• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  F24F
審判 一部申し立て 2項進歩性  F24F
管理番号 1325853
異議申立番号 異議2016-700253  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-28 
確定日 2017-02-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5786849号発明「天井設置型室内機」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5786849号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,3,6〕,2,4,5について訂正することを認める。 特許第5786849号の請求項1,3,6に係る特許を維持する。 特許第5786849号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5786849号(以下「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は,平成24年12月28日に出願され,平成27年8月7日にその特許権の設定登録がされ,その後,特許異議申立人青木眞理により請求項1?3,6に対して特許異議の申立てがされ,平成28年5月24日付けで取消理由が通知され,同年7月25日付けで意見書の提出があり,同年9月2日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ,同年11月2日付けで意見書の提出及び訂正請求がされ,同年12月16日付けで特許異議申立人から意見書が提出されたものである。


第2 訂正について

1 訂正の内容

平成28年11月2日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものであって,具体的な訂正事項は以下のとおりである。

(1)訂正事項1-1

訂正前の請求項1に

「前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備える天井設置型室内機。」

とあるのを,

「前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備え、
前記剥離誘発面(54)は、前記案内面(53)との境界部である一端と、前記下面(33)との境界部である他端と、を有し、
前記剥離誘発面(54)は、前記一端と前記他端とを結ぶ線分よりも前記吹出口(6)から遠ざかる側に全体が位置している天井設置型室内機。」

と訂正する(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。

(2)訂正事項1-2

訂正前の段落【0009】の末尾に,以下の記載を追加する。

「前記剥離誘発面(54)は、前記案内面(53)との境界部である一端と、前記下面(33)との境界部である他端と、を有する。前記剥離誘発面(54)は、前記一端と前記他端とを結ぶ線分よりも前記吹出口(6)から遠ざかる側に全体が位置している。」

(3)訂正事項2-1

訂正前の請求項2を削除する。

(4)訂正事項2-2

訂正前の段落【0011】を削除する。

(5)訂正事項3

訂正前の請求項3に「請求項1又は2に記載の天井設置型室内機。」とあるのを,「請求項1に記載の天井設置型室内機。」と訂正する。

(6)訂正事項4-1

訂正前の請求項4に

「前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分において、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)とのなす角度(θ)が鋭角である、請求項1?3の何れか1項に記載の天井設置型室内機。」

とあるのを,

「空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機において、
互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、
前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備え、
前記第1壁面(51)は、
空気を下方に案内する案内面(53)と、
前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備え、
前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備え、
前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分において、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)とのなす角度(θ)が鋭角である、天井設置型室内機。」

と訂正する。

(7)訂正事項4-2

訂正前の段落【0014】に

「(4)前記天井設置型室内機では、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分において、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)とのなす角度(θ)が鋭角である形態が例示でき、この場合には、鋭角の接続部分に剥離ポイントを位置させることができる。」

とあるのを,

「(4)本発明は、空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機に関する。前記天井設置型室内機は、互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備える。前記第1壁面(51)は、空気を下方に案内する案内面(53)と、前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備える。前記天井設置型室内機は、前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備える。前記天井設置型室内機では、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分において、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)とのなす角度(θ)が鋭角である。この場合には、鋭角の接続部分に剥離ポイントを位置させることができる。」

と訂正する。

(8)訂正事項5-1

訂正前の請求項5に

「前記剥離誘発面(54)は、前記吹出口(6)から遠ざかる方向に凹む凹曲面(55)を含み、
前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分は、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)の湾曲する方向が変わる変曲部(54a)である、請求項1?3の何れか1項に記載の天井設置型室内機。」

とあるのを,

「空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機において、
互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、
前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備え、
前記第1壁面(51)は、
空気を下方に案内する案内面(53)と、
前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備え、
前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備え、
前記剥離誘発面(54)は、前記吹出口(6)から遠ざかる方向に凹む凹曲面(55)を含み、
前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分は、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)の湾曲する方向が変わる変曲部(54a)である、天井設置型室内機。」

と訂正する。

(9)訂正事項5-2

訂正前の段落【0015】に

「(5)前記天井設置型室内機において、前記剥離誘発面(54)は、前記吹出口(6)から遠ざかる方向に凹む凹曲面(55)を含み、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分は、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)の湾曲する方向が変わる変曲部(54a)である形態が例示できる。この場合には、変曲部(54a)又はその近傍に剥離ポイントを位置させることができる。」

とあるのを,

「(5)本発明は、空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機に関する。前記天井設置型室内機は、互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備える。前記第1壁面(51)は、空気を下方に案内する案内面(53)と、前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備える。前記天井設置型室内機は、前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備える。前記天井設置型室内機において、前記剥離誘発面(54)は、前記吹出口(6)から遠ざかる方向に凹む凹曲面(55)を含み、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分は、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)の湾曲する方向が変わる変曲部(54a)である。この場合には、変曲部(54a)又はその近傍に剥離ポイントを位置させることができる。」

と訂正する。

(10)訂正事項6

訂正前の請求項6に「請求項1?3の何れか1項に記載の天井設置型室内機。」とあるのを,「請求項1又は3に記載の天井設置型室内機。」と訂正する。


2 訂正の適否

(1)訂正事項1-1及び1-2について

訂正事項1-1は,請求項1に記載された「剥離誘発面(54)」に対して,さらに「前記案内面(53)との境界部である一端と、前記下面(33)との境界面である他端と、を有し、」「前記一端と前記他端とを結ぶ線分よりも前記吹出口(6)から遠ざかる側に全体が位置している」との限定事項を付加するものである。よって,訂正事項1-1は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,請求項1を直接又は間接に引用する請求項3,6についても,同様に特許請求の範囲を減縮するものである。そして,訂正事項1-2は,明細書を訂正事項1-1と整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

また,本件特許明細書には,「第1実施形態」として「剥離誘発面54の両端部を結ぶ線分よりも吹出口6から遠ざかる側(図4(A)では右斜め上方側)に、剥離誘発面54の全体が位置している。剥離誘発面54の両端のうちの一端は、剥離誘発面54と案内面53との境界部(変曲部54a)であり、前記両端のうちの他端は、剥離誘発面54と下面33との境界部54bである。」(段落【0047】)と記載されていることから,訂正事項1-1及び1-2は,本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(2)訂正事項2-1及び2-2について

訂正事項2-1は,請求項2を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして,訂正事項2-2は,明細書を訂正事項2-1と整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,訂正事項2-1及び2-2は,本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(3)訂正事項3及び6について

訂正事項3及び6は,それぞれ請求項3及び6について,請求項2の削除に伴うものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,訂正事項3及び6は,本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。

(4)訂正事項4-1及び4-2並びに5-1及び5-2について

訂正事項4-1及び5-1は,それぞれ請求項4及び5について,請求項1を引用しないものとし,独立形式請求項へ改めるものであるから,他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。そして,訂正事項4-2及び5-2は,明細書をそれぞれ訂正事項4-1及び5-1と整合させるものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,訂正事項4-1及び4-2並びに5-1及び5-2は,本件特許明細書に記載した事項の範囲内のものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。


3 むすび

したがって,本件訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号,第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1,3,6〕,2,4,5について訂正することを認める。


第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

本件訂正により訂正された訂正請求項1,3,6に係る発明(以下それぞれ「本件発明1,3,6」という。)は,訂正特許請求の範囲の請求項1,3,6に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

