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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2016701026 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1325848
異議申立番号 異議2015-700124  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-28 
確定日 2017-02-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5735224号発明「節類抽出物を含む調味料組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5735224号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第5735224号の請求項1、3?5に係る特許を維持する。 特許第5735224号の請求項2及び6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5735224号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成27年4月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人大森桂子より特許異議の申立てがなされ、当審において平成28年2月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月2日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、異議申立人より同年6月14日に意見書の提出がなされ、同年8月26日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、指定期間内である同年10月28日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がなされ、同年12月7日に異議申立人より意見書の提出がなされたものである。
なお、平成28年5月2日の訂正の請求は、取り下げられたものとみなす(特許法120条の5第7項)。

第2 訂正の適否の判断
1 平成28年10月28日の本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正すること(以下「本件訂正」という。)を求めるものであり、訂正の内容は以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の項目(A)に「醤油、みりん、味噌、魚醤油、酵母エキス及びタンパク質加水分解物から選択される」とあるのを、「醤油、味噌、及び酵母エキスから選択される」と訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の項目(A)の酵母エキスについて、「ここで当該酵母エキスは、イノシン酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものであるか、パン酵母から得られたものである」と特定する訂正を行う。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の項目(B)の工程
「(B) 下記の混合物
・工程 (A) から得られる抽出処理物、工程 (A) から得られる抽出残渣、及び節類から選択される一又は複数
・混合適量の水
を加熱抽出処理する工程」
とあるのを、
「(B)下記の混合物
・工程(A)から得られる抽出残渣
・混合適量の水
・タンパク質分解酵素
を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、次いで加熱抽出処理する工程」と訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「レトルト処理時や長時間加熱処理による蒸れ臭発生」とあるのを、「レトルト処理時や長時間加熱処理に伴う変質による蒸れ臭発生」と訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3の「請求項1又は2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」と訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4において「イノシン酸及びグアニル酸を合計で乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを乾燥重量あたり1%以上含有するものである」とあるのを、「イノシン酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものである」と訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正の目的について
ア 訂正事項1は、請求項1の項目(A)に「醤油、みりん、味噌、魚醤油、酵母エキス及びタンパク質加水分解物から選択される」とある選択肢のうち、みりん、魚醤油及びタンパク質加水分解物を削除して「醤油、味噌、及び酵母エキスから選択される」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項2は、請求項1の項目(A)の酵母エキスについて「ここで当該酵母エキスは、イノシン酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものであるか、パン酵母から得られたものである」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
ウ 訂正事項3は、請求項1の項目(B)の工程において、「・工程 (A) から得られる抽出処理物、工程 (A) から得られる抽出残渣、及び節類から選択される一又は複数」と選択的に特定されていた事項を、「・工程 (A) から得られる抽出残渣」のみに特定し、混合物にタンパク質分解酵素を含めること、混合後に酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理することを特定して、「(B) 下記の混合物
