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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08L 審判 全部申し立て 特許請求の範囲の実質的変更 C08L 審判 全部申し立て 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 C08L |
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管理番号 | 1325836 |
異議申立番号 | 異議2015-700259 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-03 |
確定日 | 2017-01-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5729627号発明「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物、セルロースエステル光学フィルム及び偏光板用保護フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5729627号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6、7〕、8、〔12、13〕及び14について訂正することを認め、訂正後の請求項3及び11について訂正することを認めない。 特許第5729627号の請求項3及び11に係る特許を取り消す。 特許第5729627号の請求項1、2、4ないし10及び12ないし14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5729627号の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、2014年1月21日(優先権主張 平成25年1月25日)を国際出願日とする出願であって、平成27年4月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年12月3日に特許異議申立人 植草伊助(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年1月20日付けで取消理由(以下、単に「取消理由」という。)が通知され、同年3月15日に意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年3月22日付けで手続補正書(方式)が提出され、同年3月24日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされたが、それに対し特許異議申立人から何らの応答もなく、同年6月1日付けで訂正拒絶理由が通知されたが、それに対し特許権者から何らの応答がなく、同年8月18日付けで取消理由(決定の予告)がされたが、それに対し特許権者から何らの応答がなかったものである。 第2 訂正の適否について 1 訂正の内容 平成28年3月15日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示すものである。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に「前記ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。」とあるのを「前記ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の製造方法。」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5の何れか1項記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。」とあるのを「請求項1、2、4または5の何れか1項記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。」と訂正する。 また、当該請求項6を直接的に引用する請求項7も併せて訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?5の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得ることを特徴とする偏光板用保護フィルム。」とあるのを「請求項1、2、4または5の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させることを特徴とする偏光板用保護フィルムの製造方法。」と訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項11に「1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる請求項9記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。」とあるのを「1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の製造方法。」と訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項12に「請求項9?11の何れか1項記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。」とあるのを「請求項9または10記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。」と訂正する。 また、当該請求12を直接的に引用する請求項13も併せて訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項14に「請求項9?11の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得ることを特徴とする偏光板用保護フィルム。」とあるのを「請求項9または10の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させることを特徴とする偏光板用保護フィルムの製造方法。」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項3の「前記ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。」という記載を「前記ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の製造方法。」とするものであり、平成28年3月15日提出の訂正請求書(以下、単に「訂正請求書」という。)の「7 (1)ウ(a)」のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 ところで、訂正前の請求項3は、請求項1(なお、請求項1は訂正されていない。)を引用していることから、訂正前の請求項3に係る発明は、「改質剤組成物」が「ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲」であることを、その発明特定事項とするものである。 他方、訂正後の請求項3は、請求項1を引用していないことから、「改質剤組成物」が「ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲」であることを、その発明特定事項とはしないものであり、すなわち対象とする「改質剤組成物」について、「ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲」であるという限定が外されたものである。そして、その上で、発明のカテゴリーが、「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物」という「物の発明」から「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の製造方法」という「物を生産する方法の発明」へ変更されたものである。 したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張するものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正後の請求項6及び7が訂正後の請求項3を引用しないものとするものであるから、訂正請求書の「7 (2)ウ(a)」のとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 また、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、この訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項8の「請求項1?5の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得ることを特徴とする偏光板用保護フィルム。」という記載を「請求項1、2、4または5の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させることを特徴とする偏光板用保護フィルムの製造方法。」とするものであり、訂正請求書の「7 (3)ウ(a)」のとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、この訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、訂正前の請求項11の「1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる請求項9記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。」という記載を「1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の製造方法。」とするものであり、訂正請求書の「7 (4)ウ(a)」のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえる。 ところで、訂正前の請求項11は、請求項9(なお、請求項9は訂正されていない。)を引用していることから、訂正前の請求項11に係る発明は、「改質剤組成物」が「ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲」であることを、その発明特定事項とするものである。 他方、訂正後の請求項11は、請求項9を引用していないことから、「改質剤組成物」が「ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲」であることを、その発明特定事項とはしないものであり、すなわち対象とする「改質剤組成物」について、「ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲」であるという限定が外されたものである。