【請求項1】
空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機において、
互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、
前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備え、
前記第1壁面(51)は、
空気を下方に案内する案内面(53)と、
前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備え、
前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備え、
前記剥離誘発面(54)は、前記案内面(53)との境界部である一端と、前記下面(33)との境界部である他端と、を有し、
前記剥離誘発面(54)は、前記一端と前記他端とを結ぶ線分よりも前記吹出口(6)から遠ざかる側に全体が位置している天井設置型室内機。

【請求項3】
前記案内面(53)は、平面又は前記第2壁面(52)側に凸の凸曲面により構成されている、請求項1に記載の天井設置型室内機。

【請求項6】
前記剥離誘発面(54)は、
前記案内面(53)の下端部に接続され、前記第2壁面(52)から遠ざかる方向に延びる第1平面(541)と、
上端部が前記第1平面(541)の端部に接続され、前記下面(33)に向かって延びる第2平面(542)と、を含む、請求項1又は3に記載の天井設置型室内機。


2 取消理由の概要

本件訂正前の請求項1?3,6に係る特許に対して平成28年5月24日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は,次のとおりである。

(1)取消理由1
請求項1?3に係る発明は,実質的に甲第1号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができないものであり,その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(2)取消理由2
請求項1?3に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と周知技術に基いて,請求項6に係る発明は,甲第1号証に記載された発明と甲第2?4号証記載の発明に基いて,それぞれその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その発明に係る特許は取り消すべきものである。


3 判断

(1)取消理由通知に記載した取消理由について

ア 刊行物

甲第1号証:特開2008-57843号公報
甲第2号証:特開2009-264637号公報
甲第3号証:特開2001-147041号公報
甲第4号証:実願昭54-158135号(実開昭56-75627号)
のマイクロフィルム

イ 甲第1号証に記載された発明

取消理由で通知した甲第1号証には,図面と共に次の事項が記載されている。

(ア)「図1(A)および図1(B)に示すように、本発明による天井埋込型の空気調和機は、被空調室の天井面Aの上部に本体Bが図示しない吊下部材によって吊下設置されるとともに、前記本体Bの下面に被着されたパネル6が前記天井面Aに沿うように配置されている。」(段落【0013】)

(イ)「パネル6には、被空調室の空気を吸い込む吸込口1と、同吸込口1の周囲に近接して配置された吹出口5とを備えており、これら吸込口1と吹出口5とを結ぶ空気通路には、同吸込口1に臨ませるように設けられた送風ファンCと、同送風ファンCの周囲を囲むように配置された熱交換器Dとを備えている」(段落【0014】)

(ウ)「前記吸込口1から吸い込まれた空気が前記熱交換器Dによって熱交換されたのち、前記吹出口5から吹き出されて被空調室が空気調和されるようになっている。」(段落【0015】)

(エ)「パネル6は、同パネル6(天井面)を見上げた時に視認される表面側が、合成樹脂製の成形品からなるパネル部材2で構成され、同パネル部材2の背面側が発泡成形品からなる断熱部材3で構成されている。」(段落
【0017】)

(オ)「前記吹出口5は、図1(B)に示すように、凹面状に形成された一側が前記断熱部材3によって構成される一方、凸面状に形成された他側が、接合部aとして示した前記断熱部材3と前記パネル部材2との接合位置から下面にかけて同パネル部材2で構成されるとともに、他側上端部が前記断熱部材3の一部を前記吹出口5に突出させた突起部3aで構成されている。」(段落【0018】)

(カ)「前記突起部3aは、前記パネル部材2に対し面一状に連続形成された構成であってもよく、また、前記パネル部材2よりも前記吹出口5(送風部)側に少許突出するように形成された構成であってもよい。」(段落【0019】)

(キ)「例えば前記熱交換器Dによって熱交換された冷気が前記吹出口5を流通する際、前記パネル部材2と前記突起部3aとが当接した接合部aにおいて、これらパネル部材2と断熱部材3との材質の違いや表面形状の違いとして、例えば合成樹脂製のパネル部材2と発泡スチロール製の断熱部材3とで構成されることにより、また、前記パネル部材2に対し前記突起部3aを突出させたことにより剥離して、このままでは、その下部となる前記パネル部材2の表面に、室内空気を巻き込むことで生じた温度差によって結露が生じることになるが、ここに、例えば植毛シートからなる断熱シート7を貼着することで結露が発生しないようになる。」(段落【0020】)

(ク)「吹出空気流に剥離を起こさせるための前記突起部3aおよび前記接合部aが、前記風向偏向板4の枢支部4aよりも上流側に設けられたことで、そのままでは結露が生じてしまうことになる前記接合部aの下部であって、使用者が視認できない前記吹出口5の奥まった位置となる前記パネル部材2に前記断熱シート7を貼着した構成になっており、これによって、結露が生じる位置を前記吹出口5の奥まった位置(送風部)に設定した上で、視認できない該位置に結露の発生を防止するための断熱シート7を貼着した天井埋込型の空気調和機を提供できる。」(段落【0022】)

(ケ)【図1】の記載から,パネル6に備えられた吹出口5が空気調和機の下部に設けられていること,吹出口5を形成する側及び一側が,互いに間隔をあけて対向していること,パネル部材2で構成される下面が被空調室に面することが読み取れる。
また,【図1】(B)を参照すれば,パネル部材2で構成される下面は,凸面状に形成された他側の一部と同じパネル部材2で構成されており,該下面と該他側は一続きになっている。よって,該下面は該他側の下端に接続されていると認められる。
さらに,【図1】(B)からは,突起部3aが,鉛直方向に延びる面と,その下端から水平方向に延びる面とをもつものであることが読み取れる。このうち鉛直方向に延びる面は,吹出口5を流れる空気を下方に案内すると認められる。

上記(ア)?(ケ)に記載された事項を総合すると,甲第1号証には次の発明が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。

「空気を吹き出す吹出口5が下部に設けられた天井埋込型の空気調和機において,
互いに間隔をあけて対向し,吹出口5を形成する,断熱部材3並びにパネル部材2で構成される凸面状に形成された他側,及び断熱部材3で構成される凹面状に形成された一側と,
他側の下端に接続され,被空調室に面する下面と,を備え,
他側は,
空気を下方に案内する面と,
吹出空気流に剥離を起こさせるための突起部3a及び接合部aと,を備え,
吹出口5内に配置され,接合部aの下部となるパネル部材2の表面に貼着された植毛シートからなる断熱シート7をさらに備える天井埋込型の空気調和機。」

ウ 対比・判断

(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明における「吹出口5」,「天井埋込型の空気調和機」,「断熱部材3並びにパネル部材2で構成される凸面状に形成された他側」,「断熱部材3で構成される凹面状に形成された一側」,「被空調室に面する下面」,「空気を下方に案内する面」「吹出空気流」は,本件発明1における「吹出口」,「天井設置型室内機」,「第1壁面」,「第2壁面」,「室内に露出する下面」,「空気を下方に案内する案内面」,「気流」にそれぞれ相当する。
そして,甲1発明において上記「他側」と「一側」が空気を吹き出すための流路を形成していることは明らかであり,このことは本件発明1の「第1壁面」と「第2壁面」が「吹出流路を形成する」ことに相当する。
また,甲1発明の「接合部a」は,「パネル部材2と」「突起部3aとが当接した」部分であって(上記イ(キ)),「突起部3a」とともに「吹出空気流に剥離を起こさせるための」ものである(上記イ(ク))から,剥離を誘発する機能をもつ。そして,該剥離は「パネル部材2に対し」「突起部3aを突出させたことにより」起こるとされている(上記イ(キ))から,「接合部a」,「突起部3a」の水平方向に延びる面,「接合部aの下部となるパネル部材2の表面」を合わせたものは,本件発明1の「案内面と下面との間に介在」する「剥離誘発面」に相当し,「空気を下方に案内する面」及び「被空調室に面する下面」との境界部を両端としている。
また,甲1発明の「断熱シート7」は,本件発明1の「水保持部材」と,「吹出流路内に配置され,剥離誘発面に取り付けられた部材」という限りにおいて一致する。