・工程 (A) から得られる抽出残渣
・混合適量の水
・タンパク質分解酵素
を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、次いで加熱抽出処理する工程」とするものであるから、特許請求の範囲を減縮を目的とするものである。
エ 訂正事項4は、請求項1の「レトルト処理時や長時間加熱処理による蒸れ臭発生」における「蒸れ臭」が、食品の変質によるもの、密封容器に起因するもの、或いはその両方によるもののいずれによるのかが明確でなかったものを、「レトルト処理時や長時間加熱処理に伴う変質による蒸れ臭発生」と訂正して、「蒸れ臭」が変質によるものとするのであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
オ 訂正事項5は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
カ 訂正事項6は、請求項3の「請求項1又は2に記載の」とあるのを、訂正事項5により請求項2を削除したことに伴い、「請求項1に記載の」と訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
キ 訂正事項7は、請求項4の「イノシン酸及びグアニル酸を合計で乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを乾燥重量あたり1%以上含有するものである」とするものにおいて、「乾燥重量」が何を乾燥させたものの重量であるのかが特定されておらず、基準となる量が明確でなかったものを、「イノシン酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものである」と訂正して、「乾燥重量」が「酵母エキスの乾燥重量」であることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
ク 訂正事項8は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2) 新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について
ア 訂正事項1、5、6及び8は、上記ア、オ、カ及びクで記載したとおりの事項を目的とするものであることから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 訂正事項2の「ここで当該酵母エキスは、イノシン酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものであるか、パン酵母から得られたものである」ことに関して、本件特許明細書の段落【0012】に「酵母エキスを用いる場合、イノシン酸及びグアニル酸を合計で乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを乾燥重量あたり1%以上含有するものが好ましい。また、酵母エキスとしては、上記の条件を満たすものであれば、特に限定されるものではなく、サッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母、キャンヂダ(Candida)属に属するものでも良い。例としては、トルラ酵母、パン酵母、ビール酵母、清酒酵母由来のものを用いることができるが、上記の成分が豊富であれ、呈味性が優れるという点で、パン酵母由来のものが特に好ましい。また、パン酵母の中でも、酵母特有の異味、異臭が弱いものを用いることにより、他の成分の持ち味を殺さずに生かすことができる。・・・」と記載されていること、並びに訂正前の請求項4の「酵母エキスが、イノシン酸及びグアニル酸を合計で乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを乾燥重量あたり1%以上含有するものである」との記載及び訂正前の請求項5の「酵母エキスが、パン酵母から得られたものである」との記載から、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 訂正事項3の工程(B)の混合物に「・タンパク質分解酵素」を追加し「混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理」することについて、以下検討する。
工程(B)に関して、本件特許明細書の段落【0033】には、「工程 (B) は、工程 (A) の残渣、及び/又は節類に、混合適量の水及びタンパク質分解酵素を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、そして残渣を除いて酵素分解抽出物を得る工程とすることもできる。酵素分解上有効な温度及び時間条件は、用いる酵素にも拠るが、通常酵素の至適温度で行うものであり、典型的な例は、25℃?60℃において、10分?5時間である。」と記載され、上記工程(B)の加熱抽出処理に際して、タンパク質分解酵素を工程(A)の残渣に混合することが記載されている。また、混合後の温度と時間について、「酵素分解上有効な温度及び時間条件は、用いる酵素にも拠るが、通常酵素の至適温度で行うものであり、典型的な例は、25℃?60℃において、10分?5時間である。」と記載されている。
したがって、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
エ 訂正事項4の「蒸れ臭」について、「蒸れ臭」の原因が、食品の変質によるもの、密封容器に起因するもの、或いはその両方によるものが想定されて明確でなかったものを、本件特許明細書の段落【0022】の「本発明者らの検討によると、節類の抽出において、加熱に伴う変質を回避するためには70℃前後を下回った領域で処理すべきであり、 一方、70℃を超える温度で処理すると、品質は劣ったものとなる。・・・」との記載、本件特許明細書の段落【0031】の「最終製品を、レトルト処理や開放系での長時間加熱処理においても、蒸れ臭、異味の発生が少ないものとしうる。」との記載、本件特許明細書の段落【0044】の「レトルト処理や開放系での長時間加熱処理において、蒸れ臭、異味を抑制しうる。」との記載に基づき、食品の変質によるものと特定するものである。
したがって、訂正事項4は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
