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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B23P |
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管理番号 | 1325874 |
異議申立番号 | 異議2016-701143 |
総通号数 | 208 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-04-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-12-14 |
確定日 | 2017-03-03 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5937249号発明「加工機械」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5937249号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5937249号の特許(以下「本件特許という」。)についての出願は,平成27年3月20日に特許出願され,平成28年5月20日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人石井良夫(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件特許発明 本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下「本件特許発明」といい,各請求項に係る発明を「特許発明1」などという。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ワークの除去加工および付加加工が可能な加工機械であって, 加工エリア内に設けられ,ワークを保持するワーク保持部と, 加工エリア内に設けられ,ワークの除去加工のための工具を保持する工具保持部と, ワークの付加加工時に材料を吐出する付加加工用ヘッドと, 加工エリアの内外の間におけるワークの搬送時にワークを把持するワーク把持部と, 前記付加加工用ヘッドおよび前記ワーク把持部を装着可能なロボットアームとを備える,加工機械。 【請求項2】 前記付加加工用ヘッドおよび前記ワーク把持部は,前記ロボットアームに着脱可能に設けられ, 前記付加加工用ヘッドは,ワークの付加加工時に前記ロボットアームに装着され, 前記ワーク把持部は,加工エリアの内外の間におけるワークの搬送時に前記ロボットアームに装着される,請求項1に記載の加工機械。 【請求項3】 加工エリア外に設けられ,前記付加加工用ヘッドを格納可能なストッカ部をさらに備える,請求項1または2に記載の加工機械。 【請求項4】 前記付加加工用ヘッドは,ワークに対して材料粉末の吐出とともにレーザ光を照射することにより付加加工を行ない, 前記付加加工用ヘッドは, 前記ロボットアームに装着される本体部と, レーザ光を出射するとともに,ワークにおけるレーザ光の照射領域を規定し,前記本体部に着脱可能に設けられるレーザ光出射部とを有し, 前記ストッカ部には,規定するレーザ光の照射領域が互いに異なる複数の前記レーザ光出射部が格納される,請求項3に記載の加工機械。 【請求項5】 負圧を発生させる負圧発生源に接続され,前記ロボットアームに装着可能な吸引ノズルをさらに備える,請求項1から4のいずれか1項に記載の加工機械。 【請求項6】 前記ロボットアームは, 加工エリアの内外の間で移動可能な移動機構部と, 前記移動機構部に支持される基部と, 前記基部に回動可能に連結され,前記付加加工用ヘッドおよび前記ワーク把持部を装着可能なアーム部とを有する,請求項1から5のいずれか1項に記載の加工機械。 【請求項7】 前記ワーク保持部は,ワークを回転させる主軸台またはワークが固定されるテーブルである,請求項1から6のいずれか1項に記載の加工機械。 【請求項8】 前記工具保持部は,工具が固定される刃物台または工具を回転させる工具主軸である,請求項1から7のいずれか1項に記載の加工機械。」 3.申立理由の概要 異議申立人が主張する申立ての理由は,特許発明1ないし8は,次に示す甲第1ないし9号証に記載された発明又は事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,その特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第113条第2号に該当し,取り消すべきものである,というものである。 