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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 B41N 審判 一部申し立て 2項進歩性 B41N 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B41N |
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管理番号 | 1325863 |
異議申立番号 | 異議2016-700371 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-04-27 |
確定日 | 2017-01-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5805149号発明「平版印刷方法および湿し水濃縮組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5805149号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 特許第5805149号の請求項1、3、6、7に係る特許を維持する。 特許第5805149号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5805149号の請求項1乃至8に係る特許についての出願は,平成25年7月10日(優先権主張 平成24年7月17日)に特許出願され,平成27年9月11日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許について,特許異議申立人サカタインクス株式会社により特許異議の申立てがされ,平成28年6月16日付けで取消理由が通知され,その指定期間内である平成28年9月7日に意見書の提出及び訂正の請求があり,その訂正の請求に対して特許異議申立人サカタインクス株式会社から平成28年10月17日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 請求の趣旨及び訂正の内容 平成28年9月7日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は,本件特許5805149号(以下「本件特許」という。)の願書に添付した特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものである。 そして,その訂正内容は,以下のとおりである。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 2 当審の判断 ア 訂正事項1について 訂正事項1は,訂正前の請求項8を削除するものであるから,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして,訂正事項の実質的な内容は請求項の削除であるから,願書に添付した明細書又は図面に記載された事項に基づいたものであって,願書に添付した明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではなく,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであって,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 また,訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもなく,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。 3 一群の請求項等について 訂正前の請求項1?8は,特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 また、訂正後の請求項1?8は、一群の請求項である。 4 小括 以上のとおりであるから,本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項,及び,同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので,訂正後の請求項8について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1,3,6,7係る発明(以下「本件特許発明1」,「本件特許発明3」,「本件特許発明6」,「本件特許発明7」,という。)は,その特許請求の範囲の請求項1,3,6,7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 本件特許発明1 「平版印刷方法に用いる湿し水濃縮組成物であって, 酸,塩類および水溶性有機溶媒を含有し, 前記酸が有機酸および/または無機酸であり, 前記塩類が有機酸の塩および/または無機酸の塩であり, 前記水溶性有機溶媒がグリコール類,グリコール類のモノアルキルエーテル,およびアルコール類から選択される一種または二種以上を含み, 前記水溶性有機溶媒の含有量が10重量%以上であり, 当該湿し水濃縮組成物を水により重量で100倍希釈した水溶液のpHが3?5で,その水溶液200mlに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下していったとき,pH8になるまでの滴下量が7ml以上であることを特徴とする湿し水濃縮組成物。」 