(イ)一致点
したがって,本件発明1と甲1発明とは,以下の点で一致している。
「空気を吹き出す吹出口が下部に設けられた天井設置型室内機において,
互いに間隔をあけて対向し,吹出流路を形成する第1壁面及び第2壁面と,
第1壁面の下端に接続され,室内に露出する下面と,を備え,
第1壁面は,
空気を下方に案内する案内面と,
案内面と下面の間に介在する剥離誘発面と,を備え,
吹出流路内に配置され,剥離誘発面に取り付けられた部材をさらに備え,
剥離誘発面は,案内面との境界部である一端と,下面との境界部である他端と,を有する天井設置型室内機。」

(ウ)相違点
そして,本件発明1と甲1発明とは,以下の点で相違している。

相違点1
本件発明1は,吹出流路が「水平方向に長い」のに対し,甲1発明は,そのような構成を有しているかが明らかでない点

相違点2
本件発明1は,剥離誘発面が,「第1壁面において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を吹出流路の長手方向において揃える」のに対し,甲1発明はそのような構成を有しているか否か明らかでない点

相違点3
本件発明1では,剥離誘発面に取り付けられる部材が「水保持部材」であるのに対し,甲1発明では断熱シートである点

相違点4
本件発明1は,剥離誘発面が,凹状であって,一端と他端とを結ぶ線分よりも吹出口から遠ざかる側に全体が位置しているのに対し,甲1発明はそのような構成を有しているか否か明らかでない点

(エ)判断

A 取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について
本件発明1と甲1発明とは,上記相違点1?4において相違し,少なくとも下記Bにて検討する相違点4は実質的な相違点であるから,本件発明1は特許法第29条第1項第3号に該当しない。本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付加したものに相当する本件発明3も同様に,特許法第29条第1項第3号に該当しない。

B 取消理由2(特許法第29条第2項)について
相違点4について検討する。
甲1発明において,少なくとも「断熱シート7」が貼着された「パネル部材2の表面」は,本件発明1の「剥離誘発面」に相当する。しかし,「剥離誘発面」が「凹状」であることや,「一端と他端とを結ぶ線分よりも吹出口から遠ざかる側に全体が位置している」ことについては,甲第1号証に記載も示唆もない。したがって上記相違点4は実質的な相違点である。
ここで,相違点4に係る本件発明1の構成は,剥離誘発面により形成される凹み空間を大きくする意義を有するところ,甲1発明においては「突起部3a」と「パネル部材2」の段差は必須とされておらず(上記イ(カ)),剥離は「パネル部材2と断熱部材3との材質の違いや表面形状の違い」によっても起こり得るとされている(上記イ(キ))ことから,甲1発明において,「接合部a」の近傍の凹み空間を大きくしようとする動機付けは見いだせない。よって,上記相違点4に係る本件発明1の構成は,甲第2?4号証に記載された技術事項を考慮しても,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

したがって,本件発明1は,甲第2?4号証に記載された技術事項を考慮しても,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の限定を付加したものに相当する本件発明3,6も同様に,甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(オ)特許異議申立人の意見について

特許異議申立人は,平成28年12月16日付けの意見書において,新たに提出した参考資料1及び2,並びに甲第2号証及び甲第3号証を根拠として,本件訂正によって本件発明1に新たに付加された構成が周知の技術であったとし,したがって本件発明1,3,6は,甲1発明に周知の技術を単に適用したものであるから,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により,特許を受けることができないと主張している。
しかし,特許異議申立人が述べる構成が周知の技術であったとしても,既に十分に剥離を誘発することのできる甲1発明に,さらに当該周知の技術を適用する動機付けを見いだすことはできない(上記(エ)B参照)。特許異議申立人の意見は採用できない。