甲第1号証:特開平5-329724号公報 甲第2号証:特開平5-8136号公報 甲第3号証:特開平6-344173号公報 甲第4号証:特開2003-340583号公報 甲第5号証:特開2005-21908号公報 甲第6号証:特開平11-775号公報 甲第7号証:特開平8-270502号公報 甲第8号証:特開平8-224682号公報 甲第9号証:特開平5-50273号公報 (以下,各甲号証を「甲1」などという。) 4.甲1及び2発明並びに甲3事項 (1)甲1発明 本件特許についての出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲1には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 「ワークに対してトリミング,穴明け,溶接等のレーザ加工及び曲げ加工が可能な複合加工装置であって, ワークに対するトリミング,穴明け,溶接等のレーザ加工時に使用するレーザ加工ヘッドと, レーザ切断台に隣接して設けられ,ワークに対するトリミング,穴明け,溶接等のレーザ加工時に使用するレーザ加工ヘッドを保持するマニピュレータと, 前記レーザ切断台の内外の間におけるワークの移動時にワークを把持する把持部と, 前記レーザ加工ヘッド及び前記把持部を装着可能である前記マニピュレータとを備える複合加工装置。」 (2)甲2発明 本件特許についての出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲2には,次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。 「複数の加工要素を持つ加工システムであって,ベッド上で,工作物を把持するチャックを主軸により回転させて,タレット刃物台である工具タレット内の工具により旋削,ミーリング,穴明け,研削加工を行うと共に,ベッド上で,工作物に対してレーザ発振ヘッドを備えたレーザ加工機により,焼入れ,切断,溶接などのレーザ加工を行う加工システム。」 (3)甲3事項 本件特許についての出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲3には,次の事項(以下「甲3事項」という。)が記載されている。 「ロボットアームに装着したレーザ加工ヘッドを用いてワークをレーザ加工した際に発生するスクラップ(小片)を,負圧発生装置に接続され,該ロボットアームに装着された負圧ノズルによって吸引する点。」 5.特許発明1についての判断 (1)特許発明1と甲1発明との対比 特許発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「トリミング,穴明け」は,その前後でワークの質量が減少するから,特許発明1の「除去加工」に相当し,甲1発明の「溶接」は,ワークに他の部材を接合してワークの質量を増加させるから,特許発明1の「付加加工」に相当する。 また,甲1発明の「ワークに対するトリミング,穴明け,溶接等のレーザ加工時に使用するレーザ加工ヘッド」の内の「ワークに対するトリミング,穴明けのレーザ加工時に使用するレーザ加工ヘッド」は,上記のとおり除去加工を行う工具であるから,特許発明1の「ワークの除去加工のための工具」に相当し,甲1発明における「レーザ加工ヘッドを保持するマニピュレータ」が特許発明1の「ワークの除去加工のための工具を保持する工具保持部」に相当する。 そして,甲1発明の「ワークに対するトリミング,穴明け,溶接等のレーザ加工時に使用するレーザ加工ヘッド」の内の「ワークに対する溶接のレーザ加工時に使用するレーザ加工ヘッド」は,上記のとおり付加加工を行う手段であるから,「付加加工用ヘッド」という点で,特許発明1の「ワークの付加加工時に材料を吐出する付加加工用ヘッド」と共通する。 そして,甲1発明の「レーザ切断台」が特許発明1の「加工エリア」に相当することは明らかであるから,甲1発明において「レーザ切断台に隣接して設けられ」ることは,特許発明1において「加工エリア内に設けられ」ることに相当する。また,甲1発明の「前記レーザ切断台の内外の間におけるワークの移動時にワークを把持する把持部」が特許発明1の「加工エリアの内外の間におけるワークの搬送時にワークを把持するワーク把持部」に相当し,同様に,「前記レーザ加工ヘッド及び前記把持部を装着可能である前記マニピュレータ」が「前記付加加工用ヘッドおよび前記ワーク把持部を装着可能なロボットアーム」に相当し,「複合加工装置」が「加工機械」に相当する。 そうすると,特許発明1と甲1発明は,以下の点で一致及び相違する。 <一致点> 「ワークの除去加工および付加加工が可能な加工機械であって, 加工エリア内に設けられ,ワークの除去加工のための工具を保持する工具保持部と, 付加加工用ヘッドと, 加工エリアの内外の間におけるワークの搬送時にワークを把持するワーク把持部と, 前記付加加工用ヘッドおよび前記ワーク把持部を装着可能なロボットアームとを備える,加工機械。」 <相違点1> 付加加工用ヘッドが,特許発明1は「ワークの付加加工時に材料を吐出する」ものであるのに対して,甲1発明はそのようなものであるかどうか不明な点。 <相違点2> 特許発明1は,「加工エリア内に設けられ,ワークを保持するワーク保持部」を備えているのに対して,甲1発明は,ワーク保持部を備えているかどうか不明な点。 (2)相違点1の判断 甲1を参照すると,従来は,板材を所望形状に製品化するには,まず板材を所定の大きさにシャーにより切断し,この板材を移動してタレットパンチプレスあるいはレーザ加工機にて半完成品として,この半完成品を移動してプレスブレーキで曲げ加工していた(段落【0002】 )ところ,従来の装置では,タレットパンチプレスあるいはレーザ加工機とプレスブレーキとが別々に設置されているため,機械間の板材移動に多くの時間を要することが,発明の解決課題であり(段落【0003】 ),曲げ加工機に隣接してレーザ加工機を設け,曲げ加工機とレーザ加工機との間においてワークの保持と搬出入を行なうワーククランプを備えた板材曲げ加工兼レーザ加工用のマニピュレータを設けることで,この課題を解決しようとする(段落【0005】 )ことを理解できる。 甲1に接した当業者であれば,甲1発明の複合加工装置は「曲げ加工」が必須の加工であり,甲1発明の「ワーク」は,そのような曲げ加工が可能な板材を意味すると理解するし,甲1発明のワークが,曲げ加工が可能な程度の板材である以上,甲1発明のレーザ加工機における「溶接」は,板材を突き合わせるか,重ね合わせるレーザ溶接を意味すると理解するといえる。 そして,ワークに対して粉末材料を吐出すると共にレーザ光を照射することにより,レーザ肉盛りのような付加加工を行うレーザ加工ヘッドは,レーザ加工の技術分野において,従来周知の技術的事項(甲4ないし6)ではあるが,板材を突き合わせるか,重ね合わせるレーザ溶接において,そのようなレーザ肉盛りのような付加加工を行う必要はないから,甲1に接した当業者が,甲1発明に甲4ないし6に示す従来周知の技術的事項を適用する動機はない。 また,異議申立人の提出する他の証拠を参照しても,甲1発明に甲4ないし6に示す従来周知の技術的事項を適用する動機を示すものはない。 以上から,甲1発明のレーザ加工ヘッドを,材料を吐出するものとすることは,当業者が容易に発明できたものとはいえない。 (3)相違点2の判断 甲1の段落【0040】には,「レーザ切断台121上に載置されたワークWを固定して、マニピュレータ39を移動してワークWにトリミング加工、あるいは穴明け加工,溶接加工等のレーザ加工を行なう。」との記載があり,レーザ切断台上のワークを固定することの明記がある以上,ワークを固定するための何らかの保持部を設けることは,当業者が当然に考慮すべき事項である。 したがって,甲1発明において,加工エリア内に設けられ,ワークを保持するワーク保持部を備えるように構成することは,当業者が容易に想到できた事項である。 (4)小括 以上のとおり,特許発明1は,甲1ないし9に記載された発明又は事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。 6.特許発明2ないし8についての判断 特許発明2ないし8は,特許発明1を直接又は間接に引用する発明であるから,特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である。 そして,上記5.(4)に示すとおり,特許発明1は,甲1ないし9に記載された発明又は事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできないから,特許発明1の発明特定事項を全て含む特許発明2ないし8についても,甲1ないし9に記載された発明又は事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。 7.むすび したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また,他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-02-22 |
出願番号 | 特願2015-57181(P2015-57181) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B23P)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 長清 吉範 |
特許庁審判長 |
平岩 正一 |
特許庁審判官 |
刈間 宏信 西村 泰英 |
登録日 | 2016-05-20 |
登録番号 | 特許第5937249号(P5937249) |
権利者 | DMG森精機株式会社 |
発明の名称 | 加工機械 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |