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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23B
管理番号 1325883
異議申立番号 異議2016-701142  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-14 
確定日 2017-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5937248号発明「ワークの加工方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5937248号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5937248号の特許(以下「本件特許という」。)についての出願は,平成27年3月20日に特許出願され,平成28年5月20日にその特許権の設定登録がされ,その後,その特許に対し,特許異議申立人石井良夫(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


2.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下「本件特許発明」といい,各請求項に係る発明を「特許発明1」などという。)は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお,下線は,下記3.(2)における申立理由に係る部分に対して,当審で付したものである。)。

「【請求項1】
単一の加工エリア内で,第1ワークおよび第2ワークを含む複数のワークを連続的に加工する方法であって,
前記加工エリア内において前記第2ワークを付加加工する工程と,
付加加工が行なわれた前記第2ワークを待機させた状態で,前記加工エリア内において前記第1ワークを除去加工する工程とを備える,ワークの加工方法。
【請求項2】
前記第2ワークを付加加工する工程は,付加加工が行なわれた前記第1ワークを待機させた状態で,前記第2ワークを付加加工する工程を含む,請求項1に記載のワークの加工方法。
【請求項3】
前記第1ワークを除去加工する工程の後,前記第2ワークを待機させた状態で,前記加工エリア内において第3ワークを付加加工する工程と,付加加工が行なわれた前記第3ワークを待機させた状態で,前記加工エリア内において前記第2ワークを除去加工する工程とをさらに備える,請求項2に記載のワークの加工方法。
【請求項4】
前記第2ワークを付加加工する工程の前,前記加工エリア内において前記第1ワークを付加加工する工程をさらに備え,
前記第1ワークを除去加工する工程の後,前記加工エリア内において前記第2ワークを除去加工する工程をさらに備える,請求項2に記載のワークの加工方法。
【請求項5】
前記加工エリアを形成する加工機械は,ワークを保持可能な第1ワーク保持部および第2ワーク保持部を有し,
前記第2ワークを付加加工する工程時および前記第1ワークを除去加工する工程時,前記第1ワーク保持部および前記第2ワーク保持部により,それぞれ,前記第1ワークおよび前記第2ワークを保持する,請求項2から4のいずれか1項に記載のワークの加工方法。
【請求項6】
前記第1ワーク保持部および前記第2ワーク保持部は,ワークを保持し回転させるための主軸に設けられる,請求項5に記載のワークの加工方法。
【請求項7】
前記加工エリアを形成する加工機械は,前記加工エリア内に設けられ,ワークを保持するワーク保持部と,ワークを把持可能な複数の把持部を含み,前記ワーク保持部に保持されたワークを搬送するワーク搬送部とを有し,
前記第2ワークを付加加工する工程時,前記ワーク保持部により前記第2ワークを保持し,前記把持部により前記第1ワークを把持し,
前記第2ワークを付加加工する工程の後であって,前記第1ワークを除去加工する工程の前に,前記ワーク搬送部によって,前記ワーク保持部に保持された前記第2ワークと,前記把持部に把持された前記第1ワークとを交換する工程をさらに備え,
前記第1ワークを除去加工する工程時,前記ワーク保持部により前記第1ワークを保持し,前記把持部により前記第2ワークを把持する,請求項2から4のいずれか1項に記載のワークの加工方法。
【請求項8】
前記ワーク保持部は,ワークを保持し回転させるための主軸に設けられる,請求項7に記載のワークの加工方法。
【請求項9】
前記加工エリアを形成する加工機械は,前記加工エリア内に設けられ,ワークを保持可能な第1ワーク保持部および第2ワーク保持部と,前記第1ワーク保持部および前記第2ワーク保持部に保持されたワークを搬送するワーク搬送部とを有し,
前記第2ワークを付加加工する工程時,前記第1ワーク保持部により前記第2ワークを保持し,前記第2ワーク保持部により前記第1ワークを保持し,
前記第2ワークを付加加工する工程の後であって,前記第1ワークを除去加工する工程の前に,前記ワーク搬送部によって,前記第1ワーク保持部に保持された前記第2ワークと,前記第2ワーク保持部に保持された前記第1ワークとを交換する工程をさらに備え,
前記第1ワークを除去加工する工程時,前記第1ワーク保持部により前記第1ワークを保持し,前記第2ワーク保持部より前記第2ワークを把持する,請求項2から4のいずれか1項に記載のワークの加工方法。
【請求項10】
前記第1ワーク保持部は,ワークを保持し回転させるための主軸に設けられ,
前記第2ワーク保持部は,工具を保持するための刃物台に装着される,請求項9に記載のワークの加工方法。
【請求項11】
前記加工エリアを形成する加工機械は,前記加工エリア内に設けられ,ワークを保持可能な第1ワーク保持部と,工具を保持するための刃物台に装着され,ワークを保持可能な第2ワーク保持部および第3ワーク保持部とを有し,
前記第2ワークを付加加工する工程の前,前記加工エリア内において前記第1ワークを付加加工する工程をさらに備え,
前記第1ワークを除去加工する工程の後,前記加工エリア内において前記第2ワークを除去加工する工程をさらに備え,
前記第1ワークを付加加工する工程時および前記第2ワークを付加加工する工程時,前記第2ワーク保持部により前記第1ワークを保持し,前記第3ワーク保持部により前記第2ワークを保持し,
前記第1ワークを除去加工する工程時,前記第1ワーク保持部により前記第1ワークを保持し,
前記第2ワークを除去加工する工程時,前記第1ワーク保持部により前記第2ワークを保持し,
前記第2ワークを除去加工する工程が完了するまでに,第3ワークおよび第4ワークを,それぞれ,前記第2ワーク保持部および前記第3ワーク保持部により保持する工程をさらに備える,請求項2に記載のワークの加工方法。
【請求項12】
前記第2ワークを付加加工する工程は,材料粉末を噴出すると同時に,噴出された材料粉末にエネルギ照射することにより材料粉末を溶融して,ワーク成形する工程を含む,請求項1から11のいずれか1項に記載のワークの加工方法。」


