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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
管理番号 1325889
異議申立番号 異議2015-700281  
総通号数 208 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-04-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-09 
確定日 2017-02-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第5731093号発明「インクジェットインクの脱気方法およびインクジェットインクの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5731093号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第5731093号に係る出願(特願2007-547897号、以下「本願」という。)は、平成18年11月17日(先の出願に基づく優先権主張:平成17年11月30日及び平成18年1月6日、特願2005-345472号及び特願2005-345473号並びに特願2006-1265号)の国際出願日になされたものとみなされる出願人コニカミノルタ株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりなされた特許出願であり、平成27年4月17日に特許権の設定登録がなされたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成27年12月9日付けで異議申立人伊村友彰(以下「申立人」という。)により「特許第5731093号の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がなされた。

3.以降の手続の経緯
申立後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 3月14日付け 取消理由通知
平成28年 4月27日 面接(特許権者)
平成28年 5月16日 意見書
平成28年 8月 5日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成28年10月11日付け 意見書
(平成28年10月12日受付)

第2 本件特許に係る発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の請求項1ないし7にそれぞれ記載された事項で特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも顔料を含有する、25℃における粘度が10mPa秒以上50mPa秒以下であるインクジェットインクに対して、外部還流型の中空糸脱気モジュールを使用して、脱気時の該中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力が0.05MPa以下の条件で脱気を行うことを特徴とするインクジェットインクの脱気方法
【請求項2】
前記インクジェットインクに含有される顔料が分散剤により分散されていることを特徴とする請求の範囲第1記載のインクジェットインクの脱気方法。
【請求項3】
前記インクジェットインクが、少なくとも、水、水溶性有機溶剤を含有する水性顔料インクであることを特徴とする請求の範囲第1項又は請求の範囲第2項記載のインクジェットインクの脱気方法。
【請求項4】
前記インクジェットインクの表面張力が25mN/m以上38mN/m以下であることを特徴とする請求の範囲第1項?第3項の何れか1項記載のインクジェットインクの脱気方法。
【請求項5】
前記中空糸の外径が150μm以上250μm以下であり、かつ、内径が50μm以上180μm以下であることを特徴とする請求の範囲第1項?第4項の何れか1項記載のインクジェットインクの脱気方法。
【請求項6】
前記中空糸の材質が4-メチルペンテン-1またはフッ素樹脂であることを特徴とする請求の範囲第1項?第5項の何れか1項記載のインクジェットインクの脱気方法。
【請求項7】
請求の範囲第1項?第6項の何れか1項記載のインクジェットインクの脱気方法による脱気工程を有することを特徴とするインクジェットインクの製造方法。」
(以下、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明7」といい、併せて「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、本件異議申立書において、下記甲第1号証及び甲第2号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の(1)ないし(3)が存するとしている。

(1)本件特許の請求項1(ないし7)に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるから、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1」という。)
(2)本件特許の請求項1(ないし7)に関して、同(各)請求項の記載が不備であるから、特許法第36条第6項第1号又は同項第2号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしておらず、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2」という。)
(3)本件発明1ないし7は、いずれも甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由3」という。)

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特開2002-317131号公報
甲第2号証:特開平9-94447号公報
(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、依然として、
上記取消理由3につき理由があるから、他の取消理由につき検討するまでもなく、本件発明1ないし7についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。
以下、詳述する。

I.取消理由3について

1.各甲号証の記載事項及び記載された発明
上記取消理由3は、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1及び甲2に記載された事項の摘示及び当該事項に基づく甲1に係る引用発明の認定を行う。

(1)甲1の記載事項及び記載された発明

ア.甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審が付したものである。)

(a-1)
「【請求項1】 インキを脱泡させる方法であって、この方法は、以下の段階:その中にガスを連行したインキを用意し、
複数のポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜を含んでなる膜接触器を用意し、該膜は接触器内で管腔側と外殻側を限定し、
真空を用意し、
接触器の外殻側にガスを連行したインキを通過させ、
接触器の管腔側に真空を適用し、
膜を横切ってガス連行インキの脱泡を行うことを含む、インキの脱泡法。
【請求項2】 インキは、室温で、水の表面張力より低い表面張力を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】 インキは、粘度0.8?10センチポアズ、比重0.7?1.5g/ml及び表面張力20?40ダイン/cmを有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】 膜接触器は、外部流動中空繊維膜モジュールである、請求項1記載の方法。
【請求項5】 膜は、活性表面積0.1?20m^(2)を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】 膜は、100バレル未満の透過性を有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】 膜は、単層を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】 膜は、半透性で、ガス選択性、不均質、液体不浸透性の膜である、請求項1記載の膜。
【請求項9】 膜は、ポリメチルペンテンのホモポリマーである、請求項1記載の方法。
【請求項10】 モジュールは、バッフルを含む、請求項4記載の方法。
【請求項11】 真空は、25?200トールの範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項12】 インキを脱泡するための方法であって、以下の段階:その中にガスを連行したインキを用意し、該インキは、粘度0.8?10センチポアズ、比重0.7?1.5g/ml及び表面張力20?40ダイン/cmを有し、
複数の全体に非対称な中空繊維微多孔質膜を含んでなる膜接触器を用意し、該膜は接触器内で管腔側と外殻側を限定し、かつ活性表面積0.1?20m^(2)を有し、
真空を用意し、真空は、25?200トールの範囲であり、
接触器の外殻側にガス連行インキを通過させ、
接触器の管腔側に真空を適用し、
膜を横切ってガス連行インキの脱泡を行う
ことを含む、インキの脱泡法。
【請求項13】 膜は、ポリメチルペンテンのホモポリマーである、請求項11記載の方法。」

(a-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、膜接触器を使用して、インキを脱泡する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】液体を脱ガスするために、中空繊維膜接触器(hollow fiber membrane contactor)を使用することが公知である。例えば、Celgard Inc. of Charlotte,North Carolinaから市販されているLIQUI-CEL SemiPer(登録商標名)膜接触器を参照のこと。この接触器は、フルオロポリマーで塗布された、均一で、ノンスキンで、対称的なポリプロピレン微多孔質中空繊維膜を利用し、かつ感光性現像液、石版印刷プレート溶液及び写真フィルム及び原紙エマルジョンからガスを除去するのに使用されていた。この接触器では、中空繊維外面を前記液体が流れる。
【0003】インキ、例えばインキジェットプリンター用インキは、泡の形成に敏感である。インキが吐き出されるにつれての泡形成は、特に、印刷適用の質又はカートリッジ充填操作に対し有害となり得る。例えば参考として本明細書中に組み入れられているEuropean Publication 1033163のパラグラフ0014を参照のこと。
・・(中略)・・
【0007】特開平10-298470(及びその関連事例European Publication1052011)は、多孔質及び非孔質層を備えた複合(又は接合又は多層)膜の使用を開示しており、特に、ポリメチルペンテン(又はPMP又はポリ(4-メチルペンテン-1))の使用を示唆しており(パラグラフ0018?0020)、インキは、膜の管腔側を流れる(要約)。
・・(中略)・・
【0010】前記のそれぞれは、脱泡の目的を達成するのに適度に成功しているが、簡単かつ費用をあまりかけず、インキから連行ガスを除去する方法の需要がまだある。」

(a-3)
「【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、簡単かつ費用をあまりかけず、インキから連行ガスを除去する方法を提供することである。本発明は、インキの脱泡(又は脱ガス)の方法を指向する。」

(a-4)
「【0014】
【発明の実施の形態】図面に関しては、同じ数字は同じ要素を示す。図1にインキ脱泡システム10が示されている。インキ脱泡システム10は、インキ溜12を含む。膜接触器14は、溜12と液結合している。末端使用アプリケーション16は、膜接触器14と液結合している。末端使用アプリケーションは、インキジェットプリントヘッド(サーマル又はピエゾ電気)、インキカートリッジ充填ステーション又はインキであってよいが、これらに限定されるものではない。
【0015】ここで使用されるように、インキは顔料又は染料を含有する液体である。インキは、有利には、室温での水(即ち、20℃で72.75ダイン/cm及び30℃で71.20ダイン/cm)より低い表面張力を有する。これらのインキは、有利には、コンピュータのプリンタ又は他のインキジェットタイプのプリンタで使用される。そのようなインキは、有利には、粘度0.8?10センチポアズ(CPS)、比重0.7?1.5g/ml及び表面張力20?40ダイン/cmを有する。
【0016】膜接触器14は、外部流動中空繊維膜モジュールであり、これは、以下に詳細に記述する。中空繊維膜接触器は、公知である。例えば、米国特許番号3228877、3755034、4220535、4940617、5186832、5264171、5284584、5449457を参照。このそれぞれは、参考として本明細書中に組み入れられている。膜接触器14は、管腔側及び外殻側を有する。内側として公知でもある管腔は、中空繊維の管腔により、大部分が限定されている。外側として公知でもある外殻側は、部分的に、中空繊維の外面により限定されている。インキは、外殻側(又は外側)を通って移動し、一方、真空(又は真空及び掃気ガス)が管腔側(又は内側)に適用される。そのことにより、インキからの連行ガスは、外殻側から、膜を抜けて、管腔側へと通過する。接触器14は、インキ(又は他の液体)に対し不活性又は無反応である成分から製造される。有利には、これらの成分は、プラスチックであるが、金属を使用することもできる。
【0017】膜は、半透性、ガス選択性、不均質、全体に非対称で液不浸透性の膜であるのが有利である。膜は、100バレル未満(10^(-8) standard cm^(3).cm/秒.cm^(2).cm(Hg))の浸透性を有する。膜は、有利には、活性表面積0.1?20m^(2)を有する。膜は、有利には、スキン付き膜であり、スキンは外殻側上にある。膜は、有利には単層膜(例えば、複合又は多層膜ではない)であり、ポリメチルペンテンのホモポリマーから製造されている。例えば、本明細書中に参考として組み入れられている、米国特許番号4664681を参照のこと。
【0018】図2に関しては、インキ22は、中心チューブ26のインキ入口24を経て接触器14に入ってくる。中心チューブ26は、ブロック46の直前に孔が空けられた区域28を含む。インキ22は、中心チューブ26の入口24を通って移動し、ブロック46により転じられて、孔あき部(perforation)28を経てチューブ26を出る。次いで、インキ22は、中空繊維34の外面上を移動する。インキ22は、ブロック30の反対側上の孔あき部28を経て、中心チューブ26に再突入し、インキ出口32を経てチューブ26を出る。中空繊維34は、中心チューブ26を取り囲み、チューブシート36を介して、チューブ26の軸に一般に平行に保持される。中空繊維34は、チューブシート(tube sheet)36を抜けて延伸し、接触器14のどちらかの端部のヘッドスペース(headspace)38と連絡し、その結果、ポート40と42で引かれた真空44は、ヘッドスペース38を経て、管腔側と連絡する。例えば、ポート40は、掃気ガスを導入するのにも使用でき、この掃気ガスは、連行ガスの除去を促進する。
【0019】図3に関しては、接触器14’は、図2に示されたものと同じであるが、外殻側内に、流れを転換するバッフル46が位置し、ポート40が動かされていた。バッフル46は、中空繊維34の全ての外面にわたってインキの分布を促進するために追加されている。ポート40を移動させて、ポート位置の非重要性を図示する。
【0020】図4に関しては、接触器14”は、図示されるように、インキ出口32を中心チューブ26の終端から接触器外殻へと移動させた点で、接触器14及び14’とは異なる。真空44は、ヘッドスペース38と連絡し、これは、次に、中空繊維34の管腔と連絡する。前記態様で図示される第二のヘッドスペースは、削除されている。インキ22は、中心チューブ26のインキ入口24に進入する。インキ22は、孔あき部28を経て、チューブ26から出て行き、中空繊維34の外面を移動し、出口32を経て外殻側から出る。出口32は、外殻との連絡を保持するために、接触器の外側の他の位置にも置くことができる。」

