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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1325886
異議申立番号 異議2016-700726  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-10 
確定日 2017-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第5866589号発明「リチウムイオン電池の負極又は負極材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5866589号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第5866589号の請求項1-5に係る特許についての出願は、2014年6月11日を国際出願日とする出願であって、平成28年1月15日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 山崎浩一郎(以下、「申立人」という)により特許異議の申立てがされ、当審において平成28年11月29日付けで取消理由が通知されるとともに審尋がされ、その指定期間内である平成29年1月27日付けで意見書及び回答書が提出されたものである。

第2.特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件特許の請求項1-5に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、・・・、「本件発明5」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1-5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
シリコン微細粒子を形成する粉砕工程を含むリチウムイオン電池の負極材料の製造方法であって、
前記粉砕工程において、粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑を粉砕することにより得られる前記シリコン微細粒子の個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下であり、かつ
前記シリコン微細粒子の凝集体又は集合物が複層花弁状又は鱗片状である、
リチウムイオン電池の負極材料の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン微細粒子が、前記結晶性シリコンをボールミル機による粉砕の後にビーズミル機によって粉砕することにより形成される、
請求項1に記載のリチウムイオン電池の負極材料の製造方法。
【請求項3】
前記結晶性シリコンからなる前記シリコン微細粒子のX線回折測定による、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属する回折ピークの強度がその他の回折ピークの強度よりも大きい前記シリコン微細粒子を形成する、粉砕工程を含む、
請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン電池の負極材料の製造方法。
【請求項4】
負極材料となるシリコン微細粒子を形成する粉砕工程を含むリチウムイオン電池の負極の製造方法であって、
前記粉砕工程において、粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑を粉砕することにより得られる前記シリコン微細粒子の個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下であり、かつ
前記シリコン微細粒子の凝集体又は集合物が複層花弁状又は鱗片状である、
リチウムイオン電池の負極の製造方法。
【請求項5】
粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑を粉砕することにより得られるシリコン微細粒子のX線回折測定による、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属する回折ピークの強度がその他の回折ピークの強度よりも大きい負極材料となる前記シリコン微細粒子を形成するとともに、
前記シリコン微細粒子の個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下であり、かつ
前記シリコン微細粒子の凝集体又は集合物が複層花弁状又は鱗片状である、前記シリコン微細粒子を形成する、粉砕工程を含む、
リチウムイオン電池の負極の製造方法。

2.取消理由の内容
請求項1-5に係る特許に対して平成28年11月29日付けで特許権者に通知した取消理由は、次のとおりである。

『本件特許は、明細書、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1-5に係る特許は、取り消すべきものである。

請求項1には、「前記粉砕工程において、粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑を粉砕することにより得られる前記シリコン微細粒子の個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下であり」と記載されている。
この記載によると、特定されているモード径及びメジアン径は、粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑を粉砕することにより得られるシリコン微細粒子のモード径及びメジアン径である。
上記「粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑」における結晶性シリコンがどのようなものであるかについては、請求項1では特定されておらず、該結晶性シリコンは、単結晶のシリコンと多結晶のシリコンを含むものである(明細書の【0037】、本取消理由通知と同日付けの審尋も参照されたい。)。
したがって、請求項1における、シリコン微細粒子のモード径及びメジアン径は、(1)シリコン微細粒子が単結晶のときは、粒子=結晶子であるから、粒子(=結晶子)のモード径及びメジアン径を意味する場合と、(2)シリコン微細粒子が多結晶のときは、粒子は複数の結晶子からなるものであるから、粒子(=複数の結晶子)のモード径及びメジアン径を意味する場合とを含むものである。

これに対して、発明の詳細な説明には、モード径及びメジアン径については、以下の記載があるのみである。
「【0055】
2.X線回折法によるシリコン微細粒子の結晶子径分布の解析
図5は、第1の実施形態のシリコン微細粒子の(111)方向結晶子径に対する、(a)個数分布を示す結晶子径分布と、(b)体積分布を示す結晶子径分布とを示すグラフである。図5は、粉砕工程(S2)後のシリコン微細粒子の結晶子径分布を、X線回折法を用いて解析することによって得られた結果を示している。図5(a)及び図5(b)は、いずれも、横軸が結晶子径(nm)を表し、縦軸は、頻度を表している。
【0056】
図5(a)及び図5(b)の結果から、個数分布においては、モード径が1.6nm、メジアン径(50%結晶子径)が2.6nmであった。また、体積分布においては、モード径が6.3nm、メジアン径が9.9nmであった。従って、個数分布においてはモード径であってもメジアン径であっても5nm以下であり、より詳細には3nm以下の値が実現されていることが確認された。さらに、体積分布においてはモード径であってもメジアン径であっても10nm以下の値が実現されていることが確認された。」
この記載によると、発明の詳細な説明において、特定されているモード径及びメジアン径は、シリコン微細粒子の結晶子のモード径及びメジアン径である。
すなわち、発明の詳細な説明における、モード径及びメジアン径は、請求項1の記載における、上記(1)の場合は含んでいるが、上記(2)の場合は含んでいないものである。