3.申立理由の概要
異議申立人が主張する申立ての理由は,以下のとおりである。

(1)申立理由1(特許法第29条第2項に係る理由)
特許発明1ないし12は,次に示す甲第1ないし11号証に記載された発明又は事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,その特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり,同法第113条第2号に該当し,取り消すべきものである(以下,特許法第29条第2項に係る理由を「申立理由1」という。)。

甲第 1号証:特開平5-104366号公報
甲第 2号証:特開2010-215971号公報
甲第 3号証:月刊誌「素形材」 Vol.55 No.8(平成26年 8月発行)「付加製造技術と成形加工・除去加工技術の特 徴と優位性」第37ないし39ページ
甲第 4号証:月刊誌「素形材」 Vol.55 No.8(平成26年 8月発行)「AM(付加製造)技術の動向と市場」第40 ないし45ページ
甲第 5号証:「平成25年度 特許出願技術動向調査報告書(概要) 3Dプリンター」(平成26年3月発行)第1ないし50 ページ
甲第 6号証:特開平2001-105202号公報
甲第 7号証:特開平7-40102号公報
甲第 8号証:特開昭57-41189号公報
甲第 9号証:特開平7-164202号公報
甲第10号証:特開平5-154707号公報
甲第11号証:特開2014-46374号公報

(2)申立理由2(特許法第36条第6項第2号に係る理由)
請求項1ないし12に係る特許は,次のア.ないしス.に示すとおり,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである(以下,特許法第36条第6項第2号に係る理由を「申立理由2」という。)。

ア.請求項1は「第2ワークを付加加工する工程」及び「第1ワークを除去加工する工程」が記載されているところ,それらの工程を行う主体が記載されておらず,人が行う場合も排除されないことから明確ではない。

イ.請求項1は「付加加工が行われた前記第2ワークを待機させた状態」と記載されているが,「待機させた状態」とは,空間的(位置的)な待機を示しているのか,時間的な待機を示しているのか明確でなく,また,待機させる技術的な意義も明確でない。