(a-5)
【0021】操作の際に、泡を形成する連行ガスは、膜を横切る濃度差、即ち拡散、によりインキから除去される。25?200トールの範囲の真空は、膜の管腔側に施され、ガス連行インキは、膜の外殻側(又は外面)に接触する。濃度(ガスの分圧)差は、ガスを、外殻側のインキから、膜を通って、管腔側へと押しやる。更に、インキを管腔に対して、外殻側(又は外側)を通して送ることにより、接触器を通るインキの圧力降下を著しく減じる。このことは、外殻側スペースよりも、管腔を通る通路が一層大きな流れ抵抗を与えるからである。図5では、本発明による接触器の作業が、CELGARD社のSemiPer接触器の作業と比較されている。グラフは、20℃、35トール真空での水流速(l/分)の関数として「溶解酸素(DO)の除去効率(%)」を図示する。インキの替わりに水を使用するが、接触器の作業は、前記条件での前記インキと類似しているように思える。上の曲線は、本発明(直径2.5インチ)の作業を表し、下の曲線は、SemiPer接触器(直径2.5インチ)の作業を表す。」

(a-6)
「【図面の簡単な説明】
【図1】インキ脱泡システムの概略図である。
【図2】本発明により製造された、第一態様の膜接触器の概略図である。
【図3】第二態様の膜接触器の概略図である。
【図4】第三態様の膜接触器の概略図である。
【図5】本発明の接触器の作業に対するCELGARD社のSemiPer接触器の作業を図示するグラフである。
【符号の説明】
14、14’、14” 接触器
22 インキ
24 インキ入口
26 中心チューブ
28 孔あき部
32 インキ出口
34 中空繊維
38 ヘッドスペーサー
44 真空
46 バッフル」

(a-7)
「【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】




イ.甲1に記載された発明
上記甲1には、上記(a-1)ないし(a-7)の各記載(特に(a-1)及び(a-4)【0015】参照)からみて、
「顔料を含有するインキジェットタイプのプリンタで使用されるインキを脱泡するための方法であって、以下の段階:その中にガスを連行したインキを用意し、該インキは、粘度0.8?10センチポアズ及び表面張力20?40ダイン/cmを有し、複数の全体に非対称なポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜を含んでなる膜接触器を用意し、該膜は接触器内で管腔側と外殻側を限定し、かつ活性表面積0.1?20m^(2)を有し、真空を用意し、真空は、25?200トールの範囲であり、接触器の外殻側にガス連行インキを通過させ、接触器の管腔側に真空を適用し、膜を横切ってガス連行インキの脱泡を行うことを含む、インキの脱泡法。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)及び
「甲1発明1の脱泡法による脱泡工程を有する、顔料を含有するインキジェットタイプのプリンタで使用されるインキの製造方法。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているものと認められる。

(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。

(b-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】薬液貯蔵タンク、薬液供給口及び脱気手段を有する薬液供給装置において、薬液貯蔵タンクから薬液供給口に薬液を搬送するライン中に脱気手段を設けたことを特徴とする薬液供給装置。
【請求項2】脱気手段が膜によるものであることを特徴とする請求項1記載の薬液供給装置。
【請求項3】膜による脱気手段が中空糸膜モジュ-ルであることを特徴とする請求項2記載の薬液供給装置。
【請求項4】中空糸膜モジュ-ルが内部かん流型中空糸膜モジュ-ルであることを特徴とする請求項3記載の薬液供給装置。
【請求項5】中空糸膜モジュ-ルが外部かん流型中空糸膜モジュ-ルであることを特徴とする請求項3記載の薬液処理装置。
【請求項6】中空糸膜が多孔質膜であることを特徴とする請求項3?5のいずれか1項に記載の薬液供給装置。
【請求項7】中空糸膜が均質膜であることを特徴とする請求項3?5のいずれか1項に記載の薬液供給装置。
【請求項8】中空糸膜が非対称膜であることを特徴とする請求項3?5のいずれか1項に記載の薬液供給装置。
【請求項9】非対称膜が、ポリ-4-メチルペンテン-1からなる不均質膜であることを特徴とする請求項8記載の薬液供給装置。
【請求項10】薬液が現像液である請求項1?9のいずれか1項に記載の薬液供給装置。
【請求項11】薬液貯蔵タンクから薬液供給口に薬液を搬送するライン中に設けられた脱気手段により、薬液貯蔵タンクから薬液供給口に搬送中の薬液を脱気することを特徴とする薬液の脱気方法。
【請求項12】脱気手段が、中空糸膜モジュ-ルである請求項11記載の薬液の脱気方法。
【請求項13】中空糸膜がポリ-4-メチルペンテン-1からなる不均質膜であることを特徴とする請求項12記載の薬液の脱気方法。
・・(後略)」

(b-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は薬液供給装置及び薬液の脱気方法に関し、特に、半導体製造工程の薬液供給装置、例えばレジスト液供給装置、現像液供給装置及び、例えばレジスト液、現像液等の薬液の脱気方法に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体製造工程では、供給された薬液に気泡が混入することにより、種々の不都合が生じる場合がある。例えば半導体ウェハ上に積層される薄膜にレジストを塗布し、パタ-ンが形成されたマスクを通して露光、現像後エッチングして薄膜にパタ-ンを形成させるリソグラフィ-工程において、レジスト液あるいは現像液に気泡が混入したまま半導体ウェハにスピンコ-トすると処理ムラによるパタ-ン不良が生じる、等のトラブルが発生する。
【0003】このため、例えば特開昭61-198723のように空気抜きを設ける方法が提案されているが、この場合の脱気効果は不十分であった。更に、特開平3-1341、特開平4-197434には、現像液貯蔵タンクに貯蔵されている現像液を脱気する方法が提案されているが、タンクから吐出ノズル(供給口)に現像液が搬送される際に搬送用の気体等が混入又は過溶解し、吐出ノズルから供給された時点での気泡の混入又は発生は避けられなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題を解決するものであり、本発明の目的は供給口から供給された薬液に気泡が混入しないように改善された薬液供給装置及び薬液の脱気方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題について鋭意研究した結果、薬液の貯蔵タンクから薬液供給口に薬液を搬送するラインに脱気手段を設け、該脱気手段により薬液を脱気することで、薬液供給口から供給される薬液に気泡が発生しないことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】即ち本発明は、薬液貯蔵タンク、薬液供給口及び脱気手段を有する薬液供給装置において、薬液貯蔵タンクから薬液供給口に薬液を搬送するライン(以下単に薬液搬送用ラインと称する)中に、脱気手段を設けたことを特徴とする薬液供給装置及び、薬液貯蔵タンクから薬液供給口に薬液を搬送するライン中に設けられた脱気手段により、薬液貯蔵タンクから薬液供給口に搬送中の薬液(以下単に搬送中の薬液と称する)を脱気することを特徴とする薬液の脱気方法に関する。」

