以上」とすることはできないといえる。
iv)以上から、甲第1号証に記載の発明に、甲第6号証(甲第7号証の記載を参酌)に記載の技術手段、及び、甲第8号証に記載技術手段を適用することで相違点3に係る透過流束とすることが容易に成し得たものであるとする異議申立人の主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、訂正された本件請求項2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、訂正された本件請求項2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1に係る特許は訂正により削除されたため、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立は、対象となる特許が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多段逆浸透膜装置の運転方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜装置を直列に多段に設置した多段逆浸透膜装置と、その運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水淡水化、超純水製造、工業用水の処理などにおいて、原水中のイオン類や有機物などを除去するために逆浸透膜装置が広く使用されている。逆浸透膜装置を用いて処理を行う際、処理水水質を向上させるために、複数の逆浸透膜装置を多段に設置し、前段の逆浸透膜装置の処理水を後段の逆浸透膜処理装置で処理することは良く知られている(例えば特許文献1,4)。海水淡水化の場合は、ホウ素を除去するために、二段以上の逆浸透膜処理が行われており、超純水製造プラントにおいても、逆浸透膜による多段処理は一般的に行われている(例えば特許文献2)。
【0003】
逆浸透膜の構造としてはスパイラル構造と呼ばれる膜構造のモジュールが一般的に知られている。従来から使用されているスパイラル型膜エレメントの一例は、透過水スペーサの両面に逆浸透膜を重ね合わせて3辺を接着することにより袋状膜を形成し、該袋状膜の開口部を透過水集水管に取り付け、網状の原水スペーサと共に、透過水集水管の外周面にスパイラル状に巻回することにより構成されている(特許文献3,4)。巻回された袋状膜間に配設される原水スペーサにより原水経路が形成される。原水はスパイラル型膜エレメントの一方の端面側から供給され、原水スペーサに沿って流れ、スパイラル型膜エレメントの他方の端面側から濃縮水として排出される。原水は原水スペーサに沿って流れる過程で、逆浸透膜を透過して透過水となり、この透過水は透過水スペーサに沿って透過水集水管の内部に流れ込み、透過水集水管の端部から取り出される。原水スペーサの厚みは、特許文献3の0018段落には0.4?2mm程度が好ましいと記載され、特許文献4の0017段落には0.4?3mmが好ましいと記載されている。
【0004】
逆浸透膜装置を用いて海水の淡水化や、超純水、各種製造プロセス用水を得る場合、逆浸透膜装置の原水スペーサの厚みを大きくすると、濁質が原水流路を閉塞しにくくなり、濁質蓄積による通水差圧の上昇や透過水量、透過水質の低下を回避し、長期間に亘り安定して運転を行うことができる。しかしながら、原水スペーサの厚みを大きくすると、原水流路における原水の流速が小さくなるため、水中に含まれるイオン類や有機物類が膜表面で過剰濃縮され(濃度分極)、溶質の濃縮による除去率の低下や、膜への汚染物質吸着によるフラックス低下を引き起こしやすくなる。一方、原水スペーサの厚みを小さくすると、流速は増大し、逆浸透膜表面での過剰濃縮は起こりにくくなり、処理水質は向上するが、被処理水に含まれる濁質が原水流路を閉塞しやすくなり(特許文献4の0017段落)、安定性の面で問題があった。そのため、現在の市販されている逆浸透膜のスペーサの厚みは0.7?0.9mm程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-125395
【特許文献2】特開2002-1069
【特許文献3】特開平11-57429
【特許文献4】特開2004-89761
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、海水淡水化処理や超純水製造等に用いられる多段逆浸透膜処理において、安定性を損なうことなく、処理水質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】(削除)