ウ.請求項1には,特定される工程間の相互関係,工程内において必要となる温度条件や作業時間についても何ら記載がないから,技術的にも明確でない。

エ.請求項2ないし4は,「ワークの加工方法」を特定するが,上記ア.と同様に明確でない。

オ.請求項2ないし4は,特定される工程間の相互関係,工程内において必要となる温度条件や作業時間についても何ら記載がないから,上記ウ.と同様に明確でない。

カ.請求項2及び3に記載された「待機させた状態」は,上記イ.と同様に明確でない。

キ.請求項5及び6は,第1ワーク保持部及び第2ワーク保持部を有する加工機械が特定されているところ,請求項5が直接又は間接に引用する請求項1ないし4に記載された工程の主体が明確でないため,第1ワーク保持部及び第2ワーク保持部によるワーク保持との対応が把握できない。

ク.請求項7及び8では,ワーク保持部及びワークの把持部を含むワーク搬送部を有する加工機械が特定されているところ,請求項7が直接又は間接に引用する請求項1ないし4に記載された工程の主体が明確でないため,ワーク保持部によるワーク保持,ワーク把持部によるワーク把持との対応関係が把握できない。

ケ.請求項7に記載の「前記ワーク搬送部によって・・・第2ワークと・・・第1ワークとを交換する工程」と,請求項7が直接又は間接に引用する請求項1ないし4に記載された「第2ワークを待機させた状態」との対応関係が把握できない。

コ.請求項9及び10では,第1ワーク保持部,第2ワーク保持部及びワーク搬送部を有する加工機械が特定されているところ,請求項9が直接又は間接に引用する請求項1ないし4に記載された工程の主体が明確でないため,第1ワーク保持部及び第2ワーク保持部によるワーク保持との対応関係が把握できない。

サ.請求項9に記載の「前記ワーク搬送部によって・・・第2ワークと・・・第1ワークとを交換する工程」と,請求項9が直接又は間接に引用する請求項1ないし4に記載された「第2ワークを待機させた状態」との対応関係が把握できない。

シ.請求項11では,第1ワーク保持部,第2ワーク保持部及び第3ワーク保持部を有する加工機械が特定されているところ,請求項11が直接又は間接に引用する請求項1及び2に記載された工程の主体が明確でないため,第1ワーク保持部,第2ワーク保持部及び第3ワーク保持部によるワーク保持との対応関係が把握できない。

ス.請求項12は,請求項1ないし11を引用し,第2ワークを付加加工する工程の作業内容を限定するものであるところ,その主体が何ら記載されていないから,上記ア.ないしシ.で指摘した点を含めて明確でない。


4.甲1発明及び甲2事項
(1)甲1発明
本件特許についての出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲第1号証(以下「甲1」という。)には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「複合工作機械の単一のワーク台で,パレットaに固定されたワーク及びパレットbに固定されたワークを含む複数のワークパレットに固定された複数のワークを連続的に加工する方法であって,
前記ワーク台において前記パレットbに固定されたワークをレーザ溶断加工する工程と,
前記パレットbに固定されたワークに前記レーザ溶断加工が行われる状態で,前記ワーク台において前記パレットaに固定されたワークを切削加工する工程とを備える,ワークの加工方法。」

(2)甲2事項
本件特許についての出願前に日本国内で頒布された刊行物である甲第2号証(以下「甲2」という。)には,次の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されている。

「単一の造形テーブルを使って造形物を製造する方法において,加工対象物として粉末層に光ビームを照射して固化層を形成する固化層形成ステップと,積層した固化層に対してその表面を切削手段を使って切削する切削ステップとを備えた点。」


5.特許発明1についての申立理由1の判断
(1)特許発明1と甲1発明との対比
特許発明1と甲1発明とを対比すると,以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「単一の加工エリア内で,第1ワーク及び第2ワークを含む複数のワークを連続的に加工する方法であって,
前記加工エリア内において前記第2ワークを加工する工程と,
前記加工エリア内において前記第1ワークを除去加工する工程とを備える,ワークの加工方法。」

<相違点1>
第2ワークを加工する工程が,特許発明1は「付加加工」であるのに対して,甲1発明は「レーザ溶断加工」である点。

<相違点2>
第1ワークを除去加工する工程が,特許発明1では「付加加工が行なわれた前記第2ワークを待機させた状態」で行われるのに対して,甲1発明では「前記パレットbに固定されたワークに前記レーザ溶断加工が行われる状態」で行われる点。