オ 訂正事項7の「乾燥重量」が「酵母エキスの乾燥重量」であることについて、本件特許明細書の段落【0012】には、「酵母エキスを用いる場合、イノシン酸及びグアニル酸を合計で乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを乾燥重量あたり1%以上含有するものが好ましい。・・・」と記載されており、酵母エキスを用いる場合は、酵母エキスの乾燥重量あたりを基準としていることは明らかであり、訂正事項7は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
カ さらに、本件訂正請求は、一群の請求項になされたものである。
(3) むすび
したがって、本件訂正請求による訂正事項1、2、3、5及び8は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、訂正事項4、6及び7は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ訂正事項1?8は、同条9項で準用する同法126条4?6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。

第3 取消理由についての判断
1 本件発明
本件訂正請求による訂正後の請求項1?6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。以下、訂正後の本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件訂正発明1」などといい、総称して「本件訂正発明」という。 また、下線は、訂正箇所を示す。

「【請求項1】
(A) 下記の混合物
・節類、
・節類10重量部に対し、0.01?1000重量部の、醤油、味噌、及び酵母エキスから選択される一又は複数、ここで当該酵母エキスは、イノシシ酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものであるか、パン酵母から得られたものである
・節類10重量部に対し、10?1000重量部の、水、アルコール溶液、油から選択される一又は複数の溶媒
を85℃?150℃で抽出処理する工程、及び
(B) 下記の混合物
・工程 (A) から得られる抽出残渣
・混合適量の水
・タンパク質分解酵素
を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、次いで加熱抽出処理する工程
を含み、
工程 (A) により抽出された成分と工程 (B) により抽出された成分とを含む、レトルト処理時や長時間加熱処理に伴う変質による蒸れ臭発生を抑制した調味料組成物の製造方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
工程 (A) が、得られる抽出処理物を気-液向流接触装置に供し、水蒸気蒸留物として抽出物を得る工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
酵母エキスが、イノシン酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
酵母エキスが、パン酵母から得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
(削除)」

2 取消理由の概要
本件訂正請求前の本件特許発明1?6に対する取消理由の概要は、概ね、以下のとおりである。
(1) 取消理由1(実施可能要件)
「蒸れ臭」及び「レトルト処理」という用語の意味が不明瞭であり、当業者が本件特許発明1?6の効果を確認できないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?6について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2) 取消理由2(サポート要件)
本件特許発明1は、工程(B)でタンパク質分解酵素を混合せずに加熱抽出処理をして得た、酵素分解物でない成分を混合する場合を含む記載となっており、本件特許明細書の実施例には、工程(B)でタンパク質分解酵素を混合せずに節残渣のみ用いた場合(実施例2)では、不快な苦味を伴う異味が生成することが示されており(特許明細書段落【0060】)、工程(B)で酵素分解処理を行わないと、異味を抑制する効果が得られず、本件特許発明の課題(特許明細書段落【0005】)を解決できないことは明らかなので、本件特許発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものではないので、本件特許発明の請求項1?6に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3) 取消理由3(明確性)
ア 本件特許発明1?6は、「蒸れ臭」及び「レトルト処理」という用語の意味は不明瞭であり、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
イ 本件特許発明4及び6は、「乾燥重量」について何を乾燥させたものの重量であるのかが特定されておらず、基準となる量が明確でなく、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ウ 本件特許発明6は、「加工食品」という物の発明であるが、製造方法の発明を引用する場合に該当するため、請求項6にはその物の製造方法が記載されているため明確でなく、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4) 取消理由4(進歩性)
本件特許発明1は、引用例1に記載の発明及び周知の事項に基いて、本件特許発明2は、引用例1に記載の発明、引用例3、4及び周知の事項に基いて、本件特許発明3は、引用例1に記載の発明、引用例3?5、及び周知の事項に基いて、本件特許発明4及び5は、引用例1に記載の発明、引用例3?6、及び周知の事項に基いて、本件特許発明6は、引用例1に記載の発明、引用例3?6、及び周知の事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから請求項1?6に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
引用例1:特開2000-157198号公報(異議申立人提出の甲1号
証)
引用例2:特開2008-11763号公報(同甲2号証)
引用例3:特開平1-300872号公報(同甲4号証)
引用例4:特開平6-62792号公報(同甲5号証)
引用例5:特開平9-308455号公報(同甲6号証)
引用例6:特開2004-135522号公報(同甲7号証)

3 判断
本件特許発明2及び6は、本件訂正により削除されたので、当審の通知した上記取消理由のうち、本件訂正発明1及びそれを引用する本件訂正発明3?5について以下に検討する。
(1) 取消理由1(実施可能要件)について
訂正前の本件特許発明1において、上記訂正事項4により、「レトルト処理時や長時間加熱処理に伴う変質による蒸れ臭発生」と訂正されたことにより、「蒸れ臭」が変質によるものであることが明瞭とされ、また、その結果、発明の詳細な説明において、当該「蒸れ臭」と「レトルト処理」との関係も、レトルト処理に伴う変質であると当業者が明瞭に理解でき、本件訂正発明1、本件訂正発明3?5をその特定される工程に従えば、変質に伴う臭いの発生が抑制された調味料組成物の製造を行うことができるものと当業者は理解できる。
そうすると、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえ、上記取消理由1(実施可能要件)は解消した。
したがって、本件訂正発明1、3?5に係る特許が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものであるとすることはできない。
(2) 取消理由2(サポート要件)について
訂正前の本件特許発明1において、上記訂正事項3により、「(B) 下記の混合物
・工程 (A) から得られる抽出残渣
・混合適量の水
・タンパク質分解酵素
を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、次いで加熱抽出処理する工程
を含み、」と訂正されたことにより、工程(B)は、「タンパク質分解酵素」、「水」及び「工程 (A) から得られる抽出残渣」の組合せに特定されたので、上記取消理由2(サポート要件)は解消した。
したがって、本件訂正発明1、3?5は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件訂正発明1、3?5に係る特許が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさず、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものであるとすることはできない。
(3) 取消理由3(明確性)について
ア 「蒸れ臭」との用語は、食品業界において、一般的に用いられている用語であり(例えば、「特許庁、”標準技術集・化学18年度 香料 1-2-2-9 冷凍・レトルト・電子レンジ・インスタント食品”、2007年3月14日、インターネット<URL:http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/kouryou/1-2-2.pdf#9>」(乙7号証)、「黒田素央、”各種調味料のレトルト加熱食品への利用-加熱耐性を有する調味料の応用例について-”、ジャパンフードサイエンス、2000年、Vol.38、No.12、p.55-61」(乙8号証)参照。)、また、当業者であれば、調理加工食品の加熱などの製造加工過程や保存、流通過程での酸化や還元などの化学反応で本来のフレーバーが消失して、その結果生じるオフフレーバーによる不快臭を感知すれば、当該「蒸れ臭」を感知し得るものと認められる(上記乙7号証、乙8号証参照。)。
そうすると、本件訂正発明1の「蒸れ臭」との用語の意味は、当業者にとって明確であるといえ、特許請求の範囲の請求項1の記載を不明確なものとするものではない。
さらに、本件訂正発明1の「レトルト処理」との用語は、本件特許明細書の段落【0005】の「・・・レトルト処理(密封容器内での加圧加熱)や開放系での長時間加熱処理されると、・・・」との記載事項、及びレトルトが「大気圧以上の圧力を用いて、110?140度で缶詰・袋詰食品などを加熱・殺菌する装置。殺菌釜。」(広辞苑第六版)を意味していることから、当業者にとって明確であるといえ、特許請求の範囲の請求項1の記載を不明確なものとするものではない。
また、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3?5についも同様に、特許請求の範囲の記載を不明確なものとするものではない。
よって、上記「取消理由3(明確性)ア」は解消した。
イ 本件訂正発明4は、「乾燥重量」について、「酵母エキスの乾燥重量」と特定することにより乾燥重量が酵母エキスのものであることが明確に特定されたので、特許請求の範囲の記載を不明確なものとするものではない。
よって、上記「取消理由3(明確性)イ」は、解消した。
ウ 以上のとおりであるので、本件訂正発明1、3?5は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさず、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものであるとすることはできない。
(4) 取消理由4(進歩性)について
本件訂正発明1の「(A) 下記の混合物
・節類、
・節類10重量部に対し、0.01?1000重量部の、醤油、味噌、及び酵母エキスから選択される一又は複数、ここで当該酵母エキスは、イノシシ酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものであるか、パン酵母から得られたものである
・節類10重量部に対し、10?1000重量部の、水、アルコール溶液、油から選択される一又は複数の溶媒
を85℃?150℃で抽出処理する工程」により抽出された成分と、「(B) 下記の混合物
・工程 (A) から得られる抽出残渣
・混合適量の水
・タンパク質分解酵素
を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、次いで加熱抽出処理する工程」により抽出された成分とを含む調味料組成物(以下「組成物A」という。)を得る点については、平成28年2月29日付けの取消理由通知書において示した下記引用例1?6のいずれの文献にも記載されていない。