(2)むすび

以上のとおり,取消理由によっては,請求項1,3,6に係る特許を取り消すことはできない。また,他に請求項1,3,6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また,請求項2に係る特許は,本件訂正により削除されたため,特許異議申立人の請求項2に係る特許についての特許異議の申立は,対象となる請求項が存在しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
天井設置型室内機
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井に設置される空気調和装置の室内機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天井の開口に埋め込まれて設置される天井設置型室内機が知られている(例えば特許文献1)。この天井設置型室内機では、送風機が運転されると、下面パネル(化粧パネル)に設けられた吸込口からケース内に空気が吸い込まれる。ケース内に吸い込まれた空気は、熱交換器を通過した後、ケースの側板と熱交換器との間に形成された案内流路を通って下方に向かい、下面パネルに設けられた吹出流路を通って吹出口から室内に吹き出される。
【0003】
天井設置型室内機の下面パネルには、1つ又は複数の吹出流路が設けられている。各吹出流路は、互いに間隔をあけて対向する外側壁面と内側壁面とによって形成されている。外側壁面はケースの側板側に位置し、内側壁面は吸込口側に位置している。各吹出流路は、例えば下面パネルの縁部に沿う方向に延びる細長い形状を有する。各吹出口には空気の吹き出し方向を調節するフラップが設けられている。
【0004】
ところで、吹出流路を形成する外側壁面は、吹出口から吹き出される空気が内側(吸込口の方向)ではなく、外側(吸込口から遠ざかる方向)寄りに向かうように湾曲又は傾斜した形状に設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-97958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外側壁面に沿って吹出流路を流れる空気は、吹出口に至るまでに外側壁面から剥離することがある。外側壁面において気流の剥離が生じると、その剥離ポイントの近傍に室内の暖気が流れ込むので、例えば冷房運転時などには、剥離ポイントの近傍において冷気と暖気とが接触する可能性があり、結露が生じることがある。このような結露が生じやすい部位には、例えば植毛テープなどの水を保持することができる水保持部材(結露対策部材)を設けるという対策が考えられる。
【0007】
ところで、外側壁面の形状は吹出流路の長手方向においてほぼ一様であるが、外側壁面において気流の剥離が生じる剥離ポイントは、長手方向の位置によってばらつきが大きく、また、長手方向の同じ位置でも変動することがある。そして、剥離ポイントが外側壁面の下端付近、すなわち吹出口の近傍である場合には、外側壁面の下端につながる下面パネルの外枠部の下面などにおいて結露が生じることがある。このような結露に対応するためには、下面パネルの下面に植毛テープなどの水保持部材を設ける必要があるが、下面パネルの下面は、室内に露出しているので、デザイン性を損なうという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、天井設置型室内機において、デザイン性を損なうことなく、水保持部材を配置するなどの結露対策を施すことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機に関する。前記天井設置型室内機は、互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備える。前記第1壁面(51)は、空気を下方に案内する案内面(53)と、前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備える。前記天井設置型室内機は、前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備える。前記剥離誘発面(54)は、前記案内面(53)との境界部である一端と、前記下面(33)との境界部である他端と、を有する。前記剥離誘発面(54)は、前記一端と前記他端とを結ぶ線分よりも前記吹出口(6)から遠ざかる側に全体が位置している。
【0010】
この構成では、凹状の剥離誘発面(54)が第1壁面(51)における気流の剥離を誘発するので、第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置(剥離ポイント)を吹出流路(5)の長手方向において揃えることができる。このように剥離ポイントを吹出流路(5)の長手方向において揃えることができれば、結露が生じる場所を下面パネルの下面(33)ではなく、吹出流路(5)内に設定することも可能になる。そして、吹出流路(5)内に結露場所を設定することができれば、植毛テープなどの水保持部材(結露対策部材)を、室内のユーザーからは見えにくい吹出流路(5)内に配置することができる。これにより、デザイン性を損なうことなく結露対策を施すことができる。
【0011】(削除)
【0012】
(3)前記天井設置型室内機において、前記案内面(53)は、前記第2壁面(52)側に凸の凸曲面又は平面により構成されているのが好ましい。
【0013】
この構成では、案内面(53)が上記のような凸曲面又は平面である場合には、気流は、案内面(53)に沿って流れやすい。したがって、剥離誘発面(54)によって誘発される剥離ポイントに至るまでの気流は、剥離せずに案内面(53)に沿って流れやすくなるので、剥離ポイントが吹出流路(5)の長手方向においてさらに揃いやすくなる。
【0014】
(4)本発明は、空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機に関する。前記天井設置型室内機は、互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備える。前記第1壁面(51)は、空気を下方に案内する案内面(53)と、前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備える。前記天井設置型室内機は、前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備える。前記天井設置型室内機では、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分において、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)とのなす角度(θ)が鋭角である。この場合には、鋭角の接続部分に剥離ポイントを位置させることができる。
【0015】
(5)本発明は、空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機に関する。前記天井設置型室内機は、互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備える。前記第1壁面(51)は、空気を下方に案内する案内面(53)と、前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備える。前記天井設置型室内機は、前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備える。前記天井設置型室内機において、前記剥離誘発面(54)は、前記吹出口(6)から遠ざかる方向に凹む凹曲面(55)を含み、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分は、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)の湾曲する方向が変わる変曲部(54a)である。この場合には、変曲部(54a)又はその近傍に剥離ポイントを位置させることができる。
【0016】
(6)前記天井設置型室内機において、前記剥離誘発面(54)は、前記案内面(53)の下端部に接続され、前記第2壁面(52)から遠ざかる方向に延びる第1平面(541)と、上端部が前記第1平面(541)の端部に接続され、前記下面(33)に向かって延びる第2平面(542)と、を含む形態が例示できる。この場合には、案内面(53)の下端部と第1平面(541)との接続部分に剥離ポイントを位置させることができる。また、この場合には、第1平面(541)と第2平面(542)によって比較的大きな凹み空間(渦流が生じる空間)を形成できる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、天井設置型室内機において、デザイン性を損なうことなく、水保持部材を配置するなどの結露対策を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る天井設置型室内機を示す斜視図である。
【図2】前記天井設置型室内機を示す断面図である。
【図3】(A),(B)は、前記天井設置型室内機の一部を破断させた斜視図であり、(A)は、斜め上方から見たときの図であり、(B)は、斜め下方から見たときの図である。
【図4】(A)は、本発明の第1実施形態に係る天井設置型室内機の吹出流路を示す断面図であり、(B)は、吹出流路に設けられた水保持部材を説明するための断面図であり、(C)は、参考例に係る天井設置型室内機の吹出流路を示す断面図である。
【図5】(A),(B)は、第1実施形態に係る天井設置型室内機の吹出流路における空気の流れのシミュレーション結果を示す図であり、(A)は、吹出流路の長手方向の端部における空気の流れを示し、(B)は、吹出流路の長手方向の中央部における空気の流れを示している。
【図6】(A),(B)は、第1実施形態に係る天井設置型室内機の吹出流路における空気の温度分布のシミュレーション結果を示す図であり、(A)は、吹出流路の長手方向の端部における空気の温度分布を示し、(B)は、吹出流路の長手方向の中央部における空気の温度分布を示している。
【図7】(A),(B)は、参考例に係る天井設置型室内機の吹出流路における空気の流れのシミュレーション結果を示す図であり、(A)は、吹出流路の長手方向の端部における空気の流れを示し、(B)は、吹出流路の長手方向の中央部における空気の流れを示している。
【図8】(A),(B)は、参考例に係る天井設置型室内機の吹出流路における空気の温度分布のシミュレーション結果を示す図であり、(A)は、吹出流路の長手方向の端部における空気の温度分布を示し、(B)は、吹出流路の長手方向の中央部における空気の温度分布を示している。
【図9】(A)は、第1実施形態に係る天井設置型室内機の吹出流路及びその近傍の温度分布のシミュレーション結果を示す図であり、(B)は、参考例に係る天井設置型室内機の吹出流路及びその近傍の温度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】(A),(B)は、第2実施形態に係る天井設置型室内機の吹出流路における空気の流れのシミュレーション結果を示す図であり、(A)は、吹出流路の長手方向の端部における空気の流れを示し、(B)は、吹出流路の長手方向の中央部における空気の流れを示している。
【図11】(A),(B)は、第3実施形態に係る天井設置型室内機の吹出流路における空気の流れのシミュレーション結果を示す図であり、(A)は、吹出流路の長手方向の端部における空気の流れを示し、(B)は、吹出流路の長手方向の中央部における空気の流れを示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る天井設置型室内機1について図面を参照して説明する。
【0020】
<天井設置型室内機の全体構造>
図1及び図2に示すように、天井設置型室内機1は、天井71に埋め込まれるカセット室内機である。この室内機1は、天井71に設けられた開口に埋め込まれる室内機本体2と、室内機本体2の下部に取り付けられた下面パネル(化粧パネル)3とを備える。
【0021】
室内機本体2は、ターボファンなどの送風機11、熱交換器13、ドレンパン14、ベルマウス17などの複数の構成部品と、これらの構成部品を収容するケース10とを備える。
【0022】
ケース10は、天板10aと、側板10bとを有する箱状の部材である。ケース10の下部は開口しており、この開口部は、下面パネル3によって塞がれている。ケース10は、平面視で多角形状を呈しているが、これに限られない。本実施形態では、ケース10は、平面視で矩形の四隅が面取りされたような八角形状であるが、これに限られず、例えば正方形や長方形などの四角形状などであってもよい。
【0023】
図2に示すように、送風機11は、羽根車16とファンモータ12とを備える。ファンモータ12は、室内機本体2の天板10aの略中央に固定されている。羽根車16は、ハブ19と、シュラウド20と、複数のファンブレード21とを含む。ハブ19は、ファンモータ12のシャフトの下端部に固定されている。シュラウド20は、ハブ19の下方に配置されている。複数のファンブレード21は、ハブ19とシュラウド20との間において羽根車16の回転方向に沿って所定の間隔をあけて配列されている。ベルマウス17は、羽根車16に空気を案内する。
【0024】
熱交換器13は、冷房運転時には冷媒の蒸発器として機能し、暖房運転時には冷媒の凝縮器として機能する。熱交換器13は、室内機本体2内に吸い込まれる室内の空気と冷媒との熱交換を行う。熱交換器13は、冷房運転時には室内の空気を冷却し、暖房運転時には室内の空気を暖める。熱交換器13としては、例えばフィンアンドチューブ型熱交換器を例示できるが、これに限られない。
【0025】
図2及び図3(A),(B)に示すように、熱交換器13は、厚み(本実施形態では水平方向の寸法)の小さな扁平な形状を有している。熱交換器13は、ドレンパン14から上方に起立した状態で送風機11の周囲を囲むように配置されている。
【0026】
ドレンパン14は、熱交換器13において生じる水滴を収容する。ドレンパン14は、断熱材によって形成されている。断熱材としては、例えば発泡ポリスチレンなどの発泡プラスチックを例示することができるが、これに限られない。図2及び図3(A),(B)に示すように、ドレンパン14は、熱交換器13の下端部に沿って設けられた皿形状を有する。
【0027】
図2、図3(A),(B)及び図4に示すように、ドレンパン14は、熱交換器13の下端部に対して上下方向に対向する底壁140と、底壁140における内側の側端部から上方に延びる第1側壁141と、底壁140における外側の側端部から上方に延びる第2側壁142と、第2側壁142に対して隙間をあけて水平方向外側に設けられた第3側壁143とを含む。主に底壁140の上面、第1側壁141の側面及び第2側壁142の側面によって形成される凹部がドレン水の収容空間として機能する。ドレンパン14は、をさらに有する。
【0028】
下面パネル3は、平面視の形状が室内機本体2よりも一回り大きく、天井71の開口を覆った状態で室内に露出している。本実施形態の下面パネル3は、平面視で略矩形状であるが、これに限られない。下面パネル3は、室内の空気をケース10内に吸い込む吸込口7を有する。本実施形態では、吸込口7は例えば矩形状を有し、下面パネル3の中央部に設けられているが、これに限られない。吸込口7には、図略のグリルが設けられている。
【0029】
また、下面パネル3は、熱交換器13において冷媒と熱交換した空気を室内に吹き出す吹出流路5を形成する吹出部を有する。下面パネル3は1つ又は複数の吹出部を有する。吹出部の数は、特に限定されないが、本実施形態では、4つの吹出部が下面パネル3に設けられている。4つの吹出部は、吸込口7の周りを囲むように設けられている。4つの吹出部は、下面パネル3の4つの外縁に沿って設けられている。各吹出部の下部には、室内に開口する吹出口6が形成されている。吹出流路5及び吹出口6は、下面パネル3の対応する外縁に平行な方向に延びる細長い形状を有する。吹出流路5の詳細については後述する。
【0030】
吹出部の吹出流路5には、室内への空気の吹き出し方向を調節するフラップ22が設けられている。フラップ22は、吹出流路5の長手方向の寸法とほぼ同じ大きさ、又は吹出流路5の長手方向の寸法よりも少し小さい大きさを有する細長い形状である。各フラップ22は、その長手方向が対応する吹出流路5の長手方向に平行となるように配置されている。
【0031】
各フラップ22は、図略の羽根モータによって、下吹き状態と水平吹き状態との間で角度が調節される。下吹き状態は、フラップ22の可動範囲のうちで、吹出流路5から吹き出される気流の向きが鉛直方向に最も近くなる状態であり、水平吹き状態は、フラップ22の可動範囲のうちで、吹出流路5から吹き出される気流の向きが水平方向に最も近くなる状態である。
【0032】
下面パネル3は、枠部材を有する。枠部材は、下面パネル3の周縁部を構成する外枠部31と、内枠部32とを含む。外枠部31は、底面視で吹出流路5の外側に設けられており、下面パネル3の外周縁を含む。外枠部31は、底面視で環形状を呈する。内枠部32は、底面視で吸込口7と吹出流路5との間に設けられている。内枠部32は、中央に開口(吸込口7)が形成されている。内枠部32は、底面視で環形状を呈する。内枠部32及び外枠部31を含む枠部材は、室内に露出する化粧面を構成するパネル部と、パネル部の内側に設けられた断熱材とを有する。この断熱材としては、上述したような材料によって形成されている。
【0033】
外枠部31は、室内に露出している下面(化粧面)33を有する。同様に、内枠部32は、室内に露出している下面(化粧面)34を有する。
【0034】
吸込口7とベルマウス17との間には、エアフィルタ15が設けられている。エアフィルタ15は、吸込口7から吸入される空気中の塵埃を除去する。エアフィルタ15は、ベルマウス17の下端部の入口を覆う大きさを有する。図2に示す本実施形態では、エアフィルタ15は波形状を有するがこれに限られない。
【0035】
ファンモータ12によって羽根車16が回転すると、図2及び図3(A),(B)において一点鎖線の矢印Fで示すように、室内の空気が吸込口7から室内機1の内部に吸い込まれる。吸込口7から吸い込まれた空気は、ベルマウス17によって羽根車16に案内され、熱交換器13に送られる。熱交換器13において冷媒と熱交換した空気は、上流側案内流路9、案内流路8及び吹出流路5の順に下方に流れ、吹出流路5から室内に吹き出される。吹き出される空気は、フラップ22によって吹出方向が調節される。
【0036】
上流側案内流路9は、案内流路8よりも気流方向の上流側に位置して案内流路8に空気を案内する流路である。本実施形態では、上流側案内流路9は、熱交換器13とケース10内の内側面(本実施形態では、側板10bの内面に設けられた断熱材18の内側面)との隙間によって構成されているが、これに限られない。
【0037】
案内流路8は、吹出流路5よりも気流方向の上流側に位置して吹出流路5に空気を案内する流路である。本実施形態では、案内流路8は、ドレンパン14の第2側壁142の側壁面と、第3側壁143の側壁面との隙間によって構成されているが、これに限られない。案内流路8は、ドレンパン14とは別に設けられた他の部材によって形成されていてもよい。
【0038】
吹出流路5は、互いに間隔をあけて対向する外側壁面51(第1壁面51)及び内側壁面52(第2壁面52)によって形成されている。吹出流路5は、水平方向に長い形状を有する。外側壁面51の下端には、室内に露出する外枠部31の下面33が接続されている。内側壁面52の下端には、室内に露出する内枠部32の下面34が接続されている。
【0039】
吹出流路5についてより具体的に説明すると次のようになる。図2に示すように、外枠部31と内枠部32とは、各吹出流路5を介して水平方向に間隔をあけて設けられている。また、外枠部31と内枠部32とは、各吹出流路5の長手方向の両端部においては連続している。すなわち、外枠部31及び内枠部32を含む枠部材には、各吹出流路5に対応する部位に上下方向に貫通する貫通孔が設けられている。この貫通孔は、外枠部31と、内枠部32と、これらをつなぐ一対の端壁(図示省略)とによって形成されている。これらの端壁は、吹出流路5の長手方向に互いに対向する位置に間隔をあけて設けられている。
【0040】
したがって、各吹出流路5は、外枠部31の外側壁面51(内枠部32側に向いた側壁面)と、内枠部32の内側壁面52(外枠部31側に向いた側壁面)と、長手方向一方側の端壁の側壁面と、長手方向他方側の端壁の側壁面とによって形成されている。すなわち、各吹出流路5は、下面パネル3に設けられている流路である。
【0041】
<第1実施形態の特徴>
第1実施形態に係る室内機1では、吹出流路5は次のような特徴を備える。図4(A)は、本発明の第1実施形態に係る天井設置型室内機の吹出流路を示す断面図であり、図4(B)は、吹出流路に設けられた水保持部材を説明するための断面図である。
【0042】
吹出流路5を形成する外側壁面51は、空気を下方に案内する案内面53と、案内面53と下面33の間に介在する剥離誘発面54とを備える。剥離誘発面54は、外側壁面51において気流の剥離が生じる高さ方向の位置P(剥離ポイントP)を吹出流路5の長手方向において揃える機能を有する。剥離ポイントPは、例えば、後述する図5(A),(B)などに示される位置であるが、これらの図例に限られない。
【0043】
第1実施形態では、剥離誘発面54が外側壁面51における気流の剥離を誘発するので、外側壁面51において気流の剥離が生じる高さ方向の位置Pを吹出流路5の長手方向において揃えることができる。このように剥離ポイントPを吹出流路5の長手方向において揃えることができれば、結露が生じる場所を下面パネルの下面33ではなく、吹出流路5内に設定するができる。
【0044】
そして、吹出流路5内に結露場所を設定することができれば、図4(B)に示すように、植毛テープなどの水保持部材61(結露対策部材61)を、室内のユーザーからは見えにくい吹出流路5内に配置することができる。水保持部材61は、例えば吹出流路5の長手方向に沿って帯状に配置されている。図4(B)に示す第1実施形態では、水保持部材61は、剥離誘発面54に取り付けられている。また、図4(B)では、水保持部材61は、変曲部54aを覆うように配置されているが、これに限られない。また、図4(B)では、水保持部材61は、変曲部54aを覆い、水保持部材61の上端部が剥離ポイントPの近傍に位置するように配置されているが、これに限られない。なお、水保持部材61は、剥離ポイントPを含む範囲に設けられていてもよい。
【0045】
これに対し、図4(C)に示す参考例に係る天井設置型室内機では、外側壁面151全体は、内枠部132の内側壁面152側に凸の凸曲面からなる。したがって、外側壁面151において気流の剥離が生じる剥離ポイントは、吹出流路105の長手方向の位置によって上下方向の位置のばらつきが大きく、また、長手方向の同じ位置においても上下方向の位置が変動する。そして、剥離ポイントが外側壁面151の下端付近、すなわち吹出口106の近傍である場合には、外側壁面151の下端につながる下面パネル103の外枠部131の下面133などにおいて結露Wが生じる。
【0046】
以下、第1実施形態における吹出流路5の形状について具体的に説明する。図4(A)に示すように、剥離誘発面54は、吹出口6から遠ざかる方向に凹む凹曲面により構成されている。この凹曲面はフラップ22側の斜め下方に向いている。剥離誘発面54は、吹出流路5の長手方向において図4(A)に示すような同じ断面形状を有する。
【0047】
第1実施形態では、剥離誘発面54は、その全体が凹曲面である。剥離誘発面54の両端部を結ぶ線分よりも吹出口6から遠ざかる側(図4(A)では右斜め上方側)に、剥離誘発面54の全体が位置している。剥離誘発面54の両端のうちの一端は、剥離誘発面54と案内面53との境界部(変曲部54a)であり、前記両端のうちの他端は、剥離誘発面54と下面33との境界部54bである。このように本実施形態では、剥離誘発面54の全体が前記線分よりも吹出口6から遠ざかる側に位置していることによって、剥離誘発面54によって形成される凹み空間を大きくすることができるとともに、前記凹み空間をできるだけ上方に位置させることができる。これにより、凹み空間において生じる渦流Sを上方に位置させることができ、結露ポイントを上方に位置させることができる。
【0048】
案内面53は、第2壁面52側に凸の凸曲面により構成されているが、これに限られず、平面などによって構成されていてもよい。本実施形態における案内面53には、角張った部位がなく、全体が滑らかに湾曲している。また、本実施形態では、案内面53及び剥離誘発面54は、全体として滑らかに湾曲する湾曲面を構成している。
【0049】
案内面53と剥離誘発面54との接続部分は、案内面53と剥離誘発面54の湾曲する方向が変わる変曲部(変曲面)54aである。図4(A)に示す断面図で見たときには、案内面53及び剥離誘発面54は曲線で表されるので、変曲部54aは、断面図上では変曲点となる。
【0050】
図5(A),(B)は、第1実施形態に係る室内機1の吹出流路5における空気の流れのシミュレーション結果を示す図である。図5(A)は、吹出流路の長手方向の端部における空気の流れを示し、(B)は、吹出流路の長手方向の中央部における空気の流れを示している。図6(A),(B)は、第1実施形態に係る室内機1の吹出流路5における空気の温度分布のシミュレーション結果を示す図である。図6(A)は、吹出流路5の長手方向の端部における空気の温度分布を示し、図6(B)は、吹出流路5の長手方向の中央部における空気の温度分布を示している。
【0051】
図5(A),(B)に示すように、第1実施形態では、吹出流路5を下方に流れる空気は、案内面53に沿ってほとんど剥離せずに流れている一方で、変曲部54aの近傍(図5(A)では変曲部54aのわずかに上部)の剥離ポイントPにおいて剥離している。そして、剥離ポイントPよりも下流側の空間であって、主に剥離誘発面54(凹曲面54)近傍の凹み空間において渦流Sが生じている。
【0052】
このような気流の傾向は、図5(A)に示す吹出流路5の長手方向の端部と、図5(B)に示す吹出流路5の長手方向の中央部とにおいて、ほぼ同様である。すなわち、剥離誘発面54が外側壁面51における気流の剥離を誘発することによって、外側壁面51において気流の剥離が生じる高さ方向の位置P(剥離ポイントP)が吹出流路5の長手方向において揃えられている。図6(A),(B)に示す空気の温度分布のシミュレーション結果にも図5(A),(B)について説明した上記の傾向が現れている。
【0053】
これに対し、図7(A),(B)に示す参考例に係る室内機では、図7(A)に示す吹出流路105の長手方向の端部における気流の傾向と、図7(B)に示す吹出流路105の長手方向の中央部における気流の傾向は、大きく異なっている。すなわち、参考例の外側壁面151では、気流の剥離が生じる高さ方向の位置P1(剥離ポイントP1)が端部と中央部とで高さ方向に大きな差が生じている。これに伴って、吹出口の近傍に生じている渦流S1の大きさや範囲にも大きな差が生じている。図8(A),(B)に示す空気の温度分布のシミュレーション結果にも図7(A),(B)について説明した上記の傾向が現れている。
【0054】
図9(A)は、第1実施形態に係る室内機1の吹出流路5及びその近傍の温度分布のシミュレーション結果を示す図であり、図9(B)は、参考例に係る室内機の吹出流路105及びその近傍の温度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【0055】