(2)相違点1の判断
甲2事項に示すように,「単一の造形テーブルを使って造形物を製造する方法において,加工対象物として粉末層に光ビームを照射して固化層を形成する固化層形成ステップと,積層した固化層に対してその表面を切削手段を使って切削する切削ステップとを備えた点。」は公知である。
また,粉末材料の吐出と共にレーザ光を照射する付加加工自体は,甲3ないし5に示すように従来周知の技術的事項である。
しかし,甲1には,相違点1に示すように「付加加工」自体が記載も示唆もされていない以上,甲1に接した当業者が,甲1発明の「レーザ溶断加工」に代えて,甲2事項や従来周知の付加加工を適用する動機がない。
したがって,甲1発明の「レーザ溶断加工」に代えて,甲2事項や従来周知の付加加工を採用することは,当業者にとって容易に想到できたとはいえない。

(3)相違点2の判断
甲1発明におけるパレットaでの切削加工は,甲1の図4の「工程3」に示すように,パレットbでのレーザ溶断加工と並行して行われるものである。甲1の段落【0020】には,「例えば,図4の工程5ではパレットdにてレーザ溶断が行われているため,その終了を待たなければならないが,一方でパレットcにて切削加工が実施されており,一般に切削加工が比較的長時間を有するため,パレットcでの切削加工の間にパレットdのレーザ溶断及びパレットaの焼入れを連続して実施でき,作業時間の効率性を低下させることはない。」との記載があり,これを参照すると,パレットaでの切削加工と,パレットbでのレーザ溶断加工とが並行して行われる際に,切削加工が比較的長時間を有する場合には,パレットbでのレーザ溶断加工が先に終了することになり,パレットaでの切削加工が終了するまでの間,パレットbのワークは時間待ちをすることになるが,そのような時間待ちを,特許発明1の「待機させた状態」と同等に評価することはできない。
なぜなら,本件特許発明は,「付加加工および除去加工を順に実施してワークの加工を行なう場合,付加加工の後,ワークを成形する材料を冷却・硬化させる必要がある」(本件特許明細書の段落【0006】)ことを前提としており,「待機させた状態」において,材料を冷却・硬化させるという技術的な意義があるところ,甲1には,レーザ溶断加工の後に,材料を冷却・硬化させることについて何らの記載もなく,レーザ溶断加工の後に,材料を冷却・硬化させるような配慮がなされているとはいえない。したがって,甲1発明において,パレットbのワークがある時間放置されることになるとしても,その後パレットbのワークを加工する上で必要な待機時間としていると考えるべき合理的な根拠が見当たらない以上,特許発明1における「待機させた状態」ということはできない。
そして,異議申立人が提出した他の証拠である甲2ないし11を参照しても,付加加工が行なわれた第2ワークを待機させた状態で,第1ワークを除去加工する工程について,記載も示唆もない。
したがって,甲1発明の第1ワークを除去加工する工程について,「付加加工が行なわれた第2ワークを待機させた状態」で行うように構成することは,当業者が容易に想到できた事項とはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから,特許発明1は,甲1ないし11に記載された発明又は事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。


6.特許発明2ないし12についての申立理由1の判断
特許発明2ないし12は,特許発明1を直接又は間接に引用する発明であるから,特許発明1の発明特定事項を全て含む発明である。
そして,上記5.(4)に示すとおり,特許発明1は,甲1ないし11に記載された発明又は事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできないから,特許発明1の発明特定事項を全て含む特許発明2ないし12についても,甲1ないし11に記載された発明又は事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。