以上のとおり、請求項1の記載における、モード径及びメジアン径と、発明の詳細な説明に記載された、モード径及びメジアン径とは、技術的な意味が異なっているものである。
したがって、請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載とは異なっており、請求項1の上記「前記シリコン微細粒子の個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下」であることは、発明の詳細な説明には記載されていない。
請求項1を引用する請求項2、請求項3、及び、同じ記載のある請求項4、請求項5についても同様のことがいえる。
よって、請求項1-5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。』

3.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
請求項1における「シリコン微細粒子」は、請求項1に記載のとおり、「粉砕工程において、粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑を粉砕することにより得られる」ものであって、その「個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下」であるものであるから、粉砕工程の前後の粒子径を比べると、結晶性シリコンの切粉又は切削屑が、極めて微細なシリコン微細粒子へと粉砕されたものである。
ここで、多結晶のシリコンにおいては、結晶粒界が破壊の起点として働きやすいものとの技術常識を考慮すると、たとえ粉砕前の結晶性シリコンの切粉又は切削屑に、単結晶だけでなく多結晶のシリコンが含まれていた(明細書の【0037】を参照)としても、上記粉砕により粉砕された後の「シリコン微細粒子」は、単結晶、すなわち、単一の結晶子となっていることは明らかである。
よって、請求項1における「シリコン微細粒子」は、単一の結晶子であるといえ、請求項1における「シリコン微細粒子」の「モード径及びメジアン径」は、「結晶子(=シリコン微細粒子)のモード径及びメジアン径」であるといえる。
また、発明の詳細な説明の【0055】、【0056】には、シリコン微細粒子の結晶子のモード径及びメジアン径について、個数分布においては5nm以下、体積分布においては10nm以下であることが記載されている。
したがって、請求項1における「前記シリコン微細粒子の個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下」であることは、発明の詳細な説明に記載されているといえる。
請求項1を引用する請求項2、請求項3、及び、同じ記載のある請求項4、請求項5についても同様のことがいえる。
よって、請求項1-5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、本件発明1-5に係る特許は、取り消すべきものとはいえない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第1項第3号、同条第2項)について

申立人は、本件発明1、3-5は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1、3-5に係る特許は取り消すべきものであり、また、本件発明1-5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、本件発明1-5に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。

申立人が提出した、本件特許に係る出願の日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2011-90947号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審により付与した。

「【0001】
本発明は、負極活物質層がケイ素を構成元素として有する複数の負極活物質粒子を含んでいるリチウムイオン二次電池用負極、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。」

「【0010】
近年、ポータブル電子機器は益々高性能化および多機能化しているため、その消費電力は増大する傾向にある。これにより、リチウムイオン二次電池の充放電は頻繁に繰り返されるため、その初回充放電特性およびサイクル特性は低下しやすい状況にある。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、初回充放電特性およびサイクル特性を確保することが可能なリチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を提供することにある。」

「【0044】
[負極の製造方法]
負極10は、例えば、以下の手順により製造される。
【0045】
負極活物質(複数の負極活物質粒子201)を準備する場合には、ボールミル、ビーズミルあるいはジェットミルなどを用いてシリコンウェハを粉砕したのち、マイクロスピンを用いて乾式分級する。この場合には、粉砕時間などの条件を変更すれば、負極活物質粒子201のメジアン径を調整可能である。また、粉砕後の粒子を減圧雰囲気中で焼成する場合には、必要に応じて減圧条件および焼成条件を変更すれば、負極活物質粒子201の結晶子サイズを調整可能である。
【0046】
または、研磨装置などを用いてシリコンウェハの表面を切削研磨し、ケイ素の粒子を含む廃液を回収したのち、マイクロスピンを用いて乾式分級する。こののち、粒子の水分を除去してからフッ化水素(HF)を主成分とする混酸を用いて粒子を洗浄することが好ましい。粒径分布がシャープになるからである。この場合には、研磨条件などを変更すれば、負極活物質粒子201のメジアン径を調整可能である。」