【0008】
本発明の多段逆浸透膜装置の運転方法は、袋状の逆浸透膜を原水スペーサと共に巻回してなる直径8インチのスパイラル型膜エレメントを備えた逆浸透膜装置を多段に設置してなり、前段の逆浸透膜装置の透過水を後段の逆浸透膜装置で処理する多段逆浸透膜装置において、1段目の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.7?2mmであり、2段目以降の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.2?0.6mmである多段逆浸透膜装置を運転する方法であって、1段目の逆浸透膜装置の透過流束を1.0m/d以下とし、2段目以降の逆浸透膜装置の透過流束を1.1m/d以上とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多段逆浸透膜装置では、1段目の逆浸透膜装置が原水スペーサとして厚みの大きいものを用いており、濁質が原水流路を閉塞しにくくなり、濁質蓄積による通水差圧の上昇や透過水量、透過水質の低下を回避し、長期間に亘り安定な運転を行うことができる。2段目以降の逆浸透膜装置では、原水スペーサとして厚みの小さいものを用いており、原水流路における流速が増大し、逆浸透膜表面での過剰濃縮が起こりにくくなり、処理水質が向上する。この2段目以降の逆浸透膜装置に通水される被処理水は、1段目逆浸透膜装置で濁質が除去されたものであるので、2段目以降の逆浸透膜装置では膜閉塞の恐れがない。
【0010】
また、2段目以降の逆浸透膜装置の原水スペーサの厚みを小さくすることにより、1エレメントあたりの膜面積を大きくすることができる。透過流束を大きくすることと併せて、2段目以降の膜エレメントの本数を削減することができ、コスト低減を図ることができる。
【0011】
また、本発明者は、逆浸透膜の真の阻止率は、透過流束に依存することを見出した。本発明方法は、2段目以降の逆浸透膜装置の運転透過流束を1段目よりも大きくすることにより、膜の除去率を向上させるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態に係る多段逆浸透膜装置の系統図である。
【図2】原水スペーサの厚みを変えた場合におけるブライン(濃縮水)流量と濃縮倍率との関係を示すグラフである。
【図3】透過流束と真の阻止率の関係を示すグラフである。
【図4】試験用平膜セルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1を参照して本発明の実施の形態に係る多段逆浸透膜装置について説明する。この多段逆浸透膜装置では、原水タンク1内の原水を第1ポンプ2で加圧して1段目の第1逆浸透膜装置3に供給し、濃縮水を排出し、透過水を配管4によって中間タンク5に導入する。この中間タンク5中の水を第2ポンプ6によって加圧して2段目の第2逆浸透膜装置7に供給し、透過水を配管8によって取出し、濃縮水を配管9によって原水タンク1に戻す。
【0014】
1段目及び2段目の逆浸透膜装置3,6はいずれもスパイラル型膜エレメントを備えている。スパイラル型膜エレメントは透過水スペーサを内部に収容した袋状分離膜を原水スペーサを重ねて集水管にスパイラル状に巻回したスパイラル型膜エレメントである。なお、前記特許文献3の図2のように、集水管の代わりにシャフトを用い、側辺の一部に透過水取出口を有した袋状膜を該シャフトに巻回したスパイラル型膜エレメントを用いてもよい。また、本発明では、スパイラル型膜エレメントに限らず平膜型エレメントなどを用いてもよい。逆浸透膜装置の原水スペーサの厚みは、1段目では0.6mmよりも大きく、2段目では0.6mm以下である。
【0015】
なお、図1では逆浸透膜装置が2段に設けられているが、3段以上に設けられてもよい。3段目以降の逆浸透膜装置の原水スペーサの厚みは0.6mm以下である。
【0016】
逆浸透膜は、海水淡水化用、低圧用、超低圧用、超々低圧用などのいずれでもよい。逆浸透膜の膜の材質としては特に制限はなく、酢酸セルロース、ポリアミドなどのいずれでもよく、必要とされる除去率とフラックスに応じて適宜選択すればよい。阻止率の高い膜エレメントを用いる場合には、フェニレンジアミンと酸クロライドで合成した芳香族ポリアミドの逆浸透膜を採用するのが好ましい。
【0017】