7.申立理由2の判断
(1)申立理由2のア.について
異議申立人は,請求項1の「第2ワークを付加加工する工程」及び「第1ワークを除去加工する工程」について,人が行う場合も排除されないことから明確ではないと主張している。しかし,請求項1において,それらの工程を人が行う場合を排除すべきと考えるに足る合理的な事情が,他の記載事項との間で直ちに明らかとは考えられない。そうすると,特許発明1に関して,異議申立人が挙げた前記の2つの工程を人が行う場合を当然に含むと認定するのが相当である。
そもそも本件特許発明は,付加加工及び除去加工を順に実施してワークの加工を行う場合,ワークを成形する材料を冷却・硬化させる必要があるため,付加加工から除去加工に直ちに移ることができず,ワークの加工開始から終了までの全体の加工時間が長くなることを,発明の解決課題とするものである(本件特許明細書の段落【0006】及び【0007】)。そして,その課題は,付加加工が行われた第2ワークの待機と,第1ワークの除去加工とを並行して行うことで,複数のワークを連続的に加工することができるという作用機序により解決される(本件特許明細書の段落【0009】)のであって,本件特許発明の作用機序と加工工程の主体とは,何らの関係もないことは明らかである。
したがって,特許請求の範囲に発明を特定する際に,本件特許発明の作用機序と何らの関係もない加工工程の主体をことさら特定する必要はないから,加工工程の主体を特定していない請求項1の「第2ワークを付加加工する工程」及び「第1ワークを除去加工する工程」という記載は明確である。
したがって,請求項1の記載が明確でないという旨の異議申立人の主張は,採用できない。

(2)申立理由2のイ.について
上記5.(2)に説示したように,本件特許発明は,「付加加工および除去加工を順に実施してワークの加工を行なう場合,付加加工の後,ワークを成形する材料を冷却・硬化させる必要がある」(本件特許明細書の段落【0006】)ことを前提としており,「待機させた状態」において,材料を冷却・硬化させるという技術的な意義があるといえるから,請求項1の「待機させた状態」が,材料を冷却・硬化させるために十分な時間的な待機を意味し,待機する空間や位置を特定しようとしているわけではないことは明らかである。
したがって,請求項1の「待機させた状態」という記載は明確である。

(3)申立理由2のウ.について
ア.請求項1には,「前記加工エリア内において前記第2ワークを付加加工する工程と,付加加工が行なわれた前記第2ワークを待機させた状態で,前記加工エリア内において前記第1ワークを除去加工する工程」が記載されており,この記載によれば,まず,「第2ワークを付加加工する工程」があり,その後に,「付加加工が行なわれた前記第2ワーク」を待機させて,その状態で「第1ワークを除去加工する工程」が行われることは明らかである。したがって,請求項1において,工程間の相互関係は明確である。
イ.本件特許発明は,「待機させた状態」において,材料を冷却・硬化させるという技術的な意義があるのであって,工程内における具体的な温度条件や作業時間に技術的な意義があるわけではないから,工程内における温度条件や作業時間を具体的に特定していない請求項1の記載は明確である。

(4)申立理由2のエ.について
請求項2ないし4において,その加工方法の主体として人を排除すべきと考えるに足る合理的な事情が,他の記載事項との間で直ちに明らかとは考えられない。そうすると,特許発明2ないし4に関して,その加工方法の主体に人が含まれると認定するのが相当である。
そもそも,本件特許発明の作用機序は,加工方法の主体とは無関係であって,特許請求の範囲に発明を特定する際に,加工方法の主体を特定する必要はないから,加工方法の主体を特定していない請求項2ないし4の「ワークの加工方法」という記載は明確である。