本件特許発明3 「前記酸が,リン酸,クエン酸,グルコン酸,リンゴ酸,コハク酸およびマレイン酸から選ばれた少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の湿し水濃縮組成物。」 本件特許発明6 「請求項1から5のいずれかに記載の湿し水濃縮組成物を水により重量で25倍?200倍に希釈したことを特徴とする湿し水。」 本件特許発明7 「請求項6に記載の湿し水を用いて印刷する工程を含む平版印刷方法。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1,3,6,7,8に係る特許に対して平成28年6月16日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は,次のとおりである。 ア 請求項1,3,6,7,8に係る発明は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり,請求項1,3,6,7,8に係る特許は,取り消されるべきものである。 イ 請求項1,3,6,7,8に係る発明は,刊行物1及び3に記載された発明に基づき,容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,請求項1,3,6,7,8に係る特許は,取り消されるべきものである。 ウ 請求項8に係る発明は,請求項8の記載に記載不備があるから,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,取り消されるべきものである。 3 刊行物の記載 刊行物1:特開2012-11715号公報(異議申立書における甲第1号証) ア 「【0007】 本発明の目的は,上記従来の湿し水が持つ毒性や欠点がなく,印刷作業にあたって,専門的熟練を必要とすることなく,あらゆる機構の印刷機において,イソプロピルアルコールを完全に代替することのできる平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はさらに,特にアルミニウム板を電気化学的に粗面化し陽極酸化した支持体を用いた印刷版の汚れ,ブラインディング及び水負けといった印刷時の問題点の発生を抑制し,安定した連続印刷を可能とし,安全衛生上及び消防安全上の問題がなく,高品質の印刷物を得ることができる平版印刷用の湿し水組成物を提供することにある。本発明の目的はまた,従来の現像処理を施した平版印刷版を使用する平版印刷法においても,機上現像を採用する製版及び印刷方法においても,好適に使用することができる,平版印刷用湿し水組成物を提供することである。 本発明の目的は特に,親水性化合物を含む酸素遮断性保護層が設けられた光重合型平版印刷版原版から製版する平版印刷版による平版印刷において,画像部へのインキ着肉性が良好でインキ濃度の高い印刷物を得ることができる,平版印刷用湿し水組成物を提供することである。 本発明の目的はまた,湿し水が印刷機及びその部品に付着したとしても,錆の発生が抑制される,平版印刷用湿し水組成物を提供することである。」 イ 「【0028】 本発明の湿し水組成物の成分として残余は,水である。 従って,上述の各種成分の湿し水における含有量や湿し水組成物の希釈率などを考慮して,水,好ましくは脱塩水,即ち,純水を使用して各種成分を適宜な濃度で溶解し,濃縮液である湿し水組成物を得ることができる。このような濃縮液を,使用時に通常水道水,井戸水等で10?200倍程度に希釈し,使用時の湿し水とする。」 ウ 「【実施例】 【0056】 次に本発明を実施例により更に具体的に説明する。なお,%は特に指定しない限り質量%を示す。 下記表1の組成に従って,実施例1?4及び比較例1及び2の各種湿し水組成物を調製した。表中,単位はグラムであり,水を加えて最終的に1000mLとした。これらはいずれも濃縮タイプで,使用時に希釈する。 上記のように調液した実施例1?4及び比較例1及び2の組成物を各々,硬度400ppmの疑似硬水を用いて40倍に希釈し,pHが4.8?5.3付近となるようにKOHまたはアンモニア水にて調整して,実際に使用する湿し水とした。 また,硬度400ppmの疑似硬水にイソプロピルアルコール8%と富士写真フイルム(株)製湿し水「EU-3」1%を加え,使用液として比較例3を作成した。」 エ 段落【0057】の【表1】には,実施例1及び4として以下のとおりの組成が記載されている。 実施例1:プロピレングリコールモノブチルエーテル250g,プロピレングリコール250g,硝酸アンモニウム10g,クエン酸2.2g,マレイン酸20g,プルロニックL315g,イミダゾール5g,グリセリン10g,ベンゾトリアゾール0.1g,イソチアゾリン系防腐剤10g,KOH,純水 実施例4:プロピレングリコールモノブチルエーテル200g,エチレングリコール-t-ブチル200g,プロピレングリコール100g,硝酸アンモニウム10g,クエン酸2.2g,マレイン酸20g,メチルセルロース5g,イミダゾール5g,グリセリン10g,イソチアゾリン系防腐剤10g,アンモニア水,純水 以上の記載によれば,刊行物1には以下の発明(以下,実施例1によるものを「刊行物1-1発明」,実施例4によるものを「刊行物1-4発明」という。)が記載されていると認められる。 刊行物1-1発明 「『プロピレングリコールモノブチルエーテル250g,プロピレングリコール250g,硝酸アンモニウム10g,クエン酸2.2g,マレイン酸20g,プルロニックL315g,イミダゾール5g,グリセリン10g,ベンゾトリアゾール0.1g,イソチアゾリン系防腐剤10g,KOH』に純水を加えて,最終的に1000mlとした,平版印刷用の濃縮液である湿し水組成物。」 