「【0128】
次に、負極54を作製した。最初に、ジェットミルを用いてシリコンウェハを粉砕し、得られた粒子をマイクロスピンを用いて乾式分級したのち、必要に応じて減圧雰囲気中で焼成して、負極活物質(複数の負極活物質粒子)であるケイ素粉末を得た。この場合には、結晶子サイズ、メジアン径および平均円形度が表1?表4に示した値になるように粉砕条件、減圧条件および焼成条件を調整した。…」





以上の記載、特に、下線部の記載、及び、表1における実験例1-1、1-2、1-3の結晶子サイズ、メジアン径、平均円形度の数値によれば、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「最初に、ジェットミルを用いてシリコンウェハを粉砕し、得られた粒子をマイクロスピンを用いて乾式分級したのち、必要に応じて減圧雰囲気中で焼成して、複数の負極活物質粒子であるケイ素粉末を得、この場合に、負極活物質粒子の結晶子サイズが1nm,2nm,4.5nmのいずれかであり、メジアン径が2μm、平均円形度が0.4になるように粉砕条件、減圧条件および焼成条件を調整したリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。」

本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明は、「リチウムイオン二次電池用負極の製造方法」の発明であって、「ジェットミルを用いてシリコンウェハを粉砕し、・・・複数の負極活物質粒子であるケイ素粉末を得」るものであり、得られた負極活物質粒子は、「結晶子サイズが1nm,2nm,4.5nmのいずれかであり、メジアン径が2μm、平均円形度が0.4」のものであるから、「シリコン微細粒子」ともいえるものである。
したがって、甲1発明は、「シリコン微細粒子を形成する粉砕工程を含むリチウムイオン電池の負極材料の製造方法」といえ、この点で本件発明1と甲1発明とは一致する。
したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。

<一致点>
シリコン微細粒子を形成する粉砕工程を含むリチウムイオン電池の負極材料の製造方法。

<相違点>
本件発明1では、「前記粉砕工程において、粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑を粉砕することにより得られる前記シリコン微細粒子の個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下であり、かつ
前記シリコン微細粒子の凝集体又は集合物が複層花弁状又は鱗片状である」のに対し、甲1発明では、そのような特定はされていない点。

相違点について検討する。
甲1発明は、結晶子サイズが1nm,2nm,4.5nmのいずれかであり、メジアン径が2μm、平均円形度が0.4の負極活物質粒子を製造する方法であるが、本件発明1のように、「個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下」である「シリコン微細粒子」を得るものではなく、粉砕工程により得られる粒子のメジアン径は、甲1発明のメジアン径が個数分布と体積分布の何れであるとしても2μmであるから、本件発明におけるメジアン径とは大きく異なるものである。また、モード径については甲1発明では特定されていない。
また、「平均円形度0.4」の粒子というだけでは、粒子の形状までは特定できず、「シリコン微細粒子の凝集体又は集合物が複層花弁状又は鱗片状である」と断定し得る根拠は見当たらない。
なお、申立人は、特許異議申立書の「3(4)イ 本件特許発明1と甲第1号証との対比(オ)」において、本件発明における「鱗片状」とはどのようなものであるか発明の詳細な説明には定義がなく、本件発明は不明確である旨主張している。しかしながら、「鱗片状」の文言自体は、うろこ状の形状を表す用語として普通に用いられるものであり、また、本件図面【図3B】、並びに【図3C】(a)(b)のZ部分には、「シリコン微細粒子又はその凝集体は、いわば薄層状のシリコン微細粒子が複層花弁状又は鱗片状に折重なった状態の凝集物又は集合物であることが確認できる」(本件明細書の【0053】)ことを示す図面が記載されているから、本件発明における「鱗片状」の意味は、一般的な文言自体の意味と本件明細書又は図面の記載に基づいて定義されていることは当業者にとって明らかであるといえ、「鱗片状」とはどのようなものであるか発明の詳細な説明に定義の記載がないことのみをもって、本件発明が不明確であるとまではいえない。

以上のとおり、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点で実質的に相違するから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。
また、上記相違点を克服して本件発明1が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるといえる客観的かつ具体的な根拠は見当たらない。
さらに、本件発明2-5は、いずれも、本件発明1の上記相違点に係る発明特定事項を有しているから、同じ理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるともいえない。
よって、本件発明1-5は、特許法第29条の規定に違反しないものであるから、請求項1-5に係る特許を取り消すことはできない。