(5)申立理由2のオ.について
ア.請求項2には,「前記第2ワークを付加加工する工程は,付加加工が行なわれた前記第1ワークを待機させた状態で,前記第2ワークを付加加工する工程を含む」との記載があり,これを上記(3)ア.で説示する請求項1の工程の相互関係と合わせて考慮すると,まず,「付加加工が行なわれた前記第1ワーク」が存在し,それを待機させた状態で「前記第2ワークを付加加工する工程」が行われ,その後に,「付加加工が行なわれた前記第2ワーク」を待機させて,その状態で「第1ワークを除去加工する工程」が行われることは明らかである。したがって,請求項2において,工程間の相互関係は明確である。
イ.請求項3には,「前記第1ワークを除去加工する工程の後,前記第2ワークを待機させた状態で,前記加工エリア内において第3ワークを付加加工する工程と,付加加工が行なわれた前記第3ワークを待機させた状態で,前記加工エリア内において前記第2ワークを除去加工する工程とをさらに備える」との記載があり,これを上記(3)ア.で説示する請求項1の工程の相互関係,及び上記ア.で説示する請求項2の工程の相互関係と合わせて考慮すると,まず,「付加加工が行なわれた前記第1ワーク」が存在し,それを待機させた状態で「前記第2ワークを付加加工する工程」が行われ,その後に,「付加加工が行なわれた前記第2ワーク」を待機させて,その状態で「第1ワークを除去加工する工程」及び「第3ワークを付加加工する工程」が行われ,その後,「付加加工が行なわれた前記第3ワーク」を待機させて,その状態で,「前記第2ワークを除去加工する工程」が行われることは明らかである。したがって,請求項3において,工程間の相互関係は明確である。
ウ.請求項4には,「前記第2ワークを付加加工する工程の前,前記加工エリア内において前記第1ワークを付加加工する工程をさらに備え,前記第1ワークを除去加工する工程の後,前記加工エリア内において前記第2ワークを除去加工する工程をさらに備える」との記載があり,これを上記(3)ア.で説示する請求項1の工程の相互関係,及び上記ア.で説示する請求項2の工程の相互関係と合わせて考慮すると,まず,「前記第1ワークを付加加工する工程」があり,その後「付加加工が行なわれた前記第1ワーク」を待機させて,その状態で「前記第2ワークを付加加工する工程」が行われ,その後に,「付加加工が行なわれた前記第2ワーク」を待機させて,その状態で「第1ワークを除去加工する工程」が行われ,その後,「前記第2ワークを除去加工する工程」が行われることは明らかである。したがって,請求項4において,工程間の相互関係は明確である。
エ.上記(2)で説示したように,本件特許発明は,「待機させた状態」において,材料を冷却・硬化させるという技術的な意義があるのであって,請求項2ないし4の工程内における具体的な温度条件や作業時間に技術的な意義があるわけではないから,それらが具体的に特定されていないとしても,請求項2ないし4の記載は明確である。

(6)申立理由2のカ.について
上記(2)で説示したように,本件特許発明は,「待機させた状態」において,材料を冷却・硬化させるという技術的な意義があるといえるから,請求項2及び3の「待機させた状態」が,材料を冷却・硬化させるために十分な時間的な待機を意味することは明らかである。したがって,請求項2及び3の「待機させた状態」という記載は明確である。

(7)申立理由2のキ.について
上記(1)及び(4)で説示したように,請求項1ないし4に記載された工程の主体に人が含まれると認定されるところ,そもそも,本件特許発明の作用機序は,加工方法の主体とは無関係であって,特許請求の範囲に発明を特定する際に,加工方法の主体を特定する必要はないから,加工方法の主体を特定していない請求項5及び6の記載は明確である。

(8)申立理由2のク.について
上記(1)及び(4)で説示したように,請求項1ないし4に記載された工程の主体に人が含まれると認定されるところ,そもそも,本件特許発明の作用機序は,加工方法の主体とは無関係であって,特許請求の範囲に発明を特定する際に,加工方法の主体を特定する必要はないから,加工方法の主体を特定していない請求項7及び8の記載は明確である。

(9)申立理由2のケ.について
請求項7には,「前記第2ワークを付加加工する工程時,前記ワーク保持部により前記第2ワークを保持し,前記把持部により前記第1ワークを把持し,前記第2ワークを付加加工する工程の後であって,前記第1ワークを除去加工する工程の前に,前記ワーク搬送部によって,前記ワーク保持部に保持された前記第2ワークと,前記把持部に把持された前記第1ワークとを交換する工程をさらに備え,前記第1ワークを除去加工する工程時,前記ワーク保持部により前記第1ワークを保持し,前記把持部により前記第2ワークを把持する」との記載があり,この記載によれば,まず,第2ワークを付加加工する工程時には,ワーク保持部により第2ワークが保持され,また,把持部により第1ワークが把持されており,その後,ワーク搬送部によって,ワーク保持部に保持された第2ワークと,把持部に把持された第1ワークとを交換する工程があり,その後,第1ワークを除去加工する工程時に,ワーク保持部により第1ワークが保持され,把持部により第2ワークが把持されることを理解できる。
そして,請求項2ないし4は,請求項1を直接又は間接に引用するところ,請求項1には,「付加加工が行なわれた前記第2ワークを待機させた状態で,前記加工エリア内において前記第1ワークを除去加工する工程」が記載されているから,これを考慮すれば,第2ワークを待機させた状態で,第1ワークを除去加工する工程が行われ,その待機の際には,第2ワークは把持部に把持されていることを理解できる。
結局,「交換する工程」の後に「第2ワークを待機させた状態」が生じることは明らかであるから,請求項7に記載された「前記ワーク搬送部によって・・・第2ワークと・・・第1ワークとを交換する工程」と,請求項7が直接又は間接に引用する請求項1ないし4に記載された「第2ワークを待機させた状態」との対応関係は明確である。