刊行物1-4発明 「『プロピレングリコールモノブチルエーテル200g,エチレングリコール-t-ブチル200g,プロピレングリコール100g,硝酸アンモニウム10g,クエン酸2.2g,マレイン酸20g,メチルセルロース5g,イミダゾール5g,グリセリン10g,イソチアゾリン系防腐剤10g,アンモニア水』に純水を加えて,最終的に1000mlとした,平版印刷用の濃縮液である湿し水組成物。」 刊行物3:特開2004-230840号公報(異議申立書における甲第3号証) ア 「【0011】 本発明者は上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果,以下の平版印刷版用湿し水組成物を用いることで上記目的が容易に解決できることを見い出し本発明に到達したものである。即ち本発明は,水溶性高分子を含有する平版印刷用湿し水組成物において,該水溶性高分子が一般式(I)及びまたは(II)で表される単位構造を有することを特徴とする平版印刷用湿し水組成物である。」 イ 「【0024】 本発明の湿し水には有機酸,無機酸及びそれらの塩が使用できる。これらは湿し水のpH緩衝剤として作用すると共に,インキの中から溶け出してくる脂肪酸などが非画像部に付着して感脂性となるのを防ぎ,版面を適度にエッチングする効果が見られる。具体的な有機酸としては,クエン酸,アスコルビン酸,リンゴ酸,酒石酸,ぎ酸,プロピオン酸,コハク酸,グルタル酸,マレイン酸,フマル酸,マロン酸,乳酸,酢酸,グルコン酸,蓚酸,有機ホスホン酸などが挙げられる。無機酸としては,リン酸,硝酸,硫酸,ポリリン酸などが挙げられ,これらはアルカリ金属塩,アンモニウム塩などとして良好に用いられる。更に,これらの効果を高めるために有機アミン類を加えることも望ましい。」 以上の記載によれば,刊行物3には以下の発明(以下「刊行物3発明」という。)が記載されていると認められる。 「湿し水のpH緩衝剤として作用すると共に,インキの中から溶け出してくる脂肪酸などが非画像部に付着して感脂性となるのを防ぎ,版面を適度にエッチングする効果が見られる有機酸,無機酸及びそれらの塩が使用できる湿し水であって,具体的な有機酸としては,クエン酸,アスコルビン酸,リンゴ酸,酒石酸,ぎ酸,プロピオン酸,コハク酸,グルタル酸,マレイン酸,フマル酸,マロン酸,乳酸,酢酸,グルコン酸,蓚酸,有機ホスホン酸などが挙げられ,無機酸としては,リン酸,硝酸,硫酸,ポリリン酸などが挙げられる平版印刷用湿し水組成物。」 4 判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由について (ア)特許法第29条第1項第3号について 本件特許発明1と刊行物1-1発明とを対比する。 後者の「クエン酸」及び「マレイン酸」は,前者の「有機酸および/または無機酸である酸」に, 後者の「硝酸アンモニウム」は,前者の「有機酸の塩および/または無機酸の塩である塩類」に, 後者の「プロピレングリコールモノブチルエーテル」及び「プロピレングリコール」は,前者の「グリコール類,グリコール類のモノアルキルエーテル,およびアルコール類から選択される一種または二種以上を含む水溶性有機溶媒」に相当する。 後者の「湿し水組成物」は,平版印刷用の濃縮液であるから,前者の「平版印刷方法に用いる湿し水濃縮組成物」に相当する。 また,後者の水溶性有機溶媒は「プロピレングリコールモノブチルエーテル250g」,「プロピレングリコール250g」であって、総量は「500g」であり,これは全量を「1000ml」としたときの含有量であるから,常識的に考えて,前者の「水溶性有機溶媒の含有量が10重量%以上」に相当するといえる。 以上のことより,両者は, 〈一致点〉 「平版印刷方法に用いる湿し水濃縮組成物であって, 酸,塩類および水溶性有機溶媒を含有し, 前記酸が有機酸および/または無機酸であり, 前記塩類が有機酸の塩および/または無機酸の塩であり, 前記水溶性有機溶媒がグリコール類,グリコール類のモノアルキルエーテル,およびアルコール類から選択される一種または二種以上を含み, 前記水溶性有機溶媒の含有量が10重量%以上である湿し水濃縮組成物。」 である点で一致し,以下の点で相違している。 <相違点1> 本件特許発明1の湿し水濃縮組成物を「水により重量で100倍希釈した水溶液のpHが3?5」であるのに対して,刊行物1発明の湿し水組成物を同じ条件で希釈した場合のpHは不明である点。 <相違点2> 本件特許発明1の湿し水濃縮組成物を「水により重量で100倍希釈した水溶液200mlに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下していったとき,pH8になるまでの滴下量が7ml以上である」であるのに対して,刊行物1発明の湿し水組成物を同じ条件で希釈した水溶液200mlに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下していったとき,pH8になるまでの滴下量は不明である点。 本件特許発明1と刊行物1-4発明とを対比する。 後者の「クエン酸」及び「マレイン酸」は,前者の「有機酸および/または無機酸である酸」に, 後者の「硝酸アンモニウム」は,前者の「有機酸の塩および/または無機酸の塩である塩類」に, 後者の「プロピレングリコールモノブチルエーテル」、「エチレングリコール-t-ブチル」及び「プロピレングリコール」は,前者の「グリコール類,グリコール類のモノアルキルエーテル,およびアルコール類から選択される一種または二種以上を含む水溶性有機溶媒」に相当する。 