図9(A)に示すように、第1実施形態では、吹出口6から吹き出される空気の温度は、特にフラップ22の温度分布からわかるように、吹出流路5の長手方向Dにおいてほぼ同程度であることがわかる。これは、図5(A),(B)及び図6(A),(B)のデータに基づいて説明したように、外側壁面51において気流の剥離が生じる高さ方向の位置P(剥離ポイントP)が吹出流路5の長手方向Dにおいて揃えられているからである。また、第1実施形態では、剥離ポイントPは、参考例に比べて吹出流路5の気流方向上流側(上方側)に移動している。第1実施形態では、フラップ22の温度分布からわかるように、冷気と逆流した暖気の接触ポイントが吹出流路5の長手方向においてほぼ一定の位置となっている。
【0056】
これに対し、図9(B)に示す参考例では、吹出口6から吹き出される空気の温度は、吹出流路5の長手方向Dにおいて大きくばらついていることがわかる。これは、参考例の外側壁面151では、気流の剥離が生じる高さ方向の位置P1(剥離ポイントP1)が端部と中央部とで高さ方向に大きな差が生じているからである。図9(B)に示すように、参考例では、フラップ22の温度分布がまだらであることからわかるように、冷気と逆流した暖気との接触ポイントが第1実施形態に比べておおきくばらついている。
【0057】
第1実施形態と参考例は、外側壁面の全体が滑らかに湾曲する湾曲面である点で共通している。このように外側壁面の全体が滑らかな湾曲面であることを前提にした場合、剥離ポイントPを吹出流路5の長手方向Dにおいて揃えるためには、第1実施形態のように凸曲面である案内面53と凹曲面である剥離誘発面54とを変曲部54aを介して接続する構成が有効である。
【0058】
すなわち、第1実施形態では、凸曲面と凹曲面とを変曲部54aにおいて接続する構成を採用することにより、案内面53の下部(変曲部54aよりも少し上方の部位)において局所的に凸曲面の曲率半径を小さくすることができる。このように案内面53における剥離ポイントP付近の曲率半径は、参考例の外側壁面151における同程度の高さ位置の部位の曲率半径に比べて小さくなる。このように曲率半径を小さくした点の付近が剥離ポイントPとなる。以上のような理由から、第1実施形態では、剥離ポイントPは、変曲部54aよりも少し上方に位置している。
【0059】
なお、図5(A),(B)に示す第1実施形態では、吹出流路5を流れる空気の最大風速が、参考例に比べて増加している。
【0060】
<第2実施形態の特徴>
図10(A),(B)は、第2実施形態に係る室内機1の吹出流路5における空気の流れのシミュレーション結果を示す図である。図10(A)は、吹出流路5の長手方向の端部における空気の流れを示し、図10(B)は、吹出流路5の長手方向の中央部における空気の流れを示している。
【0061】
図10(A)に示すように、第2実施形態の室内機1は、外側壁面51の形状が第1実施形態と異なっており、他の構成については第1実施形態と同様である。したがって、以下では、第1実施形態との相違点について主に説明する。
【0062】
第2実施形態では、外側壁面51の剥離誘発面54は、吹出口6から遠ざかる方向に凹む凹面により構成されている。図10(A)に示す第2実施形態では、剥離誘発面54は、折れ曲がり部543と、折れ曲がり部543の端部と下面33とを接続する接続部544とを有する。折れ曲がり部543は、案内面53と剥離誘発面54との接続部分を角形状とするために設けられている。折れ曲がり部543は、吹出口6から遠ざかる方向に延びる平面又は湾曲面である。本実施形態では、折れ曲がり部543は平面である。接続部544は、本実施形態では断面がS字形状の湾曲面であるが、これに限られない。
【0063】
案内面53と剥離誘発面54との接続部分において、案内面53と剥離誘発面54とのなす角度θ(案内面53の下端部と折れ曲がり部543とのなす角度θ)は、鋭角である。角度θの範囲は、鋭角であればよく、特に限定されるものではない。
【0064】
第2実施形態では、剥離誘発面54の全体が、剥離誘発面54の両端部を結ぶ線分よりも吹出口6から遠ざかる側(図10(A)では右斜め上方側)に位置している。剥離誘発面54の両端のうちの一端は、剥離誘発面54と案内面53との境界部(本実施形態では剥離ポイントP)であり、前記両端のうちの他端は、剥離誘発面54と下面33との境界部54bである。このように本実施形態では、剥離誘発面54の全体が前記線分よりも吹出口6から遠ざかる側に位置していることによって、剥離誘発面54によって形成される凹み空間を大きくすることができるとともに、前記凹み空間をできるだけ上方に位置させることができる。これにより、凹み空間において生じる渦流Sを上方に位置させることができ、結露ポイントを上方に位置させることができる。
【0065】
図10(A),(B)に示す第2実施形態では、案内面53は平面を含む。案内面53の平面は、本実施形態では、鉛直面であるが、これに限られず、鉛直方向に対して傾斜していてもよい。案内面53の平面の下端は、剥離誘発面54に接続されている。本実施形態における案内面53には角張った部位がないので、案内面53における気流の剥離が抑制される。
【0066】
図10(A),(B)に示すように、第2実施形態では、吹出流路5を下方に流れる空気は、案内面53に沿ってほとんど剥離せずに流れる一方で、案内面53と剥離誘発面54との接続部分である剥離ポイントPにおいて剥離している。そして、剥離ポイントPよりも下流側の空間であって、主に剥離誘発面54(凹面54)近傍の凹み空間において渦流Sが生じている。
【0067】
このような気流の傾向は、図10(A)に示す吹出流路5の長手方向の端部と、図10(B)に示す吹出流路5の長手方向の中央部とにおいて、ほぼ同様である。すなわち、剥離誘発面54が外側壁面51における気流の剥離を誘発することによって、外側壁面51において剥離ポイントPが吹出流路5の長手方向において揃えられている。
【0068】
なお、図10(A),(B)に示す第2実施形態では、吹出流路5を流れる空気の最大風速が、参考例に比べて増加している。
【0069】
<第3実施形態の特徴>
図11(A),(B)は、第3実施形態に係る室内機1の吹出流路5における空気の流れのシミュレーション結果を示す図である。図11(A)は、吹出流路5の長手方向の端部における空気の流れを示し、図11(B)は、吹出流路5の長手方向の中央部における空気の流れを示している。
【0070】
図11(A)に示すように、第3実施形態の室内機1は、外側壁面51の形状が第1実施形態と異なっており、他の構成については第1実施形態と同様である。したがって、以下では、第1実施形態との相違点について主に説明する。
【0071】
第3実施形態では、外側壁面51の剥離誘発面54は、吹出口6から遠ざかる方向に凹む凹面により構成されている。具体的に、剥離誘発面54は、第1平面541と、第2平面542とによって構成されている。第1平面541は、案内面53の下端部に接続され、内側壁面52から遠ざかる方向に延びている。第2平面542は、その上端部が第1平面541の端部に接続され、下面33に向かって延びている。図11(A)に示す第2実施形態では、案内面53は、内側壁面52側に凸の凸曲面を含む。本実施形態における案内面53には角張った部位がないので、案内面53における気流の剥離が抑制される。
【0072】
図11(A),(B)に示す第3実施形態では、第1平面541は水平面であり、第2平面542は吹出流路5の長手方向Dに平行な鉛直面であるが、これに限られない。第1平面541は水平方向に対して傾斜していてもよく、第2平面542は鉛直面に対して傾斜していてもよい。
【0073】
第3実施形態では、剥離誘発面54の全体が、剥離誘発面54の両端部を結ぶ線分よりも吹出口6から遠ざかる側(図11(A)では右斜め上方側)に位置している。剥離誘発面54の両端のうちの一端は、剥離誘発面54と案内面53との境界部(本実施形態では剥離ポイントP)であり、前記両端のうちの他端は、剥離誘発面54と下面33との境界部54bである。このように本実施形態では、剥離誘発面54の全体が前記線分よりも吹出口6から遠ざかる側に位置していることによって、剥離誘発面54によって形成される凹み空間を大きくすることができるとともに、前記凹み空間をできるだけ上方に位置させることができる。これにより、凹み空間において生じる渦流Sを上方に位置させることができ、結露ポイントを上方に位置させることができる。
【0074】
図11(A),(B)に示すように、第3実施形態では、吹出流路5を下方に流れる空気は、案内面53に沿ってほとんど剥離せずに流れる一方で、案内面53と剥離誘発面54との接続部分である剥離ポイントPにおいて剥離している。そして、剥離ポイントPよりも下流側の空間であって、主に剥離誘発面54(第1平面541と第2平面542によって構成される凹面54)近傍の凹み空間において渦流Sが生じている。
【0075】
このような気流の傾向は、図11(A)に示す吹出流路5の長手方向の端部と、図11(B)に示す吹出流路5の長手方向の中央部とにおいて、ほぼ同様である。すなわち、剥離誘発面54が外側壁面51における気流の剥離を誘発することによって、外側壁面51において剥離ポイントPが吹出流路5の長手方向において揃えられている。
【0076】