(b-3)
「【0010】本発明の脱気手段は、薬液貯蔵タンクと薬液供給口を結ぶライン上に設置する必要がある。本発明の薬液供給装置の脱気手段としては、薬液に対する実用上の耐食性及び使用条件における耐圧性、耐熱性があるものであれば特に限定されるものではないが、搬送ライン中により簡単に設置するには、膜による脱気手段を使用することが好ましく、例えば膜モジュールを用いることが好ましく、更にモジュ-ルがコンパクトで装置全体がコンパクト化できる中空糸膜モジュ-ルを使用することがより好ましい。
【0011】 更に、装置全体を簡略化するために、搬送ラインの同一配管中に中空糸膜モジュ-ルを組み込むことが可能であり、この場合、内部かん流型中空糸膜モジュ-ルを使用することが好ましい。また、薬液の搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジュ-ルを通過する際に生じる圧力損失が問題になることがあるが、この場合は、一般的に圧力損失が小さい外部かん流型中空糸膜モジュ-ルが好ましく使用できる。」

(b-4)
「【0017】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を説明する。本発明の薬液供給装置は、薬液貯蔵タンク、薬液供給口及び脱気手段を有する薬液供給装置であれば良く、薬液貯蔵タンク1と薬液供給口2を繋ぐ薬液搬送用ライン4に脱気手段3が設置され、脱気手段からの気体排出用に真空ポンプ5を有し、薬液7の搬送用に不活性気体8の供給ライン6を有する薬液供給装置(図1)が例示できるが、これに限定されるものではなく、実施に際しては、流量計、温度計、圧力計、気体濃度計等の計器類、薬液流量調整バルブ、気体流量調整バルブ等の制御機器を必要に応じて任意に使用できる。
【0018】本発明の薬液供給装置の薬液供給量(薬液流量)は特に限定されるものではないが、薬液供給量に応じて脱気手段の処理能力を考慮することが好ましく、例えば、脱気手段が中空糸膜モジュ-ルの場合には、薬液流量に対して一定基準の脱気を行うのに必要な膜面積を有する中空糸膜モジュ-ルを使用することが好ましい。
【0019】更に、薬液の種類、薬液供給量に応じて脱気手段に発生する圧力損失も考慮する必要が有り、薬液の搬送圧力等の運転条件に合わせて最適の脱気手段を選定することが好ましい。特に、脱気手段として中空糸膜モジュ-ルを用いる場合は、運転条件に合わせて内部かん流型中空糸膜モジュ-ルと外部かん流型膜モジュ-ルとを使い分けることが可能である。
【0020】本発明の薬液貯蔵タンクから薬液供給口に薬液を搬送するライン中に設けられた脱気手段により、薬液貯蔵タンクから薬液供給口に搬送中の薬液を脱気することを特徴とする薬液の脱気方法は、気体を系外に排出できる方法であれば良く、例えば、膜モジュ-ルを用いて脱気する方法としては、膜を介して薬液と反対側の空間に気体を排出するために、一般的には、真空ポンプ他の減圧源を用いて気膜を介して薬液と反対側の空間を減圧にして気体を排出する。減圧の度合いは、特に限定されるものではなく、運転条件、要求する脱気レベルに応じて任意に設定できる。ただし、薬液の飽和蒸気圧よりも低い圧力まで減圧した場合には、薬液の気化が促進され薬液の蒸気が系外に大量に排出されることもあり、薬液の蒸気の分離、回収設備が必要となる、薬液が真空ポンプ他の減圧源に混入し装置故障を起こす等の問題が発生すると考えられる場合には、薬液の飽和蒸気圧よりも高い圧力までの減圧に留めるほうが好ましい。
【0021】また、特定の気体成分のみを排出する場合には、該気体成分を含まない気体を反対側の空間に流すことにより、特定の気体のみを排出することもでき、例えば、実質的に酸素を含まない窒素を膜を介して薬液と反対側の空間に所定流量流すことにより、酸素の排出を行うことが可能である。」

2.対比・検討

(1)本件発明1について

ア.対比
本件発明1と上記甲1発明1とを対比すると、本件発明1と甲1発明1とは、
「顔料を含有するインクジェットインクに対して、外部還流型の中空糸脱気モジュールを使用して、脱気を行うことを特徴とするインクジェットインクの脱気方法」
の点で一致し、下記の2点で相違するものといえる。

相違点1:本件発明1では「25℃における粘度が10mPa秒以上50mPa秒以下であるインクジェットインク」であるのに対して、甲1発明1では「インキは、粘度0.8?10センチポアズ」である点
相違点2:本件発明1では「脱気時の該中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力が0.05MPa以下の条件で脱気を行う」のに対して、甲1発明1では脱泡時のインキの圧力につき特定されていない点