後者の「湿し水組成物」は,平版印刷用の濃縮液であるから,前者の「平版印刷方法に用いる湿し水濃縮組成物」に相当する。 また,後者の水溶性有機溶媒は「プロピレングリコールモノブチルエーテル200g」,「エチレングリコール-t-ブチル200g」,「プロピレングリコール100g」であって、総量は「500g」であり,これは全量を「1000ml」としたときの含有量であるから,常識的に考えて,前者の「水溶性有機溶媒の含有量が10重量%以上」に相当するといえる。 以上のことより,両者は, 〈一致点〉 「平版印刷方法に用いる湿し水濃縮組成物であって, 酸,塩類および水溶性有機溶媒を含有し, 前記酸が有機酸および/または無機酸であり, 前記塩類が有機酸の塩および/または無機酸の塩であり, 前記水溶性有機溶媒がグリコール類,グリコール類のモノアルキルエーテル,およびアルコール類から選択される一種または二種以上を含み, 前記水溶性有機溶媒の含有量が10重量%以上である湿し水濃縮組成物。」 である点で一致し,以下の点で相違している。 <相違点3> 本件特許発明1の湿し水濃縮組成物を「水により重量で100倍希釈した水溶液のpHが3?5」であるのに対して,刊行物1発明の湿し水組成物を同じ条件で希釈した場合のpHは不明である点。 <相違点4> 本件特許発明1の湿し水濃縮組成物を「水により重量で100倍希釈した水溶液200mlに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下していったとき,pH8になるまでの滴下量が7ml以上である」であるのに対して,刊行物1発明の湿し水組成物を同じ条件で希釈した水溶液200mlに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下していったとき,pH8になるまでの滴下量は不明である点。 上記相違点について検討する。 甲第2号証は,異議申立人が提出した実験成績証明書であって,異議申立人であるサカタインクス株式会社の研究開発本部,第一研究部に所属する「池田浩之」が,平成27年11月18日?平成28年3月28日にかけて,サカタインクス株式会社東京場内で行った実験に係るものである。 「2. 実験方法」によれば,実験方法の概要は,以下のとおりである。 刊行物1(甲第1号証)である特開2012-11715号公報の表1に記載された実施例1及び実施例4に係る濃縮湿し水を調整し,調整されたそれぞれの濃縮湿し水を100倍希釈してpHを測定し,その希釈した水溶液200mlに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下していき,pH8になるまでの滴下量を調べた。 「3. 実験結果」によれば,実験の結果の概要は以下のとおりである。 実施例1:濃縮湿し水を100倍希釈した水溶液のpHは3.03,pH8になるまでの滴下量は7.8ml。 実施例4:濃縮湿し水を100倍希釈した水溶液のpHは3.03,pH8になるまでの滴下量は8.0ml。 相違点1について 実施例1に係る濃縮湿し水を100倍希釈した水溶液のpHは3.03であるから,本件特許発明1の発明特定事項である「湿し水濃縮組成物を水により重量で100倍希釈した水溶液のpHが3?5」と一部重複している。 しかしながら,甲第2号証に記載された実験は,刊行物1である特開2012-11715号公報の表1に基づいて調整された濃縮湿し水組成物を用いた実験であり,その表1において,実施例1には「pH調整剤」として「KOH」が含まれている。 また,刊行物1の段落【0056】には「下記表1の組成に従って,実施例1?4及び比較例1及び2の各種湿し水組成物を調製した。」と記載されているとおりであるから,刊行物1の表1に基づいて調整した実施例1に係る濃縮湿し水組成物には,「pH調整剤」として「KOH」が含まれていなければならない。 とすれば,pH調整剤を発明特定事項として限定しない本件特許発明1に係る湿し水濃縮組成物と,pH調整剤を含む刊行物1の実施例1に係る濃縮湿し水組成物とは,そもそも異なるものであり、「100倍希釈した水溶液のpH」の値にかかわらず、同一のものであるとはいえない。 相違点2について 相違点1で検討したように,本件特許発明1に係る湿し水濃縮組成物と,刊行物1の実施例1に係る濃縮湿し水とは異なるものであるから,両者が「湿し水濃縮組成物を水により重量で100倍希釈した水溶液200mlに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下していったとき,pH8になるまでの滴下量が7ml以上である」点で共通していたとしても,そのことをもって,本件特許発明1に係る湿し水濃縮組成物と,刊行物1の実施例1に係る濃縮湿し水組成物が同一であることにはならない。 相違点3及び相違点4は,実質的に,相違点1及び相違点2と同じであるから,「相違点1及び2について」で検討した理由と同じ理由で,本件特許発明1に係る湿し水濃縮組成物と,刊行物1の実施例4に係る濃縮湿し水組成物が同一であるとはいえない。 上記のとおり,本件特許発明1に係る湿し水濃縮組成物と,刊行物1-1発明及び刊行物1-4発明に係る濃縮湿し水組成物間には相違点が存在するため,本件特許発明1と刊行物1-1発明及び刊行物1-4発明が同一であるとすることはできない。 