原水スペーサとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂製の、同一、あるいは異なる直径(線径)を有する複数の線材が等間隔に並べられ、45度?90度の角度で交差するように重ねられることにより形成されるメッシュスペーサなどを用いることができる。原水スペーサの空孔率は60%以上95%以下であることが好ましい。それにより、十分な攪拌効果により濃度分極を十分に抑制することができる。
【0018】
原水スペーサのメッシュの大きさは1mm以上4mm以下であることが好ましい。それにより、十分な攪拌効果により濃度分極を抑制するとともに、原液の流路抵抗の増加を抑制し、高い分離膜性能を得ることができる。なお、原水スペーサはメッシュスペーサに限定されない。例えば、前記特許文献4の図6のようにジグザグ状線材よりなるものであってもよい。
【0019】
1段目の逆浸透膜装置の原水スペーサの厚みは、濁質閉塞を防止するために、0.6mmより大きくし、好ましくは0.7mm以上とする。ただし、原水スペーサの厚みを大きくしすぎると濃度分極が大きくなり、除去率が低下するため、2.0mm以下であることが好ましい。
【0020】
2段目以降の逆浸透膜装置の原水スペーサの厚みは0.6mm以下である。図2は様々な厚みの原水スペーサを用いた場合の直径8インチのスパイラル型逆浸透膜モジュールにおけるNaClの濃度分極の程度を表したものである。図2の通り、0.6mm以上の厚みのスペーサは、濃度分極の影響が大きくなり、膜面濃度と平均バルク濃度の比が濃縮水量が2m^(3)/h以上で1.2倍を超えるため、好ましくない。原水スペーサの厚みが0.6mm以下であると、濃度分極を防止でき、良好な処理水水質を得ることができる。ただし、原水スペーサの厚みは、0.2mmよりも小さいと、通水抵抗が大きくなりすぎるため、0.2mm以上であることが好ましい。従って、2段目以降の逆浸透膜装置の原水スペーサの厚みは0.2?0.6mm特に0.2?0.5mm、とりわけ0.3?0.5mmであることが好ましい。
【0021】
袋状膜内に設置される透過水スペーサの厚みとしては、特に制限はないが、0.1?0.25mmが好適に使用される。透過水スペーサが厚過ぎると、原水スペーサと同様にエレメントあたりの膜面積が小さくなり、薄過ぎると差圧が大きくなって、透過水量が小さくなる。
【0022】
図3に示すように、NaClの真の阻止率は透過流束に依存し、透過流束が大きくなると真の阻止率は増加する。2段目の逆浸透膜装置の透過流束は1.1?2.0m/dであることが好ましい。1.1m/d以上であると真の除去率が99.9%を超え、水質向上の点で好ましい。透過流束が過度に小さいと、真の阻止率が低くなり、水質が低下するため好ましくない。2.0m/d以上であると膜の耐圧性の問題や、透過水の通水抵抗が高くなることなどから好ましくない。除去対象とする物質によって真の阻止率は異なるが、どのような物質であってもその物質の真の阻止率は透過流束に依存するため、NaClにおいて、真の阻止率を高くすることで、その他の物質についても高い阻止率を得ることができる。
【0023】
1段目の逆浸透膜装置の透過流束は0.2?1.0m/dであることが好ましく、0.6?0.8m/dであることがさらに好ましい。透過流束が1.0m/d以上であると膜のファウリング、閉塞速度が大きくなり、洗浄頻度が多くなる。そのたびに装置も停止せねばならず、経済的でない。0.2m/d未満であると、膜の本数が大きくなり、経済的ではない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例について説明する。なお、以下の実施例及び比較例では、図1に示すフローの多段逆浸透膜装置を用いたが、逆浸透膜装置3,7としては、図4に示す試験用平膜セルを用いた。
【0025】
図4に示す平膜セルは、アクリル製の流路形成部材21,22,23、SUS製耐圧補強部材24,25を組み合わせて形成された空間内に、原水スペーサ11と透過水スペーサ12を逆浸透膜10を介して積層した膜ユニットを保持する構成とされている。
【0026】
原水は、原水流入口13から逆浸透膜10の一次側に流入して原水スペーサ11に沿って流れ、その間に逆浸透膜10を透過した透過水は、透過水スペーサ12を経て透過水流出口15から取り出される。また、濃縮水は濃縮水流出口14から取り出される。
【0027】
[実施例1]
工業用水を凝集及び濾過した水(TOC濃度500ppb(0.5mg/L))を原水として用い、図1に示すフローの多段逆浸透膜装置に通水した。
【0028】