イ.各相違点についての検討

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、甲1発明1における「粘度0.8?10センチポアズ」なる範囲は、本件発明1における「10mPa秒以上50mPa秒以下」なる範囲との間で、10センチポアズ、すなわち10mPa秒の点で数値上重複するものと認められ、また、甲1には、「インキは顔料又は染料を含有する液体である。インキは、有利には、室温での水(即ち、20℃で72.75ダイン/cm及び30℃で71.20ダイン/cm)より低い表面張力を有する。これらのインキは、有利には、コンピュータのプリンタ又は他のインキジェットタイプのプリンタで使用される。そのようなインキは、有利には、粘度0.8?10センチポアズ(CPS)、比重0.7?1.5g/ml及び表面張力20?40ダイン/cmを有する。」(摘示(a-4)【0015】参照)と記載されているとおり、あくまで「有利には」とされているのみであって、10センチポアズを超える粘度を有するインキにつき、当該脱泡方法を適用することを阻害する要因が存するものとも認められない。
また、上記甲2にも記載されている(摘示(b-3)【0011】参照)とおり、中空糸モジュールによる薬液の脱気という点で本件発明1と技術分野を同じくする薬液の脱気方法において「薬液の搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジュ-ルを通過する際に生じる圧力損失が問題になる」「場合は、一般的に圧力損失が小さい外部かん流型中空糸膜モジュ-ルが好ましく使用できる。」ことが、当業者に少なくとも公知の技術であるところ、甲2における「薬液」であるレジスト液は、通常、100?5000mPa・s程度の粘度を有する上市製品のレジスト液を、使用者の所望に応じて3?30mPa・s程度に希釈して用いる、すなわち、10mPa秒以下のみならず、10mPa秒を超える粘度のものとしても使用するのである(必要ならば国際公開第2009/133621号などを参照。)から、上記甲2の公知技術における外部還流型中空糸モジュールを使用する場合において、被処理物である薬液につき、10mPa秒を超える粘度のものとすることができるであろうことも当業者がその技術常識に照らして自明である。
してみると、外部還流型中空糸膜モジュールを使用して脱泡を行う甲1発明1のインキの脱泡法において、脱泡(脱気)処理を意図する物として、上記当業者の公知技術に基づき、規定より高粘度、例えば10mPa秒以上の範囲のインキにつき被処理物とすることは、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。
したがって、甲1発明1の脱泡方法を適用するインキの粘度範囲につき、所望に応じて「10mPa秒以上50mPa秒以下」なる範囲に規定することは、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、上記甲2にも記載されている(摘示(b-3)【0011】参照)とおり、薬液の脱気方法において「薬液の搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジュ-ルを通過する際に生じる圧力損失が問題になる」「場合は、一般的に圧力損失が小さい外部かん流型中空糸膜モジュ-ルが好ましく使用できる。」ことが、当業者に少なくとも公知の技術であるから、外部還流型の中空糸脱気モジュールを使用する甲1発明1において、「圧力損失」、すなわち本件発明1における「中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力」を一定値以下の小さい値、例えば「0.05MPa以下」なる低い圧力値に規定することは、当業者が当該公知技術に基づき、適宜なし得ることと認められる。
したがって、上記相違点2は、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)本件発明の効果について
本件発明の効果につき検討すると、本件発明の所期の効果は、本件特許明細書の記載(【0015】)からみて、「高粘度の顔料インクでありながら、インクの生産性、保存安定性、出射性、印刷時の粒状性に優れるインクジェットインクの脱気方法およびインクジェットインクの製造方法」の提供にあるものと認められる。
しかるに、インクの生産性(脱気処理速度)を向上するためには、インクの粘度等の他の物性が一定であるならば、脱気処理モジュールへのインクの送入圧力、すなわち本件発明1における「中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力」を増大制御し、インクの送入流量(すなわち処理流量)を増大させる必要があることは、当業者に自明であるところ、甲1には、インキの流速(流量)を減少させた方が、気体の除去効率が高いことが開示されている(摘示(a-5)及び(a-7)【図5】参照)から、外部還流型の中空糸脱気モジュールを使用する甲1発明1において、インキの生産性とのバランスを取りつつ、インキの送入流量、すなわち脱気処理モジュールへのインキの送入圧力を一定値以下に減少させることにより、インキの連行ガス(気体)の十分な除去を行うことができ、脱泡、すなわち発泡(キャビテーション)の防止が図られ、少なくとも本件発明における「出射性」の改善が図られるであろうことは、当業者が認識することができるものと認められる。
してみると、本件発明に係る上記所期の効果は、甲1発明1の効果から、当業者が予期することができない顕著なものということはできない。