また,本件特許発明3,6,7は,本件特許発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから,本件特許発明3,6,7も同様の理由により,刊行物1-1発明及び刊行物1-4発明と同一であるとすることはできない。 (イ)特許法第29条第2項について 本件特許発明1と刊行物1-1発明及び刊行物1-4発明とを比較すると,上記(ア)で述べたとおり,相違点1?4が存在しており,この相違点1?4について検討する。 上述のとおり、刊行物1-1発明に係る濃縮湿し水組成物にはpH調整剤であるKOHが,刊行物1-4発明に係る濃縮湿し水組成物にはpH調整剤であるアンモニア水が含まれている。 しかしながら、刊行物1-1発明及び刊行物1-4発明に係る濃縮湿し水組成物を調整するにあたり、pH調整剤を除くことについて,刊行物1には何らの記載も示唆もない。 また,pH調整剤を除いて濃縮湿し水組成物を調整することが,当業者にとって通常行い得る程度の技術事項であるとも認められない。 そして、刊行物3発明には、版面のエッチング性を維持するために、湿し水の酸性を維持すべく湿し水のpH緩衝性を適宜調節する平版印刷用湿し水組成物に用いられる多数の酸の種類を開示しているにすぎない。 とすれば,本件特許発明1は,甲第2号証に記載された実験結果を踏まえても,刊行物1-1発明及び刊行物1-4発明と刊行物3発明から,当業者が容易に想到し得たものではない。 また,本件特許発明3,6,7は,本件特許発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから,本件特許発明3,6,7も同様の理由により,刊行物1-1発明及び刊行物1-4発明と刊行物3発明から,当業者が容易に想到し得たものではない。 (ウ)特許法第36条第2項について 請求項8に係る特許は,平成28年9月7日付け訂正請求によって削除されたため,取消理由については,解消された。 第4.むすび 以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1,3,6,7に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に本件請求項1,3,6,7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 請求項8に係る特許は,訂正により削除されたため,本件特許の請求項8に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 平版印刷方法に用いる湿し水濃縮組成物であって、 酸、塩類および水溶性有機溶媒を含有し、 前記酸が有機酸および/または無機酸であり、 前記塩類が有機酸の塩および/または無機酸の塩であり、 前記水溶性有機溶媒がグリコール類、グリコール類のモノアルキルエーテル、およびアルコール類から選択される一種または二種以上を含み、 前記水溶性有機溶媒の含有量が10重量%以上であり、 当該湿し水濃縮組成物を水により重量で100倍希釈した水溶液のpHが3?5で、その水溶液200mlに0.1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下していったとき、pH8になるまでの滴下量が7ml以上であることを特徴とする湿し水濃縮組成物。 【請求項2】 前記水溶性有機溶媒が2個の水酸基を有し、該2個の水酸基間の最短の炭素数が2?6で、かつ総炭素数が9であるジオール系非環状炭化水素化合物をさらに含む請求項1に記載の湿し水濃縮組成物。 【請求項3】 前記酸が、リン酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、コハク酸およびマレイン酸から選ばれた少なくとも1つを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の湿し水濃縮組成物。 【請求項4】 さらに、ホウ酸類またはフタル酸水素カリウムを含有することを特徴とする請求項3に記載の湿し水濃縮組成物。 【請求項5】 前記ホウ酸類がホウ酸、三酸化二ホウ素および四ホウ酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項4に記載の湿し水濃縮組成物。 【請求項6】 請求項1から5のいずれかに記載の湿し水濃縮組成物を水により重量で25倍?200倍に希釈したことを特徴とする湿し水。 【請求項7】 請求項6に記載の湿し水を用いて印刷する工程を含む平版印刷方法。 【請求項8】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-01-17 |
出願番号 | 特願2013-144555(P2013-144555) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YA
(B41N)
P 1 652・ 537- YA (B41N) P 1 652・ 113- YA (B41N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中澤 俊彦 |
特許庁審判長 |
黒瀬 雅一 |
特許庁審判官 |
藤本 義仁 吉村 尚 |
登録日 | 2015-09-11 |
登録番号 | 特許第5805149号(P5805149) |
権利者 | コニカミノルタ株式会社 東京インキ株式会社 |
発明の名称 | 平版印刷方法および湿し水濃縮組成物 |
代理人 | 前田 伸哉 |
代理人 | 速水 進治 |
代理人 | 速水 進治 |
代理人 | 速水 進治 |