そして、その上で、発明のカテゴリーが、「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物」という「物の発明」から「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の製造方法」という「物を生産する方法」の発明へ変更されたものである。 したがって、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである。 (5)訂正事項5 訂正事項5は、訂正後の請求項12及び13が訂正後の請求項11を引用しないものとするものであるから、訂正請求書の「7 (5)ウ(a)」のとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 また、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、この訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 (6)訂正事項6 訂正事項6は、訂正前の請求項14の「請求項9?11の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得ることを特徴とする偏光板用保護フィルム。」という記載を「請求項9または10の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させることを特徴とする偏光板用保護フィルムの製造方法。」とするものであり、訂正請求書の「7 (6)ウ(a)」のとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、この訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正の内、訂正事項2、3、5及び6は、特許法第120条の5第2項第2ないし4号のいずれかに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3及び4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項6、7、8、12、13及び14について訂正することを認める。 また、本件訂正の請求による訂正の内、訂正事項1及び4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に違反するので、訂正後の請求項3及び11について訂正することを認めることはできない。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 上記第2のとおり、本件訂正の請求は、訂正後の請求項6、7、8、12、13及び14について訂正することを認めることができ、訂正後の請求項3及び11について訂正することを認めることはできないから、本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明14」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させて得られるポリエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物であり、該改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下であることを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項2】 前記改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が500?1,800の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が3質量%以下である請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項3】 前記ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項4】 前記ポリエステル樹脂が、炭素原子数2?4の脂肪族ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンと炭素原子数4?9のモノアルコールとを反応させて得られるものである、請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項5】 前記ポリエステル樹脂が、炭素原子数2?4の脂肪族ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンと炭素原子数4?9のモノカルボン酸とを反応させて得られるものである、請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項6】 請求項1、2、4または5の何れか1項記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。 【請求項7】 セルロースエステル樹脂100質量部に対して、前記セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物を5?30質量部含んでなる請求項6記載のセルロースエステル光学フィルム。 【請求項8】 請求項1、2、4または5の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させることを特徴とする偏光板用保護フィルムの製造方法。 【請求項9】 1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させて得られるポリエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物であり、該改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下であることを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項10】 前記改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が500?1,800の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が3質量%以下である請求項9記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項11】 1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる請求項9記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項12】 請求項9または10記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。 【請求項13】 セルロースエステル樹脂100質量部に対して、前記セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物を5?30質量部含んでなる請求項12記載のセルロースエステル光学フィルム。 【請求項14】 請求項9または10の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させることを特徴とする偏光板用保護フィルムの製造方法。」 2 取消理由の概要 取消理由の概要は次のとおりである。 「第1 本件特許 ・・・(略)・・・ 第2 取消理由 1.請求項3,6?8 請求項3は「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物」という物の発明であるが,当該請求項3の「前記ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後,該ポリエステル樹脂組成物から,分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる」という記載は,製造に関して技術的な特徴や条件が付された場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているものと認められる。 ここで,物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において,当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年 6月 5日 平成24年(受)第1204号,平成24年(受)第2658号)。 しかしながら,本件特許に係る明細書等には,不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。 よって,請求項3は,特許を受けようとする発明が明確でない。 引用する請求項6?8も同様である。 2.請求項8 請求項8は「偏光板用保護フィルム」という物の発明であるが,当該請求項8の「請求項1?5の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を,金属支持体上に流延させ,次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得る」という記載は,製造に関して技術的な特徴や条件が付された場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているものと認められる。 そして,請求項8は,前記と同様の理由により,特許を受けようとする発明が明確でない。 3.請求項11?14 請求項11は「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物」という物の発明であるが,当該請求項11の「1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後,該ポリエステル樹脂組成物から,分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる」という記載は,製造に関して技術的な特徴や条件が付された場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているものと認められる。 そして,請求項11は,前記と同様の理由により,特許を受けようとする発明が明確でない。 引用する請求項12?14も同様である。 4.