ウ.小括
したがって、本件発明1は、甲1発明1及び上記当業者に知られた技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(2)本件発明2及び3について
本件発明1を引用する本件発明2及び3につき併せて検討すると、本件発明2及び3は、上記甲1発明1との対比において、上記(1)ア.で示した相違点1及び2で相違し、更に以下の点で新たに相違するものと認められ、その余の点で一致する。
相違点3:本件発明2では、「インクジェットインクに含有される顔料が分散剤により分散されている」、本件発明3では、「インクジェットインクが、少なくとも、水、水溶性有機溶剤を含有する水性顔料インクである」のに対して、甲1発明1では、「顔料を含有するインキジェットタイプのプリンタで使用されるインキ」である点
しかるに、上記相違点3につき検討すると、顔料が分散剤により分散されている、水、水溶性有機溶剤を含有する水性顔料インクジェットインクは、本件特許に係る出願前(優先日前)に家庭用等のインクジェットプリンター用のインクとして上市され、当業界ならずとも一般に周知慣用のものであると認められる(必要ならばキャノン株式会社又はセイコーエプソン株式会社の各ホームページ等並びに特許第3829370号公報等を参照のこと。)。
そして、本件特許明細書の記載を参酌しても、本件発明の「脱気方法」を適用するインクジェットインクにつき、「水系インクは、出射に対して特に精密な脱気が要求されるため、本発明の効果がより顕著に発揮される。」(【0031】)とされているのみであり、「顔料が分散剤により分散されている、水、水溶性有機溶剤を含有する水性顔料インクジェットインク」に特に限定すべき要因が存するものとは認められず、当該「インク」に適用する点に格別な技術的創意が存するものとも認められない。
してみると、甲1発明1において、脱泡すべき「顔料を含有するインキジェットタイプのプリンタで使用されるインキ」として、「顔料が分散剤により分散されている、水、水溶性有機溶剤を含有する水性顔料インクジェットインク」を選択することは、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。
したがって、上記相違点3は、当業者が適宜なし得ることであって、上記相違点1及び2についても、上記(1)イ.で説示したとおりの理由により、当業者が適宜なし得ることであるから、本件発明2及び3についても、甲1発明1及び上記当業者に知られた技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(3)本件発明4及び6について
本件発明1を引用する本件発明4及び6につき併せて検討すると、本件発明4及び6は、上記甲1発明1との対比において、上記(1)ア.で示した相違点1及び2で相違し、新たに相違する点はなく、その余の点で一致する。
そして、上記相違点1及び2については、上記(1)イ.で説示したとおりの理由により、当業者が適宜なし得ることであるから、本件発明4及び6についても、甲1発明1及び上記当業者に知られた技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(4)本件発明5について
本件発明1を引用する本件発明5につき検討すると、本件発明5は、上記甲1発明1との対比において、上記(1)ア.で示した相違点1及び2で相違し、更に以下の点で新たに相違するものと認められ、その余の点で一致する。
相違点4:本件発明5では、「前記中空糸の外径が150μm以上250μm以下であり、かつ、内径が50μm以上180μm以下である」のに対して、甲1発明1では、「ポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜を含んでなる膜接触器」の「該膜は接触器内で管腔側と外殻側を限定し、かつ活性表面積0.1?20m^(2)を有」する点
しかるに、上記相違点4につき検討すると、甲1には、甲1発明1における上記「活性表面積」につき、「膜は、半透性、ガス選択性、不均質、全体に非対称で液不浸透性の膜であるのが有利である。膜は、・・の浸透性を有する。膜は、有利には、活性表面積0.1?20m^(2)を有する。」(摘示(a-4)【0017】)と記載されており、当該記載からみて、当該「活性表面積」の範囲は、十分な脱泡を行うことに有利な範囲であるものと解される。
それに対して、本件特許明細書の記載(特に【0026】)を参酌すると、「中空糸の外径61が150μm以上250μm以下であり、かつ、内径62が50μm以上180μm以下であることが好ましい。中空糸の外径61が150μm未満であると強度的に作製が難しくなる。一方、中空糸の外径61が250μmを超えた場合は、中空糸の比表面積が小さくなり、脱気効率が低下する。また、内径62が50μm未満であると脱気効率が低下する。一方、内径62が180μmを超えた場合は、強度的に作製が難しくなる。」とされているとおり、本件発明において、中空糸の外径の上限値を250μmにした点及び内径の下限値を50μmとした点は、いずれの場合においても中空糸の比表面積が小さくなることなどによる脱気効率の低下を防止する、すなわち十分な脱気(脱泡)を行えるような脱気効率を確保できる範囲を規定しようとする点で、甲1発明1における「活性表面積」の範囲を規定した点と技術的趣旨が異なるものとは認められない。
(なお、中空糸の外径の下限値及び内径の上限値については、上記のとおり、いずれも強度的に中空糸自体の作成がそもそも困難となるのであるから、当該外径の下限値及び内径の上限値を規定した点に、格別な技術的意義が存するものとは認められない。)
してみると、甲1発明1において、「ポリメチルペンテン中空繊維微多孔質膜」につき、「活性表面積」の範囲により規定することに代えて、当該「中空繊維」の外径の上限値及び内径の下限値を含む各範囲にそれぞれ規定し、中空糸の比表面積を十分な範囲となるような範囲に規定することは、当業者が所望に応じて適宜なし得ることと認められる。
したがって、上記相違点4は、当業者が適宜なし得ることであって、上記相違点1及び2についても、上記(1)イ.で説示したとおりの理由により、当業者が適宜なし得ることであるから、本件発明5についても、甲1発明1及び上記当業者に知られた技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(5)本件発明7について
本件発明7と上記甲1発明2とを対比すると、以下の点でのみ相違し、その余、すなわち「脱気工程を有するインクジェットインクの製造方法」である点で一致する。
相違点5:「脱気工程」につき、本件発明7では、「請求の範囲第1項?第6項の何れか1項記載のインクジェットインクの脱気方法による脱気工程」であるのに対して、甲1発明2では、「甲1発明1の脱泡法による脱泡工程」である点
しかるに、上記相違点5につき検討すると、上記(1)で説示したとおり、本件発明1(請求の範囲第1項)に係る「インクジェットインクの脱気方法」は、甲1発明1及び上記当業者に知られた技術(甲2)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、甲1発明2における「甲1発明1の脱泡法による脱泡工程」を本件発明7における「請求の範囲第1項・・記載のインクジェットインクの脱気方法による脱気工程」に代えることも当業者が適宜なし得ることである。
また、その効果についても、甲1発明1及び上記当業者に知られた技術(甲2)を組み合わせたものから、当業者が予期することができない程度の格別顕著なものと認めることができない。
したがって、本件発明7は、甲1発明2及び上記当業者に知られた技術(甲2)に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。