なお、図11(A),(B)に示す第3実施形態では、吹出流路5を流れる空気の最大風速が、参考例に比べて増加している。
【0077】
<実施形態のまとめ>
以上説明したように、第1?第3実施形態では、凹状の剥離誘発面54が第1壁面51における気流の剥離を誘発するので、第1壁面51において気流の剥離が生じる高さ方向の位置(剥離ポイント)を吹出流路5の長手方向において揃えることができる。このように剥離ポイントを吹出流路5の長手方向において揃えることができれば、結露が生じる場所を下面パネルの下面33ではなく、吹出流路5内に設定することも可能になる。そして、吹出流路5内に結露場所を設定することができれば、植毛テープなどの水保持部材(結露対策部材)を、室内のユーザーからは見えにくい吹出流路5内に配置することができる。これにより、デザイン性を損なうことなく結露対策を施すことができる。
【0078】
また、第1?第3実施形態では、前記剥離誘発面54は、前記吹出口6から遠ざかる方向に凹む凹面により構成されている。剥離誘発面54によって第1壁面51における気流の剥離が誘発されると、剥離誘発面54の近傍においては渦流が生じる。そして、この構成では、剥離誘発面54が吹出口6から遠ざかる方向に凹む凹面であるので、この凹面によって形成される凹み空間が渦流の生じる空間として機能する。したがって、渦流の生じる空間を吹出流路5の長手方向において前記凹み空間に揃えることができる。すなわち、渦流によって室内の暖気が凹み空間に流れ込むので、結露場所を吹出流路5の長手方向において揃えることができる。
【0079】
また、第1?第3実施形態では、前記案内面53は、前記第2壁面52側に凸の凸曲面又は平面により構成されている。
【0080】
この構成では、案内面53が上記のような凸曲面又は平面である場合には、気流は、案内面53に沿って流れやすい。したがって、剥離誘発面54によって誘発される剥離ポイントに至るまでの気流は、剥離せずに案内面53に沿って流れやすくなるので、剥離ポイントが吹出流路5の長手方向においてさらに揃いやすくなる。
【0081】
また、第2実施形態では、前記案内面53と前記剥離誘発面54との接続部分において、前記案内面53と前記剥離誘発面54とのなす角度θが鋭角である。この場合には、鋭角の接続部分に剥離ポイントPを位置させることができる。
【0082】
また、第1実施形態では、前記剥離誘発面54は、前記吹出口6から遠ざかる方向に凹む凹曲面を含み、前記案内面53と前記剥離誘発面54との接続部分は、前記案内面53と前記剥離誘発面54の湾曲する方向が変わる変曲部54aである。この場合には、変曲部54a又はその近傍に剥離ポイントを位置させることができる。
【0083】
また、第3実施形態では、前記剥離誘発面54は、前記案内面53の下端部に接続され、前記第2壁面52から遠ざかる方向に延びる第1平面541と、上端部が前記第1平面541の端部に接続され、前記下面33に向かって延びる第2平面542とによって構成されている。この場合には、案内面53の下端部と第1平面541との接続部分に剥離ポイントを位置させることができる。また、この場合には、第1平面541と第2平面542によって比較的大きな凹み空間(渦流が生じる空間)を形成できる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。
【0085】
本発明では、例えば、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態のうちの2つ以上の実施形態の特徴を組み合わせて採用することもできる。
【0086】
また、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態では、凹面の数が1つである場合を例示したが、2つ以上の凹面が組み合わされた形態であってもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 天井設置型室内機
2 室内機本体
3 下面パネル
5 吹出流路
6 吹出口
7 吸込口
8 案内流路
9 上流側案内流路
10 ケース
31 外枠部
32 内枠部
33 下面
34 下面
51 壁面
52 壁面
54 剥離誘発面
54a 変曲部
55 凹曲面
541 第1平面
542 第2平面
θ 角度
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機において、
互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、
前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備え、
前記第1壁面(51)は、
空気を下方に案内する案内面(53)と、
前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備え、
前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備え、
前記剥離誘発面(54)は、前記案内面(53)との境界部である一端と、前記下面(33)との境界部である他端と、を有し、
前記剥離誘発面(54)は、前記一端と前記他端とを結ぶ線分よりも前記吹出口(6)から遠ざかる側に全体が位置している天井設置型室内機。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
前記案内面(53)は、平面又は前記第2壁面(52)側に凸の凸曲面により構成されている、請求項1に記載の天井設置型室内機。
【請求項4】
空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機において、
互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、
前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備え、
前記第1壁面(51)は、
空気を下方に案内する案内面(53)と、
前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備え、
前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備え、
前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分において、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)とのなす角度(θ)が鋭角である、天井設置型室内機。
【請求項5】
空気を吹き出す吹出口(6)が下部に設けられた天井設置型室内機において、
互いに間隔をあけて対向し、水平方向に長い吹出流路(5)を形成する第1壁面(51)及び第2壁面(52)と、
前記第1壁面(51)の下端に接続され、室内に露出する下面(33)と、を備え、
前記第1壁面(51)は、
空気を下方に案内する案内面(53)と、
前記案内面(53)と前記下面(33)の間に介在し、前記第1壁面(51)において気流の剥離が生じる高さ方向の位置を前記吹出流路(5)の長手方向において揃える凹状の剥離誘発面(54)と、を備え、
前記吹出流路(5)内に配置され、前記剥離誘発面(54)に取り付けられた水保持部材(61)をさらに備え、
前記剥離誘発面(54)は、前記吹出口(6)から遠ざかる方向に凹む凹曲面(55)を含み、
前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)との接続部分は、前記案内面(53)と前記剥離誘発面(54)の湾曲する方向が変わる変曲部(54a)である、天井設置型室内機。
【請求項6】
前記剥離誘発面(54)は、
前記案内面(53)の下端部に接続され、前記第2壁面(52)から遠ざかる方向に延びる第1平面(541)と、
上端部が前記第1平面(541)の端部に接続され、前記下面(33)に向かって延びる第2平面(542)と、を含む、請求項1又は3に記載の天井設置型室内機。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-25 
出願番号 特願2012-287441(P2012-287441)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (F24F)
P 1 652・ 121- YAA (F24F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 一正  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 結城 健太郎
佐々木 正章
登録日 2015-08-07 
登録番号 特許第5786849号(P5786849)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 天井設置型室内機  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 玉串 幸久  
代理人 玉串 幸久  
代理人 小谷 昌崇  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