1段目の逆浸透膜装置3の逆浸透膜として、市販の8インチスパイラル型逆浸透膜エレメントを想定し、日東電工製逆浸透膜ES20から平膜を幅50mm×長さ800mmに切り抜き、厚み0.71mmのポリプロピレン製原水スペーサ(線径0.25?0.36mm、目開き2.6mm)とともに図4の通り、SUS製通水セルに充填した。また、2段目の逆浸透膜装置7も、同様の逆浸透膜エレメントを想定し、日東電工製逆浸透膜ES20から平膜を幅50mm×長さ800mmに切り抜き、厚み0.60mmのポリプロピレン製原水スペーサ(線径0.2?0.3mm、目開き2.2mm)とともに図4の通りSUS製通水セルに充填した。上記の1段目、2段目用の膜エレメントを8インチ逆浸透膜装置に充填した場合、膜面積はそれぞれ、41.8m^(2)、46.0m^(2)となる。
【0029】
1段目の逆浸透膜装置に、透過流束0.6m/d、濃縮水として8インチエレメント換算で3.6m^(3)/hになるように通水し、2段目の逆浸透膜装置に、透過流束1.0m/d、8インチエレメント換算で3.6m^(3)/hになるように通水した。通水500時間後の2段目処理水(2段目逆浸透膜装置透過水)のTOC濃度と、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表1に示す。
【0030】
[実施例2]
2段目の逆浸透膜の透過流束を1.1m/dとしたこと以外は実施例1と同一の条件で試験を行った。通水500時間後の処理水TOC濃度と、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表1に示す。
【0031】
[実施例3]
2段目の逆浸透膜の原水スペーサとして、線径0.15?0.25mm、目開き2.0mm、厚み0.5mmのものを用いたこと以外は実施例1と同一の条件で試験を行った。なお、この膜エレメントを8インチ逆浸透膜装置に充填した場合、膜面積は50.2m^(2)となる。通水500時間後の処理水TOC濃度、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表1に示す。
【0032】
[実施例4]
2段目の逆浸透膜装置の透過流束を1.1m/dとしたこと以外は実施例3と同一の条件で試験を行った。通水500時間後の処理水TOC濃度、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表1に示す。
【0033】
[実施例5]
2段目の逆浸透膜の透過流束を1.3m/dとしたこと以外は実施例3と同一の条件で試験を行った。通水500時間後の処理水TOC濃度、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表1に示す。
【0034】
[実施例6]
1段目の逆浸透膜の透過流束を1.1m/dとしたこと以外は実施例1と同一の条件で試験を実施した。通水500時間後の処理水TOC濃度、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表1に示す。
【0035】
[比較例1]
2段目の逆浸透膜の原水スペーサとして、線径0.25?0.36mm、目開き2.6mm、厚み0.71mmのものを用いたこと以外は実施例1と同一の条件で試験を実施した。なお、この膜エレメントを8インチ逆浸透膜装置に充填した場合、膜面積は41.8m^(2)となる。通水500時間後の処理水TOC濃度と、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)、及び1段目エレメントの差圧を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
[比較例2]
1段目の逆浸透膜の原水スペーサとして、線径0.2?0.3mm、目開き2.2mm、厚み0.6mmのものを用いたこと以外は実施例1と同一の条件で試験を実施した。なお、この膜エレメントを8インチ逆浸透膜装置に充填した場合、膜面積は41.8m^(2)となる。通水500時間後の処理水TOC濃度と、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)、及び1段目エレメントの差圧を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示す通り、実施例1?6によれば、処理水TOC濃度が低く、高純度の水質を得ることができる。実施例6については、1段目の透過流束が他の例よりも高いため、500時間後の透過流束に低下が見られる。比較例1は従来の処理方法である。比較例2は処理水質は従来よりも良いが、1段目の逆浸透膜の原水スペーサを薄くしたため、1段目の逆浸透膜のエレメント差圧が早期に上昇し、安定性が低い。
【0039】
[実施例7]