また、同じく取消理由通知書において示した引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)である「抽出に用いられる醤油量は、魚節類の重量に対して0.5?10倍重量であり、醤油で抽出温度は、85℃?87℃で抽出した魚節類を遠心分離などで醤油(魚節類の風味を有する)と魚節類とに分離して、分離した魚節類に熱水を接触させ抽出し、ダシ汁を分離し、これと先に得た醤油(魚節類の風味を有する)とを併せてダシ汁とし、次いで該ダシ汁に少なくとも甘味糖類を混和し、魚節類の酸化臭がマスキングされる、つゆ類の製造方法。」は、引用発明の各工程を経ることによって「魚節の風味が優れ、かつ色沢の淡いつゆ類が得られる」(引用例1段落【0016】)との効果(以下「引用発明の効果」という。)を奏するものである。
そうすると、引用例3のだしの製造方法における「常法により一番だしを取った後の鰹節残渣100部に酵素分解により旨味アミノ酸を生成する食品素材0.5?5部を加え、45?60℃で酵素分解を行なうこと」(特許請求の範囲)や、引用例4の出汁様調味料を得る製造方法における「出汁に使用するかつお節、宗田節および乾燥焼飛び魚等に代表される水産資源100%に蛋白質分解酵素(以下プロテアーゼと略す)と、醤油麹ら抽出した高濃度酵素液の混合液100?500%を加え30?60℃で分解すること」(特許請求の範囲)の開示があるとしても、上記引用発明の効果を奏している引用発明において、その工程の一部の構成である、醤油で抽出された後の魚節類(本件訂正発明1の「抽出残渣」に相当。)に着目して、風味に悪い影響を与え得る酵素分解する技術(引用例3の1ページ右欄8?14行、特開2003-116484号公報(異議申立人提出の参考資料12)段落【0004】、【0005】、特公昭62-36652号公報(同じく参考資料14)1ページ2欄25行?2ページ3欄3行など参照。)を、引用発明の醤油で抽出された後の魚節類に単に適用することに、動機付けがあるということはできない。
そして、本件訂正発明1、3?5は、上記組成物Aを得ることにより、「本発明の製造方法により得られた調味料組成物は、レトルト処理や開放系での長時間加熱処理においても、蒸れ臭、異味の発生が少ない。そのため、節類の風味を充分に発揮しうるものである。」(本件特許明細書段落【0008】)との効果を奏するものであり、得られた調味料組成物をレトルト処理や開放系での長時間加熱処理しても、蒸れ臭の発生を抑制することについては、いずれの引用例においても記載されておらず、格別な効果を奏するものといえる。
したがって、平成28年12月7日付けの異議申立人の意見書を考慮しても、本件訂正発明1は、引用発明及び周知の事項に基いて、本件訂正発明3は、引用発明、引用例3?5、及び周知の事項に基いて、本件訂正発明4及び5は、引用発明、引用例3?6、及び周知の事項に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1、3?5に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものとすることはできない。
<引用例>
引用例1:特開2000-157198号公報(異議申立人提出の甲1号
証)
引用例2:特開2008-11763号公報(同甲2号証)
引用例3:特開平1-300872号公報(同甲4号証)
引用例4:特開平6-62792号公報(同甲5号証)
引用例5:特開平9-308455号公報(同甲6号証)
引用例6:特開2004-135522号公報(同甲7号証)

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正発明1、3?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1、3?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正発明2及び6に係る特許は、本件訂正により削除されたので、本件特許の請求項2及び6に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記の混合物
・節類、
・節類10重量部に対し、0.01?1000重量部の、醤油、味噌、及び酵母エキスから選択される一又は複数、ここで当該酵母エキスは、イノシン酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものであるか、パン酵母から得られたものである
・節類10重量部に対し、10?1000重量部の、水、アルコール溶液、油から選択される一又は複数の溶媒
を85℃?150℃で抽出処理する工程、及び
(B)下記の混合物
・工程(A)から得られる抽出残渣
・混合適量の水
・タンパク質分解酵素
を混合して酵素分解上有効な温度及び時間条件で処理し、次いで加熱抽出処理する工程
を含み、
工程(A)により抽出された成分と工程(B)により抽出された成分とを含む、レトルト処理時や長時間加熱処理に伴う変質による蒸れ臭発生を抑制した調味料組成物の製造方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
工程(A)が、得られる抽出処理物を気-液向流接触装置に供し、水蒸気蒸留物として抽出物を得る工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
酵母エキスが、イノシン酸及びグアニル酸を合計で酵母エキスの乾燥重量あたり5%以上、及び/又はグルタチオンを酵母エキスの乾燥重量あたり1%以上含有するものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
酵母エキスが、パン酵母から得られたものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-23 
出願番号 特願2010-143703(P2010-143703)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
窪田 治彦
登録日 2015-04-24 
登録番号 特許第5735224号(P5735224)
権利者 テーブルマーク株式会社
発明の名称 節類抽出物を含む調味料組成物の製造方法  
代理人 山本 修  
代理人 廣瀬 しのぶ  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 廣瀬 しのぶ  

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