(3)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第6項第1号)について

申立人は、特許権者が本件特許発明の審査において提出した意見書によると、「結晶性シリコンをボールミル機による粉砕の後にビーズミル機によって粉砕すること」が、本件発明の課題を解決するために必要な要件であり、該要件による特定のない本件発明は、発明の課題を解決できない場合があるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。

本件発明の課題は、発明の詳細な説明によれば、従来から開示されているシリコン粒子は、リチウムイオン電池の負極特性が悪い上、産業的な利用性が未だ十分でないというものである。
本件発明は、発明の詳細な説明によれば、「粒子径が180ミクロン未満の結晶性シリコンの切粉又は切削屑を粉砕することにより得られる」、「シリコン微細粒子の個数分布においてはモード径及びメジアン径が5nm以下であり、前記シリコン微細粒子の体積分布においてはモード径及びメジアン径が10nm以下であり、かつ 前記シリコン微細粒子の凝集体又は集合物が複層花弁状又は鱗片状である」、「シリコン微細粒子を形成する粉砕工程」を採用したものであり、このことにより、上記課題が解決できるものである。
具体的には、発明の詳細な説明には、次のように記載されている。
「【0037】
・・・本実施形態においては、従来、云わば廃材とされてきたシリコンの切粉等を出発材として、リチウムイオン電池の負極材料を構成するシリコン微細粒子を形成するため、製造コスト及び又は原材料の調達の容易性、及び資源の活用性の観点で優れている。」
「【0043】
なお、本実施形態においては、粒径φ0.5mmのジルコニアビーズを約450g導入し、回転数2908rpm、4時間の微粉砕処理が行われることによって、シリコン微細粒子を得ることができる。また、粉砕工程(S2)においては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミル、衝撃波粉砕機の群からなる粉砕機のうちの上述以外のいずれか、又は2種以上の組み合わせによって粉砕処理を行うことも、採用し得る他の一態様である。また、粉砕工程(S2)において用いられる粉砕機として、自動の粉砕機のみならず手動の粉砕機が採用されても良い。」
「【0063】
そうすると、本実施形態の粉砕工程(S2)後又は酸化膜除去工程(S3)後のシリコン微細粒子又はその凝集体をリチウムイオン電池の負極材として用いることによって、リチウムイオン電池の正極材料中から電離したリチウムイオン(Li+)が負極に到達したときに、リチウムイオン(Li+)が複層花弁状又は鱗片状に多重に折重なった状態の凝集体の襞部間隙に入り込み易く、また出易いという特有の効果が奏され得る。」
これらの記載によれば、シリコンの切粉等を出発材として用いたこと、粉砕工程後の(特定の径の)シリコン微細粒子の凝集体又は集合物が複層花弁状又は鱗片状であることなどにより、上記課題が解決でき、また、課題解決は、粉砕工程で用いる粉砕機には依らないことが当業者に理解できる。
したがって、粉砕を「ボールミル機による粉砕の後にビーズミル機によって粉砕する」ものに限定しなくても、請求項に規定された上記粉砕工程を採用することにより、上記課題が解決できるものであり、「ボールミル機による粉砕の後にビーズミル機によって粉砕」しなければ上記課題が解決できないとする理由も見当たらない。
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
よって、本件発明は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合し、請求項1-5に係る特許を取り消すことはできない。

(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第6項第2号)について

申立人は、本件発明は、「シリコン微細粒子の…モード径、メジアン径」について特定されている(すなわち、結晶子のモード径、メジアン径について特定されているのではない)が、発明の詳細な説明では、シリコン微細粒子の(111)方向結晶子径のモード径、メジアン径を測定しているから、本件発明と発明の詳細な説明との間には齟齬があり、発明が明確でない旨主張している。

しかしながら、上記(1)で述べたように、本件発明における「シリコン微細粒子」は、単一の結晶子であるといえ、「シリコン微細粒子」の「モード径及びメジアン径」は、「結晶子(=シリコン微細粒子)のモード径及びメジアン径」であるといえるから、本件発明と発明の詳細な説明との間に申立人の主張するような齟齬はなく、本件発明は明確である。
よって、本件発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合し、請求項1-5に係る特許を取り消すことはできない。

第3.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1-5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-01 
出願番号 特願2015-507275(P2015-507275)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 市川 篤  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 千葉 輝久
小川 進
登録日 2016-01-15 
登録番号 特許第5866589号(P5866589)
権利者 株式会社KIT 小林 光 日新化成株式会社
発明の名称 リチウムイオン電池の負極又は負極材料の製造方法  
代理人 河野 広明  
代理人 河野 広明  
代理人 河野 広明  

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