(10)申立理由2のコ.について
上記(1)及び(4)で説示したように,請求項1ないし4に記載された工程の主体に人が含まれると認定されるところ,そもそも,本件特許発明の作用機序は,加工方法の主体とは無関係であって,特許請求の範囲に発明を特定する際に,加工方法の主体を特定する必要はないから,加工方法の主体を特定していない請求項9及び10の記載は明確である。

(11)申立理由2のサ.について
請求項9には,「前記第2ワークを付加加工する工程時,前記第1ワーク保持部により前記第2ワークを保持し,前記第2ワーク保持部により前記第1ワークを保持し,前記第2ワークを付加加工する工程の後であって,前記第1ワークを除去加工する工程の前に,前記ワーク搬送部によって,前記第1ワーク保持部に保持された前記第2ワークと,前記第2ワーク保持部に保持された前記第1ワークとを交換する工程をさらに備え,前記第1ワークを除去加工する工程時,前記第1ワーク保持部により前記第1ワークを保持し,前記第2ワーク保持部より前記第2ワークを把持する」との記載があり,この記載によれば,まず,第2ワークを付加加工する工程時には,第1ワーク保持部により第2ワークが保持され,また,第2ワーク保持部により第1ワークが保持されており,その後,ワーク搬送部によって,第1ワーク保持部に保持された第2ワークと,第2ワーク保持部に保持された第1ワークとを交換する工程があり,その後,第1ワークを除去加工する工程時に,第1ワーク保持部により前記第1ワークが保持され,また,第2ワーク保持部により第2ワークが把持されることを理解できる。
そして,請求項2ないし4は,請求項1を直接又は間接に引用するところ,請求項1には,「付加加工が行なわれた前記第2ワークを待機させた状態で,前記加工エリア内において前記第1ワークを除去加工する工程」が記載されているから,これを考慮すれば,第2ワークを待機させた状態で,第1ワークを除去加工する工程が行われ,その待機の際には,第2ワークは第2ワーク保持部に把持されていることを理解できる。
結局,「交換する工程」の後に「第2ワークを待機させた状態」が生じることは明らかであるから,請求項9に記載された「前記ワーク搬送部によって・・・第2ワークと・・・第1ワークとを交換する工程」と,請求項9が直接又は間接に引用する請求項1ないし4に記載された「第2ワークを待機させた状態」との対応関係は明確である。

(12)申立理由2のシ.について
上記(1)及び(4)で説示したように,請求項1及び2に記載された工程の主体に人が含まれると認定されるところ,そもそも,本件特許発明の作用機序は,加工方法の主体とは無関係であって,特許請求の範囲に発明を特定する際に,加工方法の主体を特定する必要はないから,加工方法の主体を特定していない請求項11の記載は明確である。

(13)申立理由2のス.について
上記(1),(4),(7)ないし(9)及び(12)で説示したように,請求項1ないし11に記載された工程の主体に人が含まれると認定されるところ,そもそも,本件特許発明の作用機序は,加工方法の主体とは無関係であって,特許請求の範囲に発明を特定する際に,加工方法の主体を特定する必要はないから,加工方法の主体を特定していない請求項12の記載は明確である。

(14)小括
以上のとおりであるから,異議申立人が主張する理由によっては,請求項1ないし12に係る特許を,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはできない。


8.むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,請求項1ないし12に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-02-27 
出願番号 特願2015-57180(P2015-57180)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23B)
P 1 651・ 537- Y (B23B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長清 吉範  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 刈間 宏信
西村 泰英
登録日 2016-05-20 
登録番号 特許第5937248号(P5937248)
権利者 DMG森精機株式会社
発明の名称 ワークの加工方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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