(6)特許権者の主張について
特許権者は、平成28年5月16日付け意見書において、上記(1)で示した2点につき相違することを認めた上で、
(a)「(ii)相違点1について」として、『甲1に記載の室温(20℃)における粘度0.8?10センチポアズのインキは、25℃において、10mPa秒以上となることはありません。よって、本件特許発明1における脱気対象のインクの粘度範囲と、甲1発明1における脱泡対象のインキの粘度範囲は、重複しておりません。
また、仮に、甲1の段落0015に記載の粘度範囲が、「室温」(20℃)における値ではないとしても、当該粘度範囲が具体的に何℃における値であるのかは明記されておりませんので、本件特許発明1において脱気対象のインクの粘度範囲と、甲1発明1の脱泡対象のインキの粘度範囲が重複しているとは言えません。
更に、甲1発明1は、甲1の段落0021に記載されているように、25℃における粘度が10mPa秒よりもはるかに小さい「水」(すなわち、単一成分のみからなり、不溶成分を一切含まない。)を使用した例でのみ、その効果が確かめられているに過ぎず、甲1発明1にとって「有利でない」粘度範囲である、25℃における粘度10mPa秒以上50mPa秒以下の「顔料含有インク(複数成分からなり、不溶成分を含む。)」に対し、どのような条件で十分な脱泡が可能であるか、何ら記載も示唆もされておりません。
したがって、「有利でない」粘度範囲である、25℃における粘度が10mPa秒以上50mPa秒以下であって、しかも効果が実証されていない顔料(不溶成分)含有インクに対して、甲1発明1を適用することは、当業者であっても容易ではないものと思料致します。』及び
(b)「(iii)相違点2について」として、『本件明細書の段落0005に「25℃における粘度が10mPa秒以上の高粘度の顔料インクの脱気については、内径の数十ミクロンという細い中空糸(チューブ)にインクを流すときに大きな脱気時の圧力損失が生じ、高い圧力をインクにかける必要があった。この場合、脱気と前後して顔料インクに高い圧力が加わると顔料同士が凝集を引き起こしインクの保存安定性に著しく悪影響を及ぼした。」と記載されている通り、本件特許発明1において課題としている事項は、圧力損失そのものではなく、脱気時においてインクに高い圧力が加わることによって、顔料同士が凝集することを防ぐことであります。
一方、甲2の段落0011には、「薬液の搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジュールを通過する際に生じる圧力損失が問題になることがあるが、」と記載されています。・・(中略)・・そうすると甲2の「薬液の搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジユールを通過する際に生じる圧力損失が問題になる」の記載は、搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジュールを通過する際に生じるエネルギー損失、すなわち、下流側の圧力低下、流量及び流速が減少してしまうことが問題になる」と述べているだけに過ぎず、本件特許発明1で課題としているような「脱気時にインクに高圧が加わることによる顔料の分散不安定化」と何ら関係がありません。
したがって、甲2の記載から、外部還流型の中空糸脱気モジュールの入り口におけるインクの圧力を0.05MPa以下とすることは、当業者であっても容易ではないものと思料致します。』及び
(c)「(iv)甲1発明1と甲2に記載の技術との組み合わせについて」として、『甲2の段落0011には、「圧力損失が問題となる」ことの対応策として、「外部かん流型中空糸膜モジュールの使用」のみが解決手段として唯一記載されています。
甲2において問題視している「圧力損失」は、「外部かん流型中空糸膜モジュールの使用」により解決できるのだから、「外部かん流型中空糸膜モジュールの使用」が前提となっている甲1発明1には、当該「圧力損失」の問題が存在しておりません。
したがって、「圧力損失」が問題になっていない甲1発明1に、甲2に記載の技術を組み合わせること自体が、当業者にとって適宜なし得ることとは言えず、例え組み合わせたとしても、甲2の「薬液の搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジュールを通過する際に生じるエネルギー損失、すなわち、下流側の圧力低下、流量及び流速が減少してしまうことが問題になる」との記載から、甲1発明1の何をどのように変更するかは不明であります。
そうすると、本件特許発明1は、甲1発明1及び甲2に記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたとは言えないものと思料致します。』
と主張し(意見書第3頁第17行?第6頁末行)、さらに、平成28年10月11日付け意見書においても、略同旨の主張を行っている(意見書第2頁第18行?第8頁末行)。
・上記(a)の主張について
上記(a)につき検討すると、上記(1)イ.(ア)において説示したとおり、甲1には、10センチポアズを超える粘度を有するインキにつき、甲1発明1の脱泡法を適用することを阻害する要因が存するものとも認められないし、また、上記甲2にも記載されているとおり、薬液の脱気方法において「薬液の搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジュ-ルを通過する際に生じる圧力損失が問題になる」「場合は、一般的に圧力損失が小さい外部かん流型中空糸膜モジュ-ルが好ましく使用できる。」ことが、当業者に少なくとも公知の技術であるから、外部還流型中空糸膜モジュールを使用して脱泡を行う甲1発明1のインキの脱泡法において、上記当業者に公知の技術に基づき、規定より高粘度、例えば10?50mPa秒の範囲のインキに対して当該方法を適用することは、当業者が所望に応じて適宜なし得ることである。
なお、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、10mPa秒未満の粘度を有するインクにつき、本件発明に係る外部還流型中空糸モジュールを使用する脱気方法を適用した参考例が記載されており(【表2】「インクNo.1B」参照)、その場合、連続出射性に優れることも記載されているのであるから、本件発明に係るインク粘度10?50mPa秒の範囲の下限値10mPa秒なる規定につき、特段の技術的意義が存するものとも認められない。
また、特許権者は、甲1において、どのような条件で十分な脱泡が可能であるかにつき記載又は示唆がない点につきるる主張しているが、本件特許明細書の発明の詳細な説明を検討しても、単に「図2のように機器を配置して」「1ppm未満となるように脱気を行った。」(【0100】?【0102】)と機能的な表現がなされ、脱気処理の規定流量が記載されている(300ml/分)のみであり、技術的常識からみて脱気の程度を左右するものと認められるその他の条件(脱気モジュール内の減圧真空条件、中空糸膜上のインク接触面積及び接触時間(流速)、など)については記載又は示唆されていないから、外部還流型中空糸モジュールを使用したインキの脱泡法である甲1発明1(及び本件発明1)において、「十分な脱泡が可能である条件」は、特に規定している条件を除き、当業者がその技術常識に基づき適宜決定し得るものと認めざるを得ず、格別な技術的意義が存するものとは認められない。
以上を総合すると、特許権者の上記(a)の主張は、明らかに当を得ないものであるから、採用することができない。
・上記(b)の主張について
上記(b)の主張につき検討すると、特許権者は、「本件特許発明1において課題としている事項は、圧力損失そのものではなく、脱気時においてインクに高い圧力が加わることによって、顔料同士が凝集することを防ぐことであります。」とし、「脱気時にインクに高圧が加わることによる顔料の分散不安定化」の解消が解決課題である旨主張している。
しかるに、外部還流型中空糸モジュールを使用した場合に圧力(損失)が0.08MPaを超える場合が存しておらず、内部還流型中空糸モジュールを使用した場合に圧力(損失)が0.06MPaを下回る場合が存していないとともに、同一のインクにおいて流量条件が大きく異なる(300ml/分(【表1】)と24ml/分(【表2】))場合であっても、圧力(損失)につき概ね不変であるとする本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例1及び2に係る記載(【0100】?【0121】)からみて、「顔料の分散不安定化(の解消)」が、上記圧力(損失)に直接起因して解決されるものとは認めることができず、むしろ、流路が細分化され分岐し流路断面積が小さくなる(市販の)内部還流型中空糸モジュールでなく、流路の分岐が少なく流路断面積が小さくならない(市販の)外部還流型中空糸モジュールを使用して脱気装置を構成することにより、圧力(損失)が低減化されるとともに、上記課題が解決されるものと認めるのが自然である。
なお、特許権者は、平成28年10月11日付け意見書において、上記の認定について、本件特許に係る出願に係る審査過程において提示された平成24年12月28日付け意見書に添付の実験成績証明書の内容を参酌しておらず、当該証明書の内容を参酌すれば「顔料の分散不安定化(の解消)」が、圧力に起因して解決されるものと認めざるを得ないものと考えられる旨主張する(意見書第7頁第22行?第8頁第24行)が、当該実験成績証明書の実験においては、本件特許に係る「0.05MPa以下」なる圧力(損失)の範囲を超過する「0.08MPa」なる場合であっても、顔料の分散不安定化が生起していないことが記載されているから、上記証明書の内容を参酌しても、「顔料の分散不安定化(の解消)」が、本件特許に係る「0.05MPa以下」なる圧力の範囲に規定される圧力に起因して解決されるものと認めることはできない。
また、更に本件特許明細書の発明の詳細な説明を検討しても、「脱気時においてインクに高い圧力が加わること」と「顔料同士が凝集すること」との間に、脱気装置がいかなるものであるかにかかわらず、直接的な技術的因果関係が存することを示す開示もない。
してみると、上記(b)の主張は、技術的合理性を欠き、当を得ないものであって、採用することができない。
・上記(c)の主張について
甲1発明1は、「インキの脱泡法」に係るものであるのに対して、甲2に記載された技術は、基材の表面に印刷などにより塗工するレジストなどの薬液の中空糸モジュールを使用する脱気方法に係るものであって、その属する技術分野を一にするものであるから、その組合せを妨げる要因となる事項が存するものではなく、また、上記(1)でも説示したとおり、甲2には、薬液の脱気方法において「薬液の搬送速度、粘度によっては、中空糸膜モジュ-ルを通過する際に生じる圧力損失が問題になる」「場合は、一般的に圧力損失が小さい外部かん流型中空糸膜モジュ-ルが好ましく使用できる。」ことが記載されており、外部還流型中空糸モジュールを使用することにより圧力(損失)に係る問題が解決できることが記載されているから、甲2に記載された技術を甲1発明1に組み合わせるべき動機も存するものと認められる。
してみると、上記(c)の主張は、当を得ないものであり、採用することができない。
・小括
以上のとおりであるから、特許権者の上記意見書における主張は、いずれも採用することができない。