1段目の逆浸透膜装置3の逆浸透膜として、市販の8インチ逆浸透膜エレメントを想定し、日東電工製逆浸透膜ES20から平膜を幅50mm×長さ800mmに切り抜き、厚み0.86mmのポリプロピレン製原水スペーサ(線径0.3?0.43mm、目開き3.0mm)とともに図4の通りSUS製通水セルに充填した。また、2段目の逆浸透膜装置7の逆浸透膜として、日東電工製逆浸透膜ES20から平膜を幅50mm×長さ800mmに切り抜き、厚み0.60mmのポリプロピレン製原水スペーサ(線径0.2?0.3mm、目開き2.2mm)とともに図4の通りSUS製通水セルに充填した。このときの1段目、2段目用の膜エレメントを8インチ逆浸透膜装置に充填した場合、膜面積はそれぞれ、37.1m^(2)、46.0m^(2)である。
【0040】
原水として生物処理水を凝集濾過した水(TOC濃度1100ppb(1.1mg/L)を用い、1段目の逆浸透膜装置に透過流束0.6m/d、濃縮水として8インチエレメント換算で3.6m^(3)/hになるように通水し、2段目の逆浸透膜装置に透過流束1.0m/d、8インチエレメント換算で3.6m^(3)/hになるように通水した。通水500時間後の処理水TOC濃度、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表2に示す。
【0041】
[比較例3]
2段目の逆浸透膜の原水スペーサとして、線径0.25?0.36mm、目開き2.6mm、厚み0.71mmのものを用いたこと以外は実施例7と同一の条件で試験を行った。なお、この膜エレメントを8インチ逆浸透膜装置に充填した場合、膜面積は41.8m^(2)となる。通水500時間後の処理水TOC濃度、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表2に示す。
【0042】
[比較例4]
1段目の逆浸透膜の原水スペーサとして、線径0.25?0.36mm、目開き2.6mm、厚み0.71mmのものを用いたこと以外は比較例3と同一の条件で試験を行った。なお、この膜エレメントを8インチ逆浸透膜装置に充填した場合、膜面積は41.8m^(2)となる。通水500時間後の処理水TOC濃度、換算透過水量(0.75MPa換算時の透過流量)及び1段目エレメントの差圧を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示す通り、実施例7によると比較例3よりも優れた処理水質、高い透過水量を得ることができた。比較例4は1段目のエレメントの差圧上昇が見られ、安定性が悪化する結果となった。
【0045】
以上の実施例及び比較例からも明らかな通り、本発明の多段逆浸透膜装置によると、1段目及び2段目逆浸透膜装置に同一厚みの原水スペーサを用いた多段逆浸透膜装置よりも高純度の処理水を得ることができ、安定性を損なうことなく、水質向上が可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 原水タンク
3 1段目逆浸透膜装置
7 2段目逆浸透膜装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
袋状の逆浸透膜を原水スペーサと共に巻回してなる直径8インチのスパイラル型膜エレメントを備えた逆浸透膜装置を多段に設置してなり、前段の逆浸透膜装置の透過水を後段の逆浸透膜装置で処理する多段逆浸透膜装置において、
1段目の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.7?2mmであり、2段目以降の逆浸透膜装置の膜エレメントの原水スペーサの厚みが0.2?0.6mmである多段逆浸透膜装置を運転する方法において、1段目の逆浸透膜装置の透過流束を1.0m/d以下とし、2段目以降の逆浸透膜装置の透過流束を1.1m/d以上とすることを特徴とする多段逆浸透膜装置の運転方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-06 
出願番号 特願2013-31033(P2013-31033)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 瀧口 博史
中澤 登
登録日 2015-11-20 
登録番号 特許第5838981号(P5838981)
権利者 栗田工業株式会社
発明の名称 多段逆浸透膜装置の運転方法  
代理人 重野 剛  
代理人 重野 剛  

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