請求項14 請求項14は「偏光板用保護フィルム」という物の発明であるが,当該請求項14の「請求項9?11のいずれか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を,金属支持体上に流延させ,次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させて得る」という記載は,製造に関して技術的な特徴や条件が付された場合に該当するため,当該請求項にはその物の製造方法が記載されているものと認められる。 そして,請求項14は,前記と同様の理由により,特許を受けようとする発明が明確でない。 5.小括 以上のとおり,本件特許の請求項3,6?8,11?14についての特許は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。」 3 取消理由についての判断 (1)請求項3について 本件特許発明3は、「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物」という物の発明であるが、請求項3における「前記ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる」という記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているものと認められる。 ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解するのが相当である(最高裁第二小法廷平成27年 6月 5日 平成24年(受)第1204号、平成24年(受)第2658号)。 しかしながら、本件特許に係る明細書等には、不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえない。 よって、請求項3の記載では、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、本件特許発明3は明確でない。 (2)請求項6及び7について 本件特許発明6及び7は、「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物」という物の発明であるが、請求項6及び7は請求項3を引用していないので、請求項6及び7には、その物の製造方法が記載されているとはいえない。 したがって、請求項6及び7の記載では、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、本件特許発明6及び7は明確でないとはいえない。 (3)請求項8について 本件特許発明8は、「偏光板用保護フィルムの製造方法」という物の製造方法の発明である。 したがって、請求項8の記載では、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、本件特許発明8は明確でないとはいえない。 (4)請求項11について 本件特許発明11は「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物」という物の発明であるが、請求項11の「1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することにより得られる」という記載は、製造に関して技術的な特徴や条件が付された場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているものと認められる。 したがって、請求項11の記載では、上記第3 3(1)と同様の理由により、特許を受けようとする発明が明確でなく、本件特許発明11は明確でない。 (5)請求項12及び13について 本件特許発明12及び13は、「セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物」という物の発明であるが、請求項12及び13は請求項11を引用していないので、請求項12及び13には、その物の製造方法が記載されているとはいえない。 したがって、請求項12及び13の記載では、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、本件特許発明12及び13は明確でないとはいえない。 (6)請求項14について 本件特許発明14は、「偏光板用保護フィルムの製造方法」という物の製造方法の発明である。 したがって、請求項14の記載では、特許を受けようとする発明が明確でないとはいえず、本件特許発明14は明確でないとはいえない。 4 むすび 以上のとおりであるから、請求項3及び11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。 また、請求項6ないし8及び12ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、同法第113条第4号に該当しない。 第4 結語 上記第3のとおりであるから、取消理由により、請求項3及び11に係る特許は取り消すべきものである。 また、取消理由によっては、請求項6ないし8及び12ないし14に係る特許を取り消すことはできない。 さらに、他に請求項1、2、4ないし10及び12ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させて得られるポリエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物であり、該改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が5質量%以下であることを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項2】 前記改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が500?1,800の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が3質量%以下である請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項3】 前記ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンとを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の製造方法。 【請求項4】 前記ポリエステル樹脂が、炭素原子数2?4の脂肪族ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンと炭素原子数4?9のモノアルコールとを反応させて得られるものである、請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項5】 前記ポリエステル樹脂が、炭素原子数2?4の脂肪族ジオールと1,2-ジカルボキシシクロヘキサンと炭素原子数4?9のモノカルボン酸とを反応させて得られるものである、請求項1記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項6】 請求項1、2、4または5の何れか1項記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。 【請求項7】 セルロースエステル樹脂100質量部に対して、前記セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物を5?30質量部含んでなる請求項6記載のセルロースエステル光学フィルム。 【請求項8】 請求項1、2、4または5の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させることを特徴とする偏光板用保護フィルムの製造方法。 【請求項9】 1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させて得られるポリエステル樹脂を含むセルロースエステル樹脂用改質剤組成物であり、該改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が350?2,000の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエスチル樹脂の含有率が5質量%以下であることを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項10】 前記改質剤組成物のゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法による数平均分子量(Mn)が500?1,800の範囲で、且つ、該改質剤組成物中に含まれる分子量が350より小さいポリエステル樹脂の含有率が3質量%以下である請求項9記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物。 【請求項11】 1,2-プロピレングリコールとアジピン酸と無水フタル酸と安息香酸とを反応させてポリエステル樹脂組成物を得た後、該ポリエステル樹脂組成物から、分子量が350より小さいポリエステル樹脂を薄膜蒸留により除去することを特徴とするセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物の製造方法。 【請求項12】 請求項9または10記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを含有してなることを特徴とするセルロースエステル光学フィルム。 【請求項13】 セルロースエステル樹脂100質量部に対して、前記セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物を5?30質量部含んでなる請求項12記載のセルロースエステル光学フィルム。 【請求項14】 請求項9または10の何れか一項に記載のセルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物とセルロースエステル樹脂とを有機溶剤に溶解して得られる樹脂溶液を、金属支持体上に流延させ、次いで前記有機溶剤を留去し乾燥させることを特徴とする偏光板用保護フィルムの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2016-11-18 |
出願番号 | 特願2014-550215(P2014-550215) |
審決分類 |
P
1
651・
855-
ZDB
(C08L)
P 1 651・ 854- ZDB (C08L) P 1 651・ 537- ZDB (C08L) |
最終処分 | 一部取消 |
前審関与審査官 | 安田 周史 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 大島 祥吾 |
登録日 | 2015-04-17 |
登録番号 | 特許第5729627号(P5729627) |
権利者 | DIC株式会社 |
発明の名称 | セルロースエステル樹脂用ポリエステル系改質剤組成物、セルロースエステル光学フィルム及び偏光板用保護フィルム |
代理人 | 河野 通洋 |
代理人 | 河野 通洋 |