3.取消理由3に係るまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし7は、いずれも甲1に記載された発明(甲1発明1及び甲1発明2)及び上記当業者に知られた技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本件請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、いずれも取り消すべきものである。

II.他の取消理由について
上記I.で示したとおり、本件発明1ないし7に係る特許は、取消理由3により取り消すべきものであるが、念のため、申立人が主張する取消理由1及び2についても以下検討する。

1.取消理由1について
取消理由1において、申立人が特に具体的に主張する点は、本件特許異議申立書の記載からみて、「本件発明の発明特定事項である『中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力』(圧力損失)を0.05MPa以下に制御するために何をすればよいのかが本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に記載したものではない」というものであると認められる。
そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、実施例(比較例及び参考例)に係る記載(【0095】?【0131】)からみて、(a)脱気処理流量及び脱気装置仕様などの他の条件が変わらない場合において、インクの粘度が増大するに伴い圧力損失が増大する傾向にあること(【表1】の「インク1」ないし「インク3」、「インク5」及び「インク6」の各結果、【表2】の結果、【表3】の結果等参照)並びに(b)脱気装置仕様などの他の条件が変わらない場合において、インクの粘度が極めて高い場合(【表1】「インク4」)であっても、脱気処理流量を低下させることにより圧力損失の増大を抑制できること、という(a)及び(b)のいずれの事項をも看取できるから、当該記載に接した当業者は、外部還流型中空糸脱気モジュールを使用した脱気装置を使用し、可能な限り低い粘度のインクを選択すること及び/又は低い処理流量で脱気処理を行うことにより、一定以下の、例えば0.05MPa以下の「中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力」(圧力損失)に制御できることを認識することができるものと認められる。
してみると、申立人の上記主張は、当を得ないものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に記載したものではないとまでいうことはできない。
したがって、上記取消理由1は、理由がない。

2.取消理由2について
取消理由2について、申立人が特に主張する点は、本件特許異議申立書の記載の記載からみて、「本件発明において重要なファクターである脱気モジュールを通過する際のインクの粘度を限定していない本件請求項1の記載では、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、明細書の開示内容を超える範囲を含むものである」というものであると認められる。
しかるに、「(液体の)粘度」なる物性は、同一試料であってもその測定温度及び圧力によって有意に変化することが当業者の技術常識である(必要ならば「化学大辞典」の「粘度」の項等参照)ところ、本件発明に係る脱気方法を行う装置では、インクの流路径(断面積)が流路部位ごとに有意に変化しインクに対する圧力もインク流路部位ごとに変化するものと認められるとともに、脱気モジュールにおいてインクから溶存気体等が除去され、更にインクに対する圧力も減少変化するものと解されるから、上記「脱気モジュールを通過する際のインクの粘度」を測定することは、当業者であっても極めて困難(実質的に不可能)であるものと認められる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、特に実施例(比較例及び参考例)に係る記載(【0095】?【0131】)からみて、脱気前の(25℃、通常大気圧における)粘度が10?50mPa・sであるインクにつき、外部還流型脱気モジュールを使用し圧力損失(中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力)を0.06MPa以下に制御しつつ脱気を行った場合、インクの(保存)安定性(耐遠心分離性)、連続出射(吐出)性などに優れることは看取できる。
してみると、脱気方法を適用する脱気前のインクの粘度の範囲、外部還流型脱気モジュールの使用及び中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力の範囲を発明特定事項として記載し、脱気モジュールを通過する際のインクの粘度に係る記載がない本件請求項1の記載であっても、同項に係る発明である脱気方法により、脱気したインクの射出特性に優れた良好な脱気が達成されることが明らかであるから、同項の記載では、特許を受けようとする発明が明確でないとまでいうことはできない。
また、上記本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載、特に実施例(比較例及び参考例)に係る記載(【0095】?【0131】)を検討すると、脱気前の(25℃、通常大気圧における)粘度が10?50mPa・sであるインクにつき、外部還流型脱気モジュールを使用し0.05MPa以下の圧力損失(中空糸脱気モジュールのインク入り口におけるインクの圧力)となるように制御しつつ脱気を行った場合、インクの(保存)安定性(耐遠心分離性)、連続出射(吐出)性などに優れることは看取できるのであるから、本件請求項1に記載された事項を具備する全ての場合において、その作用機序は不明ではあるものの、本件発明に係る解決しようとする課題が解決できるであろうと当業者は認識することができるものと認められる。
してみると、本件請求項1に記載した事項で特定される発明が、明細書の開示内容を超える範囲のものであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないとまでいうことができない。
したがって、上記取消理由2についても、理由がない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、申立人が主張する取消理由1及び2によって、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許につき、取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第113条第2号に該当するから、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-01-10 
出願番号 特願2007-547897(P2007-547897)
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C09D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 桜田 政美  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 日比野 隆治
橋本 栄和
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5731093号(P5731093)
権利者 コニカミノルタ株式会社
発明の名称 インクジェットインクの脱気方法およびインクジェットインクの製造方法  
代理人 特許業務法人光